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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-93.鉄炮(第一稿)

尚巴志伝 第二部

 側室のハルはほとんど佐敷ヌルの屋敷に入り浸りで、二人の侍女も佐敷ヌルを尊敬したようで、真剣に武当拳(ウーダンけん)を習っていた。
 石屋のクムンは職人たちと一緒に島添大里(しましいうふざとぅ)グスクの石垣を見て回って修繕していた。職人の中に腕のいい老人がいて、若い者たちに教えていた。
「タラ爺(じい)はわしの祖父の弟子で、親父や叔父よりも腕のいい石屋です。タラ爺だけは、わしを裏切らずにずっと、わしを助けてくれました」とクムンは言った。
 タラ爺は、「石の声を聞け」とよく言っていた。石もしゃべるのかとサハチは感心し、タラ爺の見事な仕事振りを見ながら、首里(すい)グスクの北曲輪(にしくるわ)の石垣をクムンたちに頼もうかと考えていた。今の北曲輪は石垣ではなく土塁に囲まれていた。
 ウニタキは本当に久高島に行って来ていた。進貢船(しんくんしん)の帰国祝いの宴の次の日、ウニタキは旅芸人たちを送り出した。まずは東方(あがりかた)を巡って、観客たちの反応を見て、直すべき所を直してから敵地に送り込むという。旅芸人たちを見送ったあと、妻のチルーと娘のミヨン、ファイチの妻のヂャンウェイと娘のファイリンを連れて久高島に行き、フカマヌルと娘のウニチルと一緒に海に潜って遊んできたと楽しそうに言った。
「ファイチは連れて行かなかったのか」とサハチはウニタキに聞いた。
「ファイチも誘ったんだが、忙しいから妻と娘を頼むって言われたよ」
「王茂(ワンマオ)が国相(こくしょう)になったから、久米村(くみむら)に新しい組織を作るって言っていたな。進貢船が増えたからファイチも大変なのだろう。そう言えば、リリーが産んだ娘は元気なのか」
「ああ、元気だよ。リリーは早く仕事に復帰したいようだが、今は子育てに専念している」
「そうか。きっと、母親に似て、足の速い娘になるだろう」
「そうだな。お前の息子はまだ首里にいるのか」
「乳離れしたらこっちに連れて来るそうだ」
「可愛い側室が来たそうだな」とウニタキは笑った。
「会ったのか」
「いや、シチルーから聞いたんだよ。配下の者に見張らせているが、今の所、怪しい素振りはないようだ」
「石屋の方はどうだ?」とサハチは聞いた。
「石屋も今の所は島尻大里(しまじりうふざとぅ)に行った者はいない」
「そうか。侍女から石屋を通して、シタルー(山南王)に知らせるという流れだな」
「側室なんだが、シタルーはタブチにも贈っているぞ。ハルと同じように粟島(あわじま)(粟国島)から来た娘だ」
「なに、シタルーは兄貴に側室を贈っているのか」
「中山王と山南王が同盟を結んだのを機に、八重瀬(えーじ)グスク内を探るつもりなんだろう」
「タブチは受け取ったのか」
「ああ、喜んで受け取ったようだ。そして、タブチもシタルーに側室を贈っている」
「兄弟で何をやっているんだ」
「タブチも山南王(さんなんおう)の座を諦めていないのだろう。島尻大里グスクに味方を送り込めば、シタルーの隙を見て、グスクを奪い取る事もできるからな」
「シタルーが贈った側室は刺客(しかく)かもしれんぞ。タブチを殺して、東方を狙っているに違いない」
「同盟を結んだお陰で、あちこちで動きが始まった。仲直りしようと笑いながら、裏では相手を倒す計画を練っている。面白くなって来たな」
「シタルーで思い出したんだが、お前に聞きたい事があったんだ。座波(ざーわ)ヌルというのを知っているか」
「シタルーの側室だろう」とウニタキは知っていた。
「ハルは幼い頃、両親を亡くして、座波ヌルの世話になっていたらしい」
「ほう、そうだったのか。すると、シタルーはハルの才能を見抜いて粟島に送ったのかな」
「ハルが粟島に行ったのは四年前だ。その前に、シタルーは座波ヌルを側室にしたという事になる」
「いや、もっと前だぞ。あれは確か、ンマムイの阿波根(あーぐん)グスクを築いている頃だ。武寧(ぶねい)に頼まれて、シタルーも阿波根グスクの普請(ふしん)に関わっていたようだ。阿波根に行く途中、座波で会ったのだろう。当時はまだ若ヌルだった。シタルーは若ヌルを側室にしたが、グスクには入れず、そのまま座波に置いていた。座波ヌルに反対されたのかどうかは知らんが、シタルーが通っていた。子供も二人いるはずだよ。阿波根グスクにも出入りしていて、ンマムイの奥さんとも仲がよかったようだ」
「シタルーは今も座波ヌルのもとに通っているのか」
「去年、座波ヌルが亡くなって、若ヌルは座波ヌルを継いだんだ。先代が亡くなった後は頻繁に出入りしているようだ。グスクにも側室は何人もいるんだが、中山王と同じように、王様になるとグスクから出たくなるらしいな」
 ウニタキは笑って、「今帰仁(なきじん)に送る『まるずや』の人選をしなくてはならん」と言って帰って行った。
「タブチを守ってくれよ」とサハチはウニタキの背中に声を掛けた。
 ウニタキは、「わかっている」と言うように手を振った。
 ウニタキが帰ったあと、サハチはナツを連れてグスクを出た。子供たちは佐敷ヌルの屋敷で遊んでいるという。
「散歩にでも行くか」とサハチが言うと、
「どういう風の吹き回しですか」とナツは怪訝(けげん)な顔をして聞いた。
「お前に子供たちの面倒を任せっきりだからな、たまには息抜きした方がいいと思ったんだよ」
「まあ」と笑って、ナツは嬉しそうにサハチに付いて来た。
「二人だけで散歩するなんて久し振りですね」
「ただの散歩じゃないんだよ」とサハチは言った。
「えっ」とナツはサハチの顔を見た。
「チューマチの事なんだ。来年、山北王(さんほくおう)の娘がお嫁に来るだろう。親父もマチルギも東曲輪(あがりくるわ)に屋敷を建てればいいと言ったんだが、よく考えたら、それではまずい事に気づいたんだ。山南王は山北王の娘のために保栄茂(ぶいむ)グスクを築き、山北王は五十人の兵を送ってよこした。もし同じ事が起これば、山北王の兵を島添大里グスクに入れなくてはならなくなる。それはうまくない。チューマチのために新しいグスクを築かなければならないんだよ」
「でも、ジルムイやイハチがグスクを持っていないのに、チューマチだけグスクを持つなんておかしくないですか」
「ジルムイは首里のサムレーになっていて、イハチは島添大里のサムレーになっている。チューマチも島添大里のサムレーにするつもりだったんだが、お嫁さんが山北王の娘となるとそうもいくまい」
「クルーの奥さんは山南王の娘だけど、佐敷グスクの東曲輪にいますよ」
「そうか。チューマチにグスクを築くのなら、クルーにも築かなければならんな」
「そうですよ。チューマチより先にクルーのグスクを築くべきです」
 サハチとナツは話をしながら島添大里グスクの東側にある見張り小屋の所に来た。馬天浜(ばてぃんはま)を見下ろせる眺めのいい所で、シンゴの船が来る頃にはここに見張りを置いていた。
「ここに建てたらどうかと思ったんだ」とサハチはナツに言った。
「ここにチューマチのグスクを?」
「そうだ。島添大里グスクの出城だな」
 サハチは周辺を歩いてみた。所々に岩が出ているが、整地をすればグスクが築けそうだと思った。
津堅島(ちきんじま)が見えるわ」とナツが言った。
 サハチも海の方を見た。
「今度、子供たちを連れて津堅島に行くか」
「ほんと?」
「ああ。次の進貢船の準備が終わったらな」
「お婆が歓迎してくれるわ」
 サハチは笑って、「もう一カ所あるんだ」と言った。
 サハチはナツを連れて、来た道を戻った。
 グスクまで戻って、城下の村を通り越して行くと小高い山がある。ギリムイグスクと呼ばれ、島添大里按司が玉グスク按司と争っていた百二十年ほど前、大グスクに対する守りとして築かれたグスクだった。玉グスクの若按司浦添按司(うらしいあじ)になったあと、島添大里按司と玉グスク按司は同盟を結び、ギリムイグスクの役割は終わって廃城となった。山の中に古いウタキがいくつもあって、サスカサがお祈りをしているので道はあった。
 細い道を登って行くと古い石垣が残っていて、それなりの広さもあったが、眺めはあまりよくなかった。
「サスカサが神様から聞いた話によると、このグスクは島添大里グスクよりも古いらしい。島添大里グスクには月の神様を祀ったウタキがあるので、男は入る事ができず、最初はここにグスクを築いたのかもしれないとサスカサは言っていた」とサハチはナツに説明した。
「ここよりは見張り小屋の所の方がいいわよ」とナツが言った。
「そうだな」とサハチはうなづき、「この石垣の石は使えそうだな」と言った。
 翌日、サハチは首里に行き、思紹とマチルギに相談して、見張り小屋の所にチューマチのグスクを築く事に決めた。その足で佐敷まで行き、クルーと会って、グスクを築かないかと聞いた。クルーは驚き、使者になりたいので、グスクはいらないと言った。
「佐敷グスクの東曲輪には、やがて、マサンルーの子供たちが入る事になる。いつまでも、あそこにいるわけにはいかないんだ。お前もどこかに拠点を持って独立した方がいい」
