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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

56.作戦開始(最終決定稿)

 大グスクの城下に住んでいた者たちの中に、マナビーがいた。戦死したと思っていた、大グスクヌルのマナビーが生きていた。
 大グスクが落城した時、マナビーはグスクの外にあるウタキ(御嶽)でお祈りをしていて助かり、城下の村人たちに匿(かくま)われて生き延びてきた。あれからずっと、大グスクを取り戻す事を祈りながら、隠れて生きてきたという。
 マナビーは涙を流しながら、島添大里(しましいうふざとぅ)按司の兵たちを追い出してくれた事をサハチに感謝した。
「長い間、隠れながら、よく生きていてくれました。さぞ、辛かった事でしょう」とサハチはやつれた顔をしたマナビーをいたわった。
 十五歳の時、輝くように美しかった当時の面影はあまりなかった。父親が戦死して、弟や妹も殺されてしまえば、その悲しみや怒りから立ち直る事は難しい。十七年間、ずっと苦しみ続けて来たのに違いなかった。
「弟さんとお母さんも生きていらっしゃるそうですね。ここにお呼びして下さい」
 マナビーは驚いて、顔を上げるとサハチを見つめた。
「御存じでしたか‥‥‥弟も母も生きております。ここに呼んでもよろしいのでしょうか」
「勿論です。このグスクはお返しするつもりです。ただ、もう少し、お待ち下さい。ここを拠点として、島添大里グスクを落とします。それまでは、ここを使わせて下さい」
「島添大里グスクを落とすのでございますか」
 サハチは力強く、うなづいた。
「何としてでも、山南王の家督争いが終わらぬうちに落とすつもりです」
 マナビーは潤んでいる目で、サハチをじっと見つめてから、「ありがとうございます」と言って頭を下げた。
 城下の者たちが村に引き上げると、入れ替わるように屋比久大親(やびくうふや)が帰って来た。屋比久大親と一緒に知念(ちにん)按司もいて、グスクの中を眺めながら屋敷の方にやって来た。
「まったく信じられん」とサハチを見ると知念按司は驚いた顔をして唸った。
「一体、どうやって落としたんじゃ。見た所、屋敷も無事のようじゃのう」
「運がよかったのです」とサハチは言った。
「裏の崖から精鋭を侵入させて門を開けさせ、突入したのです」
「なに、あの崖をよじ登ったというのか。信じられんのう」
「ヤマトゥの山伏に鍛えられた者が、何とかやり遂げてくれました」
「そうか‥‥‥それにしても、お手柄じゃな。あんな小さな佐敷グスクよりも、ここに本拠地を移した方がいい」
「ありがとうございます。島添大里グスクの方はどうですか」
「相変わらずじゃ。敵の兵糧が尽きるのをじっと待っているだけじゃよ」
 何度も信じられんと言いながら知念按司は帰って行った。
 知念按司を見送ったあと、「人質はどうなりました」とサハチは屋比久大親に聞いた。
「人質を使って、グスクを明け渡せと言うらしいが、負け戦の大将の妻や子を助けるはずがない。見せしめとして殺されるじゃろうな」
「そうですか‥‥‥」
 泣いていた幼い子供の顔が思い出された。子供には何の罪もないが、これが戦だった。可哀想だと思う気持ちを振り切って、サハチは重臣たちを集め、今後の対策を練った。
「大グスクを奪い取ったのは、予想外の収穫じゃったな」と父が笑った。
「しかし、これからじゃ」
 父は重臣たちの顔を見回して、キラマの島に九百人の兵が隠してある事を告げた。
 何も知らなかった与那嶺大親(ゆなんみうふや)、屋比久大親、當山之子(とうやまぬしぃ)、そして、サムの四人は驚き、「九百の兵‥‥‥」と言ったまま口をポカンと開けて、父の顔を見ていた。ファイチも勿論、知らなかったが、ファイチはいつものように、とぼけた顔をしていた。
