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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-54.無人島とアワビ(第一稿)

尚巴志伝 第二部

 家族水入らずで過ごした次の日、サハチはイトに連れられて、近くの無人島に行った。二つの島が並んでいて、一つの島に砂浜があった。サハチたちは砂浜に上陸した。すぐ目の前に島があるので、船越の方は見えなかった。
「ここは船越の若者たちが集まる島なのよ」とイトは言った。
「船越にも年頃の若者たちが多くなって、土寄浦(つちよりうら)を真似して、八の付く日に集まる事に決めたの」
「すると、六郎次郎殿もこの島に来ていたのか」
「あの頃はまだ、若者たちは多くなかったわ。ユキがお嫁に来て、船乗りの女たちが子供を連れて船越に移って来てから子供たちが多くなって来たの。でも、十二年前にお屋形様が大勢の男たちを連れて朝鮮に行ってしまってから、子供たちが少なくなってきているの。今、十二歳の子供たちは、お屋形様が朝鮮に行った翌年に生まれた子供で、結構多いんだけど、そのあと、急激に少なくなってしまうのよ」
「そうか。それは大変だな」と言ったあと、サハチはイトを見つめ、「もう一人、産むか」と聞いた。
「えっ」とイトはサハチを見て顔を赤らめ、「何を言っているのよ」と笑った。
 サハチはイトを抱き寄せた。
「会いたかったわ」とイトは小声でつぶやいた。
「俺もさ」と言って、サハチはイトの唇をふさいだ。
 砂浜で抱き合ったあと、二人は海に潜ってアワビ捕りに熱中した。
 新鮮なアワビを食べながら、サハチはイトから朝鮮(チョソン)の事を聞いた。
「富山浦(プサンポ)(釜山)は随分と変わったわよ。対馬だけでなく、各地から集まって来た人たちが住んでいて、土寄浦よりもずっと賑やかだわ」
「五郎左衛門殿が仕切っているのか」
「そうよ。五郎左衛門殿は富山浦のお屋形様と言えるんじゃないかしら。九州探題の渋川殿も一目置いているわ」
「そうか。それで、琉球の船は今、富山浦にいるんだな」
「そうよ。富山浦にいる朝鮮の役人が今、漢城府(ハンソンブ)(ソウル)に向かっているわ。王様の許可が下りないと都に行けないのよ」
「やはり、時間が掛かりそうだな。イトは漢城府に行った事はあるのか」
「ないわ。五郎左衛門殿に頼んだんだけど、女は危険だって言われたわ。富山浦から漢城府まで十日近く掛かるらしいの。途中の山に山賊が出るらしいわ」
「朝鮮も物騒なんだな」
「貧しい人たちが多すぎるって、五郎左衛門殿は言っていたわ。朝鮮ができてからまだ十五、六年しか経っていないし、その間には何度も政変が起こっているわ。お屋形様のお兄さんの家族たちも政変で殺されてしまったのよ。今の王様になって、宮廷は落ち着いて来たようだけど、地方はちっとも変わっていないわ。新しい都造りのために搾り取られて、返って苦しくなっているんじゃないの」
「新しい都か‥‥‥どんな都だか見てみたいな」
「どうせ、明国の真似よ。初代の王様が高麗(こうらい)の都だった開京(ケギョン)(開城市)から漢城府に都を移して、二代目の王様はまた開京に移して、三代目の王様は漢城府に戻ったのよ。都が変わる度に大騒ぎして引っ越ししていたらしいわ。漢城府には初代の王様が造った立派な宮殿があるのに、三代目の王様は別の場所に新しい宮殿を建てているのよ。まったく考えられないわ」
 サハチはイトを見ながら笑っていた。
「朝鮮に怒っているのか」
「怒りたくなるわよ。庶民の事なんて何も考えていないんだから。それに、明国の皇帝から美女を差し出せって言われたらしくて、役人たちが村々を回って、村一番の綺麗な娘を集めているのよ。まったく信じられないわ」
永楽帝がそんな事を朝鮮に命じたのか。信じられんな」
「命じる方もどうかしてるけど、それに応じる方もどうかしてるわ」
「今の王様っていうのはどんな男なんだ」
「頭がよくて、非情な男らしいわ。王様になるために兄弟を殺して、政権を守るために重臣たちを何人も殺しているわ」
 サハチは首を振った。サハチは中山王の武寧(ぶねい)を倒した時、その一族の者たちは殺した。しかし、自分の身内の者たちを殺すなんて考えられなかった。
「ひどい王様だな。五郎左衛門殿はその王様に会った事があるのか」
「あるわよ。お屋形様(早田左衛門太郎)が朝鮮に投降して、宣略(せんりゃく)将軍という地位を与えられた時、五郎左衛門殿も司直(しちょく)という地位を与えられたの。主立った人たちは皆、地位を与えられて、その時に初代の王様に会っているのよ。今の王様にも御褒美を頂いた時に会っているわ」
「宣略将軍というのはどんな地位なんだ」
「よく知らないけど、将軍が付くんだから偉いんじゃないの。王様に会えるんだから偉いのよ、きっと」
「そうだな。サイムンタルー殿はうまくやっているようだな」
「お屋形様は朝鮮では、林温(イムオン)ていう名前なのよ」
「ほう、朝鮮の名前まであるのか」
「その名前も王様から賜わったみたい」
「五郎左衛門殿もあるのか」
「五郎左衛門殿は朴生(パクセン)だったと思うわ」
「イムオンにパクセンか。朝鮮の名前も変わっているな。ところで、朝鮮の交易品が何だか知っているか」
「えっ、そんな事も知らないで、朝鮮と交易するつもりなの」
 イトは驚いた顔をしてサハチを見た。
「今の琉球には朝鮮に詳しい人がいないんだよ。前の王様が朝鮮と交易していたんで、やって来たんだけど、当時の記録がほとんど残っていないんだ。琉球が持って行った物は記録に残っていて、硫黄(いおう)に蘇木(そぼく)と胡椒(こしょう)、それに海亀の甲羅にヤコウガイタカラガイの貝殻も持って来た。明国の場合は硫黄を降ろしたあとに陶器を積めばいいけど、朝鮮の場合は何を積んだらいいんだ。ある程度、重い物を積まないと琉球に帰れなくなる」
「そうねえ。朝鮮との交易品といえば、木綿(もめん)と人参(にんじん)くらいかしら」
「モメンとは何だ」
「丈夫な布の事よ。日本にはまだないわ。京都に持って行けばかなり高く売れるらしいわ」
「布ばかり積むわけにもいかんな」
 人参というのはヂャンサンフォンから聞いていた。万病に効く漢方薬で、高値で取り引きされるが大量に手に入れるのは難しいと言っていた。
「経典を積んで行ったら?」とイトが言った。
「朝鮮は仏教を禁止したらしくて、高麗の頃にあちこちにあったお寺はみんな破壊されているらしいわ。そのお寺にあった経典やら仏像やらが安く手に入るって聞いた事があるわよ」
「経典に仏像か‥‥‥」と言って、サハチはニヤッと笑った。
「これから琉球にお寺を何軒も建てるつもりなんだ。経典と仏像が手に入るのなら都合がいい。その事を使者に告げなくてはならんな」
「経典の中に『大蔵経(だいぞうきょう)』っていうのがあるんだけど、それは将軍様も欲しがっているわ。将軍様に献上しようと九州探題大内氏が、倭寇に連れ去られた朝鮮人を朝鮮に送り返して、大蔵経を手に入れようとしているのよ」
大蔵経というのはそんなにも貴重なお経なのか」
「お経のすべてが揃っているらしいわ」
「お経のすべてがか。相当な量になるんじゃないのか」
「そうでしょうね。よくわからないけど」
大蔵経か‥‥‥琉球にも欲しいな」
倭寇に連れ去られた人たちで思い出したんだけど、朝鮮に李芸(イイエ)っていう人がいるの。八歳の時にお母さんが倭寇に連れ去られてしまって、お母さんを探しているのよ。その人、捕まって対馬に来たのよ。お屋形様が、骨のある奴だって気に入って、和田浦で預かっていたの。その頃、和田浦にはシンゴがいて、仲よくなったみたい。あたしたちより一つ年下なのよ。その人、その後、三度も対馬に来ているわ。来る度に倭寇に連れ去られた人たちを朝鮮に連れ帰っているんだけど、未だにお母さんは見つからないみたい。去年も来たんだけど暴風にあって、散々な目に遭ったって言っていたわ」
「お前もその李芸という奴に会ったのか」
「去年は会ってないけど、三年前かな、船越に来た時に会ったわ。何度も日本に来ているので、日本の言葉も話せるわ」
「そいつは漢城府にいるのか」
「役人だからそうじゃないかしら」
「ヤマトゥの言葉がわかるのなら会ってみたいな」
「五郎左衛門殿に聞けば、詳しい事がわかるわよ。ねえ、マチルギさんは船に乗っているの」
「いや。ここで毎日、船に乗っていたから気が済んだようだ。琉球の海はサンゴに囲まれているから船を操るのは難しいんだよ」
「サンゴって何?」
「サンゴっていうのは生き物なんだけど、死ぬと堅い岩のようになるんだ。琉球はそんなサンゴに囲まれているから、海をよく知らないと大きな船はサンゴに乗り上げて座礁してしまうんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「でも、サンゴのお陰で琉球の砂浜は白くて綺麗なんだよ。琉球の砂浜はどこも白いので、初めてヤマトゥの砂浜を見た時は驚いたよ」
 イトは砂浜の砂を手でつかんで眺め、「白い砂浜なんて想像もできないわ」と言った。
「お屋形様が朝鮮から戻って来たら、ユキを連れて琉球に来いよ。マチルギも歓迎してくれるだろう」
「そうね。行きたいわ」
 アワビを食べた二人は砂浜の隣りにある山に登った。小さな山なので、すぐに山頂に出た。山の半分近くは木が切られてあり、山頂の近くに炭焼小屋があった。
