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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

36.浜川大親(最終決定稿)

尚巴志伝 第一部

 伊波(いーふぁ)、越来(ぐいく)、北谷(ちゃたん)などの中部で、高麗人(こーれーんちゅ)の山賊が村々を荒らし回っているとの噂が流れて来たのは、サハチたちが首里天閣(すいてぃんかく)を見に行ってから一月ほど経った頃だった。
 どうして、高麗人の山賊がいるのか、わけがわからなかった。わざわざ、クマヌを送って調べさせる事でもないので、サハチはヤキチに聞いてみる事にした。ヤキチなら鍛冶屋(かんじゃー)仲間から何かを聞いているかもしれなかった。
 ヤキチはかなり詳しく知っていた。
 山賊が出没したのは三月頃からで、奴らは馬に乗って村々を襲撃して食糧や若い娘を奪って行った。恩納(うんな)の山に隠れていて、食糧が尽きると山を下りて来て村々を襲っているらしい。お頭(かしら)は高麗人のようだが、島人(しまんちゅ)も混ざっているらしく、言葉が通じない事はないという。
「どうして高麗人が山賊になったんだ」とサハチはヤキチに聞いた。
 ヤキチは首を傾げた。
「わしも詳しい事は知りませんが、高麗(こーれー)では王様が入れ替わったとかで、大騒ぎになっているようでございます。倭寇(わこう)の船に乗って逃げて来た高麗のサムレーが、琉球に来ても食うに困って、山賊にでもなったのではないかと」
高麗の落ち武者が、琉球で暴れているというわけだな」
「まあ、そのような事でございましょう」
「誰も退治しようとはしないのか」
「伊波按司も山田按司も捕らえようとしましたが、うまく逃げられたようです」
「そうか。こっちまで来るとは思えんが、奴らの動きは気に掛けておいてくれ」とサハチはヤキチに頼んだ。
 その後、中グスクの屋宜港(やーじんなとぅ)の蔵が襲われて、かなりの財宝が盗まれたという噂が流れて来た。高麗人の山賊はだんだんと南にやって来て、奪う物も食糧や娘だけでなく、高価な物に変わって来たようだった。浦添(うらしい)の城下でも、次に狙われるかもしれないと恐れて、厳重な警戒をしているという。
 そんな噂が飛び交っていた八月の半ば、勝連(かちりん)のウニタキが突然、訪ねて来た。
 マチルギのお輿(こし)入れの前の年の暮れに会って以来、随分と長い間、会っていなかった。去年の今帰仁合戦の時、ウニタキが水軍の大将となり、鳥島の奪還に活躍した事は噂になって、サハチの耳にも入っている。ウニタキが水軍の大将とは驚いたが、サハチはウニタキの活躍を自分の事のように喜んだ。積もる話も色々とあり、今晩は一緒に酒を飲んで、自慢話でも聞いてやろうと思った。
 門番に連れられて、一の曲輪の屋敷に現れたウニタキは髪は乱れ、着物も破れていて、顔もげっそりとやつれ果てていた。刀さえ持ってはいなかった。
 サハチはその姿にしばし呆然とした。
「一体、どうしたんだ」とサハチは聞いた。
「やられた」とウニタキは言って、悔しそうな顔をした。
 サハチには何がどうやられたのか、さっぱりわからなかった。
「くそっ、俺は絶対に奴らを許せない」
 ウニタキは怒りに満ちた目で宙を睨み、両手の拳(こぶし)をぎゅっと握りしめていた。
「奴らとは誰なんだ」
「勝連按司と江洲(いーし)按司の二人だ」
「兄貴たちに何をやられたんだ」
「皆殺しにされたんだ」
 ウニタキの顔は苦痛に歪み、体は震えていた。
 サハチは侍女のチルーに頼んで水を持って来させた。ウニタキに飲ませ、落ち着かせてから話を聞いた。
