長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

50.マジムン屋敷の美女(最終決定稿)

 明国の皇帝の死は、思っていた以上の影響があった。
 明国に行った進貢船(しんくんしん)は戦乱に巻き込まれる危険があるので、応天府(おうてんふ)(南京)に行く事ができなかった。仕方なく、皇帝への貢ぎ物も泉州の商人と取り引きをして、陶器や織物などと交換して帰って来た。貢ぎ物のお礼として皇帝から賜わる品々に比べたら、質も量も劣るが仕方がなかった。
 山北王(さんほくおう)もようやく賜わった船に使者を乗せて、勇んで出掛けて行ったが、朝貢はできなかった。三人の王たちは、明国の戦が早く治まる事を願った。しかし、明国の戦は思わぬ所に影響を及ぼした。明国からの船が次々にやって来たのだった。
 密貿易船である。彼らは浮島を初め、糸満(いちまん)や今帰仁の港に入って、それぞれの王と取り引きをして帰って行った。時にはヤマトゥの船や南蛮の船と直接、取り引きをする事もあるらしい。
 密貿易の商人たちは、明国で戦が続いている今のうちに、なるべく多く稼ごうと必死になっていた。琉球の王たちにとっても、明国まで行かなくても、向こうから商品を持って来てくれるので助かっていた。それでも、今まで明国でやっていた取り引きを、通事(通訳)を通してやらなければならないので、王を初めとして、家臣たちは勿論の事、久米(くみ)村の唐人(とーんちゅ)や、港の人足たちまでが大忙しだった。
 山南王(さんなんおう)は佐敷に使者を送って、またヤマトゥの刀を貸してくれと言って来た。サハチは仕方なく引き受けたが、三倍返しという条件を出した。使者は苦笑いをしてから承諾した。山南王から、三倍でもいいから借りて来いと言われていたようだった。
 梅雨明けの恒例の旅で、サハチたちは久し振りに浮島に行った。
 その賑わいは物凄かった。何度も浮島に来ているサハチとマチルギも、こんなにも唐人がいるのを見たのは初めてだった。しかも、人相の悪い唐人もかなりいた。密貿易船に乗って来るのは、倭寇(わこう)のような荒くれ男が多いようだった。それに、久米村以外ではあまり見る事がない、唐人の女たちが大通りを悠々と歩いていたのには驚いた。
 初めて浮島に来た佐敷ヌルとウミチルは、まるで、異国に来たようだと、言葉が出ない程にたまげていた。
 佐敷ヌルと旅をするのは二度目で、ヤグルー夫婦とは三度目だった。マサンルー夫婦は、妻のキクが子供を産んだばかりなので、旅には出られなかった。ウミチルはキクに申しわけないと遠慮したが、来年はあたしたちが行くから行ってらっしゃいとキクに言われて、一緒に来る事になったのだった。ウミチルは前回の二度の旅では久高島に行ったので、島尻大里(しまじりうふざとぅ)の城下の賑わいに驚き、そして、浮島の賑わいには腰を抜かすほどに驚いていた。佐敷ヌルも同様で、まるで、子供のように目をきょろきょろさせていた。
 ハリマの宿屋にも大勢の唐人たちが泊まっていて、異国の言葉が飛び交っていた。
「明国は一体、どうなっているんです」とサハチはハリマに聞いた。
「皇帝の家督争いが続いているらしいのう。去年の五月に洪武帝(こうぶてい)が亡くなったんじゃ。それより前に、跡を継ぐべき長男が亡くなってしまい、孫が跡を継いだんじゃが、洪武帝には男の子供が二十人以上もいるらしい。そいつらが、長男の孫が跡を継ぐのを反対しているようじゃ。明の国もできてから三十年しか経っておらんからのう。反乱軍も息を吹き返して、暴れ始めたんじゃろう。海外に出る事を禁じられていた商人たちが、混乱に乗じて、今のうちに稼ごうと、どっと押し寄せて来たんじゃ」
