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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

77.浦添グスク炎上(最終決定稿)

 サハチが首里(すい)グスクを奪い取った日の夕方、浦添(うらしい)の遊女屋(じゅりぬやー)『喜羅摩(きらま)』では、早々(はやばや)と戦勝祝いの宴(うたげ)が賑やかに開かれていた。招待したのは侍女の頭(かしら)を務めるナーサで、招待されたのは中山王の重臣たちだった。重臣といっても武将ではなく、政務を司(つかさど)っている文官たちだった。
 重臣たちは出世のために、中山王の奥方や力を持った側室に取り入る必要があり、それには御内原(うーちばる)を仕切っているナーサの助けが必要だった。ナーサは重臣たちの願いを聞いてやり、それ相当のお礼を受け取っていた。ナーサはそろそろ引退しようと思っているので、お世話になった皆様に感謝の気持ちを込めて、ささやかな宴を開きたいと言って招待したのだった。中山王は首里に行き、若按司も出陣して行った。戦の勝利は決まっているので、前祝いという事で、重臣たちも集まって来たのだった。
 二十人余りの重臣たちは鼻の下を伸ばして、綺麗どころの遊女(じゅり)たちのお酌を受けながら、機嫌よく料理をつまんでは酒を飲んでいた。
 ナーサも着飾って、お酌をして回った。
「ナーサ殿の美貌は、いつになっても衰えんのう」と安謝大親(あじゃうふや)がお酌を受けながら言った。
「お世辞は結構でございますよ」
「なに、お世辞ではない。若い遊女たちにも決して負けてはおらんぞ」
「ありがとうございます」とナーサは機嫌よく笑った。
 ナーサは二十歳の時に、武寧(ぶねい)の奥方の侍女として浦添グスクに入って来た。三十五年も前の事である。その当時の事を知っている重臣たちは、もう二、三人しかいなかった。安謝大親はその中の一人だった。若い頃、用を頼まれて御内原に行き、取り次ぎに出て来たナーサを初めて見た時、その美しさに呆然となり、侍女があれほどに美しいのなら、奥方様は天女に違いないと、ずっと信じていたのだった。若き日の安謝大親は、明国への使者を務めた小禄(うるく)按司(泰期(たち))の従者として明国に渡った事もあり、今では、明国、ヤマトゥ、朝鮮(チョソン)、南蛮と、すべての交易を担当している総奉行を務めていた。
「それにしても、引退してしまうなんて勿体ないのう。そなたがいなくなったら御内原も大変じゃろうに」
「グスクも新しくなります。古い者は潔く退きますよ」
「何だか、わしの事を言われているようじゃのう」
「何をおっしゃいます。殿方は違いますよ」
「そう言われてもな、わしも来年は六十じゃ。引退して、のんびりと釣りでも楽しみたいと思う事もあるんじゃよ」
「いいえ、安謝大親様には、まだまだ頑張っていただかないと困りますよ。今晩は若い女子(いなぐ)を抱いて、精を付けて下さいね」
 ナーサは頭を下げると隣りにいる嘉数大親(かかじうふや)のもとへと行った。嘉数大親は財務を担当している重臣だった。
 夜も更けて、宴もたけなわとなり、重臣たちもだらしなく遊女たちと戯れていた。そんな時、若いサムレーが血相を変えて宴席に駈け込んで来た。
「大変です。グスクが燃えております」
 そう叫ぶと若いサムレーは気を失った。着物はあちこちが破れていて、あちこちから血も出ていた。
 重臣たちはポカンとした顔をして、若いサムレーを見ていたが、我に返って外に飛び出した。
 大通りに出ると、正面に見えるグスクが真っ赤な炎を上げて、勢いよく燃えていた。あちこちで太鼓やら法螺貝やらが鳴っている。重臣たちは信じられないといった顔をして、燃えるグスクを見ながら呆然と立ち尽くしていた。
 大通りは、慌てて逃げる者たちと、もっと近くで火事を見ようとする者たちでごった返していた。

