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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

尚巴志伝 第一部

81.勝連グスクに雪が降る(最終決定稿)

奪い取った越来(ぐいく)グスクは叔父の美里之子(んざとぅぬしぃ)と百人の兵に守らせて、サハチは六百の兵を率いて勝連(かちりん)グスクに向かった。美里之子にはそのまま、越来按司になってもらうつもりでいた。大グスクの戦で戦死した祖父の美里之子のため…

80.快進撃(最終決定稿)

中グスクの城下は朝早くから騒然としていた。信じられない噂が飛び交っていたのだった。 中山王が戦死した‥‥‥ 中グスク按司も戦死した‥‥‥ できたばかりの首里(すい)グスクは奪われ、浦添グスクは焼け落ちた‥‥‥ 首里を落とした大軍が今、中グスクを目指してい…

79.包囲陣崩壊(最終決定稿)

中部の按司たちの兵が包囲陣から引き上げて行った事を知った、八重瀬(えーじ)按司のタブチは鬼のような顔をして、奥間大親(うくまうふや)を怒鳴っていた。「どうして、こんな事になったんじゃ。今度こそ、必ず、山南王になれると信じていたのに‥‥‥くそっ!」…

78.南風原決戦(最終決定稿)

夜明けと共に、豊見(とぅゆみ)グスクを包囲しているマサンルーのもとへ、サハチからの使者が来ていた。首里(すい)グスクを奪い取って、浦添(うらしい)グスクは焼き討ちにしたと使者は伝えた。 マサンルーはうなづくと、撤収を開始すると伝えてくれと言って使…

77.浦添グスク炎上(最終決定稿)

サハチが首里(すい)グスクを奪い取った日の夕方、浦添(うらしい)の遊女屋(じゅりぬやー)『喜羅摩(きらま)』では、早々(はやばや)と戦勝祝いの宴(うたげ)が賑やかに開かれていた。招待したのは侍女の頭(かしら)を務めるナーサで、招待されたのは中山王の重臣…

76.首里のマジムン(最終決定稿)

二月九日、島添大里(しましいうふざとぅ)グスクで、馬天ヌルと佐敷ヌル、それに、フカマヌルも加わって、武装した兵たちの見守る中、出陣の儀式が厳かに執り行なわれた。馬天ヌルの娘のササとサハチの長女のミチが、若ヌルとして手伝っていた。 ミチは二年前…

75.首里グスク完成(最終決定稿)

正月二十五日、八重瀬(えーじ)按司のタブチから出陣要請が来た。二月十一日、山南王のシタルーを攻めるという。十一日といえば、首里(すい)グスクの完成の儀式の翌日だった。思っていたよりも早かった。一仕事を終えて、ホッと安心しているシタルーを狙うよ…

74.タブチの野望とシタルーの誤算(最終決定稿)

年末年始をヒューガは、久し振りに馬天ヌルと娘のササと一緒に過ごしていた。前回、一緒に過ごしたのは四年前の正月だった。大グスクを攻めていた時で、サハチに言われて、サハチの父と一緒に佐敷に帰り、一晩だけだが一緒に過ごしていた。 ササはその時、十…

73.ナーサの望み(最終決定稿)

ウニタキが、浦添グスクにいる侍女のナーサを仲間に引き入れる事に成功した。 娘の敵(かたき)だった望月党をウニタキが倒してから、ナーサはちょくちょく、『よろずや』に遊びに来るようになった。特に用があるわけでもないのに、ふらっと来ては、ムトゥやヤ…

72.伊波按司(最終決定稿)

北谷(ちゃたん)按司の義父、江洲(いーし)按司の敵(かたき)だった長男の勝連(かちりん)按司と次男の江洲按司がいなくなり、北谷按司の妹婿である四男のシワカーが勝連按司に納まった。すべて、北谷按司の思惑通りになっていた。 江洲按司と組んでいた北谷按司…

71.勝連無残(最終決定稿)

年が明けて永楽(えいらく)三年(一四〇五年)の正月の末、シンゴとクルシの船が馬天浜に来た。サムとクルーが無事にヤマトゥ旅から帰って来た。 サムもクルーも目の色が違っていた。自分がやるべき事をはっきりと見つけて来たような感じだった。末っ子で、何…

70.久米村(最終決定稿)

十一月に冊封使(さっぷーし)は帰って行った。 島添大里(しましいうふざとぅ)では冊封使の影響はあまりなかったはずなのに、冊封使が帰ったら、何だか急に静かになったように感じられた。 サハチが火鉢にあたって丸くなっていると、侍女のナツが来て、お頭が…

69.ウニョンの母(最終決定稿)

