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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-64.旧港から来た娘(第一稿)

尚巴志伝 第二部

 サハチたちが家族水入らずの旅から帰って来ると、朝鮮(チョソン)に行った使者たちが博多に戻ったとの知らせが入った。
 サハチはウニタキとファイチを連れて、イトの船に乗って博多に向かった。使者たちは妙楽寺に滞在していて、出入りも自由だったので、サハチたちは一文字屋孫次郎と一緒に妙楽寺に行き、使者たちと会った。
 無事に役目を終えた使者たちはホッとした顔でサハチたちを迎えた。サハチは皆にお礼を言った。
 通事(つうじ)(通訳)をしてくれた早田藤五郎はまだ富山浦(プサンポ)に残っていた。同じく通事を務めてくれたチョル夫婦は朝鮮に帰らず、また戻って来ていた。どうしたのかと聞くと、
「かみさんに言われたんです」とチョルは言った。
「このまま帰ってもいいのかと言われたんです。恩返しをしなくてはならないと思いまして、琉球に戻る事に決めたのです。カンスケたちに朝鮮の言葉を教えて、立派な通事に育てようと思いました」
 サハチはチョルにお礼を言った。チョルの言う通り、来年も朝鮮に行くとなれば通事を育てなければならなかった。
 明国との交易と違って、大量の陶器がないため、船倉はまだ空いていた。サハチは空いている船倉に、瓦(かわら)と鉄屑(てつくず)を積むように使者たちに頼んだ。
 博多に残していった一徹平郎(いってつへいろう)は新助と一緒に、一文字屋のお客様用の屋敷を建てていた。『龍宮館(りゅうきゅうかん)』と名付けられた屋敷はそれ程大きな建物ではないが、独特な作りで、あちこちに新助が彫った龍が飾られてあった。龍ばかり彫っていると言われるだけあって、その龍は生き生きとしていて迫力があり、見事な彫り物だった。思紹(ししょう)には悪いが、思紹の彫った龍が子供のいたずらのように思えた。
 一徹平郎は瓦職人も見つけ出してくれた。唐破風(からはふ)の瓦は特殊な瓦なので、職人を連れて行かなければならないと思い、探したのだと言った。サハチも瓦職人は連れて帰りたいと思っていたが、唐破風の瓦が特殊な瓦だとは知らなかった。一徹平郎が瓦職人を探してくれなかったら、百浦添御殿(むむうらしいうどぅん)の唐破風はできなかったに違いない。改めて、一徹平郎という男を見直し、サハチはお礼を言った。
 栄泉坊は博多の寺院や神社、サムレーの屋敷や庶民の家まで、あらゆる建物を絵に描いていた。充分に今後の参考になる絵ばかりで、サハチは栄泉坊に感謝した。
 来年もお世話になるので、サハチは九州探題の渋川道鎮(どうちん)にも挨拶に行った。道鎮は快く会ってくれた。朝鮮の事を聞かれたので、李芸(イイエ)の事を話すと、道鎮も李芸を知っていた。去年、李芸は副使としてやって来たが、暴風に遭って石見(いわみ)(島根県)まで流された。京都に行くのは諦めて、大内氏の援助で朝鮮に帰って行ったが、倭寇(わこう)に連れさられた朝鮮人を百人近くも連れて帰ったという。早田左衛門太郎に会ったかと聞かれたので、サハチは会いたかったが会えなかったと答えた。
 道鎮は京都の様子を話してくれた。
「鎌倉の御所様(足利満兼)に不穏な動きがあったんじゃが、無事に治まったようじゃ。事を起こす前に、御所様は亡くなってしまったらしい。狂気したとの噂も流れていたので、重い病に罹っていたのかもしれんのう」
 サハチは鎌倉に行った高橋殿を思い出した。
 もしかしたら、高橋殿の仕業だろうか‥‥‥
 事が起こる前に殺したのだろうか‥‥‥
 サハチは道鎮と別れたあとも高橋殿の事を考えていた。
「高橋殿がうまくやったようだな」とウニタキが言って笑った。
 ウニタキは高橋殿が殺したと思っているようだが、サハチはそうは思いたくはなかった。
 サハチたちはクグルーとマウシ、クルシ、カンスケたちを連れて対馬に帰った。
 久し振りに対馬に帰って来たクルシは孫たちに会いに土寄浦(つちよりうら)に行った。クルシには三人の息子がいて、長男と三男がサイムンタルーと一緒に朝鮮にいて、次男がシンゴの補佐をしていた。孫たちは二十人もいて、その中の一人は船越にいて、六郎次郎に仕えていた。
 カンスケの妻と子供は船越にいた。奥さんは船乗りの娘で、子供をサワに預けて、イトと一緒に船に乗っていた。子供は四人いて、十歳になる長女はしっかり者だった。カンスケと一緒に通事をやってくれた者たちは土寄浦に帰って行った。
 クグルーと再会して泣いている娘がいた。去年、仲よくなった娘だった。仲よくなったといってもクグルーは手を出さなかったらしい。もう二度と会えないと思っていたクグルーが現れたので、娘は感激して泣いたようだった。
 マウシはミナミとの再会に喜んでいた。ミナミも喜び、マウシの名を呼び捨てにして肩車をさせて走らせ、キャッキャッと嬉しそうに騒いでいた。
 一仕事を終えたサハチたちは対馬でのんびりと過ごした。あとは十二月になって北風が吹くのを待つばかりだった。
 ササとシンシンとナナ、ンマムイとクサンルーは土寄浦で若い者たちを鍛えている。サハチとウニタキとファイチ、それとヂャンサンフォンは船越の若者たちを鍛え、三人の女子(いなぐ)サムレーとスズは船越の娘たちを鍛えていた。その合間にファイチとイハチ、三人の女子サムレーはヤマトゥ言葉を手の空いている女たちから習っていた。
 好きになった娘のために強くなろうと思ったのか、イハチは真剣に武術修行に励んでいた。そんなイハチを見ながら、そろそろ嫁さんを探さなければならないなとサハチは思っていた。
 ジクー禅師は鉄潅和尚(てっかんおしょう)と仲よくなって、ほとんど梅林寺にいた。梅林寺で来年のヤマトゥ行きの計画を練っているようだった。
 十一月に入り、急に寒くなってきた。イトが昔を思い出して襟巻きを作ってくれた。サハチたちは襟巻きを首に巻いて寒さを凌いだ。
 一文字屋の船が船越にやって来た。外間親方(ふかまうやかた)が乗っていて、博多に旧港(ジゥガン)(パレンバン)の船がやって来て、琉球に帰る時に一緒に琉球まで連れて行ってほしいと九州探題の渋川道鎮に頼まれた事を告げた。
 旧港の船と言えば、去年、若狭(福井県)に着いた船だった。七重の塔の上で勘解由小路殿(かでのこうじどの)から話を聞き、そのあと、高橋殿から詳しい事情を聞いていた。
 去年の六月、旧港の支配者となったシージンチン(施進卿)が、日本国王に送った使者が若狭の国の小浜(おばま)港に着いた。象という鼻の長い巨大な動物、日本の馬よりも一回り大きな立派な馬、綺麗な鳥の孔雀(くじゃく)と鸚鵡(おうむ)を積んでいた。若狭守護の一色氏の家臣たちに守られながら京都へ向かい、将軍様に謁見(えっけん)して、珍しい動物たちを献上した。動物の他にも南蛮の品々や明国の陶器も献上して、将軍様を喜ばせた。特に気に入ったのは馬で、今も将軍様は愛馬として乗り回しているという。
 象、孔雀、鸚鵡は使者たちの宿舎となった寺院で、一般の者たちにも公開して、京都の人々を驚かせた。サハチたちが京都にいた頃は京都の郊外にある醍醐寺(だいごじ)にいたらしい。鼻が長くて目が小さくて、足が太くて巨大だと高橋殿は象の事を言ったが、一体、どんな動物なのか、サハチには想像もできなかった。
 旧港の船は大量の日本刀を仕入れて帰ろうとしていた去年の十一月、台風に遭って、船が壊れて帰れなくなってしまった。将軍様の援助で新しい船を造る事に決まり、船が完成して小浜を船出したのが今年の十月で、その船が今、博多にいるのだった。
 サハチはウニタキとファイチ、ヂャンサンフォンも連れて、博多に向かった。旧港を支配しているシージンチンは明国人だった。俺の出番が来たようだなとファイチは張り切っていた。もしかしたら、旧港の使者はメイユーの事を知っているかもしれない。知っていれば話も弾むに違いない。いつの日か、旧港に使者を送るようになった時、役に立つだろうとファイチは言った。
 旧港の使者たちの船は琉球の船と似ていた。小浜で新造したのでヤマトゥの船かと思っていたが、壊れた船と同じ物を造ったようだ。あの七重の塔を建てた大工なら、明国の船を真似して造る事もできるだろう。腕のいい船大工も琉球に欲しいとサハチは思った。
 旧港の使者たちがいるという承天寺(しょうてんじ)に行くと、広い境内の片隅で武芸の稽古をしている娘たちがいた。着ている着物は明国風なので、旧港から来たようだが、娘たちが一緒にいるのは不思議だった。
「武当剣(ウーダンけん)のようじゃ」とヂャンサンフォンが言った。
「するとあの者たちは師匠の弟子なのですか」とウニタキが驚いた顔をして聞いた。
「弟子の弟子、あるいはそのまた弟子かもしれんのう。しかし、旧港にもわしの弟子がいるとは知らなかった」
 サハチたちが本堂の方に向かおうとした時、娘たちの師匠らしい老人が近づいて来て、ヂャンサンフォンをじっと見つめた。ヂャンサンフォンもその老人を見つめ、「ミンジュンか」と言った。
