長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-100.華麗なる御婚礼(第一稿)

 二月九日、首里(すい)のお祭り(うまちー)が行なわれた。
 首里に滞在していたイトたちは勿論の事、与那原(ゆなばる)で武術修行をしていたスヒターたちも戻って来て、お祭りを楽しんだ。
 お芝居は『鎮西八郎為朝(ちんじーはちるーたみとぅむ)』だった。ササとサスカサから話を聞いて、佐敷ヌルが作った新しいお芝居だった。戦(いくさ)の場面が多く、背の高い女子(いなぐ)サムレーのウフハナが為朝を演じて喝采を浴び、為朝の強弓から射られた矢が二人の武将を貫く場面は、観客が悲鳴を上げるほど見事な演出だったという。
 サハチはチューマチの婚礼と進貢船(しんくんしん)の準備で忙しく、お芝居は観られなかった。いつもなら翌日、御内原(うーちばる)でお芝居の再演をするのだが、御内原も婚礼の準備で忙しく、再演は婚礼が終わってからとなった。
 お祭りの翌日、ジルムイの妻、ユミのお腹が大きくなり、五歳になった長男のジタルーを連れて御内原に入った。御内原では王妃を中心に側室や侍女たちが、婚礼で着る重臣たちの衣装を縫っていた。明国の官服(かんぷく)を真似したお揃いの衣装だった。ユミも体をいたわりながら手伝った。
 首里のお祭りの五日後、『油屋』の船に乗って、花嫁が浮島にやって来た。花嫁の護衛役は本部(むとぅぶ)のテーラーだった。花嫁のマナビーは女子サムレーの格好で、付いて来た五人の侍女も女子サムレーだった。一行は新しくできた宿泊施設『那覇館(なーふぁかん)』に入った。
 サハチは『天使館』を使うつもりでいた。しかし、ヤマトゥに行った交易船が旧港(ジゥガン)の船を連れて来たらどうするのとマチルギに言われた。去年は来なかったので、今年は来るかもしれなかった。『天使館』に旧港の者たちが入っていれば使えない。若狭町(わかさまち)にある宿屋にはヤマトゥの商人たちが滞在していて、どこも一杯だった。それで、新たに宿泊施設を建てる事に決めたのだった。『那覇』というのは、その辺りの古い地名で、老ウミンチュから聞いて、何となく響きがいいので施設の名前にした。
 旧港の船は来なかったが、ジャワの船が来て、『天使館』を使っていた。マチルギの先見の明にサハチは感謝した。
 怖いもの知らずの花嫁だった。『那覇館』にじっとしていないで、さっそく、侍女たちを連れて浮島を散策していた。テーラーは休む暇もなく、花嫁に従って浮島を案内した。
「ヤンバルから女子サムレーの花嫁がやって来た」と噂が広まって、人々が集まって来た。見物人たちに囲まれながら、花嫁は楽しそうに若狭町を見たり、久米村(くみむら)を見て回った。
「ヤンバルのお姫様は美しい」という噂も広まり、野次馬の数は増えるばかりで、知らせを聞いたサハチは、浮島の警護に当たっている三番組のサムレーたちに見物人の整理を命じた。
 噂を聞いて、首里にいたンマムイもやって来た。テーラーとの再会を喜び、花嫁のマナビーは、
「伯父様、南部にやって参りましたわ。よろしくお願いします」と挨拶をした。
「おやまあ、相変わらずの格好ですね」とンマムイは笑った。
 乗馬が好きなマナビーはいつも馬乗り袴をはいていた。一緒に来た五人の侍女たちもマナビーに従うには馬に乗れなければならず、武芸の稽古もマナビーと一緒にやっていた。
 マナビーの母親はンマムイの妹のマーサだった。そして、ンマムイの妻のマハニはマナビーの叔母であり、義理の伯母でもあった。
