長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-113.親父の悪夢(第一稿)

 山南王(さんなんおう)のシタルーは夢を見ていた。
 子供の頃、八重瀬(えーじ)グスクの庭で、兄弟が揃って遊んでいる夢だった。その年、上の姉が中山王の若按司(武寧)に嫁いで行った。下の姉はヌルになるための修行を始めた。あの頃、親父(汪英紫)は八重瀬グスクの石垣の改築をしていた。まだ三十代の若さで、大きな野望に燃えていた。今、思えば、八重瀬グスクも親父が造ったグスクだった。
 八重瀬グスクが完成すると、玉グスクを攻めるために新(あら)グスクを築き始めた。シタルーは毎日、新グスクの普請場(ふしんば)に行って、グスク造りの基本を学んだ。島添大里(しましいうふざとぅ)グスクを奪い取ると、親父は大改築をしている。石垣を高くして、一の曲輪の屋敷は建て直している。二階建ての立派な屋敷が完成した時、親父は嬉しそうに笑っていた。満足そうに屋敷を見上げていた親父が、急に鬼のように怖い顔をしてシタルーを見た。
「わしが造った島添大里グスクはいつ取り戻すんじゃ?」
 シタルーは真っ青な顔をして、「必ず、取り戻します」と言って、目が覚めた。
「大丈夫でございますか」と側室のマクムが心配そうな顔でシタルーを見ていた。
「ああ、大丈夫じゃ」とシタルーは言ったが、目の下にはクマができ、急に年を取ったかのようにやつれていた。
「最近、眠れないのではありませんか」
 シタルーは力なく笑って、「お前の所なら眠れると思ったんだがな」と言った。
 シタルーか親父の夢を見たのは、去年の春の事だった。二度ばかり夢に現れた親父は、島添大里グスクの石垣を修繕しろと言った。修繕しろと言われても、サハチのものとなったグスクの石垣を直せるわけがなかった。ところが、その年の夏、三王が同盟を結ぶ事になり、親父の夢が気になっていたシタルーは、サハチのもとに石屋を送って、島添大里グスクの石垣を修繕させた。
 その後、親父が夢に出て来る事はなく、シタルーも安心した。
 七月に大きな台風が来て、糸満(いちまん)がやられた。復興も一段落した九月の末、親父がまた夢に現れるようになった。今度は島添大里グスクを奪い返せと言った。シタルーは島添大里グスクよりも首里(すい)グスクを奪い取らなければならないと言ったが、親父は島添大里グスクの方が先だ。島添大里グスクを奪い取って、東方(あがりかた)の按司たちを従えてから首里グスクを奪い取れという。
 初めの頃は五日おきくらいに現れていたのが、三日おきになり、最近は毎晩のように夢に現れ、寝不足が続いていた。
 座波(ざーわ)ヌルに相談して、妹の島尻大里(しまじりうふざとぅ)ヌルに八重瀬にある親父と母親のお墓にお祈りをしてもらったが、効き目はなかった。
 以前、マクムの所で休んだ時、夢に親父は現れず、久し振りにゆっくり休む事ができた。今回も期待したのだったが、親父は鬼のような顔をして現れた。
 前回の夢の時、親父の願いを聞いたら夢に出て来なくなった。今回も親父の言う通りにしたら、出て来なくなるのかもしれないとシタルーは思い、島添大里グスクを奪い取る事を本気で考えてみようと思った。
 まだ夜中だが、シタルーは御内原(うーちばる)から出て、自分の執務室に向かった。
 親父は八重瀬グスクに抜け穴を造った。もしもの時に逃げるためと、グスクを敵に奪われたあとに奪い返すためだった。シタルーも親父を真似して、大(うふ)グスク按司になった時、大グスクに抜け穴を造った。今帰仁合戦(なきじんがっせん)の時、留守を守っていた弟のヤフスが糸数按司(いちかじあじ)に大グスクを奪われた。その時、その抜け穴を使って、奪い返す事ができた。シタルーは武寧(ぶねい)から奪い取るために、首里グスクにも抜け穴を造ったが、それはサハチに見つかり、サハチに利用されてしまった。親父は島添大里グスクに抜け穴は造らなかった。シタルーがどうしてかと聞くと、ただ笑うだけで答えなかったが、あの時から島尻大里グスクを奪い取って、山南王になる事を考えていたのかもしれない。
 島添大里グスクに抜け穴があったら、奪い取るのは簡単だが、抜け穴がないとなると奪い取るのは難しい。親父が八重瀬グスクを奪い取った時のように、一瞬のうちに攻め落とさないと、首里からの援軍に挟み撃ちされて、全滅してしまうだろう。
 親父が八重瀬グスクを落としたのは、シタルーが八歳の時だった。絶世の美女を送り込んで、按司と若按司を対立させて、若按司の手引きでグスク内に潜入し、按司も若按司も殺して奪い取ったという。その手はサハチには使えない。別の方法を考えなければならなかった。
 もし、島添大里グスクを奪い取れたとしても、その後の事も考えておかなくてはならなかった。まず、中山王(ちゅうさんおう)が攻めて来る。サハチの妹婿の玉グスク按司、知念(ちにん)の若按司も攻めて来るだろう。サハチの弟の佐敷大親(さしきうふや)、平田大親、与那原大親(ゆなばるうふや)、手登根大親(てぃりくんうふや)も攻めて来るだろう。大グスク按司、兼(かに)グスク按司、八重瀬按司、米須按司(くみしあじ)、玻名(はな)グスク按司、具志頭按司(ぐしちゃんあじ)も攻めて来るかもしれない。南部で大戦(うふいくさ)か始まる事になる。山北王(さんほくおう)を味方に付けなければ負けてしまうかもしれない。サハチの倅に嫁いだ山北王の娘は救い出さなければならなかった。
 山北王の娘は保栄茂(ぶいむ)グスクにもいた。その娘を中山王に殺させて、山北王を呼び寄せるか‥‥‥
 山北王が出て来れば勝ち目はある。中山王の兵を挟み撃ちにして、首里グスクの下にあるガマに潜入できれば、首里グスクも奪い取れる。
 首里グスクを奪い取るための第一段階として島添大里グスクを奪い取ればいいんだとシタルーは結論を出し、綿密な作戦を立てる事に熱中した。

 


