長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-142.米須の若按司(第一稿)

 南部での戦(いくさ)は続いていたが、二月二十八日、島添大里(しましいうふざとぅ)グスクで、例年通りのお祭り(うまちー)が行なわれた。いつもよりも厳重な警備の中でのお祭りだったが、天候に恵まれて、大勢の人たちが集まって来て、お祭りを楽しんだ。いつもなら、マチルギも来るのだが、思紹(ししょう)が八重瀬(えーじ)グスクにいるので、マチルギは首里(すい)グスクを守っていた。
 去年の十月下旬から、長嶺(ながんみ)グスク、八重瀬グスク、具志頭(ぐしちゃん)グスク、玻名(はな)グスクと、ずっとグスク攻めをしていた東方(あがりかた)の按司たちを呼んで、御苦労だったとサハチは慰労した。
 舞台の進行役はシビーとハルに任せて、安須森(あしむい)ヌル(前佐敷ヌル)は小渡(うる)ヌルと一緒に舞台の脇で見ていた。小渡ヌルもすっかり安須森ヌルの仲間に入ったようだった。
 お芝居は『ウナヂャラ』と旅芸人の『豊玉姫(とよたまひめ)』だった。
 旅芸人の『豊玉姫』は首里(すい)のお祭りでやる予定だったが、フクが妊娠して辞めてしまったため間に合わなかった。台本は同じでも解釈の違いで、違うお芝居になるかもしれないと安須森ヌルは楽しみにしていたらしい。サハチは前回の『豊玉姫』を観ていないのでわからないが、背景や音楽、衣装も違っているという。
「どちらも甲乙つけがたいけど、旅芸人の方が子供たちが喜ぶ場面が多かったようね」と安須森ヌルは言った。
 スサノオ琉球にやって来て豊玉姫と出会い、二人は大量のタカラガイを積んで対馬島に行く。スサノオはカヤの国(朝鮮半島にあった国)に行って、タカラガイと鉄を交換して帰って来る。豊玉姫対馬島玉依姫(たまよりひめ)を産む。鉄の力で北九州を平定したスサノオは豊(とよ)の国を造って、豊玉姫は豊の国の女王様になる。その後、スサノオは瀬戸内海周辺の国々を平定して、九州に戻ると南九州も平定して、いくつもの国々を一つにまとめたヤマトゥの国を造り、娘の玉依姫がヤマトゥの国の女王様になるという壮大な物語だった。
 玉グスクの場面では、立派な宮殿の玉座(ぎょくざ)に豊玉姫の母の玉グスクヌルが座り、その脇に父親が梓弓(あずさゆみ)を持って控えていて、按司が出現する以前は、真玉添(まだんすい)(首里)もこんな感じだったのだろうと思わせた。
 スサノオが沖の長島(琉球)にやって来て、果ての浜(馬天浜)から上陸して、佐世(させ)の木(シャシャンボ)を見つけて髪に挿して踊る。ヤマタノオロチを退治した時も、スサノオは佐世の木を髪に挿して踊っている。こいつは縁起がいいと、その地を佐世木(佐敷)と名付けたと地名の由来も説明していた。
 鉄を手に入れたスサノオが、鉄の剣で石斧(いしおの)を持った敵と戦う場面は笑わせた。当事、鉄の力は物凄いものだったのだろう。今で言えば、火薬かもしれない。火薬が手に入れば、琉球統一も早まるだろう。
 スサノオのもう一人の妻、稲田姫(いなだひめ)との息子、サルヒコとイタケルも出て来て、サルヒコと玉依姫が結ばれたと知って、サハチは驚いた。サルヒコと玉依姫は異母兄妹だった。一千年前はそんな婚姻も許されたのだろうか。玉依姫は戦火の中で、トヨウケヒメ(ウカノミタマ)とテルヒコ(ホアカリ)を産んでいた。
 ササもその事は知らなかったらしく、首里のお祭りで上演されたお芝居を観て驚き、安須森ヌルを問い詰めたという。ササは玉依姫の神様に二人の父親は誰かと聞いた時、マレビト神だと言われて納得してしまい、その後、その事を確認するのを忘れていた。
 『ウナヂャラ』はシビーとハルが作ったお芝居で、主役はマチルーという娘だが、マチルギの事だった。二人は初めてお芝居の台本を書くに当たって、女子(いなぐ)サムレーたちにどんなお芝居が観たいか尋ねた。
「主役は女子(いなぐ)で、美人(ちゅらー)で強くて、優しくて、そして、凄い人」とサキが言った。