 

 浦添グスクの警固は通常通りで、特に警戒はしていなかった。返って、普段よりもゆるんでいるようにも見えた。中山王も若按司もいないし、ここに攻めて来る者などいるわけないと思って、安心しきっているようだった。
 ナーサからの知らせによると留守を守っているのは武寧の三男と四男の二人で、三男は、父も兄もいないので羽根を伸ばして、どこかに出掛けて行ったという。多分、女の所だと思うが、どこに行ったのかはわからなかった。四男はついこの間、八重瀬按司の娘を嫁にもらったばかりで、まだ十七歳だった。十七歳の弟に留守を任せて、女の所に行くとは情けない兄貴だった。上に立つ者がこんな有様だから、兵たちの気も緩んでいるのだろう。三男はあとで始末しなければならなかった。
 ウニタキたちは日が暮れるのを待って、グスク内に潜入した。百人のウニタキの配下たちは一か所ではなく、警固が手薄な何か所かの場所から潜入して、各自、前もって決められた通りの行動を取った。全員がグスク内の詳しい見取り図を頭の中に入れ、警固の兵たちを倒しながら、決められた場所に油を撒いて火を付けた。
 同時に何か所かが燃え出したため、グスク内は狂乱状態に陥った。火を消すどころの騒ぎではなく、皆、逃げるのに必死になっていた。
 ウニタキは二十人の者たちを率いて御内原に潜入した。御内原にいる男は中山王か若按司の倅だから、すべて殺せと命じた。
 誰の息子だかわからないが、十一人の息子たちが殺された。妻や側室、娘たちや侍女たちは殺す事なく、速く逃げろと追い出した。
 ウニタキの配下で、若按司の側室になった女と侍女が、ヒューガの娘のユリと奥間(うくま)から武寧に贈られた側室と一緒に、ウニタキが来るのを待っていた。ユリには四歳になる娘がいた。武寧の側室には十三歳の娘と十歳の息子がいた。可哀想だが、息子は武寧の子供なので殺された。ユリと娘、武寧の側室と娘は、ウニタキの配下の二人の女と一緒にグスクから脱出した。
 逃げて行く女たちの中に、玉グスクの娘らしいのがいた。平田大親(ヤグルー)の妻のウミチルに似ていたので声を掛けると、ウミチルの妹だった。ウミチルの妹は武寧の三男に嫁いでいた。二人の娘を連れていたので、助け出すようにとウニタキは配下の者に命じた。武寧の四男に嫁いだタブチの娘もいるはずだったが、見つける事はできなかった。
 全員が逃げ出した事を確認すると、御内原にあるいくつもの屋敷にも油が撒かれて火が付けられた。
 表の屋敷では、留守を守っていた武寧の四男と守備兵が殺され、火が付けられた。察度が築いたのであろう二階建ての瓦葺(かわらぶ)きの豪華な屋敷は、赤い炎を空高く上げて、勢いよく燃えた。
 舜天(しゅんてぃん)がこの地にグスクを築いてから二百年余りの間、都の中心として機能してきた浦添グスクが、今、役目を終わろうとしていた。舜天、舜馬(しゅんば)、義本(ぎほん)、英祖(えいそ)、大成(たいせい)、英慈(えいじ)、玉城(たまぐすく)、西威(せいい)、察度(さとぅ)、武寧(ぶねい)と代々、続いてきた浦添按司の本拠地が今、紅蓮の炎に包まれていた。
 開かれた西門では、蔵から出した財宝を荷車に山積みにして運び出していた。荷車を用意して待機していたのは、キラマの島の若者たち五十人だった。力持ちばかりを選んで連れて来ていた。
 財宝を積んだ荷車は次から次へと首里へと運ばれて行った。荷車を運ぶ者たちが持つ松明(たいまつ)が浦添から首里まで延々と続き、それに紛れて首里へと向かう武寧の家臣が何人かいたが、皆、殺された。

 

