長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部は山北王の攀安知を倒すまでの活躍です。お楽しみください。

2-76.百浦添御殿の唐破風(改訂決定稿)

 八重瀬按司(えーじあじ)のタブチが帰ったあと、側室としてのメイユー(美玉)の歓迎の宴(うたげ)が開かれた。主立った重臣たち、サグルー夫婦とサスカサ(島添大里ヌル)、女子(いなぐ)サムレーと侍女たちも呼んで、与那原(ゆなばる)にお祭りの準備に行っている佐敷ヌルとユリも呼び戻した。
 佐敷ヌルとサスカサによって、略式の婚礼の儀式が行なわれて、メイユーは感動して涙を流しながらサハチ(中山王世子、島添大里按司)を見て、「あたし、一番、幸せです」と言った。
 メイユーのために佐敷ヌルとユリが横笛を吹いて、サハチも一節切(ひとよぎり)を吹いた。遅れてやって来たウニタキ(三星大親)も三弦(サンシェン)を弾いて歌い、女子サムレーたちが踊った。子供たちもメイユーのために笛を吹き、メイユーは嬉しくて泣いてばかりいた。みんながメイユーを歓迎してくれるのを見ながらサハチも嬉しくて、つい飲み過ぎてしまった。
 翌朝、目が覚めるとメイユーはいなかった。朝早くから側室としての仕事に励んでいるのかなと思ってナツに聞くと、メイユーは与那原に行ったという。
「与那原?」
「お祭り(うまちー)の準備が間に合わないって、佐敷ヌルさんから言われて、お手伝いに行きました」
「すると、しばらく帰って来ないのか」
「そうかもしれません」
「そうか」と言って、サハチは外を眺めた。
 日差しが強く、今日も暑くなりそうだった。
 与那原グスクのお祭りは八月八日だった。あと二十日余りしかなかった。初めてのお祭りなので、佐敷ヌルも張り切っているのだろう。側室になったと思ったら、お祭りの準備に行ってしまうなんて‥‥‥サハチは溜め息を漏らした。
 七月二十三日、ンマムイ(兼グスク按司)が山南王(さんなんおう)(汪応祖)の書状を持って再び、今帰仁(なきじん)に向かった。前回と同じように、ウニタキとキンタがンマムイを守るためにあとを追った。メイリン(美玲)が娘のスーヨン(思永)と一緒に来ているのに、ヤンバル(琉球北部)まで行かなくてはならないなんて‥‥‥とウニタキはぼやいていた。
 サハチは首里(すい)グスクで、十月に送る進貢船(しんくんしん)の準備に忙しかった。正使はサングルミー(与座大親)とすんなり決まったが、副使がなかなか決まらず、結局、タブチに頼む事になった。サングルミーとも二度、一緒に行っていて、サングルミーもタブチなら充分に副使が務められると言った。
 サハチはタブチを首里グスクに呼んだ。話を聞いたタブチは驚いていた。
「わしが副使?」
「サングルミーの推薦です。お願いします」
「中山王(ちゅうざんおう)の家臣でもないわしが副使を務めても大丈夫なのか」
重臣たちも八重瀬殿が適任だと言いました。文句を言う者は誰もいませんよ」
 タブチは感激して帰って行った。
 ンマムイのために築くグスクは宮平川(なーでーらがー)が国場川(くくばがー)に合流する地点の内側にある小高い山の上に築く事に決まり、棚原大親(たなばるうふや)を普請奉行(ふしんぶぎょう)に任命した。棚原大親はシタルー(山南王)と一緒に首里グスクの普請奉行を務めていたので適任者だった。すでに、現地に行って縄張りを始めていた。
 ンマムイは旅立ってから十日後に戻って来た。妻子は今帰仁に残したままで、刺客(しかく)の襲撃もなかったという。ンマムイだけを殺しても、山北王(さんほくおう)(攀安知)を動かす事はできないので、シタルーも諦めたようだった。
「随分と早いな。お前がせかせたんじゃないのか」と報告に来たウニタキに言うと、
「俺は一度も奴とは会っていない。馬で行ったから早いのだろう」とサハチに言った。
