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長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-45.佐敷のお祭り(第一稿)

尚巴志伝 第二部

 四月二十一日、佐敷グスクでお祭り(うまちー)が行なわれた。思紹(ししょう)が大(うふ)グスク按司から佐敷按司に任じられ、佐敷にグスクを築いてから二十九年の月日が経っていた。
 サハチが九歳の時で、村(しま)の人たちが総出で木を切り倒して整地をし、土塁を築いて屋敷を建てた。サハチは若按司と呼ばれるようになって、弓矢や剣術の稽古に励んだ。小さなグスクだが、島添大里按司(しましいうふざとぅあじ)(汪英紫(おーえーじ))に滅ぼされる事もなく守り切って、今の発展の礎(いしずえ)となったのだった。
 東曲輪(あがりくるわ)が解放されて、舞台では娘たちの踊りや笛の演奏が行なわれ、女子(いなぐ)サムレーたちによる剣術の模範試合、シンシンとササの武当拳(ウーダンけん)の模範試合も披露された。
 梅雨はまだ明けてないが、幸いに雨は降らず、大勢の人たちが集まってきた。
 中グスク按司のクマヌが山伏の格好でやって来て、サハチを驚かせた。
「中グスク按司ではないぞ。山伏のクマヌとしてやって来たんじゃ」とクマヌは笑った。
「久し振りに来ると、やはり懐かしいのう」
 クマヌは周りを眺めながら感慨深そうに言った。山伏姿のクマヌを見るのは久し振りだった。すでに六十の半ばになり、年齢(とし)を取ったなあと思わざるを得なかった。
「色々とありましたからねえ」とサハチは言った。
 クマヌはうなづいた。
「ここはマチルギが嫁ぐ前に築いたんだったのう‥‥‥按司様(あじぬめー)がヤマトゥ旅に行っている時、マチルギが突然やって来た。あの時は本当に驚いたのう。マチルギがここで娘たちに剣術を教え、女子サムレーもここで生まれた」
 屋敷の縁側に腰を下ろして、人々で賑わうグスク内を見ながらクマヌは様々な事を思い出しているようだった。
「親父も来ています」とサハチは言った。
「なに、中山王(ちゅうさんおう)が来ているのか」
 クマヌは驚いた顔でサハチを見た。
「中山王ではなく、東行法師(とうぎょうほうし)になって来たのです。また頭を丸めてしまいましたよ」
「なに、また坊主になったのか」
「困ったものです」とサハチは苦笑した。
「一の曲輪の屋敷でマサンルーと会っています。越来按司(ぐいくあじ)も美里之子(んざとぅぬしぃ)に戻って来ています」
「そうか、美里之子も来たか。ここの事を思い出すと皆、昔に返るようじゃのう。挨拶して来よう」
 クマヌはサハチに手を振ると東曲輪から出て行った。
 舞台の上ではウニタキとミヨンが三弦(サンシェン)を弾きながら歌を歌っていた。ウニタキの妻のチルーが子供たちと一緒に見ている。ナツとマカトゥダルも子供たちを連れて来ていた。シンゴとマグサ、『対馬館』の船乗りたちも楽しそうに舞台を見ている。ヂャンサンフォンと修理亮(しゅりのすけ)、兼(かに)グスク按司のンマムイもいた。
 舞台の進行役の佐敷ヌルとユリは、烏帽子(えぼし)をかぶって直垂(ひたたれ)を着て、ヤマトゥのサムレーの格好だった。二人の美人は男装姿も様(さま)になっていた。
 サハチはンマムイも朝鮮(チョソン)旅に連れて行く事に決めていた。ンマムイは一応、山南王(さんなんおう)の許しを得ていた。自分が原因で中山王と山南王が戦(いくさ)を始めたらまずいと思ったのだろう。山南王はンマムイの言った事に呆れて、しばらく声も出なかったという。それでも朝鮮に行く事を許し、朝鮮とヤマトゥの状況を詳しく知らせる事と山南王の五男とンマムイの次女の婚約を条件に出した。山南王の五男は七歳で、ンマムイの次女はまだ六歳だった。
 サハチもンマムイを連れて行くに当たって条件を出した。兼グスク按司として連れて行くと、中山王の家臣たちの反感を買うので、ヂャンサンフォンの弟子のンマムイとして連れて行くと言った。ンマムイは条件を飲んで大喜びをした。
 舞台を見ようとサハチが立ち上がった時、フカマヌルが娘を連れてやって来るのが見えた。咄嗟にまずいと思ったサハチは二人を屋敷の方に呼び込んだ。
「お父さんが歌っている」と娘のウニチルが言って、舞台の方に駈け出して行った。
「あっ」と叫んで、サハチはフカマヌルを見た。
「チルーがいるんだ」とサハチはフカマヌルに言った。
「手遅れね」とフカマヌルは首を振った。
 ウニチルは舞台まで行ったが、人が多くて舞台に近づけないようだった。
「ウニタキに呼ばれたのか」とサハチは聞いた。
 フカマヌルはうなづいた。
「あいつ、何を考えているんだ」
「もう無理なのよ」とフカマヌルは言った。
「奥方様(うなじゃら)は気づいてしまったわ」
「マチルギが気づいたのか」
「久高島参詣の時、あの子の名前を知ってしまったの」
「今までずっと、チルーって呼んでいたじゃないか。チルーなんてどこにでもある名前だ」
「ウニチルは自分の名を知っているわ。でも、『鬼(うに)』が付くのがいやで、自分でもチルーだって思っていたの。『鬼』はお父さんの名前からもらったのよって言ったけど納得しなかった。でも、あたしがヤマトゥに行っている時、お婆から『ウニチル』って名前はとてもいい名前だって言われたみたい。『鬼』っていうのは、とても強いという意味があって、あなたがヌルになった時、どんなに強いマジムンでも倒す事ができるでしょうって言ったみたい。ウニチルも自分の名前が好きになって、チルーって呼ばれると、本当はウニチルなのよって言うようになったのよ」
「マチルギにもそう言ったのか」
 フカマヌルはうなづいた。
「奥方様はすぐに気づいて、ウニタキにその事を確認したそうよ。そして、自分からチルーさんに説明して謝りなさいって言ったのよ」
「そうだったのか」
「あたしも隠しておくのに疲れたわ」
 舞台に行ったウニチルは人混みをかき分けて舞台の前まで出た。おとなしく歌を聴いていたが、歌が終わると思わず、「お父さん」と声を掛けた。
 ウニタキはウニチルを見て、笑いながらうなづいた。
 ウニタキの隣りにいるミヨンは驚いた顔でウニチルを見て、「誰?」とウニタキに聞いた。
 チルーもウニチルを見た。そして、ウニタキをじっと見つめた。
 舞台の脇にいた佐敷ヌルも驚いた顔をしてウニチルを見ていた。
 舞台から降りたウニタキはミヨンに、「お前の妹だ」と言って、ウニチルの事を頼み、チルーを連れて屋敷の方に向かった。
 屋敷の縁側でサハチと話をしているフカマヌルを見て、チルーは何もかも悟っていた。ウニタキとチルーとフカマヌルの三人を屋敷に上げると、サハチはウニタキの肩をたたいてうなづき、舞台に向かった。
 サハチは一節切(ひとよぎり)を披露した。マチルギから贈られてから、サハチは必死に稽古をしてきて、ようやく思い通りに吹けるようになっていた。
 初めて聴く一節切の音色は華やかな横笛と違って、渋くて重々しく、風の音のように人々の心の中に染み渡っていった。時にはそよ風のように優しく、時には嵐のように激しく、吹き抜ける風は人々を思い出の中へと引き込んで行った。サハチの吹く曲を聴きながら、誰もが懐かしい昔の思い出の中に浸っていた。
 サハチが一節切を口から離して、曲が終わると辺りはシーンと静まり返った。しばらくして大喝采が沸き起こった。
 屋敷の中では、ウニタキがチルーに頭を下げていた。
「あの子はいくつなの」とチルーは聞いた。
 怒っているのか、悲しんでいるのか、よくわからない表情だった。
「七つです」とフカマヌルが答えた。
「マチと同い年なのね‥‥‥あなたが歌っている歌、久高島の歌だって聞いたわ。もしかしたらって思っていたのよ」
 フカマヌルもチルーに頭を下げた。
 頭を下げている二人を見ながらチルーの目には涙が溜まっていた。
 舞台から降りたサハチが屋敷に戻るとウニタキが一人、縁側にしょんぼりと座っていた。
「どうした。許してくれたか」とサハチが聞くと、ウニタキは首を振った。
「今、二人で話をしている」
「マチルギが気づいたそうだな」
 ウニタキはうなづいた。
「チルーは泣いていた。怒ってくれた方がよかったのに‥‥‥」
「そうか‥‥‥」
 サハチにも何と言っていいのかわからなかった。
「グスクの裏山にある屋敷は今、どうなっているんだ」とサハチはどうでもいい事を聞いた。
「あそこにはイーカチが住んでいる」
「なに、イーカチが住んでいるのか」