 その頃、浮島の久米(くみ)村でも一騒動が起こっていた。
 首里グスクを奪い取ったとサハチからの知らせが届くと、ファイチは行動を開始した。キラマから来た若者たち五十人を指図して、まず、村の中をうろついているアランポー(亜蘭匏)の配下の者たちを退治した。亡骸(なきがら)は麻袋に詰めて、浮島に待機しているヒューガの船に運んだ。二十人近くを退治すると、アランポーの屋敷以外に住んでいる一族の者たちも、おとなしく眠ってもらって船に運んだ。アランポーの一族の者たちは皆、久米村の役職に就いていた。女や子供たちもいたが容赦はなかった。一人でも生かしておくと、あとで命取りになる。一族の者たちは一人残らず殺された。
 日が暮れる頃、ファイチは五十人の若者を引き連れて、アランポーの屋敷を訪問した。遮(さえぎ)った門番たちを倒し、刃向かってくる配下の者たちも倒して屋敷に入ると、使用人の女に案内させて、アランポーのいる部屋へと入った。アランポーは二人の大男を従えて待っていた。
「何者だ」とアランポーは明の言葉で言った。
「中山王は死にました。あなたの役目も終わりました」とファイチも明の言葉で答えた。
 その後、明の言葉でやりとりをしたあと、二人の大男がファイチに掛かって行った。ファイチと一緒に十人の者が部屋に入っていたが、出る幕はなかった。
 ファイチは簡単に二人を倒して、アランポーに迫って行った。
 アランポーは刀を抜いた。贅(ぜい)を凝らしたヤマトゥの刀だった。
 ファイチは構わずに進んで行った。
 アランポーの鋭い一撃を避けると、指一本を突き出して、アランポーの急所を突いた。
 アランポーは刀を捨てて苦しみだした。必死の形相で自分の首を押さえるようにした。口から血があふれ出した。鼻や耳からも血が流れてきて、目からも血が出て来たかと思うと、そのまま倒れ、アランポーは息絶えた。
 アランポーには三人の息子がいて、三人とも、それなりの役職に就いていた。父と一緒に豪邸に住んでいるので、三人とも長い眠りに就き、家族の者たちは全員、葬られた。
 ファイチはアランポーの存在を完全に久米村から抹殺したのだった。
 ファイチは死んでいる者たちをヒューガの船に運ぶように命じると、使用人たちを集めて、この屋敷の主人は急病で亡くなった。新しい主人に仕える者はそのまま残り、嫌な者はすぐに出て行ってくれと伝えた。
 死体が片付け終わって、戦いの痕跡も綺麗に処理すると、ファイチはワンマオ(王茂)を迎え入れた。
 屋敷の庭には、アランポーの独裁政治が終わった事を喜ぶ村人たちが、歓声を上げながら押し寄せて来ていた。
 アランポー一族の亡骸はヒューガの船に乗せられて、沖合で水葬された。

 

