長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-122.チヌムイ(第一稿)

 馬天浜(ばてぃんはま)のお祭り(うまちー)も終わって、三姉妹たちも、旧港(ジゥガン)(パレンバン)のシーハイイェンたちも、ジャワのスヒターたちも帰って行った。浮島は閑散としていて、ヤマトゥの商人たちが来るまでは、一休みといった所だった。
 ササはいなかったが、シーハイイェンたちもスヒターたちも結構楽しくやっていたようだ。シーハイイェンたちがヂャンサンフォンのもとで一か月の修行をしていたら、スヒターたちも加わって一緒に修行をした。修行が終わると、平田に行ってお祭りの準備を手伝って、シーハイイェンたちは武当剣(ウーダンけん)を、スヒターたちはプンチャック(ジャワの武芸)をお祭りの舞台で披露した。その後、旅芸人たちと一緒にキラマ(慶良間)の島に行って、島の娘たちに武芸の指導をした。キラマの島から帰って来ると、馬天浜のお祭りの準備を手伝って、リェンリーたちも加わり、異国の娘たちによるお芝居『瓜太郎(ういたるー)』を演じた。簡単な台詞(せりふ)以外は皆、明国の言葉だったが、異国のお芝居を観ているようで、返って新鮮だった。
 台本を明国の言葉に直したのはミヨンとヂャンウェイ(ファイチの妻)で、ファイリンがお嫁に行ってしまったため、二人は何となく気が抜けてしまったような気分だった。そんな時、佐敷ヌルに頼まれて、二人は喜んで引き受けたのだった。
 武当剣やプンチャック、見た事もない珍しい武器も出て来て、楽しいお芝居だった。観客たちから、来年も頼むぞと言われて、シーハイイェンたちは大喜びしていた。
 三姉妹の船、旧港の船、ジャワの船を見送ると、サハチは首里(すい)に帰って、来月に送る進貢船(しんくんしん)の準備を始めた。正使は去年と同じく、八重瀬按司(えーじあじ)のタブチに頼んであった。正使を務めるようになってからタブチは、明国の文人たちと付き合っているようで、漢詩を始めたり、ヂャンサンフォンから笛を習ったりしていた。明国の妓楼(ぎろう)では、何か芸を身に付けていないと妓女(ジーニュ)たちに相手にされない。タブチも色々と頑張っているようだった。

 