「マハニ叔母さんはお元気ですか」とマナビーは聞いた。
「ああ、元気だよ。一時は今帰仁(なきじん)にはもう帰れないと嘆いていたけど、同盟を結んだお陰で、今帰仁にも帰れると喜んでいるよ」
「父から中山王(ちゅうさんおう)のもとへお嫁に行けと言われた時は驚きました。でも、伯父様と叔母様がいらっしゃるので、安心して参る事ができました」
「マナビーのお婿さんになる男は、島添大里按司(しましいうふざとぅあじ)の倅のチューマチだ。先月、ヤマトゥから帰って来て、婚礼の話を聞いたばかりだ。島添大里の奥方様(うなじゃら)は武術の名人で、女子サムレーたちを仕切っている。マナビーの嫁ぎ先にぴったりの所だよ」
「女子サムレーの噂は叔母様から聞きました。早く、見てみたいわ」
 その頃、首里は婚礼の準備で大忙しだった。各地から婚礼に出席する按司たちが家臣を引き連れてやって来た。北は伊波按司(いーふぁあじ)、山田按司、安慶名按司(あぎなーあじ)、宇座按司(うーじゃあじ)、北谷按司(ちゃたんあじ)、勝連按司(かちりんあじ)、越来按司(ぐいくあじ)、中グスク按司浦添按司(うらしいあじ)、南は知念按司(ちにんあじ)、垣花按司(かきぬはなあじ)、玉グスク按司、糸数按司(いちかじあじ)、兼(かに)グスク按司、大(うふ)グスク按司、八重瀬按司(えーじあじ)、具志頭按司(ぐしちゃんあじ)、玻名(はな)グスク按司、米須按司(くみしあじ)、山グスク大主(うふぬし)(真壁按司(まかびあじ))、ナーグスク大主(伊敷按司(いしきあじ))が来た。八重瀬按司、玻名グスク按司、米須按司、山グスク大主、ナーグスク大主は今、明国に行っているので、若按司あるいは跡継ぎが来ていた。山南王の代理としては豊見(とぅゆみ)グスク按司が来た。
 会同館(かいどうかん)の宿泊施設だけでは足らず、城下の宿屋も借り切り、空いている屋敷も使用した。首里の城下はサムレーたちで溢れた。遊女屋(じゅりぬやー)『喜羅摩(きらま)』には昼間からサムレーたちが押し寄せて、酒盛りを始め、最近できたいくつかの料理屋でも、祝い酒を飲んでいた。遊女屋『宇久真(うくま)』は明日の婚礼で使用するため、門は閉まっていた。
 ヤンバルに行っていたウニタキも戻って来て、城下に曲者(くせもの)が侵入しないように配下の者たちを配置に付けた。
 二月十五日、天候に恵まれて、浮島から首里へ花嫁行列が華やかに行なわれた。先導するのは五番組の大将、外間親方(ふかまうやかた)で、配下の者たちは揃いの赤い腹巻き(鎧)を身に付けて、テーラー率いる十人のサムレーとお輿(こし)に乗った花嫁を前後で守った。
 沿道は見物人で溢れ、七番組と八番組のサムレーたちが通り道に縄を張って、警護に当たった。
 花嫁は陽気だった。お輿のすだれを上げて、ニコニコ笑いながら見物人たちに手を振ったりしていた。美しい高価な着物を着て、髪には光り輝く簪(かんざし)を挿し、気品のある顔立ちは、どう見ても雲の上のお姫様だが、その人懐っこい笑顔は、誰もが好感が持てると感じていた。
 花嫁行列は首里の大通りまで来て、中程にある遊女屋『宇久真』の前で止まり、花嫁一行は『宇久真』に入って休憩した。役目を終えた外間親方は配下の兵を連れて、首里グスクに引き上げた。
 四半時(しはんとき)(三十分)後、首里グスクの太鼓が鳴り響いた。『宇久真』からゆったりとした音楽が流れてきた。やがて門が開いて、馬に乗った佐敷大親(さしきうふや)と平田大親が現れた。二人とも鎧(よろい)は身に付けず、明国渡りの豪華な緞子(どんす)で作った直垂(ひたたれ)を着て、きらびやかな太刀を佩いていた。
