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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

39.運玉森(最終決定稿)

尚巴志伝 第一部

 久高島から佐敷に戻ったヒューガは、サハチにわけを話して、ヤマトゥに帰る準備を始めた。
 ヒューガの話を聞いたサハチは予想外な展開に驚いた。山賊になって、久高島の修行者たちの食糧を調達するなんて危険すぎると思った。それに、ずっとそばにいたヒューガがいなくなるのは寂しくもあった。それでも、ヒューガが十年の計に参加してくれるのは嬉しかった。サハチはお礼を言って、よろしくお願いしますと頼んだ。
 武術の指導を受けていたマサンルーは、あまりにも急な事で腰を抜かすほどに驚き、「せめて、あと一年はいて下さい」と頼んだが、ヒューガの考えは変わらなかった。
「ヤマトゥの戦もようやく終わったようじゃ。今、帰らんと三年か四年後になってしまう。今後は苗代大親(なーしるうふや)から指導を受けてくれ」
 そう言って、ヒューガは屋敷内の荷物を黙々と片付けていた。そこに噂を聞いた馬天ヌルがやって来た。
「あなた、ヤマトゥに帰るんですって。あたしには一言も相談しないで、そんな勝手な事ができると思っているの」
 馬天ヌルは凄い剣幕でヒューガに文句を言った。そんな叔母を見たのは初めてだったマサンルーは呆然と立ち尽くし、馬天ヌルに命じられるままに屋敷から追い出された。マサンルーがいなくなったのを確認すると、ヒューガを見て舌を出して笑った。
「一度、夫婦喧嘩っていうのをやってみたかったの」
「何だ、芝居だったのか。わしは殺されるかと思った」
 馬天ヌルはヒューガの顔をじっと見つめて、「サハチのためね」と言った。
「知っているのか」とヒューガは聞いた。
 馬天ヌルは首を振った。
「サハチも兄も、あたしには何も話してくれないのよ。でも、わかっているわ。兄がサハチのために何かをしようとしていて、そこにあなたも加わるんでしょ」
 ヒューガはうなづいた。
琉球にはいるが、しばらくは、ここに来られなくなる。わしは今まで、自分から何かをしようとは思わなかった。いつも成り行き任せに生きてきた。ここに来たのも成り行きじゃった。今回、初めて自分からやろうと思ったんじゃ。何か、久し振りにウキウキしたような気分じゃ。そなたに会えなくなるのは辛いが、仕事を終えたら戻って来るよ」
「気をつけてね」と馬天ヌルはヒューガを見つめながら言った。
 その日から馬天ヌルは娘と一緒にヒューガの屋敷で暮らし、長くなりそうな別れを惜しんだ。
 いつもより早く、五月の初めに梅雨が明けると、ヒューガは旅支度をして浮島に向かった。ヒューガの旅立ちを見送るため、サハチとクマヌが浮島まで付いて行った。
 浮島は賑やかだった。
 去年の十月に出掛けた中山王(ちゅうざんおう)の進貢船(しんくんしん)と、十一月に出掛けた中山王と山南王(さんなんおう)の合同の進貢船が帰って来ていて、それを囲むようにヤマトゥの船がいくつも泊まっていた。荷物を下ろすための小舟が何艘も行ったり来たりしていて、勇ましい人足たちの掛け声が響き渡っていた。
 ヒューガがサイムンタルーの船に乗ったのを見届けると、渡し舟で安里(あさとぅ)に戻り、預けておいた馬に乗って、島尻大里(しまじりうふざとぅ)の城下に向かった。ヒューガが乗って来た馬は預けたままにした。
 安里から東に向かい、浦添(うらしい)と玉グスクをつなぐ街道に出たら南下し、途中で佐敷とは反対の西に向かうと島尻大里に行ける。
