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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

75.首里グスク完成(最終決定稿)

 正月二十五日、八重瀬(えーじ)按司のタブチから出陣要請が来た。二月十一日、山南王のシタルーを攻めるという。十一日といえば、首里(すい)グスクの完成の儀式の翌日だった。思っていたよりも早かった。一仕事を終えて、ホッと安心しているシタルーを狙うようだった。
 玉グスクに使者を送ると、使者は戻って来て、すぐに、玉グスクに来るようにと伝えた。
 サハチは大(うふ)グスクに寄って、大グスク按司と一緒に玉グスクに向かった。
「島添大里(しましいうふざとぅ)殿、顔色が悪いようですが」と馬に揺られながら、大グスク按司が言った。
 サハチは今日のために、二日前から食事を絶っていた。
「いや、大丈夫だ」とサハチは無理に笑って見せた。
 玉グスクには東方(あがりかた)の按司たちが皆、集まっていた。
「どうして、今、八重瀬按司は山南王を倒そうとするのじゃ。意味がわからん。そなた、何か聞いておらんのか」と知念(ちにん)按司がサハチの顔を見るなり聞いた。
「この前の婚礼の時、話は聞きました」とサハチは力のない声で答えた。
「やはり、そうじゃったか。そなたが一番、山南王とのつながりが強いからのう。それで、どうして急に攻めるのか聞いたのか」
「八重瀬按司が言うには、前回の戦の時、中山王が山南王の味方をしたのは、首里のグスクを築くために山南王の力が必要だったからだそうです。そして、首里のグスクはもうすぐ完成します。グスクができれば山南王には用はない。返って、グスクの事を知りすぎている山南王は、中山王にとって邪魔な存在になったようです」
「勝手じゃのう」と玉グスク按司が言った。
「山南王を決めるのは中山王じゃという言いぐさじゃな。かといって、中山王には逆らえんからのう。八重瀬按司の使者が来るのとほぼ同じ頃、中山王から使者が来た。八重瀬按司を支持してくれとの事じゃ。長男が健在なのに、次男が山南王を継いでいるというのは戦乱の元となる。王というのは人々の手本とならねばならない。南部を統一するには長男が王になるべきじゃと、今頃になって言ってきたわ。中山王も中部の按司たちを率いて出陣して来るそうじゃ」
「何と、前回と同じ規模の戦が始まるのか」と知念按司は驚いた顔をして、按司たちの顔を見回した。
「やれやれ、まいったのう」と言った顔をして、皆が首を振った。
「そなたはもっと詳しい事を知っているのではないのか」と垣花(かきぬはな)按司が糸数(いちかじ)按司に聞いた。
首里グスクの事だけではないのです」と糸数按司は言った。
冊封使(さっぷーし)が来られた時、中山王は山南王のお陰で、何度も恥をかかされたのです。明の言葉のわかる山南王は、冊封使と直接に話をして、何でも勝手に決めてしまいました。中山王の立場はなくなり、冊封使がいる間中、山南王が常に主役だったのです。中山王は面目を失い、腹を立てましたが、首里のグスクが完成するまではと、じっと堪(こら)えてきたのです」
「わしらに縁のない所で、そんな事があったのか。そいつは中山王が怒るのも無理ないのう」
「いくら大軍で攻めたとしても、島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクは簡単には落ちないじゃろう。また、長期戦になりそうじゃのう」と玉グスク按司が困ったような顔をして言った。
「中山王が言うには、山南王はまったくといっていい程、今回の戦には気づいていないそうです。去年の台風で、糸満(いちまん)の辺りは大被害を受けて、長期にわたる炊き出しをしていました。グスク内の兵糧(ひょうろう)も大してないだろうとの事です。それに、島尻大里の重臣たちの間にも、浦添(うらしい)ばかりに行っている山南王に反感を持っている者がいるようです。八重瀬按司がその辺の所は抜かりなく手を打ってありますので、それほど長期にはならないものと思われます」
「一月で片が付くのか」と知念按司が聞いた。