 ンマムイの兼(かに)グスクの城下にある武術道場で、マウミはヤマトゥに行ったマグルーの事を思いながら弓矢の稽古に励んでいた。武術道場ができるまではグスク内の的場で稽古をしていたが、武術道場ができるとマウミもそこに通って、サムレーたちと一緒に、弓矢だけでなく剣術や武当拳の稽古をしていた。八重瀬(えーじ)グスクから若ヌルのミカと弟のチヌムイが通って来ているし、夕方になると城下の娘たちも剣術の稽古にやって来た。
 ミカとチヌムイは阿波根(あーぐん)グスクにも通っていた。でも、マウミが母と一緒に今帰仁(なきじん)にいる時だったので知らなかった。マウミが今帰仁に行く前から、山南王(さんなんおう)の娘のマアサが阿波根グスクに通って剣術を習っていた。マアサは具志頭(ぐしちゃん)の若按司に嫁いだが、若按司が戦死したため島尻大里(しまじりうふざとぅ)に戻っていた。具志頭で出会ったチミーに憧れて武芸を始め、島尻大里にも女子(いなぐ)サムレーを作ると言って張り切っていた。
 マアサが具志頭にいた頃、ミカも具志頭に通って弓矢を習っていた。ミカは先代の中山王(ちゅうさんおう)(武寧)の四男、シナムイに嫁いだが、シナムイが戦死したので実家に戻り、ヌルになろうと修行を始めた。八重瀬グスクに来た佐敷ヌルを見て憧れ、武芸を習い始めた。一年間、具志頭に通って弓矢を身に付けたミカは、今度は剣術を身に付けようとチヌムイと一緒に阿波根グスクに通い始めた。
 マウミたちが阿波根グスクから新(あら)グスクに移ったあとも、ミカとチヌムイは通って来て、兼グスクに移ってからも通っていた。新グスクに移ってからは、マアサは通って来なくなった。ンマムイが中山王に寝返ってしまったので来られなくなってしまったのだろう。それでも、中山王と山南王が同盟を結んだあと、マアサは三人の女子サムレーを連れて馬に乗ってやって来た。その後、マアサは一月に一度はやって来て、稽古に励んで帰って行った。
「そろそろ、マアサさんが来る頃だと思っているんでしょう」とマウミは的場の脇にある縁台(えんだい)に腰掛けて、汗を拭きながらチヌムイに聞いた。
「そうじゃない」とチヌムイは強い口調で言った。
「あら、そうかしら?」とミカが弟を見て笑った。
「親父から明国に行かないかって誘われたんだ」とチヌムイは言った。
「えっ、来月、お父様と一緒に行くの?」とミカが驚いた顔をして聞いた。
 長兄の若按司、次兄の喜屋武大親(きゃんうふや)、三兄の新グスク大親、兄たちは皆、明国に行っていた。次は自分の番だと思っていたのに、まだ若いと思っているのか、父から誘いの声は掛からなかった。昨日の夜、来月に行こうと誘われたのだった。
「迷っているんだ」とチヌムイは言った。
「行って来たら」とマウミが気楽に言った。
「でも、行く前にちゃんとマアサさんに言わなくちゃね」
「そんなの無理だよ」とチヌムイは弱々しい顔付きで首を振った。
「まったく、あんたも、よりによってお父様と敵対している山南王の娘を好きになるなんて」とミカは苦笑した。
「マアサさんはそんな事を気にしていないみたいよ」とマウミは言った。
「それだから余計に、チヌムイが悩むのよ」とミカは言って、うなだれているチヌムイを見た。
「お父様から聞いたんだけど、明国はとてつもなく広い国で、こんな小さな島国で、あれこれ悩んでいるのが馬鹿らしく思えて来るって言っていたわ。チヌムイさんも明国に行ったら、敵討(かたきう)ちの事を忘れられるかもしれないわよ。敵討ちなんか忘れて、マアサさんと幸せになった方がいいわ」
「絶対に忘れない」とチヌムイは厳しい顔をしてマウミに言った。
「今でもはっきりと覚えている。何も悪い事をしていないのに、お母さんは殺されたんだ。絶対に敵を討たなくてはならないんだ」
 チヌムイは立ち上がってガジュマルの木の前まで行くと、左手で鯉口(こいぐち)を切り、刀の柄(つか)を右手で握り、呼吸を整えて無心になった。鋭い気合いと共に刀を抜いて横に振り払い、振り上げると左手を柄に添えて、真っ直ぐ振り下ろした。
 馬の足音が近づいて来るのが聞こえた。チヌムイは刀を鞘(さや)に納めて振り返った。マアサではなかった。糸満(いちまん)のウミンチュのシカーだった。
 シカーは馬から下りるとチヌムイの所に来て、
「的(まとぅ)が動きました」と小声で言った。
「どこに?」とチヌムイも小声で聞いた。
「多分、長嶺(ながんみ)グスクではないかと」
「長嶺グスクなら、今頃、もう着いているだろう」
 シカーは首を振った。
「久し振りのお忍びです。馬にも乗らず、供のサムレーも二人だけです。陰の護衛も見当たりません」
「なに、陰の護衛がいない?」
「噂では、山南王は島添大里按司(しましいうふざとぅあじ)を殺すために刺客(しかく)を送ったようですが、失敗に終わったようです。その時、陰の護衛をしていた者たちも戦死したものと思われます」
「確か、去年の今頃だったな」
「山南王も島添大里按司の刺客を恐れて、お忍びで出掛けるのはやめていましたが、そろそろ大丈夫だと思ったのでしょう」
「座波(ざーわ)に行くだけではないのか」とチヌムイは言った。
 島尻大里から座波までは四半時(しはんとき)(三十分)で行ける。近いので馬にも乗らず、二人だけを連れて行ったのだろう。
「そうかもしれませんが、長嶺の双子の孫娘に会いに行くんじゃないかと思います。一か八か、それに賭けて、饒波(ぬふぁ)橋の辺りで待ち伏せした方がいいと思いますが」
「饒波橋か‥‥‥」
 島尻大里グスクから長嶺グスクに兵の移動がしやすいように、饒波川に立派な橋を架けたのは山南王だった。その橋のお陰で、近所の住民たちも大いに助かっていた。
 急用ができたとマウミに言って、チヌムイはミカと一緒に馬に乗って饒波橋に向かった。シカーはその後の様子を知らせると言って帰って行った。
 馬を走らせながら、「二人だけで大丈夫かしら?」とミカが心配した。
「敵は三人だけだ。供の二人を弓矢で倒して、敵(かたき)は俺が片付ける」
「マアサの事は諦めるのね」
「最初から無理な話だったのさ」
 饒波橋に着いたのは正午(ひる)近くになっていた。すでに、敵がここを通って長嶺グスクに行ってしまったのかわからなかった。チヌムイとミカは馬から下りて、橋の脇にある草が生い茂った野原(もー)の中に隠れた。
 北にある山の上を見上げて、「もうグスクの中にいるんじゃないの」とミカが言った。
「久し振りのお忍びだ。座波ヌルと会って、阿波根グスクで孫たちと会って、保栄茂(ぶいむ)グスクで孫たちと会って、それから長嶺グスクに行くのだろう。気楽に待っていよう」
 チヌムイは草の上に横になって空を見上げた。雨が降りそうな黒い雲が流れていた。
 十二年前の十一月、チヌムイが七歳の時、山南王だった祖父(汪英紫)が亡くなった。父と叔父のシタルーが家督争いを始めて戦(いくさ)になった。八重瀬グスクは大勢の敵兵に囲まれて、グスクから出られなくなった。一か月余りの籠城(ろうじょう)の末、グスクは落城して、チヌムイたちは敵兵に捕まった。島尻大里グスクを包囲している敵陣に連れて行かれ、母は首を斬られて亡くなった。あまりの衝撃で涙も出なかった。
「必ず、母の敵を討つんだぞ」と父は悔しそうな顔をして言った。
 チヌムイは母の敵を討つ事だけを生きがいにして生きて来た。そんな気持ちがぐらついたのは、マアサに出会ったからだった。
 四年前の今頃、父は具志頭グスクを攻めて、按司と若按司を倒した。若按司の妻だったマアサは助けられて、八重瀬グスクに来た。マアサはまだ十四歳で、若按司は嫌いだったから別れられてよかったと笑った。その時はろくに話もしなかったが、マアサの笑顔はチヌムイの心に焼き付いた。敵の娘を好きになってどうすると思いながらも、マアサを忘れる事はできなかった。
 翌年の夏、マアサが阿波根グスクで剣術を習っているという噂を聞いた。山南王の娘が木剣を振っていると言って、見物人も押しかけたらしい。
 阿波根グスクのンマムイはマアサにとっても、チヌムイにとっても従兄(いとこ)だった。チヌムイは居ても立ってもいられなくて、阿波根グスクに会いに行った。マアサはチヌムイを覚えていて、再会を喜び、従兄として接してくれた。姉に話すと、姉もマアサに会いたいと言って、二人で阿波根グスクに通う事になった。
 チヌムイはマアサの父親を敵だと思っているが、マーサはチヌムイの父親を敵だとは思っていなかった。マーサにとってチヌムイの父親は、幼い頃に会った微かな記憶しかなく、マーサの父親と対立して、今は中山王に仕えているというだけで、特に憎む理由もなかった。阿波根グスクに通っていた三か月近く、チヌムイは敵討ちを忘れて、マアサと一緒に楽しい時を過ごした。
 その年の十月、山南王の三男、グルムイに山北王(さんほくおう)の長女、マサキが嫁いで来た。婚礼の翌日、チヌムイが阿波根グスクに行くとンマムイはいなかった。家臣たち全員を引き連れて、どこかに消えたという。がっかりして八重瀬グスクに帰ると、ンマムイが訪ねて来て、今、新グスクにいるという。
 チヌムイはミカと一緒に新グスクに通うが、マアサが現れる事はなかった。新グスクのガマ(洞窟)に入って、ヂャンサンフォンの一か月の修行も受けた。その修行の成果はすぐに現れ、チヌムイの弓矢と剣術は格段の進歩を遂げた。
 ンマムイの兼グスクが南風原(ふぇーばる)に完成して、ンマムイたちが新グスクから兼グスクに移ると、チヌムイとミカは兼グスクに通った。その年に三王同盟が決まって、マウミも兼グスクに来るようになった。月に一度しか会えないが、会えた日は一日中、幸せな気分だった。それも今日で終わるとチヌムイは覚悟を決めた。
「シカーが来たわ」とミカが言った。
 チヌムイは起き上がって様子を見た。シカーは橋の上でキョロキョロしていた。チヌムイは顔を出して手を振った。シカーが気づいて近寄って来た。