 老人は急にひざまずいて、何事かを言い出した。
 ヂャンサンフォンは老人を立たせると、
「弟子の弟子ではなかったわ。わしの弟子のシュミンジュン(徐鳴軍)じゃった」と言って笑った。
「何年振りかのう。こんな所で出会うとは思ってもいなかったわ」
 ヂャンサンフォンとシュミンジュンは再会を喜び、しばらく話し込んでいた。二人が並んでいる姿はどう見てもヂャンサンフォンの方が若く見えた。ヂャンサンフォンをここに置いて使者に会おうとしたら、二人の娘のうちの一人がシージンチンの娘らしいとヂャンサンフォンは言った。
 シュミンジュンが娘たちを呼ぶと、二人の娘がやって来た。二人とも二十歳前後の娘たちだった。
 シュミンジュンが娘たちに何かを言うと、娘たちは驚いた顔をして、ヂャンサンフォンを見た。やがて、一人の娘が、
「シージンチンの娘のシーハイイェン(施海燕)です」とヤマトゥ言葉で言った。
「日本の言葉がわかるのですか」とサハチが聞くと、
「小浜に一年以上いました。日本の言葉のお稽古をしました」とシーハイイェンは言った。
「そうでしたか」とサハチはうなづき、ファイチを見て、「ファイチよりもうまいようだ」と笑った。
 サハチはファイチとウニタキとヂャンサンフォンを紹介した。
 シーハイイェンはもう一人の娘を紹介した。ツァイシーヤオ(蔡希瑶)という名前だった。
 シーハイイェンに連れられて、サハチたちは使者たちと会った。日本語をしゃべる通事もいて、ワカサと呼ばれていた。どうやら日本人のようだった。
 サハチは旧港の船を琉球に連れて行く事を約束し、さらに明国まで連れて行く事も約束した。琉球まで行くのはいいが、それから先はどうしようかと悩んでいた使者たちは、サハチの申し出に大喜びしてくれた。
 使者たちとの話がまとまるとサハチはシュミンジュンとシーハイイェンとツァイシーヤオの三人を一文字屋に連れ帰り、酒と料理を御馳走して、旧港の話を聞いた。ヂャンサンフォンとシュミンジュンは別れてからのお互いの事を話し合っていた。
 シーハイイェンとツァイシーヤオはメイユーの事を知っていた。メイユーからヂャンサンフォンが琉球にいる事を聞いて、琉球に行きたかったと言った。
「でも、父はあたしよりワカサの言う事を聞いて、琉球に行くより日本に行けと言ったのです」
「ワカサというのは通事の事ですね」
 シーハイイェンはうなづき、「ワカサは倭寇です」と言った。
「あたしたちが広州(グゥァンジョウ)にいた頃、助けられて、そのあとはずっと仲間です。メイユーが持って来てくれた日本刀はとても素晴らしいです。旧港の兵たちを日本刀で武装しなければなりません。日本刀を手に入れるために日本にやって来たのです。ワカサが生まれた小浜は京都に行くのに近いというので、小浜を目指して来ました。京都にも行きました。素晴らしい都でした。とても高い塔があって、そこからの眺めはとてもよかったです」
「七重の塔だな」
「そうです。七重の塔。あんなに高い塔は明国にもありません。日本という国は凄いと思いました。京都から小浜に戻って帰るつもりだったのですが、台風が来て船が壊れてしまいました。将軍様のお陰で新しい船を造りましたが、一年も掛かってしまいました。でも、その間にワカサの奥さんがいる平戸(ひらど)(長崎県)という島に行きました。平戸の人たちはワカサが死んだと思っていたので、みんなが驚いて、そして、喜んでいました」
「ワカサは松浦党(まつらとう)だったのか」とウニタキが言った。
「ワカサは琉球にも行った事があると言っていました」
 ファイチが明国の言葉で、シーハイイェンに質問した。ファイチは旧港の事を詳しく聞いていた。
 シーハイイェンは明国の広州で生まれた。七歳の時、海賊のリャンダオミン(梁道明)は旧港に移った。リャンダオミンの配下だった父親も移る事になり、シーハイイェンは海を渡って旧港に行った。
 旧港はシュリーヴィジャヤ王国の王都として栄えていたが、マジャパヒト王国に滅ぼされ、国は乱れて海賊たちの拠点と化していた。リャンダオミンは配下を率いて旧港を攻め、海賊どもを追い払った。
 旧港には元(げん)の時代に広州から移住した商人たちが多く住んでいた。リャンダオミンは一年足らずで商人たちの首領となり、旧港の王を名乗った。
 シーハイイェンが十六歳の時、リャンダオミンは明国から来た役人に投降して、広州に帰った。リャンダオミンの跡継ぎとして選ばれたのは父だった。父は旧港の王となった。リャンダオミンの護衛役だったシュミンジュンは父のために残る事になった。
 リャンダオミンが去ったあと、チャンズーイー(陳祖義)が大勢の配下を率いて旧港にやって来た。チャンズーイーも広州の海賊だったが、やる事が汚いので海賊仲間からも嫌われ、広州を追放されて、マラッカ海峡で暴れていたのだった。チャンズーイーは王宮から父を追い出し、自ら王を名乗り、好き放題の事をした。シーハイイェンも隠れて暮らさなければならず、必ず、チャンズーイーを倒してやると武芸の修行に励んだ。一年後、その苦しい立場は急転した。ジェンフォ(鄭和)が率いる大艦隊がやって来て、チャンズーイーを退治してくれた。チャンズーイーは進貢船も襲っていたので、永楽帝(えいらくてい)の怒りを買っていたのだった。
 父はジェンフォから旧港の首領である事を認められた。翌年には姉婿が使者となって明国に行き朝貢した。父は永楽帝から正式に、旧港宣慰司(ジゥガンシェンウェイスー)に任命された。その翌年、メイユーが琉球から大量の日本刀を持ってやって来た。メイユーが明国に帰ったあと、父は日本に使者を送る事を決定し、シーハイイェンも一緒に行く事に決まった。去年の五月の事だった。
 シーハイイェンはシージンチンの次女だった。姉はお嫁に行ったので、あたしが父の跡を継がなければならないと言った。母親違いの弟がいるけど、まだ幼いので任せられない。あたしは父親の跡を継ぐために日本にやって来た。日本では船が壊れて苦労したけど、琉球の人に会えて、琉球に行けるのは嬉しい。琉球の事はメイユーから聞いていて行ってみたいと思っていたという。
 ツァイシーヤオは父親の腹心の部下の娘で、幼い頃から一緒に育ち、共に武芸の稽古に励み、お互いにお嫁には行かないで、旧港の発展のために生きようと誓い合った仲だった。
 シーハイイェンとツァイシーヤオの話を聞きながら、ササのいい友達になれそうだとサハチは思った。きっと、意気投合して仲良しになるに違いない。
 シーハイイェンたちと別れて対馬に帰ったサハチたちは富山浦に行って、五郎左衛門にお世話になったお礼と別れを告げ、対馬に帰って、お世話になったみんなに別れを告げた。
 サハチがイトとユキとミナミに別れを告げている時、ウニタキはツタと別れを告げていた。ツタの夫は戦死したので仲よくなっても構わないのだが、二人が仲よくなっていたなんてサハチはまったく知らなかった。ファイチはヤマトゥ言葉を教わっていたアサと、ヂャンサンフォンは後家のキタと、シズはシノの息子の新太郎と別れを告げていた。
 まったく意外だったのはンマムイだった。女子サムレーのクムに振られて土寄浦に行ったンマムイが、シンゴの妹のサキと仲よくなっていた。そろそろ帰るからと土寄浦にいるンマムイやササたちを呼び寄せたら、サキも娘を連れてやって来た。サキだけでなく、娘のミヨもンマムイを慕っているようなのには驚いた。
 別れの前夜、『琉球館』で送別の宴が開かれ、みんなが集まって来て、夜遅くまで騒いだ。
「今度はいつ会えるかしらね」とイトが言った。
「来年、来られたら来るよ」とサハチは言った。
 イトは笑いながら首を振った。
「来年はマチルギさんが来るんじゃないかしら」
 サハチは笑ったが、あり得る事だった。今度はあなたが留守番よと言って、女子サムレーを引き連れて来るかもしれなかった。
「でも、以前よりも対馬琉球は近くなったような気がするわ。これから毎年、博多に来るんでしょ。来年は来られなくても、二、三年後には会えるような気がするわ」
「そうだな」
「あたしもいつか必ず、琉球に行くわ。真っ白な砂浜を見てみたいわ」
「是非、見せたいよ。海に潜れば綺麗な魚がいっぱいいる」
「マチルギさんから聞いたわ。色鮮やかなお魚がいっぱいいるんですってね。見てみたいわ」
「あたしも見たい」とミナミが言った。
「ミナミもいつか琉球に来いよ」
「絶対に行く」とミナミは言って、「マウシ!」と叫んでマウシの所に行った。
 可愛いミナミの笑顔を瞼に焼き付けようとサハチはミナミを見つめていた。
 十二月五日、サハチたちは船越を去り博多に向かった。イハチとクサンルーは残した。二人は一月後、シンゴの船に乗って琉球に向かう。イハチが仲よくなったマユの娘のミツを琉球まで連れて来るかもしれないが、それはそれでいいだろうと思っていた。
 それから三日後、サハチたちは交易船に乗って博多を発ち琉球を目指した。サハチたちの船の後ろに旧港の船が従っていた。