 その頃、サハチは進貢船(しんくんしん)の準備で忙しかった。三人の官生(かんしょう)を送る事になって、ようやく、その三人が決まったのだった。前回のファイテとジルークは島添大里のソウゲン禅師の推薦だったので、今回は首里のナンセン禅師の推薦する三人に決まった。
 北谷(ちゃたん)ジルー、城間(ぐすくま)ジルムイ、前田(めーだ)チナシーの三人で、ジルーは北谷大親の息子、ジルムイは城間大親の孫、チナシーは前田大親の息子だった。勿論、三人とも秀才だが、ただそれだけではなかった。北谷ジルーは船が好きで、自分で小舟(さぶに)も造って、帆の形などを研究しているという。サハチは塩飽(しわく)の船大工の与之助を思い出して、あんな風になってくれればいいと願った。城間ジルムイは書物を読むのが好きで、ヤマトゥの書物も明国の書物も読んでしまうという。前田チナシーは手先が器用で、笛や三弦(サンシェン)、農具や漁網も作った事があり、前田家伝来の棒術も得意だという。北谷ジルーは十五歳、城間ジルムイと前田チナシーは十六歳だった。
 北谷大親の父親は北谷の出身で、察度(さとぅ)の側室になった北谷按司の娘の護衛として浦添(うらしい)に来た。北谷大親は浦添で生まれてサムレーになり、進貢船のサムレーとして何度も明国に行った。明国から帰って来たら、中山王が入れ替わっていて、そのまま思紹(ししょう)に仕えた。今は船から降りて、交易担当の安謝大親(あじゃうふや)の下で働いていた。城間大親と前田大親は先代の中山王に仕えていたが、ナーサによって思紹に仕えた重臣だった。
 十一月十八日、今年三度目の進貢船が出帆して行った。正使は八重瀬按司のタブチで、副使は南風原大親(ふぇーばるうふや)、サムレー大将は五番組の外間親方(ふかまうやかた)、従者として米須按司、玻名グスク按司、ナーグスク大主(うふぬし)、山グスク大主が去年と同じように同行した。
 それから四日後の事だった。ウニタキが島添大里グスクにやって来た。
「ハルがいるぞ」とサハチは言ったが、ウニタキは厳しい顔をして、サハチの前に座り込んだ。
「シタルーが動いたぞ」とウニタキは言った。
「長嶺(ながんみ)グスクに武装した四百の兵が集結している」
「なに!」とサハチは驚き、
「シタルーは本気で、ここを攻めるつもりなのか」とウニタキに聞いた。
「親父の悪夢に負けたのだろう。毎晩、悪夢にうなされて眠れず、ひどい顔付きになっていたそうだ。このグスクを攻める事に決めて、作戦を練り始めたら、親父も夢に現れなくなったようだ」
「長嶺グスクからここまで、一時(いっとき)(二時間)もあれば着くぞ。しかし、四百の兵では、このグスクは落とせんだろう。首里から攻めて来れば挟み撃ちに遭って全滅だ」
「そのくらいの事はシタルーだって承知だろう。何か秘策があるに違いない」
「ハルと二人の侍女に御門(うじょう)を開けさせるというのか」
「その手しかないだろう。しばらく、どこかに閉じ込めておいた方がいいぞ」
「ハルを信じないわけではないが仕方がないな。とにかく、守りを固めなくてはならん。城下の者たちも避難させなくてはならんぞ」
「いつ攻めて来るかだ」とウニタキは腕を組み、
「ンマムイの兼グスクで待ち伏せする事もできるぞ」と言った。
「今、島添大里には二百の兵しかいない。外に出す余裕はない」
 二隻の進貢船とヤマトゥに行った交易船に三百人のサムレーが乗って行ったため、島添大里の百人のサムレーが補充人員として首里に行っていた。以前、島添大里のサムレーはグスクと与那原の港を守っていたが、与那原にグスクができたため、与那原の港は与那原大親に任せる事になり、首里に行くようになったのだった。
「どんな秘策があるのかわからないが、二百の兵で、このグスクを守った方がいいだろう」とサハチは言って、佐敷ヌルの屋敷にいるハルと二人の侍女を呼んだ。
 女子(いなぐ)サムレーと一緒に来たハルはサハチとウニタキを見て、一体、何だろうという顔付きで、二人の前に座った。
「山南王から何か知らせがあったか」とサハチはハルに聞いた。
 ハルは首を振って、「こちらに来てから、山南王から知らせをもらった事は一度もありません」と言った。
 侍女たちに聞いても、同じ答えだった。
「山南王が今、長嶺グスクに四百の兵を集めている。ここに攻めて来るかもしれん」
「えっ!」とハルは驚き、「山南王は本当にこのグスクを奪い返そうとしているのですか」と聞いた。
「そうらしい。アミーから何か言って来たか」
 ハルは首を振った。
 突然、「按司様(あじぬめー)」と言って、女子サムレーがサハチの前に座って、頭を下げた。
「どうしたのだ?」とサハチは女子サムレーに聞いた。
 女子サムレーは顔を上げると、「わたしなんです」と言った。目から涙が流れていた。
 部屋の外にいた女子サムレーのシジマが、「ユーナ、どうしたの?」と近づいて来た。
「わたしが間者(かんじゃ)なのです。山南王の命令で、ここの女子サムレーになりました」
「ええっ!」とシジマは信じられないといった顔で、ユーナを見ていた。
「お前は刺客(しかく)なのか」とサハチはユーナに聞いた。
「違います。グスク内の様子を山南王に知らせていただけです」
「どうやって?」
「おうちに祖母がいます。祖母のもとに時々、行商人(ぎょうしょうにん)が来るのです。いつもはわたしの留守中に来るのですが、今朝早くに来て、わたしに山南王の命令を伝えました」
「その命令とは?」とウニタキが身を乗り出して聞いた。
「皆が寝静まった深夜に、東曲輪(あがりくるわ)の御門を開けろというものです」
「シタルーは夜襲を掛けるつもりか」とウニタキは言って、サハチを見た。
「総攻撃の前に、刺客の攻撃があります」とユーナは言った。
「まず、刺客を潜入させて、按司様を殺します。その後、総攻撃を掛けて、このグスクを奪い取るつもりです」
「刺客を使うとは、首里の時と同じ作戦だな」とサハチは言った。
「夜襲となると敵は火矢を使うぞ」とウニタキが言った。
 サハチはうなづき、火矢で攻撃された佐敷グスクを思い出していた。
「わたしはアミーの妹です」とユーナは言った。
「えっ!」とハルが驚いた。
「姉は今回、この作戦には加わらないと思います。姉は按司様の事を命の恩人だと思っています」
「お前はどうして、間者になったのだ?」とサハチは聞いた。
「わたしの父は、若い頃の山南王の護衛を務めておりました。わたしも姉も幼い頃から父に剣術を学び、山南王を守るのが務めだと信じて生きてきたのでございます。わたしたちの母は病弱で、わたしが十五の時に亡くなってしまいましたが、母の遺言も、『山南王を守れ』だったのです。姉は山南王のために、中山王の側室になって、見事にお役目を果たしました。今度はわたしの番だと、祖母と一緒にここに来たのです。浦添から逃げて来たという事にしました。城下の娘たちと一緒に東曲輪に通って、剣術の稽古に励み、二年後、女子サムレーになれました。山南王のために、ここに来たのですけど、ここにいる間に、わたしの気持ちは変わってしまったのです。女子サムレーの人たちと付き合い、佐敷ヌル様やユリ様と一緒にお芝居のお稽古をしているうちに、わたしは間者である事に後ろめたさを感じるようになりました。でも、本当の事を打ち明ける勇気はありませんでした。本当の事を言ったら、もうここにはいられなくなってしまう。それが恐ろしかったのです。でも、今回の事はわたしにはできません。隊長に本当の事を言おうと思いましたが、なかなか言い出せませんでした。そんな時、ハル様が呼ばれました。もしかしたら、山南王の事ではないかと思って、一緒に付いて来たのです」
 ユーナはそう言うと泣き崩れた。
「人は誰でもやり直しはできる」とウニタキが言った。

 


 何事もなかったかのように、その日の日が暮れた。島添大里グスクはいつものように、娘たちの剣術の稽古も終わって、静かになっていた。娘たちが帰ると、いつものように東曲輪の御門も閉められ、門の内側にある小さな小屋の中で、二人の門番が待機していた。
 深夜になり、辺りは静まり返って、下弦の月が東の空に登り始めた。佐敷ヌルの屋敷から出て来た人影が、門番小屋に近づいてから、御門を開けた。しばらくして、人影がぞろぞろと入って来た。
全員が東曲輪に入ると御門は閉められた。
 門が閉まったのと同時に、鋭い音が次々にして、悲鳴が起こり、何人かの人影が倒れた。
「しまった。罠だ」と誰かが叫んだ。
 弓矢の攻撃が終わると隠れていた人影が出て来て、刀の刃がきらめいた。
 あっと言う間に、侵入者は全滅した。倒れている敵の数を数えると二十人もいた。
 あちこちに篝火(かがりび)が焚かれて、急に明るくなった。敵の死体を一カ所に集め、筵(むしろ)をかぶせると、二百人の守備兵たちは、敵の攻撃に備えて配置についた。
 二十人の刺客は、チミーとマナビーの弓矢で十人がやられた。サグルーが二人を斬り、サムレー大将の慶良間之子(きらまぬしぃ)が二人を斬り、イハチが一人を斬った。サスカサが一人を倒し、女子サムレーのカナビー、ニシンジニー、アミー、ミイが一人づつ倒して全滅した。逃げて来た敵を倒そうと待ち構えていたチューマチとヤールーは出る幕がなかった。ウニタキの配下の者たちも見守っていたが出る幕はなかった。
 チミーとマナビーは三月に、ヂャンサンフォンのもとで修行を積んでいた。運玉森(うんたまむい)のガマ(洞窟)の中を歩かされ、暗闇でも目が見えるようになり、月明かりのもとでは百発百中の腕になっていた。
 サグルーがユーナを連れて一の曲輪の屋敷に行って、サハチに結果を報告した。サハチの部屋にはウニタキと奥間大親(うくまうふや)もいた。
「そうか、全滅したか」とサハチは満足そうにうなづいて、
「怪我人は出なかったか」とサグルーに聞いた。
「大丈夫です」
「みんな、よくやってくれた」とサハチは言ってから、ユーナを見た。
「お前のお陰で、助かった。お礼を言う。しかし、刺客が全滅したのに、お前が無事だと知られると、お前が裏切った事がばれてしまう。お前をここに置いておくわけにはいかないな」
「わたしは山南王に殺されるでしょう。いっその事、わたしも殺してください」
「馬鹿な事を言うな。お前は俺の命の恩人ではないか。お前が黙っていたら、俺は殺されていたかもしれんし、何人もの犠牲者が出ただろう」
 突然、窓から誰かが飛び込んで来た。廊下にいた女子サムレーが刀を抜いて、侵入者に向けた。
 侵入者は廊下にひざまづくと、サハチに頭を下げた。
「お姉さん」とユーナが言った。
「アミーか。久し振りだな」とサハチはアミーを見た。
 六年前、首里グスクで会った時は美しい着物を着た側室だったが、今回は黒づくめの格好で、背中に刀を背負っていた。
「妹を助けていただき、ありがとうございます」とアミーは言った。
 ハルが出て来て、アミーに近寄って、「お師匠」と呼んだ。
「ハル、元気そうね」とアミーはハルを見て軽く笑った。
「ハル、アミーを連れて来てくれ」とサハチはハルに言った。
 ハルはうなづいて、アミーを連れて部屋の中に入った。女子サムレーたちは刀を鞘(さや)に納めて、成り行きを見守った。
「お前は今回の作戦には参加しなかったのだな?」とサハチがアミーに聞いた。
「山南王から頼まれましたが、わたしは断りました。でも、妹の事が心配で様子を見に来たのです」
「どうやって、このグスクに潜入したのだ。今、このグスクは警戒態勢に入っていて、どこからも潜入できないはずだ」
「刺客が来る前に、すでに入っていたのです」
「なに、刺客よりも先に潜入していたのか」
 アミーはうなづいて、上を見上げた。
「屋根の上から刺客たちが倒されるのを見ていました。そして、妹がこの屋敷に連れられて来るのを見て、姿を現す事にしたのです」
「そうか。刺客が全滅してしまい、お前も帰ったら、山南王に殺されるかもしれんな」
「お婆が危ないわ」とアミーが言った。
「大丈夫よ。グスク内にいるわ」とユーナが言った。
「二人を、いや、お婆も入れて、三人をキラマ(慶良間)の島に送ったらどうだ?」とウニタキがサハチに言った。
「向こうで、娘たちを鍛えてもらえばいい」
「そうだな。それがいいかもしれん」とサハチがうなづいた。
「わたしたちを助けてくれるのですか」とアミーは信じられないという顔をしてサハチに聞いた。
「お前は断ったんだろう。ユーナは命の恩人だし、助けるのは当然だ。ほとぼりが覚めるまで、キラマの島に隠れているか」
「ありがとうございます。わたしたちは死んだ事にしておいてください」
「ユーナが殺されて、それを助けようとして、アミーも殺された、という事にしておこう」とウニタキが言った。
「お師匠、よかったですね」とハルが嬉しそうに言った。
「今回の作戦を豊見(とぅゆみ)グスク按司は知っているのか」とサハチはアミーに聞いた。
 アミーは首を振った。
「豊見グスク按司に話せば反対されるので、内緒です。今回、山南王が率いているのは娘婿の長嶺按司次男の兼グスク按司、妹婿の瀬長(しなが)の若按司です」
「山南王自らが指揮を執っているのか」
「一瞬のうちに勝負を決めなくてはならないので、他人には任せられないのでしょう」
「もし、刺客が俺を殺すのに成功したとしても、このグスクから出る事はできないだろう。皆、殺されるはずだ。俺がいなくても、サグルーがこのグスクを守り抜くに違いない。山南王はどうやって、このグスクを攻め落とすつもりだったのだ?」
「刺客の目的は按司様だけではありません。若按司様もイハチ様も標的になっていました。按司様たちを殺したあと、刺客たちは皆、殺されるかもしれません。殺される前に、成功したという矢文(やぶみ)を放ちます。グスクの外に足の速い者が待機していて山南王に知らせます。知らせを受けた山南王は兵を率いてやって来て、まず、城下に火を放ちます。城下の者たちはグスクに逃げ込む事でしょう。その中に間者が紛れ込んで、御門を内側から開けて、兵たちを誘い込むのです。通常でしたら、その間者も目的を果たす事なく殺されるでしょうが、按司様や若按司様が殺されて混乱状態になっていれば成功するでしょう」
「成程。しかし、すでに城下の者たちがグスク内に避難していたらどうするんだ?」
「山南王はここの城下にも間者を置いています。多分、今晩は親戚の者たちが何人も泊まり込んでいる事でしょう」
 サハチは笑った。
「山南王の刺客はまだいるのか」とウニタキが聞いた。
「今回の作戦にほとんどの者が参加しています。残っているのは粟島(あわじま)(粟国島)で修行中の者たちだけです」
「当分の間は、シタルーもおとなしくしているだろう」とウニタキはサハチを見て笑った。

