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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-101.悲しみの連鎖(第一稿)

 中山王(ちゅうさんおう)の孫、チューマチと山北王(さんほくおう)の娘、マナビーの婚礼は大成功に終わった。
 サハチたちが会同館(かいどうかん)でお祝いの宴をやっていた時、開放された首里(すい)グスクの西曲輪(いりくるわ)と北曲輪(にしくるわ)では、城下の者たちが祝い酒を飲み、御内原(うーちばる)では、高橋殿のお陰で呑兵衛(のんべえ)になったササたちに勧められて、女たちが祝い酒を楽しんでいた。西曲輪内のサムレー屋敷でも、任務を終えたサムレーたちが祝い酒を飲み、島添大里(しましいうふざとぅ)グスクでも、佐敷グスクでも、平田グスクでも、与那原(ゆなばる)グスクでも祝い酒を飲んでいた。そして、各按司たちのグスクでも、家臣たちが婚礼を祝って酒を飲み、今帰仁(なきじん)グスクでも、山北王が重臣たちを集めて祝い酒を飲んでいた。
 新郎新婦は宴の途中で会同館をあとにして、マチルギと佐敷ヌルの案内で、島添大里按司の屋敷に入って初夜を迎え、翌日、島添大里グスクの近くにできたミーグスク(新グスク)に入った。
 小さなグスクだとマナビーは思った。でも、グスクからの眺めはよかった。そして、グスク内に的場(まとば)があり、近くには馬場もあった。今帰仁から連れて来た愛馬のカーギーも馬場にいて、マナビーが来るのを待っていた。マナビーはカーギーに乗って馬場を走った。
 島添大里グスクに行って、女子(いなぐ)サムレーと剣術の試合もした。剣術では負けたが、弓矢では勝った。しかし、マナビーよりも弓矢がうまい者がいた。信じられなかったが、マナビーよりも凄い腕を持っていた。兄嫁のチミーだった。チミーに負けたマナビーはミーグスクに帰って、悔し涙を流しながら弓矢を射続けた。
 いつの間に来たのか、義母となったマチルギが声を掛けて来た。
「わたしも負けた時は悔しかったわ」とマチルギは言った。
「でもね、競争相手がいるというのは素晴らしい事なのよ。お互いに腕を磨き合えるわ。あなたは才能があるのだから、その才能を伸ばしなさい。ここには武芸の名人たちが揃っているわ。島添大里グスクには佐敷ヌル、佐敷グスクにはササ、島添大里の城下には慈恩禅師(じおんぜんじ)殿がいるし、与那原グスクにはヂャンサンフォン殿がいるわ」
「ヂャンサンフォン‥‥‥」
 マナビーはヂャンサンフォンの事はテーラーから聞いていた。明国の拳術の名人のテーラーが、師匠と仰いでいる人だった。
「ヂャンサンフォン殿が編み出した『武当拳(ウーダンけん)』は女子サムレーたちも毎朝、お稽古をしているわ。あなたも一緒にお稽古をしてみるといいわ」
 夕方、もう一度、島添大里グスクに行ったマナビーは驚いた。東曲輪(あがりくるわ)に大勢の娘たちが集まって、剣術の稽古をしていた。皆、マナビーと同じ年頃の娘たちばかりだった。その中に、チミーもいた。
「一緒にやりましょ」とチミーは言った。
「弓矢は得意なんだけど、剣術はあたしよりも強い人がいっぱいいるの。去年の四月に、あたしはここに嫁いで来たんだけど、ここは凄い所よ」
 マナビーはチミーに誘われるまま、剣術の稽古に参加して、稽古のあとは娘たちから質問攻めにあった。うっとうしいと思いながらも、楽しい一時でもあった。
 帰り道、侍女たちから、「あんな娘たちと一緒に剣術のお稽古をなさってよろしいのですか」と言われた。
「山北王の王女様(うみないび)が庶民の娘たちと一緒にお稽古するなんて、今帰仁では考えられない事ですよ」
今帰仁にはあんな娘たちはいないわ」とマナビーは言った。
「あたし、知っているのよ。今帰仁の人たちはあたしの事をお転婆娘(あばーさー)って陰口を言っていたわ。母でさえ、娘に武芸は必要ないって言っていた。でも、ここでは違うわ。奥方様(うなじゃら)が先頭に立って、お転婆娘だったのよ。今帰仁にいた時、あたし、いつも回りの目を気にしていたわ。王女様って呼びながらも、陰に隠れて、しょうがないお転婆娘だって言っていた。ここでは回りを気にしないで生きていけるわ。自分の好きなように生きて行けるような気がするのよ。あなたたちも明日から一緒にお稽古するのよ。いいわね」
「わかりました」と返事をしながら、内心では、侍女たちも面白い所に来たと少し喜んでいた。
 その晩、ササたちがミーグスクにやって来た。明国の娘や南蛮(なんばん)(東南アジア)の娘、ヤマトゥンチュ(日本人)の娘も一緒にいて、マナビーはササたちに圧倒された。今帰仁にも唐人(とーんちゅ)やヤマトゥンチュはいるが、娘は見た事がなかった。明国の娘は琉球の言葉もしゃべれ、南蛮の娘の話を通訳していた。マナビーはササたちにお酒を飲まされ、酔い潰れてしまった。
 翌朝、ササに起こされ、みんなで『武当拳』の稽古をした。ササと一緒に来た女たちは皆、武当拳の名人だった。一緒に稽古をしながら、凄い所に来たとマナビーは改めて思っていた。稽古のあと、マナビーはササたちと一緒に、島添大里グスクに行き、佐敷ヌルたちと一緒に、お祭り(うまちー)の準備を手伝った。島添大里グスクのお祭りは十日後なので、忙しかった。
 その翌日、浮島から進貢船(しんくんしん)が出帆した。正使は具志頭大親(ぐしかみうふや)、サムレー大将は十番組の苗代之子(なーしるぬしぃ)(マガーチ)で、十番組のジルムイ、マウシ、シラー、ウハが仲よく一緒に明国に行った。クグルーと馬天(ばてぃん)のシタルーも従者として行った。ジャワの船も進貢船に付いて行き、ササたちはスヒターたちと再会を約束して別れた。
 島添大里のお祭りの前日、クマヌが奥さんを連れて首里にやって来た。クマヌは十日前に、中グスク按司を養子のムタに譲って隠居していた。奥さんに首里の賑わいを見せるためと、孫娘のユミに会わせるためにやって来たのだった。マチルギはクマヌの奥さんとの再会を喜んだ。マチルギが初めて佐敷に来た時、お世話になったのがクマヌの奥さんだった。マチルギは、お腹の大きくなったユミがいる御内原に案内した。クマヌは龍天閣(りゅうてぃんかく)で、思紹(ししょう)と昔話に花を咲かせた。
 翌日、マチルギがクマヌ夫婦を島添大里グスクに連れて来て、クマヌ夫婦はお祭りを楽しんだ。ンマムイ夫婦もサキとミヨの母子(おやこ)を連れてやって来た。サキとミヨはンマムイに呼ばれて、兼(かに)グスクに滞在していた。サハチは心配したが、ンマムイとサキは勘ぐるような仲ではなく、土寄浦(つちよりうら)で武当拳を二人に教えていただけだったらしい。ンマムイの妻のマハニも二人に刺激されて、武当拳を始めたという
 お芝居は『かぐや姫』だった。かぐや姫を演じたのは、何とハルだった。首里のお祭りのあと、チューマチの婚礼があったため、佐敷の女子サムレーも何かと忙しく、充分にお芝居の稽古をする事ができなかった。それで、ハルが主役をやる事に決まったのだった。主役のかぐや姫さえしっかりしていれば、あとは何とかなりそうだった。首里で婚礼が行なわれていた時も、ハルは島添大里で留守番をしながら、お芝居の稽古に励んでいた。
 小柄で可愛い顔をしたハルのかぐや姫は、まさに、はまり役だった。言い寄る男たちを手玉に取って、観客を笑わせ、その時々の表情を微妙に変えて、目の動きや手の動きで感情を表現していた。そして、月に帰る場面では、物見櫓(ものみやぐら)に吊り上げられたが、まったく自然に演じていて、本当に空中に浮き上がって行くように見えた。観客たちの拍手はいつまでも鳴りやまなかった。
 お芝居を観ていたサスカサも素直に、ハルに拍手を送り、久高島の大里ヌルにも観せてあげたいと思っていた。マナビーも侍女たちも、初めてお芝居を観て感動していた。サハチもクマヌ、サイムンタルーと酒を飲みながら、ミナミたちと一緒に観て、ハルの演技には感心していた。
 お祭りの翌日、山北王の兵五十人がやって来て、マナビーを守るためにミーグスクに入った。大将として兵を率いて来たのは仲尾大主(なこーうふぬし)だった。マナビーは仲尾大主をお爺と呼び、再会を喜んだが、お爺が来た事に驚いた。
 仲尾大主は羽地按司(はにじあじ)の弟で、十六歳の時、今帰仁に行き、伯父の山北王(帕尼芝(はにじ))に仕えた。帕尼芝の死後、珉(みん)に仕え、珉の死後は攀安知(はんあんち)を補佐して来た重臣の一人だった。攀安知が山北王になって、うるさい事を言う重臣たちは次々に遠ざけられた。最後に残ったのが仲尾大主で、とうとう、仲尾大主も遠ざけられてしまったのだった。
「お爺がどうして、こんな所に来るの?」とマナビーは不思議に思って聞いた。
「世代交代というやつじゃよ。わしは倅に跡を譲ったんじゃ。かといって隠居するほど老いぼれてはおらんので、王女様を守るために南部までやって来たんじゃよ。どうじゃな、新しい土地の居心地は?」
「ここはあたしにぴったりの所よ。毎日が楽しいわ」
「ほう」と仲尾大主は驚いた顔を見せた。
「寂しがっておいでじゃと思っておったが、それはよかったのう」
 マナビーはうなづき、「ここにはお転婆娘がいっぱいいるのよ」と楽しそうに笑った。
 三月三日、恒例の久高島参詣が行なわれ、イト、ユキ、ミナミも一緒に行った。留守番のサハチは石屋のクムンと一緒に、首里グスクの北曲輪の土塁を見て歩き、石垣に変更するための指示を与えた。
 クムンたちは島添大里のミーグスクの石垣を見事に積み上げ、サハチが思っていた以上の出来映えだった。サハチは思紹と相談して、北曲輪の石垣をクムンたちに任せる事に決めたのだった。土塁を崩さなければならないので大仕事だが、将来の事を思えば、今のうちに石垣にした方がよかった。領内から人足を集め、特別手当を与えて、半年間で完成させる予定でいた。クムンたちだけでは石屋が足りないので、玉グスクの石屋にも手伝ってもらう事になっていた。
 久高島から帰って来たササたちは、今回は特に騒ぐ事もなかった。久高島の神様から頼まれた事もなかったようで、今年はヤマトゥへは行かないとササが言い出しはしないかとサハチは心配した。ササたちはこの時期だけ別れて行動し、丸太引きのお祭りのための稽古を始めた。
 今年のサスカサは張り切っていた。ヤマトゥ旅に行って自信を付けたのか、綱を引くサムレーたちに檄(げき)を飛ばしていた。その姿が母親によく似ていて、サハチは頼もしいやら恐ろしいやら、複雑な思いで娘を見ていた。
 三月の半ば、去年の十一月に行った進貢船が無事に帰って来た。タブチは正使を立派に務め、副使を務めた越来大親(ぐいくうふや)は、タブチから色々と教わって勉強になったと喜んでいた。初めて明国に行ったナーグスク大主(うふぬし)(伊敷按司)と山グスク大主(真壁按司)は、辛い旅だったが、行って来てよかったと感激していた。
 応天府(おうてんふ)(南京)から帰って来たら、泉州の来遠駅(らいえんえき)で山南王(さんなんおう)の従者たちと会ったとタブチは言った。
