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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-83.伊平屋島のグスク(第一稿)

尚巴志伝 第二部

 サグルーたちが奥間(うくま)の木地屋(きじや)の案内で、辺戸岬(ふぃるみさき)の近くにある宜名真(ぎなま)という小さなウミンチュの村(しま)に着いたのは島添大里(しましいうふざとぅ)を出てから四日目の事だった。
 三日目の夜は奥間に泊まり、サグルーとジルムイは腹違いの兄、サタルーと会っていた。サタルーの事は母から聞いていて、将来、奥間の長老になる人だから今のうちに会っておきなさいと言われた。サグルーもジルムイも兄がいると聞いて驚いた。父と母が一緒になる前、父が奥間に行った時、一夜妻(いちやづま)との間にできた子で、母親はすでにいないという。
 サタルーは弟のサグルーとジルムイを歓迎してくれた。一体、どんな奴だろうと二人は期待と不安を併せ持った形で奥間に行ったが、サタルーの笑顔を見た途端、素直に兄だと認めていた。武芸の腕もかなりあり、尊敬すべき兄だと感じていた。
 一緒に行った男たちは皆、一夜妻を与えられ、奥間の夜を楽しんだ。勿論、サグルーもジルムイもマウシもかみさんには絶対に内緒だぞと言い合いながら、一夜妻を抱いていた。イヒャカミーとファーの二人はサタルーの妻の歓迎を受け、村の女たちと一緒にユンタク(おしゃべり)して楽しい夜を過ごした。
 宜名真に着いた日も次の日も、風が強く波も高かったので船出は見合わせた。六日目にウミンチュから借りた小舟(さぶに)二艘に乗って、伊平屋島(いひゃじま)のウミンチュの指示に従って、伊平屋島を目指した。
 北東の風を横に受けて、小舟は順調に走ったが、途中で波が荒くなって何度も冷たい波をかぶり、行き先を修正するために必死になって漕いだりして、くたくたになって着いた所は伊是名島(いぢぃなじま)だった。
 イサマに連れられて、ナビーお婆の孫の仲田大主(なかだうふぬし)とナビーお婆の娘の仲田ヌルと会った。仲田ヌルは、今、明国に行っている伊是名親方(いぢぃなうやかた)の姉だった。二人とも伊平屋島での出来事は知っていて、イサマが戻って来た事に驚いた。
「中山王(ちゅうさんおう)が伊平屋島伊是名島も守ってくれます」とイサマは言って、父親を救い出すために帰って来たと二人に告げた。
 イサマがサグルーとジルムイをサミガー大主の曽孫(ひまご)だと紹介すると仲田大主は驚き、慌てて頭を下げた。
「祖母からサハチさんの事は聞いています。サハチさんの息子さんたちですか」と仲田大主は聞いた。
 サグルーとジルムイはうなづいた。二人とも、サミガー大主の妹のナビーお婆が伊是名島で鮫皮作りを始めたという話は聞いているが、詳しい事は知らなかった。
「そうでしたか。中山王は大切なお孫さんを送り込んでくれたのですね。伊是名島も祖母が鮫皮(さみがー)作りを再開してくれたお陰で、島は豊かになりました。島の者たちも決して、その恩を忘れているわけではありません。山北王(さんほくおう)のために鮫皮を作っているんじゃないと言って、島を出ようとした者もいました。しかし、島を守るために引き留めました。今は我慢するしかないと言って‥‥‥どうか、山北王から伊是名島伊平屋島を守って下さい」
 サグルーは力強くうなづいてから、山北王の兵の事を聞くと、伊是名島にはいないという。
 サグルーたちは次の日、苦労して伊平屋島に渡った。近くの島なのに、風に逆らい、大波に揺られ、何度も波をかぶって、ようやく伊平屋島の南端の砂浜に上陸した。
 山北王の兵に見つかると危険なので、山の中に入った。焚き火をして着物を乾かし、体を温めてから、一時(いっとき)(約二時間)近く、道のない山の中を歩くと山頂に出た。驚いた事に山頂は石垣で囲まれていた。
「百年ほど前、今帰仁(なきじん)の兵が伊平屋島に攻めて来ました。その時、ここにグスクを築いて、敵を追い返したと伝えられています」とイサマは説明した。
「百年前、今帰仁按司はどうして伊平屋島を攻めたのですか」とジルムイがイサマに聞いた。
今帰仁按司の家来(けらい)だった本部大主(むとぅぶうふぬし)という者が裏切って、按司を殺して、自ら今帰仁按司になったのです。その頃は伊平屋島にも按司がいて、先代の今帰仁按司の一族だったのです。伊平屋按司は本部大主の兵と戦って勝ち、伊平屋島を守り通します。このグスクは伊平屋按司の重臣だった我喜屋大主(がんじゃうふぬし)が造ったものです。我喜屋大主が造ったグスクはもう一つあって、あの山の上にもあります」
 そう言って、イサマは小さな平野を挟んで向こう側に見える山を指さした。
「今は我喜屋(がんじゃ)の村(しま)はあの山の麓(ふもと)にありますが、以前はこの山の麓にあったのです。台風にやられて、向こう側に移ったようです。そして、さらに北(にし)の方の田名(だな)の山の上に伊平屋按司が築いたグスクがあります」
 サグルーたちは山を北側に下りて、我喜屋村の後ろにある山の中に隠れた。女の方が怪しまれないだろうと思い、女子(いなぐ)サムレーのイヒャカミーと三星党(みちぶしとー)のファーを偵察に出した。伊平屋島生まれの二人は我喜屋大主の屋敷も、田名大主が閉じ込められた物置小屋がある役所の位置も知っていた。
 しばらくして帰って来た二人は我喜屋大主の屋敷には敵兵はいないが、役所には四人の敵兵がいた。他にはどこにも見当たらないので今帰仁に帰ったのだろうと言った。
 暗くなるのを待って、サグルー、ジルムイ、マウシの三人がイサマと一緒に我喜屋大主の屋敷に行った。
 我喜屋大主はイサマの出現に驚き、さらに、中山王の孫たちが一緒にいる事に言葉が出ないほどに驚いた。
 イサマが父親の田名大主の様子を聞くと、ちゃんと食事も取っているので大丈夫だと我喜屋大主は言った。山北王の兵の事を聞くと、田名にある田名大主の屋敷に二十人いるという。交替で四人が我喜屋にやって来て、田名大主が閉じ込められている物置小屋を見張っているらしい。
「二十人か‥‥‥」とサグルーはつぶやいた。思っていたよりも敵は多かった。
 我喜屋大主と作戦を練り、翌日の晩、田名大主を救出する事に決まった。その夜は我喜屋村のはずれにある空き家で夜を明かした。ウミンチュのヤシーの知り合いの家で、住んでいた家族は田名に移って行ったという。
 我喜屋大主が用意してくれた握り飯を食べながら、「二十人を倒すのか」とマウシがサグルーに聞いた。
「場合によってはな」とサグルーは答えた。
「二十人は厳しいな」とジルムイは言った。
「何も一遍に倒さなくてもいい。奇襲して、少しづつ倒して行くんだ」
「奇襲を掛ける前に拠点になる場所を決めなくてはな」とマウシが言った。
「明日、探そうぜ」
 サムレーのムジルとバサー、女子サムレーのイヒャカミー、三星党のヤールーとファーは皆、キラマ(慶良間)の島の修行者だった。