「お前たちも馬で行ったのか」
「俺とキンタは馬で行ったが、配下の者たちは走らせた」
 サハチは笑って、「御苦労だったな。それで、同盟はまとまりそうか」と聞くとウニタキはうなづいた。
「奴の顔付きからして、うまく行ったようだ。今頃、シタルーと会っているだろう。その足で島添大里(しましいうふざとぅ)に行くはずだ」
 サハチはウニタキと一緒に島添大里グスクに向かった。
 サハチとウニタキがお茶を飲みながら、明国(みんこく)に行った思紹(ししょう)(中山王)とヂャンサンフォン(張三豊)の話をしていると、ンマムイがやって来た。
「お役目、無事に終了しました」とンマムイはホッとしたような顔付きで、山南王と山北王の同盟が決まった事を告げた。
 十月の二十日、山南王の三男、グルムイ(五郎思)に山北王の長女、マサキ(真崎)が嫁ぎ、山北王の若按司、ミン(珉)と婚約した山南王の八女、ママチー(真松)が母親と一緒に今帰仁に行くという。
「八女?」とサハチは驚いて、「シタルーは何人の子がいるんだ?」とウニタキに聞いた。
「十四、五人はいるんじゃないのか。シタルーも山南王になったあと、あちこちから側室を贈られているからな。兄貴と喧嘩していて、弟は戦死した。身内が少ないから子作りに励んでいるのだろう」
 サハチは笑って、「その八女というのはいくつなんだ?」と聞いた。
「その娘も山北王の若按司も九歳です」とンマムイが答えた。
「九歳か。婚礼はまだ先の話だな。とりあえずは人質というところか。十月の婚礼という事は花嫁は船で来るんだな」
「油屋の船に乗って来ます。俺の妻と子も一緒に来る事になっています」
「そうか、一緒に来るのか。シタルーの娘は陸路で今帰仁まで行くのか」
「いえ、今月中に船で行きます」
「ほう、娘を先に送るのか。母親も一緒だと言っていたな。勿論、側室なんだろう」
「奥間(うくま)から贈られた側室だから、ヤンバルに返してやると言っていました」
「なに、奥間の側室を今帰仁に送るのか」
「美人なので勿体ないが、仕方がないと言っていました。それとは別に、山北王に側室を贈るようです」
「成程、側室を贈ってグスク内の様子を探らせるつもりだな。しかし、つなぎの者はいるのか」とサハチはウニタキを見た。
「石屋がいる」とウニタキは言った。
今帰仁の石屋もシタルーの石屋とつながっているのか」
「つながっている。よくわからんが、何代か前の今帰仁按司が高麗(こーれー)から石屋を呼んでグスクに石垣を築いて、その石屋が浦添(うらしい)グスクの石垣を築いたんじゃないのかな。そして、あちこちに石垣が広まって行ったんだ。石屋の頭領は今帰仁にいるのかもしれんな」
「石屋か‥‥‥何としてでも味方に付けなければならんな」とサハチは言ってからンマムイを見て、「シタルーは、中山王を挟み撃ちにする前に、南部をまとめろという条件を呑んだのだな」と聞いた。
「呑みました」
「シタルーは東方(あがりかた)を味方に付けない限り、首里を攻める事はできない。しかし、東方の按司たちは皆、タブチとつながっている。南部を統一するのは難しいな」
「今度はタブチが狙われそうだな」とウニタキが言った。
「刺客か‥‥‥タブチがいなくなれば、糸数(いちかじ)が寝返るかもしれんな。しかし、玉グスクと知念(ちにん)は寝返らないだろう。だが、タブチがいなくなると困る。シタルーを抑えておくのにタブチは絶対に必要だ」
「タブチの事はそれとなく見守ってはいるが、人数を増やした方がよさそうだな。そのタブチなんだが、『新(あら)グスク』にいた次男のウシャに喜屋武(きゃん)岬の近くにグスクを築かせているそうだ」
「喜屋武岬? どこだ?」
「最南端と言ってもいい所だ。お前が南風原(ふぇーばる)にグスクを築くと聞いて、タブチも海の近くにグスクを築こうと考えたのだろう」
「タブチは船を持つつもりなのか」