 

 

 

世界の歴史13 - 東南アジアの伝統と発展 (中公文庫)   世界の歴史―ビジュアル版〈12〉東南アジア世界の形成

目次 第二部

目次

尚巴志伝 第二部

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このイラストはは和々様よりお借りしました。



  1. 山田のウニウシ(第二稿)   護佐丸、尚巴志を頼って首里に行く。
  2. 胸のときめき(第二稿)   護佐丸、島添大里で恋をする。
  3. 恋の季節(第二稿)   サグルーとササ、山田で魂を抜かれる。
  4. キラマの休日(第二稿)   尚巴志夫婦、毎年恒例の旅で慶良間の島に行く。
  5. ナーサの遊女屋(第二稿)   中山王の家臣たちの懇親の宴。
  6. 宇座の古酒(第二稿)   尚巴志、宇座の御隠居の倅と古酒を飲む。
  7. 首里の初春(第二稿)  中山王となった思紹の初めての正月。
  8. 遙かなる船路(第二稿)  尚巴志、ウニタキ、懐機、明国に行く。
  9. 泉州の来遠駅(第二稿)   明国に着いた尚巴志たちは来遠駅に落ち着く。
  10. 麗しき三姉妹(第二稿)   尚巴志たち、福州に行きメイファンと再会する。
  11. 裏切り者の末路(第二稿)   尚巴志たち、メイファンの敵討ちを助ける。
  12. 島影に隠れた海賊船(第二稿)   尚巴志たち、明の海賊船に乗る。
  13. 首里のお祭り(第二稿)   護佐丸、ササたちと祭りの警備をする。
  14. 富楽院の桃の花(第二稿)   尚巴志たち、明国の都、応天府に着く。
  15. 応天府の夢に酔う(第二稿)   尚巴志たち、最高級の妓楼で夢を見る。
  16. 真武神の奇跡(第二稿)   討伐軍を破って皇帝になった永楽帝
  17. 武当山の仙人(第二稿)   尚巴志たち、武当山で張三豊と出会う。
  18. 霞と拳とシンシンと(第二稿)   尚巴志とウニタキ、張三豊に武術を習う。
  19. 刺客の背景(第二稿)   馬天ノロ、刺客の正体を探る。
  20. 龍虎山の天師(第二稿)   尚巴志たち、道教の本山、龍虎山に行く。
  21. 西湖のほとりの幽霊屋敷(第二稿)   尚巴志たち、三姉妹と再会する。
  22. 清ら海、清ら島(第二稿)  三姉妹と張三豊が琉球に来る。
  23. 今帰仁の天使館(第二稿)   旅に出た張三豊たちが帰って来る。
  24. 山北王の祝宴(第二稿)   攀安知、志慶真の長老から今帰仁の歴史を聴く。
  25. 三つの御婚礼(第二稿)   サグルー、尚忠、護佐丸、妻を迎える。
  26. マチルギの御褒美(第二稿)   尚巴志、妻のマチルギにしぼられる。
  27. 廃墟と化した二百年の都(第二稿)   尚巴志、ウニタキと浦添に行く。
  28. 久高島参詣(第二稿)  思紹王、女たちを連れて久高島へ行く。
  29. 丸太引きとハーリー(第二稿)   尚巴志、豊見グスクでハーリーを見る。
  30. 浜辺の酒盛り(第二稿)   尚巴志、ヤマトゥに行くマチルギたちを見送る。
  31. 女たちの船出(第二稿)   マチルギたち、長い船旅を楽しみ博多に着く。
  32. 落雷(第二稿)   尚巴志、雷鳴を聞きながらマジムン退治を思い出す。
  33. 女の闘い(第二稿)   三姉妹の船が来て、メイユーとナツが会う。
  34. 対馬の海(第二稿)   マチルギ、対馬島でイトとユキに会う。
  35. 龍の爪(第二稿)   尚巴志、ウニタキ、懐機、朝鮮旅の計画を練る。
  36. 笛の調べ(第二稿)   久し振りに佐敷グスクから笛の音が流れる。
  37. 初孫誕生(第二稿)   尚忠の長男、尚志達、生まれる。
  38. マチルギの帰還(第二稿)   女たちがヤマトゥから無事に帰国する。
  39. 娘からの贈り物(第二稿)   尚巴志、マチルギから旅の話を聞く。
  40. ササの強敵(第二稿)   馬天ノロ、日代(ティーダシル)の石を探し始める。
  41. 眠りから覚めたガーラダマ(第二稿)   ササ、読谷山で古い勾玉を見つける。
  42. 兄弟弟子(第二稿)   尚巴志、兼グスク按司武当拳の試合をする。
  43. 表舞台に出たサグルー(第二稿)   サグルー、尚巴志の代理を見事に務める。
  44. 中山王の龍舟(第二稿)   ウニタキの新しい隠れ家が完成する。
  45. 佐敷のお祭り(第二稿)   尚巴志の一節切と佐敷ヌルの横笛に大喝采。
  46. 博多の呑碧楼(第二稿)   朝鮮旅に出た尚巴志たち、博多に着く。
  47. 瀬戸内の水軍(第二稿)   尚巴志村上水軍と塩飽水軍の頭領と会う。
  48. 七重の塔と祇園祭り(第二稿)   尚巴志たち、京都に着く。
  49. 幽玄なる天女の舞(第二稿)   尚巴志が一節切を吹くと美女が舞う。
  50. 天空の邂逅(第二稿)   尚巴志たち、七重の塔に登って感激する。
  51. 鞍馬山(第二稿)   尚巴志たち、鞍馬山で武術修行。
  52. 唐人行列(第二稿)   尚巴志、増阿弥の芸に感動する。
  53. 対馬の娘(第二稿)   尚巴志、イトと再会、ユキとミナミに会う。
  54. 無人島とアワビ(第二稿)   尚巴志、昔の顔なじみと再会する。
  55. 富山浦の遊女屋(第一稿)   尚巴志たち、富山浦(釜山)に渡る。
  56. 渋川道鎮と宗讃岐守(第一稿)   尚巴志九州探題対馬守護に会う。
  57. 漢城府(第一稿)   尚巴志たち、朝鮮の都に到着する。
  58. サダンのヘグム(第一稿)   尚巴志たち、ナナの案内で都見物。
  59. 開京の将軍(第一稿)   尚巴志たち、高麗の都に行く。
  60. 李芸とアガシ(第一稿)   尚巴志、李芸と会う。
  61. 英祖の宝刀(第一稿)   佐敷ノロ、神様の声を聞いて宝刀を探す。
  62. 具志頭按司(第一稿)   佐敷ノロ、お祭りでお芝居を上演する。
  63. 対馬慕情(第一稿)   尚巴志、家族を連れて舟旅に出る。
  64. 旧港から来た娘(第一稿)   尚巴志、旧港の施二姐と会う。