 


 南風原(ふぇーばる)の黄金森(くがにむい)で下弦の月を眺めながら、山南王のシタルーは、まだかまだかと島添大里からのいい知らせを待っていた。
 夜もかなり更けた頃、ようやく、知らせを持った男がやって来たが、その顔色は悪かった。
「刺客は失敗に終わったものと思われます」と男は言った。
「なに?」とシタルーは信じられないと言った顔で男を見た。
「失敗に終わったじゃと?」
「成功したという矢文はありませんでした。誰一人としてグスクの外には現れません」
「どういう事じゃ?」
「グスク内が静まり返った深夜に、東曲輪の御門が開きました。刺客たちがグスク内に入ると御門は閉じられ、中で争っているような物音が聞こえましたが、すぐに治まり、また、静まり返りました。うまく行ったかと思っていたら、突然、篝火が焚かれて、グスク内が明るくなって、守備兵が配置に付きました。物見櫓の上にも見張りの兵が現れました。これは失敗に終わったに違いないと思いましたが、四半時(しはんとき)(三十分)ほど待ってみました。誰も戻っては来ないし、約束の矢文も来ませんでした」
「くそっ、どうして失敗に終わったんじゃ?」
「もしかしたら、ユーナが裏切ったのではないかと‥‥‥」
「ユーナに限って、そんな事はない。アミーとユーナの姉妹はわしの子供たちと一緒に育ったんじゃ。わしの娘みたいなものじゃ。わしを裏切るような事はしない。刺客の中に裏切り者がいたに違いない」
 首里から敵兵がこちらに向かって来るとの知らせが入った。
 シタルーは月を見上げると、悔しそうな顔をして、「撤収じゃ」と叫んだ。

 

 

 

夢判断 上 (新潮文庫 フ 7-1)   悪夢障害 (幻冬舎新書)