 サハチは驚いていた。今まで、イーカチは表に出て来なかった。ウニタキから時々、イーカチが描いた絵を見せられても、本人と直接に会う事は滅多になかった。ウニタキが明国に行っていた時、『三星党(みちぶしとー)』を仕切っていたのはイーカチだった。そして、マチルギの護衛役としてヤマトゥに行った。そのイーカチが佐敷にいたとは驚きだった。
「時々、首里(すい)の女子サムレーのチニンチルーが顔を出しているようだ」
「チニンチルー?」
「一緒にヤマトゥに行った女子サムレーだよ」
「イーカチといい仲になったのか」
「そのようだ。十五年前、島尻大里(しまじりうふざとぅ)の城下を荒らし回っていた時、イーカチは一緒になるはずの女を失っているんだ。大した傷ではなかったんだが、その傷が悪化して亡くなってしまった。イーカチはその女を守れなかった事をずっと悔やみ続けていた。チニンチルーはその女が生まれ変わったかと思うほどよく似ている。初めて見た時、俺は幽霊を見たかとびっくりしたよ」
 サハチはチニンチルーを知らなかった。
「イーカチはチニンチルーに惚れているんだが、何せ、年齢(とし)が離れすぎている。イーカチは俺たちより一つ年下だ。チニンチルーは二十四、五だろう。十歳以上も離れているからな、イーカチもそれで悩んでいるようだ」
「イーカチは今、いるかな」とサハチは聞いた。
 ウニタキは首を傾げた。
「留守を頼んだから、俺の留守中はビンダキにいると思うが、今はどうかな」
 いてもいなくもいいから行ってみようとサハチはウニタキを誘った。ウニタキは屋敷の中の二人を心配しながらも重い腰を上げた。
 イーカチは裏山の屋敷にいた。三人の女子サムレーが一緒にいた。チタとクニは知っているが一人は名前を知らなかった。名前は知らないが首里のお祭りの時、チタと一緒にいるのを見た事があった。美人で背の高い女だった。
「チニンチルーも来ている」とウニタキは笑った。
 名前の知らない女子サムレーがチニンチルーのようだった。
 クニはサハチの従妹(いとこ)だった。叔母のマウシの三女で、祖母と一緒に新里の屋敷で暮らし、佐敷グスクに通って馬天ヌルから剣術を習った。十八歳の時に佐敷の女子サムレーになり、翌年、首里の女子サムレーになっていた。馬天ヌルが旅をしていた頃は、ササも祖母に預けられたので、一緒に暮らしていた。ササより三つ年上だった。
 サハチとウニタキが来たのを知るとイーカチは驚いて、迎えに出た。
「お頭に按司様(あじぬめー)、一体、どうしたのです」
「気にするな」とウニタキは言った。
「久し振りに来てみたかっただけだ」
 サハチとウニタキは縁側に腰を下ろして庭を眺めた。幼かったミヨンが庭を走り回っていたのが、つい昨日の事のように思えた。
「そろそろ、チタの出番じゃないの」と女子サムレーたちはサハチたちに頭を下げると出て行った。
「俺が運玉森(うんたまむい)に移ったあと、ここをお前に任せたが、ここで暮らしていたら、昔の事を思い出してしまうな」とウニタキが庭を見ながら言った。
「いえ、そんな事は‥‥‥」とイーカチがウニタキの背中に答えた。
「この屋敷を建てた頃、配下の者で女は五人しかいなかった。ムトゥとトゥミ、イチャ、クミ、タキだ。ムトゥは今、今帰仁のにいて、トゥミとイチャは首里にいて、タキは越来(ぐいく)にいる。そして、クミは十五年前に亡くなった。もう充分に苦しんだんじゃないのか」
 イーカチは何も言わなかった。部屋の中でかしこまって座っていた。
「もしかしたら、お前は奥間(うくま)から来たのか」とサハチはイーカチに聞いた。
「はい、そうです」とイーカチはうなづいた。
「こいつは炭焼きの三男なんだ」とウニタキが言った。
「どうせ、村を出なければならないと言って付いて来たんだ。本当の名はサンキチだ。絵がうまいので、誰が言い始めたというわけでもなく、『絵画き(いーかち)』と呼ばれるようになったんだよ。あいつの絵で随分と助かっている」
「ヤマトゥ旅の絵を見たよ」とサハチは言った。
対馬の景色を見て懐かしかった。親父も感心して、大きな絵を描いて楼閣に飾ってくれと言っていた」
「イーカチ、チニンチルーと一緒になって、本物の絵画きになってもいいぞ」とウニタキは言った。
「えっ」とイーカチは驚いた。
 サハチも驚いてウニタキを見た。
「お前の才能を裏方だけで終わらせるのは勿体ない。表に出て、その才能を生かすんだ。お前が描いた絵を首里グスクやこれから作るお寺(うてぃら)に飾るんだ。ただし、俺が朝鮮から帰って来るまでは副頭(ふくがしら)として、三星党の指揮を執ってくれ。頼む」
「かしこまりました」とイーカチは神妙な顔をしてうなづいた。
「年齢の差なんて関係ないぞ。チニンチルーもお前に惚れているようだ。幸せにしてやれ。お前も知っていると思うが、チニンチルーの親父は知念(ちにん)のサムレーで、チニンチルーが六歳の時に戦死した。今帰仁合戦(なきじんかっせん)の時、東方(あがりかた)の按司たちは島添大里グスクを攻めた。その時に戦死したんだ。母親もまもなく亡くなってしまい、チニンチルーは伯父夫婦に育てられたが邪魔者扱いされて、旅をしていた東行法師(サミガー大主)に拾われてキラマの島に送られたんだ。チニンチルーは幸せな家庭を知らない。一緒になって幸せな家庭というものを味わわせてやれ」
 イーカチは深く頭を下げていた。
 ウニタキは立ち上がると去って行った。
「俺もお前の才能は伸ばすべきだと思うよ」
 そう言ってサハチもイーカチと別れて、ウニタキを追った。
「イーカチが抜けたら大変だろう」とサハチはウニタキに追いつくを言った。
「ああ、大変だ」とウニタキは苦笑した。
「朝鮮旅から帰って来たら考える。世の中、何とかなるもんさ」
 サハチは笑いながらウニタキを見ていた。
 佐敷グスクの東曲輪に戻ると、舞台では佐敷ヌルが横笛を吹いていた。ヤマトゥから帰って来た佐敷ヌルはユリから笛を習っていた。島添大里グスクでは子供たちが笛を吹いているので騒がしく、佐敷ヌルが吹いている笛の音(ね)はわからなかった。
 佐敷ヌルも独自の感性を持っていた。神秘的なその調べは、遙か遠い昔の神々の世界を思わせるような心の奥底に響く調べだった。サハチもウニタキも佐敷ヌルの吹く笛の音に聞き入っていた。
 曲が終わるとシーンと静まり、やがて喝采がわき起こった。
「お前ら兄妹はどうなっているんだ」とウニタキは言った。
「お前の笛もそうだが、佐敷ヌルの笛も、まるで、神様の言葉のようだ」
「神様の言葉?」
「そうだよ。俺は久高島で神様の声を聞いた事がある。その時と同じ気持ちになるんだ。思わず、感謝をしたくなるような気分にな」
「お前、褒めてるのか」とサハチは聞いた。
「悔しいが、お前の笛は凄いよ」
「お前に褒められるとは思わなかった。笛をやってきてよかったと、今、改めて思ったよ。俺はずっと、お前の三弦に負けていたからな」
「これからが勝負さ。俺も負けてはおれんぞ」
 屋敷を覗くとチルーとフカマヌルの姿はなかった。
「どこに行ったんだ」と二人は捜した。
 舞台では修理亮と女子サムレーが竹の棒を持って模範試合を披露していた。ウニチルはミヨンたちと一緒にいたが、チルーとフカマヌルの姿はなかった。
 佐敷ヌルの屋敷かなと覗いてみると二人はいた。マチルギが来ていて、ナツも加わって四人が深刻な顔で話し込んでいた。サハチとウニタキを見るとマチルギは手を上げて、二人にうなづいた。この場はマチルギに任せる事にして二人は引き下がった。
「姉御のお出ましだ」とウニタキは言った。
 チルーはマチルギの叔母、フカマヌルは姉で、二人ともマチルギより年上なのだが、ウニタキが言うようにマチルギには姉御という貫禄があった。
「ここにはササが住んでいるのか」とウニタキが聞いた。
「ササとシンシンが暮らしている」
「佐敷ヌルはいないのに『佐敷ヌルの屋敷』なのか」
首里に『ヒューガ屋敷』はあるが、ヒューガ殿は住んでいない。それと同じじゃないのか」
 ウニタキはサハチを見て笑った。
 屋敷の中からも笑い声が聞こえてきた。
 サハチとウニタキは顔を見合わせ、
「姉御がうまくやっているようだ」とうなづき合った。
 佐敷グスクのお祭りから五日後、梅雨が明けて暑い夏がやって来た。
 その翌日、朝鮮とヤマトゥに行く交易船(進貢船)は夏風を帆に受けて出帆した。来月に行なわれるハーリーが気になったが、ヤマトゥの都と朝鮮の都に行くとなると忙しい旅になる。出帆はなるべく早い方がよかった。
 サハチ、ウニタキ、ファイチの三人は交易船の見晴らし台から琉球の山々を眺めながら、わくわくしていた。これから始まる半年余りの長い旅が素晴らしい旅になるように、琉球の神様に祈りながら、期待に胸を膨らませていた。

