読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-63.対馬慕情(第二稿)

尚巴志伝 第二部

 サハチたちが朝鮮(チョソン)から対馬に戻ったのは、山々が紅葉している十月の初めだった。
 九月の初めに漢城府(ハンソンブ)(ソウル)に着いた琉球使者たちは、二十一日にようやく、朝鮮王(李芳遠(イバンウォン))に謁見(えっけん)した。何度も歓迎の宴が行なわれたが、なかなか朝鮮王に会うことはできなかった。李芸(イイエ)に聞くと、書類の手続きに手間取っているようだという。
 新しい宮殿の昌徳宮(チャンドックン)で朝鮮王と謁見した使者たちは胡椒(こしょう)や蘇木(そぼく)、象牙(ぞうげ)などを贈り、武寧(ぶねい)の側室たちを返した。お礼として大量の綿布(めんぷ)と経典(きょうてん)や仏像を贈られた。ただ、仏像は大きな物は運べないので、小さい物ばかりだった。
 使者たちが朝鮮王と会ったのを確認すると、サハチたちは富山浦(プサンポ)(釜山)に引き返した。ナナがササに会いたいと言って一緒に付いて来た。途中、長雨に見舞われて三日間、足止めを食らったが何とか無事に富山浦に到着した。道のひどさに辟易(へきえき)し、もう二度と漢城府には行きたくないとサハチは思っていた。
 富山浦の『津島屋』の留守を守っていたのは、浦瀬小次郎の弟の小三郎だった。小三郎の話によると、サハチたちが漢城府に旅立った後、ササたちはすぐに対馬に帰らず、小次郎の双子の娘、ソラとウミを連れて、近辺の山々に登っていたという。危険だと言っても言う事を聞かず、小三郎を困らせたらしい。それでも、八月の半ばには無事に対馬に送り届けたという。サハチはお礼を言って、漢城府の出来事と、開京(ケギョン)でサイムンタルーと会った事を告げた。
「お屋形様に会えましたか。それはよかったです。それに朝鮮の王様を間近に見るなんて、ササが言っていましたが、あなたは何かを持っているようですね」
「ササが何かを言ったのですか」
「わたしがあなたの事を心配していたら、あなたは龍だから大丈夫だと言っていました。意味はよくわかりませんが、きっと、強運の持ち主なんだろうと思いました」
 ササが子供の頃、父親のヒューガが彫った龍を渡された事をサハチは思い出して笑った。
 船大工の与之助は帰ったかと聞くと、進貢船を隅から隅まで調べて、九月の半ばに帰って行ったという。船の事しか考えていないあんな船大工が琉球にも欲しいと思った。
 次の日、サハチは倭館(わかん)に行き、漢城府に行かなかった又吉親方(またゆしうやかた)に使者たちの様子を話して、先に対馬に帰る事を告げた。
 丁度うまい具合に、イトの船が富山浦にやって来た。
「迎えに行って」とササに言われたという。ササたちも一緒に来て、ナナとの再会を喜んでいた。
 対馬に帰ったサハチはイスケの船に乗って、イト、ユキ、ミナミを連れて、家族水入らずの旅に出た。喜んでいるユキとミナミを見ながら、子供たちと一緒に旅をするのは初めてだなと思った。マチルギとは毎年のように旅をしたが、子供たちを連れて行った事はなかった。琉球に帰ったら、幼い子供たちを連れて久高島にでも行こうかなとサハチは思っていた。
 ササから話に聞いていた仁位(にい)のワタツミ神社は海の中に鳥居がいくつも立っている不思議な神社だった。本殿を参拝し、森の中にある豊玉姫(とよたまひめ)のお墓で両手を合わせた。
 イトが近くに眺めのいい山があるというので登った。大して高い山ではないので、すぐに山頂に着いた。そこからの眺めは素晴らしかった。周りに高い山がないので、東西南北すべてが見渡せた。ミナミもキャッキャッと言いながら喜んでいた。