 一番の先輩はムジルで、十五歳の時にキラマの島に渡り、十年間、修行を積んで、首里(すい)八番組の副大将を務めている。今回、新たに作る伊平屋島伊是名島の守備兵の大将に選ばれていた。八番組にいるジルムイの上役でもあった。
 バサーは十四歳の時にキラマの島に渡り、四年間の修行ののち、首里の九番組のサムレーになった。今回、ムジルの配下になる事が決まって、ムジルと一緒に先発隊として現地に入ったのだった。
 イヒャカミーは十三歳の時にキラマの島に渡り、五年間の修行ののち、島添大里の女子サムレーになり、四年後、首里の女子サムレーになった。マチルギと一緒にヤマトゥにも行っていた。
 ヤールーは十三歳の時にキラマの島に渡り、八年間の修行ののち、三星党に入り、サグルーの護衛を務めている。
 ファーは十二歳の時にキラマの島に渡り、五年間の修行ののち、三星党に入り、首里の『まるずや』の売り子をしながら各地の情報を集めていた。
 五人は懐かしそうにキラマの島での思い出話を話しながら笑っていた。
 イサマは、山北王のサムレーたちは勝手にわしの屋敷に上がり込みやがってと文句を言いながら、ウミンチュの二人と酒を飲んでいた。
 翌日はいい天気だった。我喜屋村の裏山に登った。山頂には石垣が残っていた。ちょっと手直しすれば、グスクとして使えそうだった。眺めもよく、伊江島(いーじま)のタッチュー(城山)もよく見えた。ここで見張っていれば、敵の船が近づいて来るのもわかるだろう。
 ムジルはバサーを連れて、石垣の様子を丹念に調べ、「わしらのグスクにしよう」と言った。
 山の中を通って田名に行き、田名グスクに登ってみた。田名グスクにも石垣は残っていたが、やはり、場所的には我喜屋の方がよかった。頂上から田名の集落を見下ろしながら、ムジルとバサーとファーは親の住む家を見ていた。田名大主を救い出すまでは、顔を出す事はできない。帰って来た事がわかれば、親たちは山北王の兵に捕まってしまうだろう。
 イサマがサグルーたちに鮫皮を作っている作業場を教えてくれた。作業場は海辺の近くにあった。
対馬から早田(そうだ)殿が鮫皮を求めて、伊平屋島にやって来たのは、もう七十年も前の事になります」とイサマは言った。
「曾祖父のヤグルー大主は我喜屋から田名に移って鮫皮作りを始めます。その頃はもう伊平屋按司は一族を連れて今帰仁に移っていて、田名には空き家がいくつもあったようです。その空き家を作業場にして鮫皮作りを始めたのです。大伯父のサミガー大主が馬天浜で鮫皮作りを始め、大伯母のナビーお婆が伊是名島で鮫皮作りを始め、祖父がヤグルー大主の跡を継いで、ここで鮫皮を作り続けます。伊平屋島伊是名島は鮫皮作りのお陰で裕福な島になりました」
「田名大主の屋敷はどこですか」とサグルーがイサマに聞いた。
「この山の麓です。ここからは見えません」
「そこに敵兵がいるんだな」とマウシが言った。
「蔵の中には早田殿との交易で蓄えたヤマトゥの品々がしまってあります。皆、奴らに奪われたに違いありません」
 そう言ってイサマは悔しそうな顔をして、遠くを眺めた。
「取り戻しますよ」とサグルーは言った。
 サグルーたちは田名グスクから下りて、我喜屋村の空き家に戻った。日が暮れるのを待って、イサマと二人のウミンチュを残して、サグルーたちは田名大主が閉じ込められている物置小屋に行った。見張りの兵は誰もいなかった。我喜屋大主が兵たちに酒と料理でもてなすと言ったので、見張りも置かずに酒を飲んでいるようだ。サグルーたちは簡単に田名大主を救い出して空き家に戻った。
 山北王の兵は皆、田名にいるので夜が明けるまでは安全だろう。それでも交替で見張りをしながら夜が明けるのを待ち、夜が明けるとすぐに山の中に入って、小舟の所に戻った。イサマと田名大主をウミンチュのヤシーに頼んで浮島に送った。来る時は苦労したが、帰りは北風を受けて南下するので簡単だった。
 一仕事が終わったとサグルーたちが空き家に戻ると我喜屋は大騒ぎになっていた。田名大主が逃げた事を知った山北王の兵たちが我喜屋大主の家族を全員捕まえて、無理やり、島から追い出してしまったという。
 ヤールーが調べた所によると我喜屋大主と妻、長男とその妻と子供が三人、次男とその妻と子供が二人、長女の我喜屋若ヌルと十五歳の三女、妻の妹の我喜屋ヌルの十四人が島から追い出されたらしい。山北王の兵たちは田名大主の屋敷から我喜屋大主の屋敷に移って、酒を飲んで騒いでいるという。
「最初からこれが目的だったのかもしれんぞ」とサグルーが言った。
「我喜屋大主たちを追い出すのが目的だったのか」とマウシがサグルーに聞いた。
「そうさ。見張りが一人もいないのでおかしいと思ったんだ。我喜屋大主は山北王の役人を務めているから理由もなく追い出す事はできない。田名大主を逃がした罪で捕まえて、今帰仁に連れて行って罰を受けるか、島から出て行くかを選ばせたのだろう。中山王の親戚を全員追い出して、この島を完全に支配するつもりに違いない」
「それで、これから俺たちはどうするんだ」とマウシが聞いた。
「山北王の兵を片付けるのさ」とサグルーが言うと、ムジルがうなづき、皆、緊張した顔付きになった。
 三星党のヤールーとファーが偵察に出掛けた。しばらくして、ファーが戻って来て、敵兵五人が今帰仁に帰って行ったと知らせた。
「我喜屋大主を追い出した事を知らせに行ったのだろう」とジルムイが言った。
「知らせるだけではない。敵兵を呼びに行ったのだろう。邪魔者がいなくなったから、兵を入れて、中山王の交易船を待ち構えるに違いない」とムジルが言った。
「敵兵が来る前に十五人は片付けた方がいいな」とマウシは言った。
「奴らは今夜も酒を飲むだろう。今夜、決行するぞ」とサグルーは言った。
「飛び道具が欲しいですね」とバサーが言った。
「田名大主の屋敷にあるかもしれない」とジルムイが言った。
 我喜屋から田名までは一里ほどの距離なのだが山の中を通って行くと時間が掛かった。
「弓矢が欲しいが、石つぶてで我慢しよう」とムジルが言って、皆もうなづいた。
 イヒャカミーが実家に帰って、用意してもらった雑炊(じゅーしー)を食べているとファーが戻って来て、五人の兵が山に登って行ったと知らせた。
「敵もグスクを調べに行ったに違いない。グスクを再建して、ここに按司を置くつもりなのかもしれない」とムジルが言った。
 ウミンチュのカマチを空き家に残して、サグルー、マウシ、ジルムイ、ムジル、バサー、イヒャカミーの六人は山に入って敵兵を追った。
 五人の敵兵は山頂から海を眺めながら笑っていた。石垣に隠れて五人を見ていたサグルーたちは一斉に飛び出して、五人の敵兵に掛かって行った。油断していた敵兵はあっけないほど簡単に、棒で急所を突かれて倒れた。誰かが危なかったら助けようと待ち構えていたムジルの出番はなかった。
 倒れた五人から武器を奪い取って、とどめを刺し、死体は崖下に放り投げた。刀が五本と弓矢が二つ、手に入った。
 空き家に戻って休んでいると、敵兵二人が山に入ったとファーが知らせた。五人が戻って来ないので様子を見に行ったのだろうと、サグルー、マウシ、ジルムイの三人が山に入った。
