長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-140.愛洲のジルー(第二稿)

 シンゴとマグサの船が馬天浜(ばてぃんはま)にやって来た。
 知らせを聞いたサハチは玻名(はな)グスクから馬天浜に向かった。
 すでに、『対馬館』で歓迎の宴が始まっていた。マチルギと安須森(あしむい)ヌルになった佐敷ヌルが来ていて、みんなを出迎えたようだった。四隻の船で来たらしく、対馬館は一杯で、浜辺のあちこちで酒盛りをやっていた。
 サミガー大主(うふぬし)(ウミンター)の長男、ハチルーの妻のアキと次男、シタルーの妻のマジニがウミンチュのおかみさんたちを指図して忙しそうに働いていた。マチルギと安須森ヌルと若ヌル、佐敷の女子(いなぐ)サムレーたちも手伝っていた。
「ルクルジルー(六郎次郎)様が来たのよ」とマチルギがサハチに言った。
「なに、ルクルジルーが来たのか。無事に明国から帰って来たんだな。よかった」
「かなりの損害があったようだけど、それ以上の収穫があったらしいわ。ササたちと一緒に浜辺の方にいるわよ」
 サハチが浜辺の方に行こうとしたら、マチルギがサハチの手を引いて、「ササなんだけど、おかしいのよ」と言った。
「あたしたちが来るより先にここに来ていて、シンゴさんが連れて来たお客様と会ったんだけど、急に女らしくなって、言葉もいつもと全然違うのよ」
「何だと?」
「以前に、シラーと出会った時も、ササはそんな感じだったんでしょ。もしかしたら、ササのマレビト神なのかしら」
「何者なんだ。お客様というのは?」
「伊勢の国の水軍大将の倅みたい。年の頃はササと同じくらいだと思うわ。愛洲次郎(あいすじるー)という名前で、次郎のお爺さんはサンルーザ殿と一緒に南朝(なんちょう)方の水軍として活躍していたらしいわ」
「ほう、水軍の大将の倅か。どんな奴だか見て来よう」
「ササにお似合いよ」とマチルギは笑った。
 ササ、シンシン、ナツ、四人のササの弟子たちと一緒に、ルクルジルー、サイムンジルー(左衛門次郎)、クサンルー(小三郎)の三人がいて、見知らぬ三人の男がいた。
 サハチを見ると、「お久し振りです」とルクルジルーが挨拶をして、サイムンジルーとクサンルーが頭を下げた。三人と会うのは五年振りだった。明国に行って危険を乗り越えてきたせいか、三人とも頼もしくなっていた。
「とうとう琉球にやって参りました」とルクルジルーはさわやかに笑った。
「俺が琉球に行くと言ったら、ミナミが一緒に行くって駄々をこねましたよ。琉球のお爺に会いに行くってね」
 サハチは嬉しそうに笑って、「ミナミも大きくなっただろうな」と言った。
「十一歳になって、ユキから剣術を習い始めました」
「そうか、ミナミが剣術を始めたか‥‥‥弟ができたんだってな。おめでとう」
「まだ三歳ですが、お爺ちゃんによく似ているとみんなから言われています」
「サイムンタルー(左衛門太郎)殿が喜んでいるだろう」
「孫の顔を見るために、ちょくちょく船越までやって来ています」
「そうか」とサハチはサイムンタルーが孫の三郎を抱いている姿を想像して笑った。
按司様(あじぬめー)、紹介いたしますわ」とササが言って、愛洲次郎とその家臣の寺田源三郎と河合孫次郎を紹介した。
 三人とも同じ年頃の若者で、日に焼けた顔と潮焼けした髪が、一年中、船の上にいる事を物語っていた。
「お世話になります」と挨拶した愛洲次郎は、若いのに大将という風格が感じられた。水軍の大将になるように育てられ、子供の頃から家臣たちの子供を引き連れて遊んでいたのだろう。
「去年の春、京都に行った時に、琉球の噂を聞きました。琉球の人たちはいつも等持寺(とうじじ)に滞在していますが、お姫様は将軍様の御台所(みだいどころ)様と仲良しで、将軍様の御所に滞在なされる。琉球のお姫様は龍宮(りゅうぐう)の乙姫(おとひめ)様のように美しいお方で、御台所様と一緒に伊勢参詣や熊野参詣もなさっておられる。以前、京都に大きな台風が来た時には、避難した者たちを助けておられた。琉球の女子(おなご)は刀を腰に差して勇ましいけど、心の優しい女子たちばかりだと噂されておりました。わしはお姫様を一目見たくて琉球までやって参りました。そしたら、なんとお姫様が出迎えてくれました。わしは今、夢を見ているような心地です」