目次 第二部

尚巴志伝 第二部

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このイラストはは和々様よりお借りしました。



  1. 山田のウニウシ(第二稿)   護佐丸、尚巴志を頼って首里に行く。
  2. 胸のときめき(第二稿)   護佐丸、島添大里で恋をする。
  3. 恋の季節(第二稿)   サグルーとササ、山田で魂を抜かれる。
  4. キラマの休日(第二稿)   尚巴志夫婦、毎年恒例の旅で慶良間の島に行く。
  5. ナーサの遊女屋(第二稿)   中山王の家臣たちの懇親の宴。
  6. 宇座の古酒(第二稿)   尚巴志、宇座の御隠居の倅と古酒を飲む。
  7. 首里の初春(第二稿)  中山王となった思紹の初めての正月。
  8. 遙かなる船路(第二稿)  尚巴志、ウニタキ、懐機、明国に行く。
  9. 泉州の来遠駅(第二稿)   明国に着いた尚巴志たちは来遠駅に落ち着く。
  10. 麗しき三姉妹(第二稿)   尚巴志たち、福州に行きメイファンと再会する。
  11. 裏切り者の末路(第二稿)   尚巴志たち、メイファンの敵討ちを助ける。
  12. 島影に隠れた海賊船(第二稿)   尚巴志たち、明の海賊船に乗る。
  13. 首里のお祭り(第二稿)   護佐丸、ササたちと祭りの警備をする。
  14. 富楽院の桃の花(第二稿)   尚巴志たち、明国の都、応天府に着く。
  15. 応天府の夢に酔う(第二稿)   尚巴志たち、最高級の妓楼で夢を見る。
  16. 真武神の奇跡(第二稿)   討伐軍を破って皇帝になった永楽帝
  17. 武当山の仙人(第二稿)   尚巴志たち、武当山で張三豊と出会う。
  18. 霞と拳とシンシンと(第二稿)   尚巴志とウニタキ、張三豊に武術を習う。
  19. 刺客の背景(第二稿)   馬天ノロ、刺客の正体を探る。
  20. 龍虎山の天師(第二稿)   尚巴志たち、道教の本山、龍虎山に行く。
  21. 西湖のほとりの幽霊屋敷(第二稿)   尚巴志たち、三姉妹と再会する。
  22. 清ら海、清ら島(第二稿)  三姉妹と張三豊が琉球に来る。
  23. 今帰仁の天使館(第二稿)   旅に出た張三豊たちが帰って来る。
  24. 山北王の祝宴(第二稿)   攀安知、志慶真の長老から今帰仁の歴史を聴く。
  25. 三つの御婚礼(第二稿)   サグルー、尚忠、護佐丸、妻を迎える。
  26. マチルギの御褒美(第二稿)   尚巴志、妻のマチルギにしぼられる。
  27. 廃墟と化した二百年の都(第二稿)   尚巴志、ウニタキと浦添に行く。
  28. 久高島参詣(第二稿)  思紹王、女たちを連れて久高島へ行く。
  29. 丸太引きとハーリー(第二稿)   尚巴志、豊見グスクでハーリーを見る。
  30. 浜辺の酒盛り(第二稿)   尚巴志、ヤマトゥに行くマチルギたちを見送る。
  31. 女たちの船出(第二稿)   マチルギたち、長い船旅を楽しみ博多に着く。
  32. 落雷(第二稿)   尚巴志、雷鳴を聞きながらマジムン退治を思い出す。
  33. 女の闘い(第二稿)   三姉妹の船が来て、メイユーとナツが会う。
  34. 対馬の海(第二稿)   マチルギ、対馬島でイトとユキに会う。
  35. 龍の爪(第二稿)   尚巴志、ウニタキ、懐機、朝鮮旅の計画を練る。
  36. 笛の調べ(第二稿)   久し振りに佐敷グスクから笛の音が流れる
  37. 初孫誕生(第二稿)   尚忠の長男、尚志達、生まれる。
  38. マチルギの帰還(第二稿)   女たちがヤマトゥから無事に帰国する。
  39. 娘からの贈り物(第二稿)   尚巴志、マチルギから旅の話を聞く。
  40. ササの強敵(第二稿)   馬天ノロ、日代(ティーダシル)の石を探し始める。
  41. 眠りから覚めたガーラダマ(第二稿)   ササ、読谷山で古い勾玉を見つける。
  42. 兄弟弟子(第二稿)   尚巴志、兼グスク按司武当拳の試合をする。
  43. 表舞台に出たサグルー(第二稿)   サグルー、尚巴志の代理を見事に務める。
  44. 中山王の龍舟(第二稿)   ウニタキの新しい隠れ家が完成する。
  45. 佐敷のお祭り(第二稿)   尚巴志の一節切と佐敷ヌルの横笛に大喝采。
  46. 博多の呑碧楼(第二稿)   朝鮮旅に出た尚巴志たち、博多に着く。
  47. 瀬戸内の水軍(第二稿)   尚巴志村上水軍と塩飽水軍の頭領と会う。
  48. 七重の塔と祇園祭り(第二稿)   尚巴志たち、京都に着く。
  49. 幽玄なる天女の舞(第二稿)   尚巴志が一節切を吹くと美女が舞う。
  50. 天空の邂逅(第二稿)   尚巴志たち、七重の塔に登って感激する。
  51. 鞍馬山(第二稿)   尚巴志たち、鞍馬山で武術修行。
  52. 唐人行列(第二稿)   尚巴志、増阿弥の芸に感動する。
  53. 対馬の娘(第二稿)   尚巴志、イトと再会、ユキとミナミに会う。
  54. 無人島とアワビ(第二稿)   尚巴志、昔の顔なじみと再会する。
  55. 富山浦の遊女屋(第二稿)   尚巴志たち、富山浦(釜山)に渡る。
  56. 渋川道鎮と宗讃岐守(第二稿)   尚巴志九州探題対馬守護に会う。
  57. 漢城府(第二稿)   尚巴志たち、朝鮮の都に到着する。
  58. サダンのヘグム(第二稿)   尚巴志たち、ナナの案内で都見物。
  59. 開京の将軍(第二稿)   尚巴志たち、高麗の都に行く。
  60. 李芸とアガシ(第二稿)   尚巴志、李芸と会う。
  61. 英祖の宝刀(第二稿)   佐敷ノロ、神様の声を聞いて宝刀を探す。
  62. 具志頭按司(第二稿)   佐敷ノロ、お祭りでお芝居を上演する。
  63. 対馬慕情(第二稿)   尚巴志、家族を連れて舟旅に出る。
  64. 旧港から来た娘(第二稿)   尚巴志、旧港の施二姐と会う。
  65. 龍天閣(第二稿)  尚巴志、旧港の船を連れて琉球に帰る。
  66. 雲に隠れた初日の出(第二稿)   尚巴志、上間グスクの警固を強化する。
  67. 勝連の呪い(第二稿)   尚巴志の義兄サムが勝連按司になる。
  68. 思紹の旅立ち(第二稿)   思紹、張三豊と一緒に明国に行く。
  69. 座ったままの王様(第二稿)   佐敷大親とジクー禅師、ヤマトゥに行く。
  70. 二人の官生(第二稿)   尚巴志、明国に送る留学生を決める。
  71. ンマムイが行く(第二稿)   兼グスク按司、家族を連れて今帰仁に行く。
  72. ヤンバルの夏(第二稿)   兼グスク按司、家族を連れてヤンバルを巡る。
  73. 奥間の出会い(第二稿)   兼グスク按司、奥間で隠し事を聞いて驚く。
  74. 刺客の襲撃(第二稿)   兼グスク按司、ヤンバルの山中で襲われる。
  75. 三か月の側室(第二稿)   メイユー、尚巴志の側室になる。
  76. 百浦添御殿の唐破風(第二稿)   首里グスク正殿の改築が完成する。
  77. 武当山の奇跡(第二稿)   思紹、武当山で張三豊の凄さを知る。
  78. イハチの縁談(第二稿)   米須按司と玻名グスク按司が東方に寝返る。
  79. 山南王と山北王の同盟(第二稿)   山北王の娘が山南王の三男に嫁いで来る。
  80. ササと御台所様(第二稿)   ササ、伊勢神宮で神様の声を聞く。
  81. 玉依姫(第二稿)   ササ、豊玉姫のお墓で玉依姫の声を聞く。
  82. 伊平屋島と伊是名島(第二稿)   伊平屋島の親戚たちが逃げてくる。
  83. 伊平屋島のグスク(第二稿)   サグルーと尚忠と護佐丸、伊平屋島に行く。
  84. 豊玉姫(第二稿)   ヒューガの師匠、慈恩禅師が琉球に来る。
  85. 五年目の春(第二稿)   尚巴志、龍天閣で今年の計画を練る。
  86. 久高島の大里ヌル(第二稿)   ササ、神様から願い事を頼まれる。
  87. サグルーの長男誕生(第二稿)   兼グスク按司の新しいグスクが完成する。
  88. 与論島(第二稿)   ウニタキ、与論島に行き、与論ヌルと再会する。
  89. ユンヌのお祭り(第二稿)   尚巴志、ササたちと与論島に行く。
  90. 伊是名島攻防戦(第二稿)   伊是名島で中山王と山北王の戦が始まる。
  91. 三王同盟(第二稿)   中山王と山北王の同盟が決まり、山南王も加わる。
  92. ハルが来た(第二稿)   山南王から尚巴志に側室が贈られる。
  93. 鉄炮(第二稿)   三姉妹がアラビアの商品と鉄炮を持って来る。
  94. 熊野へ(第二稿)   ササ、将軍様の奥方と一緒に熊野詣でに出掛ける。
  95. 新宮の十郎(第二稿)   サスカサ、神倉山で十郎の話を聞く。
  96. 奄美大島のクユー一族(第二稿)   本部のテーラー、奄美大島を攻める。
  97. 大聖寺(第二稿)   首里に最初のお寺が完成する。
  98. ジャワの船(第二稿)   ヤマトゥに行った交易船がジャワの船を連れて来る。
  99. ミナミの海(第二稿)   早田左衛門太郎が、イトとユキとミナミを連れて来る。
  100. 華麗なる御婚礼(第二稿)   チューマチ、山北王の娘マナビーを妻に迎える。
  101. 悲しみの連鎖(第二稿)   玉グスク按司から始まって、続けて五人が亡くなる。
  102. 安須森(第二稿)   佐敷ヌル、ササたちを連れて安須森に行く。
  103. 送別の宴(第二稿)   尚巴志、早田左衛門太郎たちを連れて慶良間の島に行く。
  104. アキシノ(第一稿)   ヤマトゥ旅に出た佐敷ヌルとササたち、厳島神社に行く。
  105. 小松の中将(第一稿)   大原寂光院で高橋殿が平維盛と華麗に舞う。
  106. ヤンバルのウタキ巡り(第一稿)   馬天ヌルたち、今帰仁に行く。
  107. 屋嘉比のお婆(第一稿)   馬天ヌル、安須森で神様にお礼を言われる。
  108. 舜天(第一稿)   馬天ヌル、浦添ヌルを連れて喜舎場森に行く。
  109. ヌルたちのお祈り(第一稿)   馬天ヌルたち、南部のウタキを巡る。
  110. 鳥居禅尼(第一稿)   佐敷ヌル、熊野で平維盛の足跡をたどる。
  111. 寝返った海賊(第一稿)   三姉妹が来て、大きな台風も来る。
  112. 十五夜(第一稿)   サスカサ、島添大里グスクで中秋の名月を祝う。
  113. 親父の悪夢(第一稿)   山南王、悪夢にうなされて、出陣を決意する。



主要登場人物

 

第一部 目次

目次 第一部

尚巴志伝 第一部 月代の石

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このイラストはは和々様よりお借りしました。

 