「急な事で驚いたのう」とクマヌが馬に揺られながら言った。
「師匠が山賊になるなんて思ってもいませんでしたよ」
「うむ。武術の師匠でいれば危険はないのに、あえて危険な仕事を選ぶとはのう。しかし、髭を伸ばしたあの顔は、山賊そのものじゃったな」
「ええ。あの鋭い目で睨まれたら、大抵の者はひるみますよ」
「一月(ひとつき)もしたら、山賊の噂が流れて来るじゃろう」
「師匠の事だから心配ないと思うけど、命懸けの仕事ですからね。無事であってほしいと願うしかありませんね」
「そうじゃな」
 島尻大里の城下の大通りに面して小さな店ができていた。店はまだ開いたばかりなのに、建物は古くてみすぼらしかった。何でも売っているという店で、『よろずや』という看板が掲げてあった。
「うまい具合に、丁度いい空き家が見つかったんじゃよ」と店の前で馬を下りながらクマヌが言った。
「場所はいいけど、ぼろ屋ですね」
 サハチは下手くそな字で書いてある看板を見上げた。
「いかがわしい物を売るには丁度いい」とクマヌは笑った。
「それにな、このぼろ屋の裏に蔵があるんじゃよ。それが決め手じゃ」
「成程、師匠が奪い取った食糧を隠しておけるのですね」
糸満(いちまん)の港もそれ程、遠くない。久高島に運ぶのにも具合がいいんじゃよ」
 店に入ると薄暗い土間の中に、がらくたと言ってもいいような欠けた瓶(かめ)や穴の空いた鉄鍋、壊れた農具に古着やらが散らかっていた。
 クマヌが土間の奥にある部屋を覗いて、声を掛けると主人らしい男が出て来た。その男はカマンタ捕りの名人のキラマだった。去年、カマンタ捕りを引退して作業場の方に移ったと聞いていたが、こんな所にいるなんて驚きだった。
「クマヌさんに、按司様(あじぬめー)まで御一緒でしたか」とキラマは言って頭を下げた。
「どうじゃ。うまくやれそうか」とクマヌが聞いた。
「はい。商売なんて初めてじゃが、長年、鮫皮の取り引きを見て来たから何とかなるじゃろう」
「危険はないと思うが、ここは敵地じゃからな。充分に注意してくれ。近いうちに商品が届くと思うが、よろしく頼むぞ」
 サハチもお願いしますと頼み、裏にある蔵を見た。表の店に比べて裏にある高倉は立派で、充分な食糧が隠して置けそうだった。
「こいつはいい」とサハチはクマヌとうなづき合った。
 キラマと別れ、島尻大里の城下を出てから、「どうして、キラマがあそこにいるのです」とサハチはクマヌに聞いた。
「成り行きじゃ」とクマヌは言った。
「適任者を探している時、キラマに会ってな、息が続かなくなってカマンタ捕りを引退したんだが、作業場であれこれ指図するのは、どうも自分には向いていないとぼやいていたんじゃ。それで、キラマと一緒に久高島に行って、親父さんと相談して決めたんじゃよ」
「そうだったのですか。キラマなら適任かもしれませんね」
 キラマは二十歳の頃、慶良間(きらま)の座間味(ざまん)島から佐敷に来て、三十年もカマンタ捕りを続けてきた。カマンタ捕りの名人としてウミンチュたちから尊敬され、半端なサムレーよりも腕が立った。長女は苗代大親の妻となり、長男は父の跡を継いでカマンタ捕りになっている。次男は苗代大親の弟子になって武芸に励み、サハチの家臣になっている。裏の仕事なので、やたらな者には任せられない。キラマなら充分に信用する事ができた。
「話は変わるが、山南王の具合があまり良くないようじゃな」とクマヌが言った。
「正月の行事には顔を出したそうだが、噂ではかなりやつれて、重い病を患(わずら)っているとの事じゃ」
「親父も去年、旅をした時に、そんな噂を聞いたと言っていました」
「山南王が亡くなると、何か一波乱起きそうな気がするな」
