長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

23.名護の夜(最終決定稿)

 浮島(那覇)は相変わらずの賑わいだった。
 この前に来た時から、一年半足らずしか経っていないのに、以前よりも、家々が大分増えているような気がした。島の外れの砂浜には造船所もできて、大きな船を作っていた。
 サイムンタルーの船は島から少し離れた所に泊まっていて、明(みん)から帰って来る進貢船(しんくんしん)を待っていた。サイムンタルーの船以外にも、ヤマトゥから来た船が何隻もあちこちに泊まっていて、明からの船を待っていた。
 サハチが浮島に来たのは、マチルギを今帰仁(なきじん)に連れて行くためだった。
 サハチが勝連(かちりん)から帰って、勝連グスクの話をすると、マチルギは今帰仁グスクを見てみたいと言った。お嫁に来てしまえば、そんな我がままはできないかもしれない。今のうちに、敵(かたき)のいる今帰仁グスクを見たいと強い口調でサハチに言った。今帰仁まで往復するのはかなり大変だが、マチルギなら大丈夫だろうと思った。それに今、サイムンタルーが浮島にいる。船で今帰仁まで行けば、帰りは徒歩でも何とかなりそうだと思い、サハチは父に相談した。
 父はヒューガと一緒なら構わんが、ただ見て来るだけだぞと念を押し、充分に気をつけろと言った。 
 梅雨の明けた五月の半ば、サハチはマチルギ、サム、ヒューガと一緒に浮島に向かった。
 敵地に行くのにサムレーの格好では目立ち過ぎると思い、刀を腰に差すのはやめて、棒を杖代わりにして庶民の格好で行く事にした。ヒューガはヤマトゥンチュなので、そのままでもいいとサハチは言ったが、庶民と一緒にヤマトゥのサムレーが旅をするのは返って目立ってしまう。わしも同じ格好で行こうと言って、野良着(のらぎ)に着替えて、刀を棒に持ち替えた。
 安里から渡し舟に乗って浮島に着くと、その賑わいにマチルギもサムも驚いていた。大通りを行き交う唐人(とーんちゅ)やヤマトゥンチュたちを見て、まるで、異国に来たようだと言い合い、サムは目を丸くして、何を見ても、「凄えなあ」と言っていた
 サハチたちは山伏のハリマの家にお世話になりながら、サイムンタルーの船出を待っていた。ハリマの家も以前より大きくなっていて、お客を泊める部屋がいくつもあった。それらの部屋はヤマトゥンチュのお客でいっぱいだった。うまい具合に一部屋が空いたから、そこを使っていいとハリマは言って、忙しそうにどこかに出掛けて行った。
 サハチたちが浮島に来て三日目、明からの進貢船が帰って来た。島の者たちはお祭り騒ぎで進貢船を迎えた。浦添(うらしい)からも役人たちや見物人が大勢押し寄せて来て、浮島は人で溢れた。
 サハチたちは久米(くみ)村の東側にある松尾山から進貢船を眺めていた。浮島に来てから剣術の稽古をしている山だった。人が滅多に来ないので、剣術の稽古場所としては最適で、山の上からの眺めもよかった。この暑い中、港に行って人混みに押されながら見るよりも、ここの方がずっとよかった。
 進貢船は慶良間(きらま)の方から二隻並んでやって来た。一隻は途中で南に進路を変えて、糸満(いちまん)の方に向かって行った。進貢船を見るのはサハチも初めてだった。ヤマトゥの船よりもかなり大きいようだ。船の前の方に目が描いてあって、海の上を走っている生き物のようだった。進貢船は港が近づくと帆を下ろして、ゆっくりと近づいて来た。
「凄えなあ」とサムは口癖のように何度も言った。
「ほんと、凄いわねえ」とマチルギも言った。
「凄えなあ」とサハチはサムの口真似をした。
 港から何艘もの小舟(さぶに)が進貢船を目指して、競争でもしているかのように漕ぎ出した。
「島添大里(しましいうふざとぅ)按司もようやく帰って来たな」とヒューガが言った。