 

目次 第二部

目次

尚巴志伝 第二部

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このイラストはは和々様よりお借りしました。



  1. 山田のウニウシ(第二稿)   護佐丸、尚巴志を頼って首里に行く。
  2. 胸のときめき(第二稿)   護佐丸、島添大里で恋をする。
  3. 恋の季節(第二稿)   サグルーとササ、山田で魂を抜かれる。
  4. キラマの休日(第二稿)   尚巴志夫婦、毎年恒例の旅で慶良間の島に行く。
  5. ナーサの遊女屋(第二稿)   中山王の家臣たちの懇親の宴。
  6. 宇座の古酒(第二稿)   尚巴志、宇座の御隠居の倅と古酒を飲む。
  7. 首里の初春(第二稿)  中山王となった思紹の初めての正月。
  8. 遙かなる船路(第二稿)  尚巴志、ウニタキ、懐機、明国に行く。
  9. 泉州の来遠駅(第二稿)   明国に着いた尚巴志たちは来遠駅に落ち着く。
  10. 麗しき三姉妹(第二稿)   尚巴志たち、福州に行きメイファンと再会する。
  11. 裏切り者の末路(第二稿)   尚巴志たち、メイファンの敵討ちを助ける。
  12. 島影に隠れた海賊船(第二稿)   尚巴志たち、明の海賊船に乗る。
  13. 首里のお祭り(第二稿)   護佐丸、ササたちと祭りの警備をする。
  14. 富楽院の桃の花(第二稿)   尚巴志たち、明国の都、応天府に着く。
  15. 応天府の夢に酔う(第二稿)   尚巴志たち、最高級の妓楼で夢を見る。
  16. 真武神の奇跡(第二稿)   討伐軍を破って皇帝になった永楽帝
  17. 武当山の仙人(第二稿)   尚巴志たち、武当山で張三豊と出会う。
  18. 霞と拳とシンシンと(第二稿)   尚巴志とウニタキ、張三豊に武術を習う。
  19. 刺客の背景(第二稿)   馬天ノロ、刺客の正体を探る。
  20. 龍虎山の天師(第二稿)   尚巴志たち、道教の本山、龍虎山に行く。
  21. 西湖のほとりの幽霊屋敷(第二稿)   尚巴志たち、三姉妹と再会する。
  22. 清ら海、清ら島(第二稿)  三姉妹と張三豊が琉球に来る。
  23. 今帰仁の天使館(第二稿)   旅に出た張三豊たちが帰って来る。
  24. 山北王の祝宴(第二稿)   攀安知、志慶真の長老から今帰仁の歴史を聴く。
  25. 三つの御婚礼(第二稿)   サグルー、尚忠、護佐丸、妻を迎える。
  26. マチルギの御褒美(第二稿)   尚巴志、妻のマチルギにしぼられる。
  27. 廃墟と化した二百年の都(第二稿)   尚巴志、ウニタキと浦添に行く。
  28. 久高島参詣(第二稿)  思紹王、女たちを連れて久高島へ行く。
  29. 丸太引きとハーリー(第二稿)   尚巴志、豊見グスクでハーリーを見る。
  30. 浜辺の酒盛り(第二稿)   尚巴志、ヤマトゥに行くマチルギたちを見送る。
  31. 女たちの船出(第二稿)   マチルギたち、長い船旅を楽しみ博多に着く。
  32. 落雷(第二稿)   尚巴志、雷鳴を聞きながらマジムン退治を思い出す。
  33. 女の闘い(第二稿)   三姉妹の船が来て、メイユーとナツが会う。
  34. 対馬の海(第二稿)   マチルギ、対馬島でイトとユキに会う。
  35. 龍の爪(第二稿)   尚巴志、ウニタキ、懐機、朝鮮旅の計画を練る。
  36. 笛の調べ(第二稿)   久し振りに佐敷グスクから笛の音が流れる。
  37. 初孫誕生(第二稿)   尚忠の長男、尚志達、生まれる。
  38. マチルギの帰還(第二稿)   女たちがヤマトゥから無事に帰国する。
  39. 娘からの贈り物(第一稿)   尚巴志、マチルギから旅の話を聞く。
  40. ササの強敵(第一稿)   馬天ノロ、日代(ティーダシル)の石を探し始める。
  41. 眠りから覚めたガーラダマ(第一稿)   ササ、読谷山で古い勾玉を見つける。
  42. 兄弟弟子(第一稿)   尚巴志、兼グスク按司と武当拳の試合をする。
  43. 表舞台に出たサグルー(第一稿)   サグルー、尚巴志の代理を見事に務める。
  44. 中山王の龍舟(第一稿)   ウニタキの新しい隠れ家が完成する。
  45. 佐敷のお祭り(第一稿)   サハチの一節切と佐敷ヌルの横笛に大喝采。



主要登場人物

 

第一部 目次

目次 第一部

目次

尚巴志伝 第一部 月代の石

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このイラストはは和々様よりお借りしました。

 

  1. 誕生(最終決定稿)   尚巴志、佐敷苗代に生まれる。
  2. 馬天浜(最終決定稿)   サミガー大主とヤマトゥの山伏、クマヌ。
  3. 察度と泰期(最終決定稿)   浦添按司察度、過去を振り返る。
  4. 島添大里グスク(最終決定稿)   島添大里グスク、汪英紫に奪われる。
  5. 佐敷グスク(最終決定稿)   尚巴志の父、佐敷按司になる。
  6. 大グスク炎上(最終決定稿)   大グスク、汪英紫(島添大里按司)に奪われる。
  7. ヤマトゥ酒(最終決定稿)   早田三郎左衛門、馬天浜に来る。
  8. 浮島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎と旅に出る。
  9. 出会い(最終決定稿)   尚巴志、伊波按司の娘と剣術の試合をする。
  10. 今帰仁グスク(最終決定稿)   尚巴志、今帰仁に行く。
  11. 奥間(最終決定稿)   尚巴志、奥間村に滞在する。
  12. 恋の病(最終決定稿)   旅から帰った尚巴志、マチルギを想う。
  13. 伊平屋島(最終決定稿)   尚巴志、祖父の故郷に行く。
  14. ヤマトゥ旅(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥへ旅立つ。
  15. 壱岐島(最終決定稿)   尚巴志、壱岐島で察度の噂を聞く。
  16. 博多(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥの都を見て驚く。
  17. 対馬島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎の故郷に滞在する。
  18. 富山浦(最終決定稿)   尚巴志、高麗に行く。
  19. マチルギ(最終決定稿)   尚巴志の恋敵、ウニタキ現れる。
  20. 兵法(最終決定稿)   尚巴志、対馬で修行に励む。
  21. 再会(最終決定稿)   帰って来た尚巴志、マチルギと再会。
  22. ウニタキ(最終決定稿)   尚巴志、ウニタキと一緒に勝連グスクに行く。
  23. 名護の夜(最終決定稿)   尚巴志、マチルギと今帰仁に行く。
  24. 山田按司(最終決定稿)   尚巴志、マチルギの叔父、山田按司と会う。
  25. お輿入れ(最終決定稿)   マチルギ、尚巴志に嫁ぐ。
  26. 高麗の対馬奇襲(最終決定稿)   早田左衛門太郎の本拠地、高麗に攻められる。
  27. 豊見グスク(最終決定稿)   シタルー(汪応祖)、豊見グスクを築く。
  28. サスカサ(最終決定稿)   尚巴志とマチルギ、馬天ノロと旅に出る。
  29. 長男誕生(最終決定稿)   マチルギと馬天ノロ、神様になる。
  30. 出陣命令(最終決定稿)   察度、各按司に今帰仁征伐を命じる。
  31. 今帰仁合戦(最終決定稿)   中山王、山北王の今帰仁グスクを攻める。
  32. 次男誕生(最終決定稿)  尚巴志の次男(尚忠)と山田按司の次男(護佐丸)生まれる。
  33. 十年の計(最終決定稿)   尚巴志、佐敷按司(父)、鮫皮大主(祖父)と密談する。
  34. 東行法師(最終決定稿)   父が隠居して、尚巴志、佐敷按司となる。
  35. 首里天閣(最終決定稿)   察度、浦添按司を武寧に譲って隠居する。
  36. 浜川大親(最終決定稿)   ウニタキは妻子を殺され、シタルーは明に行く。
  37. 旅の収穫(最終決定稿)   奥間のサタルーと対馬のユキ。
  38. 久高島(最終決定稿) 尚巴志はマチルギに怒られ、ウニタキはチルーといい感じ。
  39. 運玉森(最終決定稿)   三好日向、尚巴志のために山賊になる。
  40. 山南王(最終決定稿)   承察度が亡くなり、若按司が山南王になる。
  41. 傾城(最終決定稿)   山南王、中山王の怒りを買って、汪英紫に攻められる。
  42. 予想外の使者(最終決定稿)   尚巴志夫婦、弟のマサンルー夫婦と旅をする。
  43. 玉グスクのお姫様(最終決定稿)   尚巴志、玉グスクと同盟を結ぶ。
  44. 察度の死(最終決定稿)   山北王のミンと奥間の長老も亡くなる。
  45. 馬天ヌル(最終決定稿)   馬天ノロ、御嶽巡りの旅に出る。
  46. 夢の島(最終決定稿)   早田左衛門太郎、慶良間の夢の島に行く。
  47. 佐敷ヌル(最終決定稿)  尚巴志の妹、マシューの気持ちとマカマドゥの決心。
  48. ハーリー(最終決定稿)   尚巴志夫婦と佐敷ノロ、ハーリーを見物。
  49. 宇座の御隠居(最終決定稿)   宇座の泰期が亡くなり、尚巴志夫婦は悲しむ。
  50. マジムン屋敷の美女(最終決定稿)  尚巴志、島添大里グスクに側室を入れる。
  51. シンゴとの再会(最終決定稿)   早田左衛門太郎、朝鮮に投降する。
  52. 不思議な唐人(最終決定稿)   尚巴志、懐機と出会う。
  53. 汪英紫、死す(最終決定稿)   懐機、旅から帰り、武術を披露する。
  54. 家督争い(最終決定稿)   達勃期と汪応祖が山南王の家督を争う。
  55. 大グスク攻め(最終決定稿)   尚巴志、大グスクを攻め落とす。
  56. 作戦開始(最終決定稿)   尚巴志、大グスクノロと再会する。
  57. シタルーの非情(最終決定稿)   達勃期、弟の汪応祖に敗れる。
  58. 奇襲攻撃(最終決定稿)   尚巴志、島添大里グスクを攻め落とす。
  59. 島添大里按司(最終決定稿)   尚巴志、島添大里按司になる。
  60. お祭り騒ぎ(最終決定稿)   尚巴志、城下の者たちと戦勝祝い。
  61. 同盟(最終決定稿)   尚巴志、山南王と同盟する。
  62. マレビト神(最終決定稿)   外間ノロと佐敷ノロにマレビト神が現れる。
  63. サミガー大主の死(最終決定稿)   神の声を聞いたウニタキ。
  64. シタルーの娘(最終決定稿)   山南王のお姫様の悩みと青い海
  65. 上間按司(最終決定稿)   明国の使者が二十年振りにやって来る。
  66. 奥間のサタルー(最終決定稿)   尚巴志、奥間ノロに魅了される。
  67. 望月ヌル(最終決定稿)   謎の爺さん、望月党を語る。
  68. 冊封使(最終決定稿)   首里の宮殿の儀式で、武寧と汪応祖、正式に王になる。
  69. ウニョンの母(最終決定稿)   ウニタキ、亡くなった妻の秘密を知る。 
  70. 久米村(最終決定稿)   尚巴志とウニタキ、懐機に呼ばれて久米村に行く。
  71. 勝連無残(最終決定稿)   勝連按司が奇病に倒れる。 
  72. 伊波按司(最終決定稿)   大きな台風が来て各地で被害が出る。
  73. ナーサの望み(最終決定稿)   ウニタキ、ナーサを味方に引き入れる。
  74. タブチの野望とシタルーの誤算(最終決定稿)  八重瀬按司、中山王と同盟する。
  75. 首里グスク完成(最終決定稿)   中山王と山南王の決戦が迫る。
  76. 首里のマジムン(最終決定稿)   尚巴志、首里グスクを奪い取る。 
  77. 浦添グスク炎上(最終決定稿)   浦添グスクは焼け落ち、亜蘭匏は消える。
  78. 南風原決戦(最終決定稿)   尚巴志、中山軍を壊滅させる。
  79. 包囲陣崩壊(最終決定稿)   達勃期は出直し、汪応祖は首里を攻める。
  80. 快進撃(最終決定稿)   尚巴志、中グスク、越来グスクを攻め落とす。
  81. 勝連グスクに雪が降る(最終決定稿)   尚巴志、勝連グスクを落とす。

