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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-85.五年目の春(第一稿)

尚巴志伝 第二部

 永楽(えいらく)九年(一四一一年)の年が明けた。
 月日の経つのは速いもので、首里(すい)で迎える五回目の春だった。
 サハチは四十歳になり、長男のサグルーは二十二歳になった。サハチは二十一歳の時に佐敷按司になった。自分はどこか別の所に行って、島添大里(しましいうふざとぅ)グスクはサグルーに任せた方がいいのかもしれないと思ったりもした。
 新年の儀式も無事に終わった。
 首里グスクに挨拶に来た按司たちは去年、具志頭按司(ぐしちゃんあじ)が加わり、今年は兼(かに)グスク按司(ンマムイ)と米須按司(くみしあじ)と玻名(はな)グスク按司が加わった。米須按司と玻名グスク按司は明国に行っているので、若按司が代理として挨拶に来た。
 去年、山北王(さんほくおう)の攀安知(はんあんち)と同盟した山南王(さんなんおう)のシタルーは、兼グスク按司の暗殺を失敗してからは特に動きはない。山北王は中山王の交易船を狙って伊平屋島(いひゃじま)を攻めて来た。失敗に終わって腹を立てているに違いない山北王は、夏になったら伊平屋島を取り戻すために攻めて来るだろう。山北王が攻めて来る前に、島民を守るグスクを完成させなければならなかった。守備兵の大将のムジルは任せてくれと張り切っていたが、援軍を送った方がいいかもしれなかった。
 慈恩禅師(じおんぜんじ)は琉球を知るために飯篠修理亮(いいざさしゅりのすけ)と二階堂右馬助(にかいどううまのすけ)を連れて旅に出て行った。通訳としてイハチが行き、イハチの弟のチューマチも一緒に行った。修理亮は半年間、琉球に滞在していたが、まだ島言葉は完璧ではなかった。サハチの四男のチューマチは十六歳になり、今年の夏、ヤマトゥ旅に行く予定だが、その前に琉球を見て来いと送り出した。
 正月の半ば、島添大里(しましいうふざとぅ)グスクに帰っていたサハチはナツと一緒にのんびりとお茶を飲んでいた。ナツが産んだナナルーも五歳になって、兄や姉たちと一緒に元気よく遊んでいた。去年、マチルギが産んだタチはまだ首里の御内原(うーちばる)にいた。
「今年は誰がヤマトゥに行くのですか」とナツがサハチに聞いた。
「マチルギも京都に行きたいようだが、タチがいるから無理だろう。ヤグルー(平田大親)に頼むつもりだよ」
按司様(あじぬめー)はもう行かないのですか」
「行きたいが難しいだろう。伊平屋島の問題があるし、山南王も動き出しそうだしな」
「山北王と山南王を相手に戦(いくさ)をするのですか」
「山南王は首里グスクを諦めてはいないし、山北王は伊平屋島伊是名島(いぢぃなじま)を自分のものにしたいんだよ」
首里グスクを奪い取ってから、今まで戦がなくて平和だったのに、また、戦が始まるのですね」
琉球が統一されるまでは戦がなくなる事はない。統一するには敵を倒さなければならないんだ」
「五年後に山北王を倒して、その十年後に山南王を倒すのですか」
「五年後に山北王は倒すが、相手の出方次第では早まるかもしれない。山南王は、シタルーが亡くなれば妹婿の豊見(とぅゆみ)グスク按司が跡を継ぐだろう。そうなれば倒さなくても済むかもしれない」
「あっ、そうよね。豊見グスク按司が山南王になれば南部は平和になるわ。山南王は今、いくつなの?」
「俺よりも十歳年上だから、今年、五十だよ」
「あと十年は生きるわね」
「いや、シタルーはしぶといから、あと二十年は生きるかもしれないよ」
「二十年か‥‥‥話は変わるけど、ササが持っているガーラダマ(勾玉)は一千年以上も前に豊玉姫(とよたまひめ)が琉球に持って来た物らしいわよ」
「俺もササから聞いて驚いたよ。しかも、ササのだけじゃないんだ。馬天ヌルのガーラダマも佐敷ヌルのガーラダマもサスカサのガーラダマも豊玉姫が持って来た物だったんだ。ばらばらになっていた四つのガーラダマがみんなササの回りに集まっているんだよ」