「美人で強くて優しくて凄い人と言ったら、奥方様(うなぢゃら)じゃない」とカリーが言った。
 皆がうなづいて、「奥方様を主役にしたお芝居が観たいわ」と言った。
 シビーとハルも観たいと思った。二人は安須森ヌルと相談した。
「あたしもそれは考えたのよ」と安須森ヌルは言った。
「でもね、奥方様に駄目だって言われたの。あたしは諦めたけど、あなたたちなら書いても大丈夫だと思うわ。でも、あたしは助けないわよ。あたしが知らないうちに書いたという事にしてね」
 シビーとハルはマチルギの事をよく知らなかった。噂はよく聞くけど、佐敷にお嫁に来た当事の事は知らなかった。安須森ヌルから聞こうと思っていたのに、それはできなくなった。二人は若い頃のマチルギを知っている人を訪ねて、聞き歩いた。皆、喜んで話をしてくれた。二人が思っていたよりもずっと、マチルギは凄い人だった。
 初めて佐敷に現れた時、マチルギはすぐに噂になった。若い娘が武術道場で剣術の稽古をしている。一体、誰だと誰もが噂した。ヤマトゥの山伏、クマヌの屋敷にいるから、若按司のお嫁さんに違いないとも噂された。当事、クマヌは佐敷按司に頼まれて、若按司のお嫁さん探しをしていた。若按司はヤマトゥ旅に行っているが、帰って来るのを待っているのだろう。でも、どうして、剣術の稽古をしているのかは誰にもわからなかった。
 真剣に剣術の稽古に励んでいるマチルギを見て、村の娘たちが変わった。剣術は男たちがやるもので、女子(いなぐ)には縁がないと思っていたのに、女子もやってもいいんだと思うようになり、教えてくれと武術道場に来る娘が現れた。武術師範の美里之子(んざとぅぬしぃ)は按司と相談して、マチルギに娘たちの指導をするように頼んだ。マチルギは娘たちに剣術を教えるようになった。娘たちの中に、馬天(ばてぃん)ヌルと安須森ヌルもいた。
「奥方様は伊波按司(いーふぁあじ)の娘でしょ。どうして、若按司がヤマトゥ旅に行っているのに佐敷に来たの?」とシビーは不思議がった。
「それは若按司のお嫁さんになるためでしょ」
「お嫁さんと剣術が、どう関係しているの? どうして、奥方様は剣術を始めたの?」
 ハルは首を傾げた。
「伊波まで行かなければならないわ」とシビーが言って、二人は伊波へと向かった。
 途中、当事の武術師範だった越来按司(ぐいくあじ)から話を聞き、マチルギの兄の勝連按司(かちりんあじ)からも話を聞いた。マチルギが山北王(さんほくおう)の祖父によって滅ぼされた今帰仁按司(なきじんあじ)の孫だと知って二人は驚いた。マチルギは祖父の敵(かたき)を討つために剣術に夢中になっていた。そして、サハチと仲がいいウニタキが、かつて恋敵だった事を知って驚いたが、ウニタキが出て来る事で、面白いお芝居が書けそうだと喜んだ。
 『ウナヂャラ』は、旅をして伊波に来たハチルーがマチルーと出会って試合をする場面から始まった。クマヌ、ヒューガ、サイムンタルーも出て来た。ハチルーがヤマトゥ旅に出る時、ハチルーはマチルーに櫛(くし)を贈って、待っていてくれと言う。マチルーはお守りと言って、白い鉢巻きを渡す。どうして、こんな事まで知っているんだとサハチは不思議に思ったが、ミーグスクでマナビーに話した事を思い出した。
 ハチルーがヤマトゥ旅に出たあと、タキーが登場してマチルーに求婚する。見るからに勝連按司の息子といった感じの貴公子で、サハチは笑った。ウニタキが見たら腹を抱えて笑いそうだ。
 マチルーは自分よりも強かったらお嫁に行くと言ってタキーと試合をする。負けるはずがないと思っていたのに負けてしまう。マチルーはもう一度試合をしてくれとタキーに頼む。タキーはうなづいて、マチルーは強くなるために佐敷に行く。
 佐敷で剣術の稽古に励んで二か月後、タキーと試合をして引き分ける。今度はタキーがもう一度試合をしようと言う。マチルーはうなづき、また佐敷に行って稽古に励む。佐敷按司に頼まれて、娘たちに剣術を教え始め、二か月後にタキーと試合をするために伊波に帰るがタキーは現れなかった。