「お姫様って、わたしの事なんですのよ」とササは嬉しそうな顔をしてサハチに言って、うっとりするような目をして愛洲次郎を見ていた。
 マチルギが言うように、愛洲次郎はササとお似合いだが、気まぐれなササの事だから、やっぱり違ったわと言い出しかねない。二人の仲がうまくいってくれればいいとサハチは願った。
 ササたちはいつものように女子サムレーの格好だが、ササはいつものようにあぐらをかいていなかった。きちんと正座をしている。シンシンとナナはあぐらをかいていて、弟子たちは師匠を見習って正座をしていた。
 ササは御台所様たちと一緒に伊勢の神宮に行った時の話をしていた。しゃべり方も笑い方も手の仕草もおかしかった。京都の高橋殿の屋敷に仕えている侍女たちのような話し方だ。そんなササをシンシンもナナも四人の弟子たちも怪訝(けげん)な顔して見ているが、ササはお構いなしに女らしさを精一杯表現しているようだった。
 ササたちの隣りでは、シンゴとマグサがユリ、ハル、シビーと一緒にいた。ユリたちは安須森ヌルと一緒に首里(すい)でお祭りの準備をしていて、マチルギと一緒に来たのだった。
 サハチは隣りに移動して、シンゴにルクルジルーと愛洲次郎を連れて来てくれたお礼を言って、倭寇(わこう)として明国に行ったサイムンタルーの事を聞いた。
「無事に帰って来て、よかったんだが、帰らなかった者たちも多いんだよ」とシンゴは苦しそうな顔をして言った。
「わしの親戚の者も帰って来ませんでした」とマグサが言った。
「そうだったのか。明国も警戒が厳重になっているんだな」
「それでも、衛所(えいしょ)という役所を襲撃して大量の穀物や食糧を奪って来たんだ。みんな、喜んでいるけど、また来年も行かなければならないかもしれないと兄貴は心配していたよ」
「サイムンタルー殿も大変だな」と言ってから、「永楽帝(えいらくてい)のヤマトゥ攻めはどうなったんだ?」とサハチは聞いた。
永楽帝は順天府(じゅんてんふ)(北京)に行っているし、鄭和(ジェンフォ)の大船団も予定通りに旅に出たようだから大丈夫じゃないのか」
「なに、鄭和は旅に出たか」とサハチは安心した。
「ところで、マツとトラはどうしている?」
「なぜか、琉球から帰ったら、あの二人は以前よりも真面目になって、兄貴と一緒に対馬を統一しようと頑張っているよ」
「あいつらが真面目になったか」とサハチは笑って、「旅芸人の踊り子がトラの息子を産んだよ」と言った。
「なに、フクがトラの息子をか」とシンゴは驚いた。
「名前はグマトゥラ(小寅)だ」
「グマトゥラか‥‥‥トラが知ったら飛んで来るだろう」とシンゴは楽しそうに笑った。
 サハチは振り返ってササを見て、「愛洲次郎というのは何者だ?」とシンゴに聞いた。
「ササ、おかしいわ」とユリが笑った。
「あれが普通で、いつものササ姉(ねえ)がおかしいのよ」とシビーが言った。
 そういう見方もあるなとサハチは思った。
伊勢の神宮の南に五ヶ所浦という港があるんだ。そこを本拠地にしているのが愛洲一族なんだよ。そこは伊勢参詣をした者たちが船に乗って熊野参詣に向かう港で、結構、参詣客で賑わっているようだ。南北朝で争っていた頃は熊野水軍と一緒に、愛洲水軍は南朝方として活躍したんだよ。次郎の祖父は九州まで来て、懐良親王(かねよししんのう)様に仕えていたようだ。次郎は京都に行って、琉球の事を知って、明国の商品を手に入れたいと言ってやって来たんだよ」
「そうか。取り引きに来たのなら大歓迎だ」とサハチは笑った。
 安須森ヌルが酒と料理を持ってやって来た。
「ササのマレビト神がやって来たみたいね」と安須森ヌルはササを見て笑った。