主要登場人物

 

第一部 目次

目次 第一部

目次

尚巴志伝 第一部 月代の石

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このイラストはは和々様よりお借りしました。

 

  1. 誕生(最終決定稿)   尚巴志、佐敷苗代に生まれる。
  2. 馬天浜(最終決定稿)   サミガー大主とヤマトゥの山伏、クマヌ。
  3. 察度と泰期(最終決定稿)   浦添按司察度、過去を振り返る。
  4. 島添大里グスク(最終決定稿)   島添大里グスク、汪英紫に奪われる。
  5. 佐敷グスク(最終決定稿)   尚巴志の父、佐敷按司になる。
  6. 大グスク炎上(最終決定稿)   大グスク、汪英紫(島添大里按司)に奪われる。
  7. ヤマトゥ酒(最終決定稿)   早田三郎左衛門、馬天浜に来る。
  8. 浮島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎と旅に出る。
  9. 出会い(最終決定稿)   尚巴志、伊波按司の娘と剣術の試合をする。
  10. 今帰仁グスク(最終決定稿)   尚巴志、今帰仁に行く。
  11. 奥間(最終決定稿)   尚巴志、奥間村に滞在する。
  12. 恋の病(最終決定稿)   旅から帰った尚巴志、マチルギを想う。
  13. 伊平屋島(最終決定稿)   尚巴志、祖父の故郷に行く。
  14. ヤマトゥ旅(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥへ旅立つ。
  15. 壱岐島(最終決定稿)   尚巴志、壱岐島で察度の噂を聞く。
  16. 博多(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥの都を見て驚く。
  17. 対馬島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎の故郷に滞在する。
  18. 富山浦(最終決定稿)   尚巴志、高麗に行く。
  19. マチルギ(最終決定稿)   尚巴志の恋敵、ウニタキ現れる。
  20. 兵法(最終決定稿)   尚巴志、対馬で修行に励む。
  21. 再会(最終決定稿)   帰って来た尚巴志、マチルギと再会。
  22. ウニタキ(最終決定稿)   尚巴志、ウニタキと一緒に勝連グスクに行く。
  23. 名護の夜(最終決定稿)   尚巴志、マチルギと今帰仁に行く。
  24. 山田按司(最終決定稿)   尚巴志、マチルギの叔父、山田按司と会う。
  25. お輿入れ(最終決定稿)   マチルギ、尚巴志に嫁ぐ。
  26. 高麗の対馬奇襲(最終決定稿)   早田左衛門太郎の本拠地、高麗に攻められる。
  27. 豊見グスク(最終決定稿)   シタルー(汪応祖)、豊見グスクを築く。
  28. サスカサ(最終決定稿)   尚巴志とマチルギ、馬天ノロと旅に出る。
  29. 長男誕生(最終決定稿)   マチルギと馬天ノロ、神様になる。
  30. 出陣命令(最終決定稿)   察度、各按司に今帰仁征伐を命じる。
  31. 今帰仁合戦(最終決定稿)   中山王、山北王の今帰仁グスクを攻める。
  32. 次男誕生(最終決定稿)  尚巴志の次男(尚忠)と山田按司の次男(護佐丸)生まれる。
  33. 十年の計(最終決定稿)   尚巴志、佐敷按司(父)、鮫皮大主(祖父)と密談する。
  34. 東行法師(最終決定稿)   父が隠居して、尚巴志、佐敷按司となる。
  35. 首里天閣(最終決定稿)   察度、浦添按司を武寧に譲って隠居する。
  36. 浜川大親(最終決定稿)   ウニタキは妻子を殺され、シタルーは明に行く。
  37. 旅の収穫(最終決定稿)   奥間のサタルーと対馬のユキ。
  38. 久高島(最終決定稿) 尚巴志はマチルギに怒られ、ウニタキはチルーといい感じ。
  39. 運玉森(最終決定稿)   三好日向、尚巴志のために山賊になる。
  40. 山南王(最終決定稿)   承察度が亡くなり、若按司が山南王になる。
  41. 傾城(最終決定稿)   山南王、中山王の怒りを買って、汪英紫に攻められる。
  42. 予想外の使者(最終決定稿)   尚巴志夫婦、弟のマサンルー夫婦と旅をする。
  43. 玉グスクのお姫様(最終決定稿)   尚巴志、玉グスクと同盟を結ぶ。
  44. 察度の死(最終決定稿)   山北王のミンと奥間の長老も亡くなる。
  45. 馬天ヌル(最終決定稿)   馬天ノロ、御嶽巡りの旅に出る。
  46. 夢の島(最終決定稿)   早田左衛門太郎、慶良間の夢の島に行く。
  47. 佐敷ヌル(最終決定稿)  尚巴志の妹、マシューの気持ちとマカマドゥの決心。
  48. ハーリー(最終決定稿)   尚巴志夫婦と佐敷ノロ、ハーリーを見物。
  49. 宇座の御隠居(最終決定稿)   宇座の泰期が亡くなり、尚巴志夫婦は悲しむ。
  50. マジムン屋敷の美女(最終決定稿)  尚巴志、島添大里グスクに側室を入れる。
  51. シンゴとの再会(最終決定稿)   早田左衛門太郎、朝鮮に投降する。
  52. 不思議な唐人(最終決定稿)   尚巴志、懐機と出会う。
  53. 汪英紫、死す(最終決定稿)   懐機、旅から帰り、武術を披露する。
  54. 家督争い(最終決定稿)   達勃期と汪応祖が山南王の家督を争う。
  55. 大グスク攻め(最終決定稿)   尚巴志、大グスクを攻め落とす。
  56. 作戦開始(最終決定稿)   尚巴志、大グスクノロと再会する。
  57. シタルーの非情(最終決定稿)   達勃期、弟の汪応祖に敗れる。
  58. 奇襲攻撃(最終決定稿)   尚巴志、島添大里グスクを攻め落とす。
  59. 島添大里按司(最終決定稿)   尚巴志、島添大里按司になる。
  60. お祭り騒ぎ(最終決定稿)   尚巴志、城下の者たちと戦勝祝い。
  61. 同盟(最終決定稿)   尚巴志、山南王と同盟する。
  62. マレビト神(最終決定稿)   外間ノロと佐敷ノロにマレビト神が現れる。
  63. サミガー大主の死(最終決定稿)   神の声を聞いたウニタキ。
  64. シタルーの娘(最終決定稿)   山南王のお姫様の悩みと青い海
  65. 上間按司(最終決定稿)   明国の使者が二十年振りにやって来る。
  66. 奥間のサタルー(最終決定稿)   尚巴志、奥間ノロに魅了される。
  67. 望月ヌル(最終決定稿)   謎の爺さん、望月党を語る。
  68. 冊封使(最終決定稿)   首里の宮殿の儀式で、武寧と汪応祖、正式に王になる。
  69. ウニョンの母(最終決定稿)   ウニタキ、亡くなった妻の秘密を知る。 
  70. 久米村(最終決定稿)   尚巴志とウニタキ、懐機に呼ばれて久米村に行く。
  71. 勝連無残(最終決定稿)   勝連按司が奇病に倒れる。 
  72. 伊波按司(最終決定稿)   大きな台風が来て各地で被害が出る。
  73. ナーサの望み(最終決定稿)   ウニタキ、ナーサを味方に引き入れる。
  74. タブチの野望とシタルーの誤算(最終決定稿)  八重瀬按司、中山王と同盟する。
  75. 首里グスク完成(最終決定稿)   中山王と山南王の決戦が迫る。
  76. 首里のマジムン(最終決定稿)   尚巴志、首里グスクを奪い取る。 
  77. 浦添グスク炎上(最終決定稿)   浦添グスクは焼け落ち、亜蘭匏は消える。
  78. 南風原決戦(最終決定稿)   尚巴志、中山軍を壊滅させる。
  79. 包囲陣崩壊(最終決定稿)   達勃期は出直し、汪応祖は首里を攻める。
  80. 快進撃(最終決定稿)   尚巴志、中グスク、越来グスクを攻め落とす。
  81. 勝連グスクに雪が降る(最終決定稿)   尚巴志、勝連グスクを落とす。