 九百といえば、中山王の兵よりも多いはずだった。そんなにも大勢の兵が隠してあるとは、一体どういう事なのか、四人には理解できなかった。
「隠居してから、十年掛けて育て上げた兵じゃ。その兵を使って、島添大里グスクを攻め落とす」
 父がそう言っても誰も何も言わなかった。あまりにも予想外な父の言葉を受け入れるのに時間が掛かるようだった。沈黙を破ったのは屋比久大親だった。
 屋比久大親が勢いよく拳(こぶし)を振り上げると、「九百の兵があれば、間違いなく、島添大里グスクを攻め落とせるでしょう」と力強く言った。
「佐敷の兵を足せば一千の兵じゃ」と与那嶺大親が凄いのう、信じられんといった顔をして言った。
「一千の兵‥‥‥」と言ったまま當山之子は目を丸くして、皆の顔を見回していた。
 サムは驚き過ぎて言葉も出ないようだった。口を開けたまま、父の顔をじっと見つめていた。
「兵力は充分なんじゃが、問題が一つある。東方(あがりかた)の兵を引き上げさせなくてはならんという事じゃ」と父は言った。
「今の状況のまま、島添大里グスクを落としても、わしらのものとはならんのじゃ。佐敷の兵だけで落とさなければならんのじゃよ」
「確かに」と与那嶺大親が、父に向かってうなづいた。
 与那嶺大親の父を見る目が、すっかり変わっていた。口にこそ出さないが、勝手に隠居した父が、どうしてこの場にいて、偉そうな事を言っているのだといった態度だった。それが一瞬にして、父が按司だった頃の態度に戻っていた。
「しかし、東方の兵を引き上げさせると言っても、どうやってやるのです」
「それをこれから考えるんじゃよ」
「その九百の兵で糸数(いちかじ)を攻めれば、東方の兵は引き上げて行きますよ」と當山之子が得意顔で言った。
「中山王の兵に扮して攻めるのはいいが、そのあとが問題じゃ」とクマヌが言って、首を振った。
「その九百が島添大里グスクを落とせば、佐敷の兵が糸数を攻めたとばれてしまう」
「そうか。それはうまくないですね」
「誰かに、糸数を攻めさせればいいんじゃが、今の状況では難しい」と言って、父は絵地図を広げた。
 皆、絵地図を眺めながら、うまい方法はないものかと考えた。
 今の状況は、タブチが押さえた島尻大里グスクを、シタルーと中山王が包囲している。シタルーの本拠地の豊見(とぅゆみ)グスクを、タブチ方の米須(くみし)按司たちが包囲している。タブチの本拠地の八重瀬(えーじ)グスクを、シタルー方の中グスク按司たちが包囲している。そして、シタルー方の島添大里グスクを、タブチ方の東方の按司たちが包囲していた。
 サハチが絵地図の豊見グスクを指さして、「もし、ここが落ちたらどうなるでしょう」と皆に聞いた。
「シタルーが泣きますよ」とファイチが言って皆を笑わせた。
「確かにな」とクマヌが言った。
「ここが落ちれば、シタルーは帰る所がなくなる。島添大里グスクを本拠地にするしかない。島添大里を救うために糸数を攻めるかもしれん」
「ただ、中山王がどう動くかじゃな」と父が言った。
「豊見グスクを失ったシタルーを見捨てて、タブチを山南王にするかもしれんぞ。そうなるとシタルーは孤立して、糸数を攻める事もできんじゃろう。島添大里グスクに引き上げて再起をはかるしかない。グスクを包囲している東方の兵を蹴散らして、島添大里グスクに入るじゃろう」
「シタルーが島添大里グスクに入ると落とし辛くなりますね」とサハチは言った。
「それでは、八重瀬グスクが落ちたらどうなりますか」
「タブチが泣くじゃろう」とクマヌが言ったが、誰も笑わなかった。