「跡を継ぐ若按司の評判はあまりよくないようですね」
「そうなんじゃよ」とクマヌはうなづいた。
「去年の冬に来たヤマトゥの船には、高麗(こーれー)から逃げて来た者たちがかなり乗っていたらしい。高麗は政権が変わって、前の政権に関わっていた者たちが大勢殺されているようじゃ。海外に逃げる者も多く、琉球にも逃げて来た。その中に高麗王の一族の娘がいて、従者共々、島尻大里の若按司が引き受けて連れ帰ったようじゃ」
「その娘というのは美人なんですね」
「噂ではかなりの美人らしい。その美人を若按司は側室に迎えたようじゃな」
「若按司の正妻は誰なんですか」
「中グスク按司の娘じゃ。若按司の母親は中山王の娘で、その妹が中グスクに嫁いで生まれたのが、若按司の正妻じゃ。従兄妹(いとこ)同士じゃな。中山王の勧めで一緒になったんじゃが、若按司の好みではないようじゃ。城下に側室を囲っているとの噂もあるし、今帰仁の合戦の時は留守を守っていたんじゃが、出陣した家臣の妻に手を出して大騒ぎになり、その妻は自殺したとの噂もある。父親が亡くなって山南王になったら、やりたい放題に振る舞うかもしれん」
「確かに、一波乱起きますね」
 佐敷に帰ると、マチルギが稽古に出掛ける所だった。
「お師匠、行っちゃったのね」とマチルギが遠くを見つめながら言った。
「ああ。いなくなるなんて思っていなかったから、ちょっと寂しいな」
「あたしたちの最初の出会いの時から、お師匠はいたものね」
「そうだったな」とサハチは昔を思い出して笑った。
「お前と初めて会った時、俺は男の子だと思ったよ。でも、お前が女子(いなぐ)の格好で現れた時、一目惚れしたんだな。あの時は気づかなかったけど、あれはきっと一目惚れだったんだよ」
「そうだったの」とマチルギはサハチを見つめた。
「あたしもあなたに一目惚れしたのかもしれないわね。あの時のあたしは、誰かを好きになるなんて考えてもいなかったから気づかなかったけど、ウニタキからお嫁になってくれって言われて、初めて、あなたの事が好きなんだって気づいたのよ」
「お互いに一目惚れだったのか。そんな俺たちの事を師匠はずっと見ていてくれてたんだ」
「そうね。寂しくなるわね」
 マチルギは手を振って、娘たちの待つ東曲輪(あがりくるわ)に向かった。

 

 サイムンタルーの船に乗ったヒューガは、日の暮れる頃、密かに船から下りていた。ハリマの宿屋に行くと、客が大勢いて賑やかだった。忙しそうなハリマを捕まえて、「山賊がいそうな所を知らないか」とヒューガは聞いた。
「山賊? 山賊に何かを奪われたのか」とハリマは怪訝(けげん)な顔をした。
「まあ、そんなところだ」
「山賊という程でもないが、運玉森(うんたまむい)に島添大里(しましいうふざとぅ)の残党が隠れていて、時々、山から出て来て悪さをすると聞いた事がある」
「佐敷でそんな噂は聞いた事もないが」とヒューガは首を傾げた。
 運玉森というのはクマヌから聞いた事があった。与那原(ゆなばる)の港の西にある山で、島添大里と大(うふ)グスクの残党が、そこに籠もって島添大里の城下を襲撃していたが、島添大里按司に攻められて全滅したと聞いている。もしかしたら、その残党がまた戻って来て、悪さをしているのかもしれなかった。
「けち臭い仕事なんで、噂にもならんのじゃろう」とハリマは笑った。
「大きな仕事といえば去年、勝連(かちりん)で山賊が暴れて勝連按司の弟を殺し、莫大な財宝を盗み取ったという噂を聞いた。しかし、その山賊は高麗人(こーれーんちゅ)で、財宝を持って高麗に帰って行ったようじゃ」
 ヒューガはハリマの宿屋に一晩、お世話になり、次の日、運玉森に向かった。
