長編歴史小説 尚巴志伝

第一部は尚巴志の誕生から中山王武寧を倒すまで。第二部はその後の尚巴志の活躍です。お楽しみください。

2-200.瀬織津姫(第一稿)

 精進湖(しょうじこ)のほとりで焚き火を囲んで、ササたちは瀬織津姫(せおりつひめ)様に出会えた感謝の気持ちを込めて酒盛りを始めた。
 酒盛りの前に、ササは富士山の大噴火で犠牲になった人たち、森の中で暮らしていた生き物たちのために鎮魂の曲を吹いた。
 何もかもを優しく包み込んでしまうような美しい笛の調べは、満月に照らされた富士山麓を静かに流れ、山頂へと響き渡って行った。命ある物たちは快い調べに酔いしれ、霊となって彷徨(さまよ)っている物たちは、落ち着くべき場所が見つかったかのように穏やかな気持ちになっていた。
 誰もが目を閉じてシーンとして聞き入り、誰もが意識をせずに両手を合わせていた。初めてササの笛を聞いた喜屋武(きゃん)ヌルは、まるで神様が吹いているようだと感動していた。奥間(うくま)のミワは自分が生まれる前の遙か遠い記憶が蘇ったような気がして、自分も笛を習いたいと真剣に思っていた。
 曲が終わって横笛から口を離したササは月を見上げて、うまく吹けた事への御礼をのべ、合掌をしているみんなを見て、「今回の旅の目的であった瀬織津姫様に会う事ができました。皆さんのお陰です。ありがとう」と御礼を言った。
「若ヌルたちは今回の旅で大変な思いをしたけど、きっと、あなたたちの役に立つ事でしょう。皆さん、御苦労様でした」
 持って来た肉の塩漬けや来る途中で集めた山菜を肴(さかな)に酒盛りが始まった。いつもは若ヌルたちにお酒は飲ませないが、今日は特別よと言って、皆で乾杯した。
「まさか、富士山までやって来るなんて思ってもいなかったわ」とナナが嬉しそうに言った。
対馬にいた時、対馬に来た山伏から富士山の話を聞いて、ユキと一緒に、いつか必ず富士山に行ってみたいわねって言っていたの。来られて本当によかったわ」
「あたしもいつか富士山を見たかったのよ」とシンシンも言った。
「ヂャン師匠(張三豊)から富士山の美しさは聞いていたわ」
「ヂャン師匠も富士山に来た事があったの?」とササはシンシンに聞いた。
「登ったって言っていたわよ。大昔、大陸に秦(チン)という国があって、徐福(シュフー)という仙人が大勢の子供たちを連れてやって来て、富士山の裾野に住み着いたって言っていたわ」
「どうして、子供たちを連れて来たの?」
「子孫を繁栄させるためでしょう。それに、色々な技術者も連れて来たらしいわ」
「そうだったの。瀬織津姫様もその仙人を知っているのかしら?」
「仙人だから、きっと、瀬織津姫様に会っているわよ」
「ねえ、富士山の神様なのに、どうして、浅間大神(あさまのおおかみ)なの?」とカナがササに聞いた。
「あたしもそれを聞きたかったんだけど、瀬織津姫様は急に黙り込んでしまったのよ」
「大噴火の悲劇を思い出してしまったんだわ」とナナが言った。
瀬織津姫様は未だに、子孫たちを助けられなかった事を悔やんでいるのよ」
「そうね」とササはうなづいた。
玉依姫(たまよりひめ)様が会いたがっていたのに声を掛けなかったのも、後悔の念が強すぎたからなのね」
「ありがとう。もう大丈夫よ」と瀬織津姫様の声が聞こえた。
 声と同時に閃光(せんこう)が走った。まぶしい光に目を閉じて、恐る恐る目を開くと、古代の女神様と長い髭を伸ばした山伏の姿があった。
 瀬織津姫様は白い絹の着物を着て、長い黒髪を垂らして、首に大きな勾玉(まがたま)を下げていた。美しい顔は偉大なる神様の尊厳さよりも、慈愛に満ちた優しさに溢れていた。
「そなたのお陰で、瀬織津姫様に会う事ができた。御礼を言うぞ」と山伏が言った。
役行者(えんのぎょうじゃ)様ですか」とササが聞くと、山伏は髭を撫でながら細い目をしてうなづいた。
 ササが若ヌルたちを見ると、みんな、眠りに就いていた。愛洲ジルーも阿蘇弥太郎も飯篠修理亮(いいざさしゅりのすけ)も辰阿弥(しんあみ)も覚林坊(かくりんぼう)も天久之子(あみくぬしぃ)も村上あやもミーカナとアヤーも眠りに就いていた。喜屋武ヌルは神様の姿を目の前にして、両手を合わせて拝んでいた。
「あなたが吹いた笛の調べを聴いて、気持ちが急に楽になったわ。過ちは悔い改めなければならないけど、いつまでも、それを引きずっている事も過ちだって気づいたわ」と瀬織津姫は美しい声で言った。
「わしらも仲間に入れろ」とスサノオの声がしたと思ったら、また光って、スサノオ玉依姫、ホアカリ、トヨウケ姫、そして、ユンヌ姫、アキシノ、赤名姫、メイヤ姫が現れた。
「みんなしてお前のあとを付いて来たんじゃよ」とスサノオはササに笑ってから、瀬織津姫に皆を紹介した。
 初めて見た玉依姫様は思っていた通り、威厳のある女神様だった。日巫女(ひみこ)と呼ばれ、アマテラスとも呼ばれた玉依姫様は神々しいほどに美しく、きらびやかな衣装も女王様にふさわしい華麗なものだった。ホアカリ様は大王という貫禄があり、祖父のスサノオ様によく似ていた。
 二人の顔を見比べながら、ササはホアカリ様の父親で、玉依姫様の夫になったサルヒコ様に会っていない事に気づいた。大国主(おおくにぬし)とも呼ばれた二代目のヤマトゥの大王になったサルヒコ様はどこにいるのだろう?
 トヨウケ姫様は意外だった。小俣(おまた)神社で話をした時の感じでは、優しくて、しとやかな神様だろうと思っていたのに、弓矢を背負って勇ましく、女子(いなぐ)サムレーの大将のような感じだった。いたずらっぽい目つきでササを見て笑い、ユンヌ姫と仲良くなりそうな気がした。
「あなたたちがいるので、わたしの出番はないと隠れていたのです」と瀬織津姫スサノオに言った。
「伊勢に神宮ができて、伊勢津姫様は封印されてしまいました。申し訳ありません」と玉依姫瀬織津姫に謝った。
「あそこに神宮ができたのはあなたのせいではありません。気にする事はないわ。伊勢津姫は長い眠りに就いているだけです」
「封印が解けたら戦世(いくさゆ)になるのですか」とササが瀬織津姫に聞いた。
「そんな事はありません。ただ目覚めるだけよ。あの子はそんなに執念深くはないわ。ただ、地震が起きるかもしれないわね」
「えっ、地震が起こるのですか」
「伊勢の地は地震を起こす気(エネルギー)が強いって、あの子は言っていたわ。それで、あの子はその気を抑えるために伊勢に行ったのよ。でも、あの子自身が大きな気を身に付けてしまったので、恐れられて封印されてしまったの。あの子が意識しなくても、目覚めた時に地震が起こるかもしれないわね。でも、あの子がきっと抑えてくれるでしょう。心配しなくても大丈夫よ」
 ササたちは安心して、神様たちと祝杯を挙げた。
「ササのお陰で、瀬織津姫様にお会いする事ができた。凄い美人じゃのう。噂ではコノハナサクヤヒメと最初に呼ばれたのは瀬織津姫様だったと聞いたんじゃが、まさしく、桜の花のような麗しい美しさじゃ」とスサノオが言った。
「美しさなんてはかないものです。わたしは八十年余りも生きましたが、最後は腰の曲がったお婆さんでしたよ」
瀬織津姫様、お聞きしたい事があるのですが、富士山の神様なのに、どうして浅間大神様なのですか」とササは聞いた。
「大昔は富士山とは呼んでいなかったのよ。阿蘇山と同じように煙を上げて噴火していたから、アソムイと呼んでいたの。『アソ』は南の島の言葉で火山を意味して、『ムイ』は盛り上がった所、山を意味しているわ。阿蘇山は『ムイ』が『ヤマ』に変化して、『アソヤマ』になって『アソサン』になったのよ。富士山の方は『アソムイ』が『アサマ』に変化したの。『アソムイノカミ』が『アサマノカミ』になったのよ」
「もしかして、琉球の安須森(あしむい)も『アソムイ』だったのですか」
「そうよ。当時は琉球って呼んでいなかったけど、あの島の目印があの山だから『アソムイ』って、わたしが名付けたのよ。あの山は火山じゃないけど、山頂に登れば神様に出会える聖なる山だからね」
「いつから富士山と呼ばれるようになったのですか」
「わしが来た頃は富士山と呼ばれておった」と役行者が言った。
「『アサマ』から『フジ』になったのは、都で流行った『かぐや姫の物語』のお陰かもしれんのう。最後の場面で、不老不死の薬を山頂で焼いた事になっておるからのう。『不死の山』が、二つとない美しい山として、『不二の山』になったのじゃろう」
 『かぐや姫』の話が出て来るなんてササたちは驚いた。でも、琉球で演じられる『かぐや姫』はかぐや姫が月に帰って終わりだった。富士山で不老不死の薬を燃やす場面は出て来なかった。
スサノオ様の頃は何と呼んでいたのですか」とササは聞いた。
「わしは富士山の事は知らなかったんじゃよ。伊勢より東には行った事はないんじゃ。噂では煙を上げている山があるとは聞いていたが、何と呼んでいたのか覚えておらんな。そんな事より、瀬織津姫様はどうして、こんな遠くまでやって来たのですか」
「どうしてかしらね。運命(さだめ)だったのかしら?」と瀬織津姫は首を傾げて笑った。
 うっとり見とれてしまうほど美しい笑顔だった。その笑顔を一目見たいと大勢の人たちが集まって来て、瀬織津姫様はみんなの神様として祀られたのだろうとササは思った。
「わたしは那智の滝が気に入って、そこを終焉の地にするつもりでいたのよ。でも、ある日、神津島(こうづしま)(伊豆諸島)の娘が訪ねて来たのよ。黒曜石(こくようせき)と貝殻の交易がしたいと言って来たの。可愛い娘でね、自分の若い頃を思い出したわ。遠い那智まで来るのは大変だから、富士山の近くに拠点を造ってくれって言ったので、富士山まで行く事に決めたのよ。海の上から富士山を見て、わたしは一目で気に入ったわ。富士山こそが、わたしの終焉の地にふさわしいってね。沼津に交易の拠点を造って、都は富士山の北側に造ったの。富士山の上に昇る月が見られるから北側にしたのよ」
「黒曜石を求めてヤマトゥに来たのですか」とスサノオが聞いた。
「そうですよ。まだ、ヤマトゥとは呼ばれてはいなかったけどね。わたしは貝殻を積んで、百人の人たちを率いて、黒曜石と翡翠(ひすい)を求めてやって来たのよ。白川を遡って阿蘇山の麓(ふもと)に落ち着いたの。大量の貝殻を持って来たから、貝殻が欲しい人たちが大勢集まって来たわ。その中に日向津彦(ひむかつひこ)がいて、わたしは彼と結ばれたのよ。翡翠の産地のヌナカワ(糸魚川市の姫川)から来た人もいたわ。わたしはその人の案内でヌナカワまで行ったのよ。ヌナカワの首長のヌナカワ姫と会って意気投合したわ。ヌナカワには翡翠を加工する工房があって、大勢の人たちが働いていたわ。わたしはそれを見倣って、琉球に貝の工房を造ったのよ。貝輪や首飾りを造らせてヤマトゥに運ばせたの。加工した方が運ぶのも楽だし、交易もうまくいったわ」
 ササが瀬織津姫の腕を見ると綺麗な貝輪をいくつも着けていた。玉依姫もトヨウケ姫も着けていて、今まで気づかなかったが、ユンヌ姫も赤名姫もメイヤ姫も着けていた。貝輪はヌルの必需品だったのかもしれなかった。
瀬織津姫様はヤマトゥと琉球を行き来していたのですか」と玉依姫が聞いた。
「子供ができてしまったので、わたしはなかなか里帰りができなかったの。でも、一緒に来た人たちは毎年、冬に帰って夏に戻って来たわ。黒曜石と翡翠、絹や毛皮などを持って帰って、貝殻を運んでいたのよ。わたしが琉球に帰ったのは十年くらい経ってからだわ。子供たちを連れて帰ったのよ」