  1. 誕生(最終決定稿)   尚巴志、佐敷苗代に生まれる。
  2. 馬天浜(最終決定稿)   サミガー大主とヤマトゥの山伏、クマヌ。
  3. 察度と泰期(最終決定稿)   浦添按司察度、過去を振り返る。
  4. 島添大里グスク(最終決定稿)   島添大里グスク、汪英紫に奪われる。
  5. 佐敷グスク(最終決定稿)   尚巴志の父、佐敷按司になる。
  6. 大グスク炎上(最終決定稿)   大グスク、汪英紫(島添大里按司)に奪われる。
  7. ヤマトゥ酒(最終決定稿)   早田三郎左衛門、馬天浜に来る。
  8. 浮島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎と旅に出る。
  9. 出会い(最終決定稿)   尚巴志、伊波按司の娘と剣術の試合をする。
  10. 今帰仁グスク(最終決定稿)   尚巴志、今帰仁に行く。
  11. 奥間(最終決定稿)   尚巴志、奥間村に滞在する。
  12. 恋の病(最終決定稿)   旅から帰った尚巴志、マチルギを想う。
  13. 伊平屋島(最終決定稿)   尚巴志、祖父の故郷に行く。
  14. ヤマトゥ旅(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥへ旅立つ。
  15. 壱岐島(最終決定稿)   尚巴志、壱岐島で察度の噂を聞く。
  16. 博多(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥの都を見て驚く。
  17. 対馬島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎の故郷に滞在する。
  18. 富山浦(最終決定稿)   尚巴志、高麗に行く。
  19. マチルギ(最終決定稿)   尚巴志の恋敵、ウニタキ現れる。
  20. 兵法(最終決定稿)   尚巴志、対馬で修行に励む。
  21. 再会(最終決定稿)   帰って来た尚巴志、マチルギと再会。
  22. ウニタキ(最終決定稿)   尚巴志、ウニタキと一緒に勝連グスクに行く。
  23. 名護の夜(最終決定稿)   尚巴志、マチルギと今帰仁に行く。
  24. 山田按司(最終決定稿)   尚巴志、マチルギの叔父、山田按司と会う。
  25. お輿入れ(最終決定稿)   マチルギ、尚巴志に嫁ぐ。
  26. 高麗の対馬奇襲(最終決定稿)   早田左衛門太郎の本拠地、高麗に攻められる。
  27. 豊見グスク(最終決定稿)   シタルー(汪応祖)、豊見グスクを築く。
  28. サスカサ(最終決定稿)   尚巴志とマチルギ、馬天ノロと旅に出る。
  29. 長男誕生(最終決定稿)   マチルギと馬天ノロ、神様になる。
  30. 出陣命令(最終決定稿)   察度、各按司に今帰仁征伐を命じる。
  31. 今帰仁合戦(最終決定稿)   中山王、山北王の今帰仁グスクを攻める。
  32. 次男誕生(最終決定稿)  尚巴志の次男(尚忠)と山田按司の次男(護佐丸)生まれる。
  33. 十年の計(最終決定稿)   尚巴志、佐敷按司(父)、鮫皮大主(祖父)と密談する。
  34. 東行法師(最終決定稿)   父が隠居して、尚巴志、佐敷按司となる。
  35. 首里天閣(最終決定稿)   察度、浦添按司を武寧に譲って隠居する。
  36. 浜川大親(最終決定稿)   ウニタキは妻子を殺され、シタルーは明に行く。
  37. 旅の収穫(最終決定稿)   奥間のサタルーと対馬のユキ。
  38. 久高島(最終決定稿) 尚巴志はマチルギに怒られ、ウニタキはチルーといい感じ。
  39. 運玉森(最終決定稿)   三好日向、尚巴志のために山賊になる。
  40. 山南王(最終決定稿)   承察度が亡くなり、若按司が山南王になる。
  41. 傾城(最終決定稿)   山南王、中山王の怒りを買って、汪英紫に攻められる。
  42. 予想外の使者(最終決定稿)   尚巴志夫婦、弟のマサンルー夫婦と旅をする。
  43. 玉グスクのお姫様(最終決定稿)   尚巴志、玉グスクと同盟を結ぶ。
  44. 察度の死(最終決定稿)   山北王のミンと奥間の長老も亡くなる。
  45. 馬天ヌル(最終決定稿)   馬天ノロ、御嶽巡りの旅に出る。
  46. 夢の島(最終決定稿)   早田左衛門太郎、慶良間の夢の島に行く。
  47. 佐敷ヌル(最終決定稿)  尚巴志の妹、マシューの気持ちとマカマドゥの決心。
  48. ハーリー(最終決定稿)   尚巴志夫婦と佐敷ノロ、ハーリーを見物。
  49. 宇座の御隠居(最終決定稿)   宇座の泰期が亡くなり、尚巴志夫婦は悲しむ。
  50. マジムン屋敷の美女(最終決定稿)  尚巴志、島添大里グスクに側室を入れる。
  51. シンゴとの再会(最終決定稿)   早田左衛門太郎、朝鮮に投降する。
  52. 不思議な唐人(最終決定稿)   尚巴志、懐機と出会う。
  53. 汪英紫、死す(最終決定稿)   懐機、旅から帰り、武術を披露する。
  54. 家督争い(最終決定稿)   達勃期と汪応祖が山南王の家督を争う。
  55. 大グスク攻め(最終決定稿)   尚巴志、大グスクを攻め落とす。
  56. 作戦開始(最終決定稿)   尚巴志、大グスクノロと再会する。
  57. シタルーの非情(最終決定稿)   達勃期、弟の汪応祖に敗れる。
  58. 奇襲攻撃(最終決定稿)   尚巴志、島添大里グスクを攻め落とす。
  59. 島添大里按司(最終決定稿)   尚巴志、島添大里按司になる。
  60. お祭り騒ぎ(最終決定稿)   尚巴志、城下の者たちと戦勝祝い。
  61. 同盟(最終決定稿)   尚巴志、山南王と同盟する。
  62. マレビト神(最終決定稿)   外間ノロと佐敷ノロにマレビト神が現れる。
  63. サミガー大主の死(最終決定稿)   神の声を聞いたウニタキ。
  64. シタルーの娘(最終決定稿)   山南王のお姫様の悩みと青い海
  65. 上間按司(最終決定稿)   明国の使者が二十年振りにやって来る。
  66. 奥間のサタルー(最終決定稿)   尚巴志、奥間ノロに魅了される。
  67. 望月ヌル(最終決定稿)   謎の爺さん、望月党を語る。
  68. 冊封使(最終決定稿)   首里の宮殿の儀式で、武寧と汪応祖、正式に王になる。
  69. ウニョンの母(最終決定稿)   ウニタキ、亡くなった妻の秘密を知る。 
  70. 久米村(最終決定稿)   尚巴志とウニタキ、懐機に呼ばれて久米村に行く。
  71. 勝連無残(最終決定稿)   勝連按司が奇病に倒れる。 
  72. 伊波按司(最終決定稿)   大きな台風が来て各地で被害が出る。
  73. ナーサの望み(最終決定稿)   ウニタキ、ナーサを味方に引き入れる。
  74. タブチの野望とシタルーの誤算(最終決定稿)  八重瀬按司、中山王と同盟する。
  75. 首里グスク完成(最終決定稿)   中山王と山南王の決戦が迫る。
  76. 首里のマジムン(最終決定稿)   尚巴志、首里グスクを奪い取る。 
  77. 浦添グスク炎上(最終決定稿)   浦添グスクは焼け落ち、亜蘭匏は消える。
  78. 南風原決戦(最終決定稿)   尚巴志、中山軍を壊滅させる。
  79. 包囲陣崩壊(最終決定稿)   達勃期は出直し、汪応祖は首里を攻める。
  80. 快進撃(最終決定稿)   尚巴志、中グスク、越来グスクを攻め落とす。
  81. 勝連グスクに雪が降る(最終決定稿)   尚巴志、勝連グスクを落とす。

 

尚巴志伝 第二部 目次

 