「的は今、保栄茂グスクにいます。あと一時(いっとき)(二時間)もしたら現れるでしょう」
 シカーはそう言って、チヌムイに籠(かご)に入った握り飯を渡した。チヌムイはお礼を言って、
「シカーの思っていた通りになったな」と笑った。
「長かったです」とシカーはしみじみと言った。
 シカーはチヌムイの母の父親であるブラゲー大主(うふぬし)の配下のウミンチュだった。
 ブラゲー大主は古くから貝殻を扱っているウミンチュの親方で、祖父が山南王になった時、娘を側室として父に贈ったのだった。ブラゲー大主は貝殻が明国との交易に使われるようになって、かつての繁栄を取り戻したかのように大きな稼ぎを得るようになった。
 娘が殺されたあと、ブラゲー大主は怒り、山南王との取り引きをやめて、先代の中山王と手を結んだ。今でもブラゲー大主の貝殻は、中山王によって明国に送られて喜ばれていた。シカーはブラゲー大主からチヌムイの敵討ちを助けるように命じられて、十二年間、ずっと、山南王の様子を探っていたのだった。
 山南王はお忍びでよく出掛けていたが、いつも陰の護衛が十人前後付いていた。皆、凄腕の連中で手を出す事はできなかった。天の助けか、ようやく今回、絶好の機会が訪れた。この機会を逃せば、また十年はじっと我慢しなければならないだろう。
「親方も動きます」とシカーは言った。
「敵は必ず、俺が討ちます」とチヌムイは言った。
「わかっております。もし、敵が逃げ出した時に捕まえるために待機していると言っておりました」
「そうですか」
「二人のサムレーはかなりの使い手です。気を付けてください」
 チヌムイはミカを見ながらうなづいた。
「絶対にはずさないわ」とミカは言った。
 一時近くが過ぎた頃、魚を入れた籠を頭の上に乗せたウミンチュの女が饒波橋を渡って来た。シカーが女に近づいて、何かを話すとすぐに戻って来た。女は饒波の集落の中に消えた。
「まもなく、的がやって来ます。邪魔者が現れないように、饒波橋を封鎖するので、念願を叶えてくれとの事です」
「そうか。お爺も近くにいるのだな」
 シカーはうなづいた。
 チヌムイとミカは前もって決めておいた場所に隠れて、弓矢を構えた。
 三人の人影が近づいて来るのが見えた。どこでも見掛ける下級サムレーたちだった。誰が見ても山南王には見えない。楽しそうに話をしながら橋を渡って来る。以前にもこんな場面があったのをチヌムイは思い出した。あの時は危険だと言って止められた。あの時と今では武芸の腕に格段の違いがあった。
 三人が橋を渡りきった。それが合図だった。
 チヌムイは弓矢を放った。ミカも放った。
 予想した通り、二本の弓矢は二人のサムレーの刀に払われた。二人のサムレーがシタルーを守るようにして、刀を構えて弓矢が飛んで来た方を見た。
 第二の矢、第三の矢と弓矢は続けざまに飛んできた。第四の矢まではじかれたが、第五の矢が当たった。第六の矢、第七の矢、第八の矢も当たり、第九の矢でサムレーは倒れた。ミカが狙ったサムレーもほぼ同時に倒れた。
 チヌムイもミカもこの日のために、弓矢の連射の稽古を長年積んで来たのだった。
「何者じゃ?」と刀を構えたシタルーが叫んだ。
 チヌムイとミカはシタルーの前に姿を現した。
「わしが山南王と知っての襲撃か」
 チヌムイは数本の矢が残った箙(えびら)をはずして、弓と一緒にミカに渡した。
「俺を覚えているか」とチヌムイは言った。
 シタルーはチヌムイを見つめたがわからないようだった。
「サハチが送った刺客か」とシタルーは言った。
「サハチとは誰だ?」
「島添大里按司だよ」
「島添大里按司なんて関係ない。十二年前にお前に殺された女の息子だ」
「十二年前? わしは女など殺さない」
「嘘をつくな。俺の母親はお前の命令で首を刎ねられたんだ」
「あっ!」とシタルーは言った。
「お前はあの時の‥‥‥兄貴の倅か‥‥‥」
「やっと思い出したようだな。あれからずっと、母の敵を討つために生きて来たんだ」
「何という事じゃ。わしが母親の敵か‥‥‥恨むなら親父を恨め。お前の親父がさっさとグスクを明け渡さなかったから、お前の母親は犠牲になってしまったんじゃ」
「うるさい。正々堂々と勝負をしないで、人質を利用するなんて最低だ。何の罪もない母親を殺すなんて絶対に許さない。お前と正々堂々と勝負をして、俺は勝つ」
 シタルーはふてぶてしい顔で笑った。
「わしはまだ死ぬわけにはいかんのじゃよ。勝負はしてやる。だが、死んでもわしを恨むなよ」
 シタルーは右手に持っていた刀を構えた。身なりは貧しいサムレーだが、刀は名刀のようだった。
 チヌムイは刀の柄に右手を添えたまま、刀は抜かずにシタルーの動きをじっと見つめた。その刀は十二歳の時、父からもらった刀だった。父が祖父からもらった刀で備前(びぜん)の名刀だという。
 父はその時、シタルーを倒すために出陣して行った。シタルーを倒して山南王になるつもりだが、もし失敗に終わったら、お前がその刀でシタルーを必ず討てと父は言った。島添大里按司が中山王を殺して首里グスクを奪い取ってしまったため、父はシタルーを討ち取る事はできなかった。
「刀を抜け」とシタルーが言った。
「これが俺の構えだ。気にせずに掛かって来い」とチヌムイは言った。
 ヂャンサンフォンから教わった呼吸法を毎日やっているお陰か、心が乱れる事はなく平常心を保つ事ができた。
 シタルーは刀を振り上げて上段に構えた。刀を抜かないチヌムイを見て、抜き打ちをするつもりかと思った。先程の弓矢の連射といい、チヌムイの腕は相当なものに違いない。だが、チヌムイは戦の経験はない。真剣の勝負は初めてだろう。タブチには悪いが死んでもらわなければならなかった。
 シタルーは刀を上段に構えたまま、チヌムイに近づいて行った。チヌムイを見ながらもミカにも目を配っていた。チヌムイを倒したあと、ミカの弓矢に気をつけなければならなかった。
 踏み出した右足と同時に、シタルーはチヌムイの頭上目掛けて刀を振り下ろした。鋭い一撃だった。
 チヌムイは右足を踏み出して、ぎりぎりの所でシタルーの一撃をよけた。
 シタルーは振り下ろした刀を素早く返して、斜め左上に振り上げた。チヌムイは血しぶきを上げて倒れるはずだった。ところが、シタルーの刀よりもチヌムイの鞘から払われた刀の方が一瞬速かった。
 血しぶきを上げたのはシタルーだった。シタルーの腹から血か勢いよく吹き出した。
 信じられないといった顔で、シタルーはチヌムイを見つめたまま後ろへと倒れ込んだ。
 シタルーの腹からどくどくと血が流れ出し、乾いていた地面が血で染まった。すでに、シタルーの息の根は止まっていた。
 チヌムイはシタルーの死体を見下ろしながら、ついにやったと思ったが、うれしさは込み上げて来なかった。うれしさよりも、不安な気持ちでいっぱいになっていた。
 敵は討った。しかし、相手は山南王だった。山南王を殺して、無事に済むはずがなかった。ミカを見ると、弓矢を持ったまま呆然とした顔で立ち尽くしていた。
 永楽(えいらく)十一年(一四一三年)十月十七日、山南王の汪応祖(おーおーそ)は突然、亡くなった。明国の名前、汪応祖(ワンインズー)はシタルーが自分で考えた名前だった。どういう理由でそう名乗ったのかはわからない。
 シタルーの祖父はシタルーが生まれた時、すでに亡くなっていたが島尻大里按司だった。伯父が祖父の跡を継ぎ、従兄が伯父の跡を継いで、初めて山南王となり、承察度(うふざとぅ)と名乗った。二代目の山南王は一度も進貢船を送る事なく高麗(こーれー)に逃げ、三代目の山南王は父で、汪英紫(おーえーじ)と名乗った。シタルーは四代目の山南王だった。しかし、二代目と三代目は明国からの冊封(さっぷー)を受けていないので、正式にはシタルーは二代目の山南王だった。
 与座按司(ゆざあじ)の次男として生まれたシタルーは、本来なら与座按司のサムレー大将で終わっていたかもしれない。偉大なる父親はその才覚によって、八重瀬按司を倒し、島添大里按司を倒し、山南王も倒した。シタルーは兄のタブチと争ったのち、山南王の座を勝ち取った。次にやるべき事は琉球統一だったが、その夢は実現する事なく終わった。もし、汪英紫汪応祖の父子がいなかったら、尚巴志(しょうはし)という英雄は生まれなかっただろう。
 ぞろぞろと武器を持った人たちが現れた。祖父の配下のウミンチュたちだった。
「よくやった」と祖父のブラゲー大主がシタルーの死体を見下ろしながら言った。
「すげえなあ」と誰かが言った。
「あれが若様(うめーぐゎー)の抜刀術(ばっとうじゅつ)というものか」と別の誰かが言った。
「これからどうしたらいいのでしょう」とチヌムイは祖父に聞いた。
 敵を討ってからの事を考えた事は一度もなかった。
「敵といってもお前の叔父さんじゃからのう。遺体を捨てて置くわけにもいくまい。遺体を持って帰って、親父にちゃんと話した方がいいじゃろう」と祖父は言った。
 明国に行ってから父は変わってしまった。もう敵討ちなんかやめろと言った。明国に行く前、必ず、シタルーを倒して山南王になると言っていた父が、明国から帰って来たら、敵討ちなんかで大事な人生を無駄にするなと言い、毎年、明国に行くようになって、山南王になる事もすっかり忘れたようだった。
 チヌムイも敵討ちの事は父に言わなくなって、姉のミカと二人だけで、敵討ちの機会を待っていた。姉といっても母親は違う。ミカの母親も側室で、チヌムイの母親が殺されたあと、チヌムイはミカと一緒に、ミカの母親に育てられた。ミカが浦添(うらしい)に嫁いで行った時は、たった独り、取り残されたようで寂しかったが、一月もしないうちにミカは戻って来た。チヌムイが武芸の修行を続けられたのも、ミカがそばにいてくれたからだった。
 チヌムイは叔父と二人のサムレーの遺体を荷車に乗せ、馬に引かせて八重瀬グスクに向かった。
 東の空に少し欠けた満月が半ば雲に隠れて昇っていた。