「こんな小さな島でも炭焼きをしているのか」とサハチはイトに聞いた。
「夏の間は漁をやって、冬は炭焼きをしているのよ」
「こんな小さな島なら、すぐに木がなくなってしまうだろう」
「木がなくなったら畑にして、数年間、作物を育てるわ。そのあと、木を植えて成長するまで待つのよ」
「気の長い話だな」
「昔からそうやって暮らしてきたの。でも、それだけでは生きてはいけないのよ」
 イトは笑って、西の方を眺めた。
「そろそろ朝鮮に行った船が戻って来るはずなんだけど」
「お前が先に帰って来て、大丈夫なのか」
「大丈夫よ。あの頃、一緒に遊んだツタ、シノ、トミ、マユを覚えている?」
「覚えているよ。シンゴ、マツ、トラ、ヤスと仲がよかった四人だろう」
「そうよ。あのあと、一緒になったのはマツとシノだけだったわ。ヤスは戦死しちゃったし‥‥‥」
「シンゴから聞いたよ」
「あれはお屋形様のお兄さんが戦死して、その弔(とむら)い合戦だったの。でも、お屋形様の叔父さんの備前守(びぜんのかみ)殿が戦死して、ヤスも戦死しちゃったの。ツタの旦那さんも戦死したわ。他にも大勢、戦死してしまって、その衝撃で、先代のお屋形様は隠居なさったのよ。その時の戦じゃないけど、トミの旦那さんは片足を失ってしまったわ。今は二人で仲よく、土寄浦で漁師をしている。マツとトラはお屋形様と一緒に朝鮮にいるわ。マユの旦那さんも朝鮮よ。旦那さんが朝鮮にいるマユとシノ、旦那さんを亡くしたツタはあたしと一緒に船に乗っているのよ」
「マユとシノとツタは船越にいるのか」
「そうよ、子供を連れて移って来たのよ。それと、あたしの妹のヒサを覚えている?」
「覚えているよ」
「ヒサも旦那さんが朝鮮にいるので、一緒に船に乗っているわ」
「イトには三人の妹がいたんじゃないのか」
「すぐ下のタケは漁師に嫁いで、土寄浦にいるわ。その下がヒサで、一番下のマホはお屋形様の家臣に嫁いだの。旦那さんはシンゴと一緒に琉球に行っているはずよ、護衛兵として」
「カンスケと一緒にいるのを見た事がある。あれがマホちゃんの旦那だったのか」
「それとサワさんの娘のスズちゃんを覚えている?」
「勿論、覚えているよ。和田浦でもずっと一緒だったからな」
「スズちゃんも船に乗っているわ」
「船が帰って来ると懐かしい顔に会えるんだな」
「みんな、あなたに会うのを楽しみにしているわ。今晩はまた歓迎の宴だわね」
「本当に懐かしいよ」
 しばらく山の上から海を見ていたが、みんなを乗せた船は見えなかった。サハチとイトは船越に戻った。
 対馬館に行くと誰もいなかった。どこに行ったのだろうと思いながらイトの屋敷の方に向かうと、ウニタキと出会った。
「みんな、どこに行ったんだ」とウニタキに聞いたら、「朝の稽古が終わって、ササたちはイスケさんの船に乗って住吉神社に行った。師匠とジクー禅師とファイチは梅林寺の和尚に会いに行くと言っていた」
住吉神社というのは近いのか」
「半時も掛からないと言っていた。ササが神様の事で調べたい事があるとか言っていたよ。また、スサノオの神様の事じゃないのか」
「そうか」
 サハチはイトと別れて、ウニタキと一緒に梅林寺に向かった。集落の外れの山裾に梅林寺はあった。思っていたよりも小さなお寺だった。鉄潅(てっかん)和尚が言うには、日本で一番古いお寺だという。
 三人は和尚と一緒にお茶を飲みながら話し込んでいた。ヂャンサンフォンは琉球の着物を着ていて、ファイチは高橋殿にもらった直垂(ひたたれ)が気に入ったとみえて、ずっとそれを着ている。ジクー禅師は禅僧の格好だったが、鉄潅和尚は野良着姿だった。奇妙な連中の集まりに見えた。
 サハチたちも上がり込んで話に加わった。禅の話をしていて、サハチとウニタキにはよくわからなかった。ヂャンサンフォンは禅にも詳しいようで、明国にある禅寺や偉い禅僧の話をしていて、ジクー禅師と鉄潅和尚は真剣に話を聞いていた。ファイチはまだヤマトゥ言葉がよくわからないのに、わかったような顔をして聞いていた。
 急に集落の方が騒がしくなった。ユキがミナミと一緒にやって来て、船が帰って来たと知らせてくれた。サハチたちは和尚と別れて、西側の港へと向かった。
 大きな船は奥まで入って来られないので途中に船着き場があって、そこから女たちがぞろぞろと降りて来た。
「サハチさん、お久し振りです」と駆け寄ってきた女がいた。三十前後に見える美人だった。サハチには誰だかわからなかった。
「スズですよ。サワの娘のスズです」
「えっ、スズちゃんか。驚いたなあ」
 サハチの頭の中にいるスズは九歳のままだった。
「サハチさんも変わったわ。イトさんの着物を着ていなかったらわからなかった」
「そうか。着物でわかったのか」
 サハチは女たちに囲まれた。
「さあ、誰だか当ててみて」と一人の女が笑いながら言った。
 ツタ、シノ、トミ、マユの四人はかつての面影があったのでわかったが、あとの三人はわからなかった。四人よりは年下だった。サハチはイトの話を思い出して、「タケちゃんとヒサちゃんとマホちゃんか」と聞いた。
「当たりです。よくわかりましたね」と言って、イトの妹三人は笑った。
「昔の面影があると言いたいが、三人ともまったく当時の面影はない。みんな、いい女になっているよ」
「あの頃、あたしはまだ十歳でした。もうこんなにも大きくなりました」
 ヒサがおどけて言うと皆が笑った。
 サハチたちは荷物を運ぶのを手伝って、琉球館に帰った。 その夜は琉球館で、歓迎の宴が行なわれた。サハチたち一行に朝鮮から帰ってきた女たちが二十人余りも加わった。部屋に入りきれず、縁側や庭に溢れた者もいた。
 女たちは皆、夫が朝鮮にいるか、戦死した者たちで、女手一つで子供たちを育てていた。イトとユキのように娘と一緒に船に乗っている女もいる。皆、勇ましい女たちで、サハチたちは圧倒されていた。
 土寄浦に住んでいるトミとイトの妹のタケとマホもわざわざサハチに会うために来てくれた。タケは当時十三歳、マホはまだ四歳だった。末っ子のマホはどことなく、イトに似ていた。
 去年も来ていたササ、シズ、シンシン、ヂャンサンフォン、ジクー禅師は女たちとの再会を喜び、楽しそうに話をしていた。
「去年、博多にいたシンゴから、あなたの奥さんが来るって聞いた時は驚いたわ」とシノが言って、イトを見た。
「あなたが来ないで、奥さんが来るってどういう事って思ったわ。マユなんて、殴り込みだわって騒いだのよ」
「マチルギが殴り込みか」と言ってサハチは笑った。
「でも、いい人だったわ。ずっと一緒に船に乗っていたからわかるの。みんな、マチルギさんを好きになったわ。好きになったというより、みんな、尊敬しているわ。あなたは幸せ者よ」
「マツは元気なのか」とサハチはシノに聞いた。
「元気らしいわ。時々、五郎左衛門殿を通して手紙が届くんだけど、もう十二年も向こうにいるのよ。きっと、向こうに奥さんも子供もいるに違いないわ。それを思うと悔しくって」
「そんな事はないだろう」とサハチが言うと、女たちは皆、自分の夫が朝鮮の女と仲よくやっているに違いないと言っていた。
 サハチは話題を変えて、「船に乗ろうって言い出したのは、やはり、イトなのか」と誰にともなく聞いた。
「そうよ。あの時もびっくりしたわ」とツタが答えた。
「お屋形様が大勢の家臣と一緒に、大きな船も朝鮮に持って行っちゃったので、琉球に行くための船が残っただけで、あとはおんぼろの船しかなかったわ。あたしたちはおんぼろの船を何とか修理して、それに乗り込んで、操縦法を習ったのよ。男たちが帰って来るまで、あたしたちが頑張るしかないって必死だったわ」
「あの頃、みんな、幼い子供を抱えていて、旦那さんが朝鮮に行ってしまい、途方に暮れていたのよ」とマユが言った。
「イトが船に乗るって言い出した時、そんなの無理だわって誰もが思っていた。それでもイトはサワさんと一緒に女たちを説得して回ったわ。お屋形様の妹にサキ様っていう人がいるんだけど、その人の旦那さんも戦死してしまって、一人で子供を育てていたわ。その人がイトの考えに賛成して、一緒に船に乗ったのよ。」
「あれも驚いたわね」とイトが言った。
「でも、サキ様はお嫁に行く前、土寄浦が全滅した時、あたしたちと一緒に村の再建を手伝ってくれたわ。お嬢様だけど芯の強い人なのよ。お嫁に行ったあと、旦那さんが戦死して、男の子を産めなかったからって、娘さんを連れて土寄浦に戻って来たわ。それからはお屋敷に籠もったまま、外には出て来なかった。それが、突然、あたしにも船に乗らせてって出て来たんだもの、びっくりしたわ。サキ様のお陰で女たちの心も一つになって、みんな、頑張って来たのよ」
「サイムンタルー殿にそんな妹がいたのか」とサハチは驚いていた。
「シンゴのすぐ下の妹さんで、あたしたちより三つ年下なの。今は土寄浦で船頭(船長)として船に乗っているわ」
 二十二年前、サンルーザから子供たちを紹介された時、サキもいたと思うがサハチには思い出せなかった。
「十六歳になる娘さんも一緒に船に乗っているのよ。その娘さんが母親に似て、美人でね、狙っている男たちが大勢いるみたいだけど、ウメさんに鍛えられて、結構、強いらしいわ」
「ほう、ユキのような娘が土寄浦にもいるのか。女たちがみんな強くなって、男たちが帰って来ても、男の出番はなさそうだな」
「そうね。ただ威張っているだけだと追い出されるわね」
 イトがそう言うと女たちは一斉に笑った。