 しばらくしてサグルーたちは刀を二本持って戻って来た。
「敵は八人になった」とサグルーが言った。
「人数は減ったが、山に入った奴らが戻って来ない事を知ったら警戒するぞ」とムジルは言った。
「守りを固められたらやりづらくなるな」とサグルーは言って、「今のうちに片付けるか」と皆の顔を見た。
 皆はうなづき、敵から奪った刀を腰に差して、棒を持ち、弓矢はバサーとイヒャカミーが持った。
 ファーが料理を持って来た振りをして、我喜屋大主の屋敷に入り、縁側から山北王の兵たちに声を掛けた。昼間から酒を飲んでいた兵たちはファーを見ると、ニヤニヤしながら「上がって来い」と言った。
 兵の一人が立ち上がってファーを迎えに行こうとしたが、胸に弓矢が刺さって倒れた。
 兵たちは突然の事に何が起こったのかわからない。サグルーたちは一斉に屋敷に飛び込み、兵たちを片付けた。隊長らしい男が刀を抜いて刃向かって来たが、他の者たちは刀を抜く間もなく殺された。隊長はマウシによって斬られた。
 サグルーたちが兵たちのとどめを刺していると、今まで自宅に隠れていた村人たちがぞろぞろと庭に入って来た。我喜屋大主の娘婿のタラジという若者が、「義父(ちち)からあなたたちの事は聞きました」と言った。
「邪魔にならないように、島人(しまんちゅ)たちには出歩かないようにと伝えました」
「そうだったのか」とサグルーはタラジにお礼を言った。
 兵たちの死体を風葬地(ふうそうち)に運び、屋敷を綺麗に掃除をして、サグルーたちは我喜屋大主の屋敷に滞在する事にした。
 翌日、田名大主の屋敷に行ってみると、屋敷の中は綺麗に片付いていた。山北王の兵たちが出て行ったあと、村人たちが掃除をしたらしい。蔵は錠前が掛けられてあった。隊長が持っていた鍵を使って開けると、蔵の中は荒らしてはいないようだった。隊長の権限では蔵の中の物を勝手に持ち出す事はできなかったのだろう。よかったと安心して、元のように錠前を掛けた。
 我喜屋に戻って、村人たちと一緒に山の山頂に見張り小屋を建てた。そろそろ、味方の第二陣がやって来る頃だった。
 翌日、第二陣の十人がやって来た。サグルーたちと同じようにヤンバルまで陸路で行き、宜名真から小舟に乗って渡って来た。うまい具合に真っ直ぐ伊平屋島まで来られたという。山北王の領地を通って来たため庶民の格好をしていたが、刀は隠して持って来ていた。十人はムジルの配下となって、ムジルと一緒に山の上のグスク造りを始めた。
 その次の日の十二月四日、第三陣の十人がやって来て、六日に十人、七日に十人、十一日に十人、十二日に十人が来て、サグルーたちを入れて七十八人になった時、山北王の兵を乗せた船がやって来た。
 敵兵は五十人乗っていた。湧川大主(わくがーうふぬし)も来るはずだったが、ヤマトゥからの船が早々とやって来たので、来られなくなった。代わりに大将としてやって来たのは奄美按司(あまみあじ)だった。奄美大島の汚名を挽回して、中山王の交易船を奪い取って凱旋しようと張り切っていた。
 将軍様が中山王と取り引きを始め、旧港(ジゥガン)(パレンバン)からの船も若狭にやって来た。京都に直接、明国の陶器や南蛮の商品が入って来たため、その需要が高まって値が上がった。京都に商品を持って行って一儲けしようと倭寇(わこう)たちが北風が吹くのを待ってやって来たのだった。今帰仁の港、親泊(うやどぅまい)だけでなく、浮島にも早々と倭寇たちがやって来て、久米村(くみむら)の者たちや首里(すい)の役人たちも大忙しになっていた。
 伊平屋島の周りはずっと珊瑚礁に囲まれていて、大型の船は近づく事ができず、沖に泊まって、小舟に乗って上陸するしかなかった。島人たちが小舟で迎えに行って、兵たちを島に連れて来た。
 五十人の兵は我喜屋大主の屋敷に二十人、我喜屋ヌルの屋敷に二十人、我喜屋大主の次男、アタの屋敷に十人が入って、島人たちの歓迎を受け、酒と料理で持て成された。
 我喜屋大主の屋敷に入った大将の奄美按司が、先発隊の奴らはどうしたと島人に聞いた。田名大主の屋敷にいると島人は言った。呼んで来いと奄美按司は命じた。
 日が暮れる頃、長い間、船に揺られた疲れと酒の酔いで、ほとんどの者たちが居眠りを始めた。三軒の屋敷は同時に、中山王の兵たちの攻撃を受けた。
 刃向かって来た者は殺され、眠っていた者は棒で急所を突かれて気絶させられた。五十人のうち、十四人が殺され、三十六人は武器を取り上げられて縛られた。味方の戦死者はなく、数人の負傷者は出たが重傷の者はいなかった。
 奄美按司も捕まり、敵の作戦を聞く事ができた。山北王は百五十人の兵を伊平屋島に送り込んで、ヤマトゥから帰って来る中山王の交易船を待ち構え、何も知らずにやって来た船をいつものように歓迎して迎え、使者たちを島に連れて来て捕まえ、使者たちを人質にして船を奪い取ると言った。
 ムジルは兵を引き連れて敵の船に行き、十数人の船乗りたちを捕まえて縛った。帆を上げるための綱をすべて切り、舵(かじ)をつないでいる綱も切って使えないようにし、船を漕ぐ櫂(かい)も海に投げ捨てた。捕虜となった敵兵三十六人も連れて来て、甲板(かんぱん)下の船倉(ふなぐら)に閉じ込めた。奄美按司も兵たちと一緒に閉じ込められた。
 翌日、中山王の十人がやって来て、その翌日、山北王の兵五十人がやって来た。前回と同じように迎え入れ、先発隊はどこに行ったと聞かれると山の上のグスクを直していると説明し、日暮れ頃に襲撃して、捕まえた兵は最初の船の船倉に押し込め、船乗りたちは乗って来た船の船倉に押し込めた。
 次の日、最後の十人がやって来た。その中にはサハチとウニタキがいた。サグルーとジルムイが驚くと、母さんが心配して、行ってこいと言われたという。
「お前たちのお陰で、奥間の孫たちに会えたぞ。ただ、船旅は辛かった。この通り、びっしょりだ」とサハチは笑った。
 サハチとウニタキが来た翌日、山北王の兵、最後の五十人がやって来た。前回と同じように始末した。
 サグルーたちが伊平屋島に来てから二十日が経ち、ムジルは配下の兵たちを指揮して、グスク造りに励んでいた。サハチとウニタキが山に登った時は、兵たちが石垣を積み直していて、石垣に囲まれた山頂には小屋が三つ立っていた。
「この島にグスクがあったなんて驚いたな」とサハチが言うと、ムジルがイサマから聞いた百年前の戦(いくさ)の話を聞かせた。
「百年前と言うと、サミガー大主の親父が南部から逃げて来た頃の話だな」
「ヤグルー大主殿がこの島に来たのは、戦があってから二十年くらいあとだったと言っていました」
「そうか。この島で戦があったのか」
 そう言ってサハチは海を眺めた。伊是名島が見え、その先に伊江島のタッチューと今帰仁のある本部半島が見えた。
 ヤマトゥからの交易船が帰って来たのは、それから八日後の事だった。知らせを受けて、山の上に登ったサハチは、帆に北風を受けて気持ちよさそうに走っている交易船を見ながら、伊平屋島が山北王に奪われなくて本当によかったと実感していた。