 マチルーが山の中で稽古に励んでいるとハチルーがヤマトゥから帰って来る。ハチルーはマチルーにお嫁に来てくれと言う。マチルーは試合に勝ったらねと言う。
 マチルーとハチルーは試合をする。引き分けに終わったが、マチルーは自分の負けを認めて、ハチルーのお嫁さんになる決心をする。
 伊波から嫁いで来たマチルーは佐敷の人たちから大歓迎で迎えられてお芝居は終わった。
 お芝居が終わったあと、いつもと違ってシーンと静まり帰っていた。観客たちの中には涙ぐんでいる者もいた。当事の事を知っている観客も多く、当事の事を思い出して感動していた。しばらくして拍手が沸き起こり、シビーとハルの初めてのお芝居は大成功に終わった。大成功なのはいいが、マチルギの怒った顔が目に浮かび、あの二人もこの先大変だろうとサハチは思った。

 


 お祭りの翌日、サハチは八重瀬グスクに行って、今の状況を確認した。
 米須(くみし)グスクは中グスク按司、越来若按司、兼(かに)グスク按司(ンマムイ)が包囲していて、波平(はんじゃ)グスクは浦添(うらしい)若按司、北谷按司(ちゃたんあじ)が包囲していて、山グスクは苗代大親(なーしるうふや)、勝連若按司、島添大里の小谷之子(うくくぬしぃ)が包囲していた。
 他魯毎(たるむい)の方は、島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクをテーラー率いる山北王の兵、他魯毎の兵、他魯毎の重臣たちの兵が包囲していて、与座(ゆざ)グスクは兼グスク按司(ジャナムイ)と小禄按司(うるくあじ)、大(うふ)グスクは長嶺按司(ながんみあじ)と瀬長按司(しながあじ)、真壁(まかび)グスクは波平大主(はんじゃうふぬし)、伊敷(いしき)グスクは李仲按司(りーぢょんあじ)が包囲していた。
「真壁グスクと伊敷グスクの兵力が弱いようですね」とサハチは絵地図を見ながら言った。
「伊敷グスクには摩文仁按司(まぶいあじ)もいるようじゃ」と思紹は言った。
摩文仁按司がグスクから出て来て夜襲を仕掛けているようですが、李仲按司の方が上手(うわて)で、待ち伏せを食らってひどい目に遭っているようです」と奥間大親(うくまうふや)が言った。
「真壁グスクも夜襲をしたりしているのか」とサハチは奥間大親に聞いた。
「いいえ。籠城しているだけで攻めてはいないようです。玻名(はな)グスクが落城して、按司も若按司も戦死した事を伝えてありますから動揺しているのかもしれません。若按司の妻は他魯毎の妹ですから、何とか若按司を助けて、一族の全滅だけは避けたいと思っているのかもしれません」
「米須はどうじゃ」と思紹が聞いた。
「米須按司は山南王の世子(せいし)になってしまいましたからね。一度、ああいったきらびやかな世界に入ってしまうと抜け出すのは難しいでしょう。不利な状況でも、奇跡が起こる事を信じて、決して諦めないでしょう」
「攻撃は仕掛けて来るのか」
「いえ、じっと閉じ籠もったままです。中グスクヌルと越来ヌルが米須ヌルと話をして、若按司に米須按司を継がせると言ったのですが、その後、返事もないようです」
「米須按司はどんな奇跡が起こると思っているんでしょうね」とファイチが言った。
ニライカナイから援軍がやって来ると信じているのだろう」とサハチが笑った。
ニライカナイではなく、北(にし)から陸路で山北王が攻めて来るかもしれんぞ」と思紹が言った。
「山北王が陸路で攻めて来れば状況は変わります。中部の按司たちは本拠地に帰り、米須、山グスクは自由に動けるようになります。そして、テーラーが寝返れば、摩文仁(まぶい)が勝つ事もありえます」
 ファイチが言った事に思紹が唸って、「ありえん事ではないのう」と言った。
「山北王が動けば、ウニタキの配下から知らせが入ります」とサハチは言った。
 思紹はうなづいて、「島尻大里グスクの兵糧(ひょうろう)はどんなもんじゃ」と奥間大親に聞いた。
「グスクの近くに近づけないので詳しい事はわかりませんが、籠城してから、もうすぐ二か月になります。そろそろ尽きる頃かと思いますが」