 次に現れたのは楽隊で、笛と太鼓と三弦(サンシェン)を演奏しながら、佐敷大親と平田大親の馬の後ろに並んだ。横笛を吹いているのは女子サムレーで、太鼓も三弦も京都で行列をした者たちだった。皆、烏帽子(えぼし)をかぶって、ヤマトゥのお公家さんが着ている直衣(のうし)を着ていた。
 次に佐敷ヌル、馬天(ばてぃん)若ヌルのササ、島添大里ヌルのサスカサ、三人のヌルが正装をして現れた。黄金色に輝く扇を持ち、首からガーラダマを下げ、頭に巻いた白い鉢巻きには、見事な鷲(わし)の羽根を挿していた。
 三人のヌルの後ろに、涼傘(リャンサン)を持った男が三人並び、そのあとに、十人の女子サムレーが続いた。女子サムレーたちは白い鉢巻き、白い着物に白い袴、白柄白鞘(しろつかしろさや)の刀と白づくめだった。
 女子サムレーのあとにようやく、花嫁のお輿が現れた。お輿も先程よりも華麗になり、お輿を担ぐ男たちも烏帽子をかぶり、直垂姿になっていた。お輿のすだれは上げられ、花嫁は白地の緞子の着物を着て、にこやかに笑っていた。お輿の回りに着飾った侍女たちが従った。その後ろに女子サムレー十人、馬に乗ったテーラーとサムレーが十人、最後尾には馬に乗った与那原大親(ゆなばるうふや)と手登根大親(てぃりくんうふや)がいた。
 クルーは手登根にグスクを築いて、手登根大親を名乗っていた。グスクの主(あるじ)になって、喜んだのはクルーよりも妻のウミトゥクだった。娘たちに剣術を教えて、女子サムレーを作ると張り切っていた。
 笛の調べが変わり、行列がゆっくりと動き出した。沿道に溢れている見物人たちから指笛が飛んだ。あちこちから飛んでくる指笛に歓迎されながら、花嫁行列はゆっくりと大通りを進んで行った。
 笑顔とは裏腹に、マナビーの心の中は不安で一杯だった。今帰仁を発つ時、母は泣いていた。敵(かたき)のもとに嫁ぐなんて、あまりにも可哀想過ぎると言った。姉が山南王(さんなんおう)のもとへ嫁いだ時も泣いていたが、泣き方は全然違った。
 去年の五月のお祭りの時、父は志慶真大主(しじまうふぬし)の倅に嫁ぐかと聞いた。羽地(はにじ)も名護(なぐ)も国頭(くんじゃん)もお前と釣り合う相手はいない。志慶真なら近くていいだろう。お前を遠くにはやりたくないと言った。志慶真のタルーはよく知っていた。ちょっと頼りないけど、近くだから、まあいいかと思っていた。
 ところが、その五日後、中山王のもとへ嫁げと言われた。マナビーにはわけがわからなかった。伊是名島(いぢぃなじま)で戦(いくさ)をしている敵のもとへ嫁ぐなんて考えられない事だった。
「中山王と同盟する事に決めた」と父は言った。
「マサキは山南王に嫁いだ。お前は中山王に嫁ぐ。わしが琉球を統一するまで我慢してくれ。お前たちは必ず助け出す」
 母は先代の山北王と先代の中山王が同盟した時に嫁いで来た。今度は娘のわたしが嫁いで行く。運命のようなものをマナビーは感じていた。
 中山王との同盟を知ると羽地按司(はにじあじ)、名護按司(なぐあじ)、国頭按司(くんじゃんあじ)がやって来て、そんな重大な事を独断で決めるなんて許せないと怒った。父は平気な顔をして、成り行きを説明していた。城下の者たちは噂を聞いて、戦が終わった事を喜んでいた。伊是名島の戦から発展して、大戦(うふいくさ)になるのではと皆が心配していた。
 喜んでいる人たちを眺めながら、マナビーは中山王のもとへ嫁がなければならないと覚悟を決めた。
 馬に乗ってヤンバルを駈け回ってはいても、船に乗って遠くに行くのは初めてだった。マナビーは飽きずに景色を眺めていた。もし、いやな事が起こったら、馬に乗って帰って来ようと密かに決めていた。