「そうでしたね」とサハチはうなづいた。
「島添大里按司も明に行ったのでしたね。明の皇帝に会って来たのでしょうか」
「山南王(さんなんおう)の使者として行ったのだから、皇帝に会ったんだろう。皇帝のいる宮殿や明の都を実際に見て来て、考えが変わるかもしれんな」
「どう変わるのですか」
「それはわからんよ。ただ言えるのは、この島から出て、広い世界を目にすれば、人は変わるという事じゃ」
 サハチはヒューガを見ながら、確かにそうかもしれないと思った。
 中山王(ちゅうざんおう)の進貢船には、捕虜となった元(げん)の皇帝の息子とその妻と娘が乗っていた。本来なら殺される所を助けられて島流しになったのだという。サハチたちは見なかったが、捕虜と言っても縛られているわけでもなく、王族らしい立派な身なりで、王子もその妃(きさき)も気品のある顔立ちで美しく、五歳位の娘は何ともいえず可愛らしかったという。噂では久米村に屋敷を与えられて暮らすようだった。
 それから十日後、取り引きを終えたサイムンタルーの船は浮島を出帆した。
 初めて大型船に乗ったマチルギとサムは、船の上でもはしゃいで、サムは、「凄え、凄え」と言っていた。はしゃいでいた二人も、今帰仁が近づくに連れて表情が硬くなり、海上から今帰仁グスクが見えて来ると、拳(こぶし)を握りしめて、グスクの石垣を見つめていた。
 船が親泊(うやどぅまい)に着き、サハチたちはサイムンタルーにお礼を言って上陸した。ここまで来れば、今帰仁グスクはすぐそこだった。
 グスクへと向かう坂道をマチルギもサムも、急に無口になったように黙り込みながら登った。賑わっている城下に着いても、二人は黙り込んだまま、建ち並ぶ家々や行き交う人たちを眺めていた。
 グスクの近くまで来て、そびえる石垣をじっと見上げながら、「ここがそうなのね」とマチルギが言った。
「ここが祖先の地だよ」とサハチは言った。
「思っていたよりも、ずっと凄え」とサムが言った。
「あのグスクにお父さんは十八歳まで住んでいたのね」
「戦がなければ、マチルギもサムもあの中に住んでいたんだ」とサハチが言うと、マチルギは首を振った。
「あたしの母は父が伊波(いーふぁ)に来てから出会ったの。戦がなければ、父は母とは出会わなかったわ。あたしたちは生まれていないのよ」
「そうか。それは気づかなかった」
「一年振りじゃな」とヒューガが言った。
 今帰仁に来たのは、これで三度目だった。まさか、三度もここに来るなんて、自分でも不思議だった。
 研ぎ師のミヌキチの家に行くと相変わらず忙しそうだった。去年はいなかった若い者が二人、ミヌキチの息子たちに怒鳴られながら修行に励んでいた。
 サハチの顔を見ると驚き、サムの顔を見て、ミヌキチはしばし呆然とした。
「もしや、そなたは伊波按司殿の‥‥‥」
「伊波按司の四男のサムです」とサムは名乗り、妹のマチルギを紹介した。
「なんと、妹さんも連れて来られたのか」
 そう言ってミヌキチは皆を迎え入れ、外の様子を窺った。
 家に上がって改めて挨拶をすると、ミヌキチはサムとマチルギを見て、「危険すぎる」と言った。
「サム殿は父上にそっくりじゃ。羽地(はにじ)按司に攻められてグスクを追われた時、丁度、そなた位の歳じゃった。当時の父上の事を知っている者は、もうあまりいないとは思うが、危険すぎる。もしもの事があったら、わしは父上に顔向けができん」
「ミヌキチ殿、もしかしたら、ここは見張られておるのか」とヒューガは聞いた。
「特に見張られてはおらんが、サハチ殿とヒューガ殿の事は聞かれた事がある。南部の佐敷の人で、ヤマトゥに行くらしいとこの前は答えた。別に怪しんだようではなさそうじゃったが、こう何度も来ると怪しまれるかもしれん」
 ヒューガはうなづいた。
「わしらが来るとミヌキチ殿に迷惑が掛かる。今回は遠慮した方がよさそうじゃな」