「不思議よね。一千年以上も前のガーラダマが四つも揃うなんて奇跡じゃないの」
「最初は馬天ヌルのガーラダマで、親父が志喜屋の大主(しちゃぬうふぬし)の娘の志喜屋(しちゃ)ヌルからもらって来て、馬天ヌルのものとなったんだ。あの時、親父は不思議な思いがしたと言っていた。東行法師(とうぎょうほうし)になった親父は旅に出て、志喜屋の近くを通ったので、挨拶をして行こうと気楽な気持ちで志喜屋の大主を訪ねた。志喜屋の大主はすでに亡くなっていたけど、十年後に親父が訪ねて来る事を予見して、あのガーラダマを娘に預けていたんだよ」
「えっ、王様(うしゅがなしめー)が隠居して、旅に出る事を志喜屋の大主は予見していたの?」
「そういう事になるな。親父は目に見えない大きな力に動かされているような気がしたと言っていた」
「不思議ねえ」
「二番目は佐敷ヌルのガーラダマだ。馬天ヌルが各地のウタキを巡る旅に出て、ヤンバルに行って安須森(あしむい)のウタキを巡っていた時、アフリヌルのお世話になったらしい。かなりの老婆で、昔の事を色々と話してくれたと馬天ヌルは言っていた。その老婆からもらったのが佐敷ヌルが持っているガーラダマなんだ。遙か昔、スサノオ琉球に来た頃、安須森にはヌルたちが暮らしていた村(しま)があったらしい。首里にあった真玉添(まだんすい)のようにヌルたちが治める村があって、そこで一番偉いヌルがアオリヤエという神名(かみなー)を持ったヌルだった。ヌルたちは平和に暮らしていたんだが、ある時、ヤマトゥからサムレーがやって来て滅ぼされてしまったらしい。アオリヤエが身に付けていたガーラダマはアフリヌルによって代々伝えられ、守られて来たようだ。そんな大切なガーラダマをアフリヌルは馬天ヌルに贈ったんだよ。アフリヌルは馬天ヌルが来る事をかなり前から予見していて、若ヌルを育てていなかったんだ」
「えっ、本当なの?」
「本当らしい。馬天ヌルは七年後に王様の偽者を殺した奴を調べるために今帰仁(なきじん)に行った。その時、足を伸ばして安須森まで行ったらしい。二年前にアフリヌルは亡くなっていて、跡継ぎもいなかったので、アフリヌルは絶えてしまったという」
「誰も跡を継がなくて大丈夫なの?」
「アフリヌルの役目はアオリヤエのガーラダマを守る事だった。役目が終われば、跡を継ぐ者は必要ないのだろうと馬天ヌルは言っていた」
「アオリヤエのガーラダマがどうして佐敷ヌルさんのものになったの?」
「馬天ヌルはガーラダマを渡された時、娘のササにあげようと思ったらしい。アオリヤエのガーラダマを身に付けるという事は、安須森を守る事を意味している。ササならできるだろうと思ったようだ。当時、ササはまだ十歳だったけど、子供の頃からシジ(霊力)が強かったからな。ところが、旅から帰って来て、佐敷ヌルと出会い、アオリヤエのガーラダマを渡すのは佐敷ヌルだとわかったらしい」
「どうして、わかったの?」
「馬天ヌルが言うにはガーラダマがしゃべったという」
「そうだったの。あたしにはよくわからないけど、ササもガーラダマがおしゃべりするって言っていたわ。そうなると、佐敷ヌルさんはアオリヤエを継ぐ事になるの?」
「そうかもしれない。馬天ヌルは佐敷ヌルにガーラダマをあげた時、アオリヤエの事は伝えずに、ただ古いガーラダマであなたによく似合うと言っただけだった。ササのお陰で、ガーラダマのいわれがわかって、馬天ヌルは佐敷ヌルにアオリヤエの事を話したようだ。佐敷ヌルはガーラダマを見つめて、それがわたしの使命なのねと言ったらしい」
「そう。受け入れたのね。今帰仁を倒したあと、佐敷ヌルさんはヤンバルに行ってしまうのね」
「しばらくは向こうにいるだろうな。そして、娘のマユにアオリヤエを継がせるのだろう」
「そうか。マユちゃんがアオリヤエになるのね」
 サハチはうなづき、「三つめのガーラダマは島添大里ヌルのサスカサに代々伝わってきて、今、娘のサスカサが持っている」と言った。
「島添大里ヌルも古くからあるヌルだったのね」