 浮島に着いて、その賑わいに驚いた。今帰仁よりも栄えている所はないと聞いていた。しかし、浮島には大勢のヤマトゥンチュがいて、唐人(とーんちゅ)でもない異国の人たちもいた。遠くに来た不安よりも好奇心の方が勝り、マナビーは浮島を散策した。
 ヤマトゥには行った事はないが、若狭町はまるでヤマトゥの国のようだと思った。行き交う人たちはヤマトゥ言葉をしゃべり、ヤマトゥの着物を着た琉球の娘たちを連れていた。
 土塁に囲まれた久米村には大勢の唐人が住んでいて、唐の言葉が行き交い、まるで唐の国だった。そして、『天使館』には南蛮(なんばん)(東南アジア)から来た人たちがいた。
 花嫁行列の時、マナビーは初めて女子サムレーを見た。白づくめのその姿は格好よかった。皆、武芸の腕も相当ありそうだが、馬術と弓矢は負けないとマナビーは強気だった。女子サムレーを仕切っているという花婿の母親に、早く会いたいと思った。
 中山王の都、首里今帰仁ほどは栄えていなかった。賑わっているのは首里グスクへと続く大通りの周辺だけのようだった。
 城下の者たちの大歓迎を受けながら、もう今帰仁には帰れないのではないかという不安がよぎった。自分のわがままで逃げ出したら、戦が起こるかもしれない。父が助けに来るまでは、何があっても我慢しなければならないと思い始めた。でも、我慢できるか自信はなかった。
 花嫁行列は高い石垣に囲まれた首里グスクに入って行った。北曲輪(にしくるわ)から坂道を登って西曲輪(いりくるわ)に入った。北曲輪と西曲輪は城下の者たちに開放され、祝い酒と餅を配る屋台がいくつも出ていた。
 法螺貝(ほらがい)の音が響き渡り、中御門(なかうじょう)が開いた。佐敷ヌル、ササ、サスカサの先導で、馬から下りた佐敷大親と平田大親、お輿から降りた花嫁が侍女を連れて中御門から御庭(うなー)に入った。三つの涼傘が続き、テーラーが五人のサムレーを連れて従い、与那原大親と手登根大親が御庭に入ると、警護の兵によって中御門に縄が張られた。
 西曲輪に残された楽隊と女子サムレーは西曲輪から北曲輪に下り、テーラーが連れて来た五人のサムレーは、西曲輪内のサムレー屋敷に入って休憩した。
 御庭の中では、揃いの官服(かんぷく)を着た按司たちと中山王の重臣たちが、両側に並んで花嫁を迎えた。正面の百浦添御殿(むむうらしいうどぅん)の唐破風(からはふ)の下には、中山王の思紹(ししょう)と王妃、世子(せいし)のサハチと世子妃のマチルギが並んで座り、左側には山北王の代理として兼グスク按司夫婦が座り、右側には山南王の代理として豊見グスク按司夫婦が座っていた。
 山北王の代理はテーラー夫婦が務める予定だったが、テーラーの妻は王妃の代理なんて、恐れ多くて、とてもできないと言って来なかった。急遽、ンマムイ夫婦に頼んだのだった。王様の格好をしたンマムイは妙にかしこまって、落ち着きがなく、きらびやかな着物に完全に負けていた。王妃の格好をしたマハニは気品が漂い、よく似合っていた。
 豊見グスク按司夫婦は、「やがて、お前たちは山南王と王妃になる。今のうちに稽古をしておけ」とシタルーに言われて送り出された。
「どうして、親父が行かないのです」と豊見グスク按司が聞くと、「花嫁の親の山北王が来ないのに、山南王が出て行くわけにもいくまい」とシタルーは言ったという。