「多分」と糸数按司はうなづいた。
「わしの所も兵糧に余裕はない。前回のように二か月もやってはおれん」
「島添大里殿、顔色が悪いぞ」と垣花按司がサハチに言った。
「いえ、大丈夫です。ただ、豊見(とぅゆみ)グスクに、わたしの娘がいます。その事を思うと‥‥‥」
「そうか。そなたの娘は山南王の倅に嫁いだんじゃったな。まったく、突然に、こんな事になるとはのう」
 各自、戦の準備をして、二月十一日の朝、糸数グスクに集合するという事に決まった。
 サハチは島添大里グスクに戻ると、とにかく腹拵えをして、『まるずや』に向かった。
 『まるずや』の裏の屋敷には、父とクマヌとウニタキとヤキチが待っていた。ウニタキの配下の者が作った首里グスクの見取り図を見ていたようだった。
「出撃は二月十一日です」とサハチは言いながら四人の中に加わった。
「十一日と言えば、首里グスクの完成の儀式の翌日か」と父が言った。
「中山王はシタルーをさっさと片付けたいようです。マサンルーに百人を率いさせて出陣させます」
「どこを攻めるのかはわからんのじゃな」とクマヌが聞いた。
「ええ、まだ、わかりません」
「下手(へた)をすると、その百人、無事に戻れんかもしれんぞ」
「危険を察したら隙を見て逃げ出すしかないな。キラマの連中から足の速い奴を選んで行かせればいい。暗い夜道を歩く訓練も積んでいるから、夜のうちに撤収する事もできるじゃろう」と父が言った。
「夜のうちに百人が消えるというのは面白いのう」とクマヌが笑った。
「中山王は中部の按司たちにも出陣命令を出したのか」とサハチはウニタキに聞いた。
「出したようだ。使者が各地に散って行った」
「その使者は、中グスク、越来(ぐいく)、勝連(かちりん)、北谷(ちゃたん)に行きました」とヤキチが答えた。
「前回と同じじゃな。中山王は中部の按司たちを引き連れて、島尻大里を包囲するようじゃのう」と父は言ってから、ヤキチを見て、「伊波(いーふぁ)按司と山田按司は加わらんのじゃな」と聞いた。
「中山王は今帰仁合戦で、山田按司を見殺しにした事に負い目を感じているようで、南部の事には参加させないようです」
「そうか。その方が、こっちもやりやすい」
「中グスクは山南王と同盟したが、出陣の事を山南王に知らせたりしないかのう」とクマヌが心配した。
「中グスクから島尻大里へ向かった者はおりました」とヤキチが言った。
「なに、本当か」
「はい。しかし、それは山南王に知らせるためではなく、島尻大里グスクを落とすためではないかと思われます。中グスクと山南王の婚礼は、中山王の許可のもとに行なわれております。今回の戦を前提として、中グスク按司の娘を島尻大里グスクに入れたのかもしれません」
「その娘を利用して、グスクを落とすつもりなのか」
「娘と一緒に護衛の兵も入っておりますので」
「中山王も短期決戦するつもりじゃな」と父が言った。
「その前に、首里のグスクを奪い取ってしまえば、島尻大里も大丈夫でしょう」とサハチは言って、四人の顔を見た。
「十一日に中部の按司たちは浦添に集まって、島尻大里に向けて出陣します。そいつらが島尻大里に到着する頃を見計らって、首里グスクを奪い取ります。そして、その夜、浦添グスクを焼き討ちにします。浦添グスクから逃げた者たちによって、浦添の事が中山王に知らされ、十二日の正午頃には中山王の兵が首里に攻めて来ると思います。中部の按司たちの兵も一緒でしょうから、七、八百の兵が攻めて来るでしょう。それを首里の兵と、隠しておいた伏兵(ふくへい)で倒さなくてはなりません。敵は本拠地を失って浮き足だっていますが、数が多いですからね、倒すのは容易な事ではないでしょう。味方の損害もかなりになると思います」
「いくつも罠(わな)を作って、敵を誘い込むようにした方がいいな」と父が言って絵地図を広げた。
「この辺りか」と首里グスクの南側を指さしたが、「実際に見てみない事にはわからんのう」と言った。
「まだ、戦には間がある。東行法師(とうぎょうほうし)になって、その辺りを歩いて来よう」
「わしも一緒に行こう」とクマヌが言った。
按司様(あじぬめー)、頼みがあるんじゃが」とヤキチが言った。
「何だ」とサハチは絵地図から顔を上げて聞いた。