 

 

 

 

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目次 第二部

目次

尚巴志伝 第二部

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このイラストはは和々様よりお借りしました。



  1. 山田のウニウシ(第二稿)   護佐丸、尚巴志を頼って首里に行く。
  2. 胸のときめき(第二稿)   護佐丸、島添大里で恋をする。
  3. 恋の季節(第二稿)   サグルーとササ、山田で魂を抜かれる。
  4. キラマの休日(第二稿)   尚巴志夫婦、毎年恒例の旅で慶良間の島に行く。
  5. ナーサの遊女屋(第二稿)   中山王の家臣たちの懇親の宴。
  6. 宇座の古酒(第二稿)   尚巴志、宇座の御隠居の倅と古酒を飲む。
  7. 首里の初春(第二稿)  中山王となった思紹の初めての正月。
  8. 遙かなる船路(第二稿)  尚巴志、ウニタキ、懐機、明国に行く。
  9. 泉州の来遠駅(第二稿)   明国に着いた尚巴志たちは来遠駅に落ち着く。
  10. 麗しき三姉妹(第二稿)   尚巴志たち、福州に行きメイファンと再会する。
  11. 裏切り者の末路(第二稿)   尚巴志たち、メイファンの敵討ちを助ける。
  12. 島影に隠れた海賊船(第二稿)   尚巴志たち、明の海賊船に乗る。
  13. 首里のお祭り(第二稿)   護佐丸、ササたちと祭りの警備をする。
  14. 富楽院の桃の花(第二稿)   尚巴志たち、明国の都、応天府に着く。
  15. 応天府の夢に酔う(第二稿)   尚巴志たち、最高級の妓楼で夢を見る。
  16. 真武神の奇跡(第二稿)   討伐軍を破って皇帝になった永楽帝
  17. 武当山の仙人(第二稿)   尚巴志たち、武当山で張三豊と出会う。
  18. 霞と拳とシンシンと(第二稿)   尚巴志とウニタキ、張三豊に武術を習う。
  19. 刺客の背景(第二稿)   馬天ノロ、刺客の正体を探る。
  20. 龍虎山の天師(第二稿)   尚巴志たち、道教の本山、龍虎山に行く。
  21. 西湖のほとりの幽霊屋敷(第二稿)   尚巴志たち、三姉妹と再会する。
  22. 清ら海、清ら島(第二稿)  三姉妹と張三豊が琉球に来る。
  23. 今帰仁の天使館(第二稿)   旅に出た張三豊たちが帰って来る。
  24. 山北王の祝宴(第二稿)   攀安知、志慶真の長老から今帰仁の歴史を聴く。
  25. 三つの御婚礼(第二稿)   サグルー、尚忠、護佐丸、妻を迎える。
  26. マチルギの御褒美(第二稿)   尚巴志、妻のマチルギにしぼられる。
  27. 廃墟と化した二百年の都(第二稿)   尚巴志、ウニタキと浦添に行く。
  28. 久高島参詣(第二稿)  思紹王、女たちを連れて久高島へ行く。
  29. 丸太引きとハーリー(第二稿)   尚巴志、豊見グスクでハーリーを見る。
  30. 浜辺の酒盛り(第二稿)   尚巴志、ヤマトゥに行くマチルギたちを見送る。
  31. 女たちの船出(第二稿)   マチルギたち、長い船旅を楽しみ博多に着く。
  32. 落雷(第二稿)   尚巴志、雷鳴を聞きながらマジムン退治を思い出す。
  33. 女の闘い(第二稿)   三姉妹の船が来て、メイユーとナツが会う。
  34. 対馬の海(第二稿)   マチルギ、対馬島でイトとユキに会う。
  35. 龍の爪(第二稿)   尚巴志、ウニタキ、懐機、朝鮮旅の計画を練る。
  36. 笛の調べ(第二稿)   久し振りに佐敷グスクから笛の音が流れる。
  37. 初孫誕生(第二稿)   尚忠の長男、尚志達、生まれる。
  38. マチルギの帰還(第二稿)   女たちがヤマトゥから無事に帰国する。
  39. 娘からの贈り物(第二稿)   尚巴志、マチルギから旅の話を聞く。
  40. ササの強敵(第一稿)   馬天ノロ、日代(ティーダシル)の石を探し始める。
  41. 眠りから覚めたガーラダマ(第一稿)   ササ、読谷山で古い勾玉を見つける。
  42. 兄弟弟子(第一稿)   尚巴志、兼グスク按司武当拳の試合をする。
  43. 表舞台に出たサグルー(第一稿)   サグルー、尚巴志の代理を見事に務める。
  44. 中山王の龍舟(第一稿)   ウニタキの新しい隠れ家が完成する。
  45. 佐敷のお祭り(第一稿)   尚巴志の一節切と佐敷ヌルの横笛に大喝采。
  46. 博多の呑碧楼(第一稿)   朝鮮旅に出た尚巴志たち、博多に着く。
  47. 瀬戸内の水軍(第一稿)   尚巴志村上水軍と塩飽水軍の頭領と会う。
  48. 七重の塔と祇園祭り(第一稿)   尚巴志たち、京都に着く。
  49. 幽玄なる天女の舞(第一稿)   尚巴志が一節切を吹くと美女が舞う。
  50. 天空の邂逅(第一稿)   尚巴志たち、七重の塔に登って感激する。
  51. 鞍馬山(第一稿)   尚巴志たち、鞍馬山で武術修行。
  52. 唐人行列(第一稿)   尚巴志、増阿弥の芸に感動する。
  53. 対馬の娘(第一稿)   尚巴志、イトと再会、ユキとミナミに会う。
  54. 無人島とアワビ(第一稿)   尚巴志、昔の顔なじみと再会する。



