長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-35.龍の爪(第二稿)

 ナツとメイユーの試合のあと、二人は仲良しになって、メイユーは度々、島添大里(しましいうふざとぅ)グスクにやって来た。リェンリーは来なくなって、メイユーはユンロンと一緒に来て、子供たちと遊んでいた。子供たちから琉球の言葉を習い、子供たちに明国の言葉を教えていた。物覚えの速い子供たちの方が、サハチよりも明国の言葉がうまくなるのではないかと恐れもし、期待もした。
 首里(すい)に行ったり島添大里に行ったりの生活をサハチは繰り返していた。首里にいる時、ファイチの使いが来て、久米村(くみむら)に向かった。
 メイファンの屋敷に行くと、ウニタキも来ていて、ファイチ、メイリン、メイユー、ユンロンが顔を揃えて待っていた。
「サハチさん、朝鮮(チョソン)に送った船の事を調べました」とファイチが言った。
 サハチはお礼を言って、みんながいる円卓の椅子に腰を下ろした。
「当時の使者は久米村にいるのか」とサハチが聞くと、ファイチは首を振った。
「使者の記録が残っていないのです。明国に送った進貢船(しんくんしん)の記録はちゃんとしているのですが、朝鮮の記録はいい加減で、使者の名も通事(つうじ)(通訳)の名も書いてないのです。察度(さとぅ)は洪武(こうぶ)二十二年(一三八九年)、洪武二十三年、洪武二十五年、洪武二十七年と四回、朝鮮に使者を送っています。武寧(ぶねい)は洪武三十年、洪武三十二年、洪武三十三年、永楽元年(一四〇三年)とやはり四回、送っています。察度が送った最初の三回は記録にありませんが、それ以降は明国から賜わった進貢船で行っています」
「なに、進貢船で朝鮮まで行ったのか」とサハチは驚いた。
「ヤマトゥ船よりも荷物が積めるからでしょう。朝鮮だけでなく、ヤマトゥとも交易して来たに違いありません」
「成程な、博多に寄ったのだな」
「多分、そうでしょう」とファイチはうなづいて、話を続けた。
「察度の一回目の記録はありませんが、二回目の時は三十七人の高麗人(こーれーんちゅ)を送り返しています。三回目は八人、四回目は十二人、武寧の一回目は九人で、その後の記録はありません。朝鮮に献じた物は硫黄(いおう)、蘇木(そぼく)、胡椒(こしょう)、亀の甲羅などで、朝鮮から賜わった物の記録はありません。察度の四度目の時は大量の高麗瓦(こーれーかーら)を持ち帰っています。高麗から朝鮮に変わった時期で、高麗の名の入った瓦を処分したようです。記録の残っているのはこれだけでした」
「どうして、使者の記録がないんだ」とウニタキが聞いた。
「多分、アランポーの身内の者が使者になったのだと思います。琉球王の名を借りて、アランポーの一族が交易の儲けを奪い取っていたのでしょう」
「きたねえ奴だな」とウニタキは舌を鳴らした。
「アランポーは久米村の王様でしたからね。やりたい放題でしたよ」
「朝鮮の言葉ができる通事はいるのか」とサハチは聞いた。
 ファイチは首を振った。
「久米村にも以前は、倭寇(わこう)が連れて来た高麗人が奴隷(どれい)として働いていたのですが、今はいません。冊封使(さっぷーし)が来る前に、永楽帝の使者が来ましたが、その時、罪人と一緒に、倭寇に連れ去られた者たちも明国に連れていかれました。最近は辻(ちーじ)の人買い市場にも誰もいません」
「それは確かだ」とウニタキが言った。
「捕まっている朝鮮人(こーれーんちゅ)がいたら助けて、朝鮮に帰してやろうと俺も行ってみたんだが、以前、朝鮮人が囚われていた小屋は空き家になっていて、かなり荒れ果てていた。勿論、見張りの者も誰もいない。どうしたのだろうと思って、俺はハリマ(若狭町の宿屋の主人)に聞いてみたんだ。そしたら、みんな、ヤマトゥに連れて行かれたと言った。ヤマトゥの武将たちは朝鮮のお経(大蔵経)とやらが欲しくて、朝鮮の気を引くために、倭寇によって連れ去られた者たちを朝鮮に送り返しているらしい。ここから連れて行かれた者たちは、そういう武将に売られて、本国に返されるようだ。ハリマが言うには博多を仕切っていた今川了俊(りょうしゅん)という武将は一千人余りもの朝鮮人を送り返したそうだ」