 

 

 

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目次 第二部

目次

尚巴志伝 第二部

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このイラストはは和々様よりお借りしました。



  1. 山田のウニウシ(第二稿)   護佐丸、尚巴志を頼って首里に行く。
  2. 胸のときめき(第二稿)   護佐丸、島添大里で恋をする。
  3. 恋の季節(第二稿)   サグルーとササ、山田で魂を抜かれる。
  4. キラマの休日(第二稿)   尚巴志夫婦、毎年恒例の旅で慶良間の島に行く。
  5. ナーサの遊女屋(第二稿)   中山王の家臣たちの懇親の宴。
  6. 宇座の古酒(第二稿)   尚巴志、宇座の御隠居の倅と古酒を飲む。
  7. 首里の初春(第二稿)  中山王となった思紹の初めての正月。
  8. 遙かなる船路(第二稿)  尚巴志、ウニタキ、懐機、明国に行く。
  9. 泉州の来遠駅(第二稿)   明国に着いた尚巴志たちは来遠駅に落ち着く。
  10. 麗しき三姉妹(第二稿)   尚巴志たち、福州に行きメイファンと再会する。
  11. 裏切り者の末路(第二稿)   尚巴志たち、メイファンの敵討ちを助ける。
  12. 島影に隠れた海賊船(第二稿)   尚巴志たち、明の海賊船に乗る。
  13. 首里のお祭り(第二稿)   護佐丸、ササたちと祭りの警備をする。
  14. 富楽院の桃の花(第二稿)   尚巴志たち、明国の都、応天府に着く。
  15. 応天府の夢に酔う(第二稿)   尚巴志たち、最高級の妓楼で夢を見る。
  16. 真武神の奇跡(第二稿)   討伐軍を破って皇帝になった永楽帝
  17. 武当山の仙人(第二稿)   尚巴志たち、武当山で張三豊と出会う。
  18. 霞と拳とシンシンと(第二稿)   尚巴志とウニタキ、張三豊に武術を習う。
  19. 刺客の背景(第二稿)   馬天ノロ、刺客の正体を探る。
  20. 龍虎山の天師(第二稿)   尚巴志たち、道教の本山、龍虎山に行く。
  21. 西湖のほとりの幽霊屋敷(第二稿)   尚巴志たち、三姉妹と再会する。
  22. 清ら海、清ら島(第二稿)  三姉妹と張三豊が琉球に来る。
  23. 今帰仁の天使館(第二稿)   旅に出た張三豊たちが帰って来る。
  24. 山北王の祝宴(第二稿)   攀安知、志慶真の長老から今帰仁の歴史を聴く。
  25. 三つの御婚礼(第二稿)   サグルー、尚忠、護佐丸、妻を迎える。
  26. マチルギの御褒美(第二稿)   尚巴志、妻のマチルギにしぼられる。
  27. 廃墟と化した二百年の都(第二稿)   尚巴志、ウニタキと浦添に行く。
  28. 久高島参詣(第二稿)  思紹王、女たちを連れて久高島へ行く。
  29. 丸太引きとハーリー(第二稿)   尚巴志、豊見グスクでハーリーを見る。
  30. 浜辺の酒盛り(第二稿)   尚巴志、ヤマトゥに行くマチルギたちを見送る。
  31. 女たちの船出(第二稿)   マチルギたち、長い船旅を楽しみ博多に着く。
  32. 落雷(第二稿)   尚巴志、雷鳴を聞きながらマジムン退治を思い出す。
  33. 女の闘い(第二稿)   三姉妹の船が来て、メイユーとナツが会う。
  34. 対馬の海(第二稿)   マチルギ、対馬島でイトとユキに会う。
  35. 龍の爪(第二稿)   尚巴志、ウニタキ、懐機、朝鮮旅の計画を練る。
  36. 笛の調べ(第二稿)   久し振りに佐敷グスクから笛の音が流れる。
  37. 初孫誕生(第二稿)   尚忠の長男、尚志達、生まれる。
  38. マチルギの帰還(第二稿)   女たちがヤマトゥから無事に帰国する。
  39. 娘からの贈り物(第二稿)   尚巴志、マチルギから旅の話を聞く。
  40. ササの強敵(第二稿)   馬天ノロ、日代(ティーダシル)の石を探し始める。
  41. 眠りから覚めたガーラダマ(第二稿)   ササ、読谷山で古い勾玉を見つける。
  42. 兄弟弟子(第二稿)   尚巴志、兼グスク按司武当拳の試合をする。
  43. 表舞台に出たサグルー(第二稿)   サグルー、尚巴志の代理を見事に務める。
  44. 中山王の龍舟(第二稿)   ウニタキの新しい隠れ家が完成する。
  45. 佐敷のお祭り(第二稿)   尚巴志の一節切と佐敷ヌルの横笛に大喝采。
  46. 博多の呑碧楼(第二稿)   朝鮮旅に出た尚巴志たち、博多に着く。
  47. 瀬戸内の水軍(第二稿)   尚巴志村上水軍と塩飽水軍の頭領と会う。
  48. 七重の塔と祇園祭り(第二稿)   尚巴志たち、京都に着く。
  49. 幽玄なる天女の舞(第二稿)   尚巴志が一節切を吹くと美女が舞う。
  50. 天空の邂逅(第二稿)   尚巴志たち、七重の塔に登って感激する。
  51. 鞍馬山(第二稿)   尚巴志たち、鞍馬山で武術修行。
  52. 唐人行列(第二稿)   尚巴志、増阿弥の芸に感動する。
  53. 対馬の娘(第二稿)   尚巴志、イトと再会、ユキとミナミに会う。
  54. 無人島とアワビ(第二稿)   尚巴志、昔の顔なじみと再会する。
  55. 富山浦の遊女屋(第二稿)   尚巴志たち、富山浦(釜山)に渡る。
  56. 渋川道鎮と宗讃岐守(第二稿)   尚巴志九州探題対馬守護に会う。
  57. 漢城府(第二稿)   尚巴志たち、朝鮮の都に到着する。
  58. サダンのヘグム(第二稿)   尚巴志たち、ナナの案内で都見物。
  59. 開京の将軍(第二稿)   尚巴志たち、高麗の都に行く。
  60. 李芸とアガシ(第二稿)   尚巴志、李芸と会う。
  61. 英祖の宝刀(第二稿)   佐敷ノロ、神様の声を聞いて宝刀を探す。
  62. 具志頭按司(第二稿)   佐敷ノロ、お祭りでお芝居を上演する。
  63. 対馬慕情(第二稿)   尚巴志、家族を連れて舟旅に出る。
  64. 旧港から来た娘(第二稿)   尚巴志、旧港の施二姐と会う。
  65. 龍天閣(第二稿)  尚巴志、旧港の船を連れて琉球に帰る。
  66. 雲に隠れた初日の出(第二稿)   尚巴志、上間グスクの警固を強化する。
  67. 勝連の呪い(第二稿)   尚巴志の義兄サムが勝連按司になる。
  68. 思紹の旅立ち(第二稿)   思紹、張三豊と一緒に明国に行く。
  69. 座ったままの王様(第二稿)   佐敷大親とジクー禅師、ヤマトゥに行く。
  70. 二人の官生(第二稿)   尚巴志、明国に送る留学生を決める。
  71. ンマムイが行く(第二稿)   兼グスク按司、家族を連れて今帰仁に行く。
  72. ヤンバルの夏(第二稿)   兼グスク按司、家族を連れてヤンバルを巡る。
  73. 奥間の出会い(第二稿)   兼グスク按司、奥間で隠し事を聞いて驚く。
  74. 刺客の襲撃(第一稿)   兼グスク按司、ヤンバルの山中で襲われる。
  75. 三か月の側室(第一稿)   メイユー、尚巴志の側室になる。
  76. 百浦添御殿の唐破風(第一稿)   首里グスク正殿の改築が完成する。
  77. 武当山の奇跡(第一稿)   思紹、武当山で張三豊の凄さを知る。
  78. イハチの縁談(第一稿)   米須按司と玻名グスク按司が東方に寝返る。
  79. 山南王と山北王の同盟(第一稿)   山北王の娘が山南王の三男に嫁いで来る。
  80. ササと御台所様(第一稿)   ササ、伊勢神宮で神様の声を聞く。
  81. 玉依姫(第一稿)   ササ、豊玉姫のお墓で玉依姫の声を聞く。
  82. 伊平屋島と伊是名島(第一稿)   伊平屋島の親戚たちが逃げてくる。
  83. 伊平屋島のグスク(第一稿)   サグルーと尚忠と護佐丸、伊平屋島に行く。



主要登場人物

 

第一部 目次

目次 第一部

目次

尚巴志伝 第一部 月代の石

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このイラストはは和々様よりお借りしました。

 