 ウニタキは今帰仁合戦で活躍してから、浜川大親(はまかーうふや)になっていた。浜川大親は浜川の港を管理する武将で、ヤマトゥとの交易の一切を取り仕切っていた。以前の浜川大親は不正な取り引きをして私腹を肥やしたために捕まり、代わりにウニタキが抜擢されたのだった。ウニタキは家族を連れて、勝連グスク内の屋敷から浜川の屋敷に移った。
 ヤマトゥの船は年末から正月にかけて琉球に来て、五月から遅くても七月には帰って行く。その間はヤマトゥの商人の要求に応え、こちらも必要な物を手に入れるために毎日が忙しい。ヤマトゥの船が帰ってからは少し暇になるが、蔵の在庫を確認して、次回の取り引きに必要な品を集めなければならない。中山王のために、明との交易品も揃えなければならないため、浦添や浮島にも何度も行かなければならなかった。忙しいが毎日が充実していた。
 しかし。そんなウニタキを快く思っていない者がいた。二人の兄だった。
 中山王の孫娘を嫁に迎えたウニタキを羨(うらや)み、何とか恥をかかせてやろうとたくらんだ。水軍の経験のないウニタキに水軍を任せたのも、ウニタキが失敗して恥をかくだろうと思ったからだった。ところが、ウニタキは大活躍をして、按司たちが居並ぶ中で、中山王から褒美(ほうび)の太刀を賜わった。ウニタキの名は勝連を代表する名となったのだった。
 ヤマトゥとの交易を任せたのも、ウニタキに失敗させるためだった。ヤマトゥの商人と言っても、荒くれ者の多い倭寇を相手に問題を起こして、泣きを見るに違いないと思っていた。しかし、ウニタキは何の問題もなく、見事にやり遂げてしまった。益々、ウニタキの人気は上がり、このままでは按司の座まで脅かされそうになっていた。
 山伏のイブキから、二人の兄には気を付けろと言われていて、ウニタキも警戒はしていた。それでも、まさか、屋敷を襲撃して来るとは思ってもいなかった。屋敷には浦添按司の娘である妻がいる。自分を何らかの手で殺したとしても、妻を殺す事はあるまいと思っていた。それなのに、奴らは妻も娘も容赦なく殺して、屋敷に火を放ったのだった。
 ウニタキの話を聞いたサハチは呆然としていた。兄貴が弟を殺そうとするなんて信じられなかった。弟の活躍を妬んで、妻や子供までも殺してしまうなんて、人間のする事ではないと憤慨していた。
「勝連の兵が攻めて来たのか」とサハチは聞いた。
「いや、正規の兵ではない。裏の奴らを使ったんだ」
「何だ。裏の奴らっていうのは」
「勝連には古くから、裏の仕事を専門にする奴らがいるんだ。詳しい事は誰も知らないが、『望月党(もちづきとー)』と呼ばれている。奴らを動かすことができるのは按司だけなんだ」
「勝連にはそんな組織があるのか」
「主に暗殺が任務なんだ。最近では江洲按司が奴らにやられたらしい。表向きは謀反をたくらんだという事になっているが怪しい。江洲按司が亡くなって、次兄が江洲按司に納まっているからな。それと勝連の娘が伊波に嫁に行っただろう。侍女として伊波グスクに入ったのは多分、望月党の女だ。伊波の情報を勝連に流しているはずだ」
「その女は殺しもするのか」
「命令があればするだろう」
「そんな恐ろしい女が伊波に入ったのか」
「俺はそいつらに襲撃されたんだ。多分、三十人近くはいただろう。夜明け前にやって来て、門番を弓矢で射殺(いころ)し、屋敷に侵入すると誰彼構わずに殺し回った。敵が多すぎて、妻と娘を助ける事はできなかった。俺も十人くらいは倒したと思うが、奴らは火を付けやがった。外に飛び出したら殺されると思って、俺は抜け穴の中に逃げた」
「抜け穴があったのか」
「俺も身の危険を感じていたんで、抜け穴を作ろうと浮島から穴掘りの専門家を連れて来て掘らせていたんだ。まだ途中までだったが、俺はその中に入って何とか助かったんだ」