「混乱はまだ続きそうなのですか」
「よくわからんが、四、五年は続きそうじゃと明の商人たちは言っている」
 今の状況が長く続いた方がいいのか、サハチにはよくわからなかった。ただ、明国の混乱に乗じて、サイムンタルーたちが倭寇として活躍しているのに違いないと思った。
 ハリマの宿屋はお客がいっぱいで泊まる事ができず、仕方なく松尾山に登って野宿をした。山の中で眠るなんて初めてのウミチルは、星空を見上げて、嬉しそうにはしゃいでいた。
 旅から帰ると、サハチはウニタキに、浮島に拠点を作ってくれと頼んだ。
 ウニタキは笑って、当然、浮島には拠点はあると言った。浜辺にウミンチュの小屋があり、松尾山に猟師の小屋があるという。松尾山に拠点があると聞いてサハチは驚いた。
 それでも、『よろずや』を浮島に作るのもいいかもしれないと言って、早速、出掛けて行った。
 七月の半ば、サハチはウニタキに呼ばれた。
 ウニタキの屋敷に行くと、庭で二人の子供が追いかけっこをしていた。長女のミヨンは五歳になり、長男のウニタルは三歳になっていた。母親のチルーは庭の片隅にある畑にいた。
 チルーに挨拶をして屋敷に上がると、ウニタキと一緒にクマヌがいた。この屋敷で、クマヌと会うのは初めてだった。
「暑いのう」とクマヌはサハチを見ると言って、手に持ったクバ扇を仰いだ。
「どうしたんです。こんな所で会うとは思ってもいませんでした」
「いい知らせがあると言われてな、呼ばれたんじゃよ」
 クマヌの髪も髭もかなり白髪が目立っていた。いつの間にか年を取ったなと思いながら、サハチは二人の側に座った。
「うまく行ったぞ」とウニタキがニヤニヤしながら言った。
「浮島に『よろずや』を開く空き家が見つかったのか」とサハチはウニタキに聞いた。
「そうじゃない。空き家は見つからなかった。大通りから少し引っ込んだ所に建てる事にした。『よろずや』の事じゃなくて、もっと重要な事だ」
「一体、何がうまく行ったんだ」とサハチはウニタキとクマヌの顔を見比べた。
 クマヌも嬉しそうな顔をしていた。
「五年の計じゃな」と言って、クマヌは笑った。
 何の事だか、サハチにはさっぱりわからなかった。
「トゥミが島添大里(しましいうふざとぅ)按司の側室になったんだ」とウニタキが誇らしげに言った。
「ええっ!」とサハチは驚いた。
 トゥミと言えば、最も早くウニタキの配下になった娘だった。小柄で可愛い娘だったが、最近は見ていなかった。そのトゥミが、ヤフスの側室になったなんて信じられなかった。
「どういう事なんだ」とサハチは聞いた。
「五年前の事だ」とウニタキが説明した。
「トゥミは母親と一緒に与那原(ゆなばる)に住み着いた。実際、トゥミには母親はいない。トゥミの父親は大(うふ)グスクのサムレーで、大グスクが落城した時に戦死して、グスク内にいた母親も殺された。トゥミだけが何とか逃げ出し、サミガー大主殿の所にいるウミンチュに助けられて、佐敷グスクで下働きをしていたんだ。トゥミの母親になったのは、佐敷グスクができた時から侍女として働いていたカマだ」
「カマは佐敷按司が隠居した時に、侍女をやめたんじゃよ」とクマヌが言った。
 サハチもカマの事は覚えていた。ウミンチュのおかみさんにしては上品な顔立ちで、見るからに侍女といった雰囲気を持っていて、侍女たちのまとめ役だった。
「カマの夫は、カマが侍女になる前に海で亡くなり、子供もいない。トゥミの母親になるのに丁度よかったんじゃよ」
「二人が与那原に住み着いた時の島添大里按司は、今のヤフスに変わったばかりだった」とウニタキが話を継いだ。