 サハチがそう言うと、クルーは少し考えてから、手登根(てぃりくん)がいいと言った。
「手登根?」
「ササがセーファウタキ(斎場御嶽)に行く時、手登根から山を越えて知念(ちにん)に抜けたんです。あそこに道があればいいと言っていました。俺が山の麓(ふもと)にグスクを築いて、知念に抜ける道を作ります」
「道を作るのか」とサハチは意外な答えに驚いてクルーを見ていた。
「セーファウタキは御先祖様がいらっしゃる重要なウタキだとササは言っていました。セーファウタキまでの道をちゃんと作って、セーファウタキを守らなければなりません」
「そうだな。御先祖様の豊玉姫(とよたまひめ)様を守らなくてはならんな。よし、手登根にグスクを築いて、お前は手登根大親(てぃりくんうふや)を名乗れ」
 サハチはクルーと一緒に手登根まで行ってグスクを築く場所を決め、「縄張りを考えて、親父の所に持って行け」と言った。
 七月になり、九月に送る進貢船の準備でサハチも忙しくなって、首里にいる事が多くなった。
 久し振りに島添大里に帰ると、佐敷ヌルとユリはシビーを連れて、与那原(ゆなばる)のお祭りの準備に行っていた。何と、ハルと二人の侍女も付いて行ったという。
 ハルと侍女が刺客(しかく)かもしれないから気を付けろと佐敷ヌルには言ってあるが、マタルー(与那原大親)が心配だった。マタルーの妻のマカミーはタブチの娘なので、シタルーがマカミーの命を狙っているかもしれなかった。
「おしゃべりばかりしていて、時々、うるさいって思ったけど、いなくなると寂しいわね」とナツは言った。
「ハルは刺客だと思うか」とサハチはナツに聞いた。
「違うと思います。あの娘(こ)、隠し事なんかできませんよ」
「侍女の二人はどうだ?」
「あの二人も違います。ハルと違って、あの二人が按司様(あじぬめー)を殺すには、このお屋敷に忍び込まなければならないけど、あの二人はそんな技術は持っていません。ハルが言っていましたけど、粟島には特別なお稽古をする場所があって、そこは選ばれた人だけが行けるようです。ハルも来年はそこでお稽古をする予定だったみたい。急にお嫁に行けって言われて、がっかりしていたんだけど、ここに来てよかったって言っていました」
「その特別なお稽古というのが、刺客を育てている所だな」
「多分、そうでしょう。侍女の二人は選ばれなかったらしいですよ」
「成程な、自分でも言っていたが、侍女たちよりも強いというのは本当らしいな」
「シビーと試合をしたんだけど簡単に勝っていました。シビーは悔しがって、夜遅くまでお稽古に励んでいますよ」
「そうか。いい競争相手ができたな。シビーも強くなるだろう」
 七月の半ば、今年も三姉妹がやって来た。今年は三隻の船で来て、一隻は鄭和(ジェンフォ)と一緒にタージー(アラビア)まで行って来た船だった。荷物を積んだまま船ごと奪い取って、そのまま琉球まで持って来たという。
 サハチたちは驚いて、一体、どうやってそんな事ができたのかを聞いた。
 三年前、ウニタキが明国に送ったマニとイサの二人が、三姉妹のために裏の組織を作って、各地の情報を集めていた。一か月前、鄭和と一緒にタージーまで行った船が次々に帰って来て、杭州(こうしゅう)の街はお祭り騒ぎになっていた。
 タージーから帰って来た船の一隻が、報酬の事で船主と船乗りが争い、船乗りが怒って船を降りてしまい、街から離れた川縁(かわべり)に置きっ放しにされていた。その事を知ったマニとイサは三姉妹に知らせ、ジォンダオウェンが海賊たちを率いて襲撃したのだった。
 船を守っている兵は二十人ほどいたが、無事の帰国を喜び、酒を飲んで酔い潰れていた。思っていたよりも簡単に奪い取る事ができたという。
「凄いお宝がたっぷりと積み込まれているわ」とメイファンは笑った。
 メイファンは今年もチョンチを連れてやって来た。メイリンはスーヨンを連れ、メイユーとリェンリーは今年も旧港(ジゥガン)(パレンバン)まで行っていた。ユンロンも今年は来ていて、リュウジャジンの長男のミンウェイが奪った船の船長になっていた。
 そして、奪った船に乗っていたという鉄炮(てっぽう)(大砲)を二つ持って来てくれた。鉄炮はヒューガの船に積み込み、沖に出て試し打ちをした。
 物凄い爆発音がして鉄の玉が遠くに飛んで行き、海の中に落ちて行った。
 その船にはサハチ、思紹、苗代大親(なーしるうふや)、ウニタキ、ジォンダオウェンが乗っていて、初めて鉄炮を見たヒューガと苗代大親は目を丸くして驚いていた。思紹はヂャンサンフォンと一緒に海賊の島に行った時に見ていた。
「凄いのう。こいつがあれば敵の船を沈めるのはわけないのう」とヒューガは言った。
「敵を脅かす効果はありますが、敵の船に当てるのは難しい」とジォンダオウェンは言った。
「飛ぶ距離は鉄炮の角度で決まります。思い通りの所に玉を飛ばすには稽古を重ねるしかありませんが、火薬が貴重なので、稽古も思い通りにはできません」
 ジォンダオウェンが持って来た火薬は二十回分くらいだという。
「敵の船に当たらなくても、充分に脅しとして使えるじゃろう」とヒューガは言った。
「こいつはグスク攻めにも使えるな」と苗代大親が言った。
「船よりグスクの方が大きいからどこかに当たるじゃろうな」と思紹は言った。
 思紹はジォンダオウェンに火薬を手に入れるように頼んだ。
 タージーまで行って来た船には、見た事もないお宝がいっぱい積んであった。象の牙だという象牙(ぞうげ)、動物の毛でできている分厚い敷物、様々な色に輝く宝石、鮮やかな色の布、様々な香辛料と布を染める染料は大量に積んであり、変わった形をした剣や色々な国の酒もあった。ヤマトゥの将軍様に贈ったら喜びそうな品々が色々とあり、サハチはジォンダオウェンに感謝した。
 メイユーは島添大里グスクには来なかった。メイユーとハルを会わせたら危険だとマチルギが言い、メイユーは首里にあるサハチの屋敷に入った。
 三姉妹は旧港から来た商人という事になっているが、明国の海賊だという事がシタルーにばれてしまうと、シタルーから明国の役人に伝わり、三姉妹の本拠地が永楽帝に狙われる恐れがある。それに、中山王が密貿易をしている事がばれれば進貢もできなくなるかもしれなかった。
 サハチが首里の屋敷に顔を出すと、メイユーだけでなく、リェンリーとユンロンもいた。
「佐敷ヌルと一緒にお祭りの準備ができないのは残念だったな」とサハチが言うと、
「楽しみにしていたのよ」とメイユーは言った。
「マシュー(佐敷ヌル)に会いにも行けないなんて寂しいわ。ナツにも子供たちにも会えないの?」
「子供たちの口はふさげないからな。メイユーが子供たちに会うと子供たちも喜ぶんだが、あとでハルにメイユーの事を色々と話してしまうかもしれないんだ。俺も今は忙しくてなかなか島添大里には帰れない。メイユーがここにいてくれた方がいい」
「奥方様(うなじゃら)はここには来ないの?」
「マチルギはタチの面倒を見なければならないので、今はグスク内の御内原(うーちばる)で寝泊まりしているよ」
「そう。今年はここで、笛のお稽古をしながら、のんびりする事にするわ」とメイユーは笑って、腰に差していた横笛をサハチに見せた。
「船の上でお稽古したのよ」
「メイユーも笛を始めたか」とサハチは笑った。
「あたしたちも始めたのよ」と言って、リェンリーとユンロンも笛を見せた。
「笛があると長い船旅も楽しくなるだろう」とサハチが言うと、三人は笑ってうなづいた。
「メイユー」と呼ぶ佐敷ヌルの声がして、縁側の方を見ると、佐敷ヌルとシビーが顔を出した。
「マシューにシビー」と言って、メイユーは縁側まで行って再会を喜んだ。
 シビーがヂャンサンフォンのもとで修行を積んだ事を聞くと、「もう、あなたはあたしの弟子ではないわ。ヂャン師匠の弟子よ」とメイユーは言った。
「あたし、やりたい事がみつかったんです」とシビーは言った。
「女子(いなぐ)サムレーになりたいって夢見ていたんですけど、佐敷ヌルさんを助けてお祭りの準備をしていて、このお仕事があたしのやるべきお仕事じゃないかしらって思うようになりました」
「シビーがあたしの跡を継いでくれるって言ったのよ」と佐敷ヌルが嬉しそうに言った。
「あたしはあと何年かしたらヤンバルに行かなければならないの。シビーがあとを継いでくれれば安心してヤンバルに行けるわ」
「どうしてヤンバルに行くの?」とメイユーが聞いた。
 佐敷ヌルはガーラダマ(勾玉)を見せて、その由来を話した。
 佐敷ヌルの話が一段落すると、サハチは佐敷ヌルにハルの事を聞いた。
「ハルはヂャン師匠の武当拳に夢中になっているわ。あの娘、体は柔らかいし、物覚えはいいし、素質は充分にあるわ。何より、心が綺麗だから、眠っている才能を呼び覚ます事もできるかもしれないってヂャン師匠が言っていたわ」
「心が綺麗か‥‥‥侍女たちも夢中になっているのか」
「侍女たちは武当拳よりもお祭りの準備が好きみたい。二人とも縫い物が得意なのよ。お芝居の衣装を作ってもらっているの。色々と手伝ってくれるので助かっているわ」
「そうか。三人の事、よろしく頼むぞ」
「ええ、大丈夫よ」
 その夜、ヤマトゥ酒を飲みながら、女たちは遅くまで語り合っていた。前日の寝不足がたたって眠くなり、サハチは先に休んだ。