 サハチたちが眺めを楽しんでいるとササたちがやって来た。ササとシンシンとナナの三人だった。ミナミが喜んでササたちの所に飛んで行った。
「お前ら、あとを付けて来たのか」とサハチが聞くと、「そうじゃないのよ。土寄浦(つちよりうら)に行く途中なのよ」とササは言った。
「土寄浦の若い者たちを鍛えてくれって頼まれたのよ。ンマムイとクサンルーは先に行ったけど、あたしはワタツミ神社に寄ってから行くって言ったのよ」
「またスサノオか」
「そうよ。この山に登ってみたかったの」
「この山にスサノオが来たのか」
「来たと思うわ。周り中が眺められるもの。この山があったから、スサノオはワタツミ神社の所にお屋敷を建てて暮らしたんだと思うわ」
「成程」とサハチはうなづいた。
スサノオに敵がいたのかどうかは知らんが、ここにいれば敵の動きがわかるな」
「ここから周りを見張っていたのよ。あたし、ずっと豊玉姫がどこから来たのか考えていたんだけど、ようやくわかりそうだわ」
「ほう、ここに来てわかったのか」
「そうじゃないけど、見方を変えてみたのよ。豊玉姫スサノオに会うためにここに来たけど、最初に南の島に行ったのはスサノオなのよ。南の島でスサノオ豊玉姫と出会って結ばれるわ。豊玉姫にとってスサノオはマレビト神だったのよ。豊玉姫は妊娠して、スサノオのもとで子供を産みたいと対馬にやって来るの。スサノオはどうして南の島に行ったの?」
「シビグァー(タカラガイ)でも採りに行ったのか」とサハチが何気なく言うと、ササは驚いた顔をしてサハチを見つめ、「どうして知っているの?」と聞いた。
「今、朝鮮の都でシビグァーが流行っているんだよ」
「えっ、どういう事?」
「ノリゲにシビグァーを飾るのが娘たちに流行っていて、漢城府の津島屋は繁盛しているんだ」
「へえ、そうなんだ。お土産にしようと思って、ノリゲは富山浦の遊女屋の女将さんから譲ってもらったわ」
「お前、女将に会ったのか」
「女将さんが津島屋に来たのよ。綺麗なチマチョゴリを着ていたんで、どこで手に入れるのか聞いたら、あたしたちを遊女屋に連れて行って、綺麗なチマチョゴリをくれたのよ。いい人だわ」
「お前がお世話になったとは知らなかった。改めてお礼をしなければならんな」
「お願いね」とササは言って、スサノオに話を戻した。
スサノオもシビグァーを求めて南の島に行ったんだけど、ノリゲに飾るためじゃないのよ。スサノオの時代、シビグァーは銭の代わりとして交易に使われていたの」
 サハチはうなづき、「明国に行った時、ヂャン師匠から聞いたよ」と言った。
「今でも山奥ではシビグァーが銭の代わりに使われているらしい。琉球にいたら考えられない事だが、朝鮮ではシビグァーは採れない。かなり貴重だったのだろう。今でも貴重だが、スサノオの頃ならシビグァーが宝物のように大切にされていたのかもしれんな」
「そうよ。スサノオは宝物を求めて南の島に出掛けて行ったのよ。そして、豊玉姫と出会うのよ。豊玉姫って豊の国(大分県)のお姫様だと思っていたんだけど、もしかしたら、鳴響(とよ)む玉グスクのお姫さまじゃないかしら?」
豊玉姫琉球人(りゅうきゅうんちゅ)だというのか」とサハチはササを見て笑った。
「おかしくないわ」とササは真剣な顔して言った。
「シビグァーはただ採ればいいというわけじゃないわ。生きているシビグァーを持って行っても途中で腐ってしまうわ。ちゃんと中身を出して乾燥させなくてはならないわ。そんなシビグァーの貝殻を大量に手に入れるには、力を持った按司がいなければならないわ。あたしは琉球の歴史は詳しくないけど、玉グスクって古いんでしょ。きっと、スサノオの頃に玉グスク按司がいて、海外とシビグァーの交易をしていたのよ。それを知ったスサノオ琉球まで行ったのに違いないわ。大量のシビグァーを手に入れたスサノオはカヤの国(朝鮮)に行って、大量の鉄を手に入れたのよ」