「浮島に穴掘りの専門家なんかいるのか」
「久米(くみ)村だよ。あそこにはどんな奴もいる。探し出すのは大変だがな」
「ほう。そうなのか」
「俺は夜になるのを待って、焼け跡から抜け出して、ここまで来たんだ。俺の事はもう噂になっていて、俺は高麗人の山賊に襲われて殺された事になっていた」
高麗人の山賊だと?」
「うまくやったというわけさ。高麗人の山賊が村々を荒らしているという噂は浦添まで届いている。俺がそいつらに襲われたのなら仕方がない。娘を殺された浦添按司だって、山賊を恨んでも、勝連按司を恨む事はあるまい」
「という事は、あの山賊はお前を襲うのが目的で、そのために各地の村々を襲っていたのか」
「多分、そうだろう。そのうちに、山賊たちは高麗に帰ったらしいと噂が流れるに違いない」
「成程な。お前もとんだ兄弟を持ったもんだな。これからどうする気なんだ」
「妻と娘の敵(かたき)は、必ず討つさ」
 ウニタキは憤怒に満ちた目で、じっと庭の木を見つめていた。殺された妻や娘の姿を見ているのかもしれなかった。
 もし、マチルギと二人の息子が殺されたら、気が狂ってしまうかもしれないとサハチは思った。敵は絶対に討つだろう。敵の家族を皆殺しにしても、怒りが治まらない程に憎かった。今、ウニタキはそんな状況にいる。そんな時、何を言っても慰めにはならないだろう。
 ふとサハチは伊平屋島(いひゃじま)の曽祖父の事を思い出した。曽祖父の父親は、按司の座を守るために兄に殺された。曽祖父の妻や子も殺されたと聞いている。曽祖父は今のウニタキと同じ怒りと悔しさを味わっていたに違いなかった。
 とにかく休めとサハチは勧めた。
 ウニタキは断り、馬天浜の離れにしばらく厄介(やっかい)になると言って出て行った。
 サハチはクマヌを呼んで、ウニタキの事を話した。
「『出る杭は打たれる』という奴じゃな」とクマヌは苦笑しながら言った。
「それにしても、汚い真似をする奴らじゃな。そんな奴が按司に納まっているとは勝連も可哀想な事じゃ。気に入らん奴を次々に殺していったら、今に勝連は自滅するじゃろう」
「そうかもしれませんね。ところで、クマヌは『望月党』というのを知っていますか」
「かなり前だが、ウニタキの師だったイブキという山伏から聞いた事はある。イブキも詳しい事はわからなかったらしい。ただ、勝連には望月ヌルというのがいて、そのヌルが望月党と関係がありそうだと言っていたな」
「望月党か‥‥‥名前から言って、ヤマトゥンチュですかね」
「いつからあるのか知らんが、初代のお頭(かしら)はヤマトゥンチュだったのかもしれんな。今は高麗人も島人も使っているんじゃろう」
「佐敷にもそんな組織が必要ですね」とサハチは言った。
「そうじゃな」とクマヌは厳しい顔つきでうなづいた。
「暗殺など汚いやり方じゃが、時には必要かもしれん」
 ウニタキは馬天浜のウミンターの離れに滞在して、毎日、ぼうっと海を見ながら暮らしていた。
 妻と娘が殺されたなんて未だに信じられなかった。目を閉じれば、妻の笑顔と三歳の娘の笑顔が瞼(まぶた)に浮かんだ。家族というものを知らないウニタキにとって、妻と娘との暮らしは夢のように楽しい日々だった。妻のお腹の中には、もう少しで生まれるはずの二番目の子供がいた。次はあなたに似た男の子よと妻は言っていた。
 絶対に許せなかった。勝連按司と江洲按司、そして、望月党の奴らも皆殺しにしなければ気が済まなかった。
 一月が経っても、ウニタキの心の傷は癒えなかった。