「山南王をだますのは難しいが、ヤフスなら何とかなりそうだと思って、クマヌ殿と相談して作戦を練ったんだ。カマは島添大里按司の側室の娘という事にした。五十年程前、浦添グスクを落とした察度は、島添大里グスクを落とすために、与那原の運玉森(うんたまむい)に本陣を敷いたんだ。その頃、運玉森には、島添大里按司が側室のために建てた屋敷があった。今もその屋敷は残っていて、『マジムン(化け物)屋敷』と呼ばれている。察度はその屋敷を攻めて、側室と子供を殺した。その時、赤ん坊だった娘は、家臣たちに助けられて生き延びた。その赤ん坊がカマだ。カマはどこか遠い所で育ち、娘を産む。その娘がトゥミだ。カマを助け出した家臣は、亡くなる前にカマに真実を話す。しかし、その時はすでに、島添大里按司は山南王に滅ぼされたあとだった。当然、カマの父親の島添大里按司は死んでいる。それでも、カマは夫が亡くなると娘を連れて、自分が生まれた与那原に移り住んだ。母親の命日には必ず、運玉森に登って、マジムン屋敷で殺された母親の冥福を祈った。当時、マジムン屋敷には、ヒューガ殿が山賊たちと住んでいたんだが、丁度、入れ替わるような形で、ヒューガ殿たちはマジムン屋敷を去って、奪い取った船に移っていたんだ。母と娘は与那原で慎ましい暮らしをしながら、毎月十二日の命日に運玉森に登った。五年間、それを続けて、ようやく、ヤフスが罠(わな)に掛かったというわけだ」
「五年間か‥‥‥」とサハチは感心しながら唸った。
「よくも続けられたものだな」
「トゥミの熱意があったから続けられたんだ。トゥミは両親の敵を討つためならと頑張った。一緒に暮らして、カマもトゥミの事を本当の娘のように思うようになって、娘のためだと頑張れたのだろう」
「それで今、二人は島添大里グスクに入ったのか」
 ウニタキはうなづいた。
「先月、ヤフスは運玉森に狩りに行って、トゥミと出会ったんだ。以前から、運玉森のマジムン屋敷に、美女が現れるという噂はあの辺りに流れていた。ヤフスもその噂を聞いて、何度も運玉森に狩りをしに行ったんだが、会う事はできなかった。なにしろ、会えるのは十二日だけだからな。マジムン屋敷で祈りをしているトゥミとカマを見つけて、ヤフスは二人から事情を聞いた。そして、一月後にまた会おうと言って帰って行った。ヤフスは二人の事を家臣に調べさせた。五年も前から与那原に住んでいるという事で、二人の話を信用して、十二日を待たずして、二人を迎えに行ったんだ。二人は少し考えさせてくれと言って、迎えの者たちを帰して、十二日に運玉森に登って祈りを捧げた。亡くなった祖母から許しを得たと言って、側室になったんだよ」
「そうだったのか。トゥミがヤフスの側室か‥‥‥」
 サハチは何度か、ヤフスを見ていた。兄のシタルーと比べると、背が低くて、ずんぐりむっくりのあまり見栄えのいい男ではなかった。思慮に欠ける所もあるし、年齢も三十の半ばになっている。そんな男の側室になるなんて、いくら敵討ちのためとはいえ、可哀想な事だった。
「最近、ヤフスは何をしているんだ。まだ、佐敷を攻めようとしているのか」とサハチはウニタキに聞いた。
「いや、その気はないようだ。島添大里按司になった当初は、前回、ひどい目に遭わされた糸数(いちかじ)按司を攻めようとしていたようだが、玉グスクと浦添が結び、糸数が兄の八重瀬(えーじ)按司と結んだ事で、東方(あがりかた)を攻める事は諦めたようだ。最近は島尻大里に行って、親父の交易を手伝ったり、『ハーリー』の時は豊見(とぅゆみ)グスクに行って、兄のシタルーを助けている。親父に言われて、明の言葉やヤマトゥの言葉を習っているようだが、そういう事はどうも苦手なようだな」