「その時、このガーラダマ(勾玉)を妹さんに贈ったのですね?」とササは首から下げたガーラダマを示しながら聞いた。
「そうよ。妹に垣花(かきぬはな)のヌルを継ぐように頼んだのよ」
「どうして、阿蘇から武庫山(むこやま)(六甲山)に移ったのですか」と玉依姫が聞いた。
「それは交易の範囲を広げるためよ。長女が十五歳になったので、阿蘇津姫の名前を譲って、阿蘇の事は長女と次女に任せたの。わたしは下の子供たちを連れて武庫山に移ったわ。武庫山にはヌナカワ姫の拠点があって、娘に跡を譲ったヌナカワ姫が武庫山にいたのよ。武庫山でも貝の交易はうまくいったわ。瀬戸内海沿岸の人たちは勿論の事、遠くの方からも山々を越えて、貝を求めてやって来たわ」
「武庫山から那智に移ったのも交易を広げるためですか」と玉依姫が聞いた。
那智に移ったのは交易のためじゃないわ。舟を造るための太い材木を探しに行って、那智の滝を見つけたの。ヌナカワ姫が亡くなってしまったので、わたしも死を予感して、終焉の地として那智を選んだのよ。でも、結局は富士山まで来てしまったわ」
瀬織津姫様の娘さんの阿波津姫(あわつひめ)様は、阿波の国(徳島県)の八倉比売(やくらひめ)神社にいらっしゃいますか」とササは聞いた。
「いると思うけど、阿波津姫がどうかしたの?」
「わたしの祖母は八倉比売神社の神官の娘だったそうです」
「あら、もしかしたら、あなたのお祖母(ばあ)様は阿波津姫の子孫なの?」
「多分、そうだと思います」
「成程ね。それで、そのガーラダマを身に着ける事ができたのね」
「八倉姫様は阿波津姫様の事ですか」
「そうよ。阿波津姫はわたしたちの食料を確保するために阿波の島(四国)に渡ったの。あそこは粟(あわ)の産地だったのよ。阿波津姫のお屋敷に高い櫓(やぐら)があって、高い所が好きなあの子はいつも櫓に登っていたの。それで櫓姫って呼ばれるようになったのよ」
「えっ、本当ですか」
「そう自分で言っていたわ。でも、本当はお屋敷に粟の高倉(たかくら)がいくつも建っていたので、八倉姫と呼ばれるようになったんだと思うわ」
瀬織津姫様にお尋ねいたします。秦から来られた徐福という仙人を御存じですか」とシンシンが聞いた。
「知っているわ。わたしが亡くなってから三十年くらい経って、大きな船でやって来たわ。徐福たちは河口湖のほとりで暮らしていたのよ。徐福は最新の技術を持って来たから、わたしの子孫たちも色々と教わったのよ。特に養蚕の技術はありがたかったわ。絹はわたしたちの都の特産になったのよ」
瀬織津姫様がお召しになっている絹もその都で造ったものなのですね」とササが聞いたら瀬織津姫は首を振った。
「これはヌナカワ姫が秦の国と交易して手に入れた物なのよ」
「ヌナカワ姫様の翡翠は秦の国まで行ったのですか」
「そうなのよ。ヌナカワ姫の配下の人たちは筑紫(つくし)の島(九州)の北にある弁韓(べんかん)(韓国南部)という所に渡って交易をしていたの。そこから、さらに北へと行って秦の国とも交易をしていたのよ。ヌナカワ姫は尊敬すべき凄い人だったわ」
「その凄いヌナカワ姫様よりも瀬織津姫様が有名なのはどうしてなのですか。何か凄い奇跡を起こしたのですか」
「そんなの起こしませんよ」と瀬織津姫は笑ったが、
「わしは知っておるぞ」と役行者が言った。
阿蘇津姫だった頃、阿蘇山の噴火を鎮めて有名になったんじゃよ」
「あの時は阿蘇に来て三年目で、わたしも若かったし、必死だったのよ。死ぬ覚悟で阿蘇山に登って、お祈りを捧げたら、阿蘇山の神様がわたしのお願いを聞いてくれたのよ。それ以後、わたしは阿蘇津姫と呼ばれるようになったのよ」
「武庫山では雨乞いのお祈りをして雨を降らせて、人々を喜ばせたんじゃ。雨乞いをした山は女神山(目神山)と呼ばれるようになった。武庫津姫様が住んでおられた屋敷跡には広田神社が建てられて、武庫津姫様をお祀りしておるんじゃよ」
「あの時もきっと、武庫山の神様がわたしのお願いを聞いてくれたのよ。武庫山には古くから人々が暮らしていて、その人たちは山の中のあちこちに神様を祀っていたわ。その人たちの神様が助けてくれたのよ」
「広田神社を創建したのは、わたしの跡を継いだ豊姫なのよ」と玉依姫が言った。
「豊姫が新羅(シルラ)を攻めて帰って来た時、戦(いくさ)に勝てた御礼として瀬織津姫様が住んでおられた地に広田神社を建てたのよ」
「シルラってどこですか」とササは玉依姫に聞いた。
「昔、朝鮮(チョソン)にあった国よ」
「豊姫様は朝鮮まで戦をしに行ったのですか」
「当時、朝鮮の南部には倭人(わじん)たちが住んでいて、小さな国を造っていたの。それを助けに行ったのよ」
「その時、豊姫は対馬(つしま)の木坂の八幡宮(海神神社)も建てたんじゃよ」とスサノオが言った。
「えっ、そうなのですか。もしかして、豊姫様は神功皇后(じんぐうこうごう)様なのですか」
「のちの世になって、そう呼ばれるようになったようじゃ」
 スサノオ玉依姫の話を聞いていた役行者が、「スサノオの神様とヤマトの国の女王様、卑弥呼(ひみこ)殿と一緒に酒が飲めるなんて思ってもいなかった」と嬉しそうに笑った。
「これも皆、瀬織津姫様のお陰じゃな。改めて感謝いたそう」
 皆で乾杯したあと、ササは話を戻して、「那智でも瀬織津姫様は奇跡を起こしたのですか」と役行者に聞いた。 
那智ではのう、真冬の大雪の降る中、瀬織津姫様は滝に打たれておったんじゃよ」
 瀬織津姫は手を振りながら笑った。
「そんな事はしていませんよ。誰かが幻を見たのでしょう」
那智では瀬織津姫様は如意輪観音(にょいりんかんのん)様として祀られておった。わしも如意輪観音様がふさわしいと思っていたんじゃが、天竺(てんじく)(インド)から来た法道仙人(ほうどうせんにん)から弁才天(べんざいてん)様の事を聞いて、瀬織津姫様は弁才天様じゃと思ったんじゃ。それで、天川(てんかわ)に弁才天社を造ったんじゃよ」
 那智の如意輪堂で如意輪観音像を見たが、やはり、天川の弁才天像の方が瀬織津姫様にふさわしいとササも思った。
 その夜は夜明け近くまで楽しくお酒を飲んでいた。神様たちと一緒にお酒を飲むと、いくら飲んでもお酒がなくならないので安心だった。
 翌日は精進湖でのんびりと過ごして、五ヶ所浦に帰ったのは八月十八日だった。二日後、愛洲のお屋形様が兵たちを引き連れて戦から帰って来た。
 戦に参加できなくて不機嫌だったお屋形様はジルーが帰って来た事を知ると、ジルーを城に呼び出した。ジルーが持って来た明国の陶器、南蛮(なんばん)(東南アジア)の珍しい品々、そして、トンドの砂金を見ると、急に機嫌がよくなった。
「帰りが遅いので心配していたが、南蛮まで行って来たとは恐れ入った。今宵は帰国祝いの宴を開いて、旅の話をゆっくりと聞こう」
 お屋形様はニコニコしながらジルーを褒めていた。
 ササたちも帰国祝いの宴に参加して、琉球の話をして喜ばれた。お屋形様の話によると、伊勢の戦は終わって、将軍様の兵も皆、撤収したという。
 翌日、ササたちはジルーたち、村上水軍のあやと別れ、覚林坊の案内で京都に向かった。
「戦は終わっても、戦のあとは残党どもや山賊どもが出て来て悪さをする。充分に気を付けてくれ」と覚林坊は言った。
 ササはヤマトゥ言葉がわからない若ヌルたちに注意を与えた。若ヌルたちは真面目な顔付きになってうなづいた。
 その日は伊勢の外宮(げくう)の近くにある世義寺(せぎでら)まで行った。広い境内に僧坊が建ち並び、大勢の山伏たちがいた。覚林坊は山伏たちから情報を集めた。ササたちは宿坊に泊まって、翌朝、全員が山伏の格好に着替えて、宮川を渡って西へと向かった。街道は危険だというので山道を通って行き、着いた所は役行者が開いたという飯福田寺(いふたじ)(松阪市)だった。次の日は伊賀の霊山寺(れいざんじ)、その次の日は近江(おうみ)の飯道山(はんどうさん)と山伏の拠点に寄りながら、五日目に無事に京都に着き、高橋殿の屋敷を訪ねた。
 覚林坊も高橋殿の噂は知っていた。先代の将軍様の側室で、今の将軍様にも顔が利いて、高橋殿の機嫌を損ねると官位を剥奪されて左遷させられると言われるほど力を持っている。美人だが恐ろしい女だと聞いていると言った。
「とても優しい人ですよ」とササが言うと信じられないと言って覚林坊は首を振った。
 高橋殿は屋敷にいて、山伏姿のササたちを見て驚いた。
「博多に行っていた奈美から、今年もササは来ないって聞いたわよ」
「南の島に行っていて、みんなのあとを追って来たのです」
「そうだったの。御台所(みだいどころ)様(将軍義持の妻、日野栄子)が喜ぶわ」
 ササたちは高橋殿の屋敷に入って、山伏姿からいつもの格好に着替えて、タミーとハマとクルーに再会した。
「活躍は色々と聞いたわ」とササがタミーに言うと、「活躍だなんて‥‥‥」とタミーは首を振った。
「ササ様の代わりを立派に務めなければならないと思っただけです。ササ様が来るなんて驚きました。愛洲様の船でいらしたのですね?」
「そうよ。色々と調べる事があってね。富士山まで行って来たのよ」
「えっ!」とタミーたちは驚いた。
 高橋殿も驚いて、「今度は何を調べているの?」と聞いた。
瀬織津姫様の事です。御存じですか」
瀬織津姫様なら西宮(にしのみや)と呼ばれている広田神社でしょ」
「広田神社に行った事があるのですか」
「先代の将軍様と一緒に行った事もあるし、その後も何度かお参りをしたわ」
 ササは嬉しそうな顔をして、「連れて行って下さい」と頼んだ。
 高橋殿が一緒ならどこに行っても怖い物なしだった。
「そうねえ。御台所様を誘って行きましょうか。御台所様もどこかに行きたくてしょうがないのよ。広田神社なら遠くもないし手頃だわね」
 ササたちは手を打って喜んだ。
「できれば、そのあと四国の八倉比売神社にも行きたいのですけど」とササは遠慮がちに言った。
「八倉比売神社?」
「阿波の国です。わたしの祖母がその神社の神官の娘だったのです」
「えっ、あなたのお祖母様って、阿波の国の人だったの?」
 ササはうなづいた。
「祖母はもう亡くなってしまったんですけど、その神社は瀬織津姫様の娘さんの阿波津姫様がいらっしゃるので行ってみたいのです」
「阿波の国か‥‥‥いいわ。船を出して行きましょう」
 ササは頭を下げて御礼を言って、シンシン、ナナ、カナと顔を見合わせて喜んだ。
「ところで、あの子たちは何なの?」と高橋殿は若ヌルたちを見て聞いた。
「みんな、ササの弟子なんです」とナナが言った。
 高橋殿はササを見て笑った。
「八人も弟子がいるなんて大したものね。ずっと、あの子たちを連れて旅をしていたの?」
「そうなんです。阿波の国にも連れて行って下さい」
「賑やかな旅になりそうね」
 その夜、高橋殿は歓迎の宴を開いてくれた。豪華な料理を見て、若ヌルたちは目を丸くして驚いていた。中条(ちゅうじょう)奈美と対御方(たいのおんかた)と平方蓉(ひらかたよう)もやって来て、ササたちを歓迎した。
 ササたちが南の島の話をしていたら、御台所様がお忍びで現れた。
「明日まで待ちきれなかったわ」と御台所様はササのもとに駆け寄って、再会を喜んだ。
 覚林坊と辰阿弥、阿蘇弥太郎と喜屋武ヌルは唖然とした顔で、ササと御台所様の仲のいい様子を見守っていた。