  1. 誕生(最終決定稿)   尚巴志、佐敷苗代に生まれる。
  2. 馬天浜(最終決定稿)   サミガー大主とヤマトゥの山伏、クマヌ。
  3. 察度と泰期(最終決定稿)   浦添按司察度、過去を振り返る。
  4. 島添大里グスク(最終決定稿)   島添大里グスク、汪英紫に奪われる。
  5. 佐敷グスク(最終決定稿)   尚巴志の父、佐敷按司になる。
  6. 大グスク炎上(最終決定稿)   大グスク、汪英紫(島添大里按司)に奪われる。
  7. ヤマトゥ酒(最終決定稿)   早田三郎左衛門、馬天浜に来る。
  8. 浮島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎と旅に出る。
  9. 出会い(最終決定稿)   尚巴志、伊波按司の娘と剣術の試合をする。
  10. 今帰仁グスク(最終決定稿)   尚巴志、今帰仁に行く。
  11. 奥間(最終決定稿)   尚巴志、奥間村に滞在する。
  12. 恋の病(最終決定稿)   旅から帰った尚巴志、マチルギを想う。
  13. 伊平屋島(最終決定稿)   尚巴志、祖父の故郷に行く。
  14. ヤマトゥ旅(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥへ旅立つ。
  15. 壱岐島(最終決定稿)   尚巴志、壱岐島で察度の噂を聞く。
  16. 博多(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥの都を見て驚く。
  17. 対馬島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎の故郷に滞在する。
  18. 富山浦(最終決定稿)   尚巴志、高麗に行く。
  19. マチルギ(最終決定稿)   尚巴志の恋敵、ウニタキ現れる。
  20. 兵法(最終決定稿)   尚巴志、対馬で修行に励む。
  21. 再会(最終決定稿)   帰って来た尚巴志、マチルギと再会。
  22. ウニタキ(最終決定稿)   尚巴志、ウニタキと一緒に勝連グスクに行く。
  23. 名護の夜(最終決定稿)   尚巴志、マチルギと今帰仁に行く。
  24. 山田按司(最終決定稿)   尚巴志、マチルギの叔父、山田按司と会う。
  25. お輿入れ(最終決定稿)   マチルギ、尚巴志に嫁ぐ。
  26. 高麗の対馬奇襲(最終決定稿)   早田左衛門太郎の本拠地、高麗に攻められる。
  27. 豊見グスク(最終決定稿)   シタルー(汪応祖)、豊見グスクを築く。
  28. サスカサ(最終決定稿)   尚巴志とマチルギ、馬天ノロと旅に出る。
  29. 長男誕生(最終決定稿)   マチルギと馬天ノロ、神様になる。
  30. 出陣命令(最終決定稿)   察度、各按司に今帰仁征伐を命じる。
  31. 今帰仁合戦(最終決定稿)   中山王、山北王の今帰仁グスクを攻める。
  32. 次男誕生(最終決定稿)  尚巴志の次男(尚忠)と山田按司の次男(護佐丸)生まれる。
  33. 十年の計(最終決定稿)   尚巴志、佐敷按司(父)、鮫皮大主(祖父)と密談する。
  34. 東行法師(最終決定稿)   父が隠居して、尚巴志、佐敷按司となる。
  35. 首里天閣(最終決定稿)   察度、浦添按司を武寧に譲って隠居する。
  36. 浜川大親(最終決定稿)   ウニタキは妻子を殺され、シタルーは明に行く。
  37. 旅の収穫(最終決定稿)   奥間のサタルーと対馬のユキ。
  38. 久高島(最終決定稿) 尚巴志はマチルギに怒られ、ウニタキはチルーといい感じ。
  39. 運玉森(最終決定稿)   三好日向、尚巴志のために山賊になる。
  40. 山南王(最終決定稿)   承察度が亡くなり、若按司が山南王になる。
  41. 傾城(最終決定稿)   山南王、中山王の怒りを買って、汪英紫に攻められる。
  42. 予想外の使者(最終決定稿)   尚巴志夫婦、弟のマサンルー夫婦と旅をする。
  43. 玉グスクのお姫様(最終決定稿)   尚巴志、玉グスクと同盟を結ぶ。
  44. 察度の死(最終決定稿)   山北王のミンと奥間の長老も亡くなる。
  45. 馬天ヌル(最終決定稿)   馬天ノロ、御嶽巡りの旅に出る。
  46. 夢の島(最終決定稿)   早田左衛門太郎、慶良間の夢の島に行く。
  47. 佐敷ヌル(最終決定稿)  尚巴志の妹、マシューの気持ちとマカマドゥの決心。
  48. ハーリー(最終決定稿)   尚巴志夫婦と佐敷ノロ、ハーリーを見物。
  49. 宇座の御隠居(最終決定稿)   宇座の泰期が亡くなり、尚巴志夫婦は悲しむ。
  50. マジムン屋敷の美女(最終決定稿)  尚巴志、島添大里グスクに側室を入れる。
  51. シンゴとの再会(最終決定稿)   早田左衛門太郎、朝鮮に投降する。
  52. 不思議な唐人(最終決定稿)   尚巴志、懐機と出会う。
  53. 汪英紫、死す(最終決定稿)   懐機、旅から帰り、武術を披露する。
  54. 家督争い(最終決定稿)   達勃期と汪応祖が山南王の家督を争う。
  55. 大グスク攻め(最終決定稿)   尚巴志、大グスクを攻め落とす。
  56. 作戦開始(最終決定稿)   尚巴志、大グスクノロと再会する。
  57. シタルーの非情(最終決定稿)   達勃期、弟の汪応祖に敗れる。
  58. 奇襲攻撃(最終決定稿)   尚巴志、島添大里グスクを攻め落とす。
  59. 島添大里按司(最終決定稿)   尚巴志、島添大里按司になる。
  60. お祭り騒ぎ(最終決定稿)   尚巴志、城下の者たちと戦勝祝い。
  61. 同盟(最終決定稿)   尚巴志、山南王と同盟する。
  62. マレビト神(最終決定稿)   外間ノロと佐敷ノロにマレビト神が現れる。
  63. サミガー大主の死(最終決定稿)   神の声を聞いたウニタキ。
  64. シタルーの娘(最終決定稿)   山南王のお姫様の悩みと青い海
  65. 上間按司(最終決定稿)   明国の使者が二十年振りにやって来る。
  66. 奥間のサタルー(最終決定稿)   尚巴志、奥間ノロに魅了される。
  67. 望月ヌル(最終決定稿)   謎の爺さん、望月党を語る。
  68. 冊封使(最終決定稿)   首里の宮殿の儀式で、武寧と汪応祖、正式に王になる。
  69. ウニョンの母(最終決定稿)   ウニタキ、亡くなった妻の秘密を知る。 
  70. 久米村(最終決定稿)   尚巴志とウニタキ、懐機に呼ばれて久米村に行く。
  71. 勝連無残(最終決定稿)   勝連按司が奇病に倒れる。 
  72. 伊波按司(最終決定稿)   大きな台風が来て各地で被害が出る。
  73. ナーサの望み(最終決定稿)   ウニタキ、ナーサを味方に引き入れる。
  74. タブチの野望とシタルーの誤算(最終決定稿)  八重瀬按司、中山王と同盟する。
  75. 首里グスク完成(最終決定稿)   中山王と山南王の決戦が迫る。
  76. 首里のマジムン(最終決定稿)   尚巴志、首里グスクを奪い取る。 
  77. 浦添グスク炎上(最終決定稿)   浦添グスクは焼け落ち、亜蘭匏は消える。
  78. 南風原決戦(最終決定稿)   尚巴志、中山軍を壊滅させる。
  79. 包囲陣崩壊(最終決定稿)   達勃期は出直し、汪応祖は首里を攻める。
  80. 快進撃(最終決定稿)   尚巴志、中グスク、越来グスクを攻め落とす。
  81. 勝連グスクに雪が降る(最終決定稿)   尚巴志、勝連グスクを落とす。

 

尚巴志伝 第二部 目次

 