「本当にマレビト神なのか」とサハチは安須森ヌルに聞いた。
「ササは見たのよ。誰だかわからないけど、マレビト神が来る場面をね。それで、知らせが来る前にここに来て、船が着くのを待っていたのよ」
「なに、ササは知らせが来る前に、ここに来ていたのか」とサハチは驚いた。
「ササがやって来たので、ウミンター叔父さんも慌てて、みんなを迎える準備を始めたのよ。いつもより大勢の人が来たから、ササのお陰で間に合ったって喜んでいたわ」
「そうだったのか。それならマレビト神に違いないな。ササにもようやく幸せがやって来たか」
「ササも頑張っているから、幸せになってほしいわ」と安須森ヌルは言ってから、「山南王妃が島添大里(しましいうふざとぅ)グスクに来たわよ」と言った。
「えっ、どうして、王妃が来たんだ?」
「ウミトゥクと一緒にユーナに会いに来たのよ」
 ユーナはキラマの島から戻って来ていた。ウニタキがシタルーの死を知らせて、もう大丈夫だと連れて来たのだった。ニシンジニーが与那原(ゆなばる)に行ってしまって、一人足らなくなったので丁度よかった。ユーナは皆に歓迎されて、女子サムレーに戻っていた。
 ユーナは王妃と一緒に豊見(とぅゆみ)グスクに行って、父の中程大親(なかふどぅうふや)と六年振りに会った。父は娘が死んだものと思っていたので、涙を流して再会を喜んだという。
 サハチがササたちの所に戻ると四人の弟子たちの姿はなかった。お酒が飲めない四人をナツの妹のアキが、おいしいお菓子があると言って連れて行ったという。
 日が暮れる前に宴はお開きになって、対馬館に収まりきらない者たちを佐敷の新里(しんざとぅ)の空き家に分散させた。ルクルジルーたちと愛洲次郎たちには島添大里城下のお客用の屋敷を使ってもらうつもりだったが、ササが与那原に連れて行くと言った。ルクルジルーたちもヂャンサンフォンの弟子なので、師匠に会いたいと言った。今、出陣中のサハチは、ルクルジルーたちと愛洲次郎たちはササに任せる事にした。
 今から玻名グスクの陣地に戻っても仕方がないと思い、サハチも与那原に行って、宴の続きをして、翌日、本陣となっている八重瀬(えーじ)グスクに向かった。
 八重瀬グスクは厳重に守りを固めていた。焼け落ちた一の曲輪(くるわ)の屋敷は綺麗に片付けられてあった。主役の屋敷がないと、何となく間の抜けたグスクに見えた。思紹(ししょう)たちは二の曲輪にある八重瀬ヌルの屋敷にいた。ウニタキが来ていて、絵地図を見ながら今の状況を説明していた。
「ルクルジルーが来たそうじゃな」とサハチの顔を見ると思紹が言った。
「ササが与那原に連れて行きました」
「なに、与那原に行ったのか」
 サハチはうなづいた。
「お客さんの事はササに任せましょう。何かをさせておかないと、鎧(よろい)を着て戦をしに来ますからね」
 思紹は笑ってから、「イシムイが戦線から離脱したそうじゃ」と言った。
「えっ、賀数(かかじ)グスクを奪い取って、賀数按司になったイシムイが逃げたのですか」
「昨日の早朝、奴は包囲陣を突破して、東(あがり)の方に逃げて行ったんだ」とウニタキが言った。
「東の方というと今、造っているグスクに行ったのか」
「いや、さらに東だ。稲嶺(いなんみ)(東風平(くちんだ))の辺りまで来て森の中に隠れて、農民(はるさー)の格好に着替えて、北(にし)の方に散って行った。多分、本拠地に帰ったのだろう。配下の者に追わせた。今後のために居場所だけは知っておかないとな」
「イシムイは叔父を見捨てて帰ったのか」
「瀬長按司(しながあじ)もンマムイも動かなかったから、叔父の巻き添えを食らって殺されたらかなわんと思ったのだろう」
 ウニタキはそう言ってから、絵地図を見て、誰がどこを攻めているかを教えてくれた。
 島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクを包囲しているのは他魯毎(たるむい)の兵、保栄茂按司(ぶいむあじ)の兵、山北王(さんほくおう)の兵で、およそ八百人。保栄茂按司は賀数大親(かかじうふや)と一緒に賀数グスクを攻めていたが、イシムイが逃げたので島尻大里グスク攻めに加わっていた。