ウニタキは浦添の『よろずや』にいるムトゥから信じられない事を聞いていた。 昨日、ムトゥは浦添グスクの侍女、ナーサに呼ばれた。浮島にいる冊封使(さっぷーし)の事など世間話をした後、今日は娘の命日なのよと言って、娘の事を話してくれた。絶対に秘密よ…

68.冊封使(最終決定稿)

四月の初め、明国から初めて冊封使(さっぷーし)が来た。 去年の返礼の使者たちと同じように、二隻の大きな船に乗ってやって来た。中山王と山南王は出迎えのために、大勢の重臣たちを浮島に送って、来琉(らいりゅう)を歓迎したという。 その頃、シンゴとクル…

67.望月ヌル(最終決定稿)

正月の下旬、シンゴとクルシの船が二隻、馬天浜に着いた。サハチの弟のマタルーと苗代大親(なーしるうふや)の長男のマガーチが、無事にヤマトゥ旅を終えて帰って来た。 去年の四月、二人はキラマの島に寄ってから、ヤマトゥへと向かった。マタルーを一人で行…

66.奥間のサタルー(最終決定稿)

十二月の半ば、サハチはヤキチに呼ばれた。 ヤキチはサハチの重臣として奥間大親(うくまうふや)を名乗り、グスクに出仕しているが、内密の事はグスク内では話さず、城下にある鍛冶屋(かんじゃー)の作業場にサハチを呼んでいた。 日が暮れているので、作業場…

65.上間按司(最終決定稿)

久高島からの帰りに、サハチたちは何者かに襲われた。 小舟(さぶに)から下りて、須久名森(すくなむい)を左に見ながら山裾を歩いている時だった。突然、山の中から浪人のようなサムレーが現れて、サハチたちを囲んだ。前に四人、後ろに四人いた。「何者だ」と…

64.シタルーの娘(最終決定稿)

年が明けて、永楽(えいらく)元年(一四〇三年)となり、島尻大里(しまじりうふざとぅ)から山南王(シタルー)の娘、ウミトゥクがサハチの末の弟、クルーに嫁いで来た。花婿も花嫁も十六歳になったばかりで、初々しい夫婦の誕生だった。二人は島添大里(しまし…

63.サミガー大主の死(最終決定稿)

ウニタキか久し振りに現れた。フカマヌルと一緒に、どこかに消えてから四か月が過ぎていた。 城下の『まるずや』に行くと、裏の屋敷で、ウニタキは陽気に三弦(サンシェン)を鳴らしていた。「また勝連(かちりん)に行っていたのか」とサハチは隣りに座ると聞い…

62.マレビト神(最終決定稿)

去年の台風で、密貿易船はかなりの被害を受けていたのに、懲りずに今年も何隻もやって来ていた。 島添大里(しましいうふざとぅ)按司の倉庫は与那原(ゆなばる)の港にあった。亡くなった前山南王の汪英紫(おーえーじ)が建てた物で、汪英紫が島添大里按司だった…

61.同盟(最終決定稿)

山南王のシタルーとの同盟は重臣たちの会議では、文句なく賛成だった。家臣の数が三倍にもなったため、交易を盛んにしなければ、やって行けなくなる。こちらからお願いしたい所だったと大喜びだった。問題は東方(あがりかた)の按司たちの反応だった。 玉グス…

60.お祭り騒ぎ(最終決定稿)

島添大里(しましいうふざとぅ)グスクの落城から一月が経った二月二十八日、島添大里グスクにおいて盛大な戦勝祝いが行なわれた。 家臣たちは勿論の事、城下の者たちも加わり、昼過ぎから夜遅くまで、お祭り騒ぎを楽しんだ。佐敷の城下の者たちも、平田の城下…

59.島添大里按司(最終決定稿)

念願だった島添大里(しましいうふざとぅ)グスクを手に入れたサハチは、佐敷按司から島添大里按司になった。 マチルギと一緒に豪勢な屋敷の二階から、高い石垣に囲まれたグスク内を見下ろして、その事を充分に実感していた。 島添大里グスクを攻め落としてか…

58.奇襲攻撃(最終決定稿)

正月二十七日、東方(あがりかた)の按司たちが島添大里(しましいうふざとぅ)グスクの包囲を解いて引き上げてから、半時(はんとき)(一時間)ほど経った頃、東門が開いた。 グスクから出て来た三十人ほどの兵は、弓を構えて、敵が隠れていないか確かめながら、…

57.シタルーの非情(最終決定稿)

半月振りに戻って来た、島添大里(しましいうふざとぅ)グスクの戦陣は随分と変わっていた。 ファイチが考えて、大グスクで作った櫓(やぐら)と同じような櫓が五つも立っていた。誰かが、大グスクに偵察に来たようだった。櫓と櫓をつなぐ通路は、高い柵がずっと…