「ササが豊玉姫から聞いた話によると、スサノオとの交易が始まった時、ヤマトゥから来る船を見つけるために、ここにグスクを築いて、身内の者を按司にしたらしい。そして、按司を守るヌルもできて、代々サスカサという神名を名乗っていたようだ。四つめはササが読谷山(ゆんたんじゃ)で見つけたガーラダマだ。あの時、ガーラダマは十二個あった。その中から、ササは豊玉姫が持って来たガーラダマを迷わずに選んでいる。そのガーラダマを首に下げてヤマトゥに行って、スサノオと巡り会ったというわけだ」
「ササがガーラダマを見つけた時、地震(ねー)が起きたわ。あの地震スサノオの神様が起こしたのかしら?」
「そうかもしれんな」
 地震だけでなく、父の思紹(ししょう)が隠居して旅に出たのも、馬天ヌルがウタキ巡りの旅に出たのも、久高島のフボーヌムイに籠もっていたサスカサがキラマの島に行ったのも、すべて、スサノオの神様のお導きのような気がしてきた。
「ササのガーラダマは運玉森(うんたまむい)ヌル(先代のサスカサ)が代々伝えてきたガーラダマらしい。ササはあのお気に入りのガーラダマを運玉森ヌルに返そうとしたんだ。運玉森ヌルは受け取らず、若ヌルを育てて、そのガーラダマを渡しなさいと言ったそうだ」
「若ヌルって、与那原大親(ゆなばるうふや)の娘さん?」
「そうだ。マタルーの娘のチチーだよ。まだ九歳なんだ。その子をササが一人前のヌルに育てるというわけだ」
「ササに育てられるチチーも可哀想な気がするわ。でも、立派なヌルになるでしょうね」
 侍女が三星大親(みちぶしうふや)が来たと知らせた。と思ったら、すぐにウニタキが顔を出した。侍女と一緒に来たらしい。
「まあ、お茶でも飲め」とサハチはウニタキを迎えた。
「いらっしゃい」と言いながらナツが茶碗を取りに立った。
「何かあったのか」とサハチは聞いた。
「ちょっと、お前の耳に入れておこうと思ってな」
「シタルーが動いたのか」
「いや、シタルーは動かんが、山北王の兵が糸満(いちまん)に来た」
「山北王の兵?」
「五十人が来て、今、造っている保栄茂(ぶいむ)グスクに入った。山北王の娘夫婦を守るようだ。今は五十人だが、今後、増やすかもしれんな」
「シタルーは山北王の兵を使って戦(いくさ)をするつもりなのか」
「回りの按司たちに、山北王が付いているという事をみせたいのだろう。米須按司と玻名グスク按司が寝返ったので、真壁按司(まかびあじ)と伊敷按司(いしきあじ)も寝返る気配があるからな」
「真壁按司と伊敷按司は寝返るのは難しいだろう。李仲按司(りーぢょんあじ)が近くにいるからな」
「そこで、真壁按司も伊敷按司も新しいグスクを築いている。表向きは、米須按司と八重瀬按司(えーじあじ)に対抗するためだと言っているが、拠点を移して、寝返るかもしれない」
「どこにグスクを築いているんだ?」と言って、サハチは絵地図を広げた。
「真壁按司は束辺名(ちけーな)という所の小高い丘の上だ。タブチが今築いている海辺のグスクと米須グスクの中間当たりだ。伊敷按司は伊敷グスクの西の海の近くの丘の上だ。伊敷按司はタブチと同じように船を持ちたいようだな」
 サハチは絵地図に印を付け、「南部ではグスク造りが流行っているようだな」と笑った。
 ナツが戻って来て、ウニタキにお茶を入れて、「ごゆっくり」と言って去って行った。
 ウニタキはナツにお礼を言って、お茶を飲んだ。
「お前に知らせたかったのは、その事ではないんだ。ファイチの娘のファイリンの事なんだよ」とウニタキは言った。
「ミヨンとファイリンは本当の姉妹のように仲がいいんだ。ミヨンから聞いたんだが、ファイリンはシングルーが好きらしい」
「何だって、マサンルーの長男のシングルーか」
 サハチは驚いて、ウニタキを見た。
 ウニタキはうなづいた。
「お互いに相手が好きなようだ」
「ファイリンはいくつになったんだ?」
「十五だ。来年は嫁入りを考えてもいい年頃だよ」
「シングルーはチューマチより一つ年下だったな。奴も十五か」
「ああ、同い年だ」
「そうか。ファイリンをチューマチの嫁にもらおうと思っていたんだが、シングルーに取られたか」
「以前、お前からその話を聞いていたんで、一応、耳に入れておいた方がいいと思ったんだよ。シングルーなら身内だし、このまま見守ってやった方がいいじゃないかと思ってな」