 

尚巴志伝 第二部 目次

 

・尚巴志伝の年表

・第一部の主要登場人物

・尚巴志の略歴

・尚巴志の祖父、サミガー大主の略歴

・尚巴志の父、思紹の略歴

・馬天ヌル(馬天ノロ)の略歴

・中山王、察度の略歴

・中山王、武寧の略歴

・汪英紫の略歴

・山南王、汪応祖の略歴

・泰期の略歴

・クマヌの略歴

・三好日向の略歴

・早田左衛門太郎の略歴

・ウニタキの略歴

・懐機の略歴

・倭寇年表

2-44.中山王の龍舟(第一稿)

尚巴志伝 第二部

 サグルーたちの噂も落ち着いてきた閏(うるう)三月の下旬、侍女のマーミから、ウニタキのビンダキ(弁ヶ岳)の拠点が完成したので、ヂャンサンフォンと修理亮(しゅりのすけ)を連れて来てくれと告げられた。
「ヂャン師匠と修理亮を連れて行くのか」とサハチが聞くと、
「新築祝いの宴(うたげ)を催すそうです。ファイチ殿も呼んであると申しておりました」とマーミは答えた。
「そうか。山の上に作ったのか」
「山の上には見張り小屋があるだけです。新しい拠点は山裾にございます」
 サハチは馬に乗ってヂャンサンフォンの屋敷を訪ねた。修理亮が庭で木剣を振っていた。ヂャンサンフォンは屋敷の中で彫刻を彫っていた。ヤマトゥ旅でヒューガから教わって、道教の神様を彫っているという。首里(すい)の楼閣が完成したら、守り神として安置するように思紹(ししょう)から頼まれたらしい。
 兼(かに)グスク按司の阿波根(あーぐん)グスクから帰って来た二人は島添大里(しましいうふざとぅ)の武術道場で若い者たちを鍛え、時には首里の武術道場にも通っていた。その合間に修理亮は自分の修行に励み、ヂャンサンフォンは彫刻に励んでいた。
 サハチはヂャンサンフォンと修理亮を連れてビンダキに向かった。山裾で馬を下りて細い山道を登るとすぐに山頂に出た。山頂に小さな小屋が建っていた。小屋の中から若い猟師が出て来て、サハチたちに頭を下げた。
 山頂からの眺めは最高だった。運玉森(うんたまむい)が見え、その向こうに須久名森(すくなむい)も見えた。反対に目をやれば、首里グスクもよく見えた。
 サハチたちは若い猟師と一緒に山を下り、馬に乗って猟師のあとに従った。新しい拠点はビンダキの西側の森の中にあった。浮島にある商品を保管しておく蔵のような大きな建物だった。
 建物の中は薄暗く、酒の匂いが充満していた。
「酒蔵(さかぐら)か」とヂャンサンフォンが言った。
 広々とした土間に、酒の入った瓶(かめ)がずらりと並んでいる。それでも半分以上は何も置いてない土間が広がっていた。
 サハチが瓶の中を覗いていると、「どうだ、凄いだろう」とウニタキの声が聞こえた。
 振り返るとウニタキがファイチと一緒に立っていた。
「お前、酒屋でも始めるつもりなのか」とサハチはウニタキに聞いた。
「そのつもりだ」とウニタキは笑った。
「これはメイリンが持って来た酒なんだ。メイリンは売れると思って持って来たんだが、ヤマトゥの商人たちは明国の酒はあまり欲しがらない。強すぎるからな。売れ残った酒を俺が引き取る事にしたんだ。この酒を遊女屋(じゅりぬやー)に卸したり、『よろずや』や『まるずや』でも売ろうと思っている」
「お前が商売をするのか」
「以前と違って、盗賊働きもできなくなっているからな。酒でも売って稼がないと、みんなを食わせていけんのだよ」
 ヒューガが海賊だった頃は、敵である山南王(さんなんおう)、中山王(ちゅうさんおう)、山北王(さんほくおう)の城下を荒らし回っていた。ウニタキも配下の者たちを率いて、盗賊となって敵の城下を荒らし、その戦利品を『よろずや』と『まるずや』で売っていた。今はなるべく敵を刺激しないようにしているので、ウニタキも盗賊の真似はできなかった。今、『よろずや』と『まるずや』では、不要になった物をお客から買い取り、それを修繕して売っていた。時には、交易の売れ残り品や傷物(きずもの)も処分していた。
 壁に細工(さいく)がしてあって、ウニタキが壁の一部を開くと、中に階段が現れた。階段を登って行くと広い部屋に出た。酒蔵の二階が隠し部屋になっていた。
「最初はビンダキの上に小さなグスクのようなものを建てるつもりだった。でも、運玉森のマジムン屋敷の代わりとなると、それではうまくない事に気づいたんだ。マジムン屋敷には配下の者たち全員が集まる事ができた。ここにもそういう建物を建てなくてはならんと思ったんだよ。しかし、こんな所にそんな大きな建物を建てたら目立ち過ぎる。目立たなくて大きな建物は何だと考えた末にできたのがこれだ」
「成程。酒蔵は隠れ蓑(みの)か」
「そういう事だ。これだけ広ければ、全員が集まれる。近くに湧き水が出ているので水にも困らない。最高の隠れ家だ」
 大広間の奥に小部屋があって、料理の載ったお膳が並び、宴の用意がしてあった。
「酒はたっぷりあるからな。遠慮せずに飲んでくれ」
 サハチたちはお膳を前に座り込み、祝杯を挙げた。
「こいつは上等な酒じゃな」とヂャンサンフォンが嬉しそうに笑った。
 サハチもウニタキも明国の旅で、明国の酒に慣れているので、うまい酒だとわかるが、修理亮は口をへの字に曲げて、「カー」と言って首を振った。
 ウニタキは笑いながら、「琉球には慣れたか」と修理亮に聞いた。
「はい、いい所です。ヒューガ殿が住み着いてしまったのもうなづけます」
「お前も住み着いたらどうだ」とサハチが言った。
「はい。それもいいのですが、慈恩(じおん)禅師を何とか探し出して、琉球に連れて来たいと思っています」
「そうだったな。ヒューガ殿の師匠をぜひとも連れて来てくれ」
「ヒューガさんの師匠は禅僧なのですか」とファイチが聞いた。
「各地を旅をしている禅僧で、剣術の名人でもあり、彫刻の名人でもあるそうだ」
「ヒューガさんの師匠のためにお寺を建てましょう」
「そうだな。首里に大きなお寺を建てよう」
「そろそろ、いいかしら」と女の声がした。
 隣りの部屋の板戸が開いて、着飾った女たちが現れた。
按司様(あじぬめー)」と嬉しそうに笑ったのは『宇久真(うくま)』の遊女(じゅり)のマユミだった。
「『宇久真』の女将(おかみ)(ナーサ)は、ここの酒を定期的に買ってくれると約束したんだ。そのお礼として遊女たちを呼んだんだよ」
 マユミは当然のようにサハチの前に座り込み、ウニタキと馴染みのユシヌはウニタキの前に、ヂャンサンフォンと馴染みのアキはヂャンサンフォンの前に座った。
「初めまして」と言いながら、ファイチの前にはウトゥワ、修理亮の前にはシジカが座った。女たちが加わって、宴も華やかになった。日が暮れると蝋燭(ラージュ)をいくつも灯し、昼間のような明るさの中で祝宴は夜更けまで続いた。
 四月の初めに梅雨に入り、雨降りの日が続いた。雨の降る中、丸太引きのお祭りが行なわれた。
 去年、久高島参詣で戦死した者たちが出て、沈み込んでいるみんなの気分を変えようと急遽思い付いたお祭りだった。一度だけでやめるつもりでいたが、この先、お寺をいくつも建てるとなると丸太はいくらあっても必要なので、毎年の恒例行事にする事に決めたのだった。
 去年の暮れにヤンバルから運ばれた丸太は浮島にあり、丸太を運ぶ台車も新しく作らせた。お祭り奉行は例のごとく佐敷ヌルで、ユリと一緒にお祭りの準備を進めていた。去年と同様に五本の丸太を首里、島添大里、佐敷、久米村(くみむら)、若狭町(わかさまち)の若者たちが引っ張り、守護神は首里がササ、島添大里がサスカサ、佐敷がカナ、久米村はシンシン若狭町は『よろずや』のシズだった。佐敷ヌルは守護神にはならず、白い馬に乗って、先導役を務めていた。
 今年のササは最初から丸太の上に乗って掛け声を掛けていた。他の者たちもササを真似して、皆が丸太の上に乗った。雨に濡れて滑る丸太の上は危険で、サスカサとカナが滑り落ちた。二人とも見事に着地して怪我はなかったが、丸太の上に乗るのは諦めた。ササとシンシンとシズの三人はヂャンサンフォンのもとで修行を積んだお陰か、身が軽く、丸太から落ちる事もなく首里までやって来た。丸太から落ちたサスカサだったが、地上を飛び跳ねながら丸太をうまく先導して、ササの丸太と首位争いを繰り広げた。結局はササが勝って、去年の雪辱を果たした。
 雨の降る中、大勢の者たちが応援に現れ、浮島から首里へと続く街道は見物人たちで溢れた。太鼓や法螺貝、指笛が鳴り響き、丸太引きのお祭りは大盛況のうちに終わった。
 カナはお祭りの三日前に久高島から帰ってきた。ササからお祭りの事を聞いて、佐敷ヌルに頼んで参加したのだった。カナはまもなく浦添(うらしい)に行く事になる。浦添に行く前に、どうしてもお祭りに参加したかった。佐敷ヌルはカナの頼みを聞いて、佐敷の守護神に任命した。
 カナは運玉森ヌルと一緒に三か月間もフボーヌムイに籠もっていた。三か月間、神様から様々な事を教わった。そして、知念(ちにん)のセーファウタキ(斎場御嶽)で、厳かな儀式をして浦添ヌルになっていた。久高島に行く前とはすっかり変わって、一人前のヌルとしての貫禄も充分に備わっていた。
 丸太引きのお祭りの二日後、浮島で朝鮮(チョソン)に行く船の出帆の儀式が行なわれた。船は明国から賜わった進貢船(しんくんしん)だが、朝鮮とヤマトゥに行くので、進貢と書かれた旗ははずされた。
 馬天ヌル、佐敷ヌル、運玉森ヌル、浦添ヌルと四人のヌルによって航海の安全が祈願され、『ジャクニトゥミ』という神名が授けられた。
 積み荷はすでに完了し、梅雨が明ければ船出となる。正使は新川大親(あらかーうふや)、副使は本部大親(むとぅぶうふや)、サムレー大将は又吉親方(またゆしうやかた)、サムレー副大将は外間親方(ふかまうやかた)、火長(かちょう)(船長)はチェンヨンジャ(陳永嘉)、通事(通訳)は鮫皮職人だったチョルと決まっていた。
 新川大親は三年前に正使としてシャムに行っていた。官生(かんしょう)として明国に留学していた秀才だった。
 本部大親は去年、副使として明国に行っている。その時の正使は大(うふ)グスク大親だったので、随分と苦労したらしい。本部大親はヤンバルの出身で、二十歳の時に、兼グスク按司の花嫁の従者として浦添に来た。兼グスク按司の供をして明国に二度行き、物覚えがよく、明国の言葉もすぐに覚えた。その才能を買われ、従者として何度も明国に行き、副使を務めるまでになっていた。
 サハチと一緒に行くのはウニタキとファイチの他に、クルシ、ジクー禅師、ヂャンサンフォン、修理亮、クグルー、そして、ササ、シンシン、シズ、女子サムレー三人も行く事に決まった。