「若様を参加させたいのですが、いかがでしょうか」
「サタルーをか」
「はい。わしが指揮を執るよりも、若様の方が、奥間(うくま)の者たちも動きます」
「そうか」
「若様のためにも、その方がよろしいかと思いますが」
 サハチは父を見た。
「サタルーはいくつになったんじゃ」と父はサハチに聞いた。
「二十歳になったはずです」
「ヤキチが補佐をしてくれれば大丈夫じゃろう」
 サハチはうなづき、サタルーを呼ぶように頼んだ。
 次の日、父は東行法師になって、山伏姿のクマヌと一緒に首里周辺の偵察に出掛けた。
 サタルーは四日後に奥間からやって来た。ヤキチの鍛冶屋(かんじゃー)の仕事場で、サハチはサタルーと会った。
 サタルーと会うのは二年振りだった。二年間、厳しい修行を積んだとみえて、二年前よりもがっしりとしていた。顔付きも引き締まっていて、奥間を背負っているという自負心が感じられた。そんなサタルーを見て、サハチは嬉しかった。サタルーが、サハチの長男だという事を改めて実感していた。
 中グスク、越来グスク、勝連グスクを落とすため、三人で綿密な打ち合わせをした。
「親父、任せてくれ」とサタルーは張り切って、ヤキチと一緒に中グスクへと向かって行った。
 二月五日、島添大里グスクの東曲輪(あがりくるわ)では、出陣に備えて兵の訓練をしていた。大将のマサンルーの指揮のもと、キラマの島から来た若者たち百人が武装して、本番さながらの訓練だった。若者たちは整然としていて動きは素早く、立派な兵士に育っていた。どこに出しても恥ずかしくない素晴らしい兵たちだった。サハチは若者たちを見ながら、改めて父に感謝していた。
 侍女のナツが来て、ウニタキが待っていると知らせてきた。屋敷の外で見るナツは、何となく、いつもと違って輝いているように見えた。サハチがナツの顔を見ていると、「どうかなさいましたか」とナツが聞いた。
「いや、今さら言うのもなんだが、そなたと前に会ったような気がしたんだ」
 ナツは楽しそうに笑った。
 ナツの笑顔を見たのも初めてのような気がした。
按司様(あじぬめー)の妹のマカマドゥ様と仲よくさせていただきました」
「マカマドゥとか」
「マカマドゥ様と御一緒に知念に行こうとも思いましたが、『三星党(みちぶしとー)』に入って按司様を守る事にいたしました」
「そうだったのか。ありがとう」
 ナツと一緒に屋敷に戻ると、サハチは着替えて、『まるずや』に向かった。
 ウニタキは三弦(サンシェン)を弾いていなかった。部屋の中で火鉢にあたっていた。ここ二、三日、また寒くなっていた。
「何かあったのか」と聞きながら、サハチは火鉢の側に座った。
首里グスクは正月一杯で完成した。人足たちの仕事は終わったんだが、続けて、重臣たちの屋敷の普請(ふしん)が始まった。人足たちはそのまま残っている」
「そうか。人足たちは何人くらいいるんだ」
「仕上げの段階で、大分、減ってはいるんだが、まだ、二百人は残っているだろう」
「邪魔だな」
「人足を指図している役人もいるからな、片付けなくてはならない。そいつらは俺に任せてくれ」
「頼むぞ。グスクは完成しても、城下はまだ何もないんだな。城下の普請を引き継ぐとなると、莫大な費用が必要になるな」
「なに、中山王が溜め込んだ財宝がある。それを使えば何でもない」
「どこにあるのかわかっているのか」
浦添グスク内にある蔵と浮島にある蔵だ。すべて、いただく」
浦添を焼き討ちにしたあと、運び出す事ができるのか」
「その時の状況次第だな。夜のうちにできなくても、夜が明けたら、浦添の家臣に扮して首里に運び込む」
「そうか、うまくやってくれ。人出が足らなければ首里の兵を使えばいい」
 ウニタキはうなづいたあと、「中山王が引っ越しを始めたぞ」と言った。
「何だと、中山王が首里に移ったのか」
「そうなんだ。まったく驚いたよ。二、三日前からグスクに荷物を少しづつ運び込んではいたんだが、移るとは思わなかった。昨日、中山王は側室一人と侍女六人を連れて、三十人の護衛兵と一緒に首里グスクに入ったんだ。グスク内を見学して帰るのだろうと思っていたんだが、帰る事はなかった。どうも、そのまま、そこで暮らし始めるようだ」