 

 

 

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目次 第二部

目次

尚巴志伝 第二部

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このイラストはは和々様よりお借りしました。



  1. 山田のウニウシ(第二稿)   護佐丸、尚巴志を頼って首里に行く。
  2. 胸のときめき(第二稿)   護佐丸、島添大里で恋をする。
  3. 恋の季節(第二稿)   サグルーとササ、山田で魂を抜かれる。
  4. キラマの休日(第二稿)   尚巴志夫婦、毎年恒例の旅で慶良間の島に行く。
  5. ナーサの遊女屋(第二稿)   中山王の家臣たちの懇親の宴。
  6. 宇座の古酒(第二稿)   尚巴志、宇座の御隠居の倅と古酒を飲む。
  7. 首里の初春(第二稿)  中山王となった思紹の初めての正月。
  8. 遙かなる船路(第二稿)  尚巴志、ウニタキ、懐機、明国に行く。
  9. 泉州の来遠駅(第二稿)   明国に着いた尚巴志たちは来遠駅に落ち着く。
  10. 麗しき三姉妹(第二稿)   尚巴志たち、福州に行きメイファンと再会する。
  11. 裏切り者の末路(第二稿)   尚巴志たち、メイファンの敵討ちを助ける。
  12. 島影に隠れた海賊船(第二稿)   尚巴志たち、明の海賊船に乗る。
  13. 首里のお祭り(第二稿)   護佐丸、ササたちと祭りの警備をする。
  14. 富楽院の桃の花(第二稿)   尚巴志たち、明国の都、応天府に着く。
  15. 応天府の夢に酔う(第二稿)   尚巴志たち、最高級の妓楼で夢を見る。
  16. 真武神の奇跡(第二稿)   討伐軍を破って皇帝になった永楽帝
  17. 武当山の仙人(第二稿)   尚巴志たち、武当山で張三豊と出会う。
  18. 霞と拳とシンシンと(第二稿)   尚巴志とウニタキ、張三豊に武術を習う。
  19. 刺客の背景(第二稿)   馬天ノロ、刺客の正体を探る。
  20. 龍虎山の天師(第二稿)   尚巴志たち、道教の本山、龍虎山に行く。
  21. 西湖のほとりの幽霊屋敷(第二稿)   尚巴志たち、三姉妹と再会する。
  22. 清ら海、清ら島(第二稿)  三姉妹と張三豊が琉球に来る。
  23. 今帰仁の天使館(第二稿)   旅に出た張三豊たちが帰って来る。
  24. 山北王の祝宴(第二稿)   攀安知、志慶真の長老から今帰仁の歴史を聴く。
  25. 三つの御婚礼(第二稿)   サグルー、尚忠、護佐丸、妻を迎える。
  26. マチルギの御褒美(第二稿)   尚巴志、妻のマチルギにしぼられる。
  27. 廃墟と化した二百年の都(第二稿)   尚巴志、ウニタキと浦添に行く。
  28. 久高島参詣(第二稿)  思紹王、女たちを連れて久高島へ行く。
  29. 丸太引きとハーリー(第二稿)   尚巴志、豊見グスクでハーリーを見る。
  30. 浜辺の酒盛り(第二稿)   尚巴志、ヤマトゥに行くマチルギたちを見送る。
  31. 女たちの船出(第二稿)   マチルギたち、長い船旅を楽しみ博多に着く。
  32. 落雷(第二稿)   尚巴志、雷鳴を聞きながらマジムン退治を思い出す。
  33. 女の闘い(第二稿)   三姉妹の船が来て、メイユーとナツが会う。
  34. 対馬の海(第二稿)   マチルギ、対馬島でイトとユキに会う。
  35. 龍の爪(第二稿)   尚巴志、ウニタキ、懐機、朝鮮旅の計画を練る。
  36. 笛の調べ(第二稿)   久し振りに佐敷グスクから笛の音が流れる。
  37. 初孫誕生(第二稿)   尚忠の長男、尚志達、生まれる。
  38. マチルギの帰還(第二稿)   女たちがヤマトゥから無事に帰国する。
  39. 娘からの贈り物(第二稿)   尚巴志、マチルギから旅の話を聞く。
  40. ササの強敵(第二稿)   馬天ノロ、日代(ティーダシル)の石を探し始める。
  41. 眠りから覚めたガーラダマ(第二稿)   ササ、読谷山で古い勾玉を見つける。
  42. 兄弟弟子(第二稿)   尚巴志、兼グスク按司武当拳の試合をする。
  43. 表舞台に出たサグルー(第二稿)   サグルー、尚巴志の代理を見事に務める。
  44. 中山王の龍舟(第二稿)   ウニタキの新しい隠れ家が完成する。
  45. 佐敷のお祭り(第二稿)   尚巴志の一節切と佐敷ヌルの横笛に大喝采。
  46. 博多の呑碧楼(第二稿)   朝鮮旅に出た尚巴志たち、博多に着く。
  47. 瀬戸内の水軍(第二稿)   尚巴志村上水軍と塩飽水軍の頭領と会う。
  48. 七重の塔と祇園祭り(第二稿)   尚巴志たち、京都に着く。
  49. 幽玄なる天女の舞(第二稿)   尚巴志が一節切を吹くと美女が舞う。
  50. 天空の邂逅(第二稿)   尚巴志たち、七重の塔に登って感激する。
  51. 鞍馬山(第二稿)   尚巴志たち、鞍馬山で武術修行。
  52. 唐人行列(第二稿)   尚巴志、増阿弥の芸に感動する。
  53. 対馬の娘(第二稿)   尚巴志、イトと再会、ユキとミナミに会う。
  54. 無人島とアワビ(第二稿)   尚巴志、昔の顔なじみと再会する。
  55. 富山浦の遊女屋(第二稿)   尚巴志たち、富山浦(釜山)に渡る。
  56. 渋川道鎮と宗讃岐守(第二稿)   尚巴志九州探題対馬守護に会う。
  57. 漢城府(第二稿)   尚巴志たち、朝鮮の都に到着する。
  58. サダンのヘグム(第二稿)   尚巴志たち、ナナの案内で都見物。
  59. 開京の将軍(第二稿)   尚巴志たち、高麗の都に行く。
  60. 李芸とアガシ(第二稿)   尚巴志、李芸と会う。
  61. 英祖の宝刀(第二稿)   佐敷ノロ、神様の声を聞いて宝刀を探す。
  62. 具志頭按司(第二稿)   佐敷ノロ、お祭りでお芝居を上演する。
  63. 対馬慕情(第二稿)   尚巴志、家族を連れて舟旅に出る。
  64. 旧港から来た娘(第二稿)   尚巴志、旧港の施二姐と会う。
  65. 龍天閣(第二稿)  尚巴志、旧港の船を連れて琉球に帰る。
  66. 雲に隠れた初日の出(第二稿)   尚巴志、上間グスクの警固を強化する。
  67. 勝連の呪い(第二稿)   尚巴志の義兄サムが勝連按司になる。
  68. 思紹の旅立ち(第二稿)   思紹、張三豊と一緒に明国に行く。
  69. 座ったままの王様(第二稿)   佐敷大親とジクー禅師、ヤマトゥに行く。
  70. 二人の官生(第二稿)   尚巴志、明国に送る留学生を決める。
  71. ンマムイが行く(第二稿)   兼グスク按司、家族を連れて今帰仁に行く。
  72. ヤンバルの夏(第二稿)   兼グスク按司、家族を連れてヤンバルを巡る。
  73. 奥間の出会い(第二稿)   兼グスク按司、奥間で隠し事を聞いて驚く。
  74. 刺客の襲撃(第二稿)   兼グスク按司、ヤンバルの山中で襲われる。
  75. 三か月の側室(第二稿)   メイユー、尚巴志の側室になる。
  76. 百浦添御殿の唐破風(第二稿)   首里グスク正殿の改築が完成する。
  77. 武当山の奇跡(第二稿)   思紹、武当山で張三豊の凄さを知る。
  78. イハチの縁談(第二稿)   米須按司と玻名グスク按司が東方に寝返る。
  79. 山南王と山北王の同盟(第二稿)   山北王の娘が山南王の三男に嫁いで来る。
  80. ササと御台所様(第二稿)   ササ、伊勢神宮で神様の声を聞く。
  81. 玉依姫(第二稿)   ササ、豊玉姫のお墓で玉依姫の声を聞く。
  82. 伊平屋島と伊是名島(第二稿)   伊平屋島の親戚たちが逃げてくる。
  83. 伊平屋島のグスク(第一稿)   サグルーと尚忠と護佐丸、伊平屋島に行く。
  84. 豊玉姫(第一稿)   ヒューガの師匠、慈恩禅師が琉球に来る。
  85. 五年目の春(第一稿)   尚巴志、龍天閣で今年の計画を練る。
  86. 久高島の大里ヌル(第一稿)   ササ、神様から願い事を頼まれる。
  87. サグルーの長男誕生(第一稿)   兼グスク按司の新しいグスクが完成する。
  88. 与論島(第一稿)   ウニタキ、与論島に行き、与論ヌルと再会する。
  89. ユンヌのお祭り(第一稿)   尚巴志、ササたちと与論島に行く。
  90. 伊是名島攻防戦(第一稿)   伊是名島で中山王と山北王の戦が始まる。
  91. 三王同盟(第一稿)   中山王と山北王の同盟が決まり、山南王も加わる。
  92. ハルが来た(第一稿)   山南王から尚巴志に側室が贈られる。
  93. 鉄炮(第一稿)   三姉妹がアラビアの商品と鉄炮を持って来る。