 クルシは琉球から朝鮮までの海の事なら何でも知っているので船長の補佐役を務めてもらい、ジクー禅師はヤマトゥでの使者役、ヂャンサンフォンはいてくれるだけで心強い、修理亮は一旦ヤマトゥに帰って慈恩禅師を探し、クグルーは朝鮮での道案内役だった。
 ササは船乗りたちから八幡(はちまん)ヌルと呼ばれて信頼されているし、危険な事を回避するためにササの能力が必要だった。ササ一人を連れて行くわけにもいかないので、仲のいいシンシンとシズ、女子(いなぐ)サムレー三人を連れて行く事に決めたのだった。クム、ハナ、アミーの三人の女子サムレーは実力で選ばれていた。各組の隊長を除き、最も強い三人だった。
 それと今回の朝鮮旅の主役となる武寧(ぶねい)の側室だったウカ、サントゥク、イカの三人の朝鮮の女たちが乗る。浦添グスクが焼け落ちたあと、久米村で質素に暮らしていた女たちは突然の帰国に大喜びをした。一番年長のウカは琉球に来て二十年以上が経っていた。武寧の四女を産んだが、その娘は勝連(かちりん)に嫁ぎ、奇病に罹って亡くなっていた。サントゥクとイカは子供はいなかった。
 それとは別にシンゴの船で、サハチの三男のイハチと浦添の若按司となるクサンルーもヤマトゥ旅に出る事になっている。
 出帆の儀式の翌日、兼グスク按司がサハチを訪ねて来た。東曲輪(あがりくるわ)の物見櫓で別れて以来二か月振りだった。生き方を考え直すと言っていたが、見つかったのだろうかと思いながら待っていると、サハチの顔を見た途端、兼グスク按司は両手を付いて頭を下げ、
「師兄(シージォン)、俺も朝鮮に連れて行って下さい」と言った。
 サハチはポカンとした顔で兼グスク按司を見ていた。
「どうして、急に朝鮮に行きたくなったんだ」とサハチは聞いた。
「師匠も行くのでしょう。師匠と師兄が行くのなら、俺も行かなくてはなりません」
 そう言われてもサハチは返答に困った。
「それだけではありません。俺は二度、朝鮮に行き、博多にも寄っています。九州探題の渋川殿も知っておりますし、対馬の守護の宗(そう)殿も知っております。朝鮮の富山浦(プサンポ)を仕切っているいる早田(そうだ)殿も知っておりますし、名前は忘れましたがウィジョンブ(議政府)の役人も知っています」
「ウィジョンブの役人とは何だ」
「外国との交易を担当する役人です」
「成程、色々と詳しいようだな。富山浦の早田殿というのは『津島屋』の主人の五郎左衛門の事か」
「その通りです。師兄もご存じですか」
「ああ、かなり前だが、朝鮮に行った時、お世話になっている」
「お願いします。朝鮮の言葉もわかりますし、必ず、役に立つと思います」
「それは助かるんだが、今回、朝鮮の使者を出すのは中山王だぞ。お前、中山王の船に乗っても大丈夫なのか」
 兼グスク按司は黙って考えていた。
「阿波根グスクは島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクと豊見(とぅゆみ)グスクに挟まれた位置にありますが、俺は山南王(さんなんおう)の家臣ではありません。一応、同盟は結んでおりますが、今、山南王と中山王は戦をしているわけではありませんし、大丈夫だと思います」
「半年間も留守にする事になるぞ」
「師匠の阿蘇(あす)殿に任せておけば大丈夫です」
「そうか。俺の一存では決められんので、しばらく時間をくれ」
「師兄、よろしくお願いします」
 サハチの部屋を出たあと、兼グスク按司は子供たちと遊んでから帰って行った。サハチは侍女のマーミにウニタキを呼んでくれと頼んだ。近くにいたのかウニタキはすぐに来た。
「ビンダキの隠れ家も完成したし、朝鮮旅の前に子供たちと一緒に過ごそうと思って屋敷に帰っていたんだ」とウニタキは言った。
「かみさんの機嫌を取っていたのか」とサハチは笑った。
 ウニタキは苦笑した。
「ところで、何かあったのか」
 サハチは兼グスク按司の事を説明した。
「面白そうな奴だな」とウニタキは言って、ニヤッと笑った。
「何となく、俺と境遇が似ているようだ。奴の母親は側室ではないが、浦添グスクに馴染めなかったんだろう。俺も勝連グスクには馴染めなかった。いつも、俺の居場所じゃないと思っていたんだ。浜川大親(はまかーうふや)になって、グスクから出た時はホッとしたもんだよ。奴も阿波根グスクに移った時はホッとしたのだろう。連れて行けばいいんじゃないのか。一緒に旅をすれば、奴の本心もわかるだろう」
「連れて行くのはいいが、山南王がどう出るかだな」
「山南王は兼グスク按司を攻めたりはしない。兼グスク按司は山南王にとって、山北王とのつなぎをする唯一の男だ。今は地盤固めをしているが、やがて、山北王と手を結ぶだろう。その時、なくてはならない存在が兼グスク按司だ。奴がフラフラしているのは今に始まったわけではない。どうしようもない奴だと思うに留まるだろう」
「そうだといいんだが、兼グスク按司が原因で、留守中に戦が始まったら大変な事になる」
「シタルーは馬鹿ではない。今、戦をしたら負ける事がわかっている。それよりも、シタルーは東方(あがりかた)を狙っているようだぞ」
「どういう事だ」
「今、玉グスクで石垣の修理をしているんだが、修理をしている石屋は山南王とつながっている。東方の情報を集めているようだ」
「玉グスク按司が山南王の石屋を使っているのか」
「そうではない。代々玉グスクの石垣を直していた石屋だ。しかし、その石屋の親方は山南王とつながっている」
「そうか。もし、このグスクや首里グスクの石垣を直す事になったら、山南王とつながっている石屋に頼む事になるのか」
「そう言う事だな。各地にいる石屋の親方のその親方が山南王とつながっているからな」
「何とかして、その親方を味方に引き入れなくてはならんな」
「そうだな。難しいがやらなくてはなるまい」
「それと、油屋も山北王から切り離したい」
「油屋か。こいつも難しいがやらなくてはならんな。朝鮮から帰って来たら調べてみる。さっきの話の続きだが、山南王は糸数按司(いちかじあじ)から東方を切り崩そうとたくらんでいるらしい。糸数按司の妻は察度の妻の妹だ。二人は義兄弟という関係にある。その関係を利用して味方に引き入れようと考えているようだ」
「糸数按司か‥‥‥周りの按司たちを敵に回すとは思えんが‥‥‥」
「糸数按司の長女なんだが、糸数按司が上間按司(うぃーままあじ)だった頃に、浦添の武将に嫁いで、その武将は南風原(ふぇーばる)で戦死し、子供を連れて実家に戻って来ている。今の中山王を恨んでいるようだ。娘のために中山王を裏切るとは思えんが、シタルーがうまい事を言えば寝返る可能性はある」
 サハチはうなづき、「糸数按司の動きを探ってくれ」とウニタキに頼んだ。
「去年、玉グスクに『まるずや』を開いたんだ。まるずやの者に酒を持たせて糸数グスクに出入りさせるよ」
「玉グスクに『まるずや』を出したのか」
「明国との交易のお陰で、玉グスクの城下も栄えてきて、銭も使えるようになってきたんだ。玉グスクや知念からわざわざ、島添大里の『まるずや』まで古着を買いに来ている者がいるって聞いたんでな、玉グスクに出す事にしたんだよ」
「そうか。東方の按司たちを疑いたくはないが、これからは味方の動きも知っておかなくてはならんな」
「そうさ。ちょっとした不満から裏切りは起こる。それを未然に防ぐには、味方の按司たちが何を考えているのかを知らなければならない。それと、島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクの侍女から聞いたんだが、シタルーの三男は十七歳で、そろそろ嫁を迎える時期になっている。王妃が心配して、シタルーに相談したら、もう決めてあるから心配するなと言ったらしい。三男だから嫁は按司の娘でなくても構わんのだが、シタルーの事だから、子供たちを有効に使うはずだ。もしかしたら、山北王の娘を嫁に迎えるつもりでいるのかもしれん」
「山北王の娘に釣り合いの取れるのがいるのか」
「山北王の長女が十五歳だ。可愛い長女を嫁に出すなら周りにいる按司たちよりも山南王の息子の方がいいと思うのが親心だろう」
「十五か‥‥‥シタルーは来年辺りに山北王と同盟を結ぶつもりか」
「多分、そうなるだろう」
「来年から忙しくなりそうだな」
「もう旅にも出られなくなるだろう」
 サハチはうなづき、「ンマムイ(兼グスク按司)の事は一応、親父に相談するが、連れて行く事にするよ」と言った。
 四月十日、浦添グスクが完成し、小雨の降る中、浦添ヌル(カナ)によって、浦添按司の就任の儀式が厳かに執り行われた。サハチもマチルギと一緒に儀式に参加し、その後の祝宴にも顔を出して引き上げてきた。
「グスクの中は驚くほど広いのね」とマチルギが馬に揺られながら言った。
 幸いに雨はやんでいた。
「中山王のグスクだったからな。俺も一度だけ入った事があるが、立派な建物がいくつも建っていて、迷子にならないように必死になって、みんなのあとを付いて行ったんだ」
 マチルギはサハチの顔を見て笑い、「覚えているわ」と言った。
「東方の按司たちと一緒に行ったんだけど、誰も相手にしてくれなかったんでしょ」
「そうだったなあ」とサハチも当時を思い出して笑った。
「誰も相手にしてくれないので、独り言ばかり言っていた」
「あれだけ広ければ、今帰仁(なきじん)攻めの時に、ここに兵を集めればいいわ」とマチルギは言った。
 サハチはマチルギを見た。
 マチルギは笑った。
「それはいい考えだ」とサハチはうなづいた。
 察度が今帰仁を攻めた時、浦添グスクにおよそ一千の兵が集結したと聞いている。今の浦添グスクは建物も少なく、一千どころか三千の兵も収容できるだろう。察度の時は南部の兵が浦添に集結したが、今の状況では南部の兵が出陣するのは無理だった。東方の兵が出陣すれば、山南王に東方を奪われてしまう。山南王から東方を守るために、島添大里の兵も残して置かなくてはならない。山南王がいる限り、今帰仁攻めは難しい。山北王を倒すより先に、山南王を倒さなくてはならないのかとサハチは馬に揺られながら考えていた。
 翌日、浮島の造船所で中山王の龍舟(りゅうぶに)が完成した。見事なできばえだった。船首を飾る龍の彫刻はヒューガが彫ったという。ちょっととぼけた顔をしていて、どことなく思紹に似ているのがおかしかった。馬天ヌルによって進水の儀式が行なわれ、慶良間之子(きらまぬしぃ)配下のサムレーたちが龍舟に乗り込んで、訓練が始まった。
 空はどんよりと曇っているが雨はやみ、海は穏やかだった。生まれたての龍舟は気持ちよさそうに海の上を走って行った。