 

 

 

居合刀 -桜花- Z刀身仕様

目次 第二部

尚巴志伝 第二部

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このイラストはは和々様よりお借りしました。



  1. 山田のウニウシ(第二稿)   護佐丸、尚巴志を頼って首里に行く。
  2. 胸のときめき(第二稿)   護佐丸、島添大里で恋をする。
  3. 恋の季節(第二稿)   サグルーとササ、山田で魂を抜かれる。
  4. キラマの休日(第二稿)   尚巴志夫婦、毎年恒例の旅で慶良間の島に行く。
  5. ナーサの遊女屋(第二稿)   中山王の家臣たちの懇親の宴。
  6. 宇座の古酒(第二稿)   尚巴志、宇座の御隠居の倅と古酒を飲む。
  7. 首里の初春(第二稿)  中山王となった思紹の初めての正月。
  8. 遙かなる船路(第二稿)  尚巴志、ウニタキ、懐機、明国に行く。
  9. 泉州の来遠駅(第二稿)   明国に着いた尚巴志たちは来遠駅に落ち着く。
  10. 麗しき三姉妹(第二稿)   尚巴志たち、福州に行きメイファンと再会する。
  11. 裏切り者の末路(第二稿)   尚巴志たち、メイファンの敵討ちを助ける。
  12. 島影に隠れた海賊船(第二稿)   尚巴志たち、明の海賊船に乗る。
  13. 首里のお祭り(第二稿)   護佐丸、ササたちと祭りの警備をする。
  14. 富楽院の桃の花(第二稿)   尚巴志たち、明国の都、応天府に着く。
  15. 応天府の夢に酔う(第二稿)   尚巴志たち、最高級の妓楼で夢を見る。
  16. 真武神の奇跡(第二稿)   討伐軍を破って皇帝になった永楽帝
  17. 武当山の仙人(第二稿)   尚巴志たち、武当山で張三豊と出会う。
  18. 霞と拳とシンシンと(第二稿)   尚巴志とウニタキ、張三豊に武術を習う。
  19. 刺客の背景(第二稿)   馬天ノロ、刺客の正体を探る。
  20. 龍虎山の天師(第二稿)   尚巴志たち、道教の本山、龍虎山に行く。
  21. 西湖のほとりの幽霊屋敷(第二稿)   尚巴志たち、三姉妹と再会する。
  22. 清ら海、清ら島(第二稿)  三姉妹と張三豊が琉球に来る。
  23. 今帰仁の天使館(第二稿)   旅に出た張三豊たちが帰って来る。
  24. 山北王の祝宴(第二稿)   攀安知、志慶真の長老から今帰仁の歴史を聴く。
  25. 三つの御婚礼(第二稿)   サグルー、尚忠、護佐丸、妻を迎える。
  26. マチルギの御褒美(第二稿)   尚巴志、妻のマチルギにしぼられる。
  27. 廃墟と化した二百年の都(第二稿)   尚巴志、ウニタキと浦添に行く。
  28. 久高島参詣(第二稿)  思紹王、女たちを連れて久高島へ行く。
  29. 丸太引きとハーリー(第二稿)   尚巴志、豊見グスクでハーリーを見る。
  30. 浜辺の酒盛り(第二稿)   尚巴志、ヤマトゥに行くマチルギたちを見送る。
  31. 女たちの船出(第二稿)   マチルギたち、長い船旅を楽しみ博多に着く。
  32. 落雷(第二稿)   尚巴志、雷鳴を聞きながらマジムン退治を思い出す。
  33. 女の闘い(第二稿)   三姉妹の船が来て、メイユーとナツが会う。
  34. 対馬の海(第二稿)   マチルギ、対馬島でイトとユキに会う。
  35. 龍の爪(第二稿)   尚巴志、ウニタキ、懐機、朝鮮旅の計画を練る。
  36. 笛の調べ(第二稿)   久し振りに佐敷グスクから笛の音が流れる。
  37. 初孫誕生(第二稿)   尚忠の長男、尚志達、生まれる。
  38. マチルギの帰還(第二稿)   女たちがヤマトゥから無事に帰国する。
  39. 娘からの贈り物(第二稿)   尚巴志、マチルギから旅の話を聞く。
  40. ササの強敵(第二稿)   馬天ノロ、日代(ティーダシル)の石を探し始める。
  41. 眠りから覚めたガーラダマ(第二稿)   ササ、読谷山で古い勾玉を見つける。
  42. 兄弟弟子(第二稿)   尚巴志、兼グスク按司武当拳の試合をする。
  43. 表舞台に出たサグルー(第二稿)   サグルー、尚巴志の代理を見事に務める。
  44. 中山王の龍舟(第二稿)   ウニタキの新しい隠れ家が完成する。
  45. 佐敷のお祭り(第二稿)   尚巴志の一節切と佐敷ヌルの横笛に大喝采。
  46. 博多の呑碧楼(第二稿)   朝鮮旅に出た尚巴志たち、博多に着く。
  47. 瀬戸内の水軍(第二稿)   尚巴志村上水軍と塩飽水軍の頭領と会う。
  48. 七重の塔と祇園祭り(第二稿)   尚巴志たち、京都に着く。
  49. 幽玄なる天女の舞(第二稿)   尚巴志が一節切を吹くと美女が舞う。
  50. 天空の邂逅(第二稿)   尚巴志たち、七重の塔に登って感激する。
  51. 鞍馬山(第二稿)   尚巴志たち、鞍馬山で武術修行。
  52. 唐人行列(第二稿)   尚巴志、増阿弥の芸に感動する。
  53. 対馬の娘(第二稿)   尚巴志、イトと再会、ユキとミナミに会う。
  54. 無人島とアワビ(第二稿)   尚巴志、昔の顔なじみと再会する。
  55. 富山浦の遊女屋(第二稿)   尚巴志たち、富山浦(釜山)に渡る。
  56. 渋川道鎮と宗讃岐守(第二稿)   尚巴志九州探題対馬守護に会う。
  57. 漢城府(第二稿)   尚巴志たち、朝鮮の都に到着する。
  58. サダンのヘグム(第二稿)   尚巴志たち、ナナの案内で都見物。
  59. 開京の将軍(第二稿)   尚巴志たち、高麗の都に行く。
  60. 李芸とアガシ(第二稿)   尚巴志、李芸と会う。
  61. 英祖の宝刀(第二稿)   佐敷ノロ、神様の声を聞いて宝刀を探す。
  62. 具志頭按司(第二稿)   佐敷ノロ、お祭りでお芝居を上演する。
  63. 対馬慕情(第二稿)   尚巴志、家族を連れて舟旅に出る。
  64. 旧港から来た娘(第二稿)   尚巴志、旧港の施二姐と会う。
  65. 龍天閣(第二稿)  尚巴志、旧港の船を連れて琉球に帰る。
  66. 雲に隠れた初日の出(第二稿)   尚巴志、上間グスクの警固を強化する。
  67. 勝連の呪い(第二稿)   尚巴志の義兄サムが勝連按司になる。
  68. 思紹の旅立ち(第二稿)   思紹、張三豊と一緒に明国に行く。
  69. 座ったままの王様(第二稿)   佐敷大親とジクー禅師、ヤマトゥに行く。
  70. 二人の官生(第二稿)   尚巴志、明国に送る留学生を決める。
  71. ンマムイが行く(第二稿)   兼グスク按司、家族を連れて今帰仁に行く。
  72. ヤンバルの夏(第二稿)   兼グスク按司、家族を連れてヤンバルを巡る。
  73. 奥間の出会い(第二稿)   兼グスク按司、奥間で隠し事を聞いて驚く。
  74. 刺客の襲撃(第二稿)   兼グスク按司、ヤンバルの山中で襲われる。
  75. 三か月の側室(第二稿)   メイユー、尚巴志の側室になる。
  76. 百浦添御殿の唐破風(第二稿)   首里グスク正殿の改築が完成する。
  77. 武当山の奇跡(第二稿)   思紹、武当山で張三豊の凄さを知る。
  78. イハチの縁談(第二稿)   米須按司と玻名グスク按司が東方に寝返る。
  79. 山南王と山北王の同盟(第二稿)   山北王の娘が山南王の三男に嫁いで来る。
  80. ササと御台所様(第二稿)   ササ、伊勢神宮で神様の声を聞く。
  81. 玉依姫(第二稿)   ササ、豊玉姫のお墓で玉依姫の声を聞く。
  82. 伊平屋島と伊是名島(第二稿)   伊平屋島の親戚たちが逃げてくる。
  83. 伊平屋島のグスク(第二稿)   サグルーと尚忠と護佐丸、伊平屋島に行く。
  84. 豊玉姫(第二稿)   ヒューガの師匠、慈恩禅師が琉球に来る。
  85. 五年目の春(第二稿)   尚巴志、龍天閣で今年の計画を練る。
  86. 久高島の大里ヌル(第二稿)   ササ、神様から願い事を頼まれる。
  87. サグルーの長男誕生(第二稿)   兼グスク按司の新しいグスクが完成する。
  88. 与論島(第二稿)   ウニタキ、与論島に行き、与論ヌルと再会する。
  89. ユンヌのお祭り(第二稿)   尚巴志、ササたちと与論島に行く。
  90. 伊是名島攻防戦(第二稿)   伊是名島で中山王と山北王の戦が始まる。
  91. 三王同盟(第二稿)   中山王と山北王の同盟が決まり、山南王も加わる。
  92. ハルが来た(第二稿)   山南王から尚巴志に側室が贈られる。
  93. 鉄炮(第二稿)   三姉妹がアラビアの商品と鉄炮を持って来る。
  94. 熊野へ(第二稿)   ササ、将軍様の奥方と一緒に熊野詣でに出掛ける。
  95. 新宮の十郎(第二稿)   サスカサ、神倉山で十郎の話を聞く。
  96. 奄美大島のクユー一族(第二稿)   本部のテーラー、奄美大島を攻める。
  97. 大聖寺(第二稿)   首里に最初のお寺が完成する。
  98. ジャワの船(第二稿)   ヤマトゥに行った交易船がジャワの船を連れて来る。
  99. ミナミの海(第二稿)   早田左衛門太郎が、イトとユキとミナミを連れて来る。
  100. 華麗なる御婚礼(第二稿)   チューマチ、山北王の娘マナビーを妻に迎える。
  101. 悲しみの連鎖(第二稿)   玉グスク按司から始まって、続けて五人が亡くなる。
  102. 安須森(第二稿)   佐敷ノロ、ササたちを連れて安須森に行く。
  103. 送別の宴(第二稿)   尚巴志、早田左衛門太郎たちを連れて慶良間の島に行く。
  104. アキシノ(第二稿)   ヤマトゥ旅に出た佐敷ノロとササたち、厳島神社に行く。
  105. 小松の中将(第二稿)   大原寂光院で高橋殿が平維盛と華麗に舞う。
  106. ヤンバルのウタキ巡り(第二稿)   馬天ノロたち、今帰仁に行く。
  107. 屋嘉比のお婆(第二稿)   馬天ノロ、安須森で神様にお礼を言われる。
  108. 舜天(第二稿)   馬天ノロ、浦添ノロを連れて喜舎場森に行く。
  109. ヌルたちのお祈り(第二稿)   馬天ノロたち、南部のウタキを巡る。
  110. 鳥居禅尼(第二稿)   佐敷ノロ、熊野で平維盛の足跡をたどる。
  111. 寝返った海賊(第二稿)   三姉妹が来て、大きな台風も来る。
  112. 十五夜(第二稿)   サスカサ、島添大里グスクで中秋の名月を祝う。
  113. 親父の悪夢(第一稿)   山南王、悪夢にうなされて、出陣を決意する。
  114. 報恩寺(第一稿)   ヤマトゥの交易船が旧港の船を連れて帰国する。
  115. マツとトラ(第一稿)   尚巴志対馬の旧友を連れて首里に行く。
  116. 念仏踊り(第一稿)   辰阿弥が首里のお祭りで念仏踊りを踊る。
  117. スサノオ(第一稿)   懐機の娘が佐敷大親の長男に嫁ぐ。
  118. マグルーの恋(第一稿)   ヤマトゥ旅に出たマグルーを待っている娘。
  119. 桜井宮(第一稿)   馬天ノロ、各地のノロたちを連れて安須森に行く。
  120. 鬼界島(第一稿)   山北王の弟、湧川大主、喜界島を攻める。
  121. 盂蘭盆会(第一稿)   三姉妹、パレンバン、ジャワの船が琉球にやって来る。
  122. チヌムイ(第一稿)   山南王、汪応祖、死す。