「本拠地を失ったタブチは、島尻大里に腰を落ち着けるしかなくなるじゃろうな」
「八重瀬グスクには、タブチの妻や子がいるのではないですか」と苗代大親(なーしるうふや)が言った。
「いるはずです」とウニタキが答えた。
「父親の葬儀のために、八重瀬ヌルは一緒に連れて行きましたが、妻や側室、子供たちは八重瀬に残っています」
「それを人質に取れば、タブチと交渉できますよ」
「妻や子を人質にして、山南王の家督を譲れと言うのか」とクマヌが苗代大親を見た。
「そうです」と苗代大親はうなづいた。
「シタルーがそんな非道な事をやりますかね」とサハチが言った。
「山南王になるためならやるかもしれんぞ」と父が言った。
「奴も先代の倅じゃからな。非情な面は持っているはずじゃ。また、それくらいの非情な事ができなければ、王にはなれんじゃろう」
「逆に豊見グスクを落として、その人質を盾にシタルーの手を引かせるという事も考えられます」と屋比久大親が言った。
「先に人質を手に入れた方の勝ちというわけじゃな」
「タブチが人質を手に入れると、シタルーは諦めるしかない。中山王は引き上げて行く事になる。タブチは山南王になる。豊見グスクを奪われたシタルーは、島添大里グスクを本拠地にするために攻めて来る」とヒューガが考えながら言った。
「山南王になったタブチが、東方を救援するために援軍を送るかもしれないですよ」とサムが言った。
「そうなると島添大里グスクで大戦が始まる。シタルーとタブチが加われば、今よりも状況は悪くなってしまうぞ」とクマヌが言った。
 ヒューガはクマヌにうなづいて話を続けた。
「逆にシタルーが人質を手に入れると、タブチは諦めて、島尻大里グスクをシタルーに明け渡す。シタルーは山南王になる。王になったシタルーは、島添大里グスクを救えと糸数辺りを攻めるかもしれん。中山王の兵も加われば、本拠地が危ないと東方の按司たちは引き上げて行く」
「タブチが敗れれば、シタルーの兵が攻めて来るかもしれんといって、東方の按司たちは引き上げて行くじゃろう」とクマヌが言った。
「シタルーに勝たせた方がいいというのじゃな」と父が聞くと、「そのようですな」とヒューガは答え、クマヌはうなづいた。
「うーむ。タブチではなく、シタルーが山南王になるのか」と言って、父は絵地図をじっと見つめていた。
 山南王になるのは、シタルーの方がふさわしいと以前からサハチは思っていた。しかし、タブチとは同盟している。タブチを裏切る事になるが、島添大里グスクを手に入れるためには、タブチに犠牲になってもらうしかないと思った。
「八重瀬グスクを先に落とすしかないようじゃのう」と父が言って、ウニタキを見た。
「八重瀬グスク内に配下の者がいると言っておったのう」
「はい。研ぎ師がいます」
「連絡は取れるのか」
「何とかできると思います」
「どうやって?」
「八重瀬グスクの外れに大きな松の木があります。そこに矢文(やぶみ)を撃てば、研ぎ師が読む手はずになっています」
「矢文か。八重瀬の兵が読むかもしれんぞ」
「前もって合言葉が決めてあります。他の者が読んでも意味はわからないでしょう」
「そうか‥‥‥しかし、一人では難しいな。グスク内には潜入できそうか」
「以前、潜入した事はありますが、今は非常時ですから難しいと思います」
「そうじゃろうな。簡単に潜入できれば、今頃は落ちている」
「グスクに潜入して、八重瀬グスクを落とさせるのですか」とサハチが父に聞いた。
「そうじゃ。それしかあるまい」
「八重瀬グスクが落城したとして、もし、タブチが人質を見殺しにした場合はどうなりますか」と當山之子が聞いた。
「妻や子を見殺しにすれば、味方の士気に関わるじゃろうな」とクマヌが言った。