 

 

 

 

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2-43.表舞台に出たサグルー(第一稿)

尚巴志伝 第二部

 島添大里(しましいうふざとぅ)グスクのお祭りの五日後、中山王(ちゅうさんおう)の久高島(くだかじま)参詣が行なわれた。去年の襲撃で懲りたので、徹底的に首里(すい)から与那原(ゆなばる)への道の周辺の山や森を調べて、万全の警護のもと行列は進んだ。
 前回と同じように中山王のお輿(こし)にはヂャンサンフォンが乗り、思紹(ししょう)は武将姿で最後尾を進んだ。マチルギも女子(いなぐ)サムレーたちに弓矢を持たせて張り切っていたが、幸いに敵が攻めて来る事もなく、無事に終わった。
 久高島参詣のあと、山南王(さんなんおう)から使者が来て、そろそろハーリーの準備を始めると言って来た。サハチは島添大里のサムレー大将、慶良間之子(きらまぬしぃ)(サンダー)をハーリー奉行(ぶぎょう)に任じ、配下の百人と共にハーリーの準備をするように命じた。中山王の龍舟(りゅうぶに)も作らなければならないので大変だが、見事にやり遂げてくれと送り出した。
 今年は三月が閏月(うるうづき)で二回あるので、ハーリーまでは三か月ある。三か月あれば、立派な龍舟も完成するだろう。その龍舟を漕ぐのもお前たちに任せる。参加するからには優勝しろとサハチは慶良間之子に言った。慶良間之子は任せて下さいと頼もしくうなづいて出掛けて行った。
 久し振りに島添大里グスクの東曲輪(あがりくるわ)の物見櫓(ものみやぐら)に登って、眺めを楽しんでいると門番が来て、兼(かに)グスク按司(ンマムイ)が訪ねて来たと告げた。サハチはここに通すように命じた。しばらくして、ンマムイはやって来た。サハチは手招きしてンマムイを呼んだ。ンマムイは登って来た。
「いい眺めだろう」とサハチは言った。
浦添(うらしい)グスクの物見櫓からの眺めも、いい眺めでした。子供の頃、登ったのはいいのですが、怖くて降りられなくなってしまって、怒られました」
「お前は年中、怒られていたようだな」
 ンマムイは黙った。サハチが見ると何かを考えているようだった。
「そう言われてみればそうですね。怒られても、すぐに忘れてしまうので、気がつきませんでした」
 サハチはンマムイを見ながら笑った。確かに変わっている男だった。
「ナーサと会って来ました」とンマムイは言った。
「喜んでいただろう」
「どうしてわかるんです」
「世話の焼ける奴ほど可愛いというからな」
 ンマムイは苦笑して、「五年振りでした」と言った。
「遊女屋(じゅりぬやー)の女将(おかみ)として着飾っているせいか、五年前より若返ったように見えました。しかし、あのナーサが遊女屋の女将になったなんて、今もって信じられません。昨夜(ゆうべ)は遊女(じゅり)たちに囲まれて、楽しい思いをしてきました」
「あんな綺麗なかみさんがいるのに、遊女屋に泊まったのか」
「俺の妻を知っているのですか」
 ンマムイは驚いた顔をしてサハチを見た。
「知っているわけではない。去年のハーリーの時、見かけただけだ。山北王(さんほくおう)の妹があんなにも美人だったとは知らなかったよ」
「初めて会った時、俺も驚きました。妹が山北王に嫁いで、俺が山北王の妹を嫁に迎えると言われた時、俺はいやだと断ったんですよ。好きな娘がいたわけじゃないけど、同盟のための道具にされたくはなかった。祖父(じい)さん(察度)に説得されて、仕方なく嫁に迎えたんです。ヤンバルから来るので、不細工(ぶさいく)な娘だろうと思っていたら、腰を抜かしてしまうくらいに美しい娘でした。俺はもうマハニに夢中になりましたよ。嫁いで来てから、もう十五年になります。知人もいない遠い地に嫁いで来て、よく頑張っていると思います。いつの日か、里帰りさせてやりたいと思っているのですが、未だに実現しませんよ」
 ンマムイは軽く笑うと、海を眺めた。
 ンマムイの妹二人が今帰仁(なきじん)にいるのだから里帰りはできるだろう。ただ、帰って来られるかどうかは疑問だった。もしかしたら、山南王はンマムイを今帰仁に送って、山北王と同盟を結ぶかもしれないとサハチはふと思った。山南王と山北王が同盟を結べば挟み撃ちにされる。同盟を阻止するためにも、ンマムイを味方に引き入れた方がいいかもしれない。ただ、ンマムイの本心がつかめなかった。
「お前は何のために生まれて来たんだ、ってナーサに言われました」とンマムイは急にしゃべり始めた。
「子供の頃、兄貴は中山王を継ぎ、弟の俺たちは兄貴を助けて、王国を守るんだと言われました。兄貴が羨ましかった。兄貴を助けるのも悪くはないけど、子供ながらも、違った生き方もあるんじゃないかと探していました。宇座(うーじゃ)の牧場に行った時、大叔父(泰期)から若い頃の話を聞いて感激しました。祖父さんと一緒にヤマトゥに行って、倭寇(わこう)になって暴れ回っていたと聞いた時は驚きました。俺もそんな生き方をしたいと思いました。二人はヤマトゥから帰って来て、キラマの島で密かに兵を育て、浦添(うらしい)グスクを攻め落とします。そして、祖父さんが浦添按司になったあと、大叔父は祖父さんのために、使者として何度も明国に行きます。宇座で馬を育てたのも、祖父さんのためだったのです。大叔父の話を聞いて、兄貴を助けるというのは、こういう事なのかと理解しました。俺も大叔父のようになって、兄貴を助けようとその時は本気で思ったものでした。でも、浦添グスクに戻ると、また、違う生き方もあるんじゃないかと思い始めます。浦添グスクには重苦しい空気が漂っています。その時はどうしてなのかわかりませんでしたが、最近になって、ようやくわかりました。重苦しい空気の原因は祖父さんだったのです。祖父さんは偉大すぎました。誰かが何か失敗すると、必ず、祖父さんならこうしただろうと言います。それは、祖父さんが亡くなったあとでもそうでした。親父は偉大な祖父さんを越えようと必死にもがいていました。兄貴もそうだったのかもしれません。俺は浦添グスクから離れたくて、明や朝鮮(チョソン)に行っていたのです。祖父さんの影から逃げていたのです。兼グスク按司となり、阿波根(あーぐん)グスクに移ってからも、祖父さんの影は付きまとっていました。親父や兄貴のために山南の様子を探るのが俺の役目だったのです。フラフラしていて落ち着きがないという評判通り、俺はフラフラとあっちこっちに行って、山南の様子を探りました。そして、前回の戦で親父は亡くなり、兄貴も亡くなりました。俺が守るべき人はいなくなったのです。ようやく、自由の身になれたと思ったのに、親兄弟の敵(かたき)を討てと周りの者たちから言われました。祖父さんがそう言う声も聞こえ、敵討ちに縛られるようになりました。去年のハーリーの時、さっさと敵を討って、祖父さんから解放されようと思いました。しかし、敵討ちをやめて、ヂャンサンフォン殿を選びました。その時、何かが変わったのです。考えてみたら、俺は今まで、自分の意志で動いてはいませんでした。明や朝鮮に行ったのも、ただ、浦添グスクから離れたいと思っただけで、別にどこでもよかったのです。ハーリーの時、俺は無意識のうちに、ヂャンサンフォン殿を選んでいました。その後、祖父さんの声は聞こえなくなりました。俺はやっと、祖父さんから解放されたのです。これから、どんな生き方をしたらいいのか、じっくりと考えてみます」
 ンマムイは話し終わると照れ臭そうに笑った。
「不思議ですね。俺は今まで誰にも本心を語った事はありません。師兄(シージォン)には安心して話せる。何だか、気が楽になりました。それでは失礼します」
 ンマムイは物見櫓の上から飛び降りた。体を丸めて回転すると見事に着地して、手を振ると去って行った。
 サスカサの屋敷から刀を手にしたままサスカサが現れ、サグルーの屋敷から刀を持ったマカトゥダルが現れ、佐敷ヌルの屋敷から佐敷ヌルと弓矢を持った女子(いなぐ)サムレーが現れた。
「大丈夫ですか」と佐敷ヌルが言った。
 サハチは手を振ると物見櫓から降りた。ンマムイの真似をして飛び降りるのもできない事はないが、怪我でもしたら馬鹿げだった。