 賀数グスクには戦死した次男の妻のマニーがいて、侍女と一緒に捕まり、真栄里(めーざとぅ)グスクを攻めている照屋大親(てぃらうふや)の陣地に連れて行かれた。真栄里グスクは照屋大親、兼(かに)グスク大親、糸満大親(いちまんうふや)、国吉大親(くにしうふや)と重臣たちの兵二百人が攻めていた。照屋大親は降伏しないと、娘のマニーを殺すと言って真栄里按司を脅した。
 大(うふ)グスクは長嶺按司(ながんみあじ)と瀬長按司の二百人が攻め、与座(ゆざ)グスクは兼グスク按司(ジャナムイ)と小禄按司(うるくあじ)の二百人が攻め、真壁(まかび)グスクは波平大主(はんじゃうふぬし)の兵百人が攻めている。
 李仲按司(りーぢょんあじ)は李仲グスクを奪い返していた。李仲グスクにも抜け穴があって、その抜け穴を利用して、まだ夜の明けきらぬ早朝に総攻撃を掛けて攻め落とした。摩文仁按司(まぶいあじ)は半数余りの兵を失い、妻や子も残したまま、妹婿の伊敷按司(いしきあじ)を頼って伊敷グスクに逃げて行った。摩文仁按司の妻は小禄按司の妹なので子供たちと一緒に助けられた。李仲按司は李仲グスクを若按司に守らせて、今は伊敷グスクを攻めている。
 ナーグスクは様子を見に行った李仲按司が開城した。ナーグスクにいたのは伊敷ヌルで、三十人の兵が守っていた。李仲按司が声を掛けると伊敷ヌルは二人の子供を連れて出て来て、子供の父親は他魯毎だと言った。李仲按司には信じられなかったが、伊敷ヌルは他魯毎からもらったという短刀を見せた。
 その短刀には見覚えがあった。他魯毎が豊見グスク按司になった時、シタルーからもらった物だった。他魯毎は常に身に付けていたが、ある時期から見なくなった。どうしたのかと聞いたら、大切にしまってあると言った。
「この子が生まれた時に、守り刀にしろと言っていただきました」と伊敷ヌルは言った。
 李仲按司は子供を見た。六歳くらいの女の子と四歳くらいの男の子だった。娘は母親に似て可愛い顔して、大きな目で李仲按司を見ていた。男の子は恥ずかしそうに母親の後ろに隠れていたが、その仕草が子供の頃の他魯毎とよく似ていた。
「戦が終わるまで、このグスクを守っていてくれ」と李仲按司は伊敷ヌルに頼んだ。
 新垣(あらかき)グスクは誰も攻めていなかった。グスクを包囲して、新垣按司が動けないようにしたいのだが、兵力が足らなかった。
「新垣グスクですが、中山王(ちゅうさんおう)が攻めると他魯毎に言ったらどうですか」とサハチは思紹に言った。
「それは無理でしょう」とファイチが言った。
「新垣グスクは島尻大里グスクに近すぎます。新垣グスクが中山王のものとなってしまえば、他魯毎は山南王になって島尻大里グスクに入っても、新垣グスクが気になって夜も眠れないでしょう」
 確かにファイチの言う通りだった。新垣グスクは島尻大里グスクを守る出城の一つだった。他魯毎が思紹の娘婿だとしても、出城を渡すわけがなかった。
「新垣按司はタブチの幼馴染みで、シタルーの重臣だった」とウニタキが言った。
「タブチと他魯毎が争った時、シタルーの息子より幼馴染みのタブチを選んだ。タブチが抜けて、成り行きから摩文仁(まぶい)に付いたが、他魯毎を恨んでいるわけではない。島尻大里グスクから出て、頭を冷やしてよく考えてみたら他魯毎に付くべきだと考え直したのかもしれない。奴はグスクに籠もったまま攻撃に出る気配はない」
「降参したとしても命は助かるまい。摩文仁の大将として戦っていたからのう」と思紹は言った。
「自分は助からなくても若按司を助けようと思っているのかもしれません。若按司の妻は照屋大親の娘です」
「すると、倅のために降伏するかもしれんな」
「真栄里按司の方はどうだ?」とサハチはウニタキに聞いた。