「一千人とは凄いな」とサハチは驚いた顔で皆の顔を見回した。
今川了俊には及ばないが、志佐壱岐守(しさいきのかみ)殿も朝鮮人を送り返していると言っていた。壱岐島(いきのしま)にはかなりの朝鮮人がいるらしい。でも、農作業をして働いているので、全員を返してしまったら、島の者たちが食えなくなってしまう。年老いた者たちを送り返していると言っていた。それに、連れ去られて来た者だけでなく、自ら進んでやって来た者も多いと言っていた。朝鮮にいても食うに困ってる者たちが壱岐島に来て働いているようだ」
「そうなると、通事はいないという事になるな」とウニタキが言った。
 通事がいなければ話にならなかった。
「久米村にはいませんが、朝鮮人を買って、使用人として使っている者はいるはずです」とファイチは言った。
「遊女屋(じゅりぬやー)か」とウニタキが笑った。
「遊女(じゅり)に通事は勤まるまい」とサハチが言うと、
「女では通事として認めてもらえないでしょう」とファイチは首を振った。
「武寧の側室は従者を連れていなかったのか」とウニタキがファイチに聞いた。
「二人は松浦党(まつらとう)から送られた女で従者はいませんが、一人は国が変わって逃げて来た高麗(こーれー)の姫様で従者を連れていました。武寧は従者たちに屋敷を与えて保護していましたが、浦添(うらしい)グスクが焼け落ちた時に逃げてしまったようです」
「逃げたって、朝鮮にか」とサハチは聞いた。
「多分、ヤマトゥの船に乗って逃げたのでしょう。ヤマトゥに着いたら、ウニタキさんが言っていた武将に売られたのかもしれませんが、琉球にはいません」
「参ったなあ」とウニタキは頭を抱えた。
琉球言葉と朝鮮言葉の通事はいないが、ヤマトゥ言葉と朝鮮言葉の通事ならいる」とサハチは言った。
「ヤマトゥ言葉と朝鮮言葉? そんな奴がどこにいるんだ」
「ヤマトゥにもいるし、朝鮮にもいる。シンゴの兄貴と叔父さんだ」
「朝鮮の言葉がしゃべれるのか」
 サハチはうなづいた。
「シンゴの兄貴はもともと高麗人だ。高麗からさらわれて来たんだが、頭がよくて度胸もあるので、シンゴの姉さんの婿になった男だ。今も壱岐島にいるはずだ。叔父さんの方は朝鮮の富山浦(ブサンポ)で店を開いていて、朝鮮の言葉はペラペラだ。頼めば通事をやってくれると思う。本人がだめでも誰かを紹介してくれるだろう」
「ヤマトゥ言葉じゃファイチにはわからないな」とウニタキは言って、ファイチを見た。
「二人が通訳してくれれば大丈夫です」とファイチは笑った。
「通事はそれでいいとして、使者をどうするかですね」
「ヤマトゥ言葉がわかる使者はいないか」とサハチは聞いた。
 ファイチは首を振った。
「うまくいかんな」とウニタキは首を振ったあと、サハチの顔を見つめると、「おい、お前んとこにいるじゃないか」と言った。
 サハチにはウニタキが何を言っているのかわからなかったが、突然、ひらめいた。
「鮫皮(さみがー)の職人だ」とサハチは言った。
「そうだよ。あそこに高麗人が何人かいたぞ」
「確かにいる」とサハチはうなづいた。
「叔父さんに頼んでみよう」
琉球言葉がわかる高麗人と朝鮮言葉がわかるヤマトゥンチュと二人の通事がいれば、使者は誰でもいいだろう。それなりの手続きができる者ならばな」
「朝鮮に行くにしろ、ヤマトゥに行くにしろ、商品を確保しておかなければなりません」とファイチが言った。
「あっ、そうだな」とサハチはうなづいた。
「明国の商品と旧港(ジゥガン)の商品を選んで確保しておこう」
 話がまとまり、前回、メイユーが寝込んでいたので、改めて歓迎の宴を始めた。
「リェンリーはどうしたんだ」とファイチが聞いた。
「きっと、首里グスクよ」とメイユーが言った。
「リェンリーはちょっと変わっていて、古い陶器とか、古い絵や書とか、古いお寺(うてぃら)とかに興味を持っていて、今、首里グスクに建てている楼閣に興味があるみたいなの」