 確かにササの言う通りだった。シビグァーの中身を取り出すのは手間の掛かる仕事だった。中身を腐らせてから取り出すので、悪臭が漂う中、ウミンチュのおかみさんたちが手慣れた手つきで作業をしていた。
スサノオが交易したとして、スサノオ琉球に何を持って来たんだ?」
「これよ」とササは赤いガーラダマ(勾玉)を見せた。
「ガーラダマの石はヤマトゥで採れるって聞いているわ。琉球では採れないからとても貴重なのよ」
「成程、あり得るな。しかし、お前の言う通りだと、アマテラスのお母さんは琉球人という事になるぞ」
「そうなのよ。アマテラスは天皇の御先祖様でしょ。でも、アマテラスのお母さんがよその国の人だと具合が悪いので、両親のスサノオ豊玉姫は消されてしまったんだわ。スサノオは京都の神社に祀られているけど、京都の人は誰もスサノオがアマテラスのお父さんだって事は知らないのよ。誰かが歴史をねじ曲げてしまったんだわ。あたし、琉球に帰ったら、スサノオの足跡を探すわ。きっと、どこかに残っているはずよ」
「そうだな。頑張れ」とサハチはササに言ったあと、「もしかしたら、スサノオが行った頃の玉グスク按司というのは俺たちの先祖なのか」と聞いた。
 ササは首を傾げた。
「そういう事は佐敷ヌルが詳しいんじゃないの」
「そうだな。帰ったら聞いてみよう」
 急ぐ旅ではないので、その日はのんびりと過ごして、夜は砂浜で野宿をした。ミナミに引き留められて、ササたちも泊まる事になった。シズがいないので、喧嘩でもしたのかと聞いたら、シズは好きな人ができたみたいと言った。
「誰だ?」
「新太郎」
 サハチには誰だかわからなかった。
「まさか、奥さんがいる男じゃないだろうな」
「奥さんはいないわ。でも、シズより年下なのよ。お母さんはシノさんよ」
「何だって!」とサハチはササを見た。
 シノの息子という事はマツの息子だった。確か、長男のはずだった。マツの跡を継ぐ息子が琉球の娘と仲よくなるなんて‥‥‥問題が起きなければいいがと心配した。
 焚き火を囲んで、笛を吹いたり歌を歌ったりと楽しく過ごしたが、夜は思っていたよりも寒かった。それでも、イトが用意してくれた毛皮を掛けて、みんなで寄り添って眠った。
 次の日、サハチたちはササたちと一緒に土寄浦に向かった。ワタツミ神社は深い入り江の奥の方にあるので、木坂の八幡宮(海神神社)まで一日では行けなかった。
 サハチたちが漢城府まで行っている間に小舟の操り方を覚えたらしい。ササたちは達者に小舟を操っていた。
 土寄浦に着いて『琉球館』に行くと、ンマムイとクサンルーはどこに行ったのか姿はなかった。
「あの二人、振られたのよ」とササが言った。
「ンマムイはクムに振られ、クサンルーはアミーに振られたの。船越にいられないからこっちに来たのよ」
「何をやっているんだ。ンマムイはあんな綺麗な奥さんがいながらクムを口説いているのか」
「あら、人の事を言えるの」とササはサハチを横目で見た。
 サハチは苦笑して、「イハチはうまく行っているのか」と聞いた。
「イハチは按司様(あじぬめー)の息子だから、ミツのお母さんも反対していないわ。琉球に行ってもいいのよって言っているわ」
「まあ、それもいいが‥‥‥」と言ってから、サハチはササを見て、「対馬に来た弟や倅たちが、ここの娘と仲よくなったかどうか、お前、聞いてないか」と聞いた。