 山南王は去年の暮れ、ようやく進貢船を出していた。正使は大(うふ)グスク大親で、大グスク大親は正使の座が欲しくて、宇座按司(うーじゃあじ)の倅のタキを追い出したに違いなかった。大グスク大親とは入れ違いになったようで、会う事はなかったという。同盟を結んだお陰か、来遠駅では、みんな、仲よくやっていたらしい。
 いつものように、会同館で帰国祝いの宴をやって帰国者たちをねぎらった。ヂャンサンフォンも二階堂右馬助(にかいどううまのすけ)を連れてやって来て参加した。ヂャンサンフォンの顔を見ると、永楽帝(えいらくてい)が武当山(ウーダンシャン)の再建を始めるようだとタブチは言った。
 サハチは建物の残骸だらけだった武当山を思い出して、「本当なのですか」と聞いた。
「ヂャンサンフォン殿が武当山に帰って来たと、何年か前に大騒ぎになったそうじゃ。ヂャンサンフォン殿は何とかという偉い道士を一緒に連れていて、ヂャンサンフォン殿の弟子たちとその偉い道士の弟子たちが大勢集まって来て、武当山を再建しようとしたらしい。その噂を聞いた永楽帝は、武当山の再建を考えたようじゃ。何でも、永楽帝は真武神(ジェンウーシェン)の化身だと言われていて、真武神を祀る武当山を再建するのは、自分の役目だと思ったようじゃな」
「真武神か‥‥‥」
 サハチはファイチの家で見つけた小さな真武神の木像を思い出し、そして、武当山の山頂に鎮座していた神々しい真武神も思い出した。
「お山の者たちも喜んでおるじゃろう」とヂャンサンフォンは笑った。
「そなたからヂャンサンフォン殿が琉球にいる事は黙っていてくれと言われたので、黙っておったが、一緒に行った者たち全員の口をふさぐ事はできんからな。いつの日か、わかってしまうんじゃないかのう」
「なに、見つかったら、また、どこかに逃げるさ」とヂャンサンフォンは笑っているが、サハチはヂャンサンフォンを琉球から離したくはなかった。
 右馬助は琉球に来て一年余りが過ぎたのに、ずっと運玉森(うんたまむい)の山の中で修行を積んでいた。髪も髭も伸びて、若いくせに仙人のような顔をしている。ササより一つ年上なので、二人がうまくいけばいいとサハチは願っていたのだが、お互いに興味がないらしい。
「修行は順調ですか」とサハチが聞くと、右馬助は首を振って、「うまくいきません」と答えた。
「気分転換のつもりで、首里に出て来たのです」
「サハチ殿、こいつを綺麗どころがいる所に連れて行ってくれんか。奴は今、修行というものに囚われておるんじゃ。何事も囚われの身となったら上達はせん。何もかも忘れ去る事も必要なんじゃよ。綺麗な女子(いなぐ)と酒を飲みながら馬鹿な事を言って笑えば、心も解放されるじゃろう」
 サハチはうなづいて、「このあと、『宇久真(うくま)』にくり出しましょう」と言って、マユミを見た。
「まあ、嬉しい」とマユミは喜んだ。
 次の日の午後、島添大里に帰ると、玉グスク按司が倒れたと騒いでいた。今朝、玉グスクの若按司から知らせがあって、平田大親(ひらたうふや)(ヤグルー)夫婦がお見舞いに出掛けて行ったという。
「玉グスク按司はいくつなんだ?」とサハチはナツに聞いた。
「六十三だそうです」
「六十三か‥‥‥寿命かもしれんな」
 そう言いながら、サハチは初めて玉グスク按司と出会った時の事を思い出していた。
 玉グスクのお姫様だったウミチルがヤグルーに嫁いだあと、サハチは玉グスクに挨拶に行った。今思えば、あの時、完全に孤立していた佐敷按司のもとに娘を嫁がせるなんて、無謀とも思える事をよく決心したものだった。あの時、玉グスクと結ばなければ、今のサハチはいなかったかもしれない。玉グスクヌルのお告げがあったと言っていた。サハチはふと、豊玉姫(とよたまひめ)を思い出した。豊玉姫は玉グスクのヌルだった。お告げを下した神様は豊玉姫だったのかもしれないと思い、サハチは改めて、豊玉姫に感謝した。
 次の日、玉グスク按司は亡くなった。サハチは弔問(ちょうもん)に行った。玉グスク按司は中山王に感謝して、安らかに眠るように亡くなったという。毎年、従者として、倅や家臣たちを明国まで連れて行ってもらい、交易をして、玉グスクも以前のように賑わってきた。これからも中山王に従って行くようにと若按司を諭したという。サハチはヤグルー夫婦にあとの事を任せて帰って来た。
 島添大里グスクに帰ると、クマヌが倒れたと騒いでいた。サハチには信じられなかった。島添大里のお祭りの時、あんなにも元気だった。山伏姿になって、昔の仲間に会いに行くと言っていた。あれからまだ一月と経っていなかった。
 サハチはすぐに中グスクに向かった。
 勝連(かちりん)から按司夫婦が来ていた。首里から東行法師(とうぎょうほうし)姿の思紹、マチルギ、ジルムイの妻のユミも来ていた。ユミは大きなおなかをしていたが、馬に揺られてやって来ていた。サイムンタルーとヒューガも来ていた。馬天ヌルも来ていて、中グスクヌル、久場(くば)ヌルと一緒にお祈りしているという。
「旅から帰って来て、旅の疲れが出たみたい」とマチルギは言った。
 サハチはうなづいて、クマヌが休んでいる部屋に行った。クマヌは横になったまま、娘のマチルーと話をしていたが、サハチの顔を見ると上体を起こして、軽く笑った。
「懐かしい顔に会って来たぞ」とクマヌは楽しそうに言った。
「伊波(いーふぁ)に行って伊波按司を偲んだんじゃ。山田に行って、三年前に亡くなったクラマを偲んで、毘沙門天(びしゃむんてぃん)のお堂に籠もった。今帰仁に行って、『よろずや』のイブキと酒を飲み、山北王に仕えているアタグとも酒を飲んだ。アタグはわしが中グスク按司になったと聞いて、目を丸くして驚いておったわ。そして、奥間(うくま)に行って、アサと会った。お互いに年を取っていて、再会を喜び合ったよ。アサが産んだわしの息子と娘にも会った。息子はサタルーのために、裏の組織『赤丸党』というのを作って活躍しているようじゃ。娘は武寧(ぶねい)の側室になって、息子を一人産んだんだが殺されて、奥間に戻って来た。今では側室になる娘たちの指導をしているという。アサから聞いたんじゃが、王様(うしゅがなしめー)の娘も生まれていて、今、山北王の側室になって、今帰仁にいるようじゃ」
「親父の娘が山北王の側室になっているのか」とサハチは驚いた顔でクマヌを見つめた。
「わしも驚いたわ。三年前、山北王が徳之島(とぅくぬしま)を占領した時、お祝いとして贈ったようじゃ」
「親父の娘が今帰仁グスクにいたとは驚いた。親父には話したのですか」
 クマヌはうなづいた。
「王様も口をポカンと開けて驚いていた。そして、今帰仁攻めに使えると言っておった。それと、マサンルーの倅も生まれていて、サタルーに仕えているそうじゃ」
「マサンルーの倅もいたのか」
「王様の娘はミサ、マサンルーの倅はクジルーという名じゃ。奥間からさらに北に行くつもりじゃったんだが、年齢(とし)には勝てん。奥間から引き返して来て、帰ったらどっと疲れが出てきたんじゃよ。浮島のハリマにも会いたかったんじゃがのう」
「浮島はすぐですよ。疲れを取ったら行ってくればいい」
 クマヌは笑って横になった。
 大丈夫そうだとサハチは安心した。眠ったようなので、マチルーに任せて、サハチは部屋から出た。
 みんなのいる部屋に戻ると、クマヌの思い出話をして笑っていた。サハチも話に加わった。
「クマヌはわしの師匠じゃった」と思紹は言った。
 サハチにとってもクマヌは師匠だった。物心ついた頃からクマヌはずっとそばにいた。色々な事を教わった。クマヌに連れられて、サイムンタルーとヒューガと一緒に旅をした時の事が、まるで、昨日の事のように思い出された。マチルギと出会ったのも、クマヌが伊波按司と親しくしていたからだった。そして、サハチがヤマトゥに行っている留守に、マチルギが佐敷に来たのも、クマヌがいたからだった。クマヌが琉球に来なかったら、今のサハチはいなかったに違いない。祖父の跡を継いで、馬天浜で鮫皮(さみがー)を作っていたかもしれなかった。
 次の日の朝、クマヌは目覚めなかった。眠ったまま亡くなってしまった。サハチはあまりの衝撃に呆然となったまま、言葉も出なかった。
「主人は死を悟っていたのだと思います」とクマヌの奥さんが言って、サハチにクマヌが残した手紙を渡した。
「わしは幸せじゃった」と言っておりました。
 そう言って、涙を拭うと奥さんは去って行った。
 サハチは屋敷から出て、海を眺めた。
「中グスクはいい所じゃ。毎朝、綺麗な海が眺められるだけで幸せじゃよ」とクマヌが口癖のように言っていたのをサハチは思い出していた。
 サハチは手紙を広げた。しっかりした字で書いてあった。
「そなたは人を引き付ける不思議な力を持っている。そなたには自覚はないだろうが、そなたのその力によって大勢の者たちが、そなたの周りに集まって来ている。ヒューガ、ウニタキ、ファイチ、ヂャンサンフォン殿、ジクー禅師、慈恩禅師、八重瀬按司(えーじあじ)、兼グスク按司、海賊の三姉妹、数え上げたらきりがない。わしもその中のひとりだ。そなたが生きている間は今のままでも大丈夫だが、そなたが亡くなったあとの事も考えておけ。子供たちのために災いはすべて取り除け。人の上に立つ者は、時には鬼になる事も必要だ。楽しい日々をありがとう」
 サハチはクマヌの最期の教えを読みながら泣いていた。
 サハチは海に向かって、「クマヌ」と叫んだ。
 翌日は丸太引きのお祭りだった。思紹、馬天ヌル、マチルギは首里に帰って行った。
 サスカサの気合いがサムレーたちに通じたのか、今年は島添大里が優勝した。丸太引きのお祭りを初めて見たイハチの妻のチミー、チューマチの妻のマナビー、そして、サハチの側室のハルは、丸太の上で跳んだり跳ねているサスカサたちを見て驚いていた。
 サハチは島添大里グスクに帰っても呆然としていて、クマヌの死からなかなか立ち直れなかった。
 丸太引きのお祭りの二日後、ンマムイの兼グスクに今帰仁から使者が来て、志慶真(しじま)の長老の死を伝えた。ンマムイ夫婦とチューマチ夫婦がテーラーと一緒に今帰仁に向かった。クマヌの死を知って帰って来たウニタキに、チューマチたちの護衛をサハチは頼んだ。
 チューマチたちが今帰仁に滞在中、羽地按司が亡くなった。チューマチ夫婦と一緒に行った仲尾大主が兄の葬儀に向かったので、チューマチたちも羽地に寄り、帰って来たのは四月の一日だった。
 立て続けに四人が亡くなったが、それだけでは終わらなかった。四月の七日、ンマムイの母親が八重瀬(えーじ)グスクで亡くなった。タブチが中心になって姉の葬儀を行なった。弟のシタルーは代理の者を送っただけで、本人は現れなかったという。
 サハチは行かず、マタルー(与那原大親)夫婦に任せた。マタルーの妻のマカミーが生まれた時、すでに伯母は浦添(うらしい)に嫁いでいたが、里帰りをした伯母と何度か会っていた。中山王の王妃なのに、野良着(のらぎ)を着て、野良仕事をしているのを見て、驚いた事があった。気さくな伯母で、マカミーは好きだった。伯母のお陰で、久し振りに兄弟たちに会えたとマカミーは喜んでいた。
「遊女屋『宇久真』の女将さんも来ていて、悲しそうにしょんぼりとしていました」とサハチはマタルーから聞いた。