「俺がここに来る時、親父と一緒に彫刻に熱中していたよ」とサハチが言った。
「リェンリーが彫刻? そう言えば、かなり前だけど、偶人(オウレン)(人形)を彫っていた事もあったわ」
「オウレン?」とサハチは聞いた。
 メイユーは首を傾げてファイチを見た。
「子供のおもちゃです」とファイチが説明した。
 彫刻を始めたのはいいが、一人ではとても間に合わないと思った思紹(ししょう)は、手先が器用な者に手伝わせていた。キラマの島にいた時は小屋から食器にいたるまで、自分たちで作っていたので、誰が器用だか知っているのだろう。伊是名親方(いぢぃなうやかた)や外間親方(ふかまうやかた)を初めとした、かつての弟子たちが非番の時に手伝っていた。その中にリェンリーも加わっていたのだった。
「まったく」とメイリンは文句を言った。
「リェンリーは首里、メイユーとユンロンは島添大里、あたしはいつも留守番よ」
「まあまあ」とウニタキがなだめた。
「今度、どこかに連れて行くよ」
「ほんと?」
 ウニタキはうなづいた。
 二人の様子を見ながら、「メイファンに会いたいよ」とファイチが言って、皆を笑わせた。
 今、メイファンが赤ん坊と暮らしている西湖(せいこ)のほとりの屋敷の話をしていたら、リェンリーが帰って来た。一人ではなかった。伊是名親方(マウー)が一緒だった。
「みんな、いたんだ」とリェンリーは喜び、伊是名親方はサハチたちがいたので恐縮した。
「話がうまく通じないのよ」とリェンリーは両手を広げた。
「まあ、座れよ」とサハチはリェンリーと伊是名親方に言った。
按司様(あじぬめー)」と言って、堅くなって立っている伊是名親方に、「ここに俺がいる事は親父には内緒だ。勿論、島添大里にもだ。ここは久米村。異国にいると思って、楽にしていい」とサハチは笑った。
 伊是名親方はうなづいて、メイユーが用意した椅子に腰を下ろした。
 伊是名親方は伊是名島のナビーお婆の息子だった。思紹の従弟(いとこ)で、思紹が東行法師(とうぎょうほうし)になって旅をした時に、久高島に連れて行って修行をさせた。キラマの島に移ってからは師範代として若い者を鍛え、首里グスク攻めで活躍して、首里のサムレー大将になっていた。サハチより二つ年下だった。
「前から聞きたいと思っていたんだが、二十年前に俺が伊平屋島(いひゃじま)に行った時、お前も伊是名から来ていたのか」
 伊是名親方は首を振った。
「あの時、俺は留守番でした。俺は末っ子でしたから、兄貴たちが子供たちを連れて伊平屋島に行くのを見送ったんです」
「やはり、いなかったか」とサハチはうなづいた。
「何しろ、大勢の子供たちがいたからな、お前もその中にいたんだろうと思っていたんだが、いなかったのか。ようやく、二十年前の疑問が解けたよ」
「リェンリー、伊是名親方に何が聞きたかったんだ」とファイチがリェンリーに聞いた。
「聞きたい。違う。説明したいの」とリェンリーは言った。
「何を?」
「龍の爪」
「何?」とファイチが言うと、リェンリーは明の言葉で話し始めた。
 話を聞きながらファイチはうなづき、サハチたちに説明した。
「リェンリーが言いたいのは、五本指の龍は明国の皇帝しか使えないという事です。ここは琉球ですが、冊封使(さっぷーし)がその龍を見たら大騒ぎになります。琉球の王が皇帝になろうとしていると誤解を受けかねません。四本指に直すべきだと言っています」
「五本指だとまずいのか」とサハチは自分の手を見ながら、ファイチに聞いた。
「まずいです。壊されてしまうかもしれませんし、その事が永楽帝に知られたら、進貢もできなくなるかもしれません」
「龍の爪が、そんな大げさな事になるのか」
「明国では龍は皇帝を象徴するものなのです。皇帝を象徴する黄色が使えないように、五本指の龍も使えないのです」
「そうか。親父に言って直させよう」
 ファイチが明の言葉で言うと、リェンリーは嬉しそうに笑った。さらにファイチが何かを言うと、リェンリーは恥ずかしそうに顔を赤らめた。そんなリェンリーを見ながらファイチは笑った。