 

 

 

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目次 第二部

尚巴志伝 第二部

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このイラストはは和々様よりお借りしました。



  1. 山田のウニウシ(第二稿)   護佐丸、尚巴志を頼って首里に行く。
  2. 胸のときめき(第二稿)   護佐丸、島添大里で恋をする。
  3. 恋の季節(第二稿)   サグルーとササ、山田で魂を抜かれる。
  4. キラマの休日(第二稿)   尚巴志夫婦、毎年恒例の旅で慶良間の島に行く。
  5. ナーサの遊女屋(第二稿)   中山王の家臣たちの懇親の宴。
  6. 宇座の古酒(第二稿)   尚巴志、宇座の御隠居の倅と古酒を飲む。
  7. 首里の初春(第三稿)  中山王となった思紹の初めての正月。
  8. 遙かなる船路(第二稿)  尚巴志、ウニタキ、懐機、明国に行く。
  9. 泉州の来遠駅(第二稿)   明国に着いた尚巴志たちは来遠駅に落ち着く。
  10. 麗しき三姉妹(第二稿)   尚巴志たち、福州に行きメイファンと再会する。
  11. 裏切り者の末路(第二稿)   尚巴志たち、メイファンの敵討ちを助ける。
  12. 島影に隠れた海賊船(第二稿)   尚巴志たち、明の海賊船に乗る。
  13. 首里のお祭り(第二稿)   護佐丸、ササたちと祭りの警備をする。
  14. 富楽院の桃の花(第二稿)   尚巴志たち、明国の都、応天府に着く。
  15. 応天府の夢に酔う(第二稿)   尚巴志たち、最高級の妓楼で夢を見る。
  16. 真武神の奇跡(第二稿)   討伐軍を破って皇帝になった永楽帝
  17. 武当山の仙人(第二稿)   尚巴志たち、武当山で張三豊と出会う。
  18. 霞と拳とシンシンと(第二稿)   尚巴志とウニタキ、張三豊に武術を習う。
  19. 刺客の背景(第二稿)   馬天ノロ、刺客の正体を探る。
  20. 龍虎山の天師(第二稿)   尚巴志たち、道教の本山、龍虎山に行く。
  21. 西湖のほとりの幽霊屋敷(第二稿)   尚巴志たち、三姉妹と再会する。
  22. 清ら海、清ら島(第二稿)  三姉妹と張三豊が琉球に来る。
  23. 今帰仁の天使館(第二稿)   旅に出た張三豊たちが帰って来る。
  24. 山北王の祝宴(第二稿)   攀安知、志慶真の長老から今帰仁の歴史を聴く。
  25. 三つの御婚礼(第二稿)   サグルー、尚忠、護佐丸、妻を迎える。
  26. マチルギの御褒美(第二稿)   尚巴志、妻のマチルギにしぼられる。
  27. 廃墟と化した二百年の都(第二稿)   尚巴志、ウニタキと浦添に行く。
  28. 久高島参詣(第二稿)  思紹王、女たちを連れて久高島へ行く。
  29. 丸太引きとハーリー(第二稿)   尚巴志、豊見グスクでハーリーを見る。
  30. 浜辺の酒盛り(第二稿)   尚巴志、ヤマトゥに行くマチルギたちを見送る。
  31. 女たちの船出(第二稿)   マチルギたち、長い船旅を楽しみ博多に着く。
  32. 落雷(第二稿)   尚巴志、雷鳴を聞きながらマジムン退治を思い出す。
  33. 女の闘い(第二稿)   三姉妹の船が来て、メイユーとナツが会う。
  34. 対馬の海(第二稿)   マチルギ、対馬島でイトとユキに会う。
  35. 龍の爪(第二稿)   尚巴志、ウニタキ、懐機、朝鮮旅の計画を練る。
  36. 笛の調べ(第二稿)   久し振りに佐敷グスクから笛の音が流れる。
  37. 初孫誕生(第二稿)   尚忠の長男、尚志達、生まれる。
  38. マチルギの帰還(第二稿)   女たちがヤマトゥから無事に帰国する。
  39. 娘からの贈り物(第二稿)   尚巴志、マチルギから旅の話を聞く。
  40. ササの強敵(第二稿)   馬天ノロ、日代(ティーダシル)の石を探し始める。
  41. 眠りから覚めたガーラダマ(第二稿)   ササ、読谷山で古い勾玉を見つける。
  42. 兄弟弟子(第二稿)   尚巴志、兼グスク按司武当拳の試合をする。
  43. 表舞台に出たサグルー(第二稿)   サグルー、尚巴志の代理を見事に務める。
  44. 中山王の龍舟(第二稿)   ウニタキの新しい隠れ家が完成する。
  45. 佐敷のお祭り(第二稿)   尚巴志の一節切と佐敷ヌルの横笛に大喝采
  46. 博多の呑碧楼(第二稿)   朝鮮旅に出た尚巴志たち、博多に着く。
  47. 瀬戸内の水軍(第二稿)   尚巴志村上水軍と塩飽水軍の頭領と会う。
  48. 七重の塔と祇園祭り(第二稿)   尚巴志たち、京都に着く。
  49. 幽玄なる天女の舞(第二稿)   尚巴志が一節切を吹くと美女が舞う。
  50. 天空の邂逅(第二稿)   尚巴志たち、七重の塔に登って感激する。
  51. 鞍馬山(第二稿)   尚巴志たち、鞍馬山で武術修行。
  52. 唐人行列(第二稿)   尚巴志、増阿弥の芸に感動する。
  53. 対馬の娘(第二稿)   尚巴志、イトと再会、ユキとミナミに会う。
  54. 無人島とアワビ(第二稿)   尚巴志、昔の顔なじみと再会する。
  55. 富山浦の遊女屋(第二稿)   尚巴志たち、富山浦(釜山)に渡る。
  56. 渋川道鎮と宗讃岐守(第二稿)   尚巴志九州探題対馬守護に会う。
  57. 漢城府(第二稿)   尚巴志たち、朝鮮の都に到着する。
  58. サダンのヘグム(第二稿)   尚巴志たち、ナナの案内で都見物。
  59. 開京の将軍(第二稿)   尚巴志たち、高麗の都に行く。
  60. 李芸とアガシ(第二稿)   尚巴志、李芸と会う。
  61. 英祖の宝刀(第二稿)   佐敷ノロ、神様の声を聞いて宝刀を探す。
  62. 具志頭按司(第二稿)   佐敷ノロ、お祭りでお芝居を上演する。
  63. 対馬慕情(第二稿)   尚巴志、家族を連れて舟旅に出る。
  64. 旧港から来た娘(第二稿)   尚巴志、旧港の施二姐と会う。
  65. 龍天閣(第二稿)  尚巴志、旧港の船を連れて琉球に帰る。
  66. 雲に隠れた初日の出(第二稿)   尚巴志、上間グスクの警固を強化する。
  67. 勝連の呪い(第二稿)   尚巴志の義兄サムが勝連按司になる。
  68. 思紹の旅立ち(第二稿)   思紹、張三豊と一緒に明国に行く。
  69. 座ったままの王様(第二稿)   佐敷大親とジクー禅師、ヤマトゥに行く。
  70. 二人の官生(第二稿)   尚巴志、明国に送る留学生を決める。
  71. ンマムイが行く(第二稿)   兼グスク按司、家族を連れて今帰仁に行く。
  72. ヤンバルの夏(第二稿)   兼グスク按司、家族を連れてヤンバルを巡る。
  73. 奥間の出会い(第二稿)   兼グスク按司、奥間で隠し事を聞いて驚く。
  74. 刺客の襲撃(第二稿)   兼グスク按司、ヤンバルの山中で襲われる。
  75. 三か月の側室(第二稿)   メイユー、尚巴志の側室になる。
  76. 百浦添御殿の唐破風(第二稿)   首里グスク正殿の改築が完成する。
  77. 武当山の奇跡(第二稿)   思紹、武当山で張三豊の凄さを知る。
  78. イハチの縁談(第二稿)   米須按司と玻名グスク按司が東方に寝返る。
  79. 山南王と山北王の同盟(第二稿)   山北王の娘が山南王の三男に嫁いで来る。
  80. ササと御台所様(第二稿)   ササ、伊勢神宮で神様の声を聞く。
  81. 玉依姫(第二稿)   ササ、豊玉姫のお墓で玉依姫の声を聞く。
  82. 伊平屋島と伊是名島(第二稿)   伊平屋島の親戚たちが逃げてくる。
  83. 伊平屋島のグスク(第二稿)   サグルーと尚忠と護佐丸、伊平屋島に行く。
  84. 豊玉姫(第二稿)   ヒューガの師匠、慈恩禅師が琉球に来る。
  85. 五年目の春(第二稿)   尚巴志、龍天閣で今年の計画を練る。
  86. 久高島の大里ヌル(第二稿)   ササ、神様から願い事を頼まれる。
  87. サグルーの長男誕生(第二稿)   兼グスク按司の新しいグスクが完成する。
  88. 与論島(第二稿)   ウニタキ、与論島に行き、与論ヌルと再会する。
  89. ユンヌのお祭り(第二稿)   尚巴志、ササたちと与論島に行く。
  90. 伊是名島攻防戦(第二稿)   伊是名島で中山王と山北王の戦が始まる。
  91. 三王同盟(第二稿)   中山王と山北王の同盟が決まり、山南王も加わる。
  92. ハルが来た(第二稿)   山南王から尚巴志に側室が贈られる。
  93. 鉄炮(第二稿)   三姉妹がアラビアの商品と鉄炮を持って来る。
  94. 熊野へ(第二稿)   ササ、将軍様の奥方と一緒に熊野詣でに出掛ける。
  95. 新宮の十郎(第二稿)   サスカサ、神倉山で十郎の話を聞く。
  96. 奄美大島のクユー一族(第二稿)   本部のテーラー奄美大島を攻める。
  97. 大聖寺(第二稿)   首里に最初のお寺が完成する。
  98. ジャワの船(第二稿)   ヤマトゥに行った交易船がジャワの船を連れて来る。
  99. ミナミの海(第二稿)   早田左衛門太郎が、イトとユキとミナミを連れて来る。
  100. 華麗なる御婚礼(第二稿)   チューマチ、山北王の娘マナビーを妻に迎える。
  101. 悲しみの連鎖(第二稿)   玉グスク按司から始まって、続けて五人が亡くなる。
  102. 安須森(第二稿)   佐敷ノロ、ササたちを連れて安須森に行く。
  103. 送別の宴(第二稿)   尚巴志、早田左衛門太郎たちを連れて慶良間の島に行く。
  104. アキシノ(第二稿)   ヤマトゥ旅に出た佐敷ノロとササたち、厳島神社に行く。
  105. 小松の中将(第二稿)   大原寂光院で高橋殿が平維盛と華麗に舞う。
  106. ヤンバルのウタキ巡り(第二稿)   馬天ノロたち、今帰仁に行く。
  107. 屋嘉比のお婆(第二稿)   馬天ノロ、安須森で神様にお礼を言われる。
  108. 舜天(第二稿)   馬天ノロ浦添ノロを連れて喜舎場森に行く。
  109. ヌルたちのお祈り(第二稿)   馬天ノロたち、南部のウタキを巡る。
  110. 鳥居禅尼(第二稿)   佐敷ノロ、熊野で平維盛の足跡をたどる。
  111. 寝返った海賊(第二稿)   三姉妹が来て、大きな台風も来る。
  112. 十五夜(第二稿)   サスカサ、島添大里グスクで中秋の名月を祝う。
  113. 親父の悪夢(第二稿)   山南王、悪夢にうなされて、出陣を決意する。
  114. 報恩寺(第二稿)   ヤマトゥの交易船が旧港の船を連れて帰国する。
  115. マツとトラ(第二稿)   尚巴志対馬の旧友を連れて首里に行く。
  116. 念仏踊り(第二稿)   辰阿弥が首里のお祭りで念仏踊りを踊る。
  117. スサノオ(第二稿)   懐機の娘が佐敷大親の長男に嫁ぐ。
  118. マグルーの恋(第二稿)   ヤマトゥ旅に出たマグルーを待っている娘。
  119. 桜井宮(第二稿)   馬天ノロ、各地のノロたちを連れて安須森に行く。
  120. 鬼界島(第二稿)   山北王の弟、湧川大主、喜界島を攻める。
  121. 盂蘭盆会(第二稿)   三姉妹、パレンバン、ジャワの船が琉球にやって来る。
  122. チヌムイ(第二稿)   山南王、汪応祖、死す。
  123. タブチの決意(第二稿)   弟の死を知ったタブチは隠居する。
  124. 察度の御神刀(第二稿)   タブチ、山南王になる。
  125. 五人の御隠居(第二稿)   汪応祖の死を知った思紹、戦評定を開く。
  126. タブチとタルムイ(第二稿)   八重瀬グスクで戦が始まる。
  127. 王妃の思惑(第二稿)   汪応祖の葬儀のあと、戦が再開する。
  128. 照屋大親(第二稿)   山南王の進貢船が帰って来る。
  129. タブチの反撃(第二稿)   タブチ、豊見グスクを攻める。
  130. 喜屋武グスク(第二稿)   尚巴志、チヌムイとミカに会う。
  131. エータルーの決断(第二稿)   タブチの長男、けじめをつける。
  132. 二人の山南王(第二稿)   島尻大里グスク、他魯毎軍に包囲される。
  133. 裏の裏(第二稿)   尚巴志、具志頭グスクを開城させる。
  134. 玻名グスク(第二稿)   尚巴志、玻名グスクを攻める。
  135. 忘れ去られた聖地(第二稿)   尚巴志とササ、古いウタキを巡る。
  136. 小渡ヌル(第二稿)   尚巴志、小渡ヌルと出会う。
  137. 山南志(第二稿)   宅間之子、山南の歴史書「山南志」を完成させる。
  138. ササと若ヌル(第二稿)   ササ、4人の若ヌルの師匠になる。
  139. 山北王の出陣(第二稿)   中山王と山北王が山南王の戦に介入する。
  140. 愛洲のジルー(第二稿)   ササのマレビト神が馬天浜にやって来る。
  141. 落城(第二稿)   護佐丸、玻名グスク攻めで活躍する。
  142. 米須の若按司(第二稿)   島添大里のお祭りの後、尚巴志は米須に行く。
  143. 山グスク(第二稿)   米須グスクを落とした尚巴志、山グスクに行く。
  144. 無残、島尻大里(第二稿)   他魯毎、島尻大里グスクに総攻撃を掛ける。
  145. 他魯毎(第二稿)   他魯毎、山南王に就任する。
  146. 若按司の死(第二稿)   ササ、宮古島の事を調べる。
  147. 久高ヌル(第二稿)   一月遅れの久高島参詣。
  148. 山北王が惚れたヌル(第二稿)   攀安知、古宇利島に行く。
  149. シヌクシヌル(第二稿)   ササ、斎場御嶽で運玉森ヌルに就任する。
  150. 慈恩寺(第二稿)   武術道場の慈恩寺が完成する。
  151. 久米島(第二稿)   尚巴志、ウニタキ、懐機、久米島に行く。
  152. クイシヌ(第二稿)   尚巴志、ニシタキ山頂で一節切を吹く。
  153. 神懸り(第二稿)   玻名グスクヌル、安須森で神懸りする。
  154. 武装船(第二稿)   ウニタキ、山北王の軍師と酒を飲む。
  155. 大里ヌルの十五夜(第二稿)   久高島大里ヌル、島添大里グスクに来る。
  156. 南の島を探しに(第二稿)   ササと安須森ヌル、愛洲次郎の船で宮古島に行く。
  157. ミャーク(第二稿)   ササたち、与那覇勢頭と目黒盛豊見親と会う。
  158. 漲水のウプンマ(第二稿)   ササたち、漲水のウプンマと一緒に狩俣に戻る。
  159. 池間島のウパルズ様(第二稿)   クマラパ、ウバルズ様に怒られる。
  160. 上比屋のムマニャーズ(第二稿)   ササたち、平家の子孫と会う。
  161. 保良のマムヤ(第二稿)   ササと安須森ヌル、アラウスの古いウタキに入る。
  162. 伊良部島のトゥム(第二稿)   高腰グスクの熊野権現で神様たちと酒盛り。
  163. スタタンのボウ(第二稿)   ササたち、来間島に寄って多良間島に行く。
  164. 平久保按司(第二稿)   アホウドリに歓迎されたササたち、平久保按司と会う。
  165. ウムトゥ姫とマッサビ(第二稿)   ササたち、ノーラ姫とウムトゥ姫に会う。
  166. 神々の饗宴(第二稿)   於茂登岳の山頂で、神様たちと酒盛り。
  167. 化身(第二稿)   名蔵の白石御嶽と水瀬御嶽で神様と会う。
  168. ヤキー退治(第二稿)   ササたち屋良部岳に登り、山頂で雷雨に遭う。
  169. タキドゥン島(第二稿)   タキドゥンの話を聞いて驚くササたち。
  170. ユーツンの滝(第二稿)   クンダギに登って、イリウムトゥ姫と会う。
  171. ドゥナン島(第二稿)   ササたち、クン島からドゥナン島へ向かう。
  172. ユウナ姫(第二稿)   ウラブダギに登ったササたち、ドゥナン島の村を巡る。
  173. 苗代大親の肩の荷(第二稿)   尚巴志、苗代大親の隠し事を知って笑う。
  174. さらばヂャンサンフォン(第二稿)   会同館で三姉妹たちの送別の宴が開催。
  175. トゥイの旅立ち(第二稿)   前山南王妃、ナーサと一緒に奥間に行く。
  176. 今帰仁での再会(第二稿)   前山南王妃、今帰仁に行って姪と会う。
  177. アミーの娘(第二稿)   尚巴志、ウニタキからトゥイの事を聞く。
  178. 婿入り川(第二稿)   山北王の若按司が山南王の婿になる。
  179. クブラ村の南遊斎(第二稿)   ササたち、ダンヌ村からクブラ村に行く。
  180. 仕合わせ(第二稿)   ササと愛洲次郎、二人だけの時を過ごす。
  181. ターカウ(第二稿)   ササたち、黒潮を越えて台湾に行く。
  182. 伝説の女海賊(第二稿)   ササたち、高雄で女海賊の活躍を聞く。
  183. 龍と鳳凰(第二稿)   唐人町の宮殿にお世話になるササたち。
  184. トンド(第二稿)   ササたち、トンド王国に着く。
  185. 山北王の進貢(第二稿)  リュウイン、山北王の使者として明国に行く。
  186. 二つの婚礼(第二稿)   マグルーとマウミ、ウニタルとマチルーが結ばれる。
  187. 若夫婦たちの旅(第二稿)   ウニタル夫婦とマグルー夫婦、旅に出る。
  188. サハチの名は尚巴志(第二稿)   今帰仁のお祭りからウニタキが帰って来る。
  189. トンドの新春(第二稿)   ササたち、新年の祝宴で二日酔い。
  190. パティローマ(第二稿)   ササたち、波照間島に行く。
  191. キキャ姫の遊戯(第一稿)   湧川大主、喜界島を攻める。
  192. 尚巴志の進貢(第一稿)   サハチ、尚巴志の名前で進貢船を送る。
  193. ササの帰国(第一稿)   南の島の人たちを連れて、ササたち帰国する。
  194. 玉グスク(第一稿)   ササ、豊玉姫から瀬織津姫の事を聞く。
  195. サミガー大主の小刀(第一稿)   タキドゥン按司の話を聞いて驚く尚巴志
  196. 奥間のミワ(第一稿)   ササたち、愛洲次郎の船でヤマトゥに行く。
  197. リーポー姫(第一稿)   他魯毎冊封するための冊封使琉球に来る。
  198. 他魯毎の冊封(第一稿)   諭祭の儀式と冊封の儀式が無事に終わる。
  199. 満月(第一稿)   ササたち、阿蘇山に登り、那智から天川の弁才天社に行く。
  200. 瀬織津姫(第一稿)   富士山麓の湖畔で、神様たちと酒盛り。