 

 

修験道 (講談社学術文庫)   感じるままに生きなさい ―山伏の流儀

目次 第二部

尚巴志伝 第二部

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このイラストはは和々様よりお借りしました。



  1. 山田のウニウシ(第二稿)   護佐丸、尚巴志を頼って首里に行く。
  2. 胸のときめき(第二稿)   護佐丸、島添大里で恋をする。
  3. 恋の季節(第二稿)   サグルーとササ、山田で魂を抜かれる。
  4. キラマの休日(第二稿)   尚巴志夫婦、毎年恒例の旅で慶良間の島に行く。
  5. ナーサの遊女屋(第二稿)   中山王の家臣たちの懇親の宴。
  6. 宇座の古酒(第二稿)   尚巴志、宇座の御隠居の倅と古酒を飲む。
  7. 首里の初春(第二稿)  中山王となった思紹の初めての正月。
  8. 遙かなる船路(第二稿)  尚巴志、ウニタキ、懐機、明国に行く。
  9. 泉州の来遠駅(第二稿)   明国に着いた尚巴志たちは来遠駅に落ち着く。
  10. 麗しき三姉妹(第二稿)   尚巴志たち、福州に行きメイファンと再会する。
  11. 裏切り者の末路(第二稿)   尚巴志たち、メイファンの敵討ちを助ける。
  12. 島影に隠れた海賊船(第二稿)   尚巴志たち、明の海賊船に乗る。
  13. 首里のお祭り(第二稿)   護佐丸、ササたちと祭りの警備をする。
  14. 富楽院の桃の花(第二稿)   尚巴志たち、明国の都、応天府に着く。
  15. 応天府の夢に酔う(第二稿)   尚巴志たち、最高級の妓楼で夢を見る。
  16. 真武神の奇跡(第二稿)   討伐軍を破って皇帝になった永楽帝
  17. 武当山の仙人(第二稿)   尚巴志たち、武当山で張三豊と出会う。
  18. 霞と拳とシンシンと(第二稿)   尚巴志とウニタキ、張三豊に武術を習う。
  19. 刺客の背景(第二稿)   馬天ノロ、刺客の正体を探る。
  20. 龍虎山の天師(第二稿)   尚巴志たち、道教の本山、龍虎山に行く。
  21. 西湖のほとりの幽霊屋敷(第二稿)   尚巴志たち、三姉妹と再会する。
  22. 清ら海、清ら島(第二稿)  三姉妹と張三豊が琉球に来る。
  23. 今帰仁の天使館(第二稿)   旅に出た張三豊たちが帰って来る。
  24. 山北王の祝宴(第二稿)   攀安知、志慶真の長老から今帰仁の歴史を聴く。
  25. 三つの御婚礼(第二稿)   サグルー、尚忠、護佐丸、妻を迎える。
  26. マチルギの御褒美(第二稿)   尚巴志、妻のマチルギにしぼられる。
  27. 廃墟と化した二百年の都(第二稿)   尚巴志、ウニタキと浦添に行く。
  28. 久高島参詣(第二稿)  思紹王、女たちを連れて久高島へ行く。
  29. 丸太引きとハーリー(第二稿)   尚巴志、豊見グスクでハーリーを見る。
  30. 浜辺の酒盛り(第二稿)   尚巴志、ヤマトゥに行くマチルギたちを見送る。
  31. 女たちの船出(第二稿)   マチルギたち、長い船旅を楽しみ博多に着く。
  32. 落雷(第二稿)   尚巴志、雷鳴を聞きながらマジムン退治を思い出す。
  33. 女の闘い(第二稿)   三姉妹の船が来て、メイユーとナツが会う。
  34. 対馬の海(第二稿)   マチルギ、対馬島でイトとユキに会う。
  35. 龍の爪(第二稿)   尚巴志、ウニタキ、懐機、朝鮮旅の計画を練る。
  36. 笛の調べ(第二稿)   久し振りに佐敷グスクから笛の音が流れる。
  37. 初孫誕生(第二稿)   尚忠の長男、尚志達、生まれる。
  38. マチルギの帰還(第二稿)   女たちがヤマトゥから無事に帰国する。
  39. 娘からの贈り物(第二稿)   尚巴志、マチルギから旅の話を聞く。
  40. ササの強敵(第二稿)   馬天ノロ、日代(ティーダシル)の石を探し始める。
  41. 眠りから覚めたガーラダマ(第二稿)   ササ、読谷山で古い勾玉を見つける。
  42. 兄弟弟子(第二稿)   尚巴志、兼グスク按司武当拳の試合をする。
  43. 表舞台に出たサグルー(第二稿)   サグルー、尚巴志の代理を見事に務める。
  44. 中山王の龍舟(第二稿)   ウニタキの新しい隠れ家が完成する。
  45. 佐敷のお祭り(第二稿)   尚巴志の一節切と佐敷ヌルの横笛に大喝采。
  46. 博多の呑碧楼(第二稿)   朝鮮旅に出た尚巴志たち、博多に着く。
  47. 瀬戸内の水軍(第二稿)   尚巴志村上水軍と塩飽水軍の頭領と会う。
  48. 七重の塔と祇園祭り(第二稿)   尚巴志たち、京都に着く。
  49. 幽玄なる天女の舞(第二稿)   尚巴志が一節切を吹くと美女が舞う。
  50. 天空の邂逅(第二稿)   尚巴志たち、七重の塔に登って感激する。
  51. 鞍馬山(第二稿)   尚巴志たち、鞍馬山で武術修行。
  52. 唐人行列(第二稿)   尚巴志、増阿弥の芸に感動する。
  53. 対馬の娘(第二稿)   尚巴志、イトと再会、ユキとミナミに会う。
  54. 無人島とアワビ(第二稿)   尚巴志、昔の顔なじみと再会する。
  55. 富山浦の遊女屋(第二稿)   尚巴志たち、富山浦(釜山)に渡る。
  56. 渋川道鎮と宗讃岐守(第二稿)   尚巴志九州探題対馬守護に会う。
  57. 漢城府(第二稿)   尚巴志たち、朝鮮の都に到着する。
  58. サダンのヘグム(第二稿)   尚巴志たち、ナナの案内で都見物。
  59. 開京の将軍(第二稿)   尚巴志たち、高麗の都に行く。
  60. 李芸とアガシ(第二稿)   尚巴志、李芸と会う。
  61. 英祖の宝刀(第二稿)   佐敷ノロ、神様の声を聞いて宝刀を探す。
  62. 具志頭按司(第二稿)   佐敷ノロ、お祭りでお芝居を上演する。
  63. 対馬慕情(第二稿)   尚巴志、家族を連れて舟旅に出る。
  64. 旧港から来た娘(第二稿)   尚巴志、旧港の施二姐と会う。
  65. 龍天閣(第二稿)  尚巴志、旧港の船を連れて琉球に帰る。
  66. 雲に隠れた初日の出(第二稿)   尚巴志、上間グスクの警固を強化する。
  67. 勝連の呪い(第二稿)   尚巴志の義兄サムが勝連按司になる。
  68. 思紹の旅立ち(第二稿)   思紹、張三豊と一緒に明国に行く。
  69. 座ったままの王様(第二稿)   佐敷大親とジクー禅師、ヤマトゥに行く。
  70. 二人の官生(第二稿)   尚巴志、明国に送る留学生を決める。
  71. ンマムイが行く(第二稿)   兼グスク按司、家族を連れて今帰仁に行く。
  72. ヤンバルの夏(第二稿)   兼グスク按司、家族を連れてヤンバルを巡る。
  73. 奥間の出会い(第二稿)   兼グスク按司、奥間で隠し事を聞いて驚く。
  74. 刺客の襲撃(第二稿)   兼グスク按司、ヤンバルの山中で襲われる。
  75. 三か月の側室(第二稿)   メイユー、尚巴志の側室になる。
  76. 百浦添御殿の唐破風(第二稿)   首里グスク正殿の改築が完成する。
  77. 武当山の奇跡(第二稿)   思紹、武当山で張三豊の凄さを知る。
  78. イハチの縁談(第二稿)   米須按司と玻名グスク按司が東方に寝返る。
  79. 山南王と山北王の同盟(第二稿)   山北王の娘が山南王の三男に嫁いで来る。
  80. ササと御台所様(第二稿)   ササ、伊勢神宮で神様の声を聞く。
  81. 玉依姫(第二稿)   ササ、豊玉姫のお墓で玉依姫の声を聞く。
  82. 伊平屋島と伊是名島(第二稿)   伊平屋島の親戚たちが逃げてくる。
  83. 伊平屋島のグスク(第二稿)   サグルーと尚忠と護佐丸、伊平屋島に行く。
  84. 豊玉姫(第二稿)   ヒューガの師匠、慈恩禅師が琉球に来る。
  85. 五年目の春(第二稿)   尚巴志、龍天閣で今年の計画を練る。
  86. 久高島の大里ヌル(第二稿)   ササ、神様から願い事を頼まれる。
  87. サグルーの長男誕生(第二稿)   兼グスク按司の新しいグスクが完成する。
  88. 与論島(第二稿)   ウニタキ、与論島に行き、与論ヌルと再会する。
  89. ユンヌのお祭り(第二稿)   尚巴志、ササたちと与論島に行く。
  90. 伊是名島攻防戦(第二稿)   伊是名島で中山王と山北王の戦が始まる。
  91. 三王同盟(第二稿)   中山王と山北王の同盟が決まり、山南王も加わる。
  92. ハルが来た(第二稿)   山南王から尚巴志に側室が贈られる。
  93. 鉄炮(第一稿)   三姉妹がアラビアの商品と鉄炮を持って来る。
  94. 熊野へ(第一稿)   ササ、将軍様の奥方と一緒に熊野詣でに出掛ける。
  95. 新宮の十郎(第一稿)   サスカサ、神倉山で十郎の話を聞く。
  96. 奄美大島のクユー一族(第一稿)   本部のテーラー、奄美大島を攻める。
  97. 大聖寺(第一稿)   首里に最初のお寺が完成する。
  98. ジャワの船(第一稿)   ヤマトゥに行った交易船がジャワの船を連れて来る。
  99. ミナミの海(第一稿)   早田左衛門太郎が、イトとユキとミナミを連れて来る。
  100. 華麗なる御婚礼(第一稿)   チューマチ、山北王の娘マナビーを妻に迎える。
  101. 悲しみの連鎖(第一稿)   玉グスク按司から始まって、続けて五人が亡くなる。