主要登場人物

 

第一部 目次

目次 第一部

目次

尚巴志伝 第一部 月代の石

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このイラストはは和々様よりお借りしました。

 

  1. 誕生(最終決定稿)   尚巴志、佐敷苗代に生まれる。
  2. 馬天浜(最終決定稿)   サミガー大主とヤマトゥの山伏、クマヌ。
  3. 察度と泰期(最終決定稿)   浦添按司察度、過去を振り返る。
  4. 島添大里グスク(最終決定稿)   島添大里グスク、汪英紫に奪われる。
  5. 佐敷グスク(最終決定稿)   尚巴志の父、佐敷按司になる。
  6. 大グスク炎上(最終決定稿)   大グスク、汪英紫(島添大里按司)に奪われる。
  7. ヤマトゥ酒(最終決定稿)   早田三郎左衛門、馬天浜に来る。
  8. 浮島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎と旅に出る。
  9. 出会い(最終決定稿)   尚巴志、伊波按司の娘と剣術の試合をする。
  10. 今帰仁グスク(最終決定稿)   尚巴志、今帰仁に行く。
  11. 奥間(最終決定稿)   尚巴志、奥間村に滞在する。
  12. 恋の病(最終決定稿)   旅から帰った尚巴志、マチルギを想う。
  13. 伊平屋島(最終決定稿)   尚巴志、祖父の故郷に行く。
  14. ヤマトゥ旅(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥへ旅立つ。
  15. 壱岐島(最終決定稿)   尚巴志、壱岐島で察度の噂を聞く。
  16. 博多(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥの都を見て驚く。
  17. 対馬島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎の故郷に滞在する。
  18. 富山浦(最終決定稿)   尚巴志、高麗に行く。
  19. マチルギ(最終決定稿)   尚巴志の恋敵、ウニタキ現れる。
  20. 兵法(最終決定稿)   尚巴志、対馬で修行に励む。
  21. 再会(最終決定稿)   帰って来た尚巴志、マチルギと再会。
  22. ウニタキ(最終決定稿)   尚巴志、ウニタキと一緒に勝連グスクに行く。
  23. 名護の夜(最終決定稿)   尚巴志、マチルギと今帰仁に行く。
  24. 山田按司(最終決定稿)   尚巴志、マチルギの叔父、山田按司と会う。
  25. お輿入れ(最終決定稿)   マチルギ、尚巴志に嫁ぐ。
  26. 高麗の対馬奇襲(最終決定稿)   早田左衛門太郎の本拠地、高麗に攻められる。
  27. 豊見グスク(最終決定稿)   シタルー(汪応祖)、豊見グスクを築く。
  28. サスカサ(最終決定稿)   尚巴志とマチルギ、馬天ノロと旅に出る。
  29. 長男誕生(最終決定稿)   マチルギと馬天ノロ、神様になる。
  30. 出陣命令(最終決定稿)   察度、各按司に今帰仁征伐を命じる。
  31. 今帰仁合戦(最終決定稿)   中山王、山北王の今帰仁グスクを攻める。
  32. 次男誕生(最終決定稿)  尚巴志の次男(尚忠)と山田按司の次男(護佐丸)生まれる。
  33. 十年の計(最終決定稿)   尚巴志、佐敷按司(父)、鮫皮大主(祖父)と密談する。
  34. 東行法師(最終決定稿)   父が隠居して、尚巴志、佐敷按司となる。
  35. 首里天閣(最終決定稿)   察度、浦添按司を武寧に譲って隠居する。
  36. 浜川大親(最終決定稿)   ウニタキは妻子を殺され、シタルーは明に行く。
  37. 旅の収穫(最終決定稿)   奥間のサタルーと対馬のユキ。
  38. 久高島(最終決定稿) 尚巴志はマチルギに怒られ、ウニタキはチルーといい感じ。
  39. 運玉森(最終決定稿)   三好日向、尚巴志のために山賊になる。
  40. 山南王(最終決定稿)   承察度が亡くなり、若按司が山南王になる。
  41. 傾城(最終決定稿)   山南王、中山王の怒りを買って、汪英紫に攻められる。
  42. 予想外の使者(最終決定稿)   尚巴志夫婦、弟のマサンルー夫婦と旅をする。
  43. 玉グスクのお姫様(最終決定稿)   尚巴志、玉グスクと同盟を結ぶ。
  44. 察度の死(最終決定稿)   山北王のミンと奥間の長老も亡くなる。
  45. 馬天ヌル(最終決定稿)   馬天ノロ、御嶽巡りの旅に出る。
  46. 夢の島(最終決定稿)   早田左衛門太郎、慶良間の夢の島に行く。
  47. 佐敷ヌル(最終決定稿)  尚巴志の妹、マシューの気持ちとマカマドゥの決心。
  48. ハーリー(最終決定稿)   尚巴志夫婦と佐敷ノロ、ハーリーを見物。
  49. 宇座の御隠居(最終決定稿)   宇座の泰期が亡くなり、尚巴志夫婦は悲しむ。
  50. マジムン屋敷の美女(最終決定稿)  尚巴志、島添大里グスクに側室を入れる。
  51. シンゴとの再会(最終決定稿)   早田左衛門太郎、朝鮮に投降する。
  52. 不思議な唐人(最終決定稿)   尚巴志、懐機と出会う。
  53. 汪英紫、死す(最終決定稿)   懐機、旅から帰り、武術を披露する。
  54. 家督争い(最終決定稿)   達勃期と汪応祖が山南王の家督を争う。
  55. 大グスク攻め(最終決定稿)   尚巴志、大グスクを攻め落とす。
  56. 作戦開始(最終決定稿)   尚巴志、大グスクノロと再会する。
  57. シタルーの非情(最終決定稿)   達勃期、弟の汪応祖に敗れる。
  58. 奇襲攻撃(最終決定稿)   尚巴志、島添大里グスクを攻め落とす。
  59. 島添大里按司(最終決定稿)   尚巴志、島添大里按司になる。
  60. お祭り騒ぎ(最終決定稿)   尚巴志、城下の者たちと戦勝祝い。
  61. 同盟(最終決定稿)   尚巴志、山南王と同盟する。
  62. マレビト神(最終決定稿)   外間ノロと佐敷ノロにマレビト神が現れる。
  63. サミガー大主の死(最終決定稿)   神の声を聞いたウニタキ。
  64. シタルーの娘(最終決定稿)   山南王のお姫様の悩みと青い海
  65. 上間按司(最終決定稿)   明国の使者が二十年振りにやって来る。
  66. 奥間のサタルー(最終決定稿)   尚巴志、奥間ノロに魅了される。
  67. 望月ヌル(最終決定稿)   謎の爺さん、望月党を語る。
  68. 冊封使(最終決定稿)   首里の宮殿の儀式で、武寧と汪応祖、正式に王になる。
  69. ウニョンの母(最終決定稿)   ウニタキ、亡くなった妻の秘密を知る。 
  70. 久米村(最終決定稿)   尚巴志とウニタキ、懐機に呼ばれて久米村に行く。
  71. 勝連無残(最終決定稿)   勝連按司が奇病に倒れる。 
  72. 伊波按司(最終決定稿)   大きな台風が来て各地で被害が出る。
  73. ナーサの望み(最終決定稿)   ウニタキ、ナーサを味方に引き入れる。
  74. タブチの野望とシタルーの誤算(最終決定稿)  八重瀬按司、中山王と同盟する。
  75. 首里グスク完成(最終決定稿)   中山王と山南王の決戦が迫る。
  76. 首里のマジムン(最終決定稿)   尚巴志、首里グスクを奪い取る。 
  77. 浦添グスク炎上(最終決定稿)   浦添グスクは焼け落ち、亜蘭匏は消える。
  78. 南風原決戦(最終決定稿)   尚巴志、中山軍を壊滅させる。
  79. 包囲陣崩壊(最終決定稿)   達勃期は出直し、汪応祖は首里を攻める。
  80. 快進撃(最終決定稿)   尚巴志、中グスク、越来グスクを攻め落とす。
  81. 勝連グスクに雪が降る(最終決定稿)   尚巴志、勝連グスクを落とす。

 

尚巴志伝 第二部 目次

 