「真栄里按司には三人の倅がいる。長男と次男が妻を迎える時、真栄里按司は豊見グスクにいたシタルーの重臣だった。その頃の重臣の娘を妻に迎えたと思うが誰だかわからない。三男が妻を迎える時は、山南王になったシタルーの重臣になっていたので、糸満按司の娘を迎えている」
「真栄里按司は三男に跡を継がせようと考えるかもしれんな」と思紹が言った。
「イシムイが抜けたので、皆、保身の道を探るかもしれません。そうなると、あまり抵抗はせずに降伏するかもしれません」とファイチが言った。
「周りの者たちが降伏しても、摩文仁は降伏せんじゃろう。島尻大里グスクをどうやって落とすかが問題じゃな」と思紹は腕を組んだ。
「こっちの状況はどうなんだ? 降伏しそうなグスクはあるのか」とサハチはウニタキに聞いた。
「ないな」とウニタキはあっさりと言った。
「米須按司(くみしあじ)は摩文仁の倅だから降伏しないだろう。玻名グスク、山グスクも降伏しそうもない。波平グスクも波平按司が島尻大里グスク内にいるから降伏はしないだろう」
「戦はまだまだ終わりそうもないのう」と思紹が渋い顔をした。
 サハチは玻名グスクの陣地に帰った。ウニタキは山グスクに向かった。米須グスクも波平グスクもグスク内に味方の者を入れるのに成功したが、山グスクだけは入れられなかった。何とか潜入する手立てを考えなくてはならないと言っていた。

 


 シンゴたちの船が来たのが正月の二十日で、その日の早朝、イシムイが逃げて行った。
 二十二日、娘を人質に取られていた真栄里按司が降伏した。娘を殺してまでも、摩文仁に義理立てする筋はないと判断したようだ。真栄里按司と若按司は捕まり、糸満大親の娘婿の三男が父親の跡を継いで、真栄里大親になった。
 タブチは重臣たちに按司を名乗らせたが、他魯毎は以前のごとく大親を名乗らせた。
「お前の活躍次第では、父親と兄の命を助けられるかもしれない」と照屋大親に言われた三男は兵を率いて、照屋大親たちと一緒に新垣グスク攻めに加わった。
 真栄里按司の次男は父と兄が捕まり、弟が跡を継いだ事など知らずに、島尻大里のサムレーとして島尻大里グスクを守っていた。
 二十三日、新垣グスクは他魯毎の重臣たちの兵に囲まれた。照屋大親から真栄里按司が降伏した事を知らされた新垣按司は、照屋大親の娘婿の若按司に跡を継がせてくれたら降伏すると言った。
 その事は王妃から許しを得ていた照屋大親だったが、警戒して、すぐには返事をせずに、グスク内にいる石屋のテハの妻と子を引き取った。テハの妻から新垣按司が戦の準備をしている様子はない事を知ると翌日、条件を呑んだ。新垣按司はグスクを開城した。按司は捕まって豊見グスクに送られ、若按司が跡を継いで新垣大親を名乗り、重臣たちと一緒に真壁グスク攻めに加わった。
 その後は膠着(こうちゃく)状態となって、正月も終わり、二月に入った。二月九日、首里グスクでお祭りが行なわれた。お芝居は安須森ヌルの新作『豊玉姫(とよたまひめ)』が演じられて大喝采を浴びたという。旅芸人たちは『察度(さとぅ)』を演じて、こちらも観客たちに喜ばれた。南部で戦をしているので、どさくさに紛れて曲者(くせもの)が紛れ込む可能性があった。いつも以上に厳重な警戒の中でのお祭りだった。
 無事にお祭りも終わって、ササたちはルクルジルーたち、愛洲次郎たちを連れて琉球一周の旅に出た。ササたちはウタキ巡りも兼ねていた。豊玉姫の神様に言われたように、忘れ去られてしまったウタキを探し出して、復活させなければならなかった。ヂャンサンフォンと運玉森(うんたまむい)ヌルが一緒に行き、福寿坊(ふくじゅぼう)と二階堂右馬助(にかいどううまのすけ)も加わった。
 右馬助は前回、ヌルたちと一緒にヤンバルに行った時、何かを感じたらしく、もう一度、ヤンバルに行ってみたいと言って付いて来た。琉球に来てから修行三昧(ざんまい)の右馬助がどれほど強いのか誰にもわからなかったが、一緒に行ってくれれば心強いとサハチは思った。

 

 

 

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