主要登場人物

 

第一部 目次

目次 第一部

尚巴志伝 第一部 月代の石

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このイラストはは和々様よりお借りしました。

 

  1. 誕生(最終決定稿)   尚巴志、佐敷苗代に生まれる。
  2. 馬天浜(最終決定稿)   サミガー大主とヤマトゥの山伏、クマヌ。
  3. 察度と泰期(最終決定稿)   浦添按司察度、過去を振り返る。
  4. 島添大里グスク(最終決定稿)   島添大里グスク、汪英紫に奪われる。
  5. 佐敷グスク(最終決定稿)   尚巴志の父、佐敷按司になる。
  6. 大グスク炎上(最終決定稿)   大グスク、汪英紫(島添大里按司)に奪われる。
  7. ヤマトゥ酒(最終決定稿)   早田三郎左衛門、馬天浜に来る。
  8. 浮島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎と旅に出る。
  9. 出会い(最終決定稿)   尚巴志、伊波按司の娘と剣術の試合をする。
  10. 今帰仁グスク(最終決定稿)   尚巴志、今帰仁に行く。
  11. 奥間(最終決定稿)   尚巴志、奥間村に滞在する。
  12. 恋の病(最終決定稿)   旅から帰った尚巴志、マチルギを想う。
  13. 伊平屋島(最終決定稿)   尚巴志、祖父の故郷に行く。
  14. ヤマトゥ旅(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥへ旅立つ。
  15. 壱岐島(最終決定稿)   尚巴志、壱岐島で察度の噂を聞く。
  16. 博多(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥの都を見て驚く。
  17. 対馬島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎の故郷に滞在する。
  18. 富山浦(最終決定稿)   尚巴志、高麗に行く。
  19. マチルギ(最終決定稿)   尚巴志の恋敵、ウニタキ現れる。
  20. 兵法(最終決定稿)   尚巴志、対馬で修行に励む。
  21. 再会(最終決定稿)   帰って来た尚巴志、マチルギと再会。
  22. ウニタキ(最終決定稿)   尚巴志、ウニタキと一緒に勝連グスクに行く。
  23. 名護の夜(最終決定稿)   尚巴志、マチルギと今帰仁に行く。
  24. 山田按司(最終決定稿)   尚巴志、マチルギの叔父、山田按司と会う。
  25. お輿入れ(最終決定稿)   マチルギ、尚巴志に嫁ぐ。
  26. 高麗の対馬奇襲(最終決定稿)   早田左衛門太郎の本拠地、高麗に攻められる。
  27. 豊見グスク(最終決定稿)   シタルー(汪応祖)、豊見グスクを築く。
  28. サスカサ(最終決定稿)   尚巴志とマチルギ、馬天ノロと旅に出る。
  29. 長男誕生(最終決定稿)   マチルギと馬天ノロ、神様になる。
  30. 出陣命令(最終決定稿)   察度、各按司に今帰仁征伐を命じる。
  31. 今帰仁合戦(最終決定稿)   中山王、山北王の今帰仁グスクを攻める。
  32. 次男誕生(最終決定稿)  尚巴志の次男(尚忠)と山田按司の次男(護佐丸)生まれる。
  33. 十年の計(最終決定稿)   尚巴志、佐敷按司(父)、鮫皮大主(祖父)と密談する。
  34. 東行法師(最終決定稿)   父が隠居して、尚巴志、佐敷按司となる。
  35. 首里天閣(最終決定稿)   察度、浦添按司を武寧に譲って隠居する。
  36. 浜川大親(最終決定稿)   ウニタキは妻子を殺され、シタルーは明に行く。
  37. 旅の収穫(最終決定稿)   奥間のサタルーと対馬のユキ。
  38. 久高島(最終決定稿) 尚巴志はマチルギに怒られ、ウニタキはチルーといい感じ。
  39. 運玉森(最終決定稿)   三好日向、尚巴志のために山賊になる。
  40. 山南王(最終決定稿)   承察度が亡くなり、若按司が山南王になる。
  41. 傾城(最終決定稿)   山南王、中山王の怒りを買って、汪英紫に攻められる。
  42. 予想外の使者(最終決定稿)   尚巴志夫婦、弟のマサンルー夫婦と旅をする。
  43. 玉グスクのお姫様(最終決定稿)   尚巴志、玉グスクと同盟を結ぶ。
  44. 察度の死(最終決定稿)   山北王のミンと奥間の長老も亡くなる。
  45. 馬天ヌル(最終決定稿)   馬天ノロ、御嶽巡りの旅に出る。
  46. 夢の島(最終決定稿)   早田左衛門太郎、慶良間の夢の島に行く。
  47. 佐敷ヌル(最終決定稿)  尚巴志の妹、マシューの気持ちとマカマドゥの決心。
  48. ハーリー(最終決定稿)   尚巴志夫婦と佐敷ノロ、ハーリーを見物。
  49. 宇座の御隠居(最終決定稿)   宇座の泰期が亡くなり、尚巴志夫婦は悲しむ。
  50. マジムン屋敷の美女(最終決定稿)  尚巴志、島添大里グスクに側室を入れる。
  51. シンゴとの再会(最終決定稿)   早田左衛門太郎、朝鮮に投降する。
  52. 不思議な唐人(最終決定稿)   尚巴志、懐機と出会う。
  53. 汪英紫、死す(最終決定稿)   懐機、旅から帰り、武術を披露する。
  54. 家督争い(最終決定稿)   達勃期と汪応祖が山南王の家督を争う。
  55. 大グスク攻め(最終決定稿)   尚巴志、大グスクを攻め落とす。
  56. 作戦開始(最終決定稿)   尚巴志、大グスクノロと再会する。
  57. シタルーの非情(最終決定稿)   達勃期、弟の汪応祖に敗れる。
  58. 奇襲攻撃(最終決定稿)   尚巴志、島添大里グスクを攻め落とす。
  59. 島添大里按司(最終決定稿)   尚巴志、島添大里按司になる。
  60. お祭り騒ぎ(最終決定稿)   尚巴志、城下の者たちと戦勝祝い。
  61. 同盟(最終決定稿)   尚巴志、山南王と同盟する。
  62. マレビト神(最終決定稿)   外間ノロと佐敷ノロにマレビト神が現れる。
  63. サミガー大主の死(最終決定稿)   神の声を聞いたウニタキ。
  64. シタルーの娘(最終決定稿)   山南王のお姫様の悩みと青い海
  65. 上間按司(最終決定稿)   明国の使者が二十年振りにやって来る。
  66. 奥間のサタルー(最終決定稿)   尚巴志、奥間ノロに魅了される。
  67. 望月ヌル(最終決定稿)   謎の爺さん、望月党を語る。
  68. 冊封使(最終決定稿)   首里の宮殿の儀式で、武寧と汪応祖、正式に王になる。
  69. ウニョンの母(最終決定稿)   ウニタキ、亡くなった妻の秘密を知る。 
  70. 久米村(最終決定稿)   尚巴志とウニタキ、懐機に呼ばれて久米村に行く。
  71. 勝連無残(最終決定稿)   勝連按司が奇病に倒れる。 
  72. 伊波按司(最終決定稿)   大きな台風が来て各地で被害が出る。
  73. ナーサの望み(最終決定稿)   ウニタキ、ナーサを味方に引き入れる。
  74. タブチの野望とシタルーの誤算(最終決定稿)  八重瀬按司、中山王と同盟する。
  75. 首里グスク完成(最終決定稿)   中山王と山南王の決戦が迫る。
  76. 首里のマジムン(最終決定稿)   尚巴志、首里グスクを奪い取る。 
  77. 浦添グスク炎上(最終決定稿)   浦添グスクは焼け落ち、亜蘭匏は消える。
  78. 南風原決戦(最終決定稿)   尚巴志、中山軍を壊滅させる。
  79. 包囲陣崩壊(最終決定稿)   達勃期は出直し、汪応祖は首里を攻める。
  80. 快進撃(最終決定稿)   尚巴志、中グスク、越来グスクを攻め落とす。
  81. 勝連グスクに雪が降る(最終決定稿)   尚巴志、勝連グスクを落とす。