「そうだな。お前はファイチと親戚になった。俺もファイチと親戚になりたいと思っていた。マサンルーの倅と一緒になってくれればそれでもいい。ファイチが中山王の身内になってくれれば、それでいいんだ。ファイチを手放したくはないからな」
 ウニタキは満足そうにうなづいた。
「チューマチだって、ファイリンとシングルーが仲のいいのは知っているだろう。二人の仲を裂いてまで、一緒になろうとは思うまい」とサハチは言った。
 チューマチもシングルーも共に、ソウゲンの屋敷に通って読み書きを習っていた。ファイリンは佐敷から通って来るシングルーと出会って仲よくなったのだろう。
 次の日、サハチはウニタキと一緒に首里グスクに行った。龍天閣(りゅうてぃんかく)の三階で、思紹、マチルギ、馬天ヌルと一緒に今年の計画を練った。
 まず、伊平屋島の問題だった。伊平屋島から追い出された者たちの中で、ほとんどの男は帰って行ったが、女子供に年寄りはまだ首里に残っていた。夏には戦が始まるので、決着が付くまでは避難していた方がいいだろう。
「山北王も簡単には諦めんじゃろう」と思紹が絵地図を見ながら言った。
「戦が長引くと被害も増える。夏になったら、山北王は次から次へと船を送って攻めるじゃろう。伊平屋島だけでなく、伊是名島も攻め、海上での戦も起こるかもしれんのう」
「ヒューガ殿に頑張ってもらいましょう」とサハチは言った。
 思紹はじっと絵地図を見つめてから、「ここを攻めたらどうじゃ」と指を差した。
 思紹が指差したのは与論島(ゆんぬじま)だった。
与論島を攻めてどうするんです?」とサハチは聞いた。
「奪い取るんじゃよ」と思紹は言った。
 皆が驚いて、思紹を見た。
与論島は昔、勝連按司(かちりんあじ)が治めていたんじゃ。わしが東行法師になって与論島に行った時、与論按司(ゆんぬあじ)は勝連按司の一族じゃった。ウニタキの兄貴が勝連按司だった時、山北王に奪われたんじゃよ」
「あたしが行った時は山北王の親戚が与論按司だったわよ」と馬天ヌルが言った。
「叔母さん、与論島に行ったのですか」とサハチは驚いた。
「ヤンバルでお世話になったアフリヌルが顔が広くてね、アフリヌルの紹介でウミンチュに頼んで行ったのよ。綺麗な島だったわ。与論ヌルの案内でウタキ巡りもしたわ。与論ヌルは勝連の一族だったわよ。勝連の一族はみんな殺されたようだけど、与論ヌルだけは若ヌルを育てるために生き残ったみたい」
「与論ヌルとはどんな女なんだ?」と思紹が聞いた。
「奥方様(うなじゃら)と同じ位の年齢(とし)じゃないかしら。殺された与論按司の娘さんで、与論島で生まれたみたい。親兄弟が亡くなって、たった一人になってしまったけど、与論島を守らなければならないと言っていたわ。あの時、若ヌルは十七だったから、もう一人前のヌルになっているはずよ。今も無事に生きているかどうかはわからないわ」
「そのヌルの名前はマトゥイという名ではありませんでしたか」とウニタキが身を乗り出して聞いた。
「そうよ。鳥(とぅい)のように空を飛びたいって言っていたわ。あなた、知っているの?」
「俺の従妹(いとこ)なんです。俺が十二歳だった時、マトゥイは勝連に来ました。なぜか気が合って、一緒に遊びました。半年だけだったけど楽しかった。与論島に帰ったらヌルになるための修行をすると言っていました。勝連を山北王に奪われた時、殺されてしまったと思っていました」
「あなたの従妹だったの‥‥‥」と馬天ヌルはウニタキを見つめた。
 ウニタキは笑って、「勝連での楽しい思い出は、マトゥイと一緒に遊んだ事だけでした」と言った。
「もし、そのヌルが今も生きていれば、使えそうだな」と思紹が言った。
与論島を何としてでも奪い取るんじゃ。そして、与論島を返すから、伊平屋島伊是名島から手を引けと山北王に言うんだ。いやだと言ったら、伊平屋島伊是名島の者たちを与論島に移して、鮫皮(さみがー)作りをやらせればいい」
「敵の目を伊平屋島に向けておいて、与論島を攻め取るんですね?」とサハチが言った。
「そうじゃ。浮島からでなく、勝連から船を出せば、敵にはわかるまい」
 サハチはうなづき、「与論島の兵力はわかるか」とウニタキに聞いた。