・尚巴志伝の年表

・第一部の主要登場人物

・尚巴志の略歴

・尚巴志の祖父、サミガー大主の略歴

・尚巴志の父、思紹の略歴

・馬天ヌル(馬天ノロ)の略歴

・中山王、察度の略歴

・中山王、武寧の略歴

・汪英紫の略歴

・山南王、汪応祖の略歴

・泰期の略歴

・クマヌの略歴

・三好日向の略歴

・早田左衛門太郎の略歴

・ウニタキの略歴

・懐機の略歴

・倭寇年表

第二部 主要登場人物

主要登場人物

サハチ       1372-1439  尚巴志。島添大里按司
マチルギ      1373-    尚巴志の妻。伊波按司の娘。
サグルー      1390-    尚巴志の長男。
ジルムイ      1391-    尚巴志の次男。尚忠。
ミチ        1393-    尚巴志の長女。島添大里ヌル、サスカサ。
イハチ       1394-    尚巴志の三男。
思紹        1354-1421 中山王。尚巴志の父。
佐敷ヌル      1374-    尚巴志の妹、マシュー。シンゴと結ばれ娘を産む。
佐敷大親      1376-    尚巴志の弟、マサンルー。妻は奥間大親の娘。
平田大親      1378-    尚巴志の弟、ヤグルー。妻は玉グスク按司の娘。
与那原大親     1383-    尚巴志の弟、マタルー。妻はタブチの娘。
馬天ヌル      1357-    思紹の妹、尚巴志の叔母。
ササ        1391-    馬天若ヌル。父はヒューガ。母は馬天ヌル。
ヒューガ      1355-1470 三好日向。中山の水軍大将。
苗代大親      1360-    思紹の弟。サムレー総隊長。武術師範。
マカマドゥ     1392-    苗代大親の三女。マウシ(護佐丸)の妻。
クグルー      1386-    泰期の三男。苗代大親の娘婿。
サミガー大主    1356-    思紹の弟、ウミンター。
ウニタキ      1372-1433 三星大親。「三星党」の頭。
チルー       1368-    ウニタキの妻。尚巴志の母の妹。
イーカチ      1373-    「三星党」の副頭。絵画き。
ナツ        1381-    ウニタキの配下から尚巴志の側室になる。
ファイチ      1375-1453 懐機。明国の道士。尚巴志の客将。
サスカサ      1354-    ミチにサスカサを譲り、運玉森ヌルになる。
マウシ       1391-1458 真牛。山田按司の次男。尚巴志の甥。護佐丸。
マカトゥダル    1392-    護佐丸の妹。サグルーの妻。
マサルー      1364-    山田按司の家臣。
シラー       1391-    マサルーの次男。
クマヌ       1346-    中グスク按司。中山の重臣。
美里之子      1362-    越来按司。中山の重臣。思紹の義弟。
當山之子      1365-    美里之子の弟。浦添按司になる。
クサンルー     1387-    當山之子の長男。浦添按司
カナ        1391-    當山之子の長女。浦添ヌル。
サム        1372-    勝連按司の後見役。伊波按司の四男。
ユミ        1392-    サムの長女。ジルムイ(尚忠)の妻。
ナーサ       1352-    首里の遊女屋「宇久真」の女将。
宇座按司      1355-    泰期の次男。父の跡を継いで明国への使者となる。
シタルー      1362-1413 山南王。汪応祖
タブチ       1360-1414 八重瀬按司。シタルーの兄。
サイムンタルー   1361-1429  早田左衛門太郎。対馬島倭寇の頭領。
早田六郎次郎    1387-    左衛門太郎の跡継ぎ。妻はユキ。
ユキ        1388-    六郎次郎の妻。尚巴志の娘。母はイト。
イト        1372-    対馬島の女船長。ユキの母。
シンゴ       1372-    早田新五郎。左衛門太郎の弟。
サングルミー    1371-    与座大親。中山の進貢船の正使。
メイファン     1379-    張美帆。明国の海賊の娘。
メイリン      1374-    張美玲。メイファンの姉。
メイユー      1376-    張美玉。メイファンの姉。
ラオファン     1338-    黄敬。三姉妹の武術の師匠。
リェンリー     1376-    黄怜麗。ラオファンの娘。
ジォンダオウェン  1364-    鄭道文。三姉妹の配下の海賊。
ユンロン      1387-    鄭芸蓉。ジォンダオウェンの娘。 
リュウジャジン   1362-    劉嘉景。三姉妹の配下の海賊。
リィェンファ    1377-    楊蓮華。富楽院の妓楼『桃香滝』の女将。
ヂュヤンジン    1375-    朱洋敬。懐機の友。宮廷に仕える役人。
永楽帝       1360-1424  明国の皇帝。
リュウイェンウェイ 1389-    劉媛維。富楽院の最高級妓楼『酔夢楼』の妓女。
ファイホン     1379-    懐虹。懐機の妹。
ヂャンサンフォン  1247-    張三豊。武当山の道士で、武当拳の創始者。
シンシン      1390-    范杏杏。張三豊の弟子。
フカマヌル     1372-    外間ノロ。久高島のノロ。尚巴志の腹違いの妹。
奥間大親      1357-    ヤキチ。奥間から来た尚巴志の護衛役。中山の重臣。
平安名大親     1348-    勝連の重臣。ウニタキの叔父。
勝連ヌル      1369-    ウニタキの姉。
伊波按司      1363-    マチルギの兄。
山田按司      1365-    マチルギの兄。
攀安知       1376-1416  山北王。
涌川大主      1377-    攀安知の弟。
勢理客ヌル     1356-    アオリヤエ。攀安知の叔母。
兼グスク按司    1378-    ンマムイ。武寧の次男。妻は攀安知の妹。
飯篠修理亮     1387-1488 武芸者。長威斎。
一文字屋孫三郎   1361-    次郎左衛門の弟。坊津の一文字屋主人。
みお        1394-    一文字屋孫三郎の三女。
村上又太郎     1386-    村上水軍の頭領の長男。上関を守っている。
村上あや      1392-    村上又太郎の妹。
塩飽三郎入道    1358-    塩飽水軍の頭領。
一文字屋次郎左衛門 1355-    京都の一文字屋の主人。
まり        1394-    一文字屋次郎左衛門の三女。
高橋殿       1376-    足利義満の側室。道阿弥の娘。
対御方       1379-    足利義満の側室。高橋殿に仕えている。
平方蓉       1383-    陳外郎の娘。高橋殿に仕えている。
足利義持      1386-1428  室町幕府第四代将軍。
勘解由小路殿    1350-1410  斯波道将。将軍様の補佐役。
中条兵庫助     1359-    将軍様の武術指南役。慈恩禅師の弟子。
外郎       1360-    陳宗奇。薬師。外交使節の接待役。
魏天        1350-    将軍様に仕える明国の通事。
栄泉坊       1389-    東福寺を追い出された画僧。
増阿弥       1368-    奈良の田楽新座の太夫。
一徹平郎      1355-    北野天満宮の宮大工。
新助        1379-    龍ばかり彫っている等持寺の大工。

 

2-53.対馬の娘(第一稿)