「タブチに味方している按司たちが、自分たちの妻子まで殺されたらかなわんと手を引くに違いない。豊見グスクを攻めている米須按司たちが手を引いたら、あとは兵糧がなくなるのを待つだけじゃな。それに八重瀬を攻めていた中グスクの兵が糸数を攻めるかもしれん」
「どっちにしろ、八重瀬が落ちれば、うまく行きそうじゃのう」
 父はそう言って、ウニタキに八重瀬グスクの事を頼んだ。
「何としても、八重瀬グスク内に潜入して、包囲している兵たちをグスク内に突入させてくれ」
 ウニタキは父の顔を見つめて重々しくうなづいた。
「わしはこれからキラマに戻って、兵を移動させる。何往復もしなければならんので時間が掛かる。大グスクに三百、運玉森(うんたまむい)に三百入れるつもりじゃ」
「あとの三百は?」とサハチは父に聞いた。
「まだ先の事があるからな、今回は六百いれば何とかなるじゃろう」
「今、包囲している東方の兵よりも多いですからね。大丈夫でしょう」
「六百人を移動するには、五十人づつ運んだとして、十二往復しなけりゃならん。今月一杯は掛かるかもしれん。兵の移動が完了したら、八重瀬グスクを落としてくれ」
 父は厳しい顔つきで、重臣たちの顔を見回してから、「いよいよ作戦開始じゃ。あとの事は任せたぞ」とサハチに言った。
「わかりました。気を付けて下さい」と父に言って、「頼みます」と言うように、ヒューガに向かってうなづいた。
 大グスクまでの道案内にと六人の兵を連れて、父はヒューガと一緒に大グスクから去って行った。
 父がいなくなると、「先代が兵を育てていたなんて、まったく知らなかった。九百人とは大したもんじゃ」と与那嶺大親がサハチに言った。
「さすが、先代じゃのう。やる事が大きいわ」
「隠していてすみません」とサハチは四人に謝った。
「十年間、秘密にして置かなければならなかったので、最小限の者しか知らないのです」
「わしはずっと、先代の事を情けない人だと思っていました」と屋比久大親が言った。
「こんな大それた事を考えていたなんて‥‥‥まったく、思ってもいませんでした」
「十年間で、九百人の兵を育てるなんて、考えも及ばない事です」と當山之子は何度も、「凄い」と言っていた。
「まったく、うまくだまされたよ」とサムは苦笑して、サハチの胸をたたいた。
「しかし、凄い事を考えたな。考えるだけでなく、それを実行するなんて、ほんとに凄いよ。大したもんだ」
「いよいよ、最後の詰めです。抜かりなく、やり遂げましょう」
 皆にそう言ってから、サハチはウニタキに、「大丈夫か」と聞いた。
「何としても、やり遂げなくてはなるまい」とウニタキは腕組みをしたまま考えていた。
 マサンルーに平田グスクの兵を三十人引き連れて、大グスクに来るように伝えてくれと、サハチはサムに頼んで、佐敷に送った。そして、ファイチと一緒に抜け穴の出口があるウタキに向かった。
 小さな森の中にあるウタキの後ろに三尺(約九十センチ)程の穴が空いていて、近くにそれを塞いでいた石の板があった。穴の中を覗くと梯子(はしご)があるのはわかるが、奥の方は真っ暗で何も見えなかった。
「埋めなきゃならんな」とサハチが言うと、「埋めるのは勿体ない」とファイチは言った。
「シタルーの兵が攻めて来る。この穴に閉じ込めてしまえばいい」
「成程。シタルーが山南王になったあと、必ず、これを利用して取り戻しに来るな。抜け穴の事は知らない振りをしているのだな」
「そうです。この穴にハブをいっぱい落としておきます。そして。出口を塞げば大丈夫です」
「ハブを落とすのか。そいつはかなわんな」
 ハブを落とすのはあとにして、とりあえず、穴の上に石の板を置いて元に戻し、さらに、その上に重い石を載せて塞いだ。
「ファイチのお陰で、このグスクを落とす事ができた。ありがとう」