 ササはニヤニヤして、「女子(いなぐ)サムレーたちと一緒に調べたのよ」と言った。
「どうして、そんな事を調べたんだ?」
按司様が気になっているだろうと思ってね」
「ああ、確かに気になるよ。ユキのような子がいたら、ちゃんと面倒を見なけりゃならないからな。それで、そんな子はいたのか」
 ササは首を振った。
「一人や二人はいると思ったんだけどいなかったわ」
「そうか」とサハチは安心したが、少し情けなくもあった。
按司様のあと、最初に来たのはマタルー(与那原大親)とマガーチ(苗代之子)でしょ」
「そうだったか」とサハチは当時を思い出してみた。
 マサンルー(佐敷大親)とヤグルー(平田大親)が断って、マタルーが行く事になった。そして、マタルーの供として従弟(いとこ)のマガーチが行ってくれたのだった。
「二人ともすでに奥さんがいたし、特に仲よくなった娘はいなかったみたい。按司様とは違うのよ」
「うるさい」
 ササは笑って、「本当は釣り合う相手がいなかったみたい」と言った。
「十六、七の娘じゃ若すぎるし、釣り合いの取れる相手は皆、お嫁に行って、小さな子供を育てていたわ」
「成程。そういう事か」
「次に行ったのはクルーと勝連按司(かちりんあじ)後見役(サム)よ」
「お前、よくそんな事を覚えているな」とサハチは感心した。
 ササは笑って頭を指さし、「みんな、ここに入っているのよ」と言った。
「この二人はちょっと問題があったわ。クルーはここの娘と仲よくなったみたい。クルーはあんな可愛い奥さんがいながら浮気したのよ。按司様に似てるのかしら」
「俺の事を一々出すな。それで、その娘とどうなったんだ?」
「子供はできなかったみたい。その娘はお嫁に行ったわ。クルーは三年後にもう一度、対馬に来るんだけど、その時、その娘は大きなお腹をしていたらしいわ」
 サハチは笑った。
「サムは何もなかったんだな」
 ササは首を振った。
「ミツのお母さんといい仲になったみたい」
「何だって!」
「お互いに浮気をしたのね。娘がイハチを好きになっても、自分もそうだったから許せるのよ」
「サムがマユとか‥‥‥」
 そう言ってサハチは首を振った。
「次に来たのはマサンルーとサグルーよ」とササは言った。
 マサンルーは何事もあるまいが、サグルーは心配だった。
「二人とも問題ありよ。マサンルーはサワさんの娘のスズさんと仲よくなったわ」
「何だって! マサンルーがスズちゃんと‥‥‥」
 マサンルーがそんな事をするなんて信じられなかった。サハチは口をポカンと開けたまま、ササを見ていた。
「サグルーはかなり持てたようよ。按司様の事は伝説になっていて、その息子がやって来たんだから当然ね。それに、サグルーは見た目もいいし。サグルーの時から船越の方に移ったみたい。サグルーと仲よくなったのは船越の娘よ」
「今はもうお嫁に行っているんだろう」
 ササは首を振った。
「お嫁には行っていないわ。イトさんのお船に乗っているわ」
「お嫁に行かないのか」
「サグルーの事が忘れられないみたい」
「イトの船に乗っていると言ったな。マチルギはその娘の事を知っているのか」
「奥方様(うなじゃら)とずっと一緒にお船に乗っていたけど名乗らなかったみたい。みんなにも口止めしていたらしいわ」
「そうか。お前、その娘に会ったのか」
 ササはうなづいた。
「綺麗な娘よ。そして、かなりの腕だわ。奥方様と出会って尊敬したみたい。奥方様みたいになりたいって必死にお稽古したって言っていたわ」
「今もサグルーの事が好きなのか」
「みたいね。いつかもう一度会えると信じているみたいよ」
「そうか‥‥‥そんな娘がいるのか」
「サグルーとその娘が再会したら、新しい伝説ができるわね。いつか、サグルーは対馬に来るんでしょ」