「皆、俺の心配をしてくれたのか」とサハチが聞くと、皆はサハチを見つめてうなづいた。
「すまんな。余計な心配をさせて」
「あの人、変わったわ」とサスカサが言った。
「前に見た時は微かだけど殺気があったの。今日、帰る時の姿には殺気が消えていたわ」
「あいつは信じられるのか」とサハチは聞いた。
 サスカサは首を傾げて、「もう少し様子を見た方がいいみたい」と言った。
 サハチはサスカサにうなづいた。
 三月の半ば過ぎ、山南王から婚礼の招待状が届いた。山南王の娘が具志頭(ぐしちゃん)の若按司に嫁ぐという。東方(あがりかた)の按司たちにも招待状が届いたか確認したら、誰にも届いていなかった。タブチを刺激しないように、同盟を結んでいるサハチだけを招待したようだ。
 サハチは首里(すい)に行き、父の思紹(ししょう)とウニタキに相談した。
「危険だな」と二人とも言った。
「断りますか」とサハチが言うと、
「断る理由もないからな、代理を出したらどうだ」と思紹が言った。
「代理ですか‥‥‥誰を出しても危険ですよ」
「婚礼には按司たちも招待されているはずじゃ。山南王としても下手(へた)な真似はするまい」
「しかし、周り中が全員、敵ですからね。余程、度胸のある者でないと務まらないでしょう」
「サグルーはどうじゃ」と思紹は言った。
「そろそろ、表舞台に出してもいい頃じゃないのか」
 サグルーは二十歳になっていた。確かに表に出してもいい年頃だった。危険だが、この先、中山王を継ぐ者として、乗り越えなければならない試練かもしれなかった。
 サハチはうなづき、「サグルーに行ってもらいましょう」と言った。
 その後、絵地図を広げて、サグルーを守るためにウニタキと綿密な計画を立てた。
「ところで、具志頭の若按司とは誰だ」とサハチはウニタキに聞いた。
 確か、山南王の弟のヤフスが具志頭の若按司だったはずだ。ヤフスが島添大里按司になったあと、誰が具志頭の若按司になったのか、サハチは知らなかった。
「具志頭按司の息子が若按司だよ」とウニタキは言った。
「息子がいなくて、ヤフスを娘婿に迎えたんじゃなかったのか」
「先代の山南王(汪英紫(おーえーじ))を恐れて、娘婿を跡継ぎにしたんだよ。先代の山南王もヤフスも亡くなったんで、息子が若按司になったんだ。今はその息子が按司となり、その息子が若按司だ」
「去年のハーリーの時、爺さんの具志頭按司がいたが、あの爺さんは亡くなったのか」
「いや、まだ生きている。去年、若按司が明国に行ったんだが、帰って来たら隠居して、若按司按司の座を譲ったんだ」
「確か、あの爺さんは弓矢の名人だったな。倅も名人なのか」
「親父ほどではないが、まあ、できる方だろう」
「それで、ヤフスの奥さんはどうなったんだ」
「ヤフスが亡くなったあともヤフスが住んでいた屋敷で暮らし、二人の子供を育てた。娘は玻名(はな)グスクに嫁ぎ、息子は武将として按司に仕えている」
「本当ならその息子が若按司になるはずだったんだろう」
「ヤフスが具志頭按司になっていたら若按司になれたが、ヤフスは島添大里按司として亡くなった。仕方あるまい」
「山南王としては具志頭按司を味方に引き入れて、タブチを孤立させるつもりだな」
「タブチは孤立せんだろう。タブチは東方(あがりかた)の一員だ」
「そうだったな。タブチは山南王になる夢は諦めたのかな」
「八重瀬(えーじ)の城下は活気に溢れている。城下の者たちは皆、タブチに感謝している。先の事はわからんが、今は今の状況に満足しているんじゃないのか」
「タブチは今、いくつになったんじゃ」と思紹が聞いた。
「五十くらいじゃないですか」とウニタキが答えた。
「五十で明国に行ったか‥‥‥わしも行きたくなって来たのう」
 サハチは横目で思紹を見た。マチルギがヤマトゥまで行って来たので、今度は俺の番だと思っているのだろうか。サハチは聞かなかった事にしようと思った。
 ウニタキが去ったあと、思紹は彫刻を彫りながら、「来年、明国に行けんかのう」と言った。
「無理ですよ」とサハチはそっけなく答えた。
「中山王が半年も留守にできるわけがないでしょう」
「ヤマトゥの船が帰ったあとは少し暇になるぞ。五月、いや、四月頃行って、九月頃帰って来れば問題はなかろう」
「その頃に行ったら泉州まで行けませんよ。杭州(ハンジョウ)辺りに行ってしまいます」
杭州に行った方が応天府(おうてんふ)には近いと聞いたぞ」
「それはそうですが、明国が許しませんよ」
「お前、明国の皇帝に会ったんだろう。そのくらいの事は許してくれるに違いない」
「そんなの無理です」
「ヂャンサンフォン殿と一緒に行けば何とかなるじゃろう。どうじゃ、考えてみてくれんか。一度でいいんじゃ。一度、明の国というのを見てみたい」
 朝鮮旅の前に、父親と言い争いをしたくなかったので、サハチはファイチと相談してみますと言って思紹と別れ、島添大里に帰った。
 サハチから山南王の婚礼に代理として行って来いと言われたサグルーは目を丸くして驚いた。
「俺が親父の代理として、島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクに行くのですか」
「そうだ。お前も二十歳になった。そろそろ、表に出た方がいいと思ってな。山南王とは同盟を結んでいるとはいえ、危険がないとは言い切れない。はっきり言えば、敵地に乗り込むようなものだ。一つの試練だと思って、やってみてくれ」
 サグルーは父親の顔をじっとみつめて、「かしこまりました」とうなづいた。
 サグルーは一度だけ、山南王を見た事があった。あれは佐敷グスクから島添大里グスクに移ったばかりの頃だった。弟のジルムイと一緒に剣術の稽古をしていた時、山南王が父を訪ねて来たのだった。山南王は東曲輪の物見櫓に登って、父と話をして帰って行った。
 サグルーは帰ったあとに山南王だと知らされ、驚いたのを覚えていた。当時、父は山南王を敵として戦をしていて、山南王の弟が守っていた島添大里グスクを奪い取ったのだった。敵である島添大里グスクに、数人の供を連れただけでやって来た山南王は、堂々とグスク内に入って来たのだった。
「敵なのになぜ捕まえなかったの」とその時、サグルーは父に聞いた。
「山南王とは古い付き合いだからな」と言って、父は笑っただけだった。
 サグルーはあの時の山南王の真似ができるかと自分に問うてみた。今の自分にはとても真似はできなかった。敵地に行くのは恐ろしく、捕まって殺される事も考えられた。
「どうして、親父が行かないのです」とサグルーは聞いた。
「親父に止められたんだよ。危険だとな」
「その危険な所に俺を行かせるのですか」
「そういう事だ。親父は中山王になって首里グスクから自由に出られなくなった。俺も親父ほどではないが、以前のように自由に動けなくなってしまったんだ。今のお前はまだ自由に動ける。自由に動けるうちに様々な経験をしておく事だ。やがて、俺が中山王になって、お前が世子(せいし)になれば勝手な動きはできなくなるからな。山南王としてもお前をどうこうしようとは考えまい。一応、お前の陰の警護はウニタキに頼んである。立派に代理を務めて来い」
「山南王から、どうして親父が来ないで代理なんだと聞かれたら、どう答えればいいのです」
「朝鮮(チョソン)に使者を送るので忙しいと言っておけ」
「わかりました」
 サグルーは頭を下げると一階にある重臣たちの詰め所に戻った。今のサグルーは按司になるために重臣たちから様々な事を教わっている最中だった。夕方、仕事を切り上げたサグルーは侍女のマーミにヤールーを呼んでくれと頼んだ。
 ヤールーはウニタキの配下だった。サグルーが若按司となった時、ウニタキから命じられて、サグルーの護衛を務めていた。
 サグルーはその時、初めて『三星党(みちぶしとー)』の存在を知った。父がそんな裏の組織を作っていたなんて、まったく知らなかった。そして、三星党のお頭が、旅をしながら地図を作っているという三星大親だったなんて信じられない事だった。三星大屋は父と一緒に明国に行った。明国の地図でも作るつもりなのかと思っていたが、父を守るために一緒に行ったのだった。 