 夜が明けた。
 浦添グスクはまだくすぶっているが、グスク内に建っていたほとんどの屋敷が焼け落ちていた。幸いな事に風がなかったので、城下に延焼する事はなかった。昨夜、遊女屋で騒いでいた重臣たちの屋敷も無事だった。
 グスクが燃えるのを見て、呆然と立ち尽くしていた重臣たちは我に返ると、我が家へと帰って無事を確かめてから、グスクへと向かった。火を消し止めなければならないと思ったが、火の勢いが強すぎて、とても不可能だった。グスクから逃げて来る女たちを守るのが精一杯だった。武寧の奥方と側室、若按司の妻と側室、その他の兄弟の妻や娘、大勢の侍女たちは、重臣たちの屋敷に分散して避難し、不安な一夜を過ごしていた。
 朝早く重臣たちのもとへ、ナーサから書状が届いた。重要な話があるので、至急、昨日の遊女屋に来てくれと書いてあった。
 何事だと思いながらも、奥方や側室たちの事はナーサの管轄なので、重臣たちは皆、遊女屋に集まって来た。
 ナーサは重臣たちを前にして、「中山王はお亡くなりになりました」と言った。
 重臣たちは驚いたが、冗談を言っているのだろうと信用しなかった。
「ナーサ殿、悪い冗談じゃ。王様(うしゅがなしめー)は首里グスクにいらっしゃるはずじゃ」と安謝大親が言った。
 ナーサは首を振った。
首里グスクは昨日、島添大里(しましいうふざとぅ)按司に奪われ、中山王は討ち死になさいました」
「なんと、それは本当の事なのか」
「はい。島添大里按司が新しい中山王となられます」
「すると、グスクの火事は島添大里按司の仕業だと申すのか」
「その通りです。これからは首里が新しい都になるので、必要のなくなった浦添グスクを燃やしたのです」
「そなたは島添大里按司の手の者なのか」
「さようです。この日が来るのを、ずっと待っていたのでございます。新しい中山王になられる島添大里按司は立派なお方です。あなたたちがグスク内で消火活動を行なって、亡くなってしまう事を惜しみ、わたしに命じて避難させたのです」
「なんと‥‥‥」
「島添大里按司は無意味な殺戮(さつりく)を好みません。女たちは皆、逃がしたはずです。皆さんにお願いいたします。首里で新しい中山王に仕えて下さい」
「しかし、出陣している若按司様(わかあじぬめー)がいるじゃろう」
「若按司には、すでに帰る場所はありません。今日のうちに滅びるでしょう」

 

 島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクの物見櫓(ものみやぐら)の上で、昇る朝日を眺めながら、シタルーは悔しさに顔を歪ませていた。グスクは敵兵に囲まれ、あちこちに篝火(かがりび)が燃えていた。
 兄のタブチが中山王と組んで、十一日に攻めて来るという情報をつかみ、その前日の今日、首里グスクを奪い取るつもりだった。中山王が完成の儀式をしている時に、抜け穴から兵を突入させて、中山王を殺し、グスクを奪い取る予定だった。それなのに、どうして、こんな風になってしまったのだろう。中山王が完成の儀式の前に、攻めて来るなんて思ってもいなかった。
 タブチと手を結んだ重臣たちも大村渠(うふんだかり)ヌルも、中グスクから嫁いできた嫁の護衛のサムレーたちも、裏切り者として捕らえてあった。タブチの思い通りにはさせないと万全の策を取ったはずなのに、何という事じゃ。
 シタルーは視線を変えて首里の方を見た。今日のために豊見(とぅゆみ)グスクに三百の兵を待機させておいたのに、豊見グスクも敵に包囲されてしまった。首里の方を睨みながら、たとえ、今回は降参したとしても、いつか、必ず、奪い取ってやると強い決心を固めていた
 それから半時(一時間)ほど経った頃、島尻大里グスクを包囲している中山王の若按司が本陣としている城下の屋敷に駈け込んで来た兵がいた。浦添グスクから来た兵だった。
浦添グスクが焼け落ちました」と浦添の兵は必死の面持ちで言ったが、若按司のカニムイは信じなかった。
「何を寝ぼけた事を言っておるんじゃ」
「いえ、若按司様(わかあじぬめー)、紛れもない事実でございます」
「一体、誰がそんな大それた事をするというんじゃ」
「それはわかりませんが、守備兵の多くが殺され、御内原も焼け落ち、奥方様は助かりましたが、御子息は何者かに殺されてしまったそうでございます」
「何だと、ジニムイ(銭思)が殺されたじゃと‥‥‥」
 カニムイが真っ赤な顔して兵を問い詰めていると、共に出陣していた奥間大親(うくまうふや)がやって来た。
「若按司様、大変でございます」と奥間大親は言って、浦添グスクの炎上を伝えた。
「一体、どうなっておるんじゃ。こいつも同じ事を言っておるが、そんな事が信じられると思っているのか」
 カニムイの剣幕に、奥間大親は何も言えなかった。
 カニムイは悪態をつきながら、部屋に飾ってある壺(つぼ)を見た。高価そうな壺が自慢げに、いくつも飾ってあった。カニムイはその中の一番大きな壺を手に取ると庭に放り投げた。壺は庭石に当たって砕け散った。カニムイは次々に壺をたたき割り、砕けた壺のかけらを見ながら溜息をつくと、奥間大親を睨んで、「何者の仕業なんじゃ」と聞いた。
 奥間大親は首を振った。
「南部の按司も中部の按司も、今回の戦に参加しております。浦添を攻めるには、少なくとも五百の兵は必要でしょう。そのような兵を動かせる者はおりません」
「それでは北部の者が攻めて来たというのか」
「わかりません。もしや、まったくの新手(あらて)が現れたか」
「新手だと?」
「若按司様のお爺様は按司ではございませんでしたが、浦添を攻め落として、浦添按司になられました。そのような新手が現れたかと」
「馬鹿を申すな。そのような者が、どこに隠れていたというのだ」
 奥間大親は、わからんというように首を振った。
「父上からは何も言ってこないのか。父上もすでに、この事は知っていよう」
「知らせましたので、まもなく、ご返事が来ると思います」
 とにかく、父親の命令を聞こうとカニムイは待っていたが、いつになっても首里からの使者は来なかった。
 八重瀬(えーじ)の奥間大親のもとにも浦添から侍女が来て、浦添グスクの炎上を伝えていた。
 タブチに知らせると、「何という事じゃ」と驚き、「一体、誰の仕業なんじゃ」と怒鳴った。
 勿論、奥間大親には答えられなかった。ただ、嫁に行った娘は無事だと伝えると、タブチはホッとした顔でうなづいた。
「婿殿はどうなった」
 奥間大親は首を振った。
浦添が焼け落ちても首里がある。中山王が無事なら、戦は続行されるじゃろう」