 豊見グスク按司と妻のマチルーも緊張した面持ちで、御庭に居並ぶ按司たちを見下ろしていた。山南王と山北王が同盟した時の婚礼よりも、集まっている按司の数は多かった。父は中山王を倒すと言っているが、それは難しいと豊見グスク按司は思った。戦をするよりも、今のまま同盟を結んでいた方がいいと思っていた。
 花嫁が入場して来ると、石段の下に座っていた花婿のチューマチが、立ち上がって花嫁を迎えた。花婿と花嫁が向かい合って立った時、幽玄な笛の調べが流れ、馬天ヌルがヌルたちを率いて登場し、華麗な儀式が始まった。佐敷ヌルが新郎新婦に寄り添い、侍女たちが新郎新婦の後ろにひざまづき、他の者たちは去って行った。ササとサスカサは馬天ヌルが率いて来たヌルたちと合流した。
 馬天ヌルが神歌(かみうた)を唱え、それに和すようにヌルたちが歌った。ヌルたちの声が美しく響き渡り、今にも神様が降りて来るような気がした。目の錯覚か、太陽の光が馬天ヌルに集中して照らしているように見えた。やがて、一人のヌルが華麗な舞を舞い始めた。それに続くように一人、二人と舞い始めた。十二人のヌルたちが薄絹をなびかせて舞う姿は、まるで、蝶々が飛び回っているようだった。ササとサスカサも華麗に舞っていた。新郎新婦は蝶々たちに祝福されていた。
 チューマチはヌルたちの舞を眺めながら、ちらちらと横に立つマナビーを見ていた。マナビーは思っていたよりもずっと綺麗で、可愛かった。見るからにお姫様という上品さがあって、こんな娘と一緒になれるなんて、俺は果報者(くゎふーむん)だと神様に感謝していた。ちらっと横を見た時、マナビーと目が合った。マナビーはニコッと笑った。チューマチはドキッとして慌てて視線をそらせた。
 マナビーはチューマチを見て、がっかりしていた。見たところ武芸の腕もそこそこで、顔付きも冴えない。高価な着物を着ていなかったら、どこにでもいるウミンチュと変わりないと思った。はるばる遠くまで来て、こんな男に嫁ぐのかと情けなくなっていた。我慢できなくなったら、やっぱり逃げだそうと決めた。
 蝶々たちがいなくなると、馬天ヌルと佐敷ヌルによって儀式は続けられ、新郎と新婦が固めの杯(さかづき)を交わして、御婚礼(ぐくんりー)の儀式は終わった。
 馬天ヌルが下がると太鼓の音が響き渡り、佐敷ヌルの先導で、新郎新婦は中山王、山北王の代理、山南王の代理と挨拶をして回り、その後、按司たちに挨拶をして回って、御庭から西曲輪に出た。新郎新婦は大勢の城下の者たちに祝福されながら、挨拶をして回った。
 中御門は閉じられ、御庭にいた人たちは会同館へと移動した。
 サハチ夫婦も着替えて、ンマムイ夫婦、豊見グスク按司夫婦と一緒に会同館に向かった。
 思紹が挨拶をして、サハチが挨拶をして、山北王の代理としてマハニが挨拶をした。ンマムイが馬鹿な事を言わなければいいがとサハチは心配していたが、マハニだったのでホッとした。マハニは今帰仁に帰った時、マハニの母親から聞いたマナビーの子供の頃の話をして、中山王と山北王の同盟はめでたいと言って挨拶を終えた。
 マハニを初めて見た各地の按司たちは、マハニの美しさに見惚れ、花嫁が美しいのも無理はないと納得し、わしの倅もヤンバルから嫁を迎えるかとささやき合っていた。
 新郎新婦が挨拶したあとは無礼講となり、サハチは按司たちに挨拶をして回った。
 中グスク按司のクマヌはしばらく見ないうちに随分と老け込んでいた。
「素晴らしい婚礼じゃったのう」とクマヌは感激していた。
「中山王が山北王と同盟を結ぶなんて考えてもいなかった。しかし、これでよかったのかもしれんのう。戦がないのが一番じゃ。年を取ったせいか、最近、やたらと昔の事が思い出されるんじゃよ」
