長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

73.ナーサの望み(最終決定稿)

 ウニタキが、浦添グスクにいる侍女のナーサを仲間に引き入れる事に成功した。
 娘の敵(かたき)だった望月党をウニタキが倒してから、ナーサはちょくちょく、『よろずや』に遊びに来るようになった。特に用があるわけでもないのに、ふらっと来ては、ムトゥやヤエ(望月ヌル)と無駄話をして帰って行った。
 ムトゥの話によると、侍女を引退して、何か商売を始めようと思って、城下の店を見て歩いているらしい。それに、ウニタキの事を婿殿と呼んで、会いたがっているようだという。会いたがっていると言われても、いつ来るかもわからない相手を待っているほど、ウニタキも暇ではなかった。
 この間、顔を出したら、たまたま、ナーサが来ていた。ナーサはウニタキの顔を見ると、婿殿と言って嬉しそうに笑った。
「侍女をやめてしまうのですか」とウニタキは奥の部屋にナーサを誘って話を聞いた。
「もう、あそこにいてもしょうがないですから」とナーサは部屋の隅に飾ってある可憐な花を見ながら言った。
 ヤエが飾ったものだろう。ヤエが住み着いてから、屋敷の中は小綺麗になっていた。
浦添グスクには未練はないのですか」
「もともと好きで入ったわけではありません」とナーサはウニタキを見ると首を振った。
「それでも、御内原(うーちばる)を仕切っているのでしょう」
「女たちを仕切ったからと言って、自慢にはなりませんよ」
「わたしの事を本当に婿だと思っているのですか」
「あなたには迷惑でしょうが、たった一人の身内だと思っております」
 ウニタキはナーサを見た。真面目な顔で、優しい目をしてウニタキを見ていた。娘の敵を討ちたいと言っていた頃のナーサとは別人のように穏やかな顔をしている。ウニタキはナーサを信じてもいいかもしれないと思い始めていた。
「もう、八重瀬(えーじ)とのつながりは切れたのですか」
「はい、切れました。来年の正月、八重瀬の娘が浦添に嫁いでまいります。花嫁と一緒に、奥間大親(うくまうふや)を継いだ甥っ子の配下の者が、侍女として付いて来ます。もう、わたしの役目は終わったのです」
「成程‥‥‥中山王とのつながりはないのですか。長年、仕えていれば、何かつながりのようなものができるのではありませんか」
 ナーサは寂しそうに笑った。
「若い頃だけですよ。つながりと呼べるかどうかは知りませんが、中山王がわたしに夢中になっていた時期がありました。でも今は、王と使用人の一人という関係しかありません。わたしも余計な事は何も話してはおりません」
「そうですか‥‥‥それで、何かやりたい事は見つかったのですか」
 ナーサは首を振った。
「なかなか、見つかりません。わたしにも何かができそうだと思ったのですが、実際にやるとなると難しいようです。ただ、遊女屋(じゅりぬやー)なら、わたしにもできるような気がするのです。長年、女たちを使ってきましたからね。でも、遊女屋という所に入った事がありませんので、どんな事をしているのか、わたしにはわかりません」
「遊女屋ですか」
 ウニタキは驚いた。浦添グスクで侍女たちを束ねていた女が、遊女屋をやりたいと言い出すとは思ってもいなかった。しかし、面白いと思った。今まで、その美貌で男たちを惑わせてきた女が、遊女屋をやるのは最もふさわしいような気がした。
「遊女屋に行きましょう」とウニタキは言った。
「馴染みの遊女屋があります。ご案内しますよ」
「本当でございますか」とナーサは嬉しそうに笑った。
 ウニタキはヒューガの配下のサチョーがやっている遊女屋『喜羅摩(きらま)』に連れて行った。昼間なので、まだお客はいない。ナーサはサチョーに案内されて、遊女屋の中を見学し、遊女(じゅり)たちと会って、仕事の事などを聞いていた。ナーサは真剣だった。本気で遊女屋を始めようと思っているようだった。
 それから半月ほど経った頃、ウニタキはナーサと会った。