「中山王は出陣しないのか」
「若按司に任せるようだな。儀式が終わったら本格的に引っ越しを始めるようだ」
「武寧(ぶねい)が移ったのか‥‥‥少し、やり辛くなったな」
「いや、兵は三十人増えただけだ。武寧が首里グスクに入ったのなら、首を取る手間が省けたといえる。出陣してしまえば、厳重に守られているので、大将の首を取るのは難しいからな」
「そうか。そうなると、首里グスクを奪い取った時点で、中山王はいなくなるという事だな」
「そうなんだ。中山王がいなくなると、南部の戦況にも影響が出るだろう」
「グスクを奪われたとしても、中山王が生きていれば、按司たちは従うだろうが、亡くなったとわかれば、若按司には従うまい」
「そうなると、どうなる?」
「中部の按司たちは本拠地に戻ろうとするんじゃないのか」
「何が起こったのかわからず、とりあえずは本拠地に戻って、グスクを守るか‥‥‥」
「それは具合が悪いな。中グスク、越来、勝連が落とし辛くなる」とサハチは言って、ウニタキを見た。
「しかし、首里に攻めて来る兵は減るぞ」とウニタキは言った。
「敵が中山王の死をいつ知るかが問題だな」
浦添グスクが燃え、グスクから逃げた者が浦添グスクが焼け落ちた事は知らせるが、中山王は首里にいると思っているだろう」
首里にも知らせに行く奴がいるはずだ。そいつが、首里も落ちた事を知って、中山王の死を知るだろう」
首里が落城して、その夜に浦添が炎上して、次の日の正午頃には、若按司も中山王の死を知るだろう。余程の馬鹿でない限り、若按司は中山王の死を隠して、中部の按司たちを率いて首里を攻めるはずだな」
「中部の按司たちは首里で倒した方がいいだろう。本拠地に戻ってしまえば、守りが強化されて落とせなくなってしまう」
首里で決戦だな」とウニタキは言った。
「中グスクから勝連までは、さっとと片付けなければならない」とサハチは言った。
「中グスクで手間取ってしまうと、作戦は中止しなくてはならないだろう。時を置いてしまうと、北谷を中心に、中グスク、越来、勝連は強固に結びついて反抗するだろう。勝連が敵になってしまうと交易にも支障が出る」
「若按司が馬鹿でない事を祈るか」
 サハチはうなづいて、火鉢の中の火を見つめた。顔を上げると、「首里に入った側室というのは高麗(こーれー)の女か」とウニタキに聞いた。
「いや、違う。最近入った側室だろう。若い娘だ」
「いい年をして、若い娘といちゃつくために移ったのか」
「そうかもしれんな。うるさい重臣どもは浦添だからな」
「儀式まであと五日だな。これ以上、首里の兵が増えなければいいがな」
「中山王の兵力は八百余りといった所だ。前回と同じように、若按司は三百を率いて出陣するだろう。首里に百三十、浦添に百、鳥島に五十、上間(うぃーま)グスクに五十いる。それに、今、二隻の進貢船(しんくんしん)が明に行っている。それに乗っている兵が二百はいるだろう。もう余裕はないはずだ」
「そうか、進貢船にも兵が乗っているのか」
「お宝を運んで来るんだから兵は必要だろう」
「そうだな。ところで、上間グスクはどうする」
「放っておいてもいいんじゃないのか。グスクを守るのが精一杯で、グスクから出ては来ないだろう。糸数按司の弟だからな。そのまま上間按司になって、新しい中山王に仕えるだろう」
「わざわざ攻める事もないな」
「それと、シタルーなんだが、やはり、様子がおかしいぞ」
「どういう事だ」
「最近、やたらと豊見グスクに行っているんだ」
首里グスクが完成したんで、孫の顔を見に行っているんだろう」
「それだけならいいんだが、何となく気になる。それと、首里グスクの抜け穴の入口にあるウタキだが、昨日、百姓の女が拝みに来たそうだ。今まで誰も来た事がないのにおかしい」
「シタルーが確認させるために、その女を送ったのか」
「そうとしか考えられない」
「シタルーが首里を奪い取る準備を始めたのかな」
「そうかもしれんぞ」
「シタルーよりも先に動かなくてはならんな」
 シタルーの事を頼むとサハチは言って、ウニタキと別れた。
 サハチが島添大里グスクに戻って、しばらくすると、父とクマヌが帰って来た。あれから毎日、首里の周辺を調べているらしい。