「いや。来てしまったからにはしょうがない。何かうまい理由を考えるさ。それにしても、サム殿とマチルギ殿はどうして、今帰仁に来られたのです」
「どうしても、この目で見たかったのです。敵(かたき)がいるグスクを」とマチルギが言った。
「それに、父が育った所も見たかった」とサムは言った。
「そうでしたか。敵討ちに励んでいると聞きましたが、お二人とも敵に会った事もなかったのですね。まあ、そのお気持ちはわかりますが危険すぎます。羽地(はにじ)按司は前按司の遺児が生きていて、伊波按司と山田按司になっている事を知っています。多分、密かにお二人を見張っているはずです」
「えっ、父は見張られているのですか」とサムが驚いた。
今帰仁按司は伊波按司と山田按司を恐れています。できれば、殺したいと思っているでしょう。お二人も、伊波按司の子だとわかれば殺されてしまいます。早いうちに、ここから離れた方がいい」
「黒木(くるち)を買いに来た事にしましょう」とサハチが言った
「丁度、今、佐敷では屋敷を建てているので、材木が欲しいはずです」
「成程」とミヌキチはうなづいた。
「南部から黒木や赤木を買いに来る者は多い。その手で行きましょう」
 その後、ミヌキチの家から一歩も出ずに、一晩お世話になると、サハチたちは今帰仁をあとにして親泊に行き、親泊で黒木を買いたいと聞き回った。買う事はできるのだが、輸送が問題だった。佐敷と言っても誰も知らず、浮島までなら運ぶ事はできるが、それ以上は無理だという。仕方なく、買うのは諦めて引き上げる事にした。
 サイムンタルーの船はまだ泊まっていた。荷物を船に運び入れている船乗りたちには出会ったが、サイムンタルーに会う事はできなかった。船乗りたちに、サイムンタルーにお礼を言ってくれと頼んで港から離れた。
 親泊から名護(なぐ)へ行く途中、サハチたちは何者かに、あとを付けられている事を感じていた。
「後ろを見るな」とヒューガは小声で言った。
 人家もなくなり山道に入り、危険が迫っている事をサハチたちは感じていた。
 しばらくすると、山の中から三人の男が出て来て道をふさいだ。見たところサムレーではなく、港で働いていた人足(にんそく)のようだったが腰に刀を差していた。
「ちょっと待ってもらおうか」と人足の一人が顔の汗を汚い手拭いで拭きながら言った。
「何者だ」とヒューガが聞いた。
「伊波按司の倅と娘だな」と後ろから声がした。
 振り返ると、太ったサムレーが一人と人足が三人、道をふさいでいた。
「わしは以前、伊波に行った事があるんじゃ。二人の顔には見覚えがある」と太ったサムレーがニヤニヤしながら言った。
「わざわざ挨拶に来たのか」とヒューガが聞いた。
「馬鹿言うな。捕らえれば、わしは出世できる」
「おぬしの出世など興味ない」
「何じゃと。やっちまえ」
 前にいる三人が刀を抜いて掛かって来た。
 一瞬のうちに三人は、ヒューガ、サハチ、マチルギの棒に打たれて気絶した。後ろの人足三人も刀を抜いたが、目の前で起こった事が信じられず、刀を構えながらも、なかなか掛かって来なかった。
「掛かれ」とサムレーは怒鳴った。
 人足の一人がわめきながらマチルギに掛かって行ったが、急所を打たれてうめきながら倒れた。それを見た二人の人足は悲鳴を上げながら逃げて行った。
「くそっ、覚えていろよ」とサムレーも逃げて行った。
 ところが、そのサムレーは数歩行った所で急に倒れた。
 ヒューガが行って調べると、頭から血が流れていて死んでいた。石つぶてにやられたのだった。
 ヒューガが石が投げられた山の方を見ていると、三人の男が山の中から出て来た。
「何者だ」とヒューガは聞いた。
「奥間(うくま)の鍛冶屋(かんじゃー)じゃ」と一人が言った。
「奥間の鍛冶屋がどうして、こいつを殺したんだ」
今帰仁に戻って、追っ手を掛けられたら面倒なんでな」