主要登場人物

 

第一部 目次

目次 第一部

尚巴志伝 第一部 月代の石

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このイラストはは和々様よりお借りしました。

 

  1. 誕生(最終決定稿)   尚巴志、佐敷苗代に生まれる。
  2. 馬天浜(最終決定稿)   サミガー大主とヤマトゥの山伏、クマヌ。
  3. 察度と泰期(最終決定稿)   浦添按司察度、過去を振り返る。
  4. 島添大里グスク(最終決定稿)   島添大里グスク、汪英紫に奪われる。
  5. 佐敷グスク(最終決定稿)   尚巴志の父、佐敷按司になる。
  6. 大グスク炎上(最終決定稿)   大グスク、汪英紫(島添大里按司)に奪われる。
  7. ヤマトゥ酒(最終決定稿)   早田三郎左衛門、馬天浜に来る。
  8. 浮島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎と旅に出る。
  9. 出会い(最終決定稿)   尚巴志、伊波按司の娘と剣術の試合をする。
  10. 今帰仁グスク(最終決定稿)   尚巴志、今帰仁に行く。
  11. 奥間(最終決定稿)   尚巴志、奥間村に滞在する。
  12. 恋の病(最終決定稿)   旅から帰った尚巴志、マチルギを想う。
  13. 伊平屋島(最終決定稿)   尚巴志、祖父の故郷に行く。
  14. ヤマトゥ旅(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥへ旅立つ。
  15. 壱岐島(最終決定稿)   尚巴志、壱岐島で察度の噂を聞く。
  16. 博多(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥの都を見て驚く。
  17. 対馬島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎の故郷に滞在する。
  18. 富山浦(最終決定稿)   尚巴志、高麗に行く。
  19. マチルギ(最終決定稿)   尚巴志の恋敵、ウニタキ現れる。
  20. 兵法(最終決定稿)   尚巴志、対馬で修行に励む。
  21. 再会(最終決定稿)   帰って来た尚巴志、マチルギと再会。
  22. ウニタキ(最終決定稿)   尚巴志、ウニタキと一緒に勝連グスクに行く。
  23. 名護の夜(最終決定稿)   尚巴志、マチルギと今帰仁に行く。
  24. 山田按司(最終決定稿)   尚巴志、マチルギの叔父、山田按司と会う。
  25. お輿入れ(最終決定稿)   マチルギ、尚巴志に嫁ぐ。
  26. 高麗の対馬奇襲(最終決定稿)   早田左衛門太郎の本拠地、高麗に攻められる。
  27. 豊見グスク(最終決定稿)   シタルー(汪応祖)、豊見グスクを築く。
  28. サスカサ(最終決定稿)   尚巴志とマチルギ、馬天ノロと旅に出る。
  29. 長男誕生(最終決定稿)   マチルギと馬天ノロ、神様になる。
  30. 出陣命令(最終決定稿)   察度、各按司に今帰仁征伐を命じる。
  31. 今帰仁合戦(最終決定稿)   中山王、山北王の今帰仁グスクを攻める。
  32. 次男誕生(最終決定稿)  尚巴志の次男(尚忠)と山田按司の次男(護佐丸)生まれる。
  33. 十年の計(最終決定稿)   尚巴志、佐敷按司(父)、鮫皮大主(祖父)と密談する。
  34. 東行法師(最終決定稿)   父が隠居して、尚巴志、佐敷按司となる。
  35. 首里天閣(最終決定稿)   察度、浦添按司を武寧に譲って隠居する。
  36. 浜川大親(最終決定稿)   ウニタキは妻子を殺され、シタルーは明に行く。
  37. 旅の収穫(最終決定稿)   奥間のサタルーと対馬のユキ。
  38. 久高島(最終決定稿) 尚巴志はマチルギに怒られ、ウニタキはチルーといい感じ。
  39. 運玉森(最終決定稿)   三好日向、尚巴志のために山賊になる。
  40. 山南王(最終決定稿)   承察度が亡くなり、若按司が山南王になる。
  41. 傾城(最終決定稿)   山南王、中山王の怒りを買って、汪英紫に攻められる。
  42. 予想外の使者(最終決定稿)   尚巴志夫婦、弟のマサンルー夫婦と旅をする。
  43. 玉グスクのお姫様(最終決定稿)   尚巴志、玉グスクと同盟を結ぶ。
  44. 察度の死(最終決定稿)   山北王のミンと奥間の長老も亡くなる。
  45. 馬天ヌル(最終決定稿)   馬天ノロ、御嶽巡りの旅に出る。
  46. 夢の島(最終決定稿)   早田左衛門太郎、慶良間の夢の島に行く。
  47. 佐敷ヌル(最終決定稿)  尚巴志の妹、マシューの気持ちとマカマドゥの決心。
  48. ハーリー(最終決定稿)   尚巴志夫婦と佐敷ノロ、ハーリーを見物。
  49. 宇座の御隠居(最終決定稿)   宇座の泰期が亡くなり、尚巴志夫婦は悲しむ。
  50. マジムン屋敷の美女(最終決定稿)  尚巴志、島添大里グスクに側室を入れる。
  51. シンゴとの再会(最終決定稿)   早田左衛門太郎、朝鮮に投降する。
  52. 不思議な唐人(最終決定稿)   尚巴志、懐機と出会う。
  53. 汪英紫、死す(最終決定稿)   懐機、旅から帰り、武術を披露する。
  54. 家督争い(最終決定稿)   達勃期と汪応祖が山南王の家督を争う。
  55. 大グスク攻め(最終決定稿)   尚巴志、大グスクを攻め落とす。
  56. 作戦開始(最終決定稿)   尚巴志、大グスクノロと再会する。
  57. シタルーの非情(最終決定稿)   達勃期、弟の汪応祖に敗れる。
  58. 奇襲攻撃(最終決定稿)   尚巴志、島添大里グスクを攻め落とす。
  59. 島添大里按司(最終決定稿)   尚巴志、島添大里按司になる。
  60. お祭り騒ぎ(最終決定稿)   尚巴志、城下の者たちと戦勝祝い。
  61. 同盟(最終決定稿)   尚巴志、山南王と同盟する。
  62. マレビト神(最終決定稿)   外間ノロと佐敷ノロにマレビト神が現れる。
  63. サミガー大主の死(最終決定稿)   神の声を聞いたウニタキ。
  64. シタルーの娘(最終決定稿)   山南王のお姫様の悩みと青い海
  65. 上間按司(最終決定稿)   明国の使者が二十年振りにやって来る。
  66. 奥間のサタルー(最終決定稿)   尚巴志、奥間ノロに魅了される。
  67. 望月ヌル(最終決定稿)   謎の爺さん、望月党を語る。
  68. 冊封使(最終決定稿)   首里の宮殿の儀式で、武寧と汪応祖、正式に王になる。
  69. ウニョンの母(最終決定稿)   ウニタキ、亡くなった妻の秘密を知る。 
  70. 久米村(最終決定稿)   尚巴志とウニタキ、懐機に呼ばれて久米村に行く。
  71. 勝連無残(最終決定稿)   勝連按司が奇病に倒れる。 
  72. 伊波按司(最終決定稿)   大きな台風が来て各地で被害が出る。
  73. ナーサの望み(最終決定稿)   ウニタキ、ナーサを味方に引き入れる。
  74. タブチの野望とシタルーの誤算(最終決定稿)  八重瀬按司、中山王と同盟する。
  75. 首里グスク完成(最終決定稿)   中山王と山南王の決戦が迫る。
  76. 首里のマジムン(最終決定稿)   尚巴志、首里グスクを奪い取る。 
  77. 浦添グスク炎上(最終決定稿)   浦添グスクは焼け落ち、亜蘭匏は消える。
  78. 南風原決戦(最終決定稿)   尚巴志、中山軍を壊滅させる。
  79. 包囲陣崩壊(最終決定稿)   達勃期は出直し、汪応祖は首里を攻める。
  80. 快進撃(最終決定稿)   尚巴志、中グスク、越来グスクを攻め落とす。
  81. 勝連グスクに雪が降る(最終決定稿)   尚巴志、勝連グスクを落とす。