「トゥミが島添大里グスクに入ったのはいいが、つなぎは大丈夫なのか」
「大丈夫だ。四年前に作った島添大里の城下の『よろずや』の女商人が出入りしている。トゥミと同期のムトゥだ。かなり信頼されていて、ヤフスの側室たちにジーファー(簪(かんざし))やら白粉(おしろい)やらを売っている。トゥミと会うのも簡単だろう」
「ヤフスは今、何人の側室がいるんだ」
「トゥミで四人目だ。大グスクを攻められた時、側室も子供も皆、殺されたからな。その埋め合わせをするために、子作りに励んでいるのだろう」
「ありがとう」とサハチはウニタキとクマヌにお礼を言った。
「これで島添大里グスクは、落ちたも同然だ」
「あとは絶好な時を待つだけなんじゃが、これはちょっと難しいぞ」とクマヌが言った。
「今の状況のままで、島添大里グスクを落としたとしても、山南王と中山王を敵に回す事になってしまう。中山王と山南王を争わせる事ができればいいんじゃが、これも難しいのう」
「山南王の死を待つしかないでしょう」とウニタキが言った。
「六十は過ぎたようじゃが、山南王はしぶとい。簡単には、くたばりそうもないぞ」
「あと二年半あります」とサハチが言った。
「二年半の間に、何かが起こって、状況は変わると思いますよ」
「そうじゃな。何かが起こる事を願うしかないのう」
 その夜は久し振りに、三人で酒を飲んだ。
「人の出会いというのは不思議なもんじゃのう」とクマヌが、チルーの手料理をつまみながら言った。
「はっきり言って、わしはもう諦めておったんじゃ。五年目にして、出会うとは不思議なもんじゃのう。しかも、出会った日は、島添大里按司の側室が殺された六月の十二日じゃった。丁度、五十年目に当たる日じゃ。何か、不思議な力が働いているような気がする」
「出会った場所が『マジムン屋敷』ですからね。マジムンが力を貸してくれたのでしょう」
 ウニタキはそう言って、楽しそうに笑った。
「出会いといえば、俺とウニタキも不思議な縁だな」とサハチはウニタキを見ながら酒を飲んだ。
「お前が破れた着物を着て、刀も持たずに、やつれた顔をして現れた時には、本当に驚いたよ」
 ウニタキは軽く笑うと目を閉じた。
「俺がマチルギと出会わなければ、お前とは会わなかっただろう。今でも不思議なんだが、あの日、俺はいつものように、山の中で、イブキと一緒に剣術の修行をしていたんだ。修行が終わって、いつもなら、そのまま帰るのだが、なぜか、その日はイブキと別れて港に行ったんだよ。そして、マチルギと出会った。ヤマトゥの船が入って来た時に港に行く事はあっても、あの時は六月の末で、ヤマトゥの船は皆、帰ったあとだった。港に行く理由なんかないのに、なぜか、不思議な力に引かれるように俺は港に行って、マチルギと出会ったんだ」
 ウニタキはサハチの顔を見てから酒を一口飲んだ。
「マチルギが佐敷に行ったと聞いて、俺は佐敷に行った。そして、お前と会った。お前とマチルギが一緒にいるのを見て、すべてを悟った。そして、俺は勝連(かちりん)に帰った。その時は、もう二度と佐敷には行くまいと思っていた。勝連から海の向こうに佐敷は見える。なぜか、俺はまた佐敷に行きたくなった。そして、お前と会って話をした。その後も何度か、佐敷に行った。なぜか、佐敷に来ると気分が落ち着くんだ。あの頃、勝連には俺の居場所はなかったからな。俺は年中、山の中にいた。それから嫁をもらって家族ができて、やっと俺の居場所が見つかったような感じだった。しかし、家族が殺され、俺は居場所を失った。独りぼっちになった俺には、佐敷しか行く場所はなかった。お前と出会わなかったら、俺は行く場所もなく、多分、死んでいただろう」