・尚巴志伝の年表

・第一部の主要登場人物

・尚巴志の略歴

・尚巴志の祖父、サミガー大主の略歴

・尚巴志の父、思紹の略歴

・馬天ヌル(馬天ノロ)の略歴

・中山王、察度の略歴

・中山王、武寧の略歴

・汪英紫の略歴

・山南王、汪応祖の略歴

・泰期の略歴

・クマヌの略歴

・三好日向の略歴

・早田左衛門太郎の略歴

・ウニタキの略歴

・懐機の略歴

・倭寇年表

第二部 主要登場人物

主要登場人物

サハチ       1372-1439  尚巴志。島添大里按司
マチルギ      1373-    尚巴志の妻。伊波按司の娘。
サグルー      1390-    尚巴志の長男。
ジルムイ      1391-    尚巴志の次男。尚忠。
ミチ        1393-    尚巴志の長女。島添大里ヌル、サスカサ。
イハチ       1394-    尚巴志の三男。
思紹        1354-1421 中山王。尚巴志の父。
佐敷ヌル      1374-    尚巴志の妹、マシュー。シンゴと結ばれ娘を産む。
佐敷大親      1376-    尚巴志の弟、マサンルー。妻は奥間大親の娘。
平田大親      1378-    尚巴志の弟、ヤグルー。妻は玉グスク按司の娘。
与那原大親     1383-    尚巴志の弟、マタルー。妻はタブチの娘。
クルー       1388-    尚巴志の弟、妻は山南王シタルーの娘。
馬天ヌル      1357-    思紹の妹、尚巴志の叔母。
ササ        1391-    馬天若ヌル。父はヒューガ。母は馬天ヌル。
ヒューガ      1355-1470 三好日向。中山の水軍大将。
苗代大親      1360-    思紹の弟。サムレー総隊長。武術師範。
マカマドゥ     1392-    苗代大親の三女。マウシ(護佐丸)の妻。
クグルー      1386-    泰期の三男。苗代大親の娘婿。
サミガー大主    1356-    思紹の弟、ウミンター。
ウニタキ      1372-1433 三星大親。「三星党」の頭。
チルー       1368-    ウニタキの妻。尚巴志の母の妹。
イーカチ      1373-    「三星党」の副頭。絵画き。
ナツ        1381-    ウニタキの配下から尚巴志の側室になる。
シズ        1389-    ウニタキの配下。ササと一緒にヤマトゥに行く。
ヤールー      1385-    ウニタキの配下。サグルーを守っている。
ファイチ      1375-1453 懐機。明国の道士。尚巴志の客将。
サスカサ      1354-    ミチにサスカサを譲り、運玉森ヌルになる。
マウシ       1391-1458 真牛。山田按司の次男。尚巴志の甥。護佐丸。
マカトゥダル    1392-    護佐丸の妹。サグルーの妻。
マサルー      1364-    山田按司の家臣。
シラー       1391-    マサルーの次男。
クマヌ       1346-    中グスク按司。中山の重臣。
美里之子      1362-    越来按司。中山の重臣。思紹の義弟。
當山之子      1365-    美里之子の弟。浦添按司になる。
クサンルー     1387-    當山之子の長男。浦添按司
カナ        1391-    當山之子の長女。浦添ヌル。
サム        1372-    勝連按司の後見役。伊波按司の四男。
ユミ        1392-    サムの長女。ジルムイ(尚忠)の妻。
ナーサ       1352-    首里の遊女屋「宇久真」の女将。
マユミ       1389-    「宇久真」の遊女。
宇座按司      1355-    泰期の次男。父の跡を継いで明国への使者となる。
シタルー      1362-1413  山南王。汪応祖
タルムイ(太郎思) 1385-1429  豊見グスク按司汪応祖の長男。妻は尚巴志の妹。
タブチ       1360-1414  八重瀬按司。シタルーの兄。
サイムンタルー   1361-1429  早田左衛門太郎。対馬島倭寇の頭領。
早田六郎次郎    1387-    左衛門太郎の跡継ぎ。妻はユキ。
ユキ        1388-    六郎次郎の妻。尚巴志の娘。母はイト。
イト        1372-    対馬島の女船長。ユキの母。
シンゴ       1372-    早田新五郎。左衛門太郎の弟。
早田五郎左衛門   1349-    左衛門太郎の叔父。朝鮮国の富山浦に住む商人。
早田丈太郎     1371-    五郎左衛門の長男。漢城府の津島屋の主人。
浦瀬小次郎     1375-    五郎左衛門の娘婿。
早田ナナ      1388-    早田次郎左衛門の娘。
サングルミー    1371-    与座大親。中山の進貢船の正使。
メイファン     1379-    張美帆。明国の海賊の娘。
メイリン      1374-    張美玲。メイファンの姉。
メイユー      1376-    張美玉。メイファンの姉。
ラオファン     1338-    黄敬。三姉妹の武術の師匠。
リェンリー     1376-    黄怜麗。ラオファンの娘。
ジォンダオウェン  1364-    鄭道文。三姉妹の配下の海賊。
ユンロン      1387-    鄭芸蓉。ジォンダオウェンの娘。 
リュウジャジン   1362-    劉嘉景。三姉妹の配下の海賊。
リィェンファ    1377-    楊蓮華。富楽院の妓楼『桃香滝』の女将。
ヂュヤンジン    1375-    朱洋敬。懐機の友。宮廷に仕える役人。
永楽帝       1360-1424  明国の皇帝。
リュウイェンウェイ 1389-    劉媛維。富楽院の最高級妓楼『酔夢楼』の妓女。
ファイホン     1379-    懐虹。懐機の妹。
ヂャンサンフォン  1247-    張三豊。武当山の道士で、武当拳の創始者。
シンシン      1390-    范杏杏。張三豊の弟子。
フカマヌル     1372-    外間ノロ。久高島のノロ。尚巴志の腹違いの妹。
奥間大親      1357-    ヤキチ。奥間から来た尚巴志の護衛役。中山の重臣。
平安名大親     1348-    勝連の重臣。ウニタキの叔父。
勝連ヌル      1369-    ウニタキの姉。
伊波按司      1363-    マチルギの兄。
山田按司      1365-    マチルギの兄。
攀安知       1376-1416  山北王。
涌川大主      1377-    攀安知の弟。
勢理客ヌル     1356-    アオリヤエ。攀安知の叔母。
アタグ       1355-    山北王に仕えるヤマトゥの山伏。
本部のテーラー   1376-1416  攀安知の幼馴染み。サムレー大将。
兼グスク按司    1378-    ンマムイ。武寧の次男。妻は攀安知の妹。
マハニ       1379-    兼グスク按司の妻。山北王、攀安知の妹。
ヤタルー師匠    1359-    阿蘇弥太郎。ンマムイの武術の師匠。
慈恩禅師      1350-1448  禅僧であり武芸者。ヒューガの師匠。
飯篠修理亮     1387-1488 武芸者。長威斎。
二階堂右馬助    1390-    慈恩の弟子。
一文字屋孫三郎   1361-    次郎左衛門の弟。坊津の一文字屋主人。
みお        1394-    一文字屋孫三郎の三女。
村上又太郎     1386-    村上水軍の頭領の長男。上関を守っている。
村上あや      1392-    村上又太郎の妹。
塩飽三郎入道    1358-    塩飽水軍の頭領。
一文字屋次郎左衛門 1355-    京都の一文字屋の主人。
まり        1394-    一文字屋次郎左衛門の三女。
高橋殿       1376-    足利義満の側室。道阿弥の娘。
対御方       1379-    足利義満の側室。高橋殿に仕えている。
平方蓉       1383-    陳外郎の娘。高橋殿に仕えている。
足利義持      1386-1428  室町幕府第四代将軍。
日野栄子      1390-1431  足利義持の奥方。
勘解由小路殿    1350-1410  斯波道将。将軍様の補佐役。
斯波左兵衛督    1371-1418  勘解由小路殿の嫡男。将軍様の補佐役。
中条兵庫助     1359-    将軍様の武術指南役。慈恩禅師の弟子。
中条奈美      1380-    中条兵庫助の娘。夫が戦死し、高橋殿に仕える。
外郎       1360-    陳宗奇。薬師。外交使節の接待役。
魏天        1350-    将軍様に仕える明国の通事。
栄泉坊       1389-    東福寺を追い出された画僧。
増阿弥       1368-    奈良の田楽新座の太夫。
一徹平郎      1355-    北野天満宮の宮大工。
源五郎       1359-    腕はいいが変わり者の瓦職人。
新助        1379-    龍ばかり彫っている等持寺の大工。
渋川道鎮      1372-1446  九州探題。勘解由小路殿の娘婿。
宗讃岐守貞茂    1364-1418  対馬守護。
平道全       1376-    宗貞茂の家臣。
宗金        1380-    博多妙楽寺の僧。
李芸        1373-1445  倭寇にさらわれた母親を探している朝鮮の役人。
シーハイイェン   1390-    施海燕。旧港宣慰司、施進卿の次女。施二姐。
ツァイシーヤオ   1390-    蔡希瑶。シーハイイェンの親友。
シュミンジュン   1342-    徐鳴軍。シーハイイェンの師匠。張三豊の弟子。
ワカサ       1364-    旧港の通事。若狭出身の倭寇
奥間の長老     1348-    ヤザイム。奥間大主。
奥間ヌル      1374-    奥間村のノロ。尚巴志の娘ミワを産む。
米須按司      1357-    武寧の弟。若按司の妻はタブチの娘。
玻名グスク按司   1358-    タブチの義兄。
イサマ       1375-    伊平屋島の田名大主の長男。田名親方の兄。
我喜屋大主     1359-    田名大主の弟。イサマの叔父。

 

2-82.伊平屋島と伊是名島(第一稿)