 

尚巴志伝 第二部 目次

 

・尚巴志伝の年表

・第一部の主要登場人物

・尚巴志の略歴

・尚巴志の祖父、サミガー大主の略歴

・尚巴志の父、思紹の略歴

・馬天ヌル(馬天ノロ)の略歴

・中山王、察度の略歴

・中山王、武寧の略歴

・汪英紫の略歴

・山南王、汪応祖の略歴

・泰期の略歴

・クマヌの略歴

・三好日向の略歴

・早田左衛門太郎の略歴

・ウニタキの略歴

・懐機の略歴

・倭寇年表

第二部 主要登場人物

サハチ       1372-1439  尚巴志。島添大里按司
マチルギ      1373-    尚巴志の妻。伊波按司の娘。
サグルー      1390-    尚巴志の長男。
ジルムイ      1391-    尚巴志次男。尚忠。
ミチ        1393-    尚巴志の長女。島添大里ヌル、サスカサ。
イハチ       1394-    尚巴志の三男。妻は具志頭按司の娘。
チューマチ     1396-    尚巴志の四男。妻は山北王の娘。
思紹        1354-1421 中山王。尚巴志の父。
佐敷ヌル      1374-    尚巴志の妹、マシュー。シンゴと結ばれ娘を産む。
佐敷大親      1376-    尚巴志の弟、マサンルー。妻は奥間大親の娘。
平田大親      1378-    尚巴志の弟、ヤグルー。妻は玉グスク按司の娘。
与那原大親     1383-    尚巴志の弟、マタルー。妻はタブチの娘。
クルー       1388-    尚巴志の弟、妻は山南王シタルーの娘。
馬天ヌル      1357-    思紹の妹、尚巴志の叔母。
ササ        1391-    馬天若ヌル。父はヒューガ。母は馬天ヌル。
ヒューガ      1355-1470 三好日向。中山の水軍大将。
苗代大親      1360-    思紹の弟。サムレー総隊長。武術師範。
マカマドゥ     1392-    苗代大親の三女。マウシ(護佐丸)の妻。
クグルー      1386-    泰期の三男。苗代大親の娘婿。
サミガー大主    1356-    思紹の弟、ウミンター。
シビー       1395-    尚巴志の従妹。メイユーの弟子になる。
ウニタキ      1372-1433 三星大親。「三星党」の頭。
チルー       1368-    ウニタキの妻。尚巴志の母の妹。
イーカチ      1373-    「三星党」の副頭。絵画き。
ナツ        1381-    ウニタキの配下から尚巴志の側室になる。
シズ        1389-    ウニタキの配下。ササと一緒にヤマトゥに行く。
ヤールー      1385-    ウニタキの配下。サグルーを守っている。
ファイチ      1375-1453 懐機。明国の道士。尚巴志の客将。
サスカサ      1354-    ミチにサスカサを譲り、運玉森ヌルになる。
マウシ       1391-1458 真牛。山田按司次男尚巴志の甥。護佐丸。
マカトゥダル    1392-    護佐丸の妹。サグルーの妻。
マサルー      1364-    山田按司の家臣。
シラー       1391-    マサルーの次男
クマヌ       1346- 1412 中グスク按司。中山の重臣。
美里之子      1362-    越来按司。中山の重臣。思紹の義弟。
當山之子      1365-    美里之子の弟。浦添按司になる。
クサンルー     1387-    當山之子の長男。浦添按司
カナ        1391-    當山之子の長女。浦添ヌル。
サム        1372-    後見役から勝連按司になる。伊波按司の四男。
ユミ        1392-    サムの長女。ジルムイ(尚忠)の妻。
ナーサ       1352-    首里の遊女屋「宇久真」の女将。
マユミ       1389-    「宇久真」の遊女。
宇座按司      1355-    泰期の次男。父の跡を継いで明国への使者となる。
シタルー      1362-1413  山南王。汪応祖
タルムイ(太郎思) 1385-1429  豊見グスク按司汪応祖の長男。妻は尚巴志の妹。
タブチ       1360-1414  八重瀬按司。シタルーの兄。
サイムンタルー   1361-1429  早田左衛門太郎。対馬島倭寇の頭領。
早田六郎次郎    1387-    左衛門太郎の跡継ぎ。妻はユキ。
ユキ        1388-    六郎次郎の妻。尚巴志の娘。母はイト。
イト        1372-    対馬島の女船長。ユキの母。
シンゴ       1372-    早田新五郎。左衛門太郎の弟。
早田五郎左衛門   1349-    左衛門太郎の叔父。朝鮮国の富山浦に住む商人。
早田丈太郎     1371-    五郎左衛門の長男。漢城府の津島屋の主人。
浦瀬小次郎     1375-    五郎左衛門の娘婿。
早田ナナ      1388-    早田次郎左衛門の娘。
サングルミー    1371-    与座大親。中山の進貢船の正使。
メイファン     1379-    張美帆。明国の海賊の娘。
メイリン      1374-    張美玲。メイファンの姉。
スーヨン      1387-    張思永。メイリンの娘。
メイユー      1376-    張美玉。メイファンの姉。尚巴志の側室になる。
ラオファン     1338-    黄敬。三姉妹の武術の師匠。
リェンリー     1376-    黄怜麗。ラオファンの娘。
ジォンダオウェン  1364-    鄭道文。三姉妹の配下の海賊。
ユンロン      1387-    鄭芸蓉。ジォンダオウェンの娘。 
リュウジャジン   1362-    劉嘉景。三姉妹の配下の海賊。
リィェンファ    1377-    楊蓮華。富楽院の妓楼『桃香滝』の女将。
ヂュヤンジン    1375-    朱洋敬。懐機の友。宮廷に仕える役人。
永楽帝       1360-1424  明国の皇帝。
リュウイェンウェイ 1389-    劉媛維。富楽院の最高級妓楼『酔夢楼』の妓女。
ファイホン     1379-    懐虹。懐機の妹。
ヂャンサンフォン  1247-    張三豊。武当山の道士で、武当拳創始者
シンシン      1390-    范杏杏。張三豊の弟子。
フカマヌル     1372-    外間ノロ。久高島のノロ。尚巴志の腹違いの妹。
奥間大親      1357-    ヤキチ。奥間から来た尚巴志の護衛役。中山の重臣。
平安名大親     1348-    勝連の重臣。ウニタキの叔父。
勝連ヌル      1369-    ウニタキの姉。
伊波按司      1363-    マチルギの兄。
山田按司      1365-    マチルギの兄。
攀安知       1376-1416  山北王。
マナビー      1397-    攀安知の次女。チューマチの妻。
涌川大主      1377-    攀安知の弟。
勢理客ヌル     1356-    アオリヤエ。攀安知の叔母。
アタグ       1355-    山北王に仕えるヤマトゥの山伏。
本部のテーラー   1376-1416  攀安知の幼馴染み。サムレー大将。
兼グスク按司    1378-    ンマムイ。武寧の次男。妻は攀安知の妹。
マハニ       1379-    兼グスク按司の妻。山北王、攀安知の妹。
ヤタルー師匠    1359-    阿蘇弥太郎。ンマムイの武術の師匠。
慈恩禅師      1350-1448  禅僧であり武芸者。ヒューガの師匠。
飯篠修理亮     1387-1488 武芸者。長威斎。
二階堂右馬助    1390-    慈恩の弟子。
一文字屋孫三郎   1361-    次郎左衛門の弟。坊津の一文字屋主人。
みお        1394-    一文字屋孫三郎の三女。
村上又太郎     1386-    村上水軍の頭領の長男。上関を守っている。
村上あや      1392-    村上又太郎の妹。
塩飽三郎入道    1358-    塩飽水軍の頭領。
一文字屋次郎左衛門 1355-    京都の一文字屋の主人。
まり        1394-    一文字屋次郎左衛門の三女。
高橋殿       1376-    足利義満の側室。道阿弥の娘。
対御方       1379-    足利義満の側室。高橋殿に仕えている。
平方蓉       1383-    陳外郎の娘。高橋殿に仕えている。
足利義持      1386-1428  室町幕府第四代将軍。
日野栄子      1390-1431  足利義持の奥方。
勘解由小路殿    1350-1410  斯波道将。将軍様の補佐役。
斯波左兵衛督    1371-1418  勘解由小路殿の嫡男。将軍様の補佐役。
中条兵庫助     1359-    将軍様の武術指南役。慈恩禅師の弟子。
中条奈美      1380-    中条兵庫助の娘。夫が戦死し、高橋殿に仕える。
外郎       1360-    陳宗奇。薬師。外交使節の接待役。
魏天        1350-    将軍様に仕える明国の通事。
栄泉坊       1389-    東福寺を追い出された画僧。
増阿弥       1368-    奈良の田楽新座の太夫。
一徹平郎      1355-    北野天満宮の宮大工。
源五郎       1359-    腕はいいが変わり者の瓦職人。
新助        1379-    龍ばかり彫っている等持寺の大工。
渋川道鎮      1372-1446  九州探題。勘解由小路殿の娘婿。
宗讃岐守貞茂    1364-1418  対馬守護。
平道全       1376-    宗貞茂の家臣。
宗金        1380-    博多妙楽寺の僧。
李芸        1373-1445  倭寇にさらわれた母親を探している朝鮮の役人。
シーハイイェン   1390-    施海燕。旧港宣慰司、施進卿の次女。施二姐。
ツァイシーヤオ   1390-    蔡希瑶。シーハイイェンの親友。
シュミンジュン   1342-    徐鳴軍。シーハイイェンの師匠。張三豊の弟子。
ワカサ       1364-    旧港の通事。若狭出身の倭寇
奥間の長老     1348-    ヤザイム。奥間大主。
奥間ヌル      1374-    奥間村のノロ。尚巴志の娘ミワを産む。
米須按司      1357-    武寧の弟。若按司の妻はタブチの娘。
玻名グスク按司   1358-    タブチの義兄。
イサマ       1375-    伊平屋島の田名大主の長男。田名親方の兄。
我喜屋大主     1359-    田名大主の弟。イサマの叔父。
サミガー親方    1361-    与論島で鮫皮を作っている親方。
麦屋ヌル      1373-    先代の与論按司の娘。ウニタキの従妹。
ハル        1395-    山南王のシタルーから尚巴志に贈られた側室。
クムン       1373-    島尻大里から来た石屋。
スヒター      1391-   マジャパイト王国の女王クスマワルダニの娘。