主要登場人物

 

第一部 目次

目次 第一部

目次

尚巴志伝 第一部 月代の石

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このイラストはは和々様よりお借りしました。

 

  1. 誕生(最終決定稿)   尚巴志、佐敷苗代に生まれる。
  2. 馬天浜(最終決定稿)   サミガー大主とヤマトゥの山伏、クマヌ。
  3. 察度と泰期(最終決定稿)   浦添按司察度、過去を振り返る。
  4. 島添大里グスク(最終決定稿)   島添大里グスク、汪英紫に奪われる。
  5. 佐敷グスク(最終決定稿)   尚巴志の父、佐敷按司になる。
  6. 大グスク炎上(最終決定稿)   大グスク、汪英紫(島添大里按司)に奪われる。
  7. ヤマトゥ酒(最終決定稿)   早田三郎左衛門、馬天浜に来る。
  8. 浮島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎と旅に出る。
  9. 出会い(最終決定稿)   尚巴志、伊波按司の娘と剣術の試合をする。
  10. 今帰仁グスク(最終決定稿)   尚巴志、今帰仁に行く。
  11. 奥間(最終決定稿)   尚巴志、奥間村に滞在する。
  12. 恋の病(最終決定稿)   旅から帰った尚巴志、マチルギを想う。
  13. 伊平屋島(最終決定稿)   尚巴志、祖父の故郷に行く。
  14. ヤマトゥ旅(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥへ旅立つ。
  15. 壱岐島(最終決定稿)   尚巴志、壱岐島で察度の噂を聞く。
  16. 博多(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥの都を見て驚く。
  17. 対馬島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎の故郷に滞在する。
  18. 富山浦(最終決定稿)   尚巴志、高麗に行く。
  19. マチルギ(最終決定稿)   尚巴志の恋敵、ウニタキ現れる。
  20. 兵法(最終決定稿)   尚巴志、対馬で修行に励む。
  21. 再会(最終決定稿)   帰って来た尚巴志、マチルギと再会。
  22. ウニタキ(最終決定稿)   尚巴志、ウニタキと一緒に勝連グスクに行く。
  23. 名護の夜(最終決定稿)   尚巴志、マチルギと今帰仁に行く。
  24. 山田按司(最終決定稿)   尚巴志、マチルギの叔父、山田按司と会う。
  25. お輿入れ(最終決定稿)   マチルギ、尚巴志に嫁ぐ。
  26. 高麗の対馬奇襲(最終決定稿)   早田左衛門太郎の本拠地、高麗に攻められる。
  27. 豊見グスク(最終決定稿)   シタルー(汪応祖)、豊見グスクを築く。
  28. サスカサ(最終決定稿)   尚巴志とマチルギ、馬天ノロと旅に出る。
  29. 長男誕生(最終決定稿)   マチルギと馬天ノロ、神様になる。
  30. 出陣命令(最終決定稿)   察度、各按司に今帰仁征伐を命じる。
  31. 今帰仁合戦(最終決定稿)   中山王、山北王の今帰仁グスクを攻める。
  32. 次男誕生(最終決定稿)  尚巴志の次男(尚忠)と山田按司の次男(護佐丸)生まれる。
  33. 十年の計(最終決定稿)   尚巴志、佐敷按司(父)、鮫皮大主(祖父)と密談する。
  34. 東行法師(最終決定稿)   父が隠居して、尚巴志、佐敷按司となる。
  35. 首里天閣(最終決定稿)   察度、浦添按司を武寧に譲って隠居する。
  36. 浜川大親(最終決定稿)   ウニタキは妻子を殺され、シタルーは明に行く。
  37. 旅の収穫(最終決定稿)   奥間のサタルーと対馬のユキ。
  38. 久高島(最終決定稿) 尚巴志はマチルギに怒られ、ウニタキはチルーといい感じ。
  39. 運玉森(最終決定稿)   三好日向、尚巴志のために山賊になる。
  40. 山南王(最終決定稿)   承察度が亡くなり、若按司が山南王になる。
  41. 傾城(最終決定稿)   山南王、中山王の怒りを買って、汪英紫に攻められる。
  42. 予想外の使者(最終決定稿)   尚巴志夫婦、弟のマサンルー夫婦と旅をする。
  43. 玉グスクのお姫様(最終決定稿)   尚巴志、玉グスクと同盟を結ぶ。
  44. 察度の死(最終決定稿)   山北王のミンと奥間の長老も亡くなる。
  45. 馬天ヌル(最終決定稿)   馬天ノロ、御嶽巡りの旅に出る。
  46. 夢の島(最終決定稿)   早田左衛門太郎、慶良間の夢の島に行く。
  47. 佐敷ヌル(最終決定稿)  尚巴志の妹、マシューの気持ちとマカマドゥの決心。
  48. ハーリー(最終決定稿)   尚巴志夫婦と佐敷ノロ、ハーリーを見物。
  49. 宇座の御隠居(最終決定稿)   宇座の泰期が亡くなり、尚巴志夫婦は悲しむ。
  50. マジムン屋敷の美女(最終決定稿)  尚巴志、島添大里グスクに側室を入れる。
  51. シンゴとの再会(最終決定稿)   早田左衛門太郎、朝鮮に投降する。
  52. 不思議な唐人(最終決定稿)   尚巴志、懐機と出会う。
  53. 汪英紫、死す(最終決定稿)   懐機、旅から帰り、武術を披露する。
  54. 家督争い(最終決定稿)   達勃期と汪応祖が山南王の家督を争う。
  55. 大グスク攻め(最終決定稿)   尚巴志、大グスクを攻め落とす。
  56. 作戦開始(最終決定稿)   尚巴志、大グスクノロと再会する。
  57. シタルーの非情(最終決定稿)   達勃期、弟の汪応祖に敗れる。
  58. 奇襲攻撃(最終決定稿)   尚巴志、島添大里グスクを攻め落とす。
  59. 島添大里按司(最終決定稿)   尚巴志、島添大里按司になる。
  60. お祭り騒ぎ(最終決定稿)   尚巴志、城下の者たちと戦勝祝い。
  61. 同盟(最終決定稿)   尚巴志、山南王と同盟する。
  62. マレビト神(最終決定稿)   外間ノロと佐敷ノロにマレビト神が現れる。
  63. サミガー大主の死(最終決定稿)   神の声を聞いたウニタキ。
  64. シタルーの娘(最終決定稿)   山南王のお姫様の悩みと青い海
  65. 上間按司(最終決定稿)   明国の使者が二十年振りにやって来る。
  66. 奥間のサタルー(最終決定稿)   尚巴志、奥間ノロに魅了される。
  67. 望月ヌル(最終決定稿)   謎の爺さん、望月党を語る。
  68. 冊封使(最終決定稿)   首里の宮殿の儀式で、武寧と汪応祖、正式に王になる。
  69. ウニョンの母(最終決定稿)   ウニタキ、亡くなった妻の秘密を知る。 
  70. 久米村(最終決定稿)   尚巴志とウニタキ、懐機に呼ばれて久米村に行く。
  71. 勝連無残(最終決定稿)   勝連按司が奇病に倒れる。 
  72. 伊波按司(最終決定稿)   大きな台風が来て各地で被害が出る。
  73. ナーサの望み(最終決定稿)   ウニタキ、ナーサを味方に引き入れる。
  74. タブチの野望とシタルーの誤算(最終決定稿)  八重瀬按司、中山王と同盟する。
  75. 首里グスク完成(最終決定稿)   中山王と山南王の決戦が迫る。
  76. 首里のマジムン(最終決定稿)   尚巴志、首里グスクを奪い取る。 
  77. 浦添グスク炎上(最終決定稿)   浦添グスクは焼け落ち、亜蘭匏は消える。
  78. 南風原決戦(最終決定稿)   尚巴志、中山軍を壊滅させる。
  79. 包囲陣崩壊(最終決定稿)   達勃期は出直し、汪応祖は首里を攻める。
  80. 快進撃(最終決定稿)   尚巴志、中グスク、越来グスクを攻め落とす。
  81. 勝連グスクに雪が降る(最終決定稿)   尚巴志、勝連グスクを落とす。