56.作戦開始(最終決定稿)

大グスクの城下に住んでいた者たちの中に、マナビーがいた。戦死したと思っていた、大グスクヌルのマナビーが生きていた。 大グスクが落城した時、マナビーはグスクの外にあるウタキ(御嶽)でお祈りをしていて助かり、城下の村人たちに匿(かくま)われて生き…

55.大グスク攻め(最終決定稿)

大(うふ)グスクに来たのは何年振りだろうか、とサハチは閉ざされたグスクの正門を見ながら思っていた。 大グスクが落城する前の正月、祖父と一緒に挨拶に来たのが最後だった。サハチがまだ十四歳の時だった。あれから十七年の月日が流れていたが、当時の記憶…

54.家督争い(最終決定稿)

八重瀬(えーじ)按司のタブチの行動は素早かった。 まるで、前もって父親が亡くなるのを知っていたかのように、その日の夕方には、二百の兵を率いて島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクを占拠した。 タブチは父親の重臣だった者たちを集めると、父親の跡を継…

53.汪英紫、死す(最終決定稿)

不思議な道士のファイチ(懐機(かいき))は琉球を知るために、旅に出て行った。 旅に出る前に、浮島の久米(くみ)村から家族を連れて来た。久米村は物騒だから佐敷に置いてくれという。サハチは喜んで引き受けた。新しい屋敷を祖父の隠居屋敷の近くに建てる事…

52.不思議な唐人(最終決定稿)

シンゴの船がキラマを回って浮島に入った頃、明国から来た密貿易船に乗って、琉球に逃げて来た唐人(とーんちゅ)がいた。科挙(かきょ)に合格して宮廷に仕えていた秀才だったが、洪武帝(こうぶてい)が亡くなったあとの政変に巻き込まれて、宮廷から追放された…

51.シンゴとの再会(最終決定稿)

佐敷の東に須久名森(すくなむい)と呼ばれる山がある。その西側の裾野に平田という地があり、今、そこに小さなグスクを築いていた。 サハチの三番目の弟、マタルーが八重瀬(えーじ)按司の娘を嫁に迎えるに当たって、二人が住む屋敷の事を考えなければならなく…

50.マジムン屋敷の美女(最終決定稿)

明国の皇帝の死は、思っていた以上の影響があった。 明国に行った進貢船(しんくんしん)は戦乱に巻き込まれる危険があるので、応天府(おうてんふ)(南京)に行く事ができなかった。仕方なく、皇帝への貢ぎ物も泉州の商人と取り引きをして、陶器や織物などと交…

49.宇座の御隠居(最終決定稿)

年が明けて洪武(こうぶ)三十一年(一三九八年)、サハチは二十七歳になった。佐敷按司になって七年目の年が始まった。 佐敷按司になった時と比べると、周りの状況もかなり変わっていた。島添大里(しましいうふざとぅ)按司の汪英紫(おーえーじ)が山南王(さん…

48.ハーリー(最終決定稿)

生憎の空模様だった。今にも雨が降りそうだった。今年はまだ、梅雨が明けていなかった。 サハチたちは恒例の旅に出ていた。いつもなら、梅雨が明けてから出て来るのだが、豊見(とぅゆみ)グスクで行なわれる『ハーリー』が見たくて早めに旅立った。一緒に来た…

47.佐敷ヌル(最終決定稿)

マチルギが、妹のマカマドゥの嫁入りの話をしたのは、暑い夏の盛りだった。 娘たちの剣術の稽古が終わり、水を浴びて汗を流したマチルギが、縁側でぐったり伸びていたサハチに声を掛けて来た。「ねえ、マカマドゥだけど、もう十六なのよ。そろそろ、お嫁入り…

46.夢の島(最終決定稿)

二月にサハチの四男が生まれた。 マチルギの祖父の名をもらって、チューマチ(千代松)と名付けられた。マチルギの祖父は今帰仁(なきじん)按司だった。曽祖父が亡くなったあと、羽地(はにじ)按司に滅ぼされてしまったが、サハチとマチルギは、この子がいつの…

45.馬天ヌル(最終決定稿)

中山王(ちゅうざんおう)の葬儀は浮島の護国寺(ごこくじ)で盛大に行なわれた。 跡を継いで中山王となったフニムイ、フニムイの義父である山南王(さんなんおう)の汪英紫(おーえーじ)、フニムイの娘婿である山北王(さんほくおう)のハーンと三人の王が揃って、前…

44.察度の死(最終決定稿)