 

尚巴志伝 第二部 目次

 

・尚巴志伝の年表

・第一部の主要登場人物

・尚巴志の略歴

・尚巴志の祖父、サミガー大主の略歴

・尚巴志の父、思紹の略歴

・馬天ヌル(馬天ノロ)の略歴

・中山王、察度の略歴

・中山王、武寧の略歴

・汪英紫の略歴

・山南王、汪応祖の略歴

・泰期の略歴

・クマヌの略歴

・三好日向の略歴

・早田左衛門太郎の略歴

・ウニタキの略歴

・懐機の略歴

・倭寇年表

第二部 主要登場人物

主要登場人物

サハチ       1372-1439  尚巴志。島添大里按司
マチルギ      1373-    尚巴志の妻。伊波按司の娘。
サグルー      1390-    尚巴志の長男。
ジルムイ      1391-    尚巴志の次男。尚忠。
ミチ        1393-    尚巴志の長女。島添大里ヌル、サスカサ。
イハチ       1394-    尚巴志の三男。
思紹        1354-1421 中山王。尚巴志の父。
佐敷ヌル      1374-    尚巴志の妹、マシュー。シンゴと結ばれ娘を産む。
佐敷大親      1376-    尚巴志の弟、マサンルー。妻は奥間大親の娘。
平田大親      1378-    尚巴志の弟、ヤグルー。妻は玉グスク按司の娘。
与那原大親     1383-    尚巴志の弟、マタルー。妻はタブチの娘。
馬天ヌル      1357-    思紹の妹、尚巴志の叔母。
ササ        1391-    馬天若ヌル。父はヒューガ。母は馬天ヌル。
ヒューガ      1355-1470 三好日向。中山の水軍大将。
苗代大親      1360-    思紹の弟。サムレー総隊長。武術師範。
マカマドゥ     1392-    苗代大親の三女。マウシ(護佐丸)の妻。
クグルー      1386-    泰期の三男。苗代大親の娘婿。
サミガー大主    1356-    思紹の弟、ウミンター。
ウニタキ      1372-1433 三星大親。「三星党」の頭。
チルー       1368-    ウニタキの妻。尚巴志の母の妹。
イーカチ      1373-    「三星党」の副頭。絵画き。
ナツ        1381-    ウニタキの配下から尚巴志の側室になる。
ファイチ      1375-1453 懐機。明国の道士。尚巴志の客将。
サスカサ      1354-    ミチにサスカサを譲り、運玉森ヌルになる。
マウシ       1391-1458 真牛。山田按司の次男。尚巴志の甥。護佐丸。
マカトゥダル    1392-    護佐丸の妹。サグルーの妻。
マサルー      1364-    山田按司の家臣。
シラー       1391-    マサルーの次男。
クマヌ       1346-    中グスク按司。中山の重臣。
美里之子      1362-    越来按司。中山の重臣。思紹の義弟。
當山之子      1365-    美里之子の弟。浦添按司になる。
クサンルー     1387-    當山之子の長男。浦添按司
カナ        1391-    當山之子の長女。浦添ヌル。
サム        1372-    勝連按司の後見役。伊波按司の四男。
ユミ        1392-    サムの長女。ジルムイ(尚忠)の妻。
ナーサ       1352-    首里の遊女屋「宇久真」の女将。
宇座按司      1355-    泰期の次男。父の跡を継いで明国への使者となる。
シタルー      1362-1413 山南王。汪応祖
タブチ       1360-1414 八重瀬按司。シタルーの兄。
サイムンタルー   1361-1429  早田左衛門太郎。対馬島倭寇の頭領。
早田六郎次郎    1387-    左衛門太郎の跡継ぎ。妻はユキ。
ユキ        1388-    六郎次郎の妻。尚巴志の娘。母はイト。
イト        1372-    対馬島の女船長。ユキの母。
シンゴ       1372-    早田新五郎。左衛門太郎の弟。
早田五郎左衛門   1349-    左衛門太郎の叔父。朝鮮国の富山浦に住む商人。
早田丈太郎     1371-    五郎左衛門の長男。漢城府の津島屋の主人。
浦瀬小次郎     1375-    五郎左衛門の娘婿。
早田ナナ      1388-    早田次郎左衛門の娘。
サングルミー    1371-    与座大親。中山の進貢船の正使。
メイファン     1379-    張美帆。明国の海賊の娘。
メイリン      1374-    張美玲。メイファンの姉。
メイユー      1376-    張美玉。メイファンの姉。
ラオファン     1338-    黄敬。三姉妹の武術の師匠。
リェンリー     1376-    黄怜麗。ラオファンの娘。
ジォンダオウェン  1364-    鄭道文。三姉妹の配下の海賊。
ユンロン      1387-    鄭芸蓉。ジォンダオウェンの娘。 
リュウジャジン   1362-    劉嘉景。三姉妹の配下の海賊。
リィェンファ    1377-    楊蓮華。富楽院の妓楼『桃香滝』の女将。
ヂュヤンジン    1375-    朱洋敬。懐機の友。宮廷に仕える役人。
永楽帝       1360-1424  明国の皇帝。
リュウイェンウェイ 1389-    劉媛維。富楽院の最高級妓楼『酔夢楼』の妓女。
ファイホン     1379-    懐虹。懐機の妹。
ヂャンサンフォン  1247-    張三豊。武当山の道士で、武当拳の創始者。
シンシン      1390-    范杏杏。張三豊の弟子。
フカマヌル     1372-    外間ノロ。久高島のノロ。尚巴志の腹違いの妹。
奥間大親      1357-    ヤキチ。奥間から来た尚巴志の護衛役。中山の重臣。
平安名大親     1348-    勝連の重臣。ウニタキの叔父。
勝連ヌル      1369-    ウニタキの姉。
伊波按司      1363-    マチルギの兄。
山田按司      1365-    マチルギの兄。
攀安知       1376-1416  山北王。
涌川大主      1377-    攀安知の弟。
勢理客ヌル     1356-    アオリヤエ。攀安知の叔母。
兼グスク按司    1378-    ンマムイ。武寧の次男。妻は攀安知の妹。
飯篠修理亮     1387-1488 武芸者。長威斎。
一文字屋孫三郎   1361-    次郎左衛門の弟。坊津の一文字屋主人。
みお        1394-    一文字屋孫三郎の三女。
村上又太郎     1386-    村上水軍の頭領の長男。上関を守っている。
村上あや      1392-    村上又太郎の妹。
塩飽三郎入道    1358-    塩飽水軍の頭領。
一文字屋次郎左衛門 1355-    京都の一文字屋の主人。
まり        1394-    一文字屋次郎左衛門の三女。
高橋殿       1376-    足利義満の側室。道阿弥の娘。
対御方       1379-    足利義満の側室。高橋殿に仕えている。
平方蓉       1383-    陳外郎の娘。高橋殿に仕えている。
足利義持      1386-1428  室町幕府第四代将軍。
勘解由小路殿    1350-1410  斯波道将。将軍様の補佐役。
中条兵庫助     1359-    将軍様の武術指南役。慈恩禅師の弟子。
外郎       1360-    陳宗奇。薬師。外交使節の接待役。
魏天        1350-    将軍様に仕える明国の通事。
栄泉坊       1389-    東福寺を追い出された画僧。
増阿弥       1368-    奈良の田楽新座の太夫。
一徹平郎      1355-    北野天満宮の宮大工。
源五郎       1359-    腕はいいが変わり者の瓦職人。
新助        1379-    龍ばかり彫っている等持寺の大工。
渋川道鎮      1372-1446  九州探題。勘解由小路殿の娘婿。
宗讃岐守貞茂    1364-1418  対馬守護。
平道全       1376-    宗貞茂の家臣。
宗金        1380-    博多妙楽寺の僧。
李芸        1373-1445  倭寇にさらわれた母親を探している朝鮮の役人。
シーハイイェン   1390-    施海燕。旧港宣慰司、施進卿の次女。施二姐。
ツァイシーヤオ   1390-    蔡希瑶。シーハイイェンの親友。
シュミンジュン   1342-    徐鳴軍。シーハイイェンの師匠。張三豊の弟子。
ワカサ       1364-    旧港の通事。若狭出身の倭寇