 昨日の朝、ヤマトゥに行くと言って佐敷を出て、今日は佐敷の近くの与那原にいた。島添大里グスクとも近い。こんな所では、自分の顔を知っている者とばったり出会いそうな危険があった。
 馬を木陰に隠して、ヒューガは山の中に入って行った。
 蝉が鳴き、鳥が鳴いているだけで、人がいる気配はなかった。島添大里グスクの落城から十三年、大グスクの落城からも八年が経っている。今頃、残党が隠れているはずはないと思いながらも山の奥に入って行くと、目の前に信じられない光景が現れた。
 ヤマトゥの寺院のような大きな屋敷が、山の頂上付近に建っていた。かなり古そうだが、まだ朽ち果ててはいない。屋敷の前には、かつて庭園があったようだが、荒れ果てて草茫々だった。ヒューガが屋敷に近づこうとした時、人の気配を感じた。右側にある大きな岩陰から何者かが弓矢で狙っていた。
 ヒューガは気がつかない振りをして、屋敷へと足を踏み出した。
「誰だ!」と岩陰に隠れている者が言った。
 ヒューガは立ち止まって岩陰の方を見た。
 男が岩陰から顔を出し、弓を構えてヒューガを見ていた。
「あの建物は何じゃ」とヒューガは聞いた。
「あれを知らんという事は土地の者ではないな」
「ああ。この辺りに来たのは初めてじゃ」
「それなら近づかん方がいい。あれは『マジムン(化け物)屋敷』と呼ばれている」
「キジムナー(木の精)でも住んでいるのか」
「そんな生やさしい物ではない。殺された女子(いなぐ)のヤナムン(悪霊)だ」
「ほう。あの屋敷で殺された女がいるのか」
「昔の話だ。さっさと帰れ」
「話を聞いたら、中を見たくなってきた」
「これが見えないのか」と男は岩陰から出て来て弓の弦を引いた。
 痩せこけた若い男だった。
「お前はマジムンの家来(けらい)なのか」と言うとヒューガは屋敷に向かって歩き始めた。
 若い男は弓矢を放ったが、ヒューガは軽くよけて、そのまま進んだ。
 若い男は刀を抜いてヒューガに掛かって行った。
 ヒューガは刀を奪い取って投げ捨てると、若い男の腕を逆手に取った。
 若い男は、「痛え、痛え」とわめきながらも、「お前は何者だ」と聞いた。
「あそこの主(あるじ)のマジムンじゃ」とヒューガは言って、若い男の腕を締め上げたまま屋敷に向かった。
 屋敷の中央に開き戸があった。ヒューガは若い男にその戸を開けさせて中に入った。
「お前は誰じゃ」と誰かか言った。
 ヒューガは若い男を突き放した。
「シルー、何事じゃ」と別の男が言った。
 屋敷の中は中央が土間になっていて、両側に一段高くなった部屋があった。かつてはいくつもの部屋に分かれていたのだろうが、部屋を仕切っている戸はなく、所々に柱があるだけで広々としていた。
 右側の部屋に四人、左側の部屋に二人の男がいた。
「頭(かしら)は誰じゃ」とヒューガは言った。
「何じゃと」と土間に出て来た男が言った。
 あばた面(づら)の男だった。
「お前が頭か」
「何者じゃと聞いておるんじゃ」とあばた面は刀を抜いた。
「名乗ってもお前にはわかるまい」
「この野郎!」とあばた面はヒューガに斬りつけたが、簡単にかわされて蹴飛ばされた。
 他の男たちも刀を抜いて出て来たが、「やめろ」と誰かが言って、皆が声のする方を振り向いた。
「お前らが勝てる相手ではない」とその男は言って、土間に下りて来た。
 見たところ三十半ばくらいの多少はできそうな男だった。
「わしが頭じゃ。何か用か」
「お前か」と言ってヒューガは男を見つめ、「今日からわしが頭になる」と言った。
「何じゃと!」と刀を抜いたままの男たちが再び、ヒューガに向かって刀を構えた。
「お前らは下がれ」と頭が言った。