「詳しい事はわからんな」とウニタキは首を振った。
「俺が浜川大親(はまかーうふや)だった頃、与論按司は親父の従弟(いとこ)だった。何度か会った事がある。その頃の兵力は百人前後だったはずだ。今もそんなものじゃないのか」
「今の与論按司は山北王の一族なんだな?」
「山北王の叔父だ。兄貴が永良部按司(いらぶあじ)で、弟は去年、奄美大島(あまみうふしま)で戦死した本部大主(むとぅぶうふぬし)だ」
与論島の兵力、グスクの様子など調べてくれんか」と思紹がウニタキに言った。
「わかりました」とウニタキはうなづき、
与論島を攻めるのは五月ですね?」と聞いた。
「そうじゃのう。梅雨が明けた頃になるじゃろう。与論島に送る兵力は百人といったところじゃな。与論按司のグスクは島の南側の崖の上にある。小さなグスクだが、敵が籠城(ろうじょう)してしまうと、戦が長引いて不利になる。山北王の兵もやって来るじゃろう。敵が籠城したとしても、グスク内に潜入できるような弱点を見つけてくれ。与論ヌルが生きていれば、グスク内の様子もわかるじゃろう。奇襲を仕掛けて、そのままグスクを攻め取れるような弱点を見つけてくれ」
 ウニタキは厳しい顔付きでうなづいた。
「次は進貢船(しんくんしん)じゃが、今年は四回送ろうと思っているんじゃが、どうじゃろう」と思紹は言った。
「四回ですか」とサハチは思紹を見た。
「一月と三月に送り、九月と十一月に送るんじゃ。一月に行った船は六月に戻り、三月に行った船は八月には戻るじゃろう」
「船は何とかなっても、使者が足りませんよ」とサハチは言った。
「去年、副使として行った者を正使に昇格すればいい」
「それで大丈夫でしょうか」
「やらせてみろ。器を与えれば、人はそれなりに成長するもんじゃ」
 サハチは思紹を見つめてうなづいた。
「ヤマトゥ旅と朝鮮(チョソン)旅ですが、今年は二つに分けて、朝鮮の事は勝連按司に任せようと思っています」とサハチは言った。
「サムに頼むのか」と思紹は言って、「それはいいかもしれんのう」とうなづいた。
「ヤマトゥ旅はヤグルーに頼もうと思っていますが、問題は京都の行列です。去年は今いちだったというので、今年は変えようと思っています」
「何を変えるの?」とマチルギが聞いた。
「まず、テピョンソ(チャルメラ)をやめて、三弦(サンシェン)にしようと思っています。三弦はヤマトゥにはないし、琉球らしい音楽になると思う。それと『三つ巴』の旗もやめます」
「どうして、『三つ巴』の旗をやめるの?」
「三つ巴の紋は、ヤマトゥの神社でよく見かける紋なんだよ。『三つ巴』はやめて、龍の絵を描いた旗を持たせようと思っているんだ」
「龍の旗か」と思紹は言って、「そいつはいいぞ」とうなづいた。
「わしは『浦島之子(うらしまぬしぃ)』に出てくる龍宮(りゅうぐう)は琉球の事ではないかと思っているんじゃ。琉球の東(あがり)にニライカナイがあるように、唐人(とーんちゅ)たちは大陸の東に龍が棲んでいる龍宮があると信じていたんじゃないかのう。龍の旗は琉球にふさわしい旗じゃよ」
「三弦は誰が教えるの?」とマチルギがウニタキを見ながら聞いた。
「そうだ。お前が与論島に行ったら教える者がいなくなる」とサハチはウニタキに言った。
「大丈夫だ」とウニタキは笑った。
「旅芸人の中に三弦が弾ける者が二人いる。それに、ミヨンもウニタルも教えられる」
「三弦はあるの?」とマチルギは聞いた。
「それは大丈夫だ」とサハチが答えた。
「中グスク大親(うふや)に頼んで、明国から五丁持って来てもらってある。あと、衣装なんだが、六月の京都は琉球よりも暑い。涼しくて、もう少し派手でもいいと思うんだ。衣装はマチルギに任せるよ」
 その後、伊平屋島に送る兵の大将と与論島に送る兵の大将を相談して、伊平屋島救援の大将は首里四番組の伊是名親方(いぢぃなうやかた)(伊是名島出身)と八番組の田名親方(だなうやかた)(伊平屋島出身)に決まり、与論島攻めの大将は島添大里一番組の苗代之子(なーしるぬしぃ)(マガーチ)に決まった。

 

 

 

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