尚巴志伝 第二部

 瀬戸内海を無事に通過して、サハチたちが博多に着いたのは七月二十五日だった。
 因島(いんのしま)では村上又太郎の妹のあやが、サハチたちが来るのを首を長くして待っていた。あやの船に先導されて、サハチたちは順調に博多港に到着した。
 琉球の交易船は博多港にはいなかった。一文字屋孫次郎に聞くと、五日前に博多を発って対馬に向かったという。
 七月十六日、九州探題の渋川道鎮(どうちん)が京都から博多に帰って来た。そして、四日後の二十日、道鎮の家臣、吉見肥前守(ひぜんのかみ)が琉球の交易船を先導して対馬に向かって行った。今、妙楽寺には京都から帰って来た朝鮮(チョソン)の使者たちがいて、道鎮は接待している。今年は朝鮮、明国(みんこく)、琉球と三つの国から使者が来て、休む間もないほど忙しいと言いながらも機嫌はいいようだ。朝鮮の使者たちを送り出したら、琉球使者たちを追って朝鮮に行くだろうと孫次郎は言った。
 次の日、サハチたちは一文字屋の小型の船に乗り換えて対馬に向かった。お世話になった一文字屋孫三郎とみおに、お礼を言って別れを告げた。
「お世話になったのはこちらの方ですよ」と孫三郎は笑った。
「サハチ殿のお陰で、一文字屋も益々繁盛して行くでしょう。朝鮮での成功をお祈りしています」
 サハチたちのお陰で、京都の一文字屋は高橋殿の御用商人になっていた。将軍様とつながりのある高橋殿の御用商人になれば、一文字屋は儲かるし、琉球にとっても都合のいい事だった。
 京都から連れて来た一徹平郎(いってつへいろう)、新助、栄泉坊(えいせんぼう)の三人は一文字屋に預けた。栄泉坊には博多の寺院や神社の絵を詳細に描くように頼み、一徹平郎と新助には琉球の寺院造りのために博多の寺院も参考にしてくれと言った。一徹平郎は酒さえ飲めれば、どこにいようと文句はないと言った。長い船旅で髪も髭も伸びて、会った頃の顔に戻っていた。琉球に帰る年末までは、まだ五か月もある。一徹平郎がふらふらとどこかに行ったりしないかと心配だったが、信じるしかなかった。
 その日は壱岐島(いきのしま)に泊まった。早田(そうだ)藤五郎はすでに朝鮮に行っていた。九州探題が博多に戻って来たと聞いて、そろそろ琉球の船が朝鮮に向かうなと悟って出掛けたらしい。
 志佐壱岐守(しさいきのかみ)に京都で将軍様に会ったと言ったら、腰を抜かすほどに驚いていた。
「そなたはまったく運の強い男じゃのう。将軍様に会うなんて信じられん事じゃ。明国に行ったら永楽帝(えいらくてい)と会い、京都に行って将軍様と会った。今度は朝鮮の王様の番じゃな」
「朝鮮の王様と会うのは難しいでしょう。会ったとしても言葉がわかりません」
「富山浦(プサンポ)を仕切っている早田五郎左衛門殿に頼めば会えるじゃろう」
「五郎左衛門殿は朝鮮の王様に会っておられるのですか」
「会っている。わしも会っているんじゃよ」
「えっ、壱岐守殿も会っておられるのですか」
「会っていると言っても、高い所に座っておられる王様に頭を下げただけで、直接、話をしたわけではないがのう」
「そうでしたか。琉球使者たちもそんな風に王様と会うのですね」
「多分、そうじゃろうな」
「王様に会えるかどうかは、成り行きに任せるしかありませんね」
 壱岐守はサハチの顔を見て笑った。
「すると、来年は正式な使者を京都に送るという事じゃな」
「毎年、来てくれと言われました」
「そうか。京都に行ったり、朝鮮に行ったりして商品の方は大丈夫なのか。わざわざ琉球まで行って、商品がないとなると松浦党(まつらとう)の者たちは騒ぎを起こすぞ」
「何とかするつもりです。明国の皇帝に進貢船を下賜(かし)するように二年前に頼んであります。そろそろ、その船が来ると思います。船さえあれば、一年に二度、三度と明国に行くつもりでおります」
「そうか。琉球は益々栄えて行くようじゃのう」
 次の日、サハチたちは対馬の船越に着いた。船越は東海岸の深い入り江の奥にあった。イトとユキが乗っていると思われる船も泊まっていた。シンゴの船より一回り小さいが、あんな大きな船を乗り回しているなんて大したものだった。まして、マチルギがあんな船を操ったなんて、とても信じられなかった。ここも土寄浦(つちよりうら)と同じように海と山に挟まれた狭い土地に家々が建ち並んでいた。
 サハチはイトからもらった着物を着て、ユキからもらった守り刀を腰に差して颯爽(さっそう)と上陸した。初めて見るユキの姿と二十二年振りのイトの姿を想像しながら胸を躍らせたが、二人はいなかった。
 迎えに出て来たサワは懐かしそうにサハチを迎えた。
「サワさんですか」とサハチが聞くと、
「立派になられて‥‥‥」と言ったまま、サハチを見つめて涙ぐんでいた。
 サワと一緒に現れた大勢の子供たちは、ササたちの所に行って再会を喜んでいた。
「やっと、対馬に来る事ができました」とサハチはサワに言った。
「イトとユキは今、朝鮮に行っているんだよ。あんたに会いたがっていたよ。それにしても、ほんと立派になったねえ」
 ササが可愛い女の子を連れて来た。
「ミナミのお祖父(じい)ちゃんだよ」とササは言った。
「えっ!」とサハチは女の子を見た。
 大きな目を丸くしてサハチを見つめていた。
「ユキの子か」とサハチはササに聞いた。
 ササはうなづいた。
「ミナミちゃんか」とサハチは女の子に言った。
 女の子はうなづいた。じっとサハチを見つめている目に、イトの面影があるように思えた。
 サハチが笑いかけると恥ずかしそうに笑って、ササの後ろに隠れた。その笑顔が何ともいえずに可愛かった。
「六歳なのよ」とササが言った。
 二十二年振りに来た対馬で、真っ先に孫娘に出会うなんて思ってもいない事だった。
 若いサムレーが三人、現れた。中央にいる若者が、若い頃のサイムンタルーに似ていた。サイムンタルーよりも体格がよく、日に焼けて顔は真っ黒だった。
琉球から来られたサハチ殿ですね。お待ちしておりました。早田六郎次郎でございます」と中央の若者が挨拶をした。
「サハチです。去年は妻たちが大変お世話になりました」
「賑やかで楽しかったですよ。皆様方がお帰りになったあと、急に静かになってしまって、顔を合わせれば、みんなでマチルギ殿の噂をしておりました。来年はサハチ殿が来られると申しておりましたが、本当に来てくれたのですね。ユキや母上が喜ぶ事でしょう」
 六郎次郎はヂャンサンフォンを「師匠」と呼んで挨拶をして、「あとで上達振りを見てください」と言っていた。
 サハチたちは『琉球館』と呼ばれる屋敷に案内された。
 案内してくれたのは六郎次郎の義弟の小三郎だった。小三郎は和田浦の兵衛左衛門(ひょうえさえもん)の三男で、六郎次郎の妹と一緒になって船越に移って来たという。
 琉球館は二棟あった。マチルギたちが帰ったあと、隣りに屋敷を新築したという。新しい屋敷にササたち女が入り、以前の琉球館にサハチたち男が入った。
 ササの案内でアマテル神社を参拝して、浅海湾(あそうわん)に面した西側に出た。川のような深い入り江が続いていて、浅海湾は見えなかった。入り江に沿って細い道を進み、途中から山道に入って登って行くと眺めのいい草原に出た。去年、ヒューガたちがヂャンサンフォンの指導を受けた場所だという。
 入り江が入り組んだ複雑な地形の浅海湾が見渡せた。懐かしい眺めだった。浅海湾を初めて見たウニタキやファイチたちはその光景に驚いていた。
 その夜、六郎次郎の屋敷で歓迎の宴が開かれた。サハチたち一行十四人と六郎次郎、小三郎、左衛門次郎、四郎三郎、山伏の円明坊(えんみょうぼう)、鉄潅和尚(てっかんおしょう)の六人とサワとイトの父親、イスケも加わった。
 イスケが琉球に来なくなってから十年以上が経っていた。マチルギから元気よと聞いていたので安心していたが、実際に会ってみると髪は真っ白になっていて、年老いていた。それでも、ヂャンサンフォンから教わった呼吸法のお陰で体調もよくなったので、百歳までは頑張るぞと笑った。
 左衛門次郎は和田浦にいたサイムンタルー(左衛門太郎)の弟、左衛門次郎の遺児だった。父親が戦死した時、まだ二歳で、母親と一緒に船越に移り、六郎次郎と共に育っていた。六郎次郎と同い年で、共に読み書きを習い、武術修行も共にして、何をするのも一緒だった。
 四郎三郎は六郎次郎の弟で、イハチと同じ十六歳だった。 円明坊は六郎次郎たちの武術の師匠で、熊野水軍の武将として、六郎次郎の祖父、サンルーザ(三郎左衛門)と共に南朝方として活躍していたという。