「船を持って、ヤマトゥ(日本)まで行く気かもしれんな。もしかしたら、タブチの隠居グスクかもしれんぞ。海の近くならシタルーに襲われても、海に逃げられるからな」
「タブチも身の危険を感じているのかな」
「さあな。ところで、山南王の婚礼にお前も呼ばれるのか」
「さて、どうなる事やら。シタルーと島添大里按司の同盟はまだ生きているようだし、シタルーは招待状を送ってくるかもしれんな」
「出るのか」
「前回の婚礼の時はサグルーに行かせたが、今回はどうしたものだろうな」
「ンマムイも呼ばれるんじゃないのか」とウニタキがンマムイを見た。
「俺は出なければならないでしょう。婚礼が終わったら、はっきりと寝返りますよ」
「それがいい」とウニタキはンマムイの肩をたたいた。
 八月八日、与那原グスクで初めてのお祭りが行なわれた。与那原グスクは運玉森(うんたまむい)のマジムン屋敷の跡地に建てられ、一の曲輪内に按司の屋敷があり、二の曲輪に古いウタキ(御嶽)と運玉森ヌルの屋敷があり、三の曲輪が一番広く、サムレー屋敷や厩(うまや)があった。三つの曲輪は石垣に囲まれていて、お祭りは三の曲輪を開放して行なわれた。
 サハチは見に行く事はできなかったが、暑い中、山の上にあるグスクに大勢の人が集まって大盛況だったという。舞台では、奇想天外なお芝居『運玉森のマジムン屋敷』が演じられた。
 ミユシという旅のサムレーがマジムン屋敷にやって来て一夜を過ごす。夜中にマジムン(魔物)が次々に現れてミユシに襲い掛かってくる。ミユシはマジムンたちを退治する。マジムンたちがいなくなると立派な屋敷も消えてしまう。夢でも見ていたのかとミユシは首を傾げながら山を下りて行く。出て来るマジムンは角の生えた赤鬼、気味の悪い老婆、牛のお化けに魚のお化け、手が六本もある美女、背丈が一丈(三メートル)もある怪物などで、ミユシとマジムンの戦いを子供たちが大喜びして見ていたという。
 与那原のお祭りが終わって、佐敷ヌルとメイユーが島添大里グスクに帰って来た。
「来月は平田のお祭りがあるから、また手伝ってね」と佐敷ヌルはメイユーに言って、「勿論よ」とメイユーは笑って答えていた。
 また会えなくなるのかと思うと切なくなって、サハチはメイユーを連れて、馬に乗ってグスクから飛び出した。別に行く当てもなかったが、馬天浜(ばてぃんはま)に来ていた。
 馬から下りて二人が海を眺めていると、ウミンチュ(漁師)たちが集まって来た。ウミンチュたちはメイユーが側室になったお祝いをやろうと言って、浜辺で酒盛りが始まった。ウミンチュたちは二年前、台風からの復興を手伝ってくれたメイユーに感謝していた。
 叔父のサミガー大主(うふぬし)も長男のハチルー夫婦と次男のシタルー夫婦を連れて来て、酒盛りに加わった。叔母のマチルーも子供たちを連れて来て加わった。
「この娘(こ)、女子サムレーになりたいんですって。お願いするわね」とマチルーは娘を見ながらサハチに言った。
 娘のシビー(鮪)は十六歳で、佐敷グスクに通って剣術を習っているという。
「お嫁に行かなくてもいいのか」とサハチが聞くと、「クニちゃんみたいになりたいの」とシビーは言った。
 首里の女子サムレーのクニはシビーの従姉(いとこ)で、今、ヤマトゥ旅に出ていた。
「お前もヤマトゥに行きたいのか」
 シビーはうなづいた。
「ササ姉(ねえ)から博多のお話や京都のお話も聞いたのよ。あたしも行ってみたいわ」
「そうか。女子サムレーになるには強くならないと駄目だぞ」
「あたし、強くなります」
 真剣な顔をして言うシビーを見ながら、「頑張ってね」とメイユーが言った。
「メイユーさんも強いんでしょ。あたしに教えて下さい」
「いいわよ」とメイユーは笑った。
 シビーは嬉しそうな顔をして帰って行った。と思ったら二本の木剣を持って戻って来た。
「お願いします」とメイユーに頭を下げて、シビーは木剣を渡した。