「もしかして、わしらの味方なのか」
「あなたは佐敷の鍛冶屋じゃないですか」とサハチが言った。
「やはり、若按司様(わかあじぬめー)は顔を覚えていましたね。今年の正月から佐敷で鍛冶屋をやらせてもらっているヤキチと申します」
「佐敷からこんな所に何か用でもあったのですか」
「長老から若按司様を守れと命じられて、付いて来たというわけです」
「奥間の長老が、どうして俺を守るのです」
「さあ、わしにはわかりませんが、奥間ヌルのお告げがあったようです」
 サハチは首を傾げた。
「ミヌキチが危険じゃ」とヒューガが言った。
「それは大丈夫です」とヤキチは言った。
「あのサムレーは親泊で、お二人の事に気づいて追って来ています。それ以前の事は知らないでしょう」
「そうか。それならいいのだが、ミヌキチにもしもの事があったら、伊波按司殿に申しわけが立たない」
「ミヌキチの事はわしらの仲間が守っています。何か起これば必ず助け出すでしょう」
「そうか。それにしても助かった。お礼を言う」
 ヤキチの仲間の二人が逃げて行った二人の人足をかついで戻って来た。二人の人足は気絶していた。
 サムレーの遺体を山の中に隠し、気絶している六人の人足を木に縛り付けて、一行は旅を続けた。奥間鍛冶屋の五人も一緒に付いて来た。
 名護に着いて木地屋(きじや)の親方の屋敷にお世話になった。前回、名護に来た時はクマヌの知り合いの猟師の家にお世話になったが、クマヌがいないのに押しかけるのは気が引けていた。ヤキチはクマヌの知り合いの猟師を知っていたが、木地屋の親方の屋敷の方が広くていいだろうと連れて行ってくれた。
 木地屋の親方の屋敷は、名護(なん)グスクのある山とは別の山の中にあった。ヤキチが言う通り、その屋敷は大きく、こんな山の中にこんな屋敷があるなんて不思議に思えた。
「ユシチと言ってな、奥間の木地屋の親方の弟じゃ。この辺り一帯の木地屋の親方なんじゃよ」とヤキチは説明した。
木地屋というのは鍛冶屋みたいに各地にいるのですか」とサハチは聞いた。
木地屋は山の中を移動しながら暮らしている。いい木があればそこに落ち着いて仕事をする。何年かして、材料の木がなくなったら別の場所に移動して行くんじゃよ。鍛冶屋は村々にいるが、木地屋は村にはいない。ただ、作った物を売り歩いている者は各地にいる。人の多い城下には店を持って、売るのを専門にしている者もいるんじゃ。まだ佐敷にはおらんが、島添大里の城下には店がある」
木地屋同士も各地の情報を集めているのじゃな」とヒューガは聞いた。
「作った物を売らなければならんからのう。売り歩いている者たちから、どこで何を欲しがっているという情報は仕入れている。今、佐敷でグスクの拡張をしている事も木地屋は知っている。できあがる頃を見計らって、売れそうな物を持って売りに行くじゃろう」
「勝連もグスクを拡張していますが、あそこには店があるのですね」
「ああ。古くからあるグスクの城下には必ず店があるんじゃ」
「そういう店や各地で売り歩いている者たちも、ここの親方の配下なのか」とヒューガが聞いた。
「いや、ここの親方の配下は職人だけじゃ。売り歩く者たちの親方は浦添にいる」
「そういう者たちも皆、奥間とつながっているのか」
「勿論じゃ」
「凄いのう。そうなると、あの長老の配下の者たちは相当な数になるな」
「毎年、正月になると各地にいる者たちが奥間に帰って来る。留守を守る者もいるので全員とは言えんが、正月の奥間は人だらけになる。主立った者たちだけでも百人はいるじゃろうな」
 サハチはヤキチの話を聞きながら長老の顔を思い浮かべ、あの時は、どこにでもいる村の長老としか見ていなかった自分を恥じていた。そんな凄い人だったとは思ってもいなかった。この先、長老の力を借りなければならなくなるだろうと感じていた。