 

 浦添から首里へは何人もの使者が行っていた。しかし、門を通されると捕まって、仮の牢獄に閉じ込められた。
 首里グスクにはあちこちに『三つ巴』の旗がひるがえっていた。浦添から来た使者たちもそれを目にしたが、何の不審も抱かなかった。誰もが、中山王が考え出した首里の印だと思っていた。
 様子がおかしいと気づいたのは、浦添の奥間大親の配下のハマジだった。何とかしてグスク内に潜入しようと思ったが、守りは厳重だった。東門を窺(うかが)っていたら、荷車が何台も来て門の中に入って行った。門はすぐに閉じられたが、門の中にいた武将の顔に見覚えはなかった。浦添の武将なら一通りは知っているつもりだった。あんな武将は今まで見た事もなかった。
 よくわからないが、首里グスクは何者かに奪われたようだった。ハマジは首里から離れて島尻大里へと向かった。
 馬を飛ばして来たハマジから話を聞くと、奥間大親は、「一体、どうなっておるんじゃ」と唸り、腕組みをして考えた。
 ハマジは土に『三つ巴』の絵を描き、「こんな旗がいくつも首里グスクにひるがえっておりました」と言った。
 その絵には見覚えがあった。中山王に命じられて、島添大里按司の事を調べた時、島添大里グスクに、その旗がいくつもひるがえっているのを見ていた。
「まさか‥‥‥」と奥間大親は言って、すぐに若按司に知らせた。
「島添大里按司首里グスクを奪い取ったというのか」とカニムイは怒鳴った。
「島添大里按司も出陣しているはずじゃろう」
「豊見グスクを攻めております。ただ、島添大里按司は体調を崩して寝込んでしまったとかで、弟が出陣しております」
「その弟は何人の兵を率いて来たのじゃ」
「百人です」
「島添大里の兵力は?」
「佐敷と平田に出城があり、それらを合わせても三百前後かと思われますが」
「そんな兵力で首里を落としたと申すのか」
 奥間大親は首を傾げた。
「とにかく、島添大里按司の弟をすぐに呼んで参れ」
 奥間大親は返事をすると、豊見グスクへと向かった。
 カニムイがまた何かを壊したのか、ガシャンという音が響き渡った。