「島尻大里が落城すれば、すべてが解決するじゃろう」
 サハチは米須グスクに向かった。
 米須グスクは城下の村(しま)の北側にある丘の上にあった。サハチは本陣となっている城下の屋敷に行って、中グスク按司、越来若按司、ンマムイと会って状況を聞いた。
「米須のヌルはヌルになったばかりの若按司の妹ですよ。まったく話になりません」と中グスク按司は愚痴をこぼした。
「そうか。先代の米須ヌルは島尻大里ヌルになって島尻大里グスクにいるのか」
「そうなんです。先代のヌルだったら多少は話がわかると思うのですが、今のヌルはまだ子供です。何を言ってもうなづくだけで、返事もできません」
「敵が出て来るように誘っているんですが、敵は守りを固めるだけで出て来ません。うちの者たちは戦がしたくてうずうずしています」とンマムイが不満げな顔をして言った。
「そのうち、出番が来るから待っていろ」とサハチはンマムイの肩をたたいた。
 ウニタキが書いた米須グスクの絵図を見ると、グスク内は二つの曲輪(くるわ)に分かれていた。一の曲輪の南東側を囲むように二の曲輪があり、二の曲輪の西側の少し飛び出た所に大御門(うふうじょー)(正門)があった。大御門を抜けて二の曲輪の西側の石垣に沿って北に登ると一の曲輪の御門(うじょう)がある。二の曲輪の東側にも御門があった。
「城下の者たちは二の曲輪に避難しているのか」とサハチは聞いた。
「そうです」と中グスク按司が答えた。
「鍛冶屋(かんじゃー)と木地屋(きじやー)が十人、中にいます」とンマムイが言った。
「『まるずや』の者たちはまだ城下にいるのか」
「店は閉めていますが、城下にいます。越来ヌルと中グスクヌルは『まるずや』に滞在しています。滞在しながら、中グスクヌルは越来ヌルから剣術を習っています。越来ヌルはかなりの腕を持っていますよ」
「ハマ(越来ヌル)は美里之子(んざとぅぬしぃ)(越来按司)の娘だからな。佐敷グスクに通っていた頃はササといい勝負をしていたよ。それで、兵糧はどれだけあるのかわかるか」
 ンマムイは首を傾げたが、中グスク按司が答えた。
「島尻大里グスクの米蔵が焼けたあと、ここからも兵糧を島尻大里に運び出したようです。詳しい事はわかりませんが、城下の者たちが避難して、百人の兵と家臣の家族たちもいれば、あと一月持つかどうかじゃないですか」
「一月か‥‥‥」とサハチが言った時、血相を変えた兵が飛び込んで来た。
「大変です。すぐに来てください」と兵は言った。
 一体、何事だとサハチたちは外に出て、兵のあとに従った。包囲陣を抜けて最前線まで行くと正面に米須グスクの石垣が見えた。二の曲輪内にある物見櫓(ものみやぐら)の上に鎧姿(よろいすがた)の米須按司の姿があった。その隣りに髪に鉢巻きをして、女子サムレーの格好をした娘がいた。よく見ると若按司の妻のマナミーだった。
「中グスク按司は来たか」と米須按司が叫んだ。
「来たぞ!」と中グスク按司が叫んだ。
「マナミーはいい嫁だった。若按司にふさわしい嫁だった。同盟を結んだのに、どうして裏切ったんだ。裏切ったからには、マナミーは人質だ。ここから撤収しなければ、マナミーの命はないぞ。一日、猶予を与える。明日の今頃までに撤収しなければ、マナミーの首を刎ねる。よく考える事だ」
「何という奴だ」と中グスク按司は怒りに満ちた顔で、米須按司を睨んでいた。
 サハチも卑怯な奴だと思いながらも、何としてでもマナミーを助け出さなければならないと考えていた。
 突然、物見櫓の上に若按司のマルクが現れた。よく聞こえないが、父親と言い争いをしているようだった。
「察度(さとぅ)の孫として恥ずかしくないのですか」と言っている若按司の声が聞こえた。
 父親が何かをわめいて姿が消えた。
 若按司とマナミーがこちらに向かって頭を下げた。
「マナミーは絶対に殺しませんので、ご安心ください」と若按司は言って、二人の姿も物見櫓から消えた。
 サハチたちは本陣の屋敷に戻った。
「若按司はああ言ったが大丈夫だろうか」と中グスク按司が心配した。