 木地屋の親方、ユシチはサハチたちを歓迎してくれた。突然、訪ねたにもかかわらず、山の幸や海の幸の御馳走でもてなしてくれた。客用の部屋がいくつもあるのか、サハチとマチルギに二人だけの部屋も用意してくれた。
「来てよかった」とマチルギは二人だけになるとサハチを見て笑った。
「敵(かたき)のグスクも見たし、あたしたちが敵に見張られているという事もわかったわ。それに、ここの親方って、お椀やお盆を作る人たちの親方なんでしょ。そんな人のお世話になるなんて思ってもいなかったわ。あんな凄い御馳走まで出してもらって。あなたは鍛冶屋の人たちにも守られている。一体、あなたは何者なの」
「何者って、佐敷の若按司のサハチだよ」
「奥間の長老って誰なの」
今帰仁より北の方に奥間っていう村があって、そこの長老なんだ。去年の旅で行ったんだよ。クマヌが長老を知っていて、しばらく、奥間で師匠を手伝って、若い者たちに武術を教えていたんだ」
「ヤキチっていう鍛冶屋の人は、長老からあなたを守れって言われたんでしょ。どうして、あなたを守るの」
「それは俺にもわからない」
 ヤキチは奥間ヌルのお告げがあったと言っていた。どんなお告げがあったのだろうか。それはわからないが、奥間の長老が味方になってくれれば、この先、かなり助かる事は事実だった。
「佐敷グスクのお屋敷の隣りにある光る石は何なの」とマチルギが聞いた。
「えっ」とサハチは驚いてマチルギを見た。
「マチルギはあの石が光るのを見たのか」
「見たわ。石が光るなんて信じられなかったけど、確かに光っていたわ」
「いつ、光ったんだ」
「あなたが帰って来る前よ。お稽古が終わったあと、あなたのお母様に呼ばれて、一の曲輪に上がった時よ。お屋敷の横の方が明るかったので行ってみたら、祠(ほこら)の中にある石が光っていたの。あなたのお母様にその事を聞いたら、目を丸くして驚いていたわ。お母様と一緒にその石の所に行ったんだけど、もう光ってはいなかった。でも、お母様はあたしの言った事を信じてくれて、その石はあなたの守り神だって教えてくれたわ。お母様は直接に見ていなかったらしいけど、あなたが生まれた時に、その石は光ったって言っていた」
「そうか、マチルギは見たのか。俺はまだ一度も見ていないんだ。」
「えっ、そうなの」
「最初に光ったのは、親父が剣術の修行をするために山の中に入った時らしい。その石が光ったので、親父はその石の隣りに修行小屋を建てたんだ。俺はその小屋で生まれたらしい。俺が生まれた時、石が光って、志喜屋(しちゃ)の大主(うふぬし)はその光に導かれて小屋まで来て、俺の誕生を祝福してくれたそうだ。今の苗代之子(なーしるぬしぃ)の屋敷の場所だよ。佐敷グスクができて、その石を今の場所に持って来たんだけど、一度も光った事はなかった。神様は元の場所に留まっているのかもしれないって親父は言っていた。マチルギが見たのなら、神様はあそこにちゃんといたんだな」
「そうだったの。それで、あなたのお母様は驚いていたのね」
「そうさ。マチルギが光った石を見たのなら、マチルギは佐敷に来る運命だったのかもしれない」
「不思議なんだけど、佐敷に滞在しているうちに、ここはあたしがいるべき場所なんじゃないかって気がしていたのよ。あなたが言う通り、あたしは佐敷に来る運命だったのかしら」
「そうだよ、きっと。あの石は三度、光った。次に光る時は俺も見てみたい」
「次に光るのはいつかしら」
「さあな。島添大里グスクを攻める時かな」
「あのグスクを攻めるの」
「敵だからな。島添大里グスクを攻め取ったら、次は浦添グスクだ。そして、今帰仁グスクを攻める」
 マチルギはサハチを見つめ、「ほんとに今帰仁按司を倒す気なの」と聞いた。
「倒すさ。マチルギの敵討ちは必ずやる。時間は掛かるかもしれないけど、俺は必ずやる」
「ありがとう」とマチルギは目を潤ませて言った。
 サハチはマチルギを抱き寄せた。