 

尚巴志伝 第二部 目次

 

・尚巴志伝の年表

・第一部の主要登場人物

・尚巴志の略歴

・尚巴志の祖父、サミガー大主の略歴

・尚巴志の父、思紹の略歴

・馬天ヌル(馬天ノロ)の略歴

・中山王、察度の略歴

・中山王、武寧の略歴

・汪英紫の略歴

・山南王、汪応祖の略歴

・泰期の略歴

・クマヌの略歴

・三好日向の略歴

・早田左衛門太郎の略歴

・ウニタキの略歴

・懐機の略歴

・倭寇年表

第二部 主要登場人物

サハチ       1372-1439  尚巴志。島添大里按司
マチルギ      1373-    尚巴志の妻。伊波按司の娘。
サグルー      1390-    尚巴志の長男。妻は護佐丸の妹、マカトゥダル。
ジルムイ      1391-    尚巴志次男。後の尚忠。妻はサムの娘、ユミ。
ミチ        1393-    尚巴志の長女。島添大里ヌル、サスカサ。
イハチ       1394-    尚巴志の三男。妻は具志頭按司の娘、チミー。
チューマチ     1396-    尚巴志の四男。妻は山北王の娘、マナビー。
マグルー      1398-1453  尚巴志の五男。妻は兼グスク按司の娘、マウミ。
思紹        1354-1421 中山王。尚巴志の父。
佐敷ヌル      1374-    尚巴志の妹、マシュー。シンゴと結ばれ娘を産む。
佐敷大親      1376-    尚巴志の弟、マサンルー。妻は奥間大親の娘、キク。
平田大親      1378-    尚巴志の弟、ヤグルー。妻は玉グスク按司の娘。
与那原大親     1383-    尚巴志の弟、マタルー。妻はタブチの娘、マカミー。
クルー       1388-    尚巴志の弟、妻は山南王シタルーの娘、ウミトゥク。
馬天ヌル      1357-    思紹の妹、尚巴志の叔母。
ササ        1391-    馬天若ヌル。父はヒューガ。母は馬天ヌル。
ヒューガ      1355-1470 三好日向。中山の水軍大将。
苗代大親      1360-    思紹の弟。サムレー総隊長。武術師範。
マカマドゥ     1392-    苗代大親の三女。マウシ(護佐丸)の妻。
クグルー      1386-    泰期の三男。苗代大親の娘婿。
サミガー大主    1356-    思紹の弟、ウミンター。
シビー       1395-    尚巴志の従妹。メイユーの弟子になる。
ウニタキ      1372-1433 三星大親。「三星党」の頭。
チルー       1368-    ウニタキの妻。尚巴志の母の妹。
イーカチ      1373-    「三星党」の副頭。絵画き。
ナツ        1381-    ウニタキの配下から尚巴志の側室になる。
シズ        1389-    ウニタキの配下。ササと一緒にヤマトゥに行く。
ヤールー      1385-    ウニタキの配下。サグルーを守っている。
ファイチ      1375-1453 懐機。明国の道士。尚巴志の客将。
サスカサ      1354-    ミチにサスカサを譲り、運玉森ヌルになる。
マウシ       1391-1458 真牛。山田按司次男尚巴志の甥。護佐丸。
マカトゥダル    1392-    護佐丸の妹。サグルーの妻。
マサルー      1364-    山田按司の家臣。
シラー       1391-    マサルーの次男
クマヌ       1346- 1412 中グスク按司。中山の重臣。
美里之子      1362-    越来按司。中山の重臣。思紹の義弟。
當山之子      1365-    美里之子の弟。浦添按司になる。
クサンルー     1387-    當山之子の長男。浦添按司
カナ        1391-    當山之子の長女。浦添ヌル。
サム        1372-    後見役から勝連按司になる。伊波按司の四男。
ユミ        1392-    サムの長女。ジルムイ(尚忠)の妻。
ナーサ       1352-    首里の遊女屋「宇久真」の女将。
マユミ       1389-    「宇久真」の遊女。
宇座按司      1355-    泰期の次男。父の跡を継いで明国への使者となる。
シタルー      1362-1413  山南王。汪応祖
タルムイ(太郎思) 1385-1429  豊見グスク按司汪応祖の長男。妻は尚巴志の妹。
豊見グスクヌル   1382-    山南王シタルーの娘。豊見グスク按司の姉。
マアサ       1896-    シタルーの五女。
座波ヌル      1382-    山南王シタルーの側室。
タブチ       1360-    八重瀬按司。山南王シタルーの兄。
チヌムイ      1395-    タブチの四男。
ミカ        1392-    八重瀬若ヌル。タブチの六女。チヌムイの姉。
サイムンタルー   1361-1429  早田左衛門太郎。対馬島倭寇の頭領。
早田六郎次郎    1387-    左衛門太郎の跡継ぎ。妻はユキ。
ユキ        1388-    六郎次郎の妻。尚巴志の娘。母はイト。
イト        1372-    対馬島の女船長。ユキの母。
シンゴ       1372-    早田新五郎。左衛門太郎の弟。
マツ        1372-    中島松太郎。早田左衛門太郎の家臣。
トラ        1372-    大石寅次郎。早田左衛門太郎の家臣。
早田五郎左衛門   1349-    左衛門太郎の叔父。朝鮮国の富山浦に住む商人。
早田丈太郎     1371-    五郎左衛門の長男。漢城府の津島屋の主人。
浦瀬小次郎     1375-    五郎左衛門の娘婿。
早田ナナ      1388-    早田次郎左衛門の娘。
サングルミー    1371-    与座大親。中山の進貢船の正使。
メイファン     1379-    張美帆。明国の海賊の娘。
メイリン      1374-    張美玲。メイファンの姉。
スーヨン      1387-    張思永。メイリンの娘。
メイユー      1376-    張美玉。メイファンの姉。尚巴志の側室になる。
ラオファン     1338-    黄敬。三姉妹の武術の師匠。
リェンリー     1376-    黄怜麗。ラオファンの娘。
ジォンダオウェン  1364-    鄭道文。三姉妹の配下の海賊。
ユンロン      1387-    鄭芸蓉。ジォンダオウェンの娘。 
リュウジャジン   1362-    劉嘉景。三姉妹の配下の海賊。
リィェンファ    1377-    楊蓮華。富楽院の妓楼『桃香滝』の女将。
ヂュヤンジン    1375-    朱洋敬。懐機の友。宮廷に仕える役人。
永楽帝       1360-1424  明国の皇帝。
リュウイェンウェイ 1389-    劉媛維。富楽院の最高級妓楼『酔夢楼』の妓女。
ファイホン     1379-    懐虹。懐機の妹。
ヂャンサンフォン  1247-    張三豊。武当山の道士で、武当拳創始者
シンシン      1390-    范杏杏。張三豊の弟子。
フカマヌル     1372-    外間ノロ。久高島のノロ。尚巴志の腹違いの妹。
奥間大親      1357-    ヤキチ。奥間から来た尚巴志の護衛役。中山の重臣。
平安名大親     1348-    勝連の重臣。ウニタキの叔父。
勝連ヌル      1369-    ウニタキの姉。
伊波按司      1363-    マチルギの兄。
山田按司      1365-    マチルギの兄。
攀安知       1376-1416  山北王。
マナビー      1397-    攀安知の次女。チューマチの妻。
涌川大主      1377-    攀安知の弟。
勢理客ヌル     1356-    アオリヤエ。攀安知の叔母。
アタグ       1355-    山北王に仕えるヤマトゥの山伏。
本部のテーラー   1376-1416  攀安知の幼馴染み。サムレー大将。
兼グスク按司    1378-    ンマムイ。武寧の次男。妻は攀安知の妹。
マハニ       1379-    兼グスク按司の妻。山北王、攀安知の妹。
マウミ       1399-    ンマムイの長女。
ヤタルー師匠    1359-    阿蘇弥太郎。ンマムイの武術の師匠。
慈恩禅師      1350-1448  禅僧であり武芸者。ヒューガの師匠。
飯篠修理亮     1387-1488 武芸者。長威斎。
二階堂右馬助    1390-    慈恩の弟子。
一文字屋孫三郎   1361-    次郎左衛門の弟。坊津の一文字屋主人。
みお        1394-    一文字屋孫三郎の三女。
村上又太郎     1386-    村上水軍の頭領の長男。上関を守っている。
村上あや      1392-    村上又太郎の妹。
塩飽三郎入道    1358-    塩飽水軍の頭領。
一文字屋次郎左衛門 1355-    京都の一文字屋の主人。
まり        1394-    一文字屋次郎左衛門の三女。
高橋殿       1376-    足利義満の側室。道阿弥の娘。
対御方       1379-    足利義満の側室。高橋殿に仕えている。
平方蓉       1383-    陳外郎の娘。高橋殿に仕えている。
足利義持      1386-1428  室町幕府第四代将軍。
日野栄子      1390-1431  足利義持の奥方。
勘解由小路殿    1350-1410  斯波道将。将軍様の補佐役。
斯波左兵衛督    1371-1418  勘解由小路殿の嫡男。将軍様の補佐役。
中条兵庫助     1359-    将軍様の武術指南役。慈恩禅師の弟子。
中条奈美      1380-    中条兵庫助の娘。夫が戦死し、高橋殿に仕える。
外郎       1360-    陳宗奇。薬師。外交使節の接待役。
魏天        1350-    将軍様に仕える明国の通事。
栄泉坊       1389-    東福寺を追い出された画僧。
増阿弥       1368-    奈良の田楽新座の太夫。
一徹平郎      1355-    北野天満宮の宮大工。
源五郎       1359-    腕はいいが変わり者の瓦職人。
新助        1379-    龍ばかり彫っている等持寺の大工。
渋川道鎮      1372-1446  九州探題。勘解由小路殿の娘婿。
宗讃岐守貞茂    1364-1418  対馬守護。
平道全       1376-    宗貞茂の家臣。
宗金        1380-    博多妙楽寺の僧。
李芸        1373-1445  倭寇にさらわれた母親を探している朝鮮の役人。
シーハイイェン   1390-    施海燕。旧港宣慰司、施進卿の次女。施二姐。
ツァイシーヤオ   1390-    蔡希瑶。シーハイイェンの親友。
シュミンジュン   1342-    徐鳴軍。シーハイイェンの師匠。張三豊の弟子。
ワカサ       1364-    旧港の通事。若狭出身の倭寇
奥間の長老     1348-    ヤザイム。奥間大主。
サタルー      1387-    奥間の長老の跡継ぎ。尚巴志の息子。
奥間ヌル      1374-    奥間村のノロ。尚巴志の娘ミワを産む。
米須按司      1357-    武寧の弟。若按司の妻はタブチの娘。
玻名グスク按司   1358-    タブチの義兄。
イサマ       1375-    伊平屋島の田名大主の長男。田名親方の兄。
我喜屋大主     1359-    田名大主の弟。イサマの叔父。
サミガー親方    1361-    与論島で鮫皮を作っている親方。
麦屋ヌル      1373-    先代の与論按司の娘。ウニタキの従妹。
ハル        1395-    山南王のシタルーから尚巴志に贈られた側室。
クムン       1373-    島尻大里から来た石屋。
スヒター      1391-   マジャパイト王国の女王クスマワルダニの娘。
辺戸ヌル      1360-   安須森の麓の辺戸村のヌル。
カミー       1402-    アフリヌルの孫娘。
屋嘉比のお婆    1320-    先々代の屋嘉比ヌル。
福寿坊       1387-    備前児島の山伏。
辰阿弥       1384-    時衆の武芸者。
ブラゲー大主    1353-    チヌムイの祖父。貝殻を扱うウミンチュの親方。