主要登場人物

 

第一部 目次

目次 第一部

尚巴志伝 第一部 月代の石

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このイラストはは和々様よりお借りしました。

 

  1. 誕生(最終決定稿)   尚巴志、佐敷苗代に生まれる。
  2. 馬天浜(最終決定稿)   サミガー大主とヤマトゥの山伏、クマヌ。
  3. 察度と泰期(最終決定稿)   浦添按司察度、過去を振り返る。
  4. 島添大里グスク(最終決定稿)   島添大里グスク、汪英紫に奪われる。
  5. 佐敷グスク(最終決定稿)   尚巴志の父、佐敷按司になる。
  6. 大グスク炎上(最終決定稿)   大グスク、汪英紫(島添大里按司)に奪われる。
  7. ヤマトゥ酒(最終決定稿)   早田三郎左衛門、馬天浜に来る。
  8. 浮島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎と旅に出る。
  9. 出会い(最終決定稿)   尚巴志、伊波按司の娘と剣術の試合をする。
  10. 今帰仁グスク(最終決定稿)   尚巴志、今帰仁に行く。
  11. 奥間(最終決定稿)   尚巴志、奥間村に滞在する。
  12. 恋の病(最終決定稿)   旅から帰った尚巴志、マチルギを想う。
  13. 伊平屋島(最終決定稿)   尚巴志、祖父の故郷に行く。
  14. ヤマトゥ旅(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥへ旅立つ。
  15. 壱岐島(最終決定稿)   尚巴志、壱岐島で察度の噂を聞く。
  16. 博多(最終決定稿)   尚巴志、ヤマトゥの都を見て驚く。
  17. 対馬島(最終決定稿)   尚巴志、早田左衛門太郎の故郷に滞在する。
  18. 富山浦(最終決定稿)   尚巴志、高麗に行く。
  19. マチルギ(最終決定稿)   尚巴志の恋敵、ウニタキ現れる。
  20. 兵法(最終決定稿)   尚巴志、対馬で修行に励む。
  21. 再会(最終決定稿)   帰って来た尚巴志、マチルギと再会。
  22. ウニタキ(最終決定稿)   尚巴志、ウニタキと一緒に勝連グスクに行く。
  23. 名護の夜(最終決定稿)   尚巴志、マチルギと今帰仁に行く。
  24. 山田按司(最終決定稿)   尚巴志、マチルギの叔父、山田按司と会う。
  25. お輿入れ(最終決定稿)   マチルギ、尚巴志に嫁ぐ。
  26. 高麗の対馬奇襲(最終決定稿)   早田左衛門太郎の本拠地、高麗に攻められる。
  27. 豊見グスク(最終決定稿)   シタルー(汪応祖)、豊見グスクを築く。
  28. サスカサ(最終決定稿)   尚巴志とマチルギ、馬天ノロと旅に出る。
  29. 長男誕生(最終決定稿)   マチルギと馬天ノロ、神様になる。
  30. 出陣命令(最終決定稿)   察度、各按司に今帰仁征伐を命じる。
  31. 今帰仁合戦(最終決定稿)   中山王、山北王の今帰仁グスクを攻める。
  32. 次男誕生(最終決定稿)  尚巴志の次男(尚忠)と山田按司の次男(護佐丸)生まれる。
  33. 十年の計(最終決定稿)   尚巴志、佐敷按司(父)、鮫皮大主(祖父)と密談する。
  34. 東行法師(最終決定稿)   父が隠居して、尚巴志、佐敷按司となる。
  35. 首里天閣(最終決定稿)   察度、浦添按司を武寧に譲って隠居する。
  36. 浜川大親(最終決定稿)   ウニタキは妻子を殺され、シタルーは明に行く。
  37. 旅の収穫(最終決定稿)   奥間のサタルーと対馬のユキ。
  38. 久高島(最終決定稿) 尚巴志はマチルギに怒られ、ウニタキはチルーといい感じ。
  39. 運玉森(最終決定稿)   三好日向、尚巴志のために山賊になる。
  40. 山南王(最終決定稿)   承察度が亡くなり、若按司が山南王になる。
  41. 傾城(最終決定稿)   山南王、中山王の怒りを買って、汪英紫に攻められる。
  42. 予想外の使者(最終決定稿)   尚巴志夫婦、弟のマサンルー夫婦と旅をする。
  43. 玉グスクのお姫様(最終決定稿)   尚巴志、玉グスクと同盟を結ぶ。
  44. 察度の死(最終決定稿)   山北王のミンと奥間の長老も亡くなる。
  45. 馬天ヌル(最終決定稿)   馬天ノロ、御嶽巡りの旅に出る。
  46. 夢の島(最終決定稿)   早田左衛門太郎、慶良間の夢の島に行く。
  47. 佐敷ヌル(最終決定稿)  尚巴志の妹、マシューの気持ちとマカマドゥの決心。
  48. ハーリー(最終決定稿)   尚巴志夫婦と佐敷ノロ、ハーリーを見物。
  49. 宇座の御隠居(最終決定稿)   宇座の泰期が亡くなり、尚巴志夫婦は悲しむ。
  50. マジムン屋敷の美女(最終決定稿)  尚巴志、島添大里グスクに側室を入れる。
  51. シンゴとの再会(最終決定稿)   早田左衛門太郎、朝鮮に投降する。
  52. 不思議な唐人(最終決定稿)   尚巴志、懐機と出会う。
  53. 汪英紫、死す(最終決定稿)   懐機、旅から帰り、武術を披露する。
  54. 家督争い(最終決定稿)   達勃期と汪応祖が山南王の家督を争う。
  55. 大グスク攻め(最終決定稿)   尚巴志、大グスクを攻め落とす。
  56. 作戦開始(最終決定稿)   尚巴志、大グスクノロと再会する。
  57. シタルーの非情(最終決定稿)   達勃期、弟の汪応祖に敗れる。
  58. 奇襲攻撃(最終決定稿)   尚巴志、島添大里グスクを攻め落とす。
  59. 島添大里按司(最終決定稿)   尚巴志、島添大里按司になる。
  60. お祭り騒ぎ(最終決定稿)   尚巴志、城下の者たちと戦勝祝い。
  61. 同盟(最終決定稿)   尚巴志、山南王と同盟する。
  62. マレビト神(最終決定稿)   外間ノロと佐敷ノロにマレビト神が現れる。
  63. サミガー大主の死(最終決定稿)   神の声を聞いたウニタキ。
  64. シタルーの娘(最終決定稿)   山南王のお姫様の悩みと青い海
  65. 上間按司(最終決定稿)   明国の使者が二十年振りにやって来る。
  66. 奥間のサタルー(最終決定稿)   尚巴志、奥間ノロに魅了される。
  67. 望月ヌル(最終決定稿)   謎の爺さん、望月党を語る。
  68. 冊封使(最終決定稿)   首里の宮殿の儀式で、武寧と汪応祖、正式に王になる。
  69. ウニョンの母(最終決定稿)   ウニタキ、亡くなった妻の秘密を知る。 
  70. 久米村(最終決定稿)   尚巴志とウニタキ、懐機に呼ばれて久米村に行く。
  71. 勝連無残(最終決定稿)   勝連按司が奇病に倒れる。 
  72. 伊波按司(最終決定稿)   大きな台風が来て各地で被害が出る。
  73. ナーサの望み(最終決定稿)   ウニタキ、ナーサを味方に引き入れる。
  74. タブチの野望とシタルーの誤算(最終決定稿)  八重瀬按司、中山王と同盟する。
  75. 首里グスク完成(最終決定稿)   中山王と山南王の決戦が迫る。
  76. 首里のマジムン(最終決定稿)   尚巴志、首里グスクを奪い取る。 
  77. 浦添グスク炎上(最終決定稿)   浦添グスクは焼け落ち、亜蘭匏は消える。
  78. 南風原決戦(最終決定稿)   尚巴志、中山軍を壊滅させる。
  79. 包囲陣崩壊(最終決定稿)   達勃期は出直し、汪応祖は首里を攻める。
  80. 快進撃(最終決定稿)   尚巴志、中グスク、越来グスクを攻め落とす。
  81. 勝連グスクに雪が降る(最終決定稿)   尚巴志、勝連グスクを落とす。

 

尚巴志伝 第二部 目次

 