尚巴志伝 第二部

 島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクで山南王(さんなんおう)と山北王(さんほくおう)の婚礼が行なわれた五日後、思紹(ししょう)とヂャンサンフォン(張三豊)を乗せた進貢船(しんくんしん)が無事に帰って来た。迎えに行ったのはマチルギで、八人の女子(いなぐ)サムレーを連れていた。
 思紹が中山王(ちゅうさんおう)になった当初は、マチルギを見ようと多くの人たちが集まってきて大騒ぎになったが、あれから四年余りが経ち、マチルギの事も世間に知れ渡っていた。マチルギが出歩いても騒ぎになることはなく、人々は尊敬の眼差しで挨拶を交わしてくれた。
 小舟(さぶに)から降りて来た思紹、ヂャンサンフォン、クルーは女たちの出迎えに驚いた。特に思紹は目を丸くして女たちを見ていた。女子サムレーの格好をしているが、全員、思紹の側室だった。
「お帰りなさいませ」と側室たちから言われ、思紹は照れ臭そうに笑って、「ただいま」と返事を返した。
 思紹もヂャンサンフォンもクルーも道士の格好をしていて唐人(とーんちゅ)に見えた。三人は女子サムレーたちと一緒に人混みを抜けて、久米村(くみむら)に向かった。
 メイファンの屋敷に行くと、サハチ、ファイチ、ウニタキが待っていた。
「どうして、あいつらが出迎えに来たんだ」と思紹はサハチに聞いた。
「王様(うしゅがなしめー)に似てしまったのか、側室たちも出歩くのが好きになりまして、浮島に行ってみたいと言い出したのです」
「わしの留守中、ああやって出歩いていたのか」
 思紹は苦笑して、「まあ、それもいいじゃろう」と言った。
 思紹は留守中の出来事をサハチたちから聞いた。
「とうとう山南王と山北王が同盟を結んだか。兼(かに)グスク按司(ンマムイ)が取り持ったのだな」
「そうなんですが、兼グスク按司は中山王に寝返って、今、新(あら)グスクにいます」
 サハチはその経緯を説明し、米須按司(くみしあじ)と玻名(はな)グスク按司が寝返った事も話した。
「留守の間に変わったものじゃのう。それで今は、シタルー(山南王)がどう出るかを見守っているといった状況じゃな」
 思紹はそう言って少し考えたあと、笑ってうなづくと、旅の話をサハチたちに聞かせた。サハチたちが驚く顔を見ながら、思紹たちは楽しそうに、海賊の事、武当山(ウーダンシャン)や華山(ホワシャン)での出来事、ユンロンの事などを話した。その頃、思紹の側室たちはキャーキャー騒ぎながら、マチルギに連れられて久米村(くみむら)を散策していた。
 渡し舟が空くのを見計らって安里(あさとぅ)に渡り、馬に乗って首里(すい)に帰った。首里グスクの正殿、百浦添御殿(むむうらしいうどぅん)の唐破風(からはふ)を見た思紹は驚き、「凄いのう」と言って、じっと見つめていた。
「昔、博多に行った時、太宰府(だざいふ)の天満宮に行ったんじゃが、あんな風な屋根だったような気がする。随分と立派になったもんじゃのう」
「龍に守られた御殿じゃな」とヂャンサンフォンが言って、「凄い龍ですね」とクルーは新助が彫った龍に感心していた。
 その夜、会同館(かいどうかん)で帰国祝いの宴が開かれ、いつものように『宇久真(うくま)』の遊女(じゅり)たちが参加した。知らせを受けて、ンマムイもやって来た。やって来たのはいいが、本部(むとぅぶ)のテーラーを連れていた。
「奴が本部のテーラーだ」とウニタキが小声でサハチに知らせた。
「なに、ンマムイは山北王のサムレー大将を連れて来たのか。一体、何を考えているんだ」
「奴は山北王の進貢船に乗って何度も明国に行っている。もしかしたら、ヂャン師匠の事を知っているのかもしれん。ヂャン師匠が帰って来たと聞いて、会いたくなってやって来たのだろう」
「そうか。しかし、奴はどうしてンマムイが新グスクにいる事を知っているんだ?」
「偶然、見つけたようだ。奴は南部の様子を知ろうとあちこち歩き回っていた。今日、偶然に新グスクにいるンマムイを見つけたんだ。グスクの外で遊んでいた子供たちがテーラーを見つけて駆け寄ったらしい。屋敷に上がり込んで、ンマムイ夫婦と話をしていた時に、ヂャン師匠が帰って来たという知らせが入ったんだよ」
「そうか。騒ぎは起こすまい。知らない振りをしておこう」
「そうだな」とウニタキはうなづいて、「ところで、阿波根(あーぐん)グスクにはシタルーの次男が入って、兼グスク按司を名乗ったようだぞ」
「次男というと、タルムイ(豊見グスク按司)の弟のジャナムイだな。いくつになったんだ」
「二十二、三じゃないのか」
「ジャナムイの嫁さんは誰だったろう」
「中グスク按司の娘だ。今はもう身内は中グスクヌルしかいない。その娘が嫁いできた日、中グスクで中グスク按司が望月党に殺されたんだよ」
「おう、そうだったな。しかし、兼グスク按司が二人になったなんて紛らわしいな」
 ヂャンサンフォンに挨拶をしたあと、ンマムイはテーラーを連れてサハチたちに挨拶に来た。テーラーの事は武芸好きな家臣の瀬底之子(しーくぬしぃ)だと紹介した。
「ヂャン師匠の旅の話を聞いてきます」と言って、ンマムイとテーラーはヂャンサンフォンの所に戻って行った。
「まだ生きていたのね」と遊女のマユミが言った。
「ンマムイが殺されると思ったのか」とサハチはマユミに聞いた。
「だって、山南王と山北王は同盟したんでしょ。中山王は敵になったのに、のこのことこんな所に現れて、いつかは山南王に殺されるわよ」
「ンマムイは中山王に寝返ったんだよ」
「えっ、そうだったの」
「もう山南王の所へは行かない」
「そうなんだ。でも、奥さんはどうなるの。山北王の敵になっちゃったの?」
「そういう事になるな」
「可哀想に‥‥‥それで、戦(いくさ)は起こるの?」
「山南王次第だな。山北王は今の所、中山王を攻める気はないようだ」
「俺たちもヂャン師匠の話を聞きに行こうぜ」とウニタキが言って、サハチたちもヂャンサンフォンのもとへと行った。
 宴がお開きになったあと、サハチ、ウニタキ、ファイチ、思紹、ヂャンサンフォン、ンマムイ、テーラーは『宇久真』に場所を移して飲み続けた。テーラー以外は皆、ヂャンサンフォンの弟子で、テーラーは孫弟子だった。思紹はサグルー師兄(シージォン)と呼ばれ、サハチ、ウニタキ、ファイチもンマムイから師兄と呼ばれていたので、テーラーには思紹が中山王だという事はわからなかった。勿論、マユミたちも話を合わせて、王様とは言わなかった。
 テーラーは六回も明国に行っていた。明国で、少林拳(シャオリンけん)や武当拳(ウーダンけん)も習っていた。武当拳の師匠から、ヂャンサンフォンの話は何度も聞いていて、今も生きているがどこかの山奥に籠もっているので会うのは難しいと言われた。そのヂャンサンフォンが琉球にいたなんて信じられず、本物なら是非とも会いたいとンマムイに頼み込んで連れて来てもらったのだった。
 テーラーはヂャンサンフォンに会って感激し、弟子にしてくれと頼んだ。ヂャンサンフォンは快く引き受けた。テーラーはヂャン師匠とその弟子たちに囲まれて、夢のような素晴らしい夜を過ごしていた。
 ヂャンサンフォンは運玉森(うんたまむい)ヌルがいる与那原(ゆなばる)グスクに帰って、のんびり過ごしてから新グスクに行き、弟子になったテーラーの修行を始めた。新グスクの下には大きなガマ(洞窟)があって、修行はガマの中で行なわれ、タブチの末っ子のチヌムイ、その姉の八重瀬(えーじ)若ヌル、メイユーの弟子になったシビー、玉グスクで女子サムレーを作ったウミタル、糸数按司(いちかじあじ)の三女のカヤーも加わった。
 八重瀬若ヌルは佐敷ヌルに憧れていて、強くなりたいと思い、弟と一緒にヂャンサンフォンの弟子になった。シビーはメイユーが帰ったあと、佐敷ヌルの指導を受けていた。佐敷ヌルに連れられて運玉森ヌルに会いに行った時、ヂャンサンフォンと出会い、弟子になった。ウミタルは兼グスク按司が新グスクに来たと聞いて、兼グスク按司が育てた女子サムレーに会いに行った。そしたら、ヂャンサンフォンが新グスクに来ていて、迷わず、弟子になった。カヤーは糸数にも女子サムレーを作りたいと思って、玉グスクまで通ってウミタルの指導を受けていた。ウミタルに誘われて、ヂャンサンフォンの弟子になった。他にも、兼グスク按司のもとに居候(いそうろう)している武芸者たちもヂャンサンフォンの弟子になって修行に励んだ。
 糸数のガマの中でヂャンサンフォンが弟子たちの指導をしている頃、首里グスクの御内原(うーちばる)でマカマドゥが女の子を産んだ。初めての子にマウシは大喜びした。長女はマウシの母親の名をもらってマミーと名付けられた。


 首里の御内原でマミーの誕生を祝福していた頃、奄美大島(あまみうふしま)を攻めていた山北王の兵たちが今帰仁(なきじん)に帰って来た。兵たちの顔付きは暗く、皆、疲れ切っていた。奄美按司になった羽地按司の次男から報告を受けた山北王は烈火のごとく怒った。
 去年、湧川大主(わくがーうふぬし)が奄美大島の北部を平定し、今年は南部を平定して完了するはずだったのに、総大将だった本部大主(むとぅぶうふぬし)は戦死し、半数近くの兵を失って、奄美按司は逃げ帰って来たのだった。
奄美大島の南部にはクユー一族と呼ばれる手ごわい奴らがいて、皆、そいつらにやられました」と奄美按司は言った。
「馬鹿者め!」と山北王は怒鳴り、「慰労の宴は中止だ。皆に謹慎しているように伝えろ」と言って、奄美按司を追い返した。
 山北王は弟の湧川大主を呼んで相談した。
「クユー一族というのは何者なんだ。ヤマトゥンチュか」と山北王は湧川大主に聞いた。
「北部の者たちも詳しい事は何も知らない。噂では五、六年前に、どこからかやって来て住み着いたようだ」
「言葉は通じるのか」
「訛りはあるが、通じるらしい」
「すると、先代の中山王の残党どもかもしれんな。中山王の残党なら、うまく話がつけられるはずだ」
「来年は俺が言って、何とか話をつけるよ」と湧川大主は言ったが、「お前が行くと俺が忙しくてかなわん。テーラーに任せよう」と山北王は言った。
「テーラーは今、南部にいるぞ」
「来年、帰って来たら、すぐに奄美大島に行かせよう」
「人使いが荒いな」
「しばらく休んでいたんだから、その分、働いてもらうさ。ところで、鮫皮(さみがー)は集まったのか」
「まだ足らん。伊平屋島(いひゃじま)と伊是名島(いぢぃなじま)の奴らが売ってくれんのだ。伊平屋島伊是名島は古くから対馬の早田(そうだ)氏と鮫皮の取り引きをしている。早田氏を裏切れんと言って、高値で買うと言っても話には乗って来ないんだ」
伊平屋島伊是名島には中山王の親戚がいて、そいつらが鮫皮を作っているんだったな。中山王の親戚が目と鼻の先にいるのは目障りだ。鮫皮を奪って、奴らを島から追い出してしまえ」
「そんな事をしたら中山王を怒らせる事になるぞ。戦が始まるかもしれん」
「戦になったら、同盟を結んだ山南王と一緒に挟み撃ちにすればいい」
「まだ、時期が早いんじゃないのか。鉄炮(てっぽう)もまだ手に入っていないし」
「先の事はあとで考える。まずは鮫皮を揃える事が先決だ。鮫皮が揃えられなかったら島津氏は中山王と取り引きをすると言い出すだろう」
「わかった」と湧川大主はうなづいた。
 山北王の屋敷をあとにして二の曲輪(くるわ)に下りながら、兄貴の短気にも困ったものだと湧川大主は思っていた。普段は冷静な兄が、頭に血が昇ると冷静さを失って、後先も考えずに行動に移す。奄美大島の攻略に失敗して、その腹いせに、伊平屋と伊是名にいる中山王の親戚を追い出せと言ったのに違いなかった。鮫皮を手に入れるにはそれしか方法はないが、なるべく穏便に事を処理しようと思った。