 

スサノオ            ヤマト国の大王。牛頭天王
豊玉姫             スサノオの妻。
玉依姫             スサノオ豊玉姫の娘。ヒミコ。アマテラス。
アマン姫            玉依姫の妹。アマミキヨ
ユンヌ姫            アマン姫の娘。

 

2-121.盂蘭盆会(第一稿)

 湧川大主(わくがーうふぬし)が武装船に乗って鬼界島(ききゃじま)(喜界島)に向かっていた七月十五日、首里(すい)の大聖寺(だいしょうじ)で『盂蘭盆会(うらぼんえ)』という法会(ほうえ)が行なわれた。
 『盂蘭盆会』というのは、七月十五日に御先祖様の精霊(しょうりょう)が帰って来るので、それをお迎えして供養(くよう)する法会だという。帰って来るのは御先祖様だけでなく、子孫が絶えてしまって無縁仏(むえんぼとけ)となった精霊もいるので、『施餓鬼会(せがきえ)』という法会も一緒にやって、無縁仏も供養するという。
 大聖寺ではソウゲン禅師だけでなく、ナンセン禅師、慈恩禅師(じおんぜんじ)、辰阿弥(しんあみ)、福寿坊(ふくじゅぼう)も集まって、お経を唱え、法会のあとには境内(けいだい)で、念仏踊りが盛大に行なわれた。集まって来た人たちに餅(むーちー)や雑炊(じゅーしー)が振る舞われ、子供から年寄りまで、『ナンマイダー(南無阿弥陀仏)』と唱えながら念仏踊りを楽しんだ。
 その二日後、中グスク按司(マチルギの弟、ムタ)の娘、マナミーが米須(くみし)の若按司の長男、マルクに嫁いで行った。米須按司はこれを機に隠居して、若按司按司の座を譲り、マルクは若按司となった。隠居した米須按司摩文仁大主(まぶいうふぬし)を名乗って、摩文仁(まぶい)グスクに移った。摩文仁グスクはまだ完成していないが、屋敷だけは、この日に合わせて完成させていた。
 サハチとマチルギは中グスクに行って、花嫁を見送った。亡くなったクマヌも喜んでくれるだろうとサハチは思っていたのに、マナミーの母親は、あまりにも遠すぎると言って悲しんでいた。しかも、周りには知っている者は誰もいない。マナミーが可哀想だと言った。サハチは垣花(かきぬはな)の方がよかったかなと後悔した。
 マナミーの母親は越来(ぐいく)ヌルの妹で、越来ヌルも慈恩禅師と一緒に来ていた。
「ねえ、カーミ、あなた、越来の若ヌルだったマチルーを覚えている?」と越来ヌルがマナミーの母親、カーミに聞いた。
「えっ?」と言って、カーミは思い出したらしく、「勿論、覚えているわよ」と言った。
「マチルーは今、米須の隣りの小渡(うる)(大度)という所にいるのよ」
「えっ、どうして、マチルーがそんな所にいるの? 今帰仁(なきじん)に帰ったんじゃなかったの?」
 カーミは驚いた顔をして姉を見つめた。
 マチルーの父親は中山王だった察度(さとぅ)の三男で、母親は今帰仁按司だった帕尼芝(はにじ)の娘だった。明国との進貢を始めた察度が、鳥島硫黄鳥島)の硫黄を手に入れるために帕尼芝と同盟を結び、帕尼芝の娘が察度の三男に嫁ぎ、察度の娘が帕尼芝の三男の永良部按司(いらぶあじ)に嫁いだ。同盟のあと、帕尼芝は使者を明国に送って山北王(さんほくおう)になったのだった。
「わたしもそう思っていたんだけど違ったのよ」と越来ヌルはカーミに言った。
「今の中山王が越来グスクを攻めた時、反乱を起こした弟の仲宗根大親(なかずにうふや)は殺されて、わたしも死のうと思ったけど、新しく越来按司になった美里之子(んざとぅぬしぃ)様に説得されて、若ヌルを育てる事に決めたの。その時、マチルーはお母さんを連れて、今帰仁に帰ると言って出て行ったのよ。それなのに、あれからずっと米須にいたらしいわ。米須按司はマチルーの伯父さんだったから頼って行ったみたい」
「そうだったの。マチルーが米須にいるんだ‥‥‥」
 マチルーはカーミより四つ年下で、カーミが伊波(いーふぁ)に嫁ぐまで、仲よく遊んでいた。
 カーミは越来按司(ぐいくあじ)の娘として越来グスクで生まれた。四歳の時に父親が亡くなってしまい、浦添から察度の三男が妻を連れてやって来て、越来按司になった。若按司だった兄は当時十五歳だったが、按司になる事はできず、仲宗根大親を名乗って家臣に格下げとなった。
 カーミの父親は察度の武将で、戦で活躍して越来按司に任命された。十五歳の若按司では心もとないと思われ、察度の息子が送り込まれたのだった。察度は、新しい按司を兄妹だと思って付き合ってくれと言い、カーミたちはグスクから追い出される事はなかった。翌年、マチルーが生まれ、カーミは妹のように可愛がった。その二年後、兄がお嫁さんをもらってグスクから出て、城下の重臣屋敷に移った。その二年後には、姉が越来按司の娘として勝連(かちりん)に嫁いで行った。
 今帰仁合戦の翌年、カーミは越来按司の娘として伊波按司の五男、ムタに嫁いだ。その時、マチルーはヌルになるための修行を始めていた。別れる時、伊波に遊びに行くわとマチルーは言ったが、その後、会ってはいない。米須にいるのなら、いつか会いに行こうとカーミは思った。
「馬天(ばてぃん)ヌル様が教えてくれたのよ」と越来ヌルは言った。
「わたしはすぐに会いに行ったわ。五歳くらいの可愛い娘さんと一緒に海で遊んでいたわ。マチルーは日に焼けて真っ黒な顔をしていてね、たくましく生きていたわ。毎日、海に潜ってお魚を捕っているって言っていた。わたしも小舟(さぶに)に乗せてもらって海に出たけど、あの頃のお姫様だったマチルーとは思えないほど、たくましくなっていたのよ。きっと、マチルーがマナミーを助けてくれるわ」
「マチルーが海に潜ってお魚を捕っているなんて‥‥‥」
 そう言いながらカーミは涙ぐんでいた。当時のマチルーからは想像もできなかった。
「でも、どうして今帰仁に行かなかったの?」
「マチルーは方向音痴だったみたい。北に向かって歩いているつもりが、南に向かって行っちゃったのよ。気がついた時には八重瀬(えーじ)グスクの近くまで来ていて、とりあえずは米須按司を頼ったみたい。米須按司はマチルー母子を大切にしてくれたようだわ。マチルーの母親は山北王の叔母さんだから、何かに使えると考えたのでしょうね。居心地がいいので、今帰仁に行くのはやめて、米須の隣りの小渡に住み着いたみたいね」
 カーミは笑いながら、「マチルーらしいわ」と言った。
 マチルーは子供の頃から鷹揚(おうよう)で、細かい事は気に掛けなかった。米須に来たのも神様のお導きだと思って、その地で楽しく生きているのだろう。マチルーにとっては、グスクから出てよかったのかもしれないとカーミは思っていた。
「もうヌルじゃないのね?」とカーミが聞くと、越来ヌルは首を振った。
「今でもヌルよ。小渡ヌルって呼ばれて、村(しま)の人たちからも頼りにされているわ」
「そう」と言ってカーミは笑った。
 越来ヌルはマチルーの事をマナミーに話して、何かがあったら頼りなさいと言った。
 マナミーの花嫁行列はサムレーたちに護衛されて首里へと向かい、首里で一泊して、翌日、米須に向かった。
 米須グスクでは八重瀬按司(えーじあじ)、玻名(はな)グスク按司、具志頭按司(ぐしちゃんあじ)、山グスク大主(うふぬし)、ナーグスク大主、玉グスク按司、知念若按司(ちにんわかあじ)、垣花若按司(かきぬはなわかあじ)、糸数若按司(いちかじわかあじ)、大(うふ)グスク按司が集まって、花嫁を迎えた。
 次の日、台風が来た。島添大里(しましいうふざとぅ)も首里も馬天浜(ばてぃんはま)も大した被害は出なかったので助かった。
 台風が過ぎて、海のうねりも治まった四日後、三姉妹の船が旧港(ジゥガン)(パレンバン)の船と一緒にやって来た。
 ファイチからの知らせを聞いて、サハチは浮島のメイファンの屋敷に向かった。
 メイユーはいなかった。何か事故でもあったのかとサハチは心配したが、メイユーは先月に女の子を産んだとメイファンが言った。
「なに、メイユーが女の子を産んだのか」
 サハチは驚いて、聞き直した。
「可愛い女の子よ。名前はロンジェン(龍剣)よ。メイユーはとても喜んでいたわ。もう子供はできないって諦めていたみたい。でも、按司様(あじぬめー)の子供を産む事ができたって、泣きながら喜んでいたのよ」
「そうか。メイユーが娘を産んだのか‥‥‥名前はロンジェンか‥‥‥それで、メイユーは旧港に行ったのか」
「行ったわ。大きなお腹をして帰って来て、一月後に、無事に産んだのよ」
「そうか。無事でよかった」とサハチは喜び、メイユーが女の子を抱いて笑っている姿を想像した。
 ソンウェイ(松尾)は武装船を奪う事ができなかった。来年こそは持って来ると言って、サハチに謝った。
「無理をしなくてもいい」とサハチは言った。
「ムラカ(マラッカ)まで行って来たのだろう。武装船を奪う暇などあるまい。そのうち、武装船の方からやって来るだろう。そしたら、奪い取ってくれ」
 ソンウェイはうなづいて、「ヂャンサンフォン殿はお元気ですか」と聞いた。
「相変わらず、お元気だよ。俺がヂャンサンフォン殿に会ったのはもう七年前になる。ヂャンサンフォン殿は七年前と少しも変わっていない。周りの者が年を取っても、ヂャンサンフォン殿は五十代のままだ。まさしく仙人だよ」
「また、お世話になります」とワカサが言った。
「よく来てくれました。お礼を申します」
「ヤマトゥに毎年行くのは難しいが、琉球なら毎年行けると言って、王様を説得しました。旧港に来たメイユーの船と一緒に来たのです」
「ヤマトゥに行けば、手続きのために、あちこちで待たされますしね。琉球ならそんな事はありません。ただ、今の時期だと息子さんには会えませんね」
「いえ、それは大丈夫です」とワカサは笑った。
「ササたちはヤマトゥに行っているのですか」とシーハイイェンが聞いた。
「すれ違いになってしまったな」とサハチは言った。
「いいわ。ヂャンサンフォン殿の所で修行に励むわ」とシーハイイェンはツァイシーヤオとうなづき合った。
 メイユーの屋敷で歓迎の宴を開いて、サハチはソンウェイからムラカの様子を聞いた。
「噂は色々と聞いていましたが、思っていた以上に栄えていました。わしらがムラカに着いた時には、西の方から来ていた商人たちは帰ったあとでしたが、年々、ムラカに来る商人は増えていると地元の者たちは言っていました。わしらは冬に行って夏に帰って来ますが、西から来た者たちは夏に来て冬に帰って行くようです」
「成程。西から来た商人はムラカで、南蛮(なんばん)や明の商品を手に入れて帰って行くのだな」
「そうです。そして、西から来た商人が持って来た珍しい品々をわしらが手に入れて琉球に持って来るというわけです。ムラカまで行かなければ手に入らない物もありますので、それをヤマトゥに持って行けば大層喜ばれる事でしょう」
 現地まで行かなければ手に入らない物があるという言葉が気になった。今はまだ無理でも、十年後には琉球からムラカやジャワに船を出そうとサハチは思った。
「リンジョンチェン(林正賢)は琉球に来ているの?」とメイファンがウニタキに聞いた。
「先月の半ばに来ているよ」とウニタキは答えた。
「湧川大主はリンジョンチェンを迎えてから鬼界島攻めに行ったんだ」
琉球に逃げて来たようね」とメイファンは言った。
「リンジョンチェン、かなりやばそうだわ。永楽帝(えいらくてい)は宦官(かんがん)をよく使うんだけど、リンジョンチェンを捕まえて処刑しろって命じたらしいわ。その宦官が特別に武装した船を作って、リンジョンチェンを追っているみたいなの。それで、リンジョンチェンはしばらく、身を隠すために琉球に来たのよ。帰ったら捕まるかもね」
「お前たちも危険じゃないのか」とウニタキは心配した。
「そうなのよ。リンジョンチェンが捕まるのはいいんだけど、次はあたしたちがやられるかもしれないわ」
永楽帝を敵に回すのは危険だ。危険を感じたら琉球に逃げて来いよ」とサハチは言った。