スサノオ            ヤマト国の大王。牛頭天王
豊玉姫             スサノオの妻。
玉依姫             スサノオ豊玉姫の娘。ヒミコ。アマテラス。
アマン姫            玉依姫の妹。アマミキヨ
ユンヌ姫            アマン姫の娘。

 

2-100.華麗なる御婚礼(第一稿)

 二月九日、首里(すい)のお祭り(うまちー)が行なわれた。
 首里に滞在していたイトたちは勿論の事、与那原(ゆなばる)で武術修行をしていたスヒターたちも戻って来て、お祭りを楽しんだ。
 お芝居は『鎮西八郎為朝(ちんじーはちるーたみとぅむ)』だった。ササとサスカサから話を聞いて、佐敷ヌルが作った新しいお芝居だった。戦(いくさ)の場面が多く、背の高い女子(いなぐ)サムレーのウフハナが為朝を演じて喝采を浴び、為朝の強弓から射られた矢が二人の武将を貫く場面は、観客が悲鳴を上げるほど見事な演出だったという。
 サハチはチューマチの婚礼と進貢船(しんくんしん)の準備で忙しく、お芝居は観られなかった。いつもなら翌日、御内原(うーちばる)でお芝居の再演をするのだが、御内原も婚礼の準備で忙しく、再演は婚礼が終わってからとなった。
 お祭りの翌日、ジルムイの妻、ユミのお腹が大きくなり、五歳になった長男のジタルーを連れて御内原に入った。御内原では王妃を中心に側室や侍女たちが、婚礼で着る重臣たちの衣装を縫っていた。明国の官服(かんぷく)を真似したお揃いの衣装だった。ユミも体をいたわりながら手伝った。
 首里のお祭りの五日後、『油屋』の船に乗って、花嫁が浮島にやって来た。花嫁の護衛役は本部(むとぅぶ)のテーラーだった。花嫁のマナビーは女子サムレーの格好で、付いて来た五人の侍女も女子サムレーだった。一行は新しくできた宿泊施設『那覇館(なーふぁかん)』に入った。
 サハチは『天使館』を使うつもりでいた。しかし、ヤマトゥに行った交易船が旧港(ジゥガン)の船を連れて来たらどうするのとマチルギに言われた。去年は来なかったので、今年は来るかもしれなかった。『天使館』に旧港の者たちが入っていれば使えない。若狭町(わかさまち)にある宿屋にはヤマトゥの商人たちが滞在していて、どこも一杯だった。それで、新たに宿泊施設を建てる事に決めたのだった。『那覇』というのは、その辺りの古い地名で、老ウミンチュから聞いて、何となく響きがいいので施設の名前にした。
 旧港の船は来なかったが、ジャワの船が来て、『天使館』を使っていた。マチルギの先見の明にサハチは感謝した。
 怖いもの知らずの花嫁だった。『那覇館』にじっとしていないで、さっそく、侍女たちを連れて浮島を散策していた。テーラーは休む暇もなく、花嫁に従って浮島を案内した。
「ヤンバルから女子サムレーの花嫁がやって来た」と噂が広まって、人々が集まって来た。見物人たちに囲まれながら、花嫁は楽しそうに若狭町を見たり、久米村(くみむら)を見て回った。
「ヤンバルのお姫様は美しい」という噂も広まり、野次馬の数は増えるばかりで、知らせを聞いたサハチは、浮島の警護に当たっている三番組のサムレーたちに見物人の整理を命じた。
 噂を聞いて、首里にいたンマムイもやって来た。テーラーとの再会を喜び、花嫁のマナビーは、
「伯父様、南部にやって参りましたわ。よろしくお願いします」と挨拶をした。
「おやまあ、相変わらずの格好ですね」とンマムイは笑った。
 乗馬が好きなマナビーはいつも馬乗り袴をはいていた。一緒に来た五人の侍女たちもマナビーに従うには馬に乗れなければならず、武芸の稽古もマナビーと一緒にやっていた。
 マナビーの母親はンマムイの妹のマーサだった。そして、ンマムイの妻のマハニはマナビーの叔母であり、義理の伯母でもあった。
「マハニ叔母さんはお元気ですか」とマナビーは聞いた。
「ああ、元気だよ。一時は今帰仁(なきじん)にはもう帰れないと嘆いていたけど、同盟を結んだお陰で、今帰仁にも帰れると喜んでいるよ」
「父から中山王(ちゅうさんおう)のもとへお嫁に行けと言われた時は驚きました。でも、伯父様と叔母様がいらっしゃるので、安心して参る事ができました」
「マナビーのお婿さんになる男は、島添大里按司(しましいうふざとぅあじ)の倅のチューマチだ。先月、ヤマトゥから帰って来て、婚礼の話を聞いたばかりだ。島添大里の奥方様(うなじゃら)は武術の名人で、女子サムレーたちを仕切っている。マナビーの嫁ぎ先にぴったりの所だよ」
「女子サムレーの噂は叔母様から聞きました。早く、見てみたいわ」
 その頃、首里は婚礼の準備で大忙しだった。各地から婚礼に出席する按司たちが家臣を引き連れてやって来た。北は伊波按司(いーふぁあじ)、山田按司、安慶名按司(あぎなーあじ)、宇座按司(うーじゃあじ)、北谷按司(ちゃたんあじ)、勝連按司(かちりんあじ)、越来按司(ぐいくあじ)、中グスク按司浦添按司(うらしいあじ)、南は知念按司(ちにんあじ)、垣花按司(かきぬはなあじ)、玉グスク按司、糸数按司(いちかじあじ)、兼(かに)グスク按司、大(うふ)グスク按司、八重瀬按司(えーじあじ)、具志頭按司(ぐしちゃんあじ)、玻名(はな)グスク按司、米須按司(くみしあじ)、山グスク大主(うふぬし)(真壁按司(まかびあじ))、ナーグスク大主(伊敷按司(いしきあじ))が来た。八重瀬按司、玻名グスク按司、米須按司、山グスク大主、ナーグスク大主は今、明国に行っているので、若按司あるいは跡継ぎが来ていた。山南王の代理としては豊見(とぅゆみ)グスク按司が来た。
 会同館(かいどうかん)の宿泊施設だけでは足らず、城下の宿屋も借り切り、空いている屋敷も使用した。首里の城下はサムレーたちで溢れた。遊女屋(じゅりぬやー)『喜羅摩(きらま)』には昼間からサムレーたちが押し寄せて、酒盛りを始め、最近できたいくつかの料理屋でも、祝い酒を飲んでいた。遊女屋『宇久真(うくま)』は明日の婚礼で使用するため、門は閉まっていた。
 ヤンバルに行っていたウニタキも戻って来て、城下に曲者(くせもの)が侵入しないように配下の者たちを配置に付けた。
 二月十五日、天候に恵まれて、浮島から首里へ花嫁行列が華やかに行なわれた。先導するのは五番組の大将、外間親方(ふかまうやかた)で、配下の者たちは揃いの赤い腹巻き(鎧)を身に付けて、テーラー率いる十人のサムレーとお輿(こし)に乗った花嫁を前後で守った。
 沿道は見物人で溢れ、七番組と八番組のサムレーたちが通り道に縄を張って、警護に当たった。
 花嫁は陽気だった。お輿のすだれを上げて、ニコニコ笑いながら見物人たちに手を振ったりしていた。美しい高価な着物を着て、髪には光り輝く簪(かんざし)を挿し、気品のある顔立ちは、どう見ても雲の上のお姫様だが、その人懐っこい笑顔は、誰もが好感が持てると感じていた。
 花嫁行列は首里の大通りまで来て、中程にある遊女屋『宇久真』の前で止まり、花嫁一行は『宇久真』に入って休憩した。役目を終えた外間親方は配下の兵を連れて、首里グスクに引き上げた。
 四半時(しはんとき)(三十分)後、首里グスクの太鼓が鳴り響いた。『宇久真』からゆったりとした音楽が流れてきた。やがて門が開いて、馬に乗った佐敷大親(さしきうふや)と平田大親が現れた。二人とも鎧(よろい)は身に付けず、明国渡りの豪華な緞子(どんす)で作った直垂(ひたたれ)を着て、きらびやかな太刀を佩いていた。
 次に現れたのは楽隊で、笛と太鼓と三弦(サンシェン)を演奏しながら、佐敷大親と平田大親の馬の後ろに並んだ。横笛を吹いているのは女子サムレーで、太鼓も三弦も京都で行列をした者たちだった。皆、烏帽子(えぼし)をかぶって、ヤマトゥのお公家さんが着ている直衣(のうし)を着ていた。
 次に佐敷ヌル、馬天(ばてぃん)若ヌルのササ、島添大里ヌルのサスカサ、三人のヌルが正装をして現れた。黄金色に輝く扇を持ち、首からガーラダマを下げ、頭に巻いた白い鉢巻きには、見事な鷲(わし)の羽根を挿していた。
 三人のヌルの後ろに、涼傘(リャンサン)を持った男が三人並び、そのあとに、十人の女子サムレーが続いた。女子サムレーたちは白い鉢巻き、白い着物に白い袴、白柄白鞘(しろつかしろさや)の刀と白づくめだった。