・尚巴志伝の年表

・第一部の主要登場人物

・尚巴志の略歴

・尚巴志の祖父、サミガー大主の略歴

・尚巴志の父、思紹の略歴

・馬天ヌル(馬天ノロ)の略歴

・中山王、察度の略歴

・中山王、武寧の略歴

・汪英紫の略歴

・山南王、汪応祖の略歴

・泰期の略歴

・クマヌの略歴

・三好日向の略歴

・早田左衛門太郎の略歴

・ウニタキの略歴

・懐機の略歴

・倭寇年表

第二部 主要登場人物

サハチ       1372-1439  尚巴志。島添大里按司
マチルギ      1373-    尚巴志の妻。伊波按司の娘。
サグルー      1390-    尚巴志の長男。妻は護佐丸の妹、マカトゥダル。
ジルムイ      1391-    尚巴志の次男。後の尚忠。妻はサムの娘、ユミ。
ミチ        1393-    尚巴志の長女。島添大里ヌル、サスカサ。
イハチ       1394-    尚巴志の三男。妻は具志頭按司の娘、チミー。
チューマチ     1396-    尚巴志の四男。妻は山北王の娘、マナビー。
マグルー      1398-1453  尚巴志の五男。妻は兼グスク按司の娘、マウミ。
思紹        1354-1421 中山王。尚巴志の父。
佐敷ヌル      1374-    尚巴志の妹、マシュー。シンゴと結ばれ娘を産む。
佐敷大親      1376-    尚巴志の弟、マサンルー。妻は奥間大親の娘、キク。
平田大親      1378-    尚巴志の弟、ヤグルー。妻は玉グスク按司の娘。
与那原大親     1383-    尚巴志の弟、マタルー。妻はタブチの娘、マカミー。
クルー       1388-    尚巴志の弟、妻は山南王シタルーの娘、ウミトゥク。
馬天ヌル      1357-    思紹の妹、尚巴志の叔母。
ササ        1391-    馬天若ヌル。父はヒューガ。母は馬天ヌル。
ヒューガ      1355-1470 三好日向。中山の水軍大将。
苗代大親      1360-    思紹の弟。サムレー総隊長。武術師範。
マカマドゥ     1392-    苗代大親の三女。マウシ(護佐丸)の妻。
クグルー      1386-    泰期の三男。苗代大親の娘婿。
サミガー大主    1356-    思紹の弟、ウミンター。
シビー       1395-    尚巴志の従妹。メイユーの弟子になる。
ウニタキ      1372-1433 三星大親。「三星党」の頭。
チルー       1368-    ウニタキの妻。尚巴志の母の妹。
イーカチ      1373-    「三星党」の副頭。絵画き。
ナツ        1381-    ウニタキの配下から尚巴志の側室になる。
シズ        1389-    ウニタキの配下。ササと一緒にヤマトゥに行く。
ヤールー      1385-    ウニタキの配下。サグルーを守っている。
ファイチ      1375-1453 懐機。明国の道士。尚巴志の客将。
サスカサ      1354-    ミチにサスカサを譲り、運玉森ヌルになる。
マウシ       1391-1458 真牛。山田按司の次男。尚巴志の甥。護佐丸。
マカトゥダル    1392-    護佐丸の妹。サグルーの妻。
マサルー      1364-    山田按司の家臣。
シラー       1391-    マサルーの次男。
クマヌ       1346- 1412 中グスク按司。中山の重臣
美里之子      1362-    越来按司。中山の重臣。思紹の義弟。
當山之子      1365-    美里之子の弟。浦添按司になる。
クサンルー     1387-    當山之子の長男。浦添按司
カナ        1391-    當山之子の長女。浦添ヌル。
サム        1372-    後見役から勝連按司になる。伊波按司の四男。
ユミ        1392-    サムの長女。ジルムイ(尚忠)の妻。
ナーサ       1352-    首里の遊女屋「宇久真」の女将。
マユミ       1389-    「宇久真」の遊女。
宇座按司      1355-    泰期の次男。父の跡を継いで明国への使者となる。
シタルー      1362-1413  山南王。汪応祖
トゥイ       1363-    シタルーの正妻。山南王妃。察度の娘。
タルムイ(他魯毎) 1385-1429  豊見グスク按司。シタルーの長男。妻は尚巴志の妹。
豊見グスクヌル   1382-    シタルーの長女。タルムイの姉。
兼グスク按司    1389-    ジャナムイ。シタルーの次男。
保栄茂按司     1393-    グルムイ。シタルーの三男。妻は山北王の娘。
長嶺按司      1389-    シタルーの娘婿。
マアサ       1896-    シタルーの五女。
座波ヌル      1382-    山南王シタルーの側室。
島尻大里ヌル    1368-    ウミカナ。シタルーの妹。
タブチ       1360-    八重瀬按司。山南王シタルーの兄。
エータルー     1381-1413  タブチの長男。
エーグルー     1388-    タブチの三男。新グスク按司
チヌムイ      1395-    タブチの四男。
ミカ        1392-    八重瀬若ヌル。タブチの六女。チヌムイの姉。
八重瀬ヌル     1361-    タブチの妹。シタルーの姉。
サイムンタルー   1361-1429  早田左衛門太郎。対馬島倭寇の頭領。
早田六郎次郎    1387-    左衛門太郎の跡継ぎ。妻はユキ。
ユキ        1388-    六郎次郎の妻。尚巴志の娘。母はイト。
イト        1372-    対馬島の女船長。ユキの母。
シンゴ       1372-    早田新五郎。左衛門太郎の弟。
マツ        1372-    中島松太郎。早田左衛門太郎の家臣。
トラ        1372-    大石寅次郎。早田左衛門太郎の家臣。
早田五郎左衛門   1349-    左衛門太郎の叔父。朝鮮国の富山浦に住む商人。
早田丈太郎     1371-    五郎左衛門の長男。漢城府の津島屋の主人。
浦瀬小次郎     1375-    五郎左衛門の娘婿。
早田ナナ      1388-    早田次郎左衛門の娘。
早田左衛門次郎   1387-    六郎次郎の従兄弟。
早田小三郎     1391-    六郎次郎の義弟。
サングルミー    1371-    与座大親。中山の進貢船の正使。
メイファン     1379-    張美帆。明国の海賊の娘。
メイリン      1374-    張美玲。メイファンの姉。
スーヨン      1387-    張思永。メイリンの娘。
メイユー      1376-    張美玉。メイファンの姉。尚巴志の側室になる。
ラオファン     1338-    黄敬。三姉妹の武術の師匠。
リェンリー     1376-    黄怜麗。ラオファンの娘。
ジォンダオウェン  1364-    鄭道文。三姉妹の配下の海賊。
ユンロン      1387-    鄭芸蓉。ジォンダオウェンの娘。 
リュウジャジン   1362-    劉嘉景。三姉妹の配下の海賊。
リィェンファ    1377-    楊蓮華。富楽院の妓楼『桃香楼』の女将。
ヂュヤンジン    1375-    朱洋敬。懐機の友。宮廷に仕える役人。
永楽帝       1360-1424  明国の皇帝。
リュウイェンウェイ 1389-    劉媛維。富楽院の最高級妓楼『酔夢楼』の妓女。
ファイホン     1379-    懐虹。懐機の妹。
ヂャンサンフォン  1247-    張三豊。武当山の道士で、武当拳創始者
シンシン      1390-    范杏杏。張三豊の弟子。
フカマヌル     1372-    外間ノロ。久高島のノロ尚巴志の腹違いの妹。
大里ヌル      1387-    久高島のノロ。月の神様を祀る。
奥間大親      1357-    ヤキチ。奥間から来た尚巴志の護衛役。中山の重臣
平安名大親     1348-    勝連の重臣。ウニタキの叔父。
勝連ヌル      1369-    ウニタキの姉。
伊波按司      1363-    マチルギの兄。
山田按司      1365-    マチルギの兄。
攀安知       1376-1416  山北王。
マナビー      1397-    攀安知の次女。チューマチの妻。
涌川大主      1377-    攀安知の弟。
勢理客ヌル     1356-    アオリヤエ。攀安知の叔母。
アタグ       1355-    山北王に仕えるヤマトゥの山伏。
本部のテーラー   1376-1416  攀安知の幼馴染み。サムレー大将。
リュウイン     1359-    劉瑛。山北王の軍師。
油屋、ウクヌドー  1350-    奥堂。山北王に仕える博多筥崎八幡宮の油屋。
兼グスク按司    1378-    ンマムイ。武寧の次男。妻は攀安知の妹。
マハニ       1379-    兼グスク按司の妻。山北王、攀安知の妹。
マウミ       1399-    ンマムイの長女。
ヤタルー師匠    1359-    阿蘇弥太郎。ンマムイの武術の師匠。
慈恩禅師      1350-1448  禅僧であり武芸者。ヒューガの師匠。
飯篠修理亮     1387-1488 武芸者。長威斎。
二階堂右馬助    1390-    慈恩の弟子。
一文字屋孫三郎   1361-    次郎左衛門の弟。坊津の一文字屋主人。
みお        1394-    一文字屋孫三郎の三女。
村上又太郎     1386-    村上水軍の頭領の長男。上関を守っている。
村上あや      1392-    村上又太郎の妹。
塩飽三郎入道    1358-    塩飽水軍の頭領。
一文字屋次郎左衛門 1355-    京都の一文字屋の主人。
まり        1394-    一文字屋次郎左衛門の三女。
高橋殿       1376-    足利義満の側室。道阿弥の娘。
対御方       1379-    足利義満の側室。高橋殿に仕えている。
平方蓉       1383-    陳外郎の娘。高橋殿に仕えている。
足利義持      1386-1428  室町幕府第四代将軍。
日野栄子      1390-1431  足利義持の奥方。
勘解由小路殿    1350-1410  斯波道将。将軍様の補佐役。
斯波左兵衛督    1371-1418  勘解由小路殿の嫡男。将軍様の補佐役。
中条兵庫助     1359-    将軍様の武術指南役。慈恩禅師の弟子。
中条奈美      1380-    中条兵庫助の娘。夫が戦死し、高橋殿に仕える。
外郎       1360-    陳宗奇。薬師。外交使節の接待役。
魏天        1350-    将軍様に仕える明国の通事。
栄泉坊       1389-    東福寺を追い出された画僧。
増阿弥       1368-    奈良の田楽新座の太夫
一徹平郎      1355-    北野天満宮の宮大工。
源五郎       1359-    腕はいいが変わり者の瓦職人。
新助        1379-    龍ばかり彫っている等持寺の大工。
渋川道鎮      1372-1446  九州探題。勘解由小路殿の娘婿。
宗讃岐守貞茂    1364-1418  対馬守護。
平道全       1376-    宗貞茂の家臣。
宗金        1380-    博多妙楽寺の僧。
李芸        1373-1445  倭寇にさらわれた母親を探している朝鮮の役人。
シーハイイェン   1390-    施海燕。旧港宣慰司、施進卿の次女。施二姐。
ツァイシーヤオ   1390-    蔡希瑶。シーハイイェンの親友。
シュミンジュン   1342-    徐鳴軍。シーハイイェンの師匠。張三豊の弟子。
ワカサ       1364-    旧港の通事。若狭出身の倭寇
奥間の長老     1348-    ヤザイム。奥間大主。
サタルー      1387-    奥間の長老の跡継ぎ。尚巴志の息子。
奥間ヌル      1374-    奥間村のノロ尚巴志の娘ミワを産む。
奥間のサンルー   1382-    「赤丸党」の頭。クマヌの息子。
クジルー      1393-    サンルーの配下。マサンルーの息子。
米須按司      1357-1414  摩文仁大主。武寧の弟。若按司の妻はタブチの娘。
摩文仁按司     1383-1414  米須按司の次男。
玻名グスク按司   1358-1414  中座大主。タブチの義兄。
真壁按司      1353-1414  山グスク大主。玻名グスク按司の義兄。
伊敷按司      1363-    ナーグスク大主。真壁按司の義弟。
イサマ       1375-    伊平屋島の田名大主の長男。田名親方の兄。
我喜屋大主     1359-    田名大主の弟。イサマの叔父。
サミガー親方    1361-    与論島で鮫皮を作っている親方。
麦屋ヌル      1373-    先代の与論按司の娘。ウニタキの従妹。
ハル        1395-    山南王のシタルーから尚巴志に贈られた側室。
クムン       1373-    島尻大里から来た石屋。
スヒター      1391-   マジャパイト王国の女王クスマワルダニの娘。
辺戸ヌル      1360-   安須森の麓の辺戸村のヌル。
カミー       1402-    アフリヌルの孫娘。
屋嘉比のお婆    1320-    先々代の屋嘉比ヌル。
福寿坊       1387-    備前児島の山伏。
辰阿弥       1384-    時衆の武芸者。
ブラゲー大主    1353-    チヌムイの祖父。貝殻を扱うウミンチュの親方。
小渡ヌル      1380-    父は越来按司。母は山北王珉の妹。久高ヌルになる。
照屋大親      1351-    山南王の重臣。交易担当。
糸満大親      1367-    山南王の重臣
新垣大親      1360-1414  山南王の重臣。タブチの幼馴染み。
真栄里大親     1362-1414  山南王の重臣
波平大親      1366-    山南王の重臣
波平大主      1373-    波平大親の弟。サムレー大将。タルムイ側に付く。
国吉大親      1375-    山南王の重臣。妻は照屋大親の娘。
賀数大親      1368-    山南王の重臣。タルムイ側に付く。
兼グスク大親    1363-    山南王の重臣。タルムイ側に付く。
石屋のテハ     1375-    シタルーのために情報を集めていた。
大村渠ヌル     1366-    初代山南王の娘。前島尻大里ヌル。
慶留ヌル      1371-    シタルーの従妹。前島尻大里ヌル。
愛洲次郎      1390-    愛洲水軍の大将の次男。
寺田源三郎     1390-    愛洲次郎の家臣。
河合孫次郎     1390-    愛洲次郎の家臣。
堂之比屋      1362-    久米島堂村の長老。
堂ヌル       1384-    堂之比屋の娘。
新垣ヌル      1380-    久米島北目村のヌル。
大岳ヌル      1386-    久米島大岳のヌル。
具志川若ヌル    1397-    具志川ヌルの娘。
クイシヌ      1373-    久米島ニシタキのヌル。
クマラパ      1339-    狩俣按司マズマラーの夫。元の国の道士。
マズマラー     1357-    狩俣の女按司
タマミガ      1389-    クマラパとマズマラーの娘。
那覇勢頭     1360-    目黒盛の重臣。船長として琉球に行く。
目黒盛豊見親    1357-    ミャークの首長。
漲水のウブンマ   1379-    漲水ウタキのヌル。目黒盛の従妹。
アコーダティ勢頭  1356-    野崎按司重臣。船長としてトンド国に行く。
ムマニャーズ    1342-    上比屋の先代の女按司
ツキミガ      1390-    ムマニャーズの孫娘。
アラウスのウプンマ 1340-    戦死したアラウス按司の妹。
マムヤ       1339-    保良の女按司の末娘。先代の野城按司
チルカマ      1349-    クマラパの妹。先代の石原按司
阿嘉のトゥム    1365-    久米島からミャークに渡った兄弟の弟。伊良部島に住む。
スタタンのボウ   1360-    多良間島の女按司。クマラパの弟子。
ハリマ大殿     1359-    ボウの夫。ターカウの倭寇
平久保按司     1355-    石垣島按司。ターカウの倭寇
ブナシル      1360-    名蔵の女按司
ミッチェ      1387-    ブナシルの娘。父親は富崎按司
マッサビ      1369-    ウムトゥダギのフーツカサ。池間島出身。
サユイ       1391-    マッサビの娘。弓矢の名人。
阿嘉のグラー    1362-    マッサビの夫。久米島からミャークに渡った兄弟の兄。
ガンジュー     1386-    熊野の山伏、願成坊。
タキドゥン     1348-    島添大里按司の息子で、タキドゥン島の按司になる。
ユミ        1361-    ドゥナン島サンアイ村のツカサ。
ナーシル      1391-    ユミの娘。父は苗代大親