 円明坊が太宰府(だざいふ)に来た時、九州は南朝の天下と言ってよかった。松浦党も早田水軍も瀬戸内から来ている村上水軍も、勿論、熊野水軍懐良親王(かねよししんのう)のために働いていた。南朝のために兵糧(ひょうろう)や軍資金を集めるために、高麗(こうらい)や元(げん)の国を荒らし回っていた。しかし、長くは続かなかった。今川了俊(りょうしゅん)が九州探題として博多にやって来ると情勢は変わった。南朝軍は北朝軍に負け続け、懐良親王も亡くなってしまった。団結していた水軍もばらばらになっていき、熊野水軍も九州から撤収する事になった。円明坊は船を降りて、しばらく旅に出た。九州各地を巡って庶民たちとふれあう事で戦の空しさを知った。熊野に帰ろうと決心した円明坊は、三郎左衛門に別れを告げるために対馬に渡った。
 三郎左衛門はすでに隠居していた。お互いに自分たちの時代は終わったと語り合っていたら、事件が起きた。三郎左衛門の跡を継いでいた左衛門太郎が朝鮮の水軍に囲まれて、長男の藤次郎を人質に差し出し、投降の意を示したというのだ。
 左衛門太郎は父親を説得し、配下の者たちを引き連れて朝鮮に投降した。三郎左衛門はお屋形に復帰し、円明坊は左衛門太郎の十一歳の次男、六郎次郎の指導を頼まれたのだった。あれから十年余りが経ち、円明坊は六郎次郎の成長を見てきた。三郎左衛門は亡くなってしまったが、充分に約束は果たせたと思っていた。
 鉄潅和尚は戦死した早田備前守(びぜんのかみ)の息子で、博多の禅寺で修行を積み、左衛門太郎に呼ばれて船越の梅林寺の住職になっていた。六郎次郎たちの読み書きの師であった。
 サハチはお膳に載っていた新鮮なアワビを食べながら、二十二年前の事を思い出していた。イトと初めて会ったのが無人島でのアワビ捕りだった。海に潜って魚のように泳いでいたイトの姿がはっきりと思い出された。
「京都に行かれたと聞きましたが、どうでしたか」と六郎次郎が聞いた。
「もう驚く事ばかりでしたよ」とサハチは笑った。
「明国の都まで行って来たと聞きましたが、それでも京都には驚きましたか」
「驚きました。七重の塔の高さは明国でも見られないほど高いものでした」
「七重の塔は完成したのですね。俺が行った時は北山第(きたやまてい)の中に造っている最中でした」
「京都に行かれた事があるのですか」
「五年前に行って来ました。まだ、祖父が生きている時で、祖父と左衛門次郎と円明坊と一緒に行って来ました。一文字屋の頼みで、瀬戸内の水軍たちと話をつけるために行ったのです」
「そうでしたか。一文字屋から聞きました。サンルーザ殿のお陰で、わたしたちも安全な旅ができました。お礼を申し上げます」
「失礼ですが、父上殿とお呼びしてもよろしいでしょうか」と六郎次郎は言った。
 突然、父上と呼ばれて、サハチは戸惑った。会ったばかりだが、六郎次郎は娘の婿だった。娘のユキから父上と呼ばれるのを楽しみにしていたサハチだったが、婿から先に呼ばれるとは思ってもいなかった。
 サハチはただうなづいた。
「父上殿と母上殿の出会いは土寄浦では伝説になっております。琉球から来た若殿が海女(あま)と出会い、結ばれて娘が生まれ、海女はいつの日か、琉球の若殿が迎えに来るのを待ちながら娘を立派に育てたという伝説です。五歳の時に土寄浦を離れて船越に来た俺は、その伝説を知りませんでした。俺が十歳の時、父は琉球に行きました。どうして琉球に行くのか、母に聞いて、その時、伝説の事も聞きました。伝説の海女が産んだ娘が、俺より一つ年下だと聞いて会ってみたいとその時は思いましたが、翌年、父と兄が朝鮮に行く事になってしまい、その娘の事もいつしか忘れてしまいました。父が大勢の家臣たちを連れて朝鮮に行ってしまい、土寄浦もこの船越も男手が足らずに大変でした。子供ながらも早く一人前になって、皆を助けなければならないと思ったものでした。兄は朝鮮で病死してしまいました。悲しみに沈んでいた頃、伝説の海女が女船頭(せんどう)(船長)になって活躍していると噂を耳にしました。俺も頑張らなくてはならないと励まされました。十六になった夏、叔父のシンゴ殿が琉球から帰って来ました。博多で手に入れた食糧を取りに左衛門次郎と一緒に土寄浦に出掛けました。その時、ユキを見てしまったのです。俺も左衛門次郎もユキに一目惚れしてしまいました」
 六郎次郎は話を止めて左衛門次郎を見ると、酒を一口飲んで話を続けた。
「ユキの事を聞いたら、誰もが知っている伝説の海女が産んだ娘で、若い者たちの憧れの的だと言いました。しかし、母親から剣術を習っていて滅法強い。自分よりも弱い男には目もくれない。八の付く日に無人島で若者たちの集まりがあって、あの娘に惚れた男たちが試合を挑むが、今まで勝った者は一人もいないと言いました。俺たちは船越に帰ると剣術の修行に励みました。三か月後、俺たちは無人島に行って、ユキと試合をしました。その時、ユキと試合をしたのは七人でした。毎回、その位いると聞いて驚きました。俺と左衛門次郎も含めて、七人全員がユキに負けました。ユキは思っていた以上に強かったのです。悔しい思いをした俺たちは今度こそ、死に物狂いになって修行に励みました。師匠も呆れるほど、あの頃の俺たちは剣術に夢中になっていました。そして、八ヶ月後、俺たちは無人島に行って、ユキと試合をしました。その時は五人いました。三人は負け、俺と左衛門次郎は勝つ事ができました。わたしたちが勝った事に、ユキも含めて、島に来ていた全員が驚きました。勿論、島に来るのはユキが目当ての男ばかりではありません。他の娘が目当ての男たちもいます。普通なら、島に来て目当ての娘と話し合いをして、付き合うかどうかを決めるのですが、ユキの場合はまず試合に勝たなければ、話し合いの機会も得られないのです。俺と左衛門次郎はユキと話し合いをしました。お互いの事を話したのですが、左衛門次郎と前もって決めて、二人とも漁師の倅という事にしました。お屋形様の息子だとわかれば、お前が勝つに決まっていると左衛門次郎が言ったのです。俺としても、そんな事で勝ちたくはありません。船越というのも伏せました。お屋形様の息子と言っても、ここでの暮らしは漁師のような暮らしでした。人の上に立つ者は庶民の暮らしを知らなければならないと師匠に言われ、読み書きや剣術の修行以外の時間は夏は海に出て漁をして、冬は山に入って炭焼きをしていました。そんな日常の事をユキに話していたのです。次の八の付く日に無人島に行くと、ユキに試合を申し込む者はいませんでした。ユキの方が俺たちに試合を望みましたが、また、俺たちが勝ちました。次の八が付く日、無人島に行く時、左衛門次郎が、お前の勝ちだと言いました。ユキはお前が好きなようだと言います。お前を見る時のユキの目は輝いている。俺は負けを認めると言いました。そして、今日、俺はチヨと話をすると言ったのです。チヨというのはユキと仲良しの娘で、いつも一緒にいました。チヨも人気の娘で、いつも何人もの男たちがチヨを目当てに来ていましたが、なぜか皆、断っていました。その日、俺はユキと会い、左衛門次郎はチヨと会い、二人ともうまくいきました。船越には帰らず、土寄浦に行き、俺はユキの母親と会いました。あの伝説の海女です。女船頭になったと聞いていたので、大柄で逞しい女だろうと思っていましたが、まったく違いました。綺麗な人で伝説になるのもわかる気がしました。俺はユキをお嫁に下さいと頭を下げました。突然の事で、母親は驚き、ユキからわけを聞きました。ユキは浅海湾の奥の方の漁師なんだけど、あたしよりも強いし、お嫁に行きたいのと言いました。俺はユキと母親に本当の事を話しました。二人とも驚いていましたが、母親は大喜びしてくれました。お屋形様とユキの父親琉球で一緒に旅をした仲なのよ。きっと許してくださるわと言っていました。そして、朝鮮にいる父上のもとへ婚礼の事を知らせ、父上の許しがあって結ばれたのです。琉球から来た若殿が海女と出会い、結ばれて娘が生まれ、海女はいつの日か、琉球の若殿が迎えに来るのを待ちながら娘を立派に育てました。娘は美しい娘に成長して、お屋形様の息子と結ばれ、海女は女船頭になって活躍しました。今では、わたしの事も伝説の中に入っています。父上と初めて会って、伝説通りの人だと思いました。この伝説に負けないように生きようと思っています」
琉球の若殿は琉球を統一して王様になりました、という伝説にしなければならんな」とサハチは言った。
「お屋形様の息子は対馬を統一しました、としなければなりません」と六郎次郎は言った。