 

尚巴志伝 第二部 目次

 

・尚巴志伝の年表

・第一部の主要登場人物

・尚巴志の略歴

・尚巴志の祖父、サミガー大主の略歴

・尚巴志の父、思紹の略歴

・馬天ヌル(馬天ノロ)の略歴

・中山王、察度の略歴

・中山王、武寧の略歴

・汪英紫の略歴

・山南王、汪応祖の略歴

・泰期の略歴

・クマヌの略歴

・三好日向の略歴

・早田左衛門太郎の略歴

・ウニタキの略歴

・懐機の略歴

・倭寇年表

第二部 主要登場人物

主要登場人物

サハチ       1372-1439  尚巴志。島添大里按司
マチルギ      1373-    尚巴志の妻。伊波按司の娘。
サグルー      1390-    尚巴志の長男。
ジルムイ      1391-    尚巴志次男。尚忠。
ミチ        1393-    尚巴志の長女。島添大里ヌル、サスカサ。
イハチ       1394-    尚巴志の三男。
チューマチ     1396-    尚巴志の四男。
思紹        1354-1421 中山王。尚巴志の父。
佐敷ヌル      1374-    尚巴志の妹、マシュー。シンゴと結ばれ娘を産む。
佐敷大親      1376-    尚巴志の弟、マサンルー。妻は奥間大親の娘。
平田大親      1378-    尚巴志の弟、ヤグルー。妻は玉グスク按司の娘。
与那原大親     1383-    尚巴志の弟、マタルー。妻はタブチの娘。
クルー       1388-    尚巴志の弟、妻は山南王シタルーの娘。
馬天ヌル      1357-    思紹の妹、尚巴志の叔母。
ササ        1391-    馬天若ヌル。父はヒューガ。母は馬天ヌル。
ヒューガ      1355-1470 三好日向。中山の水軍大将。
苗代大親      1360-    思紹の弟。サムレー総隊長。武術師範。
マカマドゥ     1392-    苗代大親の三女。マウシ(護佐丸)の妻。
クグルー      1386-    泰期の三男。苗代大親の娘婿。
サミガー大主    1356-    思紹の弟、ウミンター。
シビー       1395-    尚巴志の従妹。メイユーの弟子になる。
ウニタキ      1372-1433 三星大親。「三星党」の頭。
チルー       1368-    ウニタキの妻。尚巴志の母の妹。
イーカチ      1373-    「三星党」の副頭。絵画き。
ナツ        1381-    ウニタキの配下から尚巴志の側室になる。
シズ        1389-    ウニタキの配下。ササと一緒にヤマトゥに行く。
ヤールー      1385-    ウニタキの配下。サグルーを守っている。
ファイチ      1375-1453 懐機。明国の道士。尚巴志の客将。
サスカサ      1354-    ミチにサスカサを譲り、運玉森ヌルになる。
マウシ       1391-1458 真牛。山田按司次男尚巴志の甥。護佐丸。
マカトゥダル    1392-    護佐丸の妹。サグルーの妻。
マサルー      1364-    山田按司の家臣。
シラー       1391-    マサルーの次男
クマヌ       1346-    中グスク按司。中山の重臣。
美里之子      1362-    越来按司。中山の重臣。思紹の義弟。
當山之子      1365-    美里之子の弟。浦添按司になる。
クサンルー     1387-    當山之子の長男。浦添按司
カナ        1391-    當山之子の長女。浦添ヌル。
サム        1372-    後見役から勝連按司になる。伊波按司の四男。
ユミ        1392-    サムの長女。ジルムイ(尚忠)の妻。
ナーサ       1352-    首里の遊女屋「宇久真」の女将。
マユミ       1389-    「宇久真」の遊女。
宇座按司      1355-    泰期の次男。父の跡を継いで明国への使者となる。
シタルー      1362-1413  山南王。汪応祖
タルムイ(太郎思) 1385-1429  豊見グスク按司汪応祖の長男。妻は尚巴志の妹。
タブチ       1360-1414  八重瀬按司。シタルーの兄。
サイムンタルー   1361-1429  早田左衛門太郎。対馬島倭寇の頭領。
早田六郎次郎    1387-    左衛門太郎の跡継ぎ。妻はユキ。
ユキ        1388-    六郎次郎の妻。尚巴志の娘。母はイト。
イト        1372-    対馬島の女船長。ユキの母。
シンゴ       1372-    早田新五郎。左衛門太郎の弟。
早田五郎左衛門   1349-    左衛門太郎の叔父。朝鮮国の富山浦に住む商人。
早田丈太郎     1371-    五郎左衛門の長男。漢城府の津島屋の主人。
浦瀬小次郎     1375-    五郎左衛門の娘婿。
早田ナナ      1388-    早田次郎左衛門の娘。
サングルミー    1371-    与座大親。中山の進貢船の正使。
メイファン     1379-    張美帆。明国の海賊の娘。
メイリン      1374-    張美玲。メイファンの姉。
スーヨン      1387-    張思永。メイリンの娘。
メイユー      1376-    張美玉。メイファンの姉。尚巴志の側室になる。
ラオファン     1338-    黄敬。三姉妹の武術の師匠。
リェンリー     1376-    黄怜麗。ラオファンの娘。
ジォンダオウェン  1364-    鄭道文。三姉妹の配下の海賊。
ユンロン      1387-    鄭芸蓉。ジォンダオウェンの娘。 
リュウジャジン   1362-    劉嘉景。三姉妹の配下の海賊。
リィェンファ    1377-    楊蓮華。富楽院の妓楼『桃香滝』の女将。
ヂュヤンジン    1375-    朱洋敬。懐機の友。宮廷に仕える役人。
永楽帝       1360-1424  明国の皇帝。
リュウイェンウェイ 1389-    劉媛維。富楽院の最高級妓楼『酔夢楼』の妓女。
ファイホン     1379-    懐虹。懐機の妹。
ヂャンサンフォン  1247-    張三豊。武当山の道士で、武当拳の創始者。
シンシン      1390-    范杏杏。張三豊の弟子。
フカマヌル     1372-    外間ノロ。久高島のノロ。尚巴志の腹違いの妹。
奥間大親      1357-    ヤキチ。奥間から来た尚巴志の護衛役。中山の重臣。
平安名大親     1348-    勝連の重臣。ウニタキの叔父。
勝連ヌル      1369-    ウニタキの姉。
伊波按司      1363-    マチルギの兄。
山田按司      1365-    マチルギの兄。
攀安知       1376-1416  山北王。
涌川大主      1377-    攀安知の弟。
勢理客ヌル     1356-    アオリヤエ。攀安知の叔母。
アタグ       1355-    山北王に仕えるヤマトゥの山伏。
本部のテーラー   1376-1416  攀安知の幼馴染み。サムレー大将。
兼グスク按司    1378-    ンマムイ。武寧の次男。妻は攀安知の妹。
マハニ       1379-    兼グスク按司の妻。山北王、攀安知の妹。
ヤタルー師匠    1359-    阿蘇弥太郎。ンマムイの武術の師匠。
慈恩禅師      1350-1448  禅僧であり武芸者。ヒューガの師匠。
飯篠修理亮     1387-1488 武芸者。長威斎。
二階堂右馬助    1390-    慈恩の弟子。
一文字屋孫三郎   1361-    次郎左衛門の弟。坊津の一文字屋主人。
みお        1394-    一文字屋孫三郎の三女。
村上又太郎     1386-    村上水軍の頭領の長男。上関を守っている。
村上あや      1392-    村上又太郎の妹。
塩飽三郎入道    1358-    塩飽水軍の頭領。
一文字屋次郎左衛門 1355-    京都の一文字屋の主人。
まり        1394-    一文字屋次郎左衛門の三女。
高橋殿       1376-    足利義満の側室。道阿弥の娘。
対御方       1379-    足利義満の側室。高橋殿に仕えている。
平方蓉       1383-    陳外郎の娘。高橋殿に仕えている。
足利義持      1386-1428  室町幕府第四代将軍。
日野栄子      1390-1431  足利義持の奥方。
勘解由小路殿    1350-1410  斯波道将。将軍様の補佐役。
斯波左兵衛督    1371-1418  勘解由小路殿の嫡男。将軍様の補佐役。
中条兵庫助     1359-    将軍様の武術指南役。慈恩禅師の弟子。
中条奈美      1380-    中条兵庫助の娘。夫が戦死し、高橋殿に仕える。
外郎       1360-    陳宗奇。薬師。外交使節の接待役。
魏天        1350-    将軍様に仕える明国の通事。
栄泉坊       1389-    東福寺を追い出された画僧。
増阿弥       1368-    奈良の田楽新座の太夫。
一徹平郎      1355-    北野天満宮の宮大工。
源五郎       1359-    腕はいいが変わり者の瓦職人。
新助        1379-    龍ばかり彫っている等持寺の大工。
渋川道鎮      1372-1446  九州探題。勘解由小路殿の娘婿。
宗讃岐守貞茂    1364-1418  対馬守護。
平道全       1376-    宗貞茂の家臣。
宗金        1380-    博多妙楽寺の僧。
李芸        1373-1445  倭寇にさらわれた母親を探している朝鮮の役人。
シーハイイェン   1390-    施海燕。旧港宣慰司、施進卿の次女。施二姐。
ツァイシーヤオ   1390-    蔡希瑶。シーハイイェンの親友。
シュミンジュン   1342-    徐鳴軍。シーハイイェンの師匠。張三豊の弟子。
ワカサ       1364-    旧港の通事。若狭出身の倭寇
奥間の長老     1348-    ヤザイム。奥間大主。
奥間ヌル      1374-    奥間村のノロ。尚巴志の娘ミワを産む。
米須按司      1357-    武寧の弟。若按司の妻はタブチの娘。
玻名グスク按司   1358-    タブチの義兄。
イサマ       1375-    伊平屋島の田名大主の長男。田名親方の兄。
我喜屋大主     1359-    田名大主の弟。イサマの叔父。
サミガー親方    1361-    与論島で鮫皮を作っている親方。
麦屋ヌル      1373-    先代の与論按司の娘。ウニタキの従妹。
ハル        1395-    山南王のシタルーから尚巴志に贈られた側室。
クムン       1373-    島尻大里から来た石屋。