 

スサノオ            ヤマト国の大王。牛頭天王
豊玉姫             スサノオの妻。
玉依姫             スサノオ豊玉姫の娘。ヒミコ。アマテラス。
アマン姫            玉依姫の妹。アマミキヨ
ユンヌ姫            アマン姫の娘。
アキシノ            厳島神社の内侍。初代今帰仁ヌル。
クミ姫             久米島の神様。ビンダキ姫の三女。
ウパルズ            池間島の神様。ウムトゥ姫の長女。
赤名姫             ウパルズの孫。ユンヌ姫と行動を共にする。
ウムトゥ姫           石垣島於茂登岳の神様。ビンダキ姫の次女。
ノーラ姫            石垣島の名蔵の神様。ウムトゥ姫の次女。
ヤラブ姫            ノーラ姫の三女。
ビシュヌ            クバントゥオンの神様。シィサスオンの神様でもある。
ラクシュミ           ビシュヌの妻。ミズシオンの神様。
サラスワティ          ヤラブダギの神様。弁才天
イリウムトゥ姫         二代目ウムトゥ姫の次女。クン島の神様。
ユウナ姫            イリウムトゥ姫の次女。ドゥナン島の神様。

 

2-199.満月(第一稿)

 八月十五日、首里(すい)グスクで冊封使(さっぷーし)を迎えて中秋の宴(うたげ)が催され、島添大里(しましいうふざとぅ)グスクでは十五夜の宴が催された。中秋の宴は馬天(ばてぃん)ヌルと安須森(あしむい)ヌルが中心になって行ない、十五夜の宴はサスカサと久高島の大里(うふざとぅ)ヌルが中心になって行なった。
 スオナ(チャルメラ)を吹く楽隊を先頭に、馬に乗った護衛の兵たちに守られて、お輿(こし)に乗った冊封使たちが浮島から首里まで行進した。大勢の見物人たちは小旗を振りながら、初めて聞く明国の音楽に驚き、奇妙な着物を着た唐人(とーんちゅ)たちを物珍しそうに眺めていた。
 首里グスクに入った冊封使たちは北の御殿(にしぬうどぅん)の宴席に納まり、従者たちの席は北の御殿の前の御庭(うなー)に用意された。百浦添御殿(むむうらしいうどぅん)(正殿)の前に中山王と王妃を中央に重臣たちが並び、南の御殿(ふぇーぬうどぅん)の前に按司たちが並んでいた。
 日暮れと同時にキーヌウチでヌルたちの儀式が始まり、安須森ヌルが吹く笛の音が流れた。
 百浦添御殿、北の御殿、南の御殿の軒下にいくつもの灯籠(ドンロン)が下げられて、御庭は昼間のように明るかった。祝杯を重ねながら儀式が終わるのを待ち、やがて、百浦添御殿の屋根の上に満月が顔を出すと、儀式を終えたヌルたちが御庭に入って来て華麗に舞い始めた。
 薄衣(うすぎぬ)をなびかせて舞うヌルたちは妖艶で、幻想的な曲に合わせて舞う姿はこの世のものとは思えないほど美しく、冊封使たちも感激して見入っていた。
 ヌルたちの舞が終わると『宇久真(うくま)』の遊女(じゅり)たちが現れて、冊封使たちにお酌をした。皆、明国の言葉がしゃべれる遊女たちだった。
 御庭にはサングルミーが現れて二胡(アフー)の演奏が始まった。サングルミーの登場を一番喜んだのは思紹(ししょう)だった。いつも、この時期に明国に行っているので、満月を見ながらサングルミーの二胡を聞くのは久し振りだった。
 哀愁を帯びた二胡の調べは満月とよく似合い、皆、シーンとして聴き入っていた。
 その頃、島添大里グスクではファイチがヘグム(奚琴)を弾き、娘のファイリンが三弦(サンシェン)を弾いて合奏をしていた。南の島の人たちも招待して、賑やかな十五夜の宴となっていた。
 安須森ヌルは首里に行っていて、ササたちもいないが、南の島のヌルたちが参加していたので、ヌルたちによる舞は例年以上に華やかだった。シーハイイェンたち、スヒターたち、アンアンたち、リーポー姫たちも自国の歌と踊りを披露した。ハルのかぐや姫とシビーのチャンオー(嫦娥)の共演もあった。シビーが演じるのは初めてだったが、なかなかうまいものだった。ウニタキはミヨンを連れて首里に行き、冊封使たちに歌と三弦を披露する事になっていた。
 『宇久真』では安謝大親(あじゃうふや)が旧港(ジゥガン)(パレンバン)とジャワとトンド(マニラ)の使者たちを招待して、十五夜の宴を開いていた。ナーサがいないのでマユミは大忙しだったが、立派に女将の代理を務めていた。

 