 サハチがウニタキの心配をしていた頃、珍しい客がやって来た。豊見(とぅゆみ)グスク按司のシタルーだった。久し振りだったが、シタルーは変わっていなかった。相変わらず、二人の従者を連れただけでやって来て、サハチの顔を見ると、「やあ」と親しげに手を上げた。
「お久し振りです」とサハチは一の曲輪の門の所でシタルーを迎え、会所(かいしょ)に案内した。
「親父さんは坊主になって旅に出たそうだな」とシタルーは笑った。
 シタルーは部屋に上がる事なく、縁側に腰掛けると狭い庭を眺めた。
「面白い親父さんだな」
「突然の事でしたからね。驚きましたよ」と言って、サハチも隣りに腰を下ろした。
「うちの親父がたまげていたぞ。お前の親父は中山王とも親しいらしいな」
「さあ、知りませんが」
「とぼけるな。浮島を見下ろす高台に『首里天閣』ができたのを知っているだろう」
「ええ。この前、見物に行って来ました。凄い建物でした。大勢の人がたまげていましたよ」
 シタルーはうなづき、「その凄い建物に、お前の親父さんは入って行ったんだ」と言った。
「親父がですか」
「おや、知らんのか」
「ええ。旅に出てから何の連絡もありませんからね。しかし、親父が首里天閣に入ったというのは本当なのですか」
「本当らしいな。うちの親父が悔しがっていた。まだ、わしはあそこに入っていないとな」
「信じられませんよ。親父が中山王と親しいだなんて」
「まあ、その事はどうでもいいんだ。今日来たのはお別れの挨拶だ」
「えっ、また、どこかに移動になるのですか」
「いや、移動するわけではない。来月、明国に行く事になったんだ」
「ええっ、明国ですか」
 サハチはポカンとした顔で、シタルーを見ていた。
「官生(かんしょう)として行く事になったので、早くても三年は帰って来られない」
「三年間もですか」
 シタルーはうなづいた。
「言葉も通じない異境の地で、三年間も過ごすのは不安もあるが、将来の事を思ったら、向こうで、びっしりと学んで来いと言われたんだ」
「凄いですね」とサハチは言って、シタルーの顔をまじまじと見た。
 シタルーはすでに三十歳を過ぎている。それなのに、明に行って三年間も勉強するという。大した人だと思っていた。それに、シタルーを明に送る父親の島添大里(しましいうふざとぅ)按司も大した男だった。先の事を見越して、シタルーに勉強をさせるのだろう。明から帰って来たシタルーは明の言葉も覚え、久米村の唐人たちと親しく付き合い、大きな利益をもたらすに違いなかった。
「豊見グスクの留守は誰が見るのですか」とサハチは聞いた。
「倅だ。まだ十歳だが、家臣たちが守ってくれるだろう」
「大グスクの弟さんは立ち直りましたか」
「馬鹿な奴だよ。何とか屋敷も再建して、側室も与えられ、今の所はおとなしくやっている。親父が睨んでいる限り、もう、馬鹿な事はするまい」
 そう言って笑ってから、「三年後に帰って来た時の事がちょっと心配なんだ」とシタルーは真顔で言った。
「大グスクですか」
「いや、そうじゃない。中山王だよ。もう七十を超えている。いつ亡くなってもおかしくない。中山王が亡くなると、また大戦が始まるような気がするんだ。俺が戻って来るまで生きていてほしいと願うばかりだ。まあ、そういうわけだ。お前に頼んでも仕方がないが、留守中の事は頼むぞ」
 シタルーは帰って行った。
 サハチはシタルーが言った中山王の死を考えていた。
 現在の中南部は糸数(いちかじ)グスク以東を除いて、中山王とのつながりで均衡を保っていた。その中心にいる中山王が亡くなってしまえば、均衡が破れる事は確かだった。跡を継ぐ浦添按司のフニムイが、今の中山王ほどの器があるとは思えない。今帰仁が攻めて来る事はないとは思うが、勝連が中山王と手を切って独自に動くかもしれない。また、島添大里も隙を狙って浦添を攻める可能性も充分にあった。