「それもいいけど、ムラカに拠点を移そうかと考えているのよ。ムラカに行ったメイユーもそれがいいって言うし、今年はあたしがムラカまで行って様子を見て来ようと思っているの」
「そうか。ムラカか。ムラカに移れば永楽帝も追っては来ないな」
「わしもそれがいいと思います」とソンウェイも言った。
 翌日、シーハイイェン、ツァイシーヤオ、シュミンジュンはヂャンサンフォンに会いに与那原(ゆなばる)に行った。リェンリー、ユンロン、スーヨンはチョンチを連れて、佐敷ヌルに会いに島添大里に行った。ワカサも慈恩禅師に会うために一緒に行った。ソンウェイ、ジォンダオウェン、リュウジャジンは荷物の積み卸しの指図をしなければならないと言って、船まで出掛けた。
 ウニタキはメイリンを連れてどこかに行き、ファイチもメイファンとどこかに行った。一人取り残されたサハチは『那覇館(なーふぁかん)』を見に行った。
 今帰仁から嫁いで来たマナビーのために建てた宿泊施設だが、ジャワから来る者たちのために拡張していた。普請(ふしん)も終わって、今、調度類を入れていた。そろそろ、ジャワの船も来るだろうが、何とか間に合いそうなのでサハチは安心した。
 冬から夏に掛けて、ヤマトゥの者たちが来て賑わう浮島もヤマトゥの者たちが帰ると閑散としてしまう。これからは、夏から冬に掛けて、南蛮の者たちが来るので、浮島は一年中、賑わう事になる。サハチは対岸の安里(あさとぅ)を眺めながら、明国で見た石の橋が欲しいと思った。浮島と安里が橋でつながれば、馬に乗ったまま浮島に来られる。いつの日か、橋が架かる事を願いながら、サハチは渡し舟に乗った。
 八月八日、与那原のお祭りがあって、その翌日、ジャワの船が来た。
 思っていたよりも早く着いたとスヒターたちは喜んでいたが、ササがいない事を知らせるとがっかりしていた。『那覇館』で歓迎の宴を開いて、メイファンとメイリンも呼び、与那原にいるシーハイイェンたちも呼んだ。
 サハチは島添大里にいるリェンリーたちを連れて浮島に向かった。サハチたちより先にヂャンサンフォンと一緒にシーハイイェンたちが来ていて、スヒターたちとシーハイイェンたちが睨み合いになったらしい。ヂャンサンフォンが、「お前たちは皆、わしの弟子じゃ。弟子同士の争いは禁止じゃ」と言ったので、お互いに自己紹介して仲よくなったようだった。
 シーハイイェンたちは三度目の琉球だが滞在時間は少なかった。スヒターたちは二度目だが、前回に来た時、二か月近く滞在して、ヂャンサンフォンのもとで一か月の修行を受けていた。
 今回、シーハイイェンたちは一か月の修行の最中だった。ジャワから来た者たちの歓迎の宴に呼ばれたが、修行を途中でやめていいものか迷った。ヂャンサンフォンは修行はいつでもできるが、ジャワの者たちの歓迎の宴は今日だけじゃと言った。シーハイイェンたちは修行を中断してやって来たのだった。ソンウェイも一緒だった。
 シーハイイェンたちとスヒターたちは共通の友達であるササの事を話し合って盛り上がっていた。
「久米村(くみむら)は大忙しです」とファイチ(懐機)がサハチに言った。
 三姉妹たちも旧港の者たちもジャワの者たちも自分たちの食糧は持って来ているが、歓迎の宴と送別の宴の料理はこちらから出さなければならなかった。それらの料理は久米村に任せていた。
「豚(うゎー)を飼育しなければなりません」とファイチは言った。
「南蛮(東南アジア)には仏教や印度教(インドゥきょう)(ヒンドゥー教)、回々教(フイフイきょう)(イスラム教)を信じている者も多くいます。それらの宗教の信者たちは肉は食べません。でも、船乗りたちは明国からの流れ者が多いようです。奴らは豚の肉が好物なのです。琉球に行っても、豚の肉が食べられないと言われたら、誰も琉球に来なくなってしまいます。大量に豚を飼育しなければなりません。久米村だけの力では無理です。中山王にやってもらわなければなりません」
「今回は大丈夫なのか」とサハチは聞いた。
「ピトゥ(イルカ)の塩漬けで何とか代用ができそうです。それと、ザン(ジュゴン)の塩漬けもあるので、今回は何とかなりそうです」
「ピトゥの塩漬けが、こんな所で役に立つとは思わなかったな。来年はもっと買い取ろう。そして、豚の飼育の件は親父と相談して、担当の役人を決めて飼育させるよ」
「お願いします」とファイチは笑った。
 ウニタキが来て、「何をお願いしたんだ?」とファイチに聞いた。
「ピトゥの塩漬けが大いに役立ったって言っていたんだよ」とサハチが言った。
「そうか。そいつはよかった。名護按司(なぐあじ)が喜ぶだろう」
 舞台では旅芸人たちが『浦島之子(うらしまぬしぃ)』を演じていた。言葉はわからないだろうが、ジャワの者たちは笑いながら楽しんでいた。
今帰仁で『小松の中将様(くまちぬちゅうじょうさま)』をやったのか」とサハチはウニタキに聞いた。
「ああ、思っていた以上に喜んでくれたよ。明日もやってくれって頼まれて、十日間も今帰仁で毎日、演じていたんだ。グスクにも呼ばれてな、外曲輪(ほかくるわ)という所で演じたよ。山北王は来なかったけど、王妃や側室、子供たちは見ていたようだ。重臣たちの奥方も子供を連れて来ていたよ」
「そうか。大成功だな」
 ウニタキは嬉しそうな顔をしてうなづいて、「今、『かぐや姫』の稽古をしているんだ」と言った。
「『浦島之子』『瓜太郎(ういたるー)』『舜天(しゅんてぃん)』『小松の中将様』、四つもあれば充分だと思ったんだが、『かぐや姫』が見たいという声も多いんだよ。女子(いなぐ)が主役のお芝居も必要だなと思ってな、今、稽古をしているんだ」
「そうか。そういえば、女子が主役のお芝居は『かぐや姫』だけだな。佐敷ヌルに言って、娘たちが憧れるような女子を主役にしたお芝居を作らせよう」
「『小松の中将様』に出てくる『巴御前(とぅむいぬうめー)』や『アキシノ』を主役にしたっていいんじゃないのか」
「それも面白そうだな」とサハチはうなづいた。
「マチルギさんを主役にすればいいんです」とファイチが言った。
「そいつはいい」とウニタキは手を打った。
「マチルギが芝居になったら、マチルギはまたグスクから出られなくなるぞ」とサハチは言って、首を振った。
「マチルギさんの機嫌が悪くなったらうまくないですね」とファイチは笑った。
 八月十五日、首里と島添大里で十五夜の宴が催された。去年、島添大里グスクで行なわれた宴を手本にして、首里では馬天ヌルと麦屋(いんじゃ)ヌルが中心になって準備を進め、百浦添御殿(むむうらしいうどぅん)の前の御庭(うなー)で行なわれた。
 音楽を担当したのは雅楽所(ががくしょ)の者たちだった。朝鮮(チョソン)の雅楽署(アアッソ)を真似して作った役所だった。馬天ヌルは正月の儀式の時に演奏する者たちを抱えていたが、その者たちを雅楽所に入れて、音楽に専念させたのだった。ヤマトゥの行列で三弦(サンシェン)と太鼓を担当している者も雅楽所に入れた。笛を担当している女子(いなぐ)サムレーたちは、それぞれのお祭りの時、お芝居の音楽も担当するので、雅楽所に入らなかった。馬天ヌルは笛を得意とする者を探して雅楽所に入れた。今はまだいないが、舞姫たちも揃えて、中山王の大事なお客様たちの前で披露しようと馬天ヌルは考えていた。
 雅楽所の者たちが演奏する幻想的な曲に合わせて、ヌルたちが華麗に舞い、首里で最初の十五夜の儀式は大成功に終わった。
 サングルミーが明国に行っていて、二胡(アフー)の演奏が聴けないのは残念だと思紹(ししょう)が満月を見上げながら思っていた時、ファイチがヘグム(奚琴)持って現れた。
 去年の十五夜の宴で、サングルミーの二胡を聴いたファイチは刺激されて、あれから一年、暇さえあればヘグムの稽古に励んでいた。
 思紹はファイチのヘグムに感動した。哀愁を帯びたその調べは、若き日に済州島(チェジュとう)に行った時の事を思い出させてくれた。早田五郎左衛門(そうだごろうざえもん)と一緒に海に潜ってアワビを捕った。島の娘と仲よくなって、その娘がヘグムを弾いていた。悲しい調べで、その調べは済州島の悲しい歴史を物語っていると言っていた。かつては耽羅(タムナ)という王国だったが、高麗(こーれー)に占領され、その後、元(げん)に占領され、元が滅びると倭寇(わこう)が入って来た。よそ者が入って来る度に、島の者たちが大勢殺されたという。あの時の娘は今も元気に生きているだろうか‥‥‥
 ファイチのヘグムのあと、ヂャンサンフォンがテグム(竹の横笛)を披露して、辰阿弥と福寿坊が念仏踊りを演じた。お祭りの時の賑やかな念仏踊りではなく、ゆっくりと念仏を唱え、鉦(かね)や太鼓もゆっくりで、それに合わせて、白い衣装のヌルたちがゆっくりと踊った。幻想的で、十五夜にぴったりの踊りだった。こんな念仏踊りもあるのかと、皆、感心しながら見入っていた。
 島添大里ではサスカサと佐敷ヌルが中心になって準備を進めて、去年以上のものを目指した。
 マチルギは首里の宴に参加しているので、サハチはナツとハルと一緒に一番いい席に座って、宴を楽しんだ。佐敷大親(さしきうふや)夫婦、佐敷の若按司夫婦、平田大親夫婦、手登根大親(てぃりくんうふや)の妻も呼んだ。ウニタキ夫婦もファイチの妻とファイテの妻になったミヨンを連れてやって来た。慈恩禅師もワカサと一緒に来た。兼(かに)グスク按司夫婦もやって来た。
 今年もいい満月が出ていた。佐敷ヌルとユリが吹く幻想的な調べに合わせて、サスカサ、佐敷の若ヌル、平田の若ヌル、ギリムイヌルがしなやかに舞い、マカマドゥ(サグルーの妻)、チミー(イハチの妻)、マナビー(チューマチの妻)、マチルー(サハチの次女)が天女のような着物を着て華麗な舞を披露した。
 ギリムイヌルは越来ヌルの新しい名前だった。越来ヌルを越来按司の娘、ハマに譲ったのに、いつまでも越来ヌルのままではおかしいとサスカサと相談して、城下のはずれのギリムイグスク内にある古いウタキを守る事に決まったのだった。
 儀式が終わるとリェンリーの笛に合わせて、ユンロンとスーヨンが明国の舞を披露した。スヒター、シャニー、ラーマの三人娘もジャワの踊りを披露した。聞いた事もない独特な笛の調べに合わせて、独特な踊りを踊っていた。笛を吹いていたのは佐敷ヌルで、スヒターたちから教わったのだろうが、見事なものだった。
 シーハイイェンとツァイシーヤオも負けるものかとミヨンの三弦に合わせて歌を歌った。歌詞の意味はわからないが月夜にぴったりな美しい歌だった。
 サハチもウニタキも今回は演奏はしないで、みんなの芸を楽しんで観ていた。
 十五夜の宴のあと、サハチとファイチは九月に送る進貢船(しんくんしん)の準備で忙しくなった。ウニタキはヤンバルに行く事もなく、メイリンと楽しくやっているようだった。メイユーが娘を産んだのは嬉しいが、会えないのは寂しかった。 
 首里に帰って来て『かぐや姫』の稽古をしていた旅芸人たちは、平田のお祭りで『かぐや姫』を演じて、その二日後、キラマの島に行って、修行者たちにお芝居を観せて喜ばれた。キラマの島にはウニタキ、メイリン、メイファン、シーハイイェンたち、スヒターたちも一緒に行って、楽しく過ごしたようだ。
 ウニタキたちがキラマの島に行った翌日、二月に行った進貢船が無事に帰って来た。永楽帝がまた順天府(じゅんてんふ)(北京)に行ったので、順天府まで行って来たと正使のサングルミーは言った。イハチもクグルー、シタルーと一緒に順天府まで行って来たという。順天府は遠かったとイハチは言って、明国というのは、琉球にいたら想像もできないほど大きな国だったとしみじみと言った。
 その二日後、今年二度目の進貢船が出帆して行った。その船にはチューマチが乗っていて、チューマチもイハチと同じように驚いて帰って来るだろう。

 

 

 

古月琴坊 黒檀二胡 ER-800