 それを見ていたウミンチュたちがはやし立てて、指笛が飛んだ。
 シビーとメイユーはウミンチュたちに囲まれ、サハチが立ち会って試合をした。勿論、メイユーにはかなわないが、その剣さばきはサハチが思っていた以上に素晴らしかった。
 試合のあと、悔しそうな顔をしているシビーを見ながら、「素質はあるわ」とメイユーはサハチに言った。
 サハチはうなづいた。若い頃のマチルギに似ていると思っていた。
「あたしの弟子にしてもいいかしら?」とメイユーは言った。
「えっ!」とシビーは驚いた顔でメイユーを見た。
「あなたを必ず、女子サムレーにしてあげるわ」
 叔母のマチルーの許可を得て、シビーを島添大里で預かる事に決まった。
 八月の半ば、百浦添御殿(むむうらしいうどぅん)の唐破風(からはふ)が完成した。以前よりもずっと豪華で立派に見えた。屋根の中央には口を開けた龍(りゅう)がいて、屋根の下にも龍の彫り物があった。新助が彫った龍は迫力があって、今にも動き出しそうだった。
 馬天ヌル、佐敷ヌル、サスカサによって完成の儀式が執り行なわれた。儀式が終わると普請(ふしん)に携わった職人たちをナーサの遊女屋(じゅりぬやー)『宇久真(うくま)』に呼んで、完成祝いの宴を盛大に行なった。
 一徹平郎(いってつへいろう)も源五郎も新助も栄泉坊(えいせんぼう)も、宇久真の屋敷の立派さに驚き、ぞろぞろと出てくる遊女(じゅり)たちの美しさにも驚いた。
「さすがは琉球の都じゃのう。噂には聞いていたが、こんなにも美女が揃っているとは驚いた」
 一徹平郎が嬉しそうな顔をしながら源五郎に言った。
「向かい側にある『喜羅摩(きらま)』には行った事があるが、やはり格が違うのう。ここにはしかるべき者の紹介がないと入れんと言っていた。まさか、ここに入れるとは思わなかったわ」と源五郎は鼻の下を伸ばして美女たちを眺めていた。
 サハチがみんなをねぎらう挨拶をして、宴は始まった。遊女たちが男たちの前に座り、お酌をして乾杯をした。
「お久し振り」とサハチの前に来たマユミがニコッと笑った。
「それ程、お久し振りでもないだろう」とサハチは言った。
「そうね。二か月前に『会同館』で会ったわね。奥間に帰ったからかしら。随分と長い事、按司様(あじぬめー)に会わなかったような気がするわ」
「あのあと、奥間に行ったのか」
「そう。進貢船(しんくんしん)が早く帰って来てくれたので、次の進貢船が帰って来る前に行って来ようってなったのよ」
「そうか。ンマムイに会ったそうだな」
「何度か、女将(おかみ)さんを訪ねて、ここに来た事があったんだけど、奥間で会うなんて驚いたわ」
「俺も奴が奥間まで行くとは思わなかった。そして、そこでナーサと出会うなんて不思議な縁だと思ったよ」
「ウニタキさんがンマムイの亡くなったお姉さんの旦那さんだったんですってね。ンマムイは驚いていたわ。ンマムイから若様の父親は誰だって聞かれたのよ」
「教えたのか」
 マユミは首を振った。
「でも、気づいたんじゃないかしら。若様の長男はサハチで、長女はマチルギだもの」
「えっ、俺とマチルギの名前を付けたのか」
「若様は奥方様(うなじゃら)を本当のお母さんのように思っているのよ」
「そうか。マチルギが喜ぶだろう」
「ンマムイは無事に帰って来たの?」とマユミは聞いた。
「ンマムイが危険だと思ったのか」
「女将さんが心配していたわ」
「そうか。ンマムイは無事だよ」
「ねえ、聞いたわよ。唐人(とーんちゅ)の女を側室に迎えたそうね。二人目の側室だわ」
「明国に行った時、メイユーにはお世話になったんだよ」
「羨ましいわ。ねえ、今度、あたしを島添大里グスクに呼んでよ。按司様の側室に会いたいわ」
「会ってどうするんだ?」
「どうもしないわ。ただ、お話がしたいだけ」
「そうか。何か祝い事があったら呼ぼう」
「本当よ。約束してね」
 サハチはうなづいて酒を飲んだ。