 

2-63.対馬慕情(第一稿)

尚巴志伝 第二部

 サハチたちが朝鮮(チョソン)から対馬に戻ったのは、山々が紅葉している十月の初めだった。
 九月の初めに漢城府(ハンソンブ)(ソウル)に着いた琉球使者たちは、二十一日にようやく、朝鮮王(李芳遠(イバンウォン))に謁見(えっけん)した。何度も歓迎の宴が行なわれたが、なかなか朝鮮王に会うことはできなかった。李芸(イイエ)に聞くと、書類の手続きに手間取っているようだという。
 新しい宮殿の昌徳宮(チャンドックン)で朝鮮王と謁見した使者たちは胡椒(こしょう)や蘇木(そぼく)、象牙(ぞうげ)などを贈り、武寧(ぶねい)の側室たちを返した。お礼として大量の綿布(めんぷ)と経典(きょうてん)や仏像を贈られた。ただ、仏像は大きな物は運べないので、小さい物ばかりだった。
 使者たちが朝鮮王と会ったのを確認すると、サハチたちは富山浦(プサンポ)(釜山)に引き返した。ナナがササに会いたいと言って一緒に付いて来た。途中、長雨に見舞われて三日間、足止めを食らったが何とか無事に富山浦に到着した。道のひどさに辟易(へきえき)し、もう二度と漢城府には行きたくないとサハチは思っていた。
 富山浦の『津島屋』の留守を守っていたのは、浦瀬小次郎の弟の小三郎だった。小三郎の話によると、サハチたちが漢城府に旅立った後、ササたちはすぐに対馬に帰らず、小次郎の双子の娘、ソラとウミを連れて、近辺の山々に登っていたという。危険だと言っても言う事を聞かず、小三郎を困らせたらしい。それでも、八月の半ばには無事に対馬に送り届けたという。サハチはお礼を言って、漢城府の出来事と、開京(ケギョン)でサイムンタルーと会った事を告げた。
「お屋形様に会えましたか。それはよかったです。それに朝鮮の王様を間近に見るなんて、ササが言っていましたが、あなたは何かを持っているようですね」
「ササが何かを言ったのですか」
「わたしがあなたの事を心配していたら、あなたは龍だから大丈夫だと言っていました。意味はよくわかりませんが、きっと、強運の持ち主なんだろうと思いました」
 ササが子供の頃、ヒューガが彫った龍を渡された事をサハチは思い出して笑った。
 船大工の与之助は帰ったかと聞くと、進貢船を隅から隅まで調べて、九月の半ばに帰って行ったという。船の事しか考えていないあんな船大工が琉球にも欲しいと思った。
 次の日、サハチは倭館(わかん)に行き、漢城府に行かなかった又吉親方(またゆしうやかた)に使者たちの様子を話して、先に対馬に帰る事を告げた。
 丁度うまい具合に、イトの船が富山浦にやって来た。
「迎えに行って」とササに言われたという。ササたちも一緒に来て、ナナとの再会を喜んでいた。
 対馬に帰ったサハチはイスケの船に乗って、イト、ユキ、ミナミを連れて、家族水入らずの旅に出た。喜んでいるユキとミナミを見ながら、子供たちと一緒に旅をするのは初めてだなと思った。マチルギとは毎年のように旅をしたが、子供たちを連れて行った事はなかった。琉球に帰ったら、幼い子供たちを連れて久高島にでも行こうかなとサハチは思っていた。
 ササから話に聞いていた仁位(にい)のワタツミ神社は海の中に鳥居がいくつも立っている不思議な神社だった。本殿を参拝し、森の中にある豊玉姫(とよたまひめ)のお墓で両手を合わせた。
 イトが近くに眺めのいい山があるというので登った。大して高い山ではないので、すぐに山頂に着いた。そこからの眺めは素晴らしかった。周りに高い山がないので、東西南北すべてが見渡せた。ミナミもキャッキャッと言いながら喜んでいた。
 サハチたちが眺めを楽しんでいるとササたちがやって来た。ササとシンシンとナナの三人だった。ミナミが喜んでササたちの所に飛んで行った。
「お前ら、跡を付けて来たのか」とサハチが聞くと、「そうじゃないのよ。土寄浦(つちよりうら)に行く途中なのよ」とササは言った。
「土寄浦の若い者たちを鍛えてくれって頼まれたのよ。ンマムイとクサンルーは先に行ったけど、あたしはワタツミ神社に寄ってから行くって言ったのよ」
「またスサノオか」
「そうよ。この山に登ってみたかったの」
「この山にスサノオが来たのか」
「来たと思うわ。周り中が眺められるもの。この山があったから、スサノオはワタツミ神社の所にお屋敷を建てて暮らしたんだと思うわ」
「成程」とサハチはうなづいた。
スサノオに敵がいたのかどうかは知らんが、ここにいれば敵の動きがわかるな」
「ここから周りを見張っていたのよ。あたし、ずっと豊玉姫がどこから来たのか考えていたんだけど、ようやくわかりそうだわ」
「ほう、ここに来てわかったのか」
「そうじゃないけど、見方を変えてみたのよ。豊玉姫スサノオに会うためにここに来たけど、最初に南の島に行ったのはスサノオなのよ。南の島でスサノオ豊玉姫と出会って結ばれるわ。豊玉姫にとってスサノオはマレビト神だったのよ。豊玉姫は妊娠して、スサノオのもとで子供を産みたいと対馬にやって来るの。スサノオはどうして南の島に行ったの?」
「シビグァー(タカラガイ)でも採りに行ったのか」とサハチが何気なく言うと、ササは驚いた顔をしてサハチを見つめ、「どうして知っているの?」と聞いた。
「今、朝鮮の都でシビグァーが流行っているんだよ」
「えっ、どういう事?」
「ノリゲにシビグァーを飾るのが娘たちに流行っていて、漢城府の津島屋は繁盛しているんだ」
「へえ、そうなんだ。お土産にしようと思って、ノリゲは富山浦の遊女屋の女将さんから譲ってもらったわ」
「お前、女将に会ったのか」
「女将さんが津島屋に来たのよ。綺麗なチマチョゴリを着ていたんで、どこで手に入れるのか聞いたら、あたしたちを遊女屋に連れて行って、綺麗なチマチョゴリをくれたのよ。いい人だわ」
「お前がお世話になったとは知らなかった。改めてお礼をしなければならんな」
「お願いね」とササは言って、スサノオに話を戻した。「スサノオもシビグァーを求めて南の島に行ったんだけど、ノリゲに飾るためじゃないのよ。スサノオの時代、シビグァーは銭の代わりとして交易に使われていたの」