「もしかして、ヤマトゥに帰りたくなったのではないですか」とサハチは聞いた。
 クマヌは笑って首を振った。
「軽い気持ちで琉球に来て、居心地がいいので長居して、そなたと出会って、今では按司になっている。もう、琉球がわしの故郷じゃよ」
「そう言っていただけると助かります。まだまだ、クマヌの力が必要です」
「クマヌと呼ばれるのも久し振りじゃ」とクマヌは笑った。
「わしが琉球に来た時、そなたはまだ三つじゃった。月日の経つのは早いもんじゃのう。あの頃のわしは若かった。年を取る事など考えてもいなかったが、すでに六十七になった。近いうちに、わしは隠居して、ムタに按司を譲ろうと思っているんじゃ」
「えっ、クマヌが隠居?」
「ムタは三十八になった。いつまでも若按司でいるわけにも行くまい。わしは隠居してのんびりするつもりじゃ。かみさんには世話になったからのう。かみさんに首里や勝連の賑わいを見せてやりたいと思っておるんじゃよ」
「奥さんに、首里にいるユミと勝連にいるマチルーを会わせたいのですね」
「そうじゃ。中グスクに移ってから、中グスクから出ておらんからのう」
「ユミもマチルーも喜ぶでしょう」
 クマヌはうなづき、「実は、そなたに頼みがあったんじゃよ」と言った。
「何ですか」と聞きながら、サハチはクマヌに酒を注いだ。
「孫娘の事なんじゃよ。次女のマナミーが十六になったんじゃ。そろそろお嫁に出さなくてはならんが、いい相手を探してくれんか」
「ムタの娘がもう十六ですか」
「上の娘は修行を終えて、立派なヌルになった」
「そうでしたか。先代のヌルは奥間(うくま)に帰ったのですか」
「いや、久場(くば)に移って、久場ヌルを名乗っている。役目を終えたので、奥間に帰ろうとしたんじゃが、わしが引き留めたんじゃよ。もう少し見守っていてほしいとな」
「そうですか。わかりました。中グスク按司の娘にふさわしい相手を探してみます」
「頼むぞ」
 宇座按司も来てくれた。山南王の正使として、明国に三度行った長男のタキは、去年の暮れ、宇座に帰っていた。タブチと喧嘩して首里を飛び出し、山南王に仕えた大(うふ)グスク大親と喧嘩したという。大グスク大親はタキを陥れるために、山南王にある事ない事を讒言(ざんげん)したらしい。タキもいたたまれなくなって辞めた。二人の弟は、妻が山南王の重臣の娘なので大丈夫だろうと置いて来た。ウニタキの配下のアカーからその話を聞いたサハチは、すぐにタキに会いに宇座に行き、タキを説得して中山王に仕えてもらう事に成功した。サハチはタキに、今年の進貢船の使者を務めてもらうつもりだった。
「昨夜は婿殿と飲んだ」と楽しそうに宇座按司は言った。
「明国の話を聞きながら、うまい酒じゃった。まさか、マジニの婿と明国の話をするとは思ってもいなかった。わしらが行った時と、明国も大分変わったようじゃのう」
「わたしも驚きましたよ。鄭和(ジェンフォ)のお陰で、応天府(おうてんふ)は賑わっているようです」
「婿殿は毎年、明国に行きたいと言っておった。なかなか頼もしい奴じゃよ。それと、タキの事もよろしく頼む」
「タキ殿が来てくれるというので、助かっているのはこちらの方です。頼りにしてますよ」
 宇座按司と別れて、叔父の越来按司浦添按司、義兄の勝連按司、安慶名按司、山田按司、伊波按司に挨拶をして回り、北谷按司の所に行った。
 何となく、場違いのように北谷按司は、『宇久真』の遊女(じゅり)のお酌を受けていた。
「同年配の者がいなくて退屈そうだな」と言って、サハチは北谷按司に酒を注いでやった。
「あまりしゃべらないんですよ」と遊女が言った。