 サハチは改めてお礼を言った。抜け穴が見つからなければ、作戦を開始する事はできなかっただろう。
「次は八重瀬グスクを落とさなければなりません」とファイチは言った。
「八重瀬グスクを知っているのか」
「旅の時に近くまで行きました。あのグスクを落とすのは難しい」
「そうだな。確かに難しい。中に味方がいるとはいえ、たった一人では危険だ。不審な動きをしたら殺されてしまうかもしれない。ウニタキがうまく潜入できればいいのだが‥‥‥」
 サハチとファイチが屋敷に戻ると、ウニタキは一人で考え続けていた。サハチは声を掛けようとしたがやめた。こんな時に声を掛けたら怒るような気がした。今回の作戦はウニタキの手に掛かっている。好きなだけ考えさせようと思った。サハチのそんな気持ちも知らずに、ファイチが気楽に声を掛けた。
「お前、空を飛べるか」とファイチは真面目な顔をして、ウニタキに聞いた。
 ウニタキはファイチを見るとニヤッと笑った。
「今、それを考えている所だ」とウニタキは言った。
 サハチは唖然とした顔をして、二人を見ていた。ファイチのとんでもない質問に、ウニタキは怒るでもなく普通に答えていた。サハチには、二人の考えている事について行けなかった。
「空が飛べれば、あのグスクは落とせる」
「そうだな」と言って立ち上がると、ウニタキは屋敷から出て行った。
 三日後、玉グスク按司の使者が来た。島添大里グスクの攻撃に復帰してくれとの事だった。
 やはり、来たかとサハチは思った。今、大グスクにはマサンルーの兵三十人と、佐敷で留守を守っていた五十人の兵がいた。大グスク攻めに活躍した兵は佐敷に帰して、兵を入れ替えたのだった。
 サハチはマサンルーを呼び、大グスクを守ってくれと言った。マサンルーは固い顔つきでうなづいた。
「今の所、ここに敵が攻めて来る事はないだろう。だが、守りだけは厳重にしてくれ。それと、ここに三百の兵が来る事になっている」
「親父が育てた兵ですね」とマサンルーは驚くわけでもなく言った。
「お前、知っていたのか」
「何となく、そんな気がしました。倭寇のために若い者を集めているとお爺は言っていたけど、親父とヒューガさんがそれに関わっているので、もしかしたらと思っていました」
「そうか。親父は三日前にキラマに帰った。今頃は第一陣がこっちに向かっているかもしれん。多分、五十人づつやって来るはずだ。三百の兵の事は、味方である東方の按司たちにも内緒にしておかなくてはならない。東方の按司がここに来る事はないとは思うが、もし来たら、兵たちを隠してくれ」
「三百の兵をどうやって隠すのです」
「城下の村に隠すとか、森の中に隠すとか、何とか考えてやってくれ。クマヌを置いて行くからクマヌと相談しろ」
「わかりました」
「それと、大グスク按司の若按司が来るかもしれん」
「えっ、若按司って誰の事です」
「戦死した大グスク按司の長男だ」
「生きていたのですか」
「隠れて生きていた。その姉の大グスクヌルも生きていて、城下にいる。多分、二人でやって来るだろう。大グスクヌルには、島添大里グスクを落とすまで、ここを使わせてくれと言ってある。若按司が来たら、もう少し待ってくれと伝えてくれ」
「このグスクを若按司に返すのですか」
「そのつもりだ」
「わかりました。その若按司ですが、思い出しましたよ。お爺に連れられて、ここに来た時、会った事があります」
「そうか。若按司を見つけたのはお爺だよ。小禄(うるく)の辺りに隠れていたらしい」
「ずっと隠れていたのですか。可哀想に‥‥‥」
「戦に負ければ、そうなってしまう。勝ち続けなければならんのだ」
 マサンルーはいつになく厳しい顔つきの兄を見て、身が引き締まる思いがした。
 次の日、サハチは五十人の兵を引き連れて島添大里グスクに向かった。