「確かに重要な事だが、わざわざ、伊是名親方を連れて来る事もあるまいと言ったら、顔を赤くしました。どうやら、伊是名親方が気に入ったご様子です」
「えっ」と伊是名親方は驚いた顔をしてリェンリーを見た。
「リェンリーは二年前に夫を亡くして、子供もいませんよ」とメイユーが言った。
「お前はかみさんがいるのか」とサハチは伊是名親方に聞いた。
「はい。おります」
「そうだろうな‥‥‥しかし、キラマの島でずっと修行していたんだろう。いつ、嫁さんをもらったんだ」
「キラマの島で知り合って、こっちに移ってから嫁に迎えました」
「そうだったのか」
 伊是名親方は窓から外を眺め、「そろそろ失礼します。明日は仕事なので」と言って立ち上がった。
 伊是名親方が部屋から出て行くとリェンリーはあとを追って行った。しばらくして戻って来たリェンリーは嬉しそうな顔をして笑って、「あの人、いい人」と言った。
 伊是名親方とリェンリーの事を肴(さかな)にして酒を飲んでいるとリェンリーの父親のラオファンが帰って来た。久米村の長老、チォンフー(程復)と親しくなって、よく碁を打ちに行っているという。ラオファンも加わって、リェンリーの子供の頃の話を聞いた。
 その夜はサハチもウニタキもメイファンの屋敷に泊まった。ようやく二人きりになれたサハチとメイユーは、話したい事がいっぱいあったはずなのに、何も言わずに見つめ合い、抱き合っていた。
 次の日、サハチは馬天浜に行き、叔父のサミガー大主(うふぬし)と相談した。朝鮮に行くのなら連れて行ってほしい夫婦者がいると叔父は言った。
「二十年以上も琉球にいるので、どちらの言葉もできる。きっと、奴なら通事も勤まるじゃろう。こっちで生まれた息子も一人前の職人になって、浜の娘を嫁にもらった。年老いてきたので、故郷に帰りたいと言っているんじゃよ。長年、真面目に働いてくれたからのう。わしとしても帰してやりたいと思っているんじゃ」
 サハチはその夫婦と会った。五十年配の夫婦で、普通に琉球言葉を話していた。二十年も離れていて、朝鮮の言葉を覚えているのかと聞くと、仕事仲間に朝鮮人はいるし、夫婦で話す時も朝鮮の言葉を使っているから大丈夫だと言った。サハチは一緒に連れて行く事に決めた。
 その翌日、大きな台風が来た。首里グスクの西曲輪(いりくるわ)で普請(ふしん)中の楼閣を見上げていた時、サハチは気の流れの異変を感じ、台風が来ることを察知した。運玉森(うんたまむい)ヌルに確認すると、確かに大きな台風が来るという。サハチは思紹に告げ、首里の事は思紹に任せて、島添大里グスクに向かった。
 島添大里グスクではサスカサによって台風が来る事を知らされ、対策を始めていた。
「佐敷と平田に知らせたか」とサスカサに聞くと、「大丈夫よ」とうなづいた。
 サハチは娘のサスカサを見ながら、いつの間にか立派なヌルになっていたと改めて思っていた。
 屋敷に入ると、ナツが屋敷内を見回って、侍女たちに指図していた。メイユーとの試合のあと、ナツは変わった。ナツが変わったというよりは、周りの者たちがナツを見る目が変わったのだろう。留守の間の子守役として、マチルギが側室にしたに違いないと陰口をたたいていた者たちが、尊敬の眼差しでナツを見るようになり、進んでナツに従うようになっていた。
 サハチとしても嬉しい事だったが、ナツとメイユーが仲よくなって、ナツから色々と話を聞いたのか、メイユーが第三夫人にしてくれと言ったのには参っていた。第三夫人と言っても、グスクに入るわけじゃないのよ。琉球にいる時だけ、あなたの奥さんになるのとメイユーは笑った。サハチは答えず、来年、マチルギと相談してくれと逃げた。
 正午(ひる)過ぎから降って来た雨は、夕方になると激しくなり、風も強くなってきた。そんな中、ウニタキがびっしょりになってやって来た。
メイリンを連れて勝連(かちりん)まで行って来たんだ。朝はいい天気だったのにひどい目に遭った」とウニタキは侍女から渡された手ぬぐいで顔を拭きながら言った。