「お前と出会ったお陰で、俺はかなり助かっている。改めて、マチルギに感謝しなくてはならんな」とサハチは笑った。
「わしもウニタキには感謝しているぞ」とクマヌが言った。
「わしも裏の組織を作ろうと思っていたんじゃが、なかなか作れなかった。お前がやってくれたので、本当に助かっている。十年程前の年の暮れ、お前ら二人が、わしの家(うち)に来た時は驚いた。ウニタキは嫁をもらったと聞いていたが、恋敵の二人が、どうして一緒にいるのか、わけがわからなかった。あれから十年が経って、こうして一緒にいるのも不思議な縁じゃのう」
 そういえばそんな事もあったなと、三人は十年前の事を思い出して、笑い合った。
 それから一月程して、八重瀬から使者が来た。
 八重瀬按司の娘をサハチの弟、マタルーの嫁に迎えてほしいという。サハチは驚き、突然の事なので考えさせてくれと言って使者を帰した。重臣たちと相談して、玉グスクに使者を送って意見を聞いた。
 使者は戻って来ると、明日、玉グスクに来るようにとの玉グスク按司の言葉を伝えた。
 サハチは翌日、玉グスクに向かった。
 玉グスクには東方(あがりかた)の按司が集まって、佐敷と八重瀬の婚礼について協議をした。結局、断る事はできまいと承諾するように決まった。
 去年の二月、糸数按司の娘が八重瀬按司の長男に嫁ぎ、今度は佐敷按司の弟に八重瀬按司の娘が嫁ぐ事になる。八重瀬按司は東方の按司全員と婚姻を結ぶつもりなのだろうか。
 佐敷に帰ったサハチは、クマヌを使者として八重瀬に送った。
 帰って来たクマヌは、「奴も随分と変わったのう」と感慨深そうに言った。
「奴とは八重瀬按司の事ですか」とサハチはクマヌに聞いた。
「そうじゃ。まあ、四十になれば、いつまでも馬鹿はやってられまいとは思うが、随分と思慮深くなっておった。顔付きも落ち着いて、どことなく、親父に似てきたのかもしれんな」
「そうでしたか‥‥‥それで、嫁になるという娘とは会いましたか」
「見せてくれと言ったわけではないが、自慢の娘なんじゃろう。会わせてくれたわ。幸い、父親には似ずに、母親に似て可愛い娘じゃった。母親は大グスク按司の娘じゃ」
「ええっ!」とサハチは驚いた。
「大グスク按司の娘が、どうして、八重瀬にいるのです」
「大グスクが落城する前、島添大里按司(山南王)は娘を大グスク按司の側室に送った。その娘は落城の時に助け出されて、今では島添大里のヌルになっている。大グスク按司は人質になると思って側室をもらったんじゃが、側室には護衛のサムレーも付いて来た。護衛のサムレーによって、グスク内の事が島添大里按司に伝わる事を恐れた大グスク按司は、こちらも敵のグスクに家臣を入れようと思って、娘を側室として送り出したんじゃ。島添大里按司は喜んで受け取ったんじゃが、その娘を護衛のサムレーと一緒に八重瀬に送って、倅の側室にしたんじゃよ。その娘が八重瀬按司の娘を産んだというわけじゃ。母親としても、娘が自分の故郷の近くに嫁ぐのを喜んでおった」
「そうだったのですか。大グスク按司の孫娘か‥‥‥それにしても、敵の八重瀬按司と同盟するなんて思ってもいなかった」
「そうじゃな。八重瀬と結べば、豊見グスクのシタルーは敵になるぞ」
「そうですね。明のように山南王も家督争いを始めるのか‥‥‥」
「いや、八重瀬按司にとっては、すでに始まっているんじゃろう。先手を取るために必死になっておる」
「今回もお願いします」とサハチはクマヌにマタルーの婚礼の事を任せた。
 その年の十一月、マチルギは念願の女の子を産んだ。
 サハチの次女は、マチルギの母の名をもらってマチルーと名付けられた。