「本当に遊女屋をやるつもりなのですか」と聞くと、「首里(すい)にできる新しい城下で始めようと思っております」とナーサははっきりと言った。
「中山王はいつ、首里に移るのですか」
「来年の二月には新しいグスクが完成するだろうとは言っておりましたが、いつ移るのかは存じません」
「そうですか。もしもの話ですが、中山王を倒そうとしている者がいたとしたらどうしますか。中山王を助けますか」
「ええっ」とナーサは驚いて、ウニタキの顔を見つめた。
「あなたは中山王を倒すつもりなのですか」
「もし、そうだとしたら、中山王に告げますか」
 ナーサは首を振った。
「中山王がどうなろうとわたしには関係ございません。ただ、中山王が亡くなったら、新しい城下はどうなりますの」
首里は新しい都になりますよ」
「それでしたら構いません。わたしはもう、決心いたしました。首里で遊女屋を始めます」
 ウニタキはナーサの顔をじっと見ていた。嘘をついているようには思えなかった。ウニタキは覚悟を決めて、ナーサを信じる事にした。
「八重瀬の奥間大親とのつながりは切れましたが、奥間とのつながりはあるのでしょう」
「奥間は生まれ故郷(じま)ですからね、縁は切れませんよ」
「奥間の長老の跡継ぎになられた若様を御存じですか」
 ウニタキがそう聞くと、ナーサは急に警戒するような目付きでウニタキを見た。
「あなたは奥間と何かつながりがあるのですか」
「わたしの配下にも奥間の者はおりますから、つながりはあります。その若様の父親がどなたか御存じでしょうか」
「それは島添大里(しましいうふざとぅ)按司になられた佐敷按司だと聞いております」
「どうして、佐敷按司の息子が長老の跡継ぎになられたのでしょう」
「それは神様のお告げです。その子が奥間を救ってくれるはずなのです」
「あなたもその事は信じているのですね」
「勿論です」とナーサはうなづいた。
「先代の奥間ヌルは凄い人でした。先の事が見えるのです。奥間の者は誰も奥間ヌルのおっしゃる事を疑ったりはしません。現に佐敷按司は島添大里按司になられました。そして、奥間のために鉄を送っているそうです。今の奥間ヌルも先の事が見えます。島添大里按司はまもなく、王になると予言いたしました。奥間ヌルは新しい王の娘をお産みになり、跡継ぎになさるようです」
「わたしは佐敷按司の友(どぅし)です」とウニタキは言った。
「えっ、佐敷按司を御存じなのですか」
「わたしは佐敷按司を王にするために働いているのです」
「先代の山南王の配下ではなかったのですか」
 ウニタキは首を振った。
「佐敷按司と共に戦って、島添大里グスクを奪い取ったのです」
「すると、このお店は佐敷按司とつながっていたのですね」
「そうです。浦添グスクに侍女を入れたのも、そのためです」
「そうだったのですか」
「三年前に奥間から浦添の若按司のもとに美女が贈られました。御存じですね」
「ええ、ユリという可愛い娘です」
「そのユリの父親も、佐敷按司のために働いています」
「えっ、本当なの?」
「この前に行った遊女屋をやっている男は、ユリの父親の配下の者です」
「そうだったのですか。わたしは佐敷按司という人を存じません。その人のために多くの人が働いているのですね」
「不思議な人ですよ。言葉では言えませんが、なぜか、その人のために働きたいと思わせる男です」
「そうでしょうねえ。佐敷按司が奥間に来た時、わたしはすでに村にはいませんでしたが、奥間ヌルは佐敷按司を見て、『龍』が来たと思ったそうです」
「『龍』が来た?」
「はい。わたしの伯母はシジ(霊力)が強かったので、奥間ヌルに仕えていました。伯母から時々、奥間の事は聞いておりました。伯母も佐敷按司の事を『龍』だと言いました」
「そうでしたか‥‥‥」
 ウニタキは『龍』という言葉に驚いていた。ナーサの口から『龍』という言葉が出て来るとは思ってもいなかった。