・尚巴志伝の年表

・第一部の主要登場人物

・尚巴志の略歴

・尚巴志の祖父、サミガー大主の略歴

・尚巴志の父、思紹の略歴

・馬天ヌル(馬天ノロ)の略歴

・中山王、察度の略歴

・中山王、武寧の略歴

・汪英紫の略歴

・山南王、汪応祖の略歴

・泰期の略歴

・クマヌの略歴

・三好日向の略歴

・早田左衛門太郎の略歴

・ウニタキの略歴

・懐機の略歴

・倭寇年表

第二部 主要登場人物

サハチ       1372-1439  尚巴志。島添大里按司
マチルギ      1373-    尚巴志の妻。伊波按司の娘。
サグルー      1390-    尚巴志の長男。
ジルムイ      1391-    尚巴志次男。尚忠。
ミチ        1393-    尚巴志の長女。島添大里ヌル、サスカサ。
イハチ       1394-    尚巴志の三男。妻は具志頭按司の娘。
チューマチ     1396-    尚巴志の四男。妻は山北王の娘。
思紹        1354-1421 中山王。尚巴志の父。
佐敷ヌル      1374-    尚巴志の妹、マシュー。シンゴと結ばれ娘を産む。
佐敷大親      1376-    尚巴志の弟、マサンルー。妻は奥間大親の娘。
平田大親      1378-    尚巴志の弟、ヤグルー。妻は玉グスク按司の娘。
与那原大親     1383-    尚巴志の弟、マタルー。妻はタブチの娘。
クルー       1388-    尚巴志の弟、妻は山南王シタルーの娘。
馬天ヌル      1357-    思紹の妹、尚巴志の叔母。
ササ        1391-    馬天若ヌル。父はヒューガ。母は馬天ヌル。
ヒューガ      1355-1470 三好日向。中山の水軍大将。
苗代大親      1360-    思紹の弟。サムレー総隊長。武術師範。
マカマドゥ     1392-    苗代大親の三女。マウシ(護佐丸)の妻。
クグルー      1386-    泰期の三男。苗代大親の娘婿。
サミガー大主    1356-    思紹の弟、ウミンター。
シビー       1395-    尚巴志の従妹。メイユーの弟子になる。
ウニタキ      1372-1433 三星大親。「三星党」の頭。
チルー       1368-    ウニタキの妻。尚巴志の母の妹。
イーカチ      1373-    「三星党」の副頭。絵画き。
ナツ        1381-    ウニタキの配下から尚巴志の側室になる。
シズ        1389-    ウニタキの配下。ササと一緒にヤマトゥに行く。
ヤールー      1385-    ウニタキの配下。サグルーを守っている。
ファイチ      1375-1453 懐機。明国の道士。尚巴志の客将。
サスカサ      1354-    ミチにサスカサを譲り、運玉森ヌルになる。
マウシ       1391-1458 真牛。山田按司次男尚巴志の甥。護佐丸。
マカトゥダル    1392-    護佐丸の妹。サグルーの妻。
マサルー      1364-    山田按司の家臣。
シラー       1391-    マサルーの次男
クマヌ       1346- 1412 中グスク按司。中山の重臣。
美里之子      1362-    越来按司。中山の重臣。思紹の義弟。
當山之子      1365-    美里之子の弟。浦添按司になる。
クサンルー     1387-    當山之子の長男。浦添按司
カナ        1391-    當山之子の長女。浦添ヌル。
サム        1372-    後見役から勝連按司になる。伊波按司の四男。
ユミ        1392-    サムの長女。ジルムイ(尚忠)の妻。
ナーサ       1352-    首里の遊女屋「宇久真」の女将。
マユミ       1389-    「宇久真」の遊女。
宇座按司      1355-    泰期の次男。父の跡を継いで明国への使者となる。
シタルー      1362-1413  山南王。汪応祖
タルムイ(太郎思) 1385-1429  豊見グスク按司汪応祖の長男。妻は尚巴志の妹。
豊見グスクヌル   1382-    山南王シタルーの娘。豊見グスク按司の姉。
座波ヌル      1382-    山南王シタルーの側室。
タブチ       1360-    八重瀬按司。山南王シタルーの兄。
サイムンタルー   1361-1429  早田左衛門太郎。対馬島倭寇の頭領。
早田六郎次郎    1387-    左衛門太郎の跡継ぎ。妻はユキ。
ユキ        1388-    六郎次郎の妻。尚巴志の娘。母はイト。
イト        1372-    対馬島の女船長。ユキの母。
シンゴ       1372-    早田新五郎。左衛門太郎の弟。
早田五郎左衛門   1349-    左衛門太郎の叔父。朝鮮国の富山浦に住む商人。
早田丈太郎     1371-    五郎左衛門の長男。漢城府の津島屋の主人。
浦瀬小次郎     1375-    五郎左衛門の娘婿。
早田ナナ      1388-    早田次郎左衛門の娘。
サングルミー    1371-    与座大親。中山の進貢船の正使。
メイファン     1379-    張美帆。明国の海賊の娘。
メイリン      1374-    張美玲。メイファンの姉。
スーヨン      1387-    張思永。メイリンの娘。
メイユー      1376-    張美玉。メイファンの姉。尚巴志の側室になる。
ラオファン     1338-    黄敬。三姉妹の武術の師匠。
リェンリー     1376-    黄怜麗。ラオファンの娘。
ジォンダオウェン  1364-    鄭道文。三姉妹の配下の海賊。
ユンロン      1387-    鄭芸蓉。ジォンダオウェンの娘。 
リュウジャジン   1362-    劉嘉景。三姉妹の配下の海賊。
リィェンファ    1377-    楊蓮華。富楽院の妓楼『桃香滝』の女将。
ヂュヤンジン    1375-    朱洋敬。懐機の友。宮廷に仕える役人。
永楽帝       1360-1424  明国の皇帝。
リュウイェンウェイ 1389-    劉媛維。富楽院の最高級妓楼『酔夢楼』の妓女。
ファイホン     1379-    懐虹。懐機の妹。
ヂャンサンフォン  1247-    張三豊。武当山の道士で、武当拳創始者
シンシン      1390-    范杏杏。張三豊の弟子。
フカマヌル     1372-    外間ノロ。久高島のノロ。尚巴志の腹違いの妹。
奥間大親      1357-    ヤキチ。奥間から来た尚巴志の護衛役。中山の重臣。
平安名大親     1348-    勝連の重臣。ウニタキの叔父。
勝連ヌル      1369-    ウニタキの姉。
伊波按司      1363-    マチルギの兄。
山田按司      1365-    マチルギの兄。
攀安知       1376-1416  山北王。
マナビー      1397-    攀安知の次女。チューマチの妻。
涌川大主      1377-    攀安知の弟。
勢理客ヌル     1356-    アオリヤエ。攀安知の叔母。
アタグ       1355-    山北王に仕えるヤマトゥの山伏。
本部のテーラー   1376-1416  攀安知の幼馴染み。サムレー大将。
兼グスク按司    1378-    ンマムイ。武寧の次男。妻は攀安知の妹。
マハニ       1379-    兼グスク按司の妻。山北王、攀安知の妹。
ヤタルー師匠    1359-    阿蘇弥太郎。ンマムイの武術の師匠。
慈恩禅師      1350-1448  禅僧であり武芸者。ヒューガの師匠。
飯篠修理亮     1387-1488 武芸者。長威斎。
二階堂右馬助    1390-    慈恩の弟子。
一文字屋孫三郎   1361-    次郎左衛門の弟。坊津の一文字屋主人。
みお        1394-    一文字屋孫三郎の三女。
村上又太郎     1386-    村上水軍の頭領の長男。上関を守っている。
村上あや      1392-    村上又太郎の妹。
塩飽三郎入道    1358-    塩飽水軍の頭領。
一文字屋次郎左衛門 1355-    京都の一文字屋の主人。
まり        1394-    一文字屋次郎左衛門の三女。
高橋殿       1376-    足利義満の側室。道阿弥の娘。
対御方       1379-    足利義満の側室。高橋殿に仕えている。
平方蓉       1383-    陳外郎の娘。高橋殿に仕えている。
足利義持      1386-1428  室町幕府第四代将軍。
日野栄子      1390-1431  足利義持の奥方。
勘解由小路殿    1350-1410  斯波道将。将軍様の補佐役。
斯波左兵衛督    1371-1418  勘解由小路殿の嫡男。将軍様の補佐役。
中条兵庫助     1359-    将軍様の武術指南役。慈恩禅師の弟子。
中条奈美      1380-    中条兵庫助の娘。夫が戦死し、高橋殿に仕える。
外郎       1360-    陳宗奇。薬師。外交使節の接待役。
魏天        1350-    将軍様に仕える明国の通事。
栄泉坊       1389-    東福寺を追い出された画僧。
増阿弥       1368-    奈良の田楽新座の太夫。
一徹平郎      1355-    北野天満宮の宮大工。
源五郎       1359-    腕はいいが変わり者の瓦職人。
新助        1379-    龍ばかり彫っている等持寺の大工。
渋川道鎮      1372-1446  九州探題。勘解由小路殿の娘婿。
宗讃岐守貞茂    1364-1418  対馬守護。
平道全       1376-    宗貞茂の家臣。
宗金        1380-    博多妙楽寺の僧。
李芸        1373-1445  倭寇にさらわれた母親を探している朝鮮の役人。
シーハイイェン   1390-    施海燕。旧港宣慰司、施進卿の次女。施二姐。
ツァイシーヤオ   1390-    蔡希瑶。シーハイイェンの親友。
シュミンジュン   1342-    徐鳴軍。シーハイイェンの師匠。張三豊の弟子。
ワカサ       1364-    旧港の通事。若狭出身の倭寇
奥間の長老     1348-    ヤザイム。奥間大主。
サタルー      1387-    奥間の長老の跡継ぎ。尚巴志の息子。
奥間ヌル      1374-    奥間村のノロ。尚巴志の娘ミワを産む。
米須按司      1357-    武寧の弟。若按司の妻はタブチの娘。
玻名グスク按司   1358-    タブチの義兄。
イサマ       1375-    伊平屋島の田名大主の長男。田名親方の兄。
我喜屋大主     1359-    田名大主の弟。イサマの叔父。
サミガー親方    1361-    与論島で鮫皮を作っている親方。
麦屋ヌル      1373-    先代の与論按司の娘。ウニタキの従妹。
ハル        1395-    山南王のシタルーから尚巴志に贈られた側室。
クムン       1373-    島尻大里から来た石屋。
スヒター      1391-   マジャパイト王国の女王クスマワルダニの娘。
辺戸ヌル      1360-   安須森の麓の辺戸村のヌル。
カミー       1402-    アフリヌルの孫娘。
屋嘉比のお婆    1320-    先々代の屋嘉比ヌル。

 

スサノオ            ヤマト国の大王。牛頭天王
豊玉姫             スサノオの妻。
玉依姫             スサノオ豊玉姫の娘。ヒミコ。アマテラス。
アマン姫            玉依姫の妹。アマミキヨ
ユンヌ姫            アマン姫の娘。

 

2-112.十五夜(第一稿)