 一徹平郎も源五郎も新助も栄泉坊も遊女たちと楽しそうにやっていた。坊主頭だった栄泉坊の髪はすっかり伸びて、琉球風にカタカシラを結っていた。今回の仕事が終わったら、栄泉坊はイーカチの配下になる事になっていた。
 イーカチは図画所(ずがしょ)の所長となり、配下の栄泉坊と一緒に王府のために絵を描く事になる。助手として三人の若者と五人の娘が入る事に決まっていた。図画所はグスクの南側の城下に作られ、今、イーカチは龍天閣(りゅうてぃんかく)に飾るサミガー大主の肖像画を描いていた。
 佐敷ヌルはメイユーとユリを連れて平田に泊まり込み、お祭りの準備を進めていた。メイユーは弟子にしたシビーも連れて行った。サハチは進貢船の準備に追われて忙しかった。
 そんな頃、糸満(いちまん)の港から『油屋』の船に乗って、山北王の若按司と婚約した山南王の娘とその母親、山北王に側室として贈る娘が、数人の侍女を連れて今帰仁に向かって行った。
 ウニタキはメイリンと娘のスーヨンを連れて、あちこちに行っていたが、ミヨンとファイテ(懐徳)の事で悩んでいた。
 ミヨンはファイテが明国に行く前に一緒になりたいと言い出し、ウニタキは三年後に帰って来てからでいいと反対した。ミヨンは三年も待てない。ファイテのお嫁さんになって、夫の帰りを待っていると聞かなかった。妻のチルーもミヨンに賛成して、身内だけで婚礼をやりましょうと言っている。ウニタキはどうしようかと迷っていた。
 ンマムイはシタルーに襲撃された事などすっかり忘れたかのように、相変わらずフラフラしていた。島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクに行ってシタルーを訪ねたかと思えば、八重瀬グスクに行ってタブチと会い、母親とも会っていた。島添大里グスクにも度々顔を出して、サハチが留守の時はナツと会ったり、女子サムレーたちと会ったりしていた。
 ナツから聞いた話だと、タブチの末っ子のチヌムイ(角思)が阿波根(あーぐん)グスクに通って、武芸を習い始めたという。シタルーの娘のマアサも女子サムレーになると言って通っていた。チヌムイとマアサは従兄妹(いとこ)同士で、お互いに敵だとは思っていないのかもしれない。山南王が山北王と同盟したあと、南部で戦が起きない事をサハチは願った。
 平田グスクのお祭りでは、『瓜太郎(ういたるー)』が演じられた。去年、佐敷グスクのお祭りで演じられて大評判だった『瓜太郎』を是非見たいと平田大親の妻、ウミチルが言ったのだった。前回の時、ササが瓜太郎を演じて、シンシン(杏杏)がサシバを演じ、ナナが犬を演じ、リンチーが亀を演じて好評を得た。その四人に負けないように、平田の女子サムレーたちは必死になって稽古を重ねた。主役の座を勝ち取ったのはアヤで、始終飛び跳ねている難しいサシバの役はミユが勝ち取った。犬はナカウシ、亀はシティ、鬼はマチ、リー、ミグ、アイの四人が演じた。
 佐敷の『瓜太郎』に決して負けない出来映えで、見ていた観客は大喝采を送った。平田大親とウミチルは大喜びして、佐敷ヌルとユリは大成功に満足し、手伝っていたメイユーとシビーも感動していた。
 平田グスクのお祭りの二日後、ファイテとミヨンの婚礼が密やかに行なわれた。ファイチ(懐機)の家族とウニタキの家族、それにサハチとマチルギが加わり、佐敷ヌルとサスカサによって婚礼の儀式が行なわれた。
 結局、ウニタキが娘の意志に押されて、旅立ち前の婚礼となった。三年後、ファイテが帰って来たら、帰国祝いと同時に盛大な婚礼をやる事にして、今回は身内だけの婚礼だった。ミヨンはファイテの妻となり、旅立ちまでの一か月余りを隣りのファイチの屋敷で過ごす事になった。

 

 

 

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