スサノオ            ヤマト国の大王。牛頭天王
豊玉姫             スサノオの妻。
玉依姫             スサノオ豊玉姫の娘。ヒミコ。アマテラス。
アマン姫            玉依姫の妹。アマミキヨ
ユンヌ姫            アマン姫の娘。

 

2-92.ハルが来た(第一稿)

尚巴志伝 第二部

 六月になってウニタキが帰って来た。
「麦屋(いんじゃ)ヌルは馬天(ばてぃん)ヌルに預けたけど、会って来たか」とサハチが聞くと、ウニタキはうなづいた。
「慈恩禅師(じおんぜんじ)殿がヤンバルから連れて来たしゃべれない娘と一緒にいたよ。一緒にキーヌウチにあるウタキを拝んでいるそうだ」
「なぜか、麦屋ヌルになついてしまったようだな。もしかしたら、母親に似ているのかもしれんな」
「名前もわからないので、カミーと呼ばれている」
「馬天ヌルが名付けたのか」
「そうらしい。耳も聞こえないようだからカミーと呼ばれてもわからないはずなんだが、そう呼ぶと笑うそうだ。本当にカミーという名前なのかもしれないな。ところで、三王同盟になったんだってな。今帰仁(なきじん)で聞いて驚いたよ」
「なに、今帰仁に行ったのか」
「ついでだから、ちょっと寄ってみたんだ。そしたら城下はお祭り騒ぎだった。お前の親父から事の成り行きを聞いたが、面白い展開になったもんだな」
「忙しくなるぞ。特にお前はな」
「ああ。王様(うしゅがなしめー)が『三星党(みちぶしとー)』のためにキラマ(慶良間)の若い者を百人くれると言った。その百人を使って、ヤンバルをバラバラにしなくてはならん。キンタ(奥間大親の息子)にも協力してもらって、拠点をいくつも作らなければならんな」
今帰仁と名護(なぐ)にある『よろずや』は中山王とは関係ないという事になっているが、どことつながりがあるんだ?」とサハチは聞いた。
「『よろずや』は先代の山南王(さんなんおう)(汪英紫)が情報を集めるために作ったが、今は山南王とのつながりはなく、商売に専念しているという事になっているんだよ」
「『よろずや』は今、いくつあるんだ?」
「八店だ。『まるずや』は五店ある」
「今度、今帰仁に作るのは『まるずや』で、『よろずや』とは交流は持たないのか」
「商人同士の付き合い程度だな。山北王(さんほくおう)を倒すまでは、別々に行動した方がいいだろう。もし、同盟が壊れた時、『まるずや』は引き上げなくてはならなくなるが、『よろずや』はそのままいられるからな」
「成程、それもそうだな。先の事はどうなるかわからんからな」
「話は変わるが、シタルー(山南王)は首里(すい)に使者を送って同盟しようと言って来たのか」
「いや、本人がここに来たのさ。二人の供を連れただけでな」
 ウニタキは楽しそうに笑った。
「お前はなめられているんだよ」
「そうかもしれんな。でも、昔のシタルーを見たような気がして、何だか嬉しくなったんだよ。物見櫓(ものみやぐら)の上で話したんだ。帰りに石垣を見ながら、直すべき所が何カ所かある。石屋を送るから直した方がいいと言っていた」
「シタルーが石屋を送ると言ったのか」
「ああ。首里には側室を贈ったので、内情はわかるが、ここの事はわからない。石屋を城下に置いて、俺の動きを探るつもりなんだろう。しかし、石屋が来るのはありがたい。そいつを通じて、石屋の頭領と会えるかもしれない。石屋は味方に付けなければならないからな」
「石屋だって商売だ。シタルーに付いているより中山王に付いた方が稼げるだろう。焦らなくても向こうから近づいて来るさ」
「そうなればいいがな。今回は長い間、御苦労だった。早く、帰った方がいいぞ。チルーが首を長くして待っているだろう」
「チルーは対馬でアワビ捕りをしたと言っていた。俺は与論島(ゆんぬじま)でカマンタ(エイ)捕りをしたって自慢してやるよ」
「久高島にでも行って、フカマヌルも一緒に海に潜ってくればいい」
「それもいいかもしれんな」とウニタキは笑うと帰って行った。
 六月十日、正月に明国に行った進貢船(しんくんしん)が無事に帰って来た。正使を務めた程復(チェンフ)は、永楽帝(えいらくてい)からたっぷりとお土産をもらって、故郷に帰って行ったと副使の具志頭大親(ぐしかみうふや)は言った。そして、久米村(くみむら)の王茂(ワンマオ)が予定通り国相(こくしょう)に任命されたという。
 王茂を国相に任命するように頼んだのはファイチ(懐機)だった。以前、アランポーが国相に任じられていたが、アランポーの死後、久米村には国相がいなかった。明国から使者が来た場合、国相がいないと久米村の言い分が通らず、使者の思い通りにされてしまう。それでは具合が悪いので、王茂を国相に任じるように頼んだのだった。国相の地位は使者たちよりも高く、琉球に来た使者たちは国相の言い分を聞かないわけにはいかなかった。王茂を国相に任じると共に、長年、琉球のために尽くしてくれた程復も名誉職として国相に任じられていた。
 マウシは興奮した顔で帰って来て、「明国は凄い」と何度も言っていた。外間親方(ふかまうやかた)と一緒に応天府(おうてんふ)(南京)まで行き、明国の都の素晴らしさを堪能してきたという。浦添(うらしい)の若按司のクサンルーと垣花按司(かきぬはなあじ)の次男のグーチも従者として応天府まで行き、非番の時は三人で都を歩き回っていたらしい。
 いつものように会同館(かいどうかん)で帰国祝いの宴があり、遅くまで酒を飲み、翌日の正午(ひる)頃、首里グスクに顔を出すと、島添大里(しましいうふざとぅ)グスクに山南王から側室が贈られて来たとマチルギから言われた。
「シタルーが俺に側室をか」とサハチは驚いて、マチルギに聞き返した。
「ついさっき、ナツから知らせが来たのよ。どうしたらいいのかわからないので、島添大里に来てくれって」
「石屋を送るというのは聞いているが、側室の話などシタルーから聞いていないぞ」
「贈られたものを送り返すわけにはいかないでしょ」とマチルギは言い、サハチとマチルギは龍天閣(りゅうてぃんかく)にいる思紹(ししょう)を訪ねた。
「シタルーもやるな」と思紹は笑った。
「島添大里グスクの内情を探るために側室を贈ったのだろう。あそこには御内原(うーちばる)がないから、何でも筒抜けになるぞ」
「まいったなあ」とサハチは頭を掻いた。
「御内原を建てるほどの土地はないし、間者(かんじゃ)が一緒にいると思ったら、のんびりくつろぐ事もできなくなる」
「御内原は無理でも小さなお屋敷なら建てられるんじゃない。そこに侍女(じじょ)と一緒に入れておけば?」とマチルギが言った。
「小さな屋敷か‥‥‥それもいいが、あそこに龍天閣みたいなのを建てるか。俺がそこで暮らせばいい」
 思紹が笑って、「それもいいが、一の曲輪(くるわ)内に建てるのは危険だぞ」と言った。
「普請(ふしん)中に大工や職人が一の曲輪内に出入りする事になる。敵の間者が紛れ込んで来るじゃろう」
「そうか。そうなると東曲輪(あがりくるわ)に建てるしかないな」
「完成するまで一年近く掛かるぞ」
「いっその事、隠居して、島添大里グスクはサグルーに譲るか」とサハチが言うと、
「馬鹿な事、言ってないでよ」とマチルギが睨んだ。
「わしが隠居する。お前がここに来ればいい」と思紹が言った。
「二人とも何を言っているんですか、まったく」とマチルギは二人を交互に睨んでいた。
 サハチはマチルギと一緒に島添大里グスクに向かった。
 シタルーから贈られた側室と二人の侍女は佐敷ヌルの屋敷にいるとナツは言った。
「お屋敷で待ってもらっていたのですが、東曲輪で女子(いなぐ)サムレーたちが武当拳(ウーダンけん)のお稽古をするのを見て、見に行ったまま、まだ帰って来ないのです」