 与那原(ゆなばる)が台風にやられてから半月後、与那原グスクのお祭り(うまちー)が行なわれた。
 家や舟を失った者たちも多いので、今年のお祭りは中止しようと与那原大親(ゆなばるうふや)(マタルー)の妻、マカミーは考えたが、グスクに避難している者たちは、こんな時だからこそ、お祭りはやるべきだと言い、各地から救援に駆けつけてくれた人たちにもお祭りを見せて、感謝を伝えなければならないと言った。運玉森(うんたまむい)ヌルもヂャンサンフォンもやった方がいいと言ったので、マカミーはユリたちと相談して、やる事に決めた。
 準備をしていたユリ、シビー、ハル、それに女子(いなぐ)サムレーたちは忙しかった。ユリたちと女子サムレーたちも台風の後片付けを手伝って、炊き出しなどもやっていた。それと同時にお芝居の稽古にも励み、何とか、準備を間に合わせたのだった。
 お芝居の演目は『運玉森のマジムン屋敷』だった。一昨年(おととし)に演じ、今回が二度目だったので、女子サムレーたちも難なくやりこなした。旅のサムレーがマジムン(魔物)を退治をする話で、前回よりも面白い場面が多く、子供たちが大喜びしていた。
 旅芸人たちもやって来て、『舜天(しゅんてぃん)』を演じて喜ばれた。ウタキ巡りをしていた馬天(ばてぃん)ヌルの話だと、中グスクの北に舜天の子孫たちが住んでいて、旅芸人たちに『舜天』のお芝居を観せてくれと頼んだらしい。四月にヤンバル(北部)から帰って来た旅芸人たちは、首里(すい)の本拠地で『舜天』の稽古に励み、今回が初演だった。まだちょっとぎこちない場面が目立ったが、回数をこなせば、素晴らしい出し物になるだろう。
 お祭りの頃には台風の後片付けも終わって、あとはつぶれた家の再建だった。あとの事はマカミーに任せて、助っ人に来ていた人たちは皆、引き上げて行った。ユリたちも島添大里(しましいうふざとぅ)に帰って来たが、その翌日には、平田グスクのお祭りの準備のために平田に向かった。
 その頃、島添大里グスクでは、サスカサが中心になって、十五夜の宴(うたげ)の準備が進められていた。去年、サスカサはヤマトゥの将軍様の御所で行なわれた十五夜の宴に参加して、その華やかな催し物を月の神様を祀る島添大里グスクでも行なおうと決めたという。サスカサは毎月、満月の時にはお祈りをしているが、八月の満月は『中秋の名月』と呼ばれて特別なので、大々的にやりたいと言った。
 以前、サスカサだった運玉森ヌルもマチとサチを連れてやって来て、馬天ヌルも麦屋(いんじゃ)ヌルとカミーを連れてやって来た。サスカサは馬天ヌル、運玉森ヌルと相談して儀式の事などを決めていた。ナツとメイユーも手伝い、佐敷ヌルの屋敷に滞在しているリェンリー、ユンロン、スーヨンも手伝った。メイファンはチョンチを残して浮島に帰り、時々、チョンチに会いに来ていた。サハチも儀式の時に一節切(ひとよぎり)を吹いてくれとサスカサに頼まれ、曲を儀式に合わせるための稽古に励んだ。
 八月十五日、中山王の思紹(ししょう)も東行法師(とうぎょうほうし)の格好でヂャンサンフォンを連れて来た。サングルミー(与座大親)とソンウェイ(松尾)が一緒にいた。
 思紹は二胡(アフー)の調べが気に入って、時々、サングルミーを龍天閣(りゅうてぃんかく)に呼んでは二胡を聞いているらしい。今回も、月見の宴に二胡の調べはぴったりだと言って連れて来たようだ。
 ソンウェイはンマムイに連れられてヂャンサンフォンと会い、一か月の修行を積むつもりでいたが、台風が来たため、ヂャンサンフォンと一緒に復旧作業に従事していた。避難民のために働いていたせいか、ヂャンサンフォンと一緒にいるせいか、ソンウェイの顔付きが変わっていた。いつも苦虫をかみ殺したような顔をしていたのに、眉間(みけん)のしわが消えていた。リンジェンフォンの配下として数々の悪事をやって来た毒気が、少しづつ取れて行くような気がした。
 マチルギも準備の様子を見に来ていて、楽しみにしていたが、思紹が来てしまったので、留守番をしなければならなくなったようだ。龍天閣から満月を見上げて、悔しがるに違いない。
 二の曲輪(くるわ)を囲む石垣に赤い幕を張って、石垣の上に明国の灯籠(ドンロン)(提灯(ちょうちん))をいくつも並べた。庭にはコの字形に茣蓙(ござ)を敷いて、月がよく見える西側を上座にして、思紹やヂャンサンフォン、慈恩禅師(じおんぜんじ)、サハチの側室たちと子供たち、サグルー夫婦、イハチ夫婦、チューマチ夫婦たちが座り、左右に家臣たちが座った。平田に行っていたユリたちも戻って来て、女子サムレーたちと一緒に参加した。ウニタキ夫婦もファイチ(懐機)夫婦も子供たちを連れて来た。
 日が暮れると、サハチが吹く一節切が静かに流れ出した。
 満月が東の空から上がり始めた。雲に隠れる事もなく、見事な満月だった。
 サスカサを中心にヌルたちが、一の曲輪内にあるウタキで祈りを捧げた。二の曲輪にいる者たちも両手を合わせて、お月様に祈った。
 やがて、ヌルたちが二の曲輪に現れて、神歌(かみうた)を歌い始めた。サハチの吹く一節切に合わせて、カミーが舞い始めると、マチとサチも続いて、麦屋ヌルが優雅に舞い、運玉森ヌルも華麗に舞った。ヌルたちはヒレ(領巾)と呼ばれる細長くて綺麗な薄絹を肩から提げていて、そのヒレがヌルたちの舞をさらに美しく彩っていた。
 笛の調べが変わった。サハチが横笛を吹き始め、軽快な調べとなり、それに合わせてサスカサが舞い始めた。カミー、マチ、サチ、麦屋ヌル、運玉森ヌルは輪になってしゃがみ、その中でサスカサは蝶のように舞っていた。カミーがサスカサに合わせて舞い始めると、マチ、サチ、麦屋ヌル、運玉森ヌルが続き、両手を合わせて月を見上げ、神歌を歌っていた馬天ヌルも静かに舞い始めた。
 月明かりの下で、幻想的な天女の舞が繰り広げられ、サハチの吹く笛は少しづつ高音になっていき、「ピー」という高音のまま消えた。
 突然、辺りが暗くなった。
 空を見上げると、月が雲に隠れていた。
 石垣の上に並べられた灯籠が灯され、明るくなった。すでに、ヌルたちの姿は消えていた。
 夢でも見ていたのかと空を見上げると、雲間から月が顔を出した。
「儀式は終わりです。皆様、宴(うたげ)を楽しんでください」とサスカサが現れて言った。
 指笛が飛び、喝采が起こった。
 侍女たちによって、酒と料理が配られ、宴が始まった。
 サハチが席に戻ると、「凄いわ」とナツもメイユーもハルも言った。
「お月様がうまい具合に隠れてくれたので、成功したんだよ。感謝しなければな」とサハチはお月様に両手を合わせた。
 思紹に言われて、サングルミーが二胡を持って庭の中央に出た。皆が拍手をして迎えた。サングルミーは照れながら頭を下げ、二胡を弾き始めた。
 美しく切ない調べは月夜にぴったりだった。
 サハチはかつて、ここで行なわれた戦(いくさ)を思い出していた。サハチは参戦していなかったが、汪英紫(おーえーじ)(先代の山南王)がここを攻めた時、大勢の者たちが亡くなった。多分、それ以前にも、大きな戦があったのだろう。ここで戦死していった名もなき兵士たちの霊が、サングルミーの二胡によって、慰められているような気がした。
 サングルミーの演奏が終わると、
「朝鮮(チョソン)で手に入れたヘグム(奚琴)が泣いています」とファイチが言った。
「何かと忙しくて、ヘグムの稽古を忘れていました。わたしも頑張らなければなりません」
「サングルミーに負けるなよ」とウニタキがファイチの肩をたたいた。
「今の曲を聴いていたら、また明国に行きたくなってきたな」
「ああ」とサハチはうなづき、「楽しかったな」と言った。
 サングルミーのあとに、ヂャンサンフォンがテグム(朝鮮の横笛)を披露した。竹でできている長い笛なので、一節切と音色が似ていた。与那原グスクでは毎晩、ヂャンサンフォンが吹くテグムの調べが流れ、今日も一日が無事に終わったと皆が感謝しながら聴いていた。台風の避難民たちもヂャンサンフォンのテグムに励まされているという。
 月を見上げると、満月が笑っているように見えた。
 ウニタキが娘のミヨンと三弦(サンシェン)と歌を披露して、サハチの子供たちが横笛を披露して、メイユーたちも横笛を披露した。ユリの横笛に合わせて、女子サムレーたちが軽やかに舞い、ハルも『かぐや姫』の一場面を演じて、拍手を浴びた。
 十五夜の宴は大成功に終わり、来年は首里でもやりましょうと馬天ヌルは思紹に言い、
「そうじゃな」と思紹も笑ってうなづいた。
 九月十日、平田のお祭りも無事に終わった。シビーもハルも佐敷ヌルの代わりを必死になって務めていた。その日、島添大里グスクでは、ナツがサハチの五女を産んだ。母親も娘も無事だった。可愛い娘はサミガー大主の母親、我喜屋(がんじゃ)ヌルの名前をもらって、マカマドゥと名付けられた。
「お母さんに似た美人になって、立派な女子サムレーになれよ」とサハチはマカマドゥに言った。
「あら、この子は王様(うしゅがなしめー)のために、どこかの按司に嫁がせるんじゃなかったのですか」とナツが聞くと、
「こんな可愛い子をよその男にやれるか」とサハチは言った。
 真面目な顔をして言うので、メイユーはナツと顔を見合わせて、クスクスと笑った。
 九月の半ばには与那原の復興も終わり、避難民たちも我が家に落ち着いた。
 九月の下旬には首里グスクの北曲輪(にしくるわ)の石垣が完成した。土塁から石垣に変わって、見栄えは断然よくなり、今帰仁(なきじん)グスクに負けない立派なグスクになった。サハチは石屋のクムンたちを遊女屋(じゅりぬやー)『宇久真(うくま)』に招待して、みんなの苦労をねぎらった。
 十月の半ば、馬天浜のお祭りはいつもよりも盛大に行なった。速いもので、サミガー大主(うふぬし)が亡くなってから十年の月日が経っていた。各地のウミンチュたちを招待したので、サミガー大主が亡くなった時のように馬天浜は小舟(さぶに)で埋まり、夜遅くまで、お祭り騒ぎが続いた。サハチも浜辺に座り込んで、ウミンチュたちとの酒盛りを楽しんだ。
 舞台では、『サミガー大主その一』と『その二』が続けて演じられ、中部を旅していた旅芸人たちも帰って来て、『瓜太郎(ういたるー)』を演じた。