 サハチと六郎次郎はお互いを見ながら笑い合った。
「その伝説にはミナミちゃんも加わるわよ」とササが言った。
「えっ、ミナミが何かをするのか」と六郎次郎が聞いた。
「何か大きな事をするような気がするわ」
「ミナミが大きな事か‥‥‥」と六郎次郎は嬉しそうな顔をしてうなづき、「去年に来られた時、アマテル神社はスサノオの神様を祀っていると言っていたが、京都の祇園社(ぎおんしゃ)には行って来られましたたか」とササに聞いた。
「華やかな祇園社のお祭りを見てきました」
「おお、そうですか。いい時期に行かれましたね。噂は聞いています。俺が行ったのは八月だったので、お祭りはもう終わっていました」
スサノオの神様ともお会いできて、色々とお話を聞く事ができました。アマテル神社はスサノオが造った砦の跡地に祀られたようです。ここは古くから交通の要衝だったので、砦を造って見張っていたようです」
「そうでしたか。ここはそんなに古くから重要な地点だったのですね。やはり、親父がここに拠点を置いたのは正しかったんだな」
 六郎次郎は興味深そうに、対馬の各地にあるスサノオの足跡をササから聞いていた。
 翌日、山の上の修行場に登って、六郎次郎たちはヂャンサンフォンに一年間の修行の成果を披露した。ヂャンサンフォンは満足そうにうなづいて、鞍馬山で思い付いた呼吸方を取り入れ套路(タオルー)を六郎次郎たちに教えた。勿論、サハチたちも稽古に励んだ。
 その日の夕方、間もなく日が暮れる頃、イトとユキが帰って来た。サハチはササたちと一緒にサワの家で、孫娘のミナミと遊んでいた。ミナミもサハチの事を祖父(じい)ちゃまと呼んでくれ、可愛くてしょうがなかった。
 ミナミが突然、「たたさま(母様)」と言って飛び出した。振り返ると二人の女子(いなぐ)サムレーがサハチを見ていた。二人とも鉢巻きをして袴をはき、刀を背負っている。親子というより姉妹に見えた。イトはサハチが思っていたよりもずっと若く、昔の面影が充分に残っていた。
 ユキは妹のマチルーより二歳年下で、娘のミチより五歳年上だった。二人を足して二で割った感じかなと想像していたが、全然違った。ユキには琉球とヤマトゥの血が流れている。異国の血が混ざると美人が生まれると聞いていたが、まさしく、ユキはそれだった。若い頃のイトの面影はあるが、あの頃のイトよりもずっと美人だった。昨夜、六郎次郎が言っていたように、男たちの憧れの的と騒がれるのも無理なかった。
 イトとユキはミナミを連れてサハチのそばにやって来た。お互いに相手を見つめたまま声も出なかった。
「お父さん?」とユキが小声でいた。
「ユキか」とサハチは言った。
「お帰りなさい」とイトが言った。
 サハチは笑って、「ただいま」と答えた。
 サハチを見つめているユキの目から涙があふれ出た。そんなユキを見ながら、「なに、泣いているのよ。やっと会えたのに」とイトは言ったが、イトの目にも涙が溜まっていた。
「会いたかった」と言って、サハチは二人を抱きしめた。
 ミナミがサハチの着物を引っ張って、「あたしも」と言った。
 ミナミの言葉に三人は笑い、サハチはミナミを抱き上げた。ミナミはサハチの真似をして両手を広げ、イトとユキを抱き寄せた。
 その夜、サハチは六郎次郎の屋敷の裏にあるイトの屋敷で、ユキとミナミを呼んで家族水入らずで過ごした。屋敷と言っても小さい家だった。イトは屋敷なんかいらない。両親が暮らしている家があるからいいと言ったが、船頭として活躍しているイトが屋敷もないのでは皆に示しがつかないと言って、六郎次郎が建てたのだった。自分の屋敷は小さくても構わない。その代わり、琉球館を建てて欲しいと頼み、六郎次郎はイトの頼みを聞いたのだった。
「二十二年振りね」とイトはしみじみと言った。
「随分と長い時間が掛かってしまった。もう少し早くに来るべきだった」とサハチは言った。
 イトは首を振って、「今が丁度よかったのよ」と言った。
「あなたに再会する前に、マチルギさんに出会えたわ。マチルギさんから色々な事を聞いたわ。あなたの奥さんがマチルギさんでよかったって心の底から思っているのよ」
「マチルギも、イトは凄い人だと尊敬していた」
「あたしこそ、マチルギさんを尊敬しているわ。あんなにも強いなんて思ってもいなかったわ。二十二年前、和田浦であなたが熱心に修行を積んでいた意味もわかったわ」
「懐かしいな。和田浦は今、どうなっているんだ」
「お屋形様(サイムンタルー)の叔父さんの兵衛左衛門殿が守っているわ。でも、兵衛左衛門殿はシンゴが琉球に行っている間は土寄浦にいるから、実際は長男の小太郎殿が守っているわね。あなたが琉球に帰ったあと、和田浦にいた左衛門次郎殿が戦死してしまったの。シンゴのお兄さんよ。それで、シンゴも一時、和田浦にいた事があるの。シンゴの奥さんは和田浦の娘なのよ。あなたも知っている娘よ。あの頃、あたしたちと一緒にヒューガさんから剣術を習っていたわ。今は土寄浦の娘たちに剣術を教えているわ」
「佐敷ヌルから聞いたよ」
「あんなに綺麗な人がシンゴといい仲になるなんて未だに信じられないわ」
「俺だって信じられなかったさ。でも、シンゴには感謝しているよ。毎年、必ず来てくれるからな」
「佐敷ヌルさんに会うために、毎年、行っているのかしら」
「そんな事もあるまい。ところで、ここ船越は古くから重要な拠点だったようだけど、六郎次郎殿が来る前には誰がいたんだ」
「先代のお屋形様(サンルーザ)の妹のお婿さんがいたらしいわ。古くからこの地を守っていた武将で、お屋形様と同盟を結んでお婿さんになったの。でも、左衛門次郎殿と一緒に戦死してしまったの。一族が乗っていた船が沈んで、全滅してしまったのよ。それで、お屋形様がここを守るために家族を連れてやって来たのよ」
「サイムンタルー殿もここに来たのか」
「そうよ。でも、五年後、先代のお屋形様が隠居なさって、お屋形様は単身、土寄浦に戻ったの」
「そうだったのか。サイムンタルー殿もここにいたのか」
 そう言って、サハチはイトとユキの顔を見て、「サイムンタルー殿は元気なのか」と聞いた。
「元気らしいわ」とイトが言った。
「先代のお屋形様がお亡くなりになった四年前、お屋形様は朝鮮の王様の許しを得て、帰っていらっしゃったの。その時は元気だったわ。富山浦(プサンポ)にいる五郎左衛門殿はその後も何度か会っているようだけど、あたしたちは会えないのよ。北の方の海で倭寇(わこう)退治をしているらしいわ」
「やはり、倭寇を退治しているのか」
「今、お屋形様と同盟している者たちはお屋形様の命令を聞いて、倭寇働きは控えているわ。少なくとも朝鮮には行っていない。対馬にはお屋形様に敵対している者たちもまだいるの。そういう者たちが朝鮮にやって来たら退治するのよ。お屋形様は朝鮮にいながら、敵対勢力を倒しているわけ。降参して来た者たちは味方に引き入れて逃がしてやっているみたいね」
「朝鮮に行っても対馬の事を考えているんだな」
「当然よ。お屋形様なんだから」
「それで、お屋形様はいつ帰って来るんだ」
 イトは首を振った。
「十年経ったら帰って来るに違いないって、みんなで待っていたんだけど、十年が過ぎてもまだ帰って来ないわ。帰って来る事を祈って、頑張るしかないわ」
「そうだな。それにしてもよく頑張って来たよ。ユキを一人で育てて、船頭までやっている。マチルギから船頭をしていると聞いた時は驚いた。でも、イトならやるに違いないと思ったよ」
「あなたが琉球に帰ってから色々な事があったわ。ユキが二歳の時、高麗軍に攻められて土寄浦は全滅してしまった。焼け野原を呆然と眺めながら、これからどうしたらいいのって思ったわ。でも、ユキのためにも頑張らなくちゃならないって思って、みんなで力を合わせて村を再建したわ。ユキが十歳になった時、お屋形様に頼んで、琉球に行こうかなと思ったのよ。でも、その年の暮れ、お屋形様が朝鮮に捕まって捕虜になってしまったわ。その後は留守を守るのに必死で、琉球に行く事はできなかった。シンゴは毎年、琉球に行っている。あの船に乗れば琉球に行ける。ユキを連れて琉球に行こうと何度も思ったわ。でも、対馬を捨てて琉球には行けなかった。去年、マチルギさんに一緒に行こうって誘われたけど、今の状況では半年間も離れられなかったの。あなたの事は毎年、シンゴが教えてくれたわ。あなたの活躍があたしたちの生きる励みになったのよ」
 その夜は遅くまで語り合い、家族四人が川の字になって眠った。

 

 

 

海女(あま)のいる風景   人魚たちのいた時代―失われゆく海女文化