「ほう。武芸に興味があるのか」
 サハチとマチルギは東曲輪に向かった。武当拳の稽古はしていなかった。佐敷ヌルの屋敷に入ると側室のハルは女子サムレーたちと楽しそうに話をしていた。
 サハチとマチルギが来たので、女子サムレーたちは急に静かになった。佐敷ヌルがサハチとマチルギの事をハルに教えた。
 ハルは二人に頭を下げて、「島尻大里(しまじりうふざとぅ)から参りましたハルと申します。よろしくお願いいたします」と言った。
「本当は島尻大里じゃなくて、粟島(あわじま)(粟国島)から来たの」と付け加えた。
 サハチとマチルギはハルと侍女を連れて、一の曲輪の屋敷に戻り、ハルから話を聞いた。
 ハルは粟島で女子サムレーになるための修行を積んでいた。それが、突然、島添大里按司の側室になれと言われ、侍女になる事に決まったタキとマサと一緒に島を出て、島尻大里グスクに行って山南王と会い、五日間、行儀作法などを仕込まれただけで、ここに送られて来たという。
「あなた、側室が何だかわかっているの?」とマチルギがハルに聞いた。
按司様(あじぬめー)のお嫁さんになる事だって言われました。でも、按司様には正式な奥さんがいるので、二番目の奥さんだと言われました」
「二番目じゃないわよ。あなたは四番目よ」
「えっ」とハルは目を丸くしてサハチを見ると、「按司様は三人も奥さんがいるのですか」と聞いた。
「山南王はもっといっぱいいるでしょ」とマチルギが言った。
 ハルは首を傾げて、「よく知りません」と言った。
「島尻大里グスクにも女子サムレーがいるの?」とマチルギは聞いた。
 ハルはまた首を傾げ、「見た事ありません」と答えた。
「あたし、ここに来て初めて女子のサムレーを見ました。あたしもあんなサムレーになりたいと思いました」
「だって、あなた、女子サムレーになるために粟島で修行していたんでしょ」
「そうなんですけど、あたしにはよくわかりません。時々、アミーさんに呼ばれて島を出て行く人はいます。でも、どこに行ったのかわかりません」
「アミーがお前の師匠だったのか」とサハチが聞いた。
「そうです。あたしが十三の時、アミーさんが来て、あたしを島に連れて行ったんです。按司様はアミーさんを知っているのですか」
「ああ、昔、会った事がある」
「そうですか。アミーさんは強いですよ。アミーさんのお父さんは若い頃の山南王の護衛を務めていたと言っていました。戦(いくさ)で怪我をして今は隠居しているそうです」
 サハチはシタルーが若い頃に連れていた二人のサムレーを思い出していた。あのサムレーのどちらかがアミーの父親だったのだろうか。
「侍女の二人も一緒に修行していたのか」とサハチはハルに聞いた。
「そうです。タキ姉(ねえ)もマサ姉も一緒に島に行って修行を積みました」
 サハチが二人の侍女を見ると二人とも俯いていた。ハルが何でもペラペラとしゃべるので困っているようだった。
「粟島には何人の修行者がいるの?」とマチルギが聞いた。
「いっぱいいますよ。男の人は三百はいます。女子は三十人くらいです。前はもっといたんですけど、去年、二百人が島から出て行きました。阿波根(あーぐん)グスクと保栄茂(ぶいむ)グスクに入ったそうです」
「お前、そんな事までしゃべってもいいのか」とサハチはハルに聞いた。
「えっ」とハルは驚いた顔をして侍女を見た。
 二人ともちょっと怖い顔をしてハルを見たが何も言わなかった。
「大丈夫ですよ」とハルは陽気に笑った。
「山南王と中山王は同盟を結んだんでしょ。二人の王様が仲よくするために、あたしはここにお嫁に来たのです。よろしくお願いいたします」
 あとの事をナツに任せて、サハチとマチルギは屋敷を出ると、東曲輪の物見櫓に登った。
「シタルーはどうしてあんな娘を入れたのだろう」とサハチは海を眺めながらマチルギに聞いた。
「油断させるためじゃないかしら。あの娘(こ)、アミーに仕込まれた刺客(しかく)かもしれないわよ」
「シタルーは俺を殺そうとしているというのか」
「あなたがいなくなれば、中山王を倒すのも楽になるって考えたんじゃないかしら」
「冗談じゃないぜ。刺客が三人もグスク内にいたんじゃ、安心して眠る事もできないじゃないか」
「しばらく様子を見て、眠れないようだったら首里のお屋敷で休めばいいわ」
「まったく、シタルーも余計な事をしやがって‥‥‥」
 一応、佐敷ヌルによって婚礼の儀式を行ない、ハルは側室として迎えられ、二階の一部屋が与えられた。儀式が終わるとマチルギは首里に帰って行った。
 儀式のあと、歓迎の宴が開かれ、サグルー夫婦とイハチ夫婦、ユリとシビー、主立った重臣たち、侍女と女子サムレーも呼んで、祝い酒を飲み、子供たちの笛を聞いたりして楽しんだ。
 サグルーの妻、マカトゥダルは六日前に、赤ん坊のサハチを連れて戻って来ていた。孫のサハチは女子サムレーたちの人気者になっていた。
 ユリは与那原(ゆなばる)の修行から戻ってからは佐敷の屋敷に帰る事はなく、佐敷ヌルの屋敷に住んでいた。娘のマキクが帰りたくないと駄々をこね、佐敷ヌルがここで暮らせばいいわと言い、ユリも佐敷ヌルの言葉に甘える事にした。お祭りの準備で佐敷ヌルと行動を共にしているので、一緒にいた方が何かと便利だった。
 シビーはメイユーの弟子になってから、メイユーと一緒にお祭りの準備を手伝うようになり、音楽やお芝居に興味を持つようになっていた。勿論、武芸の稽古には励んでいるが、横笛や踊りの稽古も始めていた。
 ハルは子供が大勢いる事に驚き、子供たちが吹く笛に驚いた。さらに、ユリの笛に驚き、佐敷ヌルが笛を吹く事にも驚き、サハチの一節切(ひとよぎり)には感動して涙を流していた。
 ヤマトゥで増阿弥(ぞうあみ)の一節切を聴いてから、サハチの一節切はさらに上達し、聴く者、皆を感動させた。ハルの侍女、タキとマサの二人も感動して目に涙を溜めていた。
「凄いわ」とハルが目を輝かせて言った。
「笛の音を聴いて泣いたの、あたし、初めてよ。どうしてなの?」
按司様の笛にはみんな、感動するのよ」とナツが言った。
「ナツ様も按司様の笛に感動して、側室になったのですか」
「えっ」とナツは言って、昔を思い出した。
 今まで気づかなかったが、ナツが佐敷グスクに通って剣術の稽古をしていた頃、サハチは笛を吹き始め、だんだんとうまくなっていった。サハチの妹のマカマドゥと一緒に本曲輪から流れてくる笛の音を東曲輪で聴いていたのを思い出していた。
「そうかもしれないわね。あの頃は一節切じゃなくて、横笛だったけど感動したんだわね、きっと」
「あたし、いい所にお嫁に来たのね。あたし、幼い頃に両親を亡くして、座波(ざーわ)ヌル様のお世話になっていました。若ヌル様には子供がいて、時々偉そうなおサムレー様が訪ねていらっしゃいました。あとになって知ったのですけど、そのおサムレー様は島尻大里の王様でした。王様はあたしを島に送って剣術の修行させてくれました。そして、お嫁にも出してくれました。あたしがお嫁に行くなんて、まるで、夢のようなお話です。しかも、こんな立派なグスクに住んでいらっしゃる按司様のもとへお嫁に来るなんて、あたし、とても幸せです」
 ハルは祝い酒を飲みながら、自分の過去の事を話し、ついには酔い潰れてしまった。侍女に聞いたら酒を飲んだのは初めてだという。
 シタルーが送った刺客かもしれないと思いながらも、憎めない娘だとサハチは思っていた。
 次の日、サハチが起きた時、ハルはナツに連れられてグスク内を見て歩き、今は佐敷ヌルの屋敷にいるという。
 酔い潰れた振りをしたハルが、夜中に襲って来るかもしれないと思うとサハチはなかなか寝付けず、ちょっとした物音にも目が覚めて、ゆっくり休む事もできなかった。
「あそこが気に入ったみたいね」とナツは笑った。