 十一月の半ば、伊平屋島から逃げて来た者たちが首里に続々とやって来た。島添大里(しましいうふざとぅ)にいたサハチが思紹に呼ばれて首里グスクに行くと、北曲輪(にしくるわ)に五十人近くの者たちが疲れた顔付きで座り込んでいた。
 思紹は龍天閣(りゅうてぃんかく)の三階にいた。馬天ヌルとマチルギ、そして、知らない男と知らないヌルがいた。伊平屋島の親戚だろうが、サハチには誰だかわからなかった。
 明から帰って来てから、思紹は龍天閣にいる事が多く、琉球の絵地図を持ち込んで睨んでいた。六年後の今帰仁攻めを本気になって考え始めたようだった。サハチの顔を見ると、思紹は絵地図から顔を上げて、「山北王が動き出したぞ」と言った。
「一体、何が起こったのです」とサハチは聞いた。
「田名親方(だなうやかた)のお兄さんのイサマさんと妹の田名ヌルさんよ」とマチルギが知らない二人をサハチに紹介した。
 そう言われてみれば、イサマという男は顔付きが田名親方に似ているような気がした。妹の方は田名親方に似ていない。丸顔で目の小さな女だった。
「二人のお父さんの田名大主(だなうふぬし)(思紹の従弟)が捕まって、物置小屋に閉じ込められてしまったのよ」
「えっ!」とサハチは驚いてイサマを見た。
「突然、湧川大主が兵を率いてやって来て、強引に鮫皮を奪い取ったのです。逆らった父は捕まってしまいました」とイサマは悔しそうな顔をして言った。
 マチルギがイサマから聞いた話をサハチに聞かせた。
 九月に山北王の役人から鮫皮を売ってくれと言われたらしい。浮島で取り引きするよりも高い値で引き取ると言われたが、田名大主は断った。十月にも鮫皮を譲ってくれと役人から言われたが、はっきりと断った。その後、何も言って来なかったので諦めたのだろうと思っていたら、突然、山北王の兵が攻めて来て、言う事を聞けない者は島を出て行けと言われ、鮫皮を奪われたという。
「山北王はわしらの親戚だと知って追い出しに掛かったのに違いない」と思紹は言った。
「山北王は戦をしたいのでしょうか」とサハチは聞いた。
伊平屋島伊是名島を完全に支配下に置きたいようです」とイサマが答えた。
伊平屋島の役人は代々、我喜屋大主(がんじゃうふぬし)が務めています。我喜屋大主も伊平屋島が鮫皮によって栄えた事は充分に知っていますから、無理な事は言いません。今回の湧川大主のやり方には我喜屋大主も驚いていました。山南王と同盟した山北王は、伊平屋島から中山王の親戚を追い出して、完全に支配するために、無理難題を言ってきたようです」
「我喜屋大主も親戚ではないのか」とサハチはイサマに聞いた。
「わたしどもの叔父です。先代の我喜屋大主は跡継ぎに恵まれず、娘婿の叔父が我喜屋大主を継ぎました」
「すると、我喜屋大主は山北王の味方をしているのか」
「仕方ないのです。島の者たちを守るためには山北王に従うしかないのです。百年ほど前には、伊平屋島にも伊平屋按司がいて、伊平屋島伊是名島を治めていたそうです。その頃、今帰仁で戦が起こって按司が代わり、新しい按司の一族だった伊平屋按司今帰仁に行って、重臣として今帰仁按司に仕える事になります。伊平屋島伊是名島には按司がいなくなって、我喜屋大主が今帰仁按司の役人になって伊平屋島を治める事になったのです。その後も今帰仁按司は変わりましたが、伊平屋島の事は我喜屋大主に任されていたのです。我喜屋大主は島の者たちのために、今帰仁按司と掛け合ったりして、今まで何の問題もなくやって来たのに、今度ばかりはまったく信じられません」
伊是名島の者たちも逃げて来たのですか」とサハチは誰ともなく聞いた。
伊是名島の人はいないわ」と馬天ヌルが答えた。
伊是名島の人は仕方がないと妥協したのでしょう。ナビーお婆の子供や孫たちはいるけど、首里に逃げるよりは古くから住んでいる土地を守ろうと思ったのでしょう」
「わたしたちも守りたかったのです。でも、親父が逃げろって言って‥‥‥」とイサマは無念そうに首を振った。
「親父さんが言った事は正しい。逃げなければ被害が出ていただろう。心配するな。親父さんは必ず助け出す」と思紹は言った。
「山北王の兵は何人いるんだ」とサハチはイサマに聞いた。
「湧川大主は三十人の兵を引き連れてやって来ました。湧川大主は引き上げたと思いますが、何人が残っているのかわかりません」
「普段は何人いるんだ」
「普段はいません。島の事は我喜屋大主に任せています」
「田名大主を救い出すのはわけないだろう」と思紹は言った。
「問題は、まもなく、ヤマトゥに行った交易船が帰って来る。何も知らずに伊平屋島に行ったら、交易船を奪われてしまうだろう」
「あっ!」と驚いた顔をしてサハチは思紹を見た。
「敵の狙いはそれですか」
「そうかもしれん。交易船には兵が百人乗っているが、不意打ちを食らったらやられてしまう」
「すると、山北王は少なくても百人の兵を送るつもりですね。こちらも百人の兵を送らなければなりません」
 思紹はうなづいたが、「今の時期、どうやって送り込むかが問題じゃ」と言った。
 すでに北風(にしかじ)が吹き始めていた。風に逆らって伊平屋島に行くのは無理だった。
「それは敵も同じでしょう。敵も伊平屋島に兵を送る事はできません。進貢船を奪い取られる事はないんじゃないですか」
「いや、現に湧川大主は三十人の兵を率いて行ったんじゃろう」
「どうやって行ったんだろう」とサハチは考えた。
「山北王の船は親泊(うやどぅまい)から塩屋に出て、ヤンバルの山を右に見ながら北上して、辺戸岬(ふぃるみさき)の辺りから伊平屋島に渡ったのだと思います。時間はかなり掛かりますが、今の時期、伊平屋島に渡るのはその方法しかありません」とイサマが言った。
 サハチは思紹の顔を見て、うなづき合った。
「まずは先発隊を送り込んで、田名大主を救いだそう」と思紹が言った。
「敵が待ち伏せの兵を送る前に、百人の兵を送り込まなければなりません」とサハチは言った。
 思紹はうなづき、「それと、こっちの動きを敵に悟らせてはならん。首里の兵は動かせん。敵には夏になったら伊平屋島を攻めると思わせておかなければならん」と言った。
「どこの兵を動かすんです」
「山北王の兵を追い払ったあとも伊平屋島には守備兵を置かなくてはなるまい。新しいサムレー大将を決めて、新たに編成する。とりあえずは、各隊から数人づつ選んで、百人集めよう」
「わかりました。そうしましょう」とサハチはうなづいた。
 それから五日後、サグルー、ジルムイ、マウシと伊平屋島出身のサムレーのムジルとバサー、三星党(みちぶしとー)のヤールーとファー、伊平屋島出身の女子サムレーのイヒャカミー、伊平屋島から逃げて来たウミンチュのヤシーとカマチ、そして、イサマの十一人が先発隊として伊平屋島に向かった。皆、庶民の姿に変装して、刀の代わりに棒を持ち、最北端の辺戸岬を目指した。サグルーはヂャンサンフォンと一緒に旅をした時、辺戸岬まで行った事があり、ヤンバル生まれのヤールーも行った事があった。

 

 

 

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