 頭はヒューガの前に出ると、「わしに勝ったら、頭の座を譲ろう」と言った。
 ヒューガは笑ってうなづいた。
「さすが、話がわかるのう」
 頭は刀を抜いて構えた。
 ヒューガは刀も抜かずに頭を見ていた。
 頭は何度も構えを変えて、ヒューガに立ち向かおうとしたが諦め、「わしには勝てん」と言って刀を納めた。
「お頭」とやけに背の高い男が言った。
「お頭はこのお方じゃ」と頭は言った。
「そんな。どこの馬の骨ともわからねえ奴をお頭にはできません」とごつい顔した男が言った。
「わしよりずっと強い。皆、刀を納めろ」
 男たちはヒューガを睨みながらも、頭の言う通りに刀を納めた。
 ヒューガは男たちを一人づつ眺め回してから、「わしの名はミユシ(三好)という」と言った。
「見た通りのヤマトゥンチュじゃ。故(ゆえ)あって浮島で人を殺して逃げて来た。ここに山賊がいると聞いてな、しばらくは山賊でもやるかと思って来てみたんじゃ」
「わしらは山賊ではない」と頭は言った。
「食い詰め浪人には違いないが山賊ではない」
「そうか。島添大里の残党か」
「大グスクの残党もいる」と最初に出会った若い男が言った。
「よし、話を聞こう」とヒューガは部屋に上がり込んだ。
 男たちも部屋に上がり、ヒューガの前に並んで座った。
 お頭と呼ばれた男はシマブクといい、ごつい顔をしたのがサチョー、やけに背の高いのがウムン、あばた面がグルータといい、その四人が島添大里の残党だった。小柄で猿のような顔をしたタムン、琉球には珍しくやけに白い顔をしたウーマ、そして、見張りをしていたシルーの三人が大グスクの残党だった。
 十三年前、島添大里グスクが八重瀬(えーじ)按司に滅ぼされた時、この山に集まった残党は五十人近くいた。隙を狙って島添大里の城下を襲撃していたが、八重瀬按司の兵に攻められ、半数は殺され、半数はどこかに逃げた。
 その五年後、大グスクが落城して、大グスクの残党がこの山に籠もって反撃をしたが、やはり、八重瀬按司の兵に攻められて半数余りは殺され、残りの者たちは逃げ散った。
 それから何年か経って、行き場のない者たちがここに舞い戻って来て、今は七人となって、島添大里按司となった八重瀬按司を倒す事を夢見ながら細々と暮らしているという。
「今はたったの七人だけか」とヒューガは聞いた。
「身内のある者は身内を頼り、腕のある者は他家に仕官している。どこにも行く当てのない奴らが、ここにいるという事じゃ」とシマブクが自嘲を込めて言った。
「この屋敷なんだが、どうして二度の襲撃に耐えて、残っておるんじゃ」
「それが不思議なんで、マジムン屋敷と呼ばれているんですよ」とシルーが言った。
「この屋敷は先々代のその前の島添大里按司が、側室のために建てた屋敷なんです」とサチョーが言った。
「今から四十年余り前、島添大里は浦添按司を滅ぼした中山王に攻められました。その時、中山王はこの山を攻めて、ここにいた側室と子供を殺し、ここを本陣として島添大里グスクを攻めたのです。島添大里グスクは落ちませんでしたが、按司は殺され、中山王は引き上げました。その時、この屋敷に火を掛けたのですが、突然、大雨が降って来て、火は消え、屋敷は無事に残りました。その後、この屋敷はマジムン屋敷と呼ばれ、誰も近づかなくなります。そして、三十年が経って、島添大里グスクが八重瀬按司に滅ぼされ、残党たちがこの屋敷に集まります。八重瀬按司の兵がここを攻め、この屋敷に火を掛けますが、また大雨となって火は消え、無事に残ります。五年後も同じ事が起こり、未だにこうして残っているのです」
 ヒューガは屋根裏の太い梁を見上げ、「まさしく、マジムン屋敷じゃな」と言って豪快に笑った。