「勝連? 何で勝連に行ったんだ」
「俺が生まれ育った所を見たいってメイリンが言ったのさ。向こうに着いて、港から佐敷の方を眺めていたら、急に台風が来るって感じたんだ。メイリンに聞いたら、まさかと笑った。俺は何だかいやな予感がして、姉の勝連ヌルを訪ねて聞いてみた。勝連ヌルは空を見上げてから、しばらく目を閉じていた。目を開くとうなづいて、大きな台風が来るわと言った。俺たちは慌てて帰って来たんだが、途中で雨に降られてびっしょりになっちまった。メイリンを浮島に届けてから、ここに来たんだよ」
「みんな、ちゃんと帰っていたか」とサハチは聞いた。
「メイユーはいた。リェンリーとユンロンはいなかった」
「リェンリーは首里にいた。ユンロンはどこに行ったのだろう」
「大丈夫さ。今頃は帰っている」
 サハチはうなづき、侍女に着替えを用意させた。
 打ち付ける雨の音と不気味な風の音を聞きながら、一睡もできずに夜は明けた。明国から仕入れた蝋燭(ラージュ)(ろうそく)が大いに役立った。窓から吹き込む雨も蝋燭で照らして対処する事ができた。
 怖がっていた子供たちも女子サムレーのシジマの昔話を聞きながら眠ってしまい、騒ぐ事もなかったので助かった。
 朝になっても激しい雨は降っていた。風は少し弱まったようだ。正午頃にようやく小降りになってきた。
 サハチはウニタキと一緒に外に出た。どこから飛んで来たのか、グスク内には折れた枝葉があちこちに落ちていた。一通り見回ってみて、壊れた建物もなさそうだったので一安心した。東曲輪(あがりくるわ)の佐敷ヌルの屋敷にユンロンがいた。帰れなくなって泊めてもらったらしい。メイユーたちが心配しているだろうと思ったが、無理をして帰っても渡し場の舟が止まって、浮島には帰れなかったに違いない。ここにいてよかったんだと考え直した。
「この台風は北上してヤマトゥに行くんじゃないのか」とウニタキが言った。
「今頃は対馬にいるだろう。心配ない」とサハチは言った。
 そうは言ったものの船に乗って京都に向かっているかもしれないし、あるいは朝鮮に向かっているかもしれない。どうか無事であってくれと祈った。
 サハチはサムレーたちに命じて、佐敷や平田の様子を調べさせた。ウニタキも各地の様子を見てくると言って出掛けて行った。
 佐敷から帰って来たサムレーから、馬天浜(ばてぃんはま)が大変だと聞いたサハチはすぐに馬天浜に向かった。
 ひどい有様だった。海辺にあった家々は皆、潰れていた。ヤマトゥから来る船乗りたちが使う離れも潰れていた。サミガー大主の屋敷は無事だったが、ほとんどの家が破壊されていた。住んでいた人々は佐敷グスクに避難していたので無事だが、もとの生活に戻るには二ヶ月近くはかかるだろう。
 サハチは弟の佐敷大親と相談して、直ちに復興対策を練り、島添大里からも手の空いている者たちを呼んで、壊れた家々の片付けを命じた。
 ウニタキが調べた所によると、大きな被害が出たのは知念(ちにん)、馬天浜、中グスク、勝連だという。知念も何軒かの家が倒れ、中グスクも海辺の家々がやられ、勝連もウミンチュたちの家が何軒も倒れたという。
首里は大丈夫だったんだな」とウニタキに聞くと、「普請中の楼閣も無事だった」と言ったので、よかったと安心した。
浦添も無事か」
「普請中の屋敷は無事だ」
「進貢船も無事か」
「大丈夫だ。メイファンの屋敷も無事だ。海で嵐に遭った時よりも怖かったとメイリンは言っていた。屋敷が壊れて下敷きになってしまうと恐れていたようだ」
「そうか」とうなづきながら、みんなを島添大里グスクに呼んだ方がよかったかなとサハチは思っていた。
 首里からも伊是名親方がサムレーたちを率いて馬天浜にやって来た。首里から食糧も届き、佐敷グスクで炊き出しも始まった。大勢の者たちで協力し合えば、予定よりも早く復興できそうだった。

 

 

 

 

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