 ハルとシビーがヤマトゥの着物を着て、舞台の進行役をやっていて、二人の掛け合いが面白く、皆を笑わせていた。佐敷ヌルがいなくて、お祭りは大丈夫だろうかと心配していたサハチも、二人を見ながらすっかり安心していた。ハルは佐敷ヌルの代わりを務めるために、島添大里にやって来たのではないかとさえ思えた。女子サムレーになりたいと言って、メイユーの弟子になったシビーも、お祭りの魅力に取り憑かれて、佐敷ヌルの跡を立派に継いでくれそうだった。
 馬天浜のお祭りの翌日、メイユーたちが帰って行った。メイファンの屋敷の留守番をしていたリェンリーの父親のラオファンも帰った。ラオファンはすでに七十五歳になり、故郷が恋しくなったらしい。ソンウェイはずっとヂャンサンフォンのもとで修行を積んでいたようだ。
「ヂャンサンフォン殿のお陰で、わしは生まれ変わりました。三姉妹と共に新しい生き方を始めるつもりです。来年もまた来ます。約束は果たしますので、楽しみに待っていてください」
 ソンウェイはサハチにそう言った。確かに生まれ変わったようだった。今のソンウェイならサハチも信じられると思った。
「無理はするなよ。鉄炮を積んだ軍船は欲しいが、師弟(シーデイ)を失いたくはない」
 ソンウェイは笑って、「わかりました。師兄(シージォン)」と言って、小舟に乗り込んだ。
「いい仲間ができたわ」とメイユーがソンウェイを見ながらサハチに言った。
「ヂャンサンフォン殿のお陰だな」
「そうね。みんな、お師匠の弟子だから、裏切れないわ」
「そうだな。今年も旧港(ジゥガン)(パレンバン)まで行くのか」
「勿論よ」
「俺も一緒に行きたいよ」
「一緒に行けるといいわね」
「ああ、また、旅に出たくなってきた」
「王様が健在なうちに、旅に出た方がいいんじゃないの?」
「そうだな。三人の王様が同盟を結んでいる今なら行けるかもしれないな。親父と相談してみるよ。いや、親父に相談したら、わしの方が先じゃと言い出すだろう。マチルギも京都に行ってみたいと言っているしな。琉球を統一するまでは無理かもしれんな」
「ナツも京都に行きたいって言っていたわ」
「ナツはマカマドゥが大きくなるまでは無理だな」
「あたしもあんな可愛い娘が欲しいわ」
「娘に跡を継がせるのか」
「そうね。あたしたちの代で終わらせるわけにはいかないものね」
 メイユーは手を振って小舟に乗り込んだ。
 三姉妹の船を見送ると、
「一緒に行きたかったな」とウニタキが言った。
「チョンチの奴、すっかり琉球の言葉を覚えてしまいました」とファイチが言った。
「俺の子供たちもチョンチのお陰で、明の言葉を覚えたようだ。子供は物覚えが速いよ」
「ミヨンもファイチの奥さんから教わって、かなりしゃべれるようだ」とウニタキは言った。
「これからはヤマトゥ言葉だけでなく、明国の言葉も子供たちに教えた方がいいかもしれんな」とサハチは言った。
「お寺(うてぃら)で教えるのか」とウニタキが聞いた。
「ああ、ミヨンに教えてもらおうか」
「まだ、人に教えるほどじゃない」とウニタキは笑った。
「話は変わるが、シタルー(山南王)の様子がおかしいぞ」とウニタキは言った。
 小さくなった三姉妹の船を見ていたサハチはウニタキを見て、
「シタルーが何かをたくらんでいるのか」と聞いた。
「そうじゃなくて、毎晩、うなされているようだ。シタルーのもとには、俺の配下の女が二人、側室として入っている。一人はシタルーが中山王に送った側室のお返しとして、六年前に側室になったマクムだ。マクムは娘を一人産んで、今、その娘は五歳になる。もう一人は、ハルのお返しとして去年に贈ったマフニだ。二人ともシタルーがうなされているのを見ているんだ。それに、奥間(うくま)から贈られた側室のチヨも見ている」
「悪い病(やまい)にでも罹ったのか」とサハチは聞いた。
「病じゃない。親父の亡霊にうなされているようだ」
「親父の亡霊?」
 ウニタキは真面目な顔でうなづいた。
「最初は三人とも、悪い夢を見たのだろうと気にも止めなかったようだが、度々起こって、ある時、寝言を言ったそうだ。『親父が造った島添大里グスクは必ず取り戻す』そう言ったそうだ」
「なに、島添大里グスクを取り戻す?」
首里グスクではなくて、島添大里グスクですか」とファイチが聞いた。
 ウニタキはうなづいた。
「シタルーの親父は首里グスクの事は知らないのだろう」
「その寝言だが、シタルーに教えたのか」とサハチは聞いた。
「いや、寝言を聞いたのはマクムで、シタルーには言ってない。また、うなされていたと言っただけだ」
「そうか。それで、シタルーの反応はどうなんだ? 島添大里グスクを奪い返すつもりなのか」
「今の所はそんな気配はないようだ。だが、毎晩、親父が夢に出て来て、シタルーを責めれば、本気になるかもしれない。首里グスクより先に島添大里グスクを攻め取ろうと考えるかもしれんな」
「攻め取ると言っても、あのグスクはそう簡単には落とせないぞ」
「シタルーは石屋を送って来ただろう。その石屋が石垣に細工をしたとは考えられないか」
「まさか‥‥‥あいつはそんな事はしないだろう」
「気を付けた方がいいぞ」
 サハチはうなづいた。
 島添大里グスクに帰ると、石垣を点検してみたが、怪しい所は見つからなかった。石垣ではないとすると、グスク内にいるハルか二人の侍女を使って、門を開けさせるつもりかと考えた。門を開けさせたとしても、グスク内には守備兵が常に百人はいる。それらを倒すには、グスクを百人以上の兵で包囲しなければならなかった。武装した百人以上の兵が動けば、すぐにウニタキの配下から知らせが入り、待ち構えて倒す事ができる。
 シタルーはどうやって、このグスクを落とすつもりなのだろうか。
 サスカサに頼んで、ウタキも調べてもらった。女子サムレーたちを連れて、くまなく調べたが、抜け穴らしいのは見つからなかった。
 サハチはひとまず安心したが、一応、ハルにも聞いてみた。
「山南王(さんなんおう)がこのグスクを攻め取ろうとしているらしいが知っているか」とサハチが聞くと、
「ええっ!」と言って、ハルは目を丸くした。
「どうして、山南王がここに攻めて来るんですか」
「このグスクは山南王の親父さんが造ったグスクなんだよ。この二階建ての屋敷もそうだし、あちこちに飾ってある絵や壺も山南王の親父さんが明国から持って来た物なんだ。それで、山南王は取り戻そうと考えているようだ」
「そうだったのですか」とハルは屋敷内を見回して、「按司様(あじぬめー)が奪い取ったのですね」と言った。
「そういう事だな。山南王が攻めて来るとしたら、どんな手を使うと思う?」
「あたしたちに門を開けさせるのかしら?」
「誰かがお前にそんな指令を持って来た事があるのか」
 ハルは首を振った。
「でも、アミーさんなら忍び込んで、あたしに命令するかもしれません」
「アミーがどこから忍び込むというのだ?」
「東曲輪(あがりくるわ)です。佐敷ヌル様の屋敷の裏から忍び込めます」
「何を言っているんだ。あそこは崖だぞ。登れるわけがない」
「佐敷ヌル様の屋敷のそばに物見櫓(ものみやぐら)がありますが、あそこは非常時以外、見張りの兵はいません。外から石垣に登って、石垣に取り付いたまま、佐敷ヌル様の屋敷の裏まで移動して、忍び込むのです」
「どうして、お前がそんな方法を知っているんだ?」
「このグスクを守るために、あたしなりに調べました。アミーさんだったら、どうやって忍び込むだろうって考えたのです」
 サハチはハルと一緒に東曲輪の外に出てみた。石垣の高さは二丈(約六メートル)近くもあった。物見櫓が見える所まで来て、さらに進むと険しい崖になっていた。
 ハルは懐(ふところ)から鉤(かぎ)の付いた縄を取り出して、石垣を目掛けて投げ付けた。鉤が石垣の上部に引っ掛かった。
「お前、いつも、そんな物を持ち歩いているのか」とサハチは驚いてハルに聞いた。
「いつ何が起こるかわかりません。お守り代わりに持っています」とハルは笑った。
 まるで、ウニタキのようだと思い、サハチはハルを見て笑った。
 ハルは縄に取り付くと素早く石垣を登り、一番上に手を掛けると、そのまま右側に移動して、サハチに登るように言った。
 サハチは縄を頼りに石垣に登って、一番上に手を掛けた。
「行きますよ」と言って、ハルは石垣にぶら下がったまま右の方に移動した。サハチもハルのあとを追った。下を見ると険しい崖で、落ちたら死ぬだろう。
 佐敷ヌルの屋敷の裏まで行くと、ハルは石垣の上に登って、サハチが来るのを待った。
 サハチも石垣の上に登り、鉤付き縄をハルに返した。
 ハルは笑って鉤付き縄を受け取ると、その縄を使ってグスク内に潜入した。サハチもあとを追った。
「まいったな」とサハチは言った。
「簡単に潜入できるな」
「物見櫓の上に常備、兵を置けば防げます」とハルは言った。
「夜は防げんだろう」
「篝火(かがりび)でも焚いて明るくするしかないですね」
 佐敷ヌルの屋敷の裏から出ると、娘たちの剣術の稽古が始まる所だった。
「あたしも教えなくちゃ」と言って、ハルは佐敷ヌルの屋敷に入って、木剣を持って娘たちの所に行った。
 サハチは物見櫓に登って、石垣の外を眺めた。ここに見張りの兵がいれば、アミーも石垣には近づけないだろう。しばらくの間、交替で見張りをここに立たせようと決めた。
 サハチは西曲輪(いりくるわ)の方を見た。同じやり方で、西曲輪のサムレー屋敷の裏から潜入する事ができると思った。サハチは一の曲輪を見た。石垣をずっと伝わって行けば、一の曲輪の屋敷の裏にも潜入できた。西曲輪にも物見櫓を造って、石垣の外を見張らせなければならないと思い、すぐに実行に移した。
 三日後、今年二度目の進貢船(しんくんしん)が船出して行った。
 正使は宇座按司(うーじゃあじ)の長男のタキだった。タキは山南王の正使として三度、明国に行っていた。大グスク大親の讒言(ざんげん)によって、山南王のもとを離れる事になり、中山王に仕える事になった。タキの妻は中山王の重臣の中北大親(なかにしうふや)の娘で、中北大親は娘婿のタキが戻ってくれた事を喜んでいた。タキは名前を改め、島尻大親(しまじりうふや)を名乗って中山王の正使となった。副使は去年、サングルミーの副使を務めた末吉大親(しーしうふや)、サムレー大将は伊是名親方(いぢぃなうやかた)、従者として行ったのは中山王の重臣の倅たちだった。

 

 

 

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