「明国に行った時、ヂャン師匠から聞いたんだけど、山奥ではシビグァーが銭の代わりに使われていると言っていた。琉球にいたら考えられない事だが、朝鮮ではシビグァーは採れない。かなり貴重だったのだろう。今でも貴重だが、スサノオの頃ならシビグァーが宝物のように大切にされていたのかもしれんな」
「そうよ。スサノオは宝物を求めて南の島に出掛けて行ったのよ。そして、豊玉姫と出会うのよ。豊玉姫って豊の国(大分県)のお姫様だと思っていたんだけど、もしかしたら、鳴響(とよ)む玉グスクのお姫さまじゃないかしら?」
豊玉姫琉球人(りゅうきゅうんちゅ)だというのか」とサハチはササを見て笑った。
「おかしくないわ」とササは真剣な顔して言った。
「シビグァーはただ採ればいいというわけじゃないわ。生きているシビグァーを持って行っても途中で腐ってしまうわ。ちゃんと中身を出して乾燥させなくてはならないわ。そんなシビグァーの貝殻を大量に手に入れるには、力を持った按司がいなければならないわ。あたしは琉球の歴史は詳しくないけど、玉グスクって古いんでしょ。きっと、スサノオの頃に玉グスク按司がいて、海外とシビグァーの交易をしていたのよ。それを知ったスサノオ琉球まで行ったのに違いないわ。大量のシビグァーを手に入れたスサノオはカヤの国(朝鮮)に行って、大量の鉄を手に入れたのよ」
 確かにササの言う通りだった。シビグァーの中身を取り出すのは手間の掛かる仕事だった。中身を腐らせてから取り出すので、悪臭が漂う中、ウミンチュのおかみさんたちが手慣れた手つきで作業をしていた。
スサノオが交易したとして、スサノオ琉球に何を持って来たんだ?」
「これよ」とササは赤いガーラダマ(勾玉)を見せた。
「ガーラダマの石はヤマトゥで採れるって聞いているわ。琉球では採れないからとても貴重なのよ」
「成程、あり得るな。しかし、お前の言う通りだと、アマテラスのお母さんは琉球人という事になるぞ」
「そうなのよ。アマテラスは天皇の御先祖様でしょ。でも、アマテラスのお母さんがよその国の人だと具合が悪いので、両親のスサノオ豊玉姫は消されてしまったんだわ。スサノオは京都の神社に祀られているけど、京都の人は誰もスサノオがアマテラスのお父さんだって事は知らないのよ。誰かが歴史をねじ曲げてしまったんだわ。あたし、琉球に帰ったら、スサノオの足跡を探すわ。きっと、どこかに残っているはずよ」
「そうだな。頑張れ」とサハチはササに言ったあと、「もしかしたら、スサノオが行った頃の玉グスク按司というのは俺たちの先祖なのか」と聞いた。
 ササは首を傾げた。
「そういう事は佐敷ヌルが詳しいんじゃないの」
「そうだな。帰ったら聞いてみよう」
 急ぐ旅ではないので、その日はのんびりと過ごして、夜は砂浜で野宿をした。ミナミに引き留められて、ササたちも泊まる事になった。シズがいないので、喧嘩でもしたのかと聞いたら、シズは好きな人ができたみたいと言った。
「誰だ?」
「新太郎」
 サハチには誰だかわからなかった。
「まさか、奥さんがいる男じゃないだろうな」
「奥さんはいないわ。でも、シズより年下なのよ。お母さんはシノさんよ」
「何だって!」とサハチはササを見た。
 シノの息子という事はマツの息子だった。確か、長男のはずだった。マツの跡を継ぐ息子が琉球の娘と仲よくなるなんて‥‥‥問題が起きなければいいがと心配した。
 焚き火を囲んで、笛を吹いたり歌を歌ったりと楽しく過ごしたが、夜は思っていたよりも寒かった。それでも、イトが用意してくれた毛皮を掛けて、みんなで寄り添って眠った。
 次の日、サハチたちはササたちと一緒に土寄浦に向かった。ワタツミ神社は深い入り江の奥の方にあるので、木坂の八幡宮(海神神社)まで一日では行けなかった。
 サハチたちが漢城府まで行っている間に小舟の操り方を覚えたらしい。ササたちは達者に小舟を操っていた。
 土寄浦に着いて『琉球館』に行くと、ンマムイとクサンルーはどこに行ったのか姿はなかった。
「あの二人、振られたのよ」とササが言った。
「ンマムイはクムに振られ、クサンルーはアミーに振られたの。船越にいられないからこっちに来たのよ」
「何をやっているんだ。ンマムイはあんな綺麗な奥さんがいながらクムを口説いているのか」
「あら、人の事を言えるの」とササはサハチを横目で見た。
 サハチは苦笑して、「イハチはうまく行っているのか」と聞いた。
「イハチは按司様(あじぬめー)の息子だから、ミツのお母さんも反対していないわ。琉球に行ってもいいのよって言っているわ」
「まあ、それもいいが‥‥‥」と言ってから、サハチはササを見て、「対馬に来た弟や倅たちが、ここの娘と仲よくなったかどうか、お前、聞いてないか」と聞いた。
 ササはニヤニヤして、「女子(いなぐ)サムレーたちと一緒に調べたのよ」と言った。
「どうして、そんな事を調べたんだ?」
按司様が気になっているだろうと思ってね」
「ああ、確かに気になるよ。ユキのような子がいたら、ちゃんと面倒を見なけりゃならないからな。それで、そんな子はいたのか」
 ササは首を振った。
「一人や二人はいると思ったんだけどいなかったわ」
「そうか」とサハチは安心したが、少し情けなくもあった。
按司様のあと、最初に来たのはマタルー(与那原大親)とマガーチ(苗代之子)でしょ」
「そうだったか」とサハチは当時を思い出してみた。
 マサンルー(佐敷大親)とヤグルー(平田大親)が断って、マタルーが行く事になった。そして、マタルーの供として従弟(いとこ)のマガーチが行ってくれたのだった。
「二人ともすでに奥さんがいたし、特に仲よくなった娘はいなかったみたい。按司様とは違うのよ」
「うるさい」
 ササは笑って、「本当は釣り合う相手がいなかったみたい」と言った。
「十六、七の娘じゃ若すぎるし、釣り合いの取れる相手は皆、お嫁に行って、小さな子供を育てていたわ」
「成程。そういう事か」
「次に行ったのはクルーと勝連按司(かちりんあじ)後見役(サム)よ」
「お前、よくそんな事を覚えているな」とサハチは感心した。