 サハチはあくびをしながら、「ハルは朝までぐっすり眠っていたのか」と聞いた。
「眠っていましたよ。二日酔いで起きられないと思ったけど、ちゃんと起きて、挨拶に来ました。素直で可愛い娘ですよ」
「侍女たちも怪しい動きはなかったんだな?」
「大丈夫ですよ。侍女のお屋敷に入ってから朝まで出て来ませんでした。女子サムレーがちゃんと夜中も見張っています」
「そうだな。気にしすぎたようだ」
 ハルは朝食の時、サハチに挨拶をして、一緒に食事を取ったが、また佐敷ヌルの屋敷に行った。
「好き勝手にさせていいのか」とサハチはナツに聞いた。
「まず、この環境に慣れてもらおうと思っているんですよ。みんなと仲よくなれば、裏切る事はできなくなるでしょ。あの娘、ユリさんから笛を習っているんですよ。シビーとチミー(イハチの妻)と同い年なんです。三人で仲よくやっていますよ」
「そうか、シビーとチミーと同い年か。そんな若い娘を側室に迎えるとは思わなかったよ」
「先の事を考えたら子供は多い方がいいと奥方様(うなじゃら)がおっしゃっていました。南部が安定しているのも、按司様の妹様方がお嫁に行ったからだと言っておりました。琉球を統一するためには按司様の娘様方を中部や北部に嫁がせなくてはならないと言っておりました」
「マチルギがそんな事を言っていたのか」
 マチルギは男の子は七人も生んだが、女の子は四人だった。長女はサスカサになり、次女はウニタキの長男と婚約している。お嫁に出せる娘は二人しかいなかった。
「あなたも女の子を産みなさいって言われました」とナツは言って、嬉しそうな顔をしてサハチを見た。
「マチルギの命令なら従わなくてはならんな」とサハチは笑った。
 その夜、ハルがサハチの部屋にやって来て、「昨夜は酔ってしまって申しわけありませんでした」と謝った。
「お酒がおいしくて、つい飲み過ぎてしまいました」
「初めて飲んだのか」とサハチが聞くと、ハルは驚いたような顔をして、「内緒ですよ。実は島でも飲んでいました。お酒が好きなお姉さんがいて、師範たちの所からちょっといただいて飲んでいました。でも、あんなおいしいお酒ではありませんでした」と言った。
「師範の酒を盗み飲みしていたのか」
 サハチはハルの顔を見て、思わず笑っていた。
「侍女のタキに怒られました。お床入りの晩に酔っ払うなんて情けないと言われました。今晩、よろしくお願いします」
 サハチはハルの部屋に行って酒の用意をさせ、床入りの前に、ハルと一緒に酒を飲みながら聞きたい事を聞いた。
「はっきりと聞くが、お前は刺客なのか」
「刺客? 刺客って何ですか」とハルは聞いた。
「俺を殺すためにここに来たのか」
「えっ」とハルは驚き、「どうして、按司様を殺すのですか」と聞いた。
「山南王は俺の命を狙っているからな」
「どうしてですか。同盟を結んだんでしょ」
「同盟というのは、先に進むための手段なんだよ」
按司様も島尻大里の王様の命を狙っているのですか」
「いや、狙ってはいないよ」
「そうなんですか」
「お前は俺の命を狙っていないようだが、侍女はどうだ?」
「わかりません。でも、あの二人が按司様の命を狙ったら、あたしが倒します」
「なに、お前が倒す?」
「あたし、あの二人よりも強いのです」
「本当なのか」
「本当です。ナツ様の強さも、奥方様の強さも、佐敷ヌル様の強さもわかりました。勿論、按司様の強さもわかっています」
「ほう、ナツやマチルギ、佐敷ヌルの強さがわかるのか」
 サハチはハルを見直していた。戦いもせずに相手の強さがわかるというのは、ハルもかなり強いという事だった。
「隊長のカナビーさん、リナーさん、カリーさんも強いです。あの島ではあたしより強い女子は師匠のアミーさんだけでした。でも、ここにはあたしより強い人がいっぱいいます。こんな凄い所に来られて幸せです」
「お前は面白い女だな」とサハチは言った。
「それ、褒め言葉ですか」
「ああ、褒め言葉だ」
「嬉しい」と言って笑った笑顔は可愛かった。
 サハチはハルを抱いた。
 ハルが来てから三日後、石屋がやって来た。クムンと名乗った親方(うやかた)は七人の職人を連れていた。サハチが思っていたよりも若く、サハチと同年配に見えた。
 サハチは用意して置いた屋敷に案内して、石屋の事をクムンから聞いた。
「親方、そなたが島添大里グスクの石垣を築いたのですか」とサハチが聞くと、クムンは首を振り、「あの頃、わしはまだ子供でした。叔父が築いたのでございます」と言った。
「そうか。すると、そなたの叔父は豊見(とぅゆみ)グスクも築いたのだな」
「さようでございます」
首里グスクもか」
「さようでございます」
「そなたの叔父が色々とやっているようだが、そなたの父親は何をしておったんだ?」
「わしの親父は五代目の頭領でしたが、親父が亡くなった時、わしは二十二歳だったので、頭領になるのは若すぎると言われ、叔父に頭領の座を奪われてしまったのでございます。親父は中山王に仕え、叔父は山南王に仕えておりました。首里グスクを築く時、叔父が中心になって石垣を築き、親父に仕えていた職人たちもほとんど、叔父に取られてしまいました。台風で石垣が壊れましたが、それもわしのせいにされ、さらに職人たちがわしのもとから去って行きました。先代の中山王が亡くなった時、わしは数人の職人を連れて、叔父のもとに行き、頭を下げて仲間に加えてもらったのです。叔父も三年前に亡くなって、従兄(いとこ)が七代目の頭領になっております」
「頭領の座を叔父に奪われ、頭領になった従兄のもとで、肩身の狭い思いをしているというわけだな」
「さようでございます」
「どうして、新しい中山王に仕えようとしなかったのだ?」
「数人の職人を引き連れて行ってもどうにもならないと思ったのです。それと、頭領の座を何とかして取り戻したいという気持ちもありました。でも、従兄と山南王は強い絆で結ばれていて、頭領の座を取り戻す事はできませんでした」
「そうだったのか。今回、そなたをここによこしたのは山南王なのか」
「いいえ、頭領です。邪魔者を追い出したのでしょう」
「頭領と山南王は仲がいいのか」
「豊見グスクの石垣を築いた時に仲がよくなったようです」
「そうか。そなたの親父が五代目だと言ったな。初代はどこから来たんだ」
「高麗(こーれー)です。もう百年以上も前の事です。当時、高麗の国は元(げん)の国に攻められて混乱状態だったそうです。琉球の船が高麗に来ていて、石屋を探しているという話を聞いた初代は、職人たちを引き連れて琉球にやって来たようです」
「ほう、百年以上も前に琉球の船が高麗に行っていたのか」
「瓦(かわら)を求めてやって来たようです」
「成程、瓦か」
「初代が築いた石垣は今帰仁(なきじん)グスクの石垣なのか」
「いいえ、浦添グスクです。初代の次男今帰仁按司に仕えて、今帰仁グスクの石垣を築きました」
「そうだったのか。当時、浦添今帰仁はつながっていたのか」
浦添按司は英祖(えいそ)という人で、今帰仁按司は英祖の息子だったと聞いております」
「成程。すると、今帰仁の石屋は、初代の次男から代々今帰仁按司に仕えているんだな」
「そうです。長男の家系は浦添按司に仕えてきました」
「今も浦添の家系と今帰仁の家系は交流があるのか」
「昔は交流があったようですが、今はありません」
「そうか。玉グスクの石屋とはつながっているのか」
「玉グスクは三代目の時に分かれたようです。玉グスクの石屋も首里グスクの石垣造りを手伝っていましたので交流はあります」
「色々と聞いてすまなかった。今まで石屋と付き合いがなかったものでな。島添大里グスクの石垣の修理をよろしく頼む」
「かしこまりました」とクムンは頭を下げた。

 

 

 

粟国の塩 500g