 先程見た石垣上から弓矢を構えていた敵兵に疲れは見えなかった。まだ時期は早いが、総攻撃を掛けるしかないかとサハチは思っていた。
「若按司はマナミーを守りますよ」とンマムイが言った。
 サハチも中グスク按司も越来若按司もンマムイを見た。
「あの二人が仲のいい夫婦だって、見ただけでわかります。たとえ、親父と喧嘩をしてでも、若按司はマナミーを守りますよ。だって、あいつは察度の曽孫(ひまご)ですからね」
 ンマムイは自信たっぷりに言うが、説得力はなかった。
 キンタが現れた。サハチの顔を見て、「いらしていたのですか」と笑った。
「今、ちょっとした騒ぎがあった所だ」と言って、サハチはキンタに説明した。
「若按司の評判はどうなんだ?」とサハチはキンタに聞いた。
「評判はいいと思いますよ。去年、迎えたお嫁さんと一緒に、よく『まるずや』に行っているようです。仲のいい若夫婦だと評判になっています。それに、お嫁さんのマナミーは城下の娘さんたちに剣術を教えています。娘たちから慕われていますよ」
 マナミーの父親はクマヌの養子になる前、伊波の武術道場で武術師範を務めていた。伯母のマチルギの影響もあってマナミーは剣術を始めたのだろう。
「俺の言った通りでしたね」とウニタキが自慢そうな顔をした。
 マルクを信じるか、総攻撃を掛けるかサハチは迷っていた。
按司様(あじぬめー)に伝えたい事があるのです」とキンタが言った。
 何だというようにサハチはキンタを見た。
「山北王の本陣は城下にある重臣の屋敷なんですが、そこで何かを作っているようなのです。豊見(とぅゆみ)グスクの城下にいる鍛冶屋と木地屋がその屋敷に呼ばれました」
「何を作っているんだ?」
「厳重な警戒で屋敷には近づけません」
「そうか。極秘に何かを作っているとすると、その何かが完成した時、関わっていた者たちは殺されるかもしれんぞ」
「はい。それは心得ています。奴らはうまく逃げるでしょう」
「まさか、鉄炮(てっぽう)(大砲)でも造っているわけでもあるまい。山北王は今の所、味方だ。危険を冒してまでも調べる必要はないぞ」
 キンタはうなづいた。
 その日の夕方、サハチが『まるずや』に行って、若按司の事を聞いて、本陣に帰って来た時だった。突然、陣地がざわめいた。何事かと見ると、敵の急襲だった。馬に乗った敵の武将が兵を引き連れて、包囲陣の中に攻め込んでいた。
 サハチも飛び出したが間に合わなかった。敵が通ったあとに負傷兵が何人も倒れていた。サハチは敵を追い掛けようと辺りを見回したが、馬は見当たらなかった。物見櫓が目に入ったので登ってみた。
 敵兵は三十人ほどで、五人が馬に乗っていた。中グスクの陣地を過ぎて、ンマムイの陣地に向かっていた。馬に乗ったンマムイが敵の武将の行く手を塞いだ。ンマムイの兵たちも敵に突進して行き、乱戦となった。
 ンマムイが敵の武将を倒した。とぼけた奴だが武芸の腕は一流だった。ンマムイの兵たちも見事な働きで、敵は全滅した。
 サハチは物見櫓から下りて、ンマムイの陣地に向かった。
「見事だったぞ」とサハチは言ったが、ンマムイは倒した武将の死体を見ながら首を傾げていた。
「師兄(シージォン)、こいつは米須按司ですよ」とンマムイは言った。
「なに!」と言って、サハチは武将の顔を見た。
 確かに米須按司だった。
「一体、どういう事だ?」とサハチにもわけがわからず、ンマムイを見た。
 物見櫓での父子喧嘩がその後も続いて、若按司が父親を追い出したのだろうか。何がどうなって、こうなったのかはわからないが、米須按司が亡くなれば、若按司はグスクを開城するだろうと思った。
 米須按司の遺体を荷車に積んで、米須グスクの大御門の前まで運んだ。遺体に従って行ったのは越来ヌルと中グスクヌルで、越来ヌルが米須按司の遺体を引き渡しますと言うと、大御門が開いて、若按司と米須ヌルの兄妹が現れた。
 二人は父親を見て泣いていたが、若按司は意を決した顔をして立ち上がると、「米須グスクを開城いたします」と言った。