 ウニタキは久高島で雷に打たれて倒れた時、神様の声を聞いた。その神様の声は、『龍を助けろ』というものだった。ウニタキには、その意味がわからなかった。『龍』とは何だと海を眺めながらずっと考え、もしかしたら、サハチの事ではないかと思い、改めて、サハチを助ける決心をして帰って来たのだった。今、ナーサから、サハチが『龍』だとはっきりと聞かされ、ウニタキは自分の考えが正しかった事を実感していた。
「わたしも仲間に入れて下さい」とナーサがウニタキを見つめながら言った。
「わたしも奥間のために働きたい。『龍』のために働きたいのです」
 ウニタキはナーサの目に嘘はないと信じた。
「こちらからもお願いします」
 ナーサはホッとした顔をして嬉しそうに笑った。その笑顔はまるで、娘のような恥じらいを含んだ笑顔だった。ナーサは時々、どきっとするような美しい表情をする。絶世の美女というのは、年齢を重ねても、それなりの美しさを保ち続けるようだった。
「やっと、奥間の者に戻れたような気分です。ありがとうございます」
 ナーサは長年したためてきた浦添グスクの見取り図をウニタキに渡し、中山王の重臣たちの事も話してくれた。有能な重臣たちは、なるべく寝返りさせた方がいいと言った。特に、明国との交易に関する事は長年の経験が必要なので、それに関わっている重臣たちは殺さないで、家臣に加えるべきだと言った。そこまで考えていなかったウニタキは、ナーサの言う事に納得した。そして、『龍』が王になった暁には、首里に遊女屋を開くための援助をすると約束した。
 ウニタキからナーサの話を聞いたサハチは、浦添グスクの見取り図を眺めながら、よくやってくれたとウニタキにお礼を言った。
「これだけ詳しい絵図があれば、浦添グスクを落とすのはわけないな。しかし、この図面は先代の山南王が作らせたのだろう。もしかしたら、タブチもこれを手に入れているのではないのか」
「いや、先代の山南王には渡したようだが、それを今、シタルーが持っているかどうかはわからない。多分、持っているとは思うが。タブチは持っていないそうだ」
「そうか。シタルーの手の者は浦添グスクに入っているのか」
「山南王になれたあと、お礼として美女を側室に贈っているからな。美女の侍女として二人が入っている。シタルーの事だから他にも何人か入れているはずだ」
「シタルーが浦添グスクを狙っているのは確かだな」
「狙っているといっても、今すぐではないだろう」
「いや」とサハチは首を振った。
 シタルーは馬鹿ではない。タブチと中山王のたくらみに気づかないわけがなかった。タブチが動くより先に動くはずだった。
「三月の婚礼の時、シタルーは南部の按司たちを形だけでもまとめた。首里グスクを奪い取り、南部の兵を引き連れて浦添を攻めるかもしれんぞ」
「タブチが反対するだろう」
「タブチを山南王にすると言えば、タブチも従うだろう」
「シタルーが中山王になって、タブチが山南王か‥‥‥それもないとは言えんな。しかし、それなら、シタルーはタブチにその事を言うだろう」
「いや、その事をタブチに言えば、どうして弟が中山王で、兄が山南王なんだと言われる。首里グスクを奪い取ってから、その事を告げるつもりかもしれんぞ」
「そうなると、シタルーも首里グスクの完成を待って奪い取るかもしれんな」
「シタルーの動きをよく見張っていてくれ」
「わかった」とウニタキは厳しい顔をして、うなづいた。
 サハチは浦添グスクの見取り図をたたむと、「それにしても、ナーサという女、遊女屋をやるとは面白いな」と言って笑った。
「会って見るか」とウニタキは言った。
「会いたいと言っているのか」
「別に言ってはいないが、お前の事を『龍』だと信じている。『龍』に会えば、忠誠心も湧くだろう」
「そうだな、久し振りに浦添に行ってみるか」
 十二月の初め、冷たい北風(にしぶち)の吹く中、サハチはウニタキと一緒に浦添に行き、『よろずや』でナーサと会った。サハチはいつもの旅の格好に毛皮の袖無しを着ていた。ウニタキはいつもの猟師姿で、中途半端に伸びた髪に鉢巻を巻いていた。
 ナーサはすでに来ていて、暖まった奥の部屋でムトゥと一緒に待っていた。