 その頃、ヤマトゥに行ったササたちは精進湖(しょうじこ)のほとりで、富士山の上に昇っている満月をじっと見つめていた。
 六月十二日に浮島を出帆した愛洲(あいす)ジルーの船は二十八日に薩摩の坊津(ぼうのつ)に着いた。
 『一文字屋』の主人の孫三郎は京都に行っていて留守だった。若主人の弥三郎の話によると、二月に始まった伊勢の戦(いくさ)はまだ終わっていなくて、多分、琉球の交易船はまだ博多にいるだろう。孫三郎はクレーとサジルーとマサンルーの三人と越来(ぐいく)ヌルのハマ、トゥイ様とナーサたちを連れて京都に向かったが、京都に着いたかどうかはわからないと言った。
 ササたちは坊津に二泊して、船旅の疲れを取ってから北上した。八代(やつしろ)に着いたのは七月三日で、阿蘇弥太郎のお陰で、ササたちは八代城主の名和伯耆守(なわほうきのかみ)に歓迎された。
 名和伯耆守は南北朝の戦の時に弥太郎と一緒に戦っていて、弥太郎は戦死したものと思っていた。二十四年振りの再会を喜び、お互いに昔の事を懐かしそうに語り合っていた。
 弥太郎は阿蘇神社の大宮司(だいぐうじ)の息子だった。阿蘇神社は広大な社領を持ち、武力も持っていて、大宮司は神主(かんぬし)でもあり、武将でもあった。
 弥太郎が生まれた時、南北朝の戦は始まっていて、阿蘇神社も北朝(ほくちょう)方と南朝(なんちょう)方に分かれて対立していた。分家だったが大宮司の娘婿となった弥太郎の祖父(阿蘇惟澄)は、南朝方として活躍して大宮司になった。祖父の長男(惟村)は北朝方として戦い、次男(惟武)は父と共に南朝方として戦っていた。祖父は亡くなる前に、兄弟で争うのはやめるように諭して、長男に大宮司職を譲った。しかし、南朝の征西府(せいせいふ)はそれを許さず、次男を大宮司と認めた。北朝は長男を大宮司と認め、阿蘇神社は二人の大宮司がいる事となって、完全に分裂してしまった。弥太郎は南朝の大宮司の息子だった。
 弥太郎は元服(げんぶく)すると父に従って戦に参加した。十九歳の時、父は戦死してしまい、兄が大宮司職を継いだ。二十一歳の時、阿蘇に来た慈恩禅師(じおんぜんじ)と出会って弟子になり、二年間、各地を一緒に旅をして武芸の修行に励んだ。阿蘇に帰ると武芸の腕を認められて、懐良親王(かねよししんのう)の跡を継いだ良成親王(よしなりしんのう)に仕える事になった。
 当時、北朝今川了俊(いまがわりょうしゅん)の活躍で、南朝の拠点は次々に落とされて、征西府は金峰山(きんぼうざん)の山中にあった。弥太郎は左衛門佐(さえもんのすけ)を名乗って良成親王に近侍した。
 三年後には征西府を宇土(うと)に移して、南朝方の盛り返しを狙うが、今川了俊の総攻撃に遭って、名和氏を頼って八代に移る。八代に移って一年後には、そこも攻められ、良成親王は矢部(やべ)の山中に逃げた。その時の戦で重傷を負った弥太郎は天草(あまくさ)氏に助けられた。天草で傷を治して、良成親王を探し出すつもりでいたが、南北朝の戦が終わった事を知らされる。名和氏も北朝に降参して、本領を安堵されたという。
 弥太郎は急に気が抜けてしまう。南北朝の戦が終わっても、兄と伯父は争いを続けていた。阿蘇に帰って、その争いに巻き込まれたくはなかった。どこか遠くに行きたいと思った。そんな時、天草氏が琉球に船を出すと聞いて、弥太郎は琉球に行ったのだった。
 翌日、名和伯耆守の息子の弾正(だんじょう)の案内で、ササたちは阿蘇山に向かった。二十人余りの一行は馬に乗って進んだ。城下の人たちはサムレーの格好をして馬に乗っている娘たちを珍しそうに眺めていた。
 弾正はササたちが八代に来た事を喜んでいた。ササたちは弾正を知らないが、弾正は丸太引きのお祭りを毎年、見ていて、ササたちの事はよく知っていた。ヤマトゥンチュたちは誰が勝つのか賭けをやっていて、ササに賭けて勝たせてもらった事もあると言って弾正は楽しそうに笑った。
 馬に乗って山道を進み、着いた所は阿蘇山の南にある矢部の『浜の館』だった。堀と石垣に囲まれた大きな屋敷で、弥太郎の兄の大宮司がいて、弥太郎の出現に幽霊でも見ているような顔をしていた。
「兄上」と弥太郎が言うと、
「本当に弥太郎なのか」と兄は疑いの目で見ていたが、弥太郎が昔の事を話すと、「生きていたのか」と目に涙を溜めて喜んだ。
 ササたちは歓迎されて、その夜はお酒を飲みながら琉球の話をして喜ばれた。ササは大宮司から阿蘇津姫(あそつひめ)の事を聞いた。
阿蘇山の神様で、火の神様であり、水の神様でもあるし、戦の神様でもあるんじゃよ。そして、わしらの御先祖様じゃ」
 ターカウにいる五峰尼(ごほうに)の事を聞いたら、大宮司と弥太郎の叔母だという事がわかった。五峰尼が弥太郎の事を知らなかったと言うと、弥太郎は笑って、弥太郎を名乗ったのは元服したあとなので、叔母は知らないのだろうと言った。弥太郎が五歳の時に五峰尼は菊池三郎に嫁ぎ、弥太郎が元服した年にターカウに行ってしまったという。
 大宮司の話も五峰尼が言った事と同じで、それ以上の事はわからなかった。
 阿蘇津姫と結ばれたアマテルの事も聞いたが、大宮司は知らなかった。
阿蘇津姫様と結ばれたのは阿蘇津彦様じゃよ。タケイワタツノミコト様ともいう神様じゃ」
 翌日、山伏の案内で阿蘇山に向かった。途中で馬から下りて細い山道を進んで、一日掛かりで、ようやく山頂にある阿蘇神社の奥の宮に着いた。
 阿蘇山は思っていたよりもずっと大きな山で、山頂には大昔に噴火したという大きな火口があった。そこからの眺めは雄大で、琉球では考えられないほど広々としていた。
 ササたちは奥の宮でお祈りをしたが、阿蘇津姫様の声は聞こえなかった。ササが首から下げている瀬織津姫(せおりつひめ)様のガーラダマ(勾玉)も目覚める事はなかった。
「どうして、瀬織津姫様の声が聞こえないの?」とシンシンがササに聞いた。
瀬織津姫様はここにはいらっしゃらないという事よ」
「でも、古い神様がそのガーラダマの事を知っているんじゃないの?」
「このガーラダマは瀬織津姫様が琉球からここに来たばかりの時に身に付けていた物よ。もし、瀬織津姫様の娘さんが阿蘇津姫を継いだとしても、娘さんはこのガーラダマは知らないでしょうね」
「そうか。玉グスクのウタキに埋められたガーラダマじゃないと難しいのね」
瀬織津姫様の声は聞こえなかったけど、瀬織津姫様が遙か昔に、ここにいた事は確かだと思うわ」とササが言うと、シンシンとナナとカナは素晴らしい景色を眺めながらうなづいた。
 若ヌルたちはキャーキャー騒ぎながら景色を楽しんでいた。
 奥の宮から来た道とは別の道を降りて行くと、西巌殿寺(さいがんでんじ)という大きなお寺があった。僧坊がいくつも建ち並び、大勢の山伏たちがいた。ササたちはその中の宿坊のお世話になって、翌日、阿蘇山を下りた。
 七月八日、五島(ごとう)の福江島に着いて、早田左衛門三郎(そうださえもんさぶろう)と再会し、七月十一日、壱岐島(いきのしま)で志佐壱岐守(しさいきのかみ)と再会した。壱岐守は八人の若ヌルたちを見て、ササの弟子だと知ると目を丸くして驚いていた。
「玻名(はな)グスクヌルと喜屋武(きゃん)ヌルの弟子たちよ。あたしは面倒を見ていないわ」とササは笑った。
 七月十三日、博多の手前の可也山(かやさん)の西に船を泊めて、小舟(さぶに)で上陸してササたちは豊玉姫(とよたまひめ)様のお墓に行った。
 お祈りをすると玉依姫(たまよりひめ)様の声が聞こえた。
「ユンヌ姫から聞いたわよ。南の島に行って、アマミキヨ様の事を色々と調べて来たんですってね。新しい発見もあったらしいじゃない。お父様(スサノオ)を呼んで、ヤキー(マラリア)退治をさせるなんて、あなたは大したものだわ。そして、今度は瀬織津姫様の事を調べているのね」
「そうなのです。玉依姫様は瀬織津姫様の事を御存じですか」
「勿論、瀬織津姫様の事は知っているわよ。お父様から御先祖様だって聞いているわ。でも、瀬織津姫様が琉球のお姫様だっていう事はお母様(豊玉姫)から聞いて、初めて知ったのよ。驚いたわ。お母様がヤマトゥに来るよりずっと前に、瀬織津姫様が琉球から来ていたなんて。それでね、わたしなりに瀬織津姫様の事を調べてみたのよ」
「えっ、玉依姫様が瀬織津姫様の事を調べたのですか」
「そうよ。まさか、あなたがそんな古い神様の事を調べるなんて思ってもいなかったわ。お母様が琉球の事を調べたので、わたしはヤマトゥの事を調べたのよ。お父様から瀬織津姫様は伊勢で亡くなったと聞いていたので、伊勢の神宮の古い神様たちに聞いて回ったの。瀬織津姫様の事を知っている神様はいなかったけど、伊勢津姫様を知っている神様はいたわ。伊勢津姫様は伊勢で亡くなったらしいわ。伊勢の神様として祀られていたんだけど、わたしがアマテラスとして伊勢の神宮に祀られる事になって、伊勢津姫様は封印されてしまったらしいのよ。内宮(ないくう)の正殿の床下に心御柱(しんのみはしら)というのがあるわ。それによって封印されているの。心御柱が腐ってしまうと封印が解けてしまうので、伊勢の神宮心御柱が腐る前に建て直しをしなければならないの。二十年以内には必ず新しい心御柱に替えて、伊勢津姫様が蘇らないようにしているのよ」
伊勢の神宮は今までずっと、二十年毎に建て替えをしていたのですか」
「二十年とは決まっていないけど、もう五百年以上も前から、心御柱が腐る前に必ず、建て替えをしているわ」
「もし、心御柱が腐ってしまうとどうなるのですか」
「封印されていた伊勢津姫様が蘇って大変な事が起こるでしょう。戦乱の世が続く事になるかもしれないわね」
「伊勢津姫様がそんな恐ろしい事をするのですか」
「伊勢津姫様は誰からも尊敬される神様だったわ。それなのに、突然、封印されてしまった。怒りは物凄いのかもしれないわね」
「誰が封印したのですか」
「きっと、陰陽師(おんようじ)よ。でもね、伊勢津姫様は伊勢で亡くならないで、駿河(するが)の富士山まで行ったという神様もいたのよ。わたしは富士山まで行って調べたわ。富士山には浅間大神(あさまのおおかみ)様という神様が祀られていたけど、声を聞く事はできなかったの。わたしの勘なんだけど、浅間大神様は瀬織津姫様の事だと思うわ」」
「富士山ですか‥‥‥玉依姫様は瀬織津姫様の声を聞いた事があるのですか」
「あるわよ。危機に瀕した時、何度か助けていただいたのよ。でも、どこにいらっしゃるのかわからなくて、わたしから声を掛けてもお返事を聞いた事はないの。まだ、御礼も言ってないわ」
瀬織津姫様はどこにいらっしゃると思いますか」
「あなた、瀬織津姫様の勾玉(まがたま)を見つけたのよね。瀬織津姫様が気づけば必ず、声を掛けて来るはずよ。武庫山(むこやま)(六甲山)か、那智の滝か、伊勢の神宮か、天川(てんかわ)の弁才天社(べんざいてんしゃ)か、富士山にいらっしゃると思うわ」
「天川の弁才天社にいるかもしれないのですか」
瀬織津姫様があそこにいた事はないんだけど、後の世に役行者(えんのぎょうじゃ)が瀬織津姫様をお祀りしたから、そこにいるかもしれないわ。山の中で居心地がよさそうだしね。武庫山は戦で荒らされてしまったし、伊勢の神宮は伊勢津姫様が封印されているから居心地はよくないでしょう」
「武庫山は戦で荒らされたのですか」
「そうよ。平清盛(たいらのきよもり)は福原に都を造る時に武庫山の木を大量に伐り出したし、源氏が平家を攻めた時は武庫山で戦も行なわれたわ。南北朝の戦の時も、赤松円心が山の上に城を築いたので、山中で戦が行なわれたのよ。武庫山では大勢の山伏たちが修行していて、神社やお寺がいくつもあったんだけど、戦で焼けてしまったものも多いのよ。今、思い出したけど、武庫山の中に神呪寺(かんのうじ)というお寺があるんだけど、そこに如意尼(にょいに)という面白い人がいたわ。五百年以上も前の人だから神様になって神呪寺にいるわよ。生まれは丹後の国で、トヨウケヒメ玉依姫の娘)の子孫なのよ。幼い頃から霊力が強くて、十歳の時に京都に行って、六角堂の如意輪観音(にょいりんかんのん)様に仕える巫女(みこ)になったの。そこで空海(くうかい)と出会ったのよ」
空海って誰ですか」とササは聞いた。
「お坊さんよ。若い頃は山の中を走り回っていて、唐の国に渡って仏教を学んで、帰って来てから熊野の近くの高野山(こうやさん)にお寺を造ったのよ。空海は霊力が強かったから瀬織津姫様の声が聞こえたのね。六角堂の如意輪観音瀬織津姫様の事だって、如意尼に教えたの。瀬織津姫様の事を知った如意尼は生涯、瀬織津姫様にお仕えしようと決めたんだけど、あまりにも美しすぎたために天皇に見初められて、御所に迎えられるの。天皇の妃(きさき)となって真名井御前(まないごぜん)と呼ばれて、五年間を過ごすんだけど、瀬織津姫様の事が忘れられなくて、空海の助けを借りて、御所を抜け出して武庫山に行くのよ。真名井御前は武庫山で空海の弟子になって、山々を歩き回って厳しい修行を積んだわ。そして、空海が師と仰いでいた役行者を慕って大峯山(おおみねさん)に行くの。大峯山は女人禁制(にょにんきんぜい)の山なんだけど、真名井御前はそんな事はお構いなしに大峯山に登って、二十一日間の修行を成し遂げたのよ」
「えっ、女人禁制の山に登ったのですか」
「そうなのよ。天皇の妃で、しかも、空海の弟子だから、大峯山の大先達(だいせんだつ)たちも手が出せなかったのよ。真名井御前の気迫に負けたのに違いないわ。大峯山では真名井御前の事は隠してしまったけど、痛快だったわ。武庫山に帰った真名井御前は、空海が彫った如意輪観音像を本尊として神呪寺を建てたのよ。その時、正式に出家して如意尼と名乗ったの。会えばあなたと気が遇うと思うわ」
「あたしが会う事ができるのですか」
「あなたが瀬織津姫様の事を話せば、きっと話に乗ってくると思うわ」
「わかりました。武庫山に行ったら会ってみます」
 ササたちは玉依姫と別れて、愛洲ジルーの船に戻ると赤間関(あかまがせき)に向かった。北畠(きたばたけ)氏の味方をした愛洲氏が博多に行くのは危険だというので、博多には寄らなかった。
 七月十七日に上関(かみのせき)に着いて、村上水軍のあやと再会した。あやは突然のササの出現に驚き、大喜びをしてササたちを迎えた。村上水軍南朝方として活躍していたので、愛洲ジルーたちも歓迎された。
 上関に二日滞在して、あやの船に先導されて、鞆(とも)の浦、牛窓(うしまど)、室津と行った。武庫山に行きたかったけど、兵庫津に入るのは危険だとあやに言われて諦め、淡路島に沿って南下して田辺に向かった。あやも熊野水軍に挨拶に行くと言って付いて来た。田辺まで来れば熊野水軍の領域だった。愛洲水軍も熊野水軍に属しているので安全だった。
 田辺から那智に行き、那智の滝にお参りした。残念ながら瀬織津姫様の声は聞こえなかった。しかし、那智の滝を見上げていると、遙か昔に瀬織津姫様がここにいらしたという事は感じられた。
 如意輪堂の前で偶然、愛洲ジルーたちは知り合いの山伏と出会った。覚林坊(かくりんぼう)という山伏は驚いてジルーたちを見て、「無事に帰って来たのか」と聞いた。
「予定よりも帰るのが遅れてしまいました。戦があったようですが、皆、無事でしょうか」とジルーは覚林坊に聞いた。
「愛洲殿の兵も多気(たげ)まで出陣したんじゃが、敵も多気までは攻めて来なかった。詳しい事はわからんが、北畠殿の戦に同調して関東でも騒ぎが起きたようじゃ。幕府としても早々にけりを付けたいらしく、仲介役を送って来たようじゃな。まもなく、幕府軍も引き上げる事じゃろう」
 ジルーたちは安心して、ササたちを覚林坊に紹介した。若い娘たちを連れて琉球からやって来たと聞いて覚林坊は驚いていた。
 ササが天川の弁才天社に行きたいと言うと、また驚いて、険しい山道を歩いて三日は掛かると言った。どうして、天川の弁才天社に行きたいのかと聞いたので、ササは瀬織津姫様に会いに行くと言った。