旅から帰ると、門番から鍛冶屋(かんじゃー)のヤキチの言伝(ことづて)を聞かされた。 頼まれていた短刀ができ上がったとの事だった。短刀を頼んでいたわけではなく、ただ話があるという意味だった。 サハチは皆と別れて、一人でヤキチの作業場に向かった。 ヤ…

43.玉グスクのお姫様(最終決定稿)

十一月に生まれた、サハチの四番目の子供は男の子だった。祖父、サミガー大主の名前をもらって、イハチと名付けられた。「この子はお爺様のように海の男になるわ。きっと、船乗りになって、ヤマトゥや明の国に行くのよ」 マチルギはイハチを抱きながら、そう…

42.予想外の使者(最終決定稿)

山南王(さんなんおう)となった島添大里(しましいうふざとぅ)按司は、島添大里グスクから島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクに移って行った。 島添大里グスクには、大(うふ)グスク按司のヤフスが入って島添大里按司となった。大グスクは島添大里按司の出城の…

41.傾城(最終決定稿)

洪武(こうぶ)二七年(一三九四年)は正月から大忙しだった。 正月の十日にサハチの弟、マサンルーの婚礼が華やかに行なわれた。花嫁は鍛冶屋(かんじゃー)のヤキチの娘、キクだった。二人の仲はサハチもまったく知らなかった。マチルギから剣術を習っていたキ…

40.山南王(最終決定稿)

夏真っ盛りの暑い日々が続いていた。 ヒューガが佐敷を去ってから二か月が過ぎ、南部の各地に山賊が出没して、食糧が奪われたとの噂が流れて来た。また、その山賊の仕業かどうかはわからないが、貧しい村に、食糧が天から降って来たという噂も流れていた。 …

39.運玉森(最終決定稿)

久高島から佐敷に戻ったヒューガは、サハチにわけを話して、ヤマトゥに帰る準備を始めた。 ヒューガの話を聞いたサハチは予想外な展開に驚いた。山賊になって、久高島の修行者たちの食糧を調達するなんて危険すぎると思った。それに、ずっとそばにいたヒュー…

38.久高島(最終決定稿)

三月にマチルギが女の子を産んだ。 三人目に、やっと女の子が生まれて、マチルギは大喜びだった。サハチも初めての女の子の誕生は嬉しかった。母親似の可愛い女の子は、サハチの母の名前をもらって、ミチと名付けられた。「ミチ、ウナイ神(がみ)として、兄さ…

37.旅の収穫(最終決定稿)

十二月の半ば、東行法師(とうぎょうほうし)となって旅に出た父が、ようやく帰って来た。前回と同じように、マサンルーを佐敷グスクに帰して、東行庵にサハチを呼んだ。「長い旅だったな」とサハチが言うと、マサンルーはうなづいて、「いい経験をしました」…

36.浜川大親(最終決定稿)

伊波(いーふぁ)、越来(ぐいく)、北谷(ちゃたん)などの中部で、高麗人(こーれーんちゅ)の山賊が村々を荒らし回っているとの噂が流れて来たのは、サハチたちが首里天閣(すいてぃんかく)を見に行ってから一月ほど経った頃だった。 どうして、高麗人の山賊がいる…

35.首里天閣(最終決定稿)

二月になってもサンルーザは来なかった。 サハチを送ってサイムンタルーが来てから四年が過ぎている。今年は来るだろうと思っていたのに来なかった。高麗(こーれー)の国に政変が起こって混乱しているらしいという噂が浮島に流れていた。混乱に乗じて高麗を攻…

34.東行法師(最終決定稿)

年が明けて洪武(こうぶ)二十五年(一三九二年)正月、佐敷按司は家臣たちを前に隠居する事を宣言した。 家臣たちは突然の事に驚き、しばし、言葉が出なかった。やがて、まだ隠居する年齢(とし)ではないと言って家臣全員が猛反対した。佐敷按司は年が明けて三…

33.十年の計(最終決定稿)

風が冷たかった。今にも雨が降りそうな空模様だ。 今帰仁合戦のあった年の十二月の初め、サハチは祖父のサミガー大主に呼ばれて、仲尾(新里)にある祖父の隠居屋敷に向かっていた。雪が降って来るヤマトゥの寒い冬を経験したあと、琉球の冬は暖かくていいと…

32.次男誕生(最終決定稿)

島添大里(しましいうふざとぅ)按司の後始末は、さすがと言える程に素早かった。 三男の大グスク按司、ヤフスがしでかした不始末をあっという間に解決してしまった。やはり、糸数(いちかじ)按司と比べて島添大里按司の方が一枚も二枚も上手(うわて)のようだっ…