 噂通り、五十過ぎとはとても思えない美しい女だった。ただ、サハチが予想していた美しさとは違った。魅惑的で妖艶な美しさだと思っていたが、清楚で、気品のある美しさだった。そして、その顔をどこかで見たような気がしていた。
 お互いに挨拶を交わしたあと、「奥間の若様と面影がよく似ておりますね」とナーサはサハチに言った。
「サタルーに会ったのですか」
「今年の正月、三十七年振りに里帰りいたしました。奥間も随分と変わっておりました。ようやく、自由の身となりましたので奥間にも帰れたのです」
「でも、女の足で行くには遠すぎますね」
「途中までは馬で行きました」
「ほう、馬に乗れるのですか」
「亡くなってしまわれましたが、宇座の御隠居(うーじゃぬぐいんちゅ)様の牧場で習いました」
「えっ」とサハチは驚いた。
「宇座の御隠居様とはどのような仲だったのですか」
「仲というほどではありません。奥方様(うなじゃら)が出産後に体調を崩して、しばらく、宇座の御隠居様のもとで静養していた時がございました。二か月ほど滞在しておりました。その時に奥方様と一緒に乗馬を習ったのでございます。その時、御隠居様に気に入られたのか、以後、先代の中山王に頼まれて、何度か馬に乗って宇座まで使いをした事もございます。御隠居様はわたしを歓迎して下さって、明国のお話や昔の事を色々と話してくれました。御隠居様もその頃、奥様がお亡くなりになって寂しかったのかもしれません」
「そうでしたか。わたしも御隠居様には何度か、お世話になりました」
「えっ、御隠居様を御存じなのですか」
 ナーサは驚いていた。南部の佐敷と中部の宇座がつながりがあるなんて、誰もが思わないだろう。驚くのも当然だった。
「わたしの妻は伊波(いーふぁ)按司の娘なのです。伊波に行ったついでに、宇座に寄って御隠居様と会っておりました」
「そうでしたか‥‥‥もしかして、馬天浜(ばてぃんはま)の御夫婦というのはあなたの事でしたの」
「馬天浜なら佐敷ですから、多分、そうでしょう」
「そうでしたか。御隠居様からお話は伺っております。御隠居様はいつも、楽しそうに、その御夫婦のお話をなさっておりました。馬天浜で鮫皮作りをしている男の孫だとは聞いておりましたが、まさか、佐敷の按司様(あじぬめー)だとは知りませんでした。そうでしたか、あなたの事だったのですね」
 ナーサは嬉しそうな顔をして笑った。
「もしかしたら、宇座でお会いしたかもしれませんね」
「そうかもしれません」とサハチはうなづいた。
 クマヌに連れられて初めて宇座の御隠居を訪ねた時、浦添から馬に乗って来た侍女がいたのをサハチは思い出していた。袴(はかま)を着けて、腰に刀を差して、浦添には勇ましい女がいるものだと感心しながら見ていた。まるで、十数年後のマチルギのようだと思ったのをサハチは思い出していた。
「これから、よろしくお願いします」とサハチは頭を下げた。
「それはこちらから言う事です。お手伝いさせていただきます。それから、奥間ヌルは、わたしがあなたに会う事を予言なさいました。わたしには信じられませんでしたが、こうして会うなんて本当に不思議な事です。奥間ヌルのおっしゃる通り、わたしはあなたのために働きます」
 ナーサが帰ったあと、サハチは望月ヌルだったヤエと会って話を聞いた。
「もう守るべき兄弟もいませんので、ヌルはやめました」とヤエは言った。
 二人の兄が亡くなって半年が過ぎ、ヤエはその悲しみから立ち直ったようだった。
「ただ、サンルー兄さんの三男が生き延びているような気がします。まだ、十四歳なので隠れ家にはいませんでした。いつの日か、望月党を再結成して復讐するかもしれません。それが心配です」
「ウニタキから聞いています。でも、その三男もあなたが生きている事は知らないでしょう。そんな事は気にしないで、幸せになって下さい」
 ヤエは明るく笑って、うなづいた。
 その年の暮れ、父はヒューガと一緒に帰って来た。
「台風にやられたのう」と父は笑った。
 屋敷の二階の会所で、三人で火鉢を囲んでいた。
「来年の正月は首里のグスクで祝うつもりで準備しておったんじゃがのう」