 ササは笑って頭を指さし、「みんな、ここに入っているのよ」と言った。
「この二人はちょっと問題があったわ。クルーはここの娘と仲よくなったみたい。クルーはあんな可愛い奥さんがいながら浮気したのよ。按司様に似てるのかしら」
「俺の事を一々出すな。それで、その娘とどうなったんだ?」
「子供はできなかったみたい。その娘はお嫁に行ったわ。クルーは三年後にもう一度、対馬に来るんだけど、その時、その娘は大きなお腹をしていたらしいわ」
 サハチは笑った。
「サムは何もなかったんだな」
 ササは首を振った。
「ミツのお母さんといい仲になったみたい」
「何だって!」
「お互いに浮気をしたのね。娘がイハチを好きになっても、自分もそうだったから許せるのよ」
「サムがマユとか‥‥‥」
 そう言ってサハチは首を振った。
「次に来たのはマサンルーとサグルーよ」とササは言った。
 マサンルーは何事もあるまいが、サグルーは心配だった。
「二人とも問題ありよ。マサンルーはサワさんの娘のスズさんと仲よくなったわ」
「何だって! マサンルーがスズちゃんと‥‥‥」
 マサンルーがそんな事をするなんて信じられなかった。サハチは口をポカンと開けたまま、ササを見ていた。
「サグルーはかなり持てたようよ。按司様の事は伝説になっていて、その息子がやって来たんだから当然ね。それに、サグルーは見た目もいいし。サグルーの時から船越の方に移ったみたい。サグルーと仲よくなったのは船越の娘よ」
「今はもうお嫁に行ってるんだろう」
 ササは首を振った。
「お嫁には行ってないわ。イトさんのお船に乗っているわ」
「お嫁に行かないのか」
「サグルーの事が忘れられないみたい」
「イトの船に乗っていると言ったな。マチルギはその娘の事を知っているのか」
「奥方様(うなじゃら)とずっと一緒にお船に乗っていたけど名乗らなかったみたい。みんなにも口止めしていたらしいわ」
「そうか。お前、その娘に会ったのか」
 ササはうなづいた。
「綺麗な娘よ。そして、かなりの腕だわ。奥方様と出会って尊敬したみたい。奥方様みたいになりたいって必死にお稽古したって言っていたわ」
「今もサグルーの事が好きなのか」
「みたいね。いつかもう一度会えると信じているみたい」
「そうか‥‥‥そんな娘がいるのか」
「サグルーとその娘が再会したら、新しい伝説ができるわね。いつか、サグルーは対馬に来るんでしょ」
「多分な。俺の代わりにヤマトゥや朝鮮に行く事になるだろう」
「劇的な再会ね。按司様、その娘の事、サグルーに言っちゃだめよ」
「おっ、そうだな」とサハチは笑いながらうなづいた。
 ササは話を聞いていたシンシンとナナ、イスケにも口止めした。イトとユキとミナミはシンゴの所に挨拶に行っていた。
「おい、ジルムイはどうなんだ。仲よくなった娘はいるのか」
「ジルムイも持てたようよ。でも、特に好きになった娘はいなかったみたい。ジルムイはずっと勝連に行ったユミの事を思っていたのよ」
「そうか‥‥‥マウシは問題を起こさなかったか」
 ササは笑った。
「マウシは惚れた娘がいたんだけど、相手にされなかったのよ」
「ほう、そんな娘がいたのか」
「ユキさんよ」
「何だって! マウシの奴、ユキに惚れたのか」
「惚れたというより憧れたというか。マウシはユキさんの家来になったみたいだって、みんなが言っていたわ。当時、三歳だったミナミちゃんのいい遊び相手だったみたい」
「マウシがミナミと遊んでいたのか」
 その姿を想像してサハチは笑った。
「サワさんから聞いたんだけど、按司様のお父さんも好きになった娘がいたみたいよ」
「そんな事、サワさんから聞いてないぞ」
按司様が前に来た時、その人は幸せに暮らしていたから按司様には言わなかったのよ。その後、旦那さんが戦死してしまって、その人は旦那さんに代わって、家臣たちを引き連れて海に出て行ったらしいわ」
倭寇(わこう)働きに行ったのか」
 ササはうなづいた。
「でも、その人も戦死してしまったらしいわ」
「そうか‥‥‥女武者として戦死したのか」
「きっと、王様から剣術を習ったんだわ」
「親父からその人の事は聞いた事はない。お爺(サミガー大主)も好きな娘がいたと言っていた」
「えっ、お爺もなの」とササは驚いていた。
「俺が対馬に連れて行くって約束したんだけど、約束を果たす前に亡くなってしまったんだ」
「そうだったの。お爺が好きになった人を探すのは難しいわ。きっと、もう亡くなっているわね」
 ヤグルーが後家の女と仲よくなった話を聞いているとンマムイとクサンルーが酒樽を担いで帰って来た。イトとユキとミナミも一緒で、シンゴの妹のサキが娘のミヨと一緒に、女たちを連れて料理を運んでくれた。
「お前たち、お屋形に行っていたのか」とサハチはンマムイとクサンルーに聞いた。
「稽古が終わったあと、シンゴさんに呼ばれて行ったんです。朝鮮の事を話していたら、イトさんたちがやって来て、宴の準備をして、こうして運んで来たのです」
 サハチは朝鮮から帰って来た時、シンゴと会って朝鮮での事を話していた。もっと詳しく知りたいと二人を呼んだのだろう。
 サハチたちは遠慮なく、酒と料理を御馳走になった。
 次の日、サハチたちは木坂の八幡宮に向かった。浅海湾(あそうわん)から外海に出たら海は荒れていた。無理をせず、二日掛かりで木坂に着いた。のんびりと景色を楽しみながらの旅だった。娘のユキと孫娘のミナミと一緒にいるだけで楽しかった。そして、イスケとイトがいた。イスケはサハチが誕生した時、馬天浜にいたという。考えてみれば長い付き合いだった。
 八幡宮は山の上にあった。神気が漂っているような雰囲気があり、各地にある八幡宮の総本山だという事を感じさせた。ヤマトゥの事も朝鮮の事も、何もかもがうまくいった事へのお礼を言い、これからも見守ってくれるようにお願いした。
 サハチは感謝の気持ちを込めて一節切(ひとよぎり)を吹いた。神々しい調べは山の中に響き渡り、今にもスサノオの神様が降りて来るような気がした。

 

 

 

対馬国志 全巻セット