 女子サムレーのあとにようやく、花嫁のお輿が現れた。お輿も先程よりも華麗になり、お輿を担ぐ男たちも烏帽子をかぶり、直垂姿になっていた。お輿のすだれは上げられ、花嫁は白地の緞子の着物を着て、にこやかに笑っていた。お輿の回りに着飾った侍女たちが従った。その後ろに女子サムレー十人、馬に乗ったテーラーとサムレーが十人、最後尾には馬に乗った与那原大親(ゆなばるうふや)と手登根大親(てぃりくんうふや)がいた。
 クルーは手登根にグスクを築いて、手登根大親を名乗っていた。グスクの主(あるじ)になって、喜んだのはクルーよりも妻のウミトゥクだった。娘たちに剣術を教えて、女子サムレーを作ると張り切っていた。
 笛の調べが変わり、行列がゆっくりと動き出した。沿道に溢れている見物人たちから指笛が飛んだ。あちこちから飛んでくる指笛に歓迎されながら、花嫁行列はゆっくりと大通りを進んで行った。
 笑顔とは裏腹に、マナビーの心の中は不安で一杯だった。今帰仁を発つ時、母は泣いていた。敵(かたき)のもとに嫁ぐなんて、あまりにも可哀想過ぎると言った。姉が山南王(さんなんおう)のもとへ嫁いだ時も泣いていたが、泣き方は全然違った。
 去年の五月のお祭りの時、父は志慶真大主(しじまうふぬし)の倅に嫁ぐかと聞いた。羽地(はにじ)も名護(なぐ)も国頭(くんじゃん)もお前と釣り合う相手はいない。志慶真なら近くていいだろう。お前を遠くにはやりたくないと言った。志慶真のタルーはよく知っていた。ちょっと頼りないけど、近くだから、まあいいかと思っていた。
 ところが、その五日後、中山王のもとへ嫁げと言われた。マナビーにはわけがわからなかった。伊是名島(いぢぃなじま)で戦(いくさ)をしている敵のもとへ嫁ぐなんて考えられない事だった。
「中山王と同盟する事に決めた」と父は言った。
「マサキは山南王に嫁いだ。お前は中山王に嫁ぐ。わしが琉球を統一するまで我慢してくれ。お前たちは必ず助け出す」
 母は先代の山北王と先代の中山王が同盟した時に嫁いで来た。今度は娘のわたしが嫁いで行く。運命のようなものをマナビーは感じていた。
 中山王との同盟を知ると羽地按司(はにじあじ)、名護按司(なぐあじ)、国頭按司(くんじゃんあじ)がやって来て、そんな重大な事を独断で決めるなんて許せないと怒った。父は平気な顔をして、成り行きを説明していた。城下の者たちは噂を聞いて、戦が終わった事を喜んでいた。伊是名島の戦から発展して、大戦(うふいくさ)になるのではと皆が心配していた。
 喜んでいる人たちを眺めながら、マナビーは中山王のもとへ嫁がなければならないと覚悟を決めた。
 馬に乗ってヤンバルを駈け回ってはいても、船に乗って遠くに行くのは初めてだった。マナビーは飽きずに景色を眺めていた。もし、いやな事が起こったら、馬に乗って帰って来ようと密かに決めていた。
 浮島に着いて、その賑わいに驚いた。今帰仁よりも栄えている所はないと聞いていた。しかし、浮島には大勢のヤマトゥンチュがいて、唐人(とーんちゅ)でもない異国の人たちもいた。遠くに来た不安よりも好奇心の方が勝り、マナビーは浮島を散策した。
 ヤマトゥには行った事はないが、若狭町はまるでヤマトゥの国のようだと思った。行き交う人たちはヤマトゥ言葉をしゃべり、ヤマトゥの着物を着た琉球の娘たちを連れていた。
 土塁に囲まれた久米村には大勢の唐人が住んでいて、唐の言葉が行き交い、まるで唐の国だった。そして、『天使館』には南蛮(なんばん)(東南アジア)から来た人たちがいた。
 花嫁行列の時、マナビーは初めて女子サムレーを見た。白づくめのその姿は格好よかった。皆、武芸の腕も相当ありそうだが、馬術と弓矢は負けないとマナビーは強気だった。女子サムレーを仕切っているという花婿の母親に、早く会いたいと思った。
 中山王の都、首里今帰仁ほどは栄えていなかった。賑わっているのは首里グスクへと続く大通りの周辺だけのようだった。
 城下の者たちの大歓迎を受けながら、もう今帰仁には帰れないのではないかという不安がよぎった。自分のわがままで逃げ出したら、戦が起こるかもしれない。父が助けに来るまでは、何があっても我慢しなければならないと思い始めた。でも、我慢できるか自信はなかった。
 花嫁行列は高い石垣に囲まれた首里グスクに入って行った。北曲輪(にしくるわ)から坂道を登って西曲輪(いりくるわ)に入った。北曲輪と西曲輪は城下の者たちに開放され、祝い酒と餅を配る屋台がいくつも出ていた。
 法螺貝(ほらがい)の音が響き渡り、中御門(なかうじょう)が開いた。佐敷ヌル、ササ、サスカサの先導で、馬から下りた佐敷大親と平田大親、お輿から降りた花嫁が侍女を連れて中御門から御庭(うなー)に入った。三つの涼傘が続き、テーラーが五人のサムレーを連れて従い、与那原大親と手登根大親が御庭に入ると、警護の兵によって中御門に縄が張られた。
 西曲輪に残された楽隊と女子サムレーは西曲輪から北曲輪に下り、テーラーが連れて来た五人のサムレーは、西曲輪内のサムレー屋敷に入って休憩した。
 御庭の中では、揃いの官服(かんぷく)を着た按司たちと中山王の重臣たちが、両側に並んで花嫁を迎えた。正面の百浦添御殿(むむうらしいうどぅん)の唐破風(からはふ)の下には、中山王の思紹(ししょう)と王妃、世子(せいし)のサハチと世子妃のマチルギが並んで座り、左側には山北王の代理として兼グスク按司夫婦が座り、右側には山南王の代理として豊見グスク按司夫婦が座っていた。
 山北王の代理はテーラー夫婦が務める予定だったが、テーラーの妻は王妃の代理なんて、恐れ多くて、とてもできないと言って来なかった。急遽、ンマムイ夫婦に頼んだのだった。王様の格好をしたンマムイは妙にかしこまって、落ち着きがなく、きらびやかな着物に完全に負けていた。王妃の格好をしたマハニは気品が漂い、よく似合っていた。
 豊見グスク按司夫婦は、「やがて、お前たちは山南王と王妃になる。今のうちに稽古をしておけ」とシタルーに言われて送り出された。
「どうして、親父が行かないのです」と豊見グスク按司が聞くと、「花嫁の親の山北王が来ないのに、山南王が出て行くわけにもいくまい」とシタルーは言ったという。
 豊見グスク按司と妻のマチルーも緊張した面持ちで、御庭に居並ぶ按司たちを見下ろしていた。山南王と山北王が同盟した時の婚礼よりも、集まっている按司の数は多かった。父は中山王を倒すと言っているが、それは難しいと豊見グスク按司は思った。戦をするよりも、今のまま同盟を結んでいた方がいいと思っていた。
 花嫁が入場して来ると、石段の下に座っていた花婿のチューマチが、立ち上がって花嫁を迎えた。花婿と花嫁が向かい合って立った時、幽玄な笛の調べが流れ、馬天ヌルがヌルたちを率いて登場し、華麗な儀式が始まった。佐敷ヌルが新郎新婦に寄り添い、侍女たちが新郎新婦の後ろにひざまづき、他の者たちは去って行った。ササとサスカサは馬天ヌルが率いて来たヌルたちと合流した。
 馬天ヌルが神歌(かみうた)を唱え、それに和すようにヌルたちが歌った。ヌルたちの声が美しく響き渡り、今にも神様が降りて来るような気がした。目の錯覚か、太陽の光が馬天ヌルに集中して照らしているように見えた。やがて、一人のヌルが華麗な舞を舞い始めた。それに続くように一人、二人と舞い始めた。十二人のヌルたちが薄絹をなびかせて舞う姿は、まるで、蝶々が飛び回っているようだった。ササとサスカサも華麗に舞っていた。新郎新婦は蝶々たちに祝福されていた。
 チューマチはヌルたちの舞を眺めながら、ちらちらと横に立つマナビーを見ていた。マナビーは思っていたよりもずっと綺麗で、可愛かった。見るからにお姫様という上品さがあって、こんな娘と一緒になれるなんて、俺は果報者(くゎふーむん)だと神様に感謝していた。ちらっと横を見た時、マナビーと目が合った。マナビーはニコッと笑った。チューマチはドキッとして慌てて視線をそらせた。
 マナビーはチューマチを見て、がっかりしていた。見たところ武芸の腕もそこそこで、顔付きも冴えない。高価な着物を着ていなかったら、どこにでもいるウミンチュと変わりないと思った。はるばる遠くまで来て、こんな男に嫁ぐのかと情けなくなっていた。我慢できなくなったら、やっぱり逃げだそうと決めた。
 蝶々たちがいなくなると、馬天ヌルと佐敷ヌルによって儀式は続けられ、新郎と新婦が固めの杯(さかづき)を交わして、御婚礼(ぐくんりー)の儀式は終わった。
 馬天ヌルが下がると太鼓の音が響き渡り、佐敷ヌルの先導で、新郎新婦は中山王、山北王の代理、山南王の代理と挨拶をして回り、その後、按司たちに挨拶をして回って、御庭から西曲輪に出た。新郎新婦は大勢の城下の者たちに祝福されながら、挨拶をして回った。