 サハチは二人を二階に誘って、ウニタキから聞いた事を話した。
「中部の按司たちは首里で倒すべきじゃ」と父は言った。
「敵を待ち伏せする場所がいくつもある。そこで待ち伏せをして、少しづつ倒して行けばいい。首里に着く頃には半数に減っているじゃろう」
 父は絵地図を広げて、待ち伏せする場所を指で示した。
「もし、中部の按司たちが本拠地に戻るような事になったら、やはり、この辺りで倒す。按司たちを本拠地に戻してはならん。あとが面倒じゃ」
 次の日の夕方、八重瀬から密使(みっし)が来た。密使は百姓の格好をしていて、割り符を持っていた。その割り符は前回に来た八重瀬の使者が置いて行った物だった。もし、変更があった場合は、割り符を持った密使が行くだろうと言っていたが、まさか、変更があるとは思ってもいなかった。サハチは具合が悪くて寝込んでいるという事にして、クマヌが密使と会った。十一日の出陣が、九日に変更されたという。クマヌが理由を聞いても、密使は知らないようだった。
 クマヌから話を聞いて、サハチと父は顔を見合わせた。
 九日と言えば、三日後で、しかも、首里グスクの完成の儀式の前日だった。一体、どうして、二日も早めたのか、理由がわからなかった。
「もしや、十一日の出陣がシタルーに知られたのか」と父が言った。
「それはありえるのう」とクマヌがうなづいた。
「シタルーが、タブチのたくらみを見抜いたのかもしれん」
「すると、シタルーは完成の儀式の日に、首里グスクを奪い取るつもりだったのですかね」とサハチは言った。
「完成の儀式をやっている最中に、首里グスクを攻めて、武寧を殺し、首里グスクを奪い取るつもりじゃったのか‥‥‥しかし、そのあとは、どうするつもりだったんじゃ」と父が聞いた。
首里のグスクを奪い、武寧が死んだ事を南部の按司たちに知らせて、浦添を攻めるつもりだったのでしょう」とサハチは言った。
「しかし、タブチは従うまい」
首里のグスクを手に入れたシタルーは中山王になります。タブチに山南王になってもらうと言えば、タブチはシタルーに従うでしょう」
「確かにな」とクマヌがうなづいた。
「山南王を譲られれば、タブチもシタルーに同意して、浦添を攻めるに違いない」
「シタルーがそんな事を考えていたとは‥‥‥危ない所じゃったのう」と父が溜息をついた。
「シタルーに首里グスクを取られたら、奪い取るのに、あと五年は掛かったかもしれん」
「しかし、武寧はシタルーのたくらみによく気がつきましたね」とサハチが言うと、「お互いに、相手のグスクに間者(かんじゃ)を入れて、腹の探り合いをしていたのじゃろう」とクマヌが言った。
 次の日、東方の按司たちに使者を送って確認すると、全員のもと八重瀬からの密使は来たようだった。。
 二月八日の午後、島添大里グスクの会所では、重臣たちが集まって作戦会議を開いていた。会議が終わると各自、準備のために散って行った。
 サハチと父が二階に上がると侍女のナツが、ヒューガとファイチが『まるずや』で待っていると伝えた。サハチは父と一緒に『まるずや』に向かった。
 ウニタキはいなかった。キラマの島からの移動は終わり、今、運玉森(うんたまむい)に六百の兵が待機しているとヒューガは言った。若者たちの輸送には、シンゴとクルシの船も加わり、三つの船の中に五十人づつ待機して、浮島に泊まっている。浮島の松尾山にも五十人いて、百人はすでに出陣のために島添大里グスクに入っていた。
 ファイチはヒューガの船が浮島に来たのを知ると、ヒューガと会い、一緒に来たようだ。
「久米(くみ)村も準備完了です。島の若者を五十人貸して下さい。アランポーの退治をします」とファイチは言った。
首里攻撃と同じ日がいいだろう。明日だな」とサハチは言って、父を見た。
「五十人だけで大丈夫なのか」と父がファイチに聞いた。
「はい。大丈夫です、師匠」とファイチはうなづいた。
「そうか。よろしく頼む」
「運玉森に六百人もいて、大丈夫ですか。『マジムン屋敷』に入りきらんでしょう」とサハチはヒューガに聞いた。
「あんなに大勢の男どもが押し掛けて来て、マジムンもたまげているようじゃ。なに、中央の土間も使えば、何とか入れる。ぎゅうぎゅう詰めじゃがのう」とヒューガは笑った。