 サグルーが十三歳の時、父は島添大里グスクを攻め落として島添大里按司になった。十七歳の時、中山王を倒して首里グスクを奪い取った。子供だったサグルーは凄いなと思っていたが、裏で三星党の活躍があったからこその成功に違いなかった。
 東曲輪に入ったサグルーは屋敷には帰らず、物見櫓に登った。空は一面、どんよりとした雲に覆われ、海の色も暗かった。一雨来そうな空模様だった。
「お祝いの場で騒ぎは起こすまい」とサグルーは一人つぶやいた。
 ヤールーはなかなか現れなかった。今、首里に新しい拠点を作っているので、そこに行っているのかもしれなかった。ヤールーとはヤモリの事である。石垣に登るのが得意なので、そう呼ばれているかと思ったら、親に付けられた名前だと聞いて驚いた。ヤンバルの小さな漁村で生まれ、十三歳の時、先代のサミガー大主と出会い、キラマの島に行って修行を積んだらしい。
 サグルーが物見櫓から降りようとした時、ヤールーは現れた。
「若按司様(わかあじぬめー)、何か御用でしょうか」とヤールーが下から声を掛けた。
 サグルーは上がって来るように手招きした。
 ヤールーは素早く登って来た。まるで、ヤモリのようだとサグルーは笑った。
「どうかしましたか」とヤールーは聞いた。
 サグルーも背が高い方だが、ヤールーはサグルーよりも高く、体格もよかった。そんな大きな体のくせに驚くほど身が軽かった。
「来月、山南王の娘の婚礼があるのを聞いているか」とサグルーは聞いた。
「聞いております。具志頭の若按司に嫁ぐとか」
「その婚礼に親父の代理として行けと言われたんだ」
「若按司様が行かれるのですか」
 サグルーはうなづいた。
「うーん」とヤールーは唸った。
「危険か」とサグルーは聞いた。
「何とも言えませんなあ。もし、山南王が若按司様のお命を奪った場合、按司様(あじぬめー)はどう出ると思いますか」
「それは当然、山南王を攻めるだろう」
 ヤールーはうなづいた。
「今の兵力では山南王は中山王にはかないません。中山王が総攻撃を掛ければ、山南王は滅びるでしょう。山南王は頭がいい。そんな馬鹿な真似はしないでしょう」
「という事は行っても危険はないのだな」
 ヤールーは首を振った。
「以前、山南王は兄の八重瀬按司(えーじあじ)と戦った時、八重瀬按司の家族を人質に取り、人質の命と引き替えに島尻大里グスクを奪い取りました」
「俺を人質にとって、首里グスクを奪い取ると言うのか」
「その可能性がないとは言えません。グスク内では手は出しませんが、帰りが危険です」
「人質か‥‥‥もし、俺が人質になったら、親父は首里グスクを山南王に明け渡すだろうか」
 ヤールーは何も言わなかった。
「多分、明け渡さないだろう」とサグルーは言った。
「多分、その時は先手を取って山南王を攻め、若按司様を救い出す事になるでしょう。三星党の出番です」
 サグルーはうなづき、婚礼に出席するであろう山南の按司たちの事を詳しく聞いた。
 ヤールーと別れ、屋敷に帰って妻のマカトゥダルにも相談した。マカトゥダルは驚き、そんな危険な場所に行かないでくれと言った。どうしても行くというのなら、わたしも一緒に行くと言い出して、サグルーを困らせた。妻に言わなければよかったとサグルーは後悔した。
 閏三月十日、サグルーは婚礼に出席するために島尻大里グスクへ向かった。妻のマカトゥダルと妹のサスカサを連れ、供はヤールーと六人の女子サムレーだけだった。
 島添大里グスクには二十四人の女子サムレーがいて、六人づつ三組に分かれて、交替でグスク内の警護に当たっていた。その日は二番組が非番だったので、隊長のリナーに頼んで、付いて来てもらったのだった。グスクから出る事の少ない女子サムレーたちは喜んで付いて来てくれた。
 サグルーとヤールーはヤマトゥのサムレーが着る直垂(ひたたれ)に烏帽子(えぼし)をかぶり、サスカサは白い鉢巻きを頭に巻き、白い着物に白い袴を着け、ガーラダマを首から下げている。マカトゥダルと女子サムレーたちも白い鉢巻きを巻き、赤い着物に白い袴を着け、全員がお揃いの白柄白鞘(しろつかしろさや)の刀を腰に差して、馬に跨がっていた。先頭を行くヤールーは三つ巴の家紋が描かれた旗を誇らしげに持ち、次に大きな扇子を持ったサスカサが続き、サグルー夫婦が並んで続き、そのあとを女子サムレーたちが従っていた。一行の姿は目立ち、何だ何だと、人々が見物に現れた。見物人たちに見送られて、サグルーたちは悠々とした態度で島尻大里グスクに向かった。
 死を覚悟したサグルーが考えに考え抜いた奇抜な策だった。女たちを引き連れて、目立つ格好をして行けば、民衆たちの間に噂が広まり、見物人が大勢現れて、山南王としても手出しができないだろうと考えたのだった。
 マカトゥダルから相談されたサスカサは一緒に行くと言い出してサグルーを困らせた。女を二人も連れて行けるかと思ったが、いっその事、女だけを引き連れて行こうと思い付いたのだった。
 集まって来た見物人の中には三星党の者がいて、知ったかぶって、島添大里の若按司様が奥方様を連れて、山南王の御婚礼にお出かけになるのだ。従うのは若按司様の妹、サスカサヌルと島添大里名物の女子サムレーたちだと教える。それは噂となって、あっという間に各地に広まっていった。
 首里の女子サムレーは久高島参詣に従っているので、庶民たちも知っているが、島添大里の女子サムレーを知っている者は少ない。サスカサは去年、丸太引きのお祭りに島添大里の守護神を務めたが、まだそれほど有名になってはいなかった。一目見ようと興味をそそり、さらに、美人揃いだという尾ひれまで付いて、人々の話題にのぼった。
 サグルーたちが島尻大里グスクに着く頃には、島尻大里の城下の者たちまでが、中山王の孫である若按司夫婦とサスカサヌル、女子サムレーたちを一目見ようと集まって来て、山南王が慌てて警護の兵を増やす有様となっていた。
 サグルー夫婦は山南王に歓迎された。
「そなたたち親子はまったく変わっておるのう。女子のサムレーを引き連れて来るとは恐れいったわ」
 山南王は苦笑しながらそう言った。
 島尻大里グスク内では何事も起こる事なく、花嫁を送り出し、その後の祝宴も無事に終わった。帰る時には、グスクから出て来るサグルーたちを待っていた見物人たちに見送られ、途中の道中も見物人で溢れていた。大勢の見物人に囲まれて、女子サムレーたちは王様になったような気分を味わい、サグルーとマカトゥダルの夫婦とサスカサヌルは一躍、有名人となって島添大里グスクに無事に帰って来た。
 挨拶に来たサグルー夫婦とサスカサを迎えたサハチは、「上出来じゃ。よくやったぞ」と満足そうに笑った。
「あんたたちの噂は首里にまで届いたのよ」とマチルギは言った。
「あたしは驚いて、すぐに帰って来たわ。まったく、代理にあんたを送り出すなんて、あたしに一言も相談しないんだから。散々、お父さんに文句を言ってやったわ」
「お母さんに言ったら心配すると思って内緒にしていたんだ」
「それにしたって、ミチまで一緒に行くなんて、あたしはもう心配で仕方なかったわよ」
「お前たち三人の名は南部に知れ渡った。よくやった。本当に見事だったぞ」とサハチが褒めると、マチルギは目に涙を溜めて三人を見ながら、何度もうなづいていた。
 サハチはサグルーに島尻大里までの道順を指示し、供の兵は二十人以下にしろと命じただけだった。まさか、妻と妹を同伴し、女子サムレー六人だけを連れて行くとは思ってもいなかった。ウニタキから道中の様子を聞いて、「民衆を味方に付けるとは大したもんだ」と感心していたのだった。
 なお、サグルーたちが腰に差していた白柄白鞘の刀はマチルギが女子サムレーたちに贈ったヤマトゥのお土産だった。マチルギは博多の一文字屋に百五十振りの白柄白鞘の刀を注文し、帰る時にそれを受け取って琉球まで持って来たのだった。女子サムレー全員がその刀を持っていて、サグルー夫婦とサスカサは女子サムレーから借りていったのだった。

 

 

 

 

摸造刀(美術刀)白金雲【はくきんうん】 大刀   美術刀剣-模造刀 忍者刀『風魔小太郎』拵え