 中御門は閉じられ、御庭にいた人たちは会同館へと移動した。
 サハチ夫婦も着替えて、ンマムイ夫婦、豊見グスク按司夫婦と一緒に会同館に向かった。
 思紹が挨拶をして、サハチが挨拶をして、山北王の代理としてマハニが挨拶をした。ンマムイが馬鹿な事を言わなければいいがとサハチは心配していたが、マハニだったのでホッとした。マハニは今帰仁に帰った時、マハニの母親から聞いたマナビーの子供の頃の話をして、中山王と山北王の同盟はめでたいと言って挨拶を終えた。
 マハニを初めて見た各地の按司たちは、マハニの美しさに見惚れ、花嫁が美しいのも無理はないと納得し、わしの倅もヤンバルから嫁を迎えるかとささやき合っていた。
 新郎新婦が挨拶したあとは無礼講となり、サハチは按司たちに挨拶をして回った。
 中グスク按司のクマヌはしばらく見ないうちに随分と老け込んでいた。
「素晴らしい婚礼じゃったのう」とクマヌは感激していた。
「中山王が山北王と同盟を結ぶなんて考えてもいなかった。しかし、これでよかったのかもしれんのう。戦がないのが一番じゃ。年を取ったせいか、最近、やたらと昔の事が思い出されるんじゃよ」
「もしかして、ヤマトゥに帰りたくなったのではないですか」とサハチは聞いた。
 クマヌは笑って首を振った。
「軽い気持ちで琉球に来て、居心地がいいので長居して、そなたと出会って、今では按司になっている。もう、琉球がわしの故郷じゃよ」
「そう言っていただけると助かります。まだまだ、クマヌの力が必要です」
「クマヌと呼ばれるのも久し振りじゃ」とクマヌは笑った。
「わしが琉球に来た時、そなたはまだ三つじゃった。月日の経つのは早いもんじゃのう。あの頃のわしは若かった。年を取る事など考えてもいなかったが、すでに六十七になった。近いうちに、わしは隠居して、ムタに按司を譲ろうと思っているんじゃ」
「えっ、クマヌが隠居?」
「ムタは三十八になった。いつまでも若按司でいるわけにも行くまい。わしは隠居してのんびりするつもりじゃ。かみさんには世話になったからのう。かみさんに首里や勝連の賑わいを見せてやりたいと思っておるんじゃよ」
「奥さんに、首里にいるユミと勝連にいるマチルーを会わせたいのですね」
「そうじゃ。中グスクに移ってから、中グスクから出ておらんからのう」
「ユミもマチルーも喜ぶでしょう」
 クマヌはうなづき、「実は、そなたに頼みがあったんじゃよ」と言った。
「何ですか」と聞きながら、サハチはクマヌに酒を注いだ。
「孫娘の事なんじゃよ。次女のマナミーが十六になったんじゃ。そろそろお嫁に出さなくてはならんが、いい相手を探してくれんか」
「ムタの娘がもう十六ですか」
「上の娘は修行を終えて、立派なヌルになった」
「そうでしたか。先代のヌルは奥間(うくま)に帰ったのですか」
「いや、久場(くば)に移って、久場ヌルを名乗っている。役目を終えたので、奥間に帰ろうとしたんじゃが、わしが引き留めたんじゃよ。もう少し見守っていてほしいとな」
「そうですか。わかりました。中グスク按司の娘にふさわしい相手を探してみます」
「頼むぞ」
 宇座按司も来てくれた。山南王の正使として、明国に三度行った長男のタキは、去年の暮れ、宇座に帰っていた。タブチと喧嘩して首里を飛び出し、山南王に仕えた大(うふ)グスク大親と喧嘩したという。大グスク大親はタキを陥れるために、山南王にある事ない事を讒言(ざんげん)したらしい。タキもいたたまれなくなって辞めた。二人の弟は、妻が山南王の重臣の娘なので大丈夫だろうと置いて来た。ウニタキの配下のアカーからその話を聞いたサハチは、すぐにタキに会いに宇座に行き、タキを説得して中山王に仕えてもらう事に成功した。サハチはタキに、今年の進貢船の使者を務めてもらうつもりだった。
「昨夜は婿殿と飲んだ」と楽しそうに宇座按司は言った。
「明国の話を聞きながら、うまい酒じゃった。まさか、マジニの婿と明国の話をするとは思ってもいなかった。わしらが行った時と、明国も大分変わったようじゃのう」
「わたしも驚きましたよ。鄭和(ジェンフォ)のお陰で、応天府(おうてんふ)は賑わっているようです」
「婿殿は毎年、明国に行きたいと言っておった。なかなか頼もしい奴じゃよ。それと、タキの事もよろしく頼む」
「タキ殿が来てくれるというので、助かっているのはこちらの方です。頼りにしてますよ」
 宇座按司と別れて、叔父の越来按司浦添按司、義兄の勝連按司、安慶名按司、山田按司、伊波按司に挨拶をして回り、北谷按司の所に行った。
 何となく、場違いのように北谷按司は、『宇久真』の遊女(じゅり)のお酌を受けていた。
「同年配の者がいなくて退屈そうだな」と言って、サハチは北谷按司に酒を注いでやった。
「あまりしゃべらないんですよ」と遊女が言った。
「何もかも驚く事ばかりで緊張しているのです」と北谷按司は言った。
「親父が戦死して、うるさい叔母さんたちが戻って来て大変だったそうだな」とサハチは言った。
「桑江(くぇー)の叔父から聞いたのですね」
 サハチがうなづくと、
「叔父のお陰で、叔母たちもようやく静かになりました」と北谷按司は笑った。
 北谷按司の叔母は三人いて、中グスク、勝連、越来に嫁いでいた。中グスクと越来は按司が代わったため実家に帰り、戦死した夫や倅の敵を討ってくれと、当時、十七歳だった北谷按司に迫っていた。父親が戦死して、按司になったばかりの北谷按司は、叔母たちの小言に絶えながら、叔父の桑江大親(くぇーうふや)と一緒に、北谷を建て直して来たのだった。
首里のお祭りの時、桑江の叔父と一緒に行った妹のフクなんですが、お祭りから帰って来て、女子サムレーになりたいって騒いでいるのです。首里で修行させていただけないでしょうか」
「その妹はいくつなんだ?」
「十五です」
「そうか。首里では娘たちに剣術を教えている。才能があれば女子サムレーになれるだろう。首里で修行を積んで、北谷に帰って娘たちを鍛えればいい」
「妹が喜びます。お願いいたします」
 サハチはうなづくと、北谷按司を連れて、息子たちがいる所へ連れて行った。サグルー、ジルムイ、イハチと花婿の兄たちが、花嫁のマナビーから今帰仁の事を聞いていた。サスカサもマナビーの五人の侍女たちも一緒にいて賑やかだった。
「北谷按司だ。仲よくしてやってくれ」とサハチが言うと、
「母さんの妹が、北谷按司の叔父さんに嫁いでいるんだよ」とジルムイが言った。
「それじゃあ、親戚じゃないか。一緒に飲もうぜ」とサグルーが言って、北谷按司は仲間に加わった。
「花婿はどこに行った?」と聞くと、
「叔父さんたちの所です」とイハチが答えた。
 イハチの視線を追って行くと、チューマチはマサンルー(佐敷大親)たちにからかわれているようだった。マサンルーたちの所に、ンマムイと豊見グスク按司もいて、マチルギはどこに行ったと探すと、マハニとマチルーと佐敷ヌルと一緒に笑っていた。
 サハチは南部の按司たちに挨拶して回り、重臣たちにもねぎらいの言葉を掛けてから思紹の所に戻った。
 思紹はヂャンサンフォンの昔話を聞いていた。一緒にいたのは慈恩禅師(じおんぜんじ)、ジクー禅師、ファイチ、ウニタキ、テーラーだった。山北王の家臣なのに、テーラーはすっかりこの場に馴染んで、何の違和感もなかった。サハチも加わって、仙人が住んでいるという明国の山奥の話を聞いた。話が一段落した時、サハチがウニタキに、
「ササたちはどこに行った?」と聞いた。
「御内原で女だけのお祝いをやるそうだ。麦屋(いんじゃ)ヌルも一緒に行ったよ。麦屋ヌルは馬天ヌルと一緒にずっと、婚礼の準備をしていたらしい。うまく行ってよかったと喜んでいたよ」
「そうか。馬天ヌルも麦屋ヌルがいて助かっただろう」
首里のお祭りの六日後だったからな。色々と大変だったようだ。イトたちもスヒターたちも御内原に行ったようだぞ」
 イトたちとスヒターたちは百浦添御殿の二階から婚礼の儀式を見ていた。儀式が終わったあとは会同館に移り、ミナミとマユ(佐敷ヌルの娘)とマキク(ユリの娘)の三人が一緒にいるのを見たが、またグスクの方に戻ったようだった。
「挨拶は終わったのね」と遊女のマユミがお酒を持ってやって来た。
「お客が多すぎて、疲れたよ」とサハチは笑って、マユミが注いでくれた酒を飲み干した。

 

 

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