「多分な。俺の代わりにヤマトゥや朝鮮に行く事になるだろう」
「劇的な再会ね。按司様、その娘の事、サグルーに言っちゃだめよ」
「おっ、そうだな」とサハチは笑いながらうなづいた。
 ササは話を聞いていたシンシンとナナ、イスケにも口止めした。イトとユキとミナミはシンゴの所に挨拶に行っていた。
「おい、ジルムイはどうなんだ。仲よくなった娘はいるのか」
「ジルムイも持てたようよ。でも、特に好きになった娘はいなかったみたい。ジルムイはずっと勝連に行ったユミの事を思っていたのよ」
「そうか‥‥‥マウシは問題を起こさなかったか」
 ササは笑った。
「マウシは惚れた娘がいたんだけど、相手にされなかったのよ」
「ほう、そんな娘がいたのか」
「ユキさんよ」
「何だって! マウシの奴、ユキに惚れたのか」
「惚れたというより憧れたというか。マウシはユキさんの家来になったみたいだって、みんなが言っていたわ。当時、三歳だったミナミちゃんのいい遊び相手だったみたい」
「マウシがミナミと遊んでいたのか」
 その姿を想像してサハチは笑った。
「サワさんから聞いたんだけど、按司様のお父さんも好きになった娘がいたみたいよ」
「そんな事、サワさんから聞いてないぞ」
按司様が前に来た時、その人は幸せに暮らしていたから按司様には言わなかったのよ。その後、旦那さんが戦死してしまって、その人は旦那さんに代わって、家臣たちを引き連れて海に出て行ったらしいわ」
倭寇(わこう)働きに行ったのか」
 ササはうなづいた。
「でも、その人も戦死してしまったらしいわ」
「そうか‥‥‥女武者として戦死したのか」
「きっと、王様から剣術を習ったんだわ」
「親父からその人の事は聞いた事はない。お爺(サミガー大主)も好きな娘がいたと言っていた」
「えっ、お爺もなの」とササは驚いていた。
「俺が対馬に連れて行くって約束したんだけど、約束を果たす前に亡くなってしまったんだ」
「そうだったの。お爺が好きになった人を探すのは難しいわ。きっと、もう亡くなっているわね」
 ヤグルーが後家の女と仲よくなった話を聞いているとンマムイとクサンルーが酒樽を担いで帰って来た。イトとユキとミナミも一緒で、シンゴの妹のサキが娘のミヨと一緒に、女たちを連れて料理を運んでくれた。
「お前たち、お屋形に行っていたのか」とサハチはンマムイとクサンルーに聞いた。
「稽古が終わったあと、シンゴさんに呼ばれて行ったんです。朝鮮の事を話していたら、イトさんたちがやって来て、宴の準備をして、こうして運んで来たのです」
 サハチは朝鮮から帰って来た時、シンゴと会って朝鮮での事を話していた。もっと詳しく知りたいと二人を呼んだのだろう。
 サハチたちは遠慮なく、酒と料理を御馳走になった。
 次の日、サハチたちは木坂の八幡宮に向かった。浅海湾(あそうわん)から外海に出たら海は荒れていた。無理をせず、二日掛かりで木坂に着いた。のんびりと景色を楽しみながらの旅だった。娘のユキと孫娘のミナミと一緒にいるだけで楽しかった。そして、イスケとイトがいた。イスケはサハチが誕生した時、馬天浜にいたという。考えてみれば長い付き合いだった。
 八幡宮は山の上にあった。神気が漂っているような雰囲気があり、各地にある八幡宮の総本山だという事を感じさせた。ヤマトゥの事も朝鮮の事も、何もかもがうまくいった事へのお礼を言い、これからも見守ってくれるようにお願いした。
 サハチは感謝の気持ちを込めて一節切(ひとよぎり)を吹いた。神々しい調べは山の中に響き渡り、今にもスサノオの神様が降りて来るような気がした。

 

 

 

対馬国志 全巻セット