 サハチは腰を上げると馬天浜に向かった。
 月日の経つのは速いもので、サハチが佐敷按司になってから、もう九か月が過ぎていた。按司としての仕事にも慣れ、口髭も蓄えて、少しづつだが按司としての貫禄も備わって来ていた。
 旅に出た父からは、馬天ヌルのガーラダマ(勾玉(まがたま))を持って来て以来、何の音沙汰もない。首里天閣に入ったとシタルーが言ったが本当だろうか。ガーラダマの時のように、何か不思議な事が起こって、中山王と親しくなったのだろうか。今頃は、どこで何をしているのやら、父の事だから心配はないが、何もかも忘れて、気の向くままに旅をする父が羨ましくもあった。
 ウニタキは砂浜に座り込んで海を見ていた。三日前に見た姿と変わりはなかった。
 サハチは黙って隣りに腰を下ろして海を眺めた。
 遠くに勝連が見えた。毎日、勝連の方を見ていたら、傷が癒える事もないだろう。
「この前、お前の爺さんが来た」とウニタキは言った。
 サハチはウニタキを見た。海を見たままだった。
「隠居したそうだな。お前の爺さんも、親父さんも」
「ああ。お爺は去年、親父は今年、隠居した」
「親父さんは今、旅をしているそうだな」
「頭を丸めて放浪の旅に出たんだ」
「お前のためにか」とウニタキは言った。
「お爺が言ったのか」
「いや。何も言わん。ただ、お前の親父は隠居する年じゃない。裏に何かあると思ったんだ」
「やはり、変に思うか」
「当然だろう」
 サハチはウニタキに本当の事を告げて、味方になってくれと言いたい衝動に駆られたが、必死に堪(こら)えていた。
「俺は『望月党』を潰す決心をした」とウニタキは言った。
「一人でやるのか」とサハチは聞いた。
「いや、一人では無理だ。対抗できる組織を作らなければならない。なあ、佐敷に裏の組織を作らないか」
「お前が作るというのか」
 ウニタキは初めてサハチの顔を見るとうなづいた。
「お前から『望月党』の話を聞いてから、佐敷にも必要だと思っていたんだ。お前がやってくれれば本当に助かる」
「俺はもう死んだ事になっている。浜川大親として生きる事はもうできない。もし、生きていた事がわかれば、『望月党』の奴らが殺しに来るだろう。このまま、俺は死んだ事にして、裏の世界で生きる事にする」
「そうか‥‥‥やってくれるか」
 ウニタキは少し笑ってうなづいた。
「お前の親父を見習って、俺も坊主になる。坊主になれば俺の顔を知っている奴らも気がつくまい。それと、裏の組織の名前も決めた。『三星党(みちぶしとー)』というのはどうだ」
「『三星党』か‥‥‥」
「敵が望月だから、こっちも月の名でいこうと思ったんだが、どうもうまい名前が浮かばなかった。この前、ここに寝そべって星を見ていて、『三星(オリオン座)』がいいと決めたんだよ」
三星党‥‥‥いいんじゃないのか。佐敷按司の家紋は『三つ巴(どもえ)』なんだ。表が『三つ巴』で、裏が『三星』なら丁度いい」
「『三つ巴』と『三星』か‥‥‥そいつはまさしく丁度いい」
 ウニタキは笑った。
 どうやら、立ち直ったようだった。
「よし、早速、始めるぞ」
「とりあえずは何をするんだ」
「まずは頭を剃って、それから、仲間を集めなければならん」
「仲間を集めると言っても大変だろう。活躍しても表に出ない仕事だからな」
「わかっている。難しければ余計にやり甲斐があると言うものだ」
「そうか。期待して待っているよ」
 サハチはふと奥間(うくま)村の事を思い出した。奥間村に仲間になってくれる者がいるかもしれないと思った。
 サハチはウニタキに奥間村の場所を教え、とりあえず行ってみろと告げた。
 ウニタキは頭を丸め、三星法師と名乗って旅に出て行った。