琉球の娘が瀬織津姫様を知っているとは驚いた。確かに、天川の弁才天様は役行者殿が祀った瀬織津姫様だが、わざわざ、会いに行くとはのう。かなりきつい道のりだぞ。若い娘たちが行けるような所ではない」
「でも、どうしても会わなければならないのです。わたしたちを天川の弁才天社に連れて行って下さい」
 ジルーが詳しい説明をすると、「そなたはスサノオの神様と話ができるのか」と驚いた顔をして聞いた。
 ササはうなづいて、「瀬織津姫様はスサノオ様の御先祖様だと聞いております」と言った。
 覚林坊はササをじっと見つめた。
「わしの師匠は役行者殿の事を調べていて、わしは師匠と一緒に役行者殿にゆかりのある地を巡ったんじゃよ。葛城山(かつらぎさん)、箕面山(みのおさん)、笠置山(かさぎやま)、飯道山(はんどうさん)、愛宕山(あたごやま)に登り、四国の石鎚山(いしづちやま)と九州の彦山(ひこさん)、駿河の富士山にも登った。そして、役行者殿が瀬織津姫様を各地に祀っていた事を知ったんじゃよ。信じがたいが、瀬織津姫様が琉球のお姫様だったとは面白い。いいじゃろう。天川の弁才天社に案内しよう」
 宿坊に泊まったササたちは覚林坊に従って、大雲取りを越えて熊野の本宮(ほんぐう)を目指した。本宮から熊野川に沿って北上して、険しい山道を歩き通し、三日目の夕方、ようやく、天川の弁才天社に到着した。
 若ヌルたちはお互いに励まし合って歯を食いしばって歩いた。一番辛そうだったのは喜屋武ヌルだった。阿蘇弥太郎に励まされて、何とか皆のあとを付いて来た。各地を旅していた飯篠修理亮(いいざさしゅりのすけ)も辰阿弥(しんあみ)も天川の弁才天社に来たのは初めてで、凄い所だと感激していた。
 山奥なのに妙音院というお寺があって、僧坊もいくつも建ち並び、山伏たちも大勢いた。若い娘たちがぞろぞろとやって来たので、山伏たちは奇異な目をしてササたち一行を見ていた。
 覚林坊に従って、両側に僧坊が建ち並ぶ参道を通って岩山の上に建つ本殿に登った。本殿には役行者が彫った弁才天様が鎮座していた。その弁才天様はイシャナギ島(石垣島)のウムトゥダギ(於茂登岳)で出会ったサラスワティ様にそっくりだった。サラスワティ様がここに来たのは本当だったのだとササたちは感激した。
 五十鈴(いすず)を鳴らして、ササたちはサラスワティ様にお祈りをした。苦労してやって来たのに、瀬織津姫様の声は聞こえなかった。
 ササはどっと疲れが出て来たが、疲れた顔を見せたら若ヌルたちが気落ちしてしまうので、「ここは瀬織津姫様が住むのに最高の場所だわ。でも、どこかにお出掛けみたい」と言って笑った。
 本殿から降りて、覚林坊はササたちを行者堂(ぎょうじゃどう)に連れて行った。お堂の中には錫杖(しゃくじょう)を持った役行者の像があった。
「わしら山伏にとっての神様じゃ」と覚林坊は言った。
 ササたちは無事にここまで来られた御礼を込めてお祈りをした。
「そなたは誰じゃ?」という声が聞こえたので、ササは驚いた。
「今の声、聞こえた?」とササは振り返って聞いた。
 シンシン、ナナ、カナ、玻名グスクヌル、喜屋武ヌルが驚いた顔をしてうなづいた。
「右から二番目にいる若い娘じゃ」と声は言った。
 ササは振り返って若ヌルたちを見た。右から二番目にいたのはマサキだった。
「わたしの弟子のマサキといいます。あの娘がどうかしたのですか」
「そなたたちはどこから来たんじゃ?」
琉球です」
「やはり、琉球から来たのか。何年か前に将軍の御台所(みだいどころ)と一緒に琉球の姫が熊野に来たと話題になったが、そなたたちだったんじゃな」
「そうです。源氏の事や平家の事を調べるために熊野に参りました。あなたは役行者様ですね?」
「そうじゃ。マサキが付けている勾玉はわしが琉球に行った時に、真玉添(まだんすい)にいた沢岻(たくし)ヌルに贈った物なんじゃよ。マサキは沢岻ヌルの子孫なのか」
 ササは母の馬天ヌルから聞いた話を思い出した。ヤマトゥから来た役行者がビンダキ(弁ヶ岳)に弁才天様を祀ったと言っていた。
「それは違うと思います。真玉添は滅ぼされてしまいました。滅ぼされる前にヌルたちは勾玉を集めて山に埋めました。数年前に地震があって、埋められてあった勾玉が蘇ったのです。その中の一つがマサキの勾玉です。その勾玉を選んだマサキは役行者様に縁があったのだと思います」
「そうじゃったのか。わしは瀬織津姫様から琉球の事を聞いて、行ってみたくなったんじゃ。当時、勾玉は廃れていたが、琉球では喜ばれると聞いて持って行ったんじゃよ。まさか、その勾玉が戻って来るとは夢でも見ているようじゃ」
「どこに行ったら瀬織津姫様に会えますか」とササは聞いた。
「そいつは難しい問題じゃな。わしが初めて瀬織津姫様の声を聞いたのは武庫山じゃった。そして、この地に瀬織津姫様をお祀りした。その時、瀬織津姫様から御礼を言われ、琉球の事を聞いたんじゃよ。そして、最後に声を聞いたのは富士山に登った時じゃった。富士山の北麓の剗(せ)の海のほとりにあった浅間大神(あさまのおおかみ)神社にお参りした時じゃった。浅間大神というのは瀬織津姫様の事で、富士山の神様として祀られていたんじゃよ」
「ここと武庫山と富士山なのですね?」
「わしが瀬織津姫様の声を聞いたのはその三か所だが、そこに瀬織津姫様がいらっしゃるかどうかはわからん。しかも、富士山の浅間大神神社は今はもうない。わしが行った時から百五十年くらい経った頃、富士山が大噴火して、剗の海も浅間大神神社も埋まってしまった。今では樹海になっている」
「埋まってしまったのですか‥‥‥」
 ササたちは御礼を言って役行者様と別れた。
 覚林坊は驚いた顔をして、「役行者殿と話をしていたのか」とササに聞いた。
 ササはうなづいた。
「山伏も大先達になると神様の声が聞こえるようになると聞いた事があるが、実際に目にしたのは初めてじゃ。そなたたちは凄いのう」
 覚林坊はササたちを富士山まで連れて行ってやると約束してくれた。
 ササたちは将軍様の御台所様と一緒に熊野参詣をした琉球の姫様たちだと、覚林坊が弁才天社を守っている先達山伏に言ったため、ササたちは大歓迎された。その夜は歓迎の宴が開かれ、お酒と料理を御馳走になった。帰りは舟に乗って天(てん)ノ川を下り、熊野川を下って新宮(しんぐう)まで行った。
 若ヌルたちはキャーキャー騒ぎながら、川下りを楽しんでいた。ジルーたちも天川の弁才天社に行ったのは初めてで、行けてよかったと喜んでいた。あやもこんな山奥に来るなんて思ってもいなかったと楽しそうに言った。
 新宮では新宮孫十に歓迎されて、天川の弁才天社に行って来たと言ったら驚いていた。ジルーの船は新宮で待っていて、次の日の八月五日、ジルーの故郷、五ヶ所浦に着いた。
 ササたちはジルーの父、愛洲隼人(あいすはやと)に大歓迎された。隼人は水軍を率いて伊勢湾まで出陣したが、尾張(おわり)の兵が海を渡って伊勢に行く事はなく、七月の半ばには五ヶ所浦に戻って来たという。
 五ヶ所浦は伊勢と熊野を結ぶ拠点として栄えていた。伊勢の神宮を参詣して、熊野に行く参詣客は五ヶ所浦から船に乗って新宮に向かった。逆に熊野参詣のあと、伊勢の神宮に行く人たちもいた。ただ、北畠氏が戦を始めたため参詣客も極端に減っていて、早く戦が終わる事を願っていた。
 ササはジルーの妻と子供たちに会った。ジルーを心配していた妻はジルーの無事の帰国に涙を流して喜んでいた。子供たちも泣いていた。その姿を見て、悪い事をしてしまったと後ろめたい思いに駆られていた。ミーカナとアヤーもゲンザとマグジの妻や子供と会い、後ろめたい気持ちになっていた。
 ササたちはジルーの案内で、五ヶ所浦から剣峠(つるぎとうげ)を越えて伊勢の神宮に行った。ゲンザとマグジは荷物を下ろす指示をするため五ヶ所浦に残った。ミーカナとアヤーは若ヌルたちを守るために一緒に来た。
 伊勢の神宮は思っていたよりも近かった。正午(ひる)過ぎには内宮に着いた。伊勢津姫と呼ばれた瀬織津姫様がいた所だった。正殿の下に心御柱があって伊勢津姫が封印されていると玉依姫様は言っていた。伊勢津姫様は怒りのために龍神になったのだろうか。
 お祈りをしたが瀬織津姫様の声は聞こえなかった。瀬織津姫様を祀っているという荒祭宮(あらまつりのみや)でお祈りしても、瀬織津姫様の声は聞こえなかった。封印された伊勢津姫様が瀬織津姫様だったら、封印を解かなければ声を聞く事はできない。ここに封印されているのが瀬織津姫様でない事をササは願った。
 外宮(げくう)に行ってホアカリ様に挨拶をして、月読(つきよみ)神社にも挨拶をした。何となく、月読という神様は瀬織津姫様の事ではないのかと感じた。小俣(おまた)神社に行ってトヨウケヒメ様に挨拶をして、ジルーの知り合いの御師(おんし)の宿屋のお世話になった。
 五ヶ所浦に戻って、ジルーの船に乗って富士山に向かった。二日目に沼津に着いて、駿河の水軍、大森伊豆守(いずのかみ)に迎えられて上陸した。大森伊豆守は駿河や伊豆の参詣客を五ヶ所浦に連れて行っていて、愛洲氏とは古くからの付き合いがあった。
 雄大で形のいい富士山は美しく、船の上からササたちはうっとりしながら眺めていた。瀬織津姫様がここまでやって来たわけがよくわかったような気がした。
 覚林坊の案内で、富士山の北側に回って浅間大神神社があった辺りに向かった。山中湖を過ぎ、河口湖を過ぎ、西湖(さいこ)に来た。西湖は埋まらずに残った剗の海の一部だという。その先は青木ヶ原と呼ばれる樹海が広がっていた。
「樹海の中に入ったら出て来られなくなると聞いている」と覚林坊が言った。
「こんな所にいないわよ」とシンシンが言った。
「きっと、お山の上よ」とナナが言って、
「でも、女子(いなぐ)は富士山に登れないんでしょ」とカナが言った。
 富士山は山伏たちによって女人禁制の山になっていた。
 富士山を見上げながら、大峯山に登った真名井御前を見倣って登ってしまおうかとササが考えていると、突然、ガーラダマがしゃべった。
「樹海の中よ」とガーラダマは言った。
 ササはガーラダマを握って、「わかったわ」と言って振り返ると、みんなに、「行くわよ」と言って樹海の中に入って行った。
「ササ、ガーラダマが蘇ったの?」とシンシンが聞いた。
「そうみたい。ガーラダマに案内してもらうしかないわ」
「出られなくなったらどうするの?」とカナが心配した。
 若ヌルたちも心配顔でササを見ていた。
「大丈夫よ」とササは若ヌルたちに笑うと先に進んで行った。
 ガーラダマの案内で、半時(はんとき)(一時間)ほど原生林の中を進んで行くと、「ここよ」とガーラダマが言った。
 ササは立ち止まって辺りを見回したが、樹木(きぎ)が生い茂っているだけで、今まで歩いて来た所と同じ景色しか見えなかった。
「この下にタマが造った都が埋まっているのよ」とガーラダマは言った。
「タマ?」とササは聞いた。
「あなたが探している人よ。タマは垣花姫(かきぬはなひめ)という名前で、筑紫(つくし)の島(九州)にやって来たのよ」
瀬織津姫様の童名(わらびなー)はタマだったのね?」
 ガーラダマの返事はなかった。ササたちはその場に跪(ひざまづ)いて、お祈りを捧げた。
「とうとう、ここまでやって来たわね」と声が聞こえた。
 ササは感激して叫びたい心境だったが、気持ちを抑えて、「瀬織津姫様ですね?」と聞いた。
瀬織津姫という名前は、わたしが那智にいた時の名前で、娘に譲ったのよ。ここでは浅間大神と呼ばれているわ。役小角(えんのおづぬ)(役行者)が弁才天瀬織津姫を習合したお陰で、瀬織津姫の名前が有名になってしまったのよ」
「何とお呼びしたらよろしいのでしょうか」
瀬織津姫で構わないわ。あなたがここに来る事は娘の阿蘇津姫から聞いていたのよ。琉球から来た娘がわたしを探しているってね。あなたは一体、誰なの? どうして、わたしが身に付けていたガーラダマを身に付けているの?」
 ササは瀬織津姫様の妹の知念姫(ちにんひめ)様から借りてきた事を告げた。
琉球にわたしの子孫がいたなんて驚いたわね」
「わたしも驚きました。そして、瀬織津姫様に会いたいと思ってヤマトゥにやって来たのです。豊玉姫様よりもずっと昔に琉球からヤマトゥに行って、偉大な神様になられた瀬織津姫様にどうしても会いたかったのです」
「偉大な神様だなんて‥‥‥わたしは偉大でも何でもないわ」
阿蘇津姫様は瀬織津姫様の娘さんだったのですか」
「わたしには六人の娘がいるのよ。長女が阿蘇津姫を継いで、次女は日向津姫(ひむかつひめ)、三女は武庫津姫を継いで、四女は阿波津姫(あわつひめ)、五女は瀬織津姫を継いで、六女は浅間大神を継いだのよ。五女は那智から伊勢に移って、伊勢津姫になったわ」
伊勢の神宮に封じ込められている伊勢津姫様も娘さんだったのですか」
「そうなのよ。あそこには伊勢津姫が祀られていたのに、伊勢津姫は封じ込められて、神宮が建てられたのよ。それでも、伊勢津姫の祟りを恐れて、今、外宮が建っている地に月読の宮を建てて、伊勢津姫を祀ったのよ」
「月読の神様は伊勢津姫様だったのですか」
「月読っていうのは後に付けられた名前で、以前はアマテラスと呼ばれていたのよ」
「えっ、伊勢津姫様がアマテラスだったのですか」
「そうよ。伊勢津姫が月の神様のアマテラスだったのよ」
「えっ? アマテラスは月の神様なのですか」
「そうよ。大昔の人たちにとって、月は最も尊い存在だったの。夜空を照らしてくれて、満ちては欠けて新生する。長い航海をする人たちにとって、星と共に重要な存在よ。潮の満ち引きにも関係しているしね。月よりも太陽が尊ばれるようになったのは稲作が広まってからなの。月の神様のアマテラスに対して、太陽の神様としてアマテルという男の神様が生まれるのよ。でも、アマテラスが太陽の神様に変えられてしまったので、アマテルは消えてしまったわ」
「アマテル様は瀬織津姫様の夫だった人ですよね?」
「そうよ。筑紫の島で出会って、わたしたちは結ばれたのよ。阿蘇にいた頃は日向津彦(ひむかつひこ)って呼ばれていたけど、亡くなってから太陽の神様として祀られたのよ」
「誰がアマテラスを太陽の神様に変えたのですか」
持統天皇(じとうてんのう)という女の天皇よ。当時は強い者が天皇になれた時代だったので、持統天皇伊勢の神宮に皇祖神(こうそしん)として玉依姫を祀ったの。持統天皇玉依姫の子孫だったのよ。玉依姫の子孫でなければ天皇にはなれないという事を世に知らしめるために神宮を建てたのよ」
玉依姫様の子孫なら、伊勢津姫様の子孫でもあるんでしょう。どうして、伊勢津姫様を封じ込めたのですか」
「伊勢津姫の事は知らなかったのよ。霊力がかなり強い者でなければ、古い神様の事はわからないわ。伊勢津姫は恐ろしい龍神と間違えられて封じられたのよ。大昔に自然と一体化して暮らしていた人たちは神様の声を聞く事ができたけど、定住して暮らすようになってから、その能力は失われてしまったの。霊力の強い人だけが聞こえるようになって、その人たちは指導者になって人々を導くのよ。日巫女(ひみこ)と呼ばれた玉依姫のようにね。やがて、巫女たちも形だけ神様に仕えるようになって、神様の声が聞こえる者はいなくなってしまう。その後の時代で、わたしの存在を知ったのは、役小角空海だけだわ。役小角は伊勢津姫が封じ込められる事を知って反対したんだけど、伊豆に流されてしまったのよ。母親を人質に取られていたので、役小角も止める事はできなかったわ」
「この下には琉球の垣花のような都があったのですか」
「そうなのよ。私の子孫たちが平和に暮らしていた都があったの。わたしには助ける事ができなかったわ。あんな大きな噴火が起きるなんて予想もできなかった。未だに悔やんでいるのよ。わざわざ会いに来てくれてありがとう。でも、これ以上はもう話せないわ」
 その後、何を聞いても瀬織津姫様の返事はなかった。ササたちはお祈りを終えて、ガーラダマの案内で樹海から出た。
 入った所の反対側で、目の前に精進湖があり、富士山の上に満月が出ていた。
 満月を見つめながら、瀬織津姫様は月の神様だったんだなとササはしみじみと思っていた。