「何もかも驚く事ばかりで緊張しているのです」と北谷按司は言った。
「親父が戦死して、うるさい叔母さんたちが戻って来て大変だったそうだな」とサハチは言った。
「桑江(くぇー)の叔父から聞いたのですね」
 サハチがうなづくと、
「叔父のお陰で、叔母たちもようやく静かになりました」と北谷按司は笑った。
 北谷按司の叔母は三人いて、中グスク、勝連、越来に嫁いでいた。中グスクと越来は按司が代わったため実家に帰り、戦死した夫や倅の敵を討ってくれと、当時、十七歳だった北谷按司に迫っていた。父親が戦死して、按司になったばかりの北谷按司は、叔母たちの小言に絶えながら、叔父の桑江大親(くぇーうふや)と一緒に、北谷を建て直して来たのだった。
首里のお祭りの時、桑江の叔父と一緒に行った妹のフクなんですが、お祭りから帰って来て、女子サムレーになりたいって騒いでいるのです。首里で修行させていただけないでしょうか」
「その妹はいくつなんだ?」
「十五です」
「そうか。首里では娘たちに剣術を教えている。才能があれば女子サムレーになれるだろう。首里で修行を積んで、北谷に帰って娘たちを鍛えればいい」
「妹が喜びます。お願いいたします」
 サハチはうなづくと、北谷按司を連れて、息子たちがいる所へ連れて行った。サグルー、ジルムイ、イハチと花婿の兄たちが、花嫁のマナビーから今帰仁の事を聞いていた。サスカサもマナビーの五人の侍女たちも一緒にいて賑やかだった。
「北谷按司だ。仲よくしてやってくれ」とサハチが言うと、
「母さんの妹が、北谷按司の叔父さんに嫁いでいるんだよ」とジルムイが言った。
「それじゃあ、親戚じゃないか。一緒に飲もうぜ」とサグルーが言って、北谷按司は仲間に加わった。
「花婿はどこに行った?」と聞くと、
「叔父さんたちの所です」とイハチが答えた。
 イハチの視線を追って行くと、チューマチはマサンルー(佐敷大親)たちにからかわれているようだった。マサンルーたちの所に、ンマムイと豊見グスク按司もいて、マチルギはどこに行ったと探すと、マハニとマチルーと佐敷ヌルと一緒に笑っていた。
 サハチは南部の按司たちに挨拶して回り、重臣たちにもねぎらいの言葉を掛けてから思紹の所に戻った。
 思紹はヂャンサンフォンの昔話を聞いていた。一緒にいたのは慈恩禅師(じおんぜんじ)、ジクー禅師、ファイチ、ウニタキ、テーラーだった。山北王の家臣なのに、テーラーはすっかりこの場に馴染んで、何の違和感もなかった。サハチも加わって、仙人が住んでいるという明国の山奥の話を聞いた。話が一段落した時、サハチがウニタキに、
「ササたちはどこに行った?」と聞いた。
「御内原で女だけのお祝いをやるそうだ。麦屋(いんじゃ)ヌルも一緒に行ったよ。麦屋ヌルは馬天ヌルと一緒にずっと、婚礼の準備をしていたらしい。うまく行ってよかったと喜んでいたよ」
「そうか。馬天ヌルも麦屋ヌルがいて助かっただろう」
首里のお祭りの六日後だったからな。色々と大変だったようだ。イトたちもスヒターたちも御内原に行ったようだぞ」
 イトたちとスヒターたちは百浦添御殿の二階から婚礼の儀式を見ていた。儀式が終わったあとは会同館に移り、ミナミとマユ(佐敷ヌルの娘)とマキク(ユリの娘)の三人が一緒にいるのを見たが、またグスクの方に戻ったようだった。
「挨拶は終わったのね」と遊女のマユミがお酒を持ってやって来た。
「お客が多すぎて、疲れたよ」とサハチは笑って、マユミが注いでくれた酒を飲み干した。

 

 

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