「二月伸びたようです」とサハチは言った。
「来年の正月の半ば、八重瀬と浦添の婚礼があります。多分、そのあと、タブチは動くでしょう。東方(あがりかた)の按司と中山王がタブチの味方をします。島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクと豊見(とぅゆみ)グスクは包囲されます。中山王が島尻大里に出陣したら首里グスクを奪い取って、浦添グスクを焼き払います」
首里グスクを奪い取るのはわかるが、浦添グスクを焼き払うのか」と父が怪訝な顔をしてサハチを見た。
 あんな立派なグスクを焼くのは勿体ないといった顔付きだった。確かに勿体ないが、そんな事を言っていたら戦なんてできなかった。
首里グスクが手に入れば、浦添グスクはもう必要ありません。浦添グスクを落とすとなると時間が掛かりますし、かなりの兵力が必要となります。焼き払うだけでしたら百人で済みます。佐敷の兵は浦添には向かわずに中グスクに向かい、中グスクを落とします」
浦添ではなく、中グスクを落とすじゃと?」
「中グスクだけではありません。越来(ぐいく)も落として、勝連(かちりん)も落とします」
「一気に勝連まで落とすじゃと? そんな事ができるわけがなかろう」
「奥間の者たちに手伝ってもらいます」とサハチは言って、父とヒューガの顔をを見た。
「奥間の者を使ったとしても、そう簡単に三つのグスクは落とせまい」と父は言った。
「その三つのグスクには、奥間の女が側室として入っています」
「それは本当なのか」
「その三つだけではありません。奥間を守るために、各地のグスクに美女を側室として送り込んであります。新しい血を求めていたのは美女が生まれやすいからなのです。ヒューガ殿の娘はかなりの美人だったようです。今、浦添の若按司の側室として浦添グスクにいます」
「ユリは大丈夫なんじゃろうな」とヒューガが聞いた。
浦添にはもう一人、奥間の美女が武寧(ぶねい)の側室として入っています。二人とも必ず救い出します」
 ヒューガが安心してうなづいた。
「それで、その側室を使ってグスクが落とせるのか」
「奥間の者に頼んで、前もって仲間を潜入させます。敵が攻めて来るとは思ってもいないでしょうから、何とでもなると思います。それに、中グスク、越来、勝連も中山王と一緒に山南王攻めに出陣すると思いますから、グスクにいるのは留守兵だけです」
「ふーむ」と父は溜息をついた。
「凄い作戦じゃのう。一気に勝連までか」
 サハチは絵地図を自分の部屋から持って来て広げ、浦添グスクの見取り図も父に見せた。
「こんな物をどうやって手に入れたんじゃ」
 あまりにも詳しすぎる見取り図を見ながら、父は腰を抜かすほどに驚いていた。
「長年勤めている侍女から手に入れました」
「凄いのう。細かい事まで色々と書いてある」
「これがあれば、浦添グスクはウニタキの配下の者だけで焼き払う事ができます」
「しかし、グスクが燃えれば、皆、逃げ出すじゃろう。逃げ出した者はどうするんじゃ。グスクを包囲しなければ、皆、逃げてしまうぞ」
「逃げる者は追いません。その時、グスクにいるのは留守を守っている兵と女たちでしょう。もし、中山王か若按司のどちらかが留守を守っていた場合は勿論、殺します」
「まず、シタルーの島尻大里グスクが、タブチと中山王の兵に囲まれる」とヒューガが絵地図を見ながら言った。
「シタルーが動けないのを確認して、首里グスクを攻め落とす」
首里のグスクは簡単に落とせるのか」と父が聞いた。
「まだ、引っ越しが済んでいないので、グスクを守っている兵は百人だけです。今、最後の仕上げに入っていて、各地から職人が集められて、グスク内で細かい作業をしています。作業する者たちの人数が多すぎて、以前ほど出入りは厳しくないようです。何とか潜入できるだろうとウニタキが言っていました」
「そうか。首里グスクを落としてから、浦添グスクを焼き討ちにするんじゃな」
「そうです」とサハチはうなづいた。
 三人は絵地図を睨